(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、非晶質炭