(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上部ブロックと、上部ブロックと組み合わされることにより溶削用の酸素ガス経路となるスロット間隙を構成する下部ブロックと、下部ブロックよりも被処理物側に配置されるシューと、を備える溶削ユニットを複数備えるホットスカーファーであって、
少なくとも、
ホットスカーファーのシューと下部ブロックの幅方向エッジから30mm以上幅方向中央側へのシムの挟み込み、
下部ブロックと対向するシュー上面の切り欠き、
シューと対向する下部ブロックの下面の切り欠き、
シュー上面の幅方向エッジから30mm以上の幅方向中央側の位置への肉盛り部の付与、
下部ブロック下面の幅方向エッジから30mm以上の幅方向中央側の位置への肉盛り部の付与、
の1乃至複数が用いられ、
溶削ユニットの幅方向のエッジから30mm内側までの範囲であって、下部ブロックとシューの間に、0.20mm以上の隙間が設けられていることを特徴とするホットスカーファー。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような経緯でなされた発明であり、本発明の課題は、上部ブロックと下部ブロックにより形成されるスロット間隙の変化に起因する溶削の不均一化を抑制したホットスカーファーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明は次の手段を採用する。先ず、第一の手段は、上部ブロックと、上部ブロックと組み合わされることにより溶削用の酸素ガス経路となるスロット間隙を構成する下部ブロックと、下部ブロックよりも被処理物側に配置されるシューと、を備える溶削ユニットを複数備えるホットスカーファーであって、溶削ユニットの幅方向のエッジから30mm内側までの範囲であって、下部ブロックとシューの間に、0.20mm以上の隙間が設けられていることを特徴とするホットスカーファーである。
【0007】
また、第一の手段において、前記0.20mm以上の隙間を形成するために、ホットスカーファーのシューと下部ブロックの幅方向エッジから30mm以上幅方向中央側にシムが挟まれている構成とすることが好ましい。
【0008】
また、第一の手段において、前記0.20mm以上の隙間を形成するために、下部ブロックと対向するシュー上面を切り欠いている構成とすることが好ましい。
【0009】
また、第一の手段において、前記0.20mm以上の隙間を形成するために、シューと対向する下部ブロックの下面を切り欠いている構成とすることが好ましい。
【0010】
また、第一の手段において、前記0.20mm以上の隙間を形成するために、シュー上面の幅方向エッジから30mm以上の幅方向中央側の位置に肉盛り部を付与している構成とすることが好ましい。
【0011】
また、第一の手段において、前記0.20mm以上の隙間を形成するために、下部ブロック下面の幅方向エッジから30mm以上の幅方向中央側の位置に肉盛り部を付与している構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、上部ブロックと下部ブロックにより形成されるスロット間隙の変化に起因する溶削の不均一化を抑制したホットスカーファーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ホットスカーファーの一部についての概略斜視図である。
【
図2】溶削時における被処理物と、その上方に位置する溶削ユニットの関係を表す図である。
【
図3】溶削ユニットを斜め下側から見た斜視図である。
【
図4】従来の溶削ユニットにおける変形状態を誇張して示した図である。
【
図6】従来の溶削ユニットにおける、取付時のスロット間隙と24時間使用後のスロット間隙の値を表した図である。
【
図7】実施例1における溶削ユニットの構成の概略を示した図である。
【
図8】実施例1の溶削ユニットにおける、取付時のスロット間隙と24時間使用後のスロット間隙の値を表した図である。
【
図9】実施例2における溶削ユニットの構成の概略を示した図である。
【
図10】実施例2の溶削ユニットにおける、取付時のスロット間隙と24時間使用後のスロット間隙の値を表した図である。
【
図11】実施例3における溶削ユニットの構成の概略を示した図である。
【
図12】実施例3の溶削ユニットにおける、取付時のスロット間隙と24時間使用後のスロット間隙の値を表した図である。
【
図13】実施例4における溶削ユニットの構成の概略を示した図である。
【
図14】実施例4の溶削ユニットにおける、取付時のスロット間隙と24時間使用後のスロット間隙の値を表した図である。
【
図15】実施例5における溶削ユニットの構成の概略を示した図である。
【
図16】実施例5の溶削ユニットにおける、取付時のスロット間隙と24時間使用後のスロット間隙の値を表した図である。
【
図17】トラ刈り発生スラブ本数の比率を表したグラフである。
【
図18】均一な溶削ができなかった場合に生じる不具合を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、発明の実施形態について説明する。まず、ホットスカーファー1の概略の構成について説明し、その後、操業時に生じるスロット間隙26の縮小の発生に関する分析内容を説明する。ホットスカーファー1は、溶削ユニット2を複数備えている。この溶削ユニット2は、
図1乃至
図3に示すことから理解されるように、ベースブロック21に上部ブロック22と下部ブロック23、更には、シュー24を取り付けて形成される。ホットスカーファー1の組み立て時には、ベースブロック21に対してロックピン29にて上部ブロック22と下部ブロック23の固定をおこなう。当該ロックピン29を、上部ブロック22と下部ブロック23の所定の穴を通してナットで締め付けて固定しているが、その際、スロット間隙26が一定になるように2つの部品の位置を調整して固定している。しかし、操業前の冷間時には各溶削ユニット2のスロット間隙26を同一に調整しても、当該各溶削ユニット2を実機に取り付けて操業を開始すると、スロット間隙26が縮小する。しかも各溶削ユニット2でスロット間隙26の縮小量が微妙に異なるため、いわゆるトラ狩りになると考えられる。この原因を明確化するために熱応力解析を実施した。
【0015】
熱応力解析により判明した不具合発生のメカニズムについて、ホットスカーファー1の使用態様の説明と合わせて説明する。
図2は被処理物10であるスラブの幅方向から溶削ユニット2を見た図である。また、図示はしないが、ホットスカーファー1は被処理物10を挟んで対称位置に溶削ユニット2を配置している。したがって実際は、
図2に示したような溶削ユニット2が被処理物10であるスラブの下側に、上下反転するように配置されており、被処理物10の上面及び下面の双方を同時に溶削することができる構成となっている。なお、不具合発生のメカニズムは被処理物10の上下のいずれに配置された溶削ユニット2でも、同様であるため、以下においては、被処理物10の上方に配置された溶削ユニット2を例にして説明を行う。
【0016】
図2に示すように、スラブなどの非処理物10の溶削時には、溶削ユニット2を被処理物10に接触させながら溶削を行う。高温スラブ溶削時(解析時のスラブ温度は800℃)には、下部ブロック23の下に取り付けられているシュー24のスラブ接触面側が高温となり、
図4に示すように熱膨張してシュー24全体が下に凸のすり鉢状に変形する。このとき、上向きに変移するシュー24の両サイドにより、下部ブロック23が上方へ押し上げられる。尚、
図4はスラブ移動方向上流からホットスカーファー1を見た図であり、溶削ユニット2の幅方向の1/2のみを表示している。また、理解しやすいように、
図4では鉛直方向のみ実際の変形量の100倍の変形が生じたものとして誇張して図示している。
【0017】
下部ブロック23はベースブロック21のロックピン29にナットで締め付けられており、ナットの締め付けトルクによる軸力で下部ブロック23とベースブロック21の接触面に静止摩擦力が発生する。シュー24の熱変形で発生する下部ブロック23の押し上げ力が、このナット締め付けによる静止摩擦力より大きいため、下部ブロック23が上方へ移動しスロット間隙26が縮小することが、熱応力解析により判明した。
【0018】
このことから、熱変形したシュー24が下部ブロック23を押し上げないようにすることが、スロット間隙26の変化の抑制に有効であることを見出した。より具体的には、ベースブロック21に上部ブロック22と下部ブロック23とシュー24を取り付けてスロット間隙26を一定値に調整して取り付ける際に、シュー24と下部ブロック23の間に、シュー24の熱変形量よりも大きな空隙を設けることが、スロット間隙26の縮小を抑制する手段として有効であることを見出した。
【0019】
熱応力解析により、シュー24の両サイドは上方への変移量が0.18mmであることがわかった。このことから、シュー24と下部ブロック23の間に0.18mm以上の隙間Sを設けることが、スロット間隙26の変化の抑制に有効であることがわかった。実用的には、シュー24と下部ブロック23の間に0.20mm以上の隙間Sを設けることが好ましい。但し、シュー24と下部ブロック23との間の隙間Sが大きくなりすぎると、溶削時のスケールが隙間Sに堆積する可能性もあるため、シュー24と下部ブロック23の隙間Sは、あまり大きくないほうが望ましい。例えば
図5に示すように、シュー24と下部ブロック23の間に1mmの隙間Sをあらかじめ設けてシュー24と下部ブロック23をベースブロック21に取り付ければ、シュー24の変形により下部ブロック23が持ち上げられてしまう事態の発生を抑制できる。したがって、操業時に下部ブロック23が上方へ移動することはなく、スロット間隙26の縮小を防止でき、トラ刈りを防止できる。
【0020】
また、熱応力解析の結果を確認すると、シュー24が下部ブロック23を上方へ押す範囲は、エッジから略30mmまでであることが判明した。このことから、本発明者は、シュー24と下部ブロック23の隙間Sが必要な範囲は、エッジから30mmまでであれば良いことを見出した。
【0021】
ここで、本実施形態のホットスカーファー1の構成について説明する。ホットスカーファー1は、
図1乃至
図3及び
図5に示すように、上部ブロック22と、上部ブロック22と組み合わされることにより溶削用の酸素ガス経路となるスロット空間を構成する下部ブロック23と、を備える溶削ユニット2を備えている。また、下部ブロック23よりも被処理物10側に配置されるシュー24も備えている。本実施形態のホットスカーファー1は、操業時の熱によりもたらされるシュー24の変形が下部ブロック23に悪影響をもたらさないようにするため、溶削ユニット2の幅方向のエッジから30mm内側までの範囲には、下部ブロック23とシュー24の間に、0.20mm以上の隙間Sが設けられている。したがって、上部ブロック22と下部ブロック23により形成されるスロット間隙26が、操業に入っても事前の調整時と変化せず、いわゆるトラ狩りの溶削が抑制されたホットスカーファー1とすることができる。
【0022】
溶削ユニット2の幅方向のエッジから30mmの範囲に隙間Sを設けるためには、例えば、シュー24と下部ブロック23の幅方向センター部に、高さ調整用のスペーサーであるシムを挟むことなどが考えられる。このようにすれば、エッジ部に必要な隙間Sを確実につくることが可能である。またシムをはさまずにシュー24や下部ブロック23のエッジ部を切り欠くことでも同様な効果が得られる。またシュー24の幅方向センター部または下部ブロック23の幅方向センター部にシムの代わりに肉盛り部を付けても同様の効果が得られる。
【0023】
本実施形態のホットスカーファー1は複数の溶削ユニット2が幅方向に並んで配置されている。このため、溶削ユニット2の大型化を抑制しつつ、ホットスカーファー1の大きさを確保することができる。しかし、いわゆるトラ刈りにはホットスカーファー1の幅方向に並んだ溶削ユニット2毎のスロット間隔差の影響も考えられ、その発生防止には、溶削ユニット2間でスロット間隙26を一定にする必要がある。このことについては、溶削ユニット2を組立てる際、ベースブロック21に固定されているロックピン29を、上部ブロック22と下部ブロック23にあけられたロックピン29の径より1mm大きな穴に通し、スロット間隙26が一定になるように上部ブロック22と下部ブロック23の位置を調整しつつボルトで締め付けて固定すればよい。
【0024】
さらには、取付架台となる実機に溶削ユニット2を取り付けた後に、上部ブロック22と下部ブロック23をベースブロック21に締め付けているボルトを緩めて隣あう溶削ユニット2のスロット間隙26を一定にした後、ボルトを締め付けて微調整を行うことにより、溶削ユニット2間でスロット間隙26を一定にできる。操業に入って溶削ユニット2が熱変形しても前述した対策で下部ブロック23が動かないため、スロット間隙26が一定のままで操業を続けることが可能となる。
【0025】
次に、溶削ユニット2の取り付け直後と約24時間操業後のスロット間隙26の測定結果について説明する。溶削ユニット2の1個当たりの幅は約270mmで、実機には溶削ユニット2が6個、幅方向に並べて取り付けられており、被処理物10の上側の面を溶削することができるような構成としている。スロット間隙26の測定は、1個の溶削ユニット2に対して、両サイドとセンター部の3点を測定するため、幅方向の測定点は18点となっている。
図6には、従来技術に属する溶削ユニット2の取り付け直後と約24時間操業後のスロット間隙26の測定結果を示す。取り付け時に、上部ブロック22と下部ブロック23をベースブロック21に締め付けているボルトを緩めてスロット間隙26が一定になるように調整しているため、取り付け直後のスロット間隙26の幅方向のばらつきは
図6に示す例においても非常に小さくなっている。
【0026】
しかし従来技術に属する溶削ユニット2を使用すると、操業開始から約24hr後で幅方向位置によっては1mm以上スロット間隙26が縮小していることがわかる。これは、操業時にシュー24が熱変形してシュー24の幅方向エッジ部が下部ブロック23を押すためにスロット間隙26が縮小するからである。
【0027】
このようなことに起因するスロット間隙26の縮小は、溶削ユニット2の幅方向のエッジから30mm内側までの範囲であって、下部ブロック23とシュー24の間には、0.20mm以上の隙間Sを設けることで対応できるが、以降、この具体的な手段を説明する。
【実施例1】
【0028】
先ず、スロット間隙26の縮小への対策手段として、シュー24と下部ブロック23の幅方向センター位置にシム11を挟み込んだ場合を説明する。例えば
図7に示すように0.20mm以上の隙間Sを、ホットスカーファー1のシュー24と下部ブロック23の幅方向エッジから30mm以上幅方向中央側にシム11を挟むことで形成する。本実施例のシム11は20mm×20mm、厚さ0.5mmのステンレス製である。シム11の取り付け直後と24時間操業後のスロット間隙26の測定結果を
図8に示す。24時間の操業前後でもスロット間隙26は殆ど変化せず幅方向のバラツキを非常に小さな状態で安定できていることを確認した。
【実施例2】
【0029】
次に、スロット間隙26の縮小への対策手段として、下部ブロック23と対向するシュー24の上面を切り欠いた場合を説明する。例えば、
図9に示すように、幅方向エッジから30mmまでの下部ブロック23と接触するシュー24の上面を0.5mm切り欠いて切り欠き12を設ける。このようにして0.20mm以上の隙間Sを設けたホットスカーファー1でも実験1と同様の測定を行ったため、その結果を
図10に示す。24時間の操業前後でスロット間隙26は殆ど変化せず幅方向のバラツキを非常に小さな状態で安定できていることを確認した。
【実施例3】
【0030】
次に、スロット間隙26の縮小への対策手段として、シュー24と対向する下部ブロック23の下面を切り欠いた場合を説明する。例えば、
図11に示すように、幅方向エッジから30mmまでのシュー24と接触する下部ブロック23の下面を0.5mm切り欠いて切り欠き13を設けた状態とする。このようにして0.20mm以上の隙間Sを設けたホットスカーファー1でも実施例1と同様の測定を行ったため、その結果を
図12に示す。24時間の操業前後でスロット間隙26は殆ど変化せず幅方向のバラツキを非常に小さな状態で安定できていることを確認した。
【実施例4】
【0031】
次に、スロット間隙26の縮小への対策手段として、シュー24上面の幅方向エッジから30mm以上の幅方向中央側の位置に肉盛り部を付与した場合を説明する。例えば、
図13に示すように、シュー24の上面に幅方向50mm、高さ0.5mmの肉盛り部14を設けた状態とする。このようにして0.20mm以上の隙間Sを設けたホットスカーファー1でも実施例1と同様の測定を行ったため、その結果を
図14に示す。24時間の操業前後でスロット間隙26は殆ど変化せず幅方向のバラツキを非常に小さな状態で安定できていることを確認した。
【実施例5】
【0032】
次に、スロット間隙26の縮小への対策手段として、下部ブロック23下面の幅方向エッジから30mm以上の幅方向中央側の位置に肉盛り部を付与した場合を説明する。例えば、
図15に示すように、下部ブロック23の下面に幅方向50mm、高さ0.5mmの肉盛り部15を設けた状態とする。このようにして0.20mm以上の隙間Sを設けたホットスカーファー1でも実施例1と同様の測定を行ったため、その結果を
図16に示す。24時間の操業前後でスロット間隙26は殆ど変化せず幅方向のバラツキを非常に小さな状態で安定できていることを確認した。
【0033】
図17は、スロット間隙26の縮小への対策前と、実施例1乃至5の対策を実施した場合と、におけるトラ刈り発生スラブ本数比率を示す。この
図17より、対策前と比べると、実施例1乃至5のすべての対策においてトラ刈り発生スラブ本数比率が大幅に低減したことが分かる。
【0034】
以上のように、溶削ユニット2の幅方向のエッジから30mm内側までの範囲において、下部ブロック23とシュー24の間に、0.20mm以上の隙間Sを設けるように、前述の上部ブロック22と下部ブロック23の位置の調整をおこなえば、操業に入ってシュー24が熱変形しても下部ブロック23の移動を防止でき、実施例のようにスロット間隙26一定のままで長期操業を続けることが可能となり、溶削中のトラ刈り発生スラブ本数比率を大幅に低減できる。したがって、ハンドスカーフの増工程防止によるコスト削減やHCR率向上による加熱炉原単位削減も実現できる。
【0035】
本発明は、以上の実施形態には限定されることは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適応可能なことは勿論のことである。例えば、シムや肉盛り部などは溶削ユニット1個に対して1カ所のみ設けることに限らず、複数カ所に設けることも可能である。
【0036】
一つのベースブロックに複数の上部ユニットや下部ユニットなどを備えた構成とすることも可能である。
【0037】
隙間を付与する手段は複数の手段を組み合わせることで構成しても良い。例えば、肉盛り部とシムを組み合わせて複数カ所で上部ユニットと下部ユニットが繋がるように構成することで、下部ブロックとシューの間に、所望の隙間を設けるものとすることができる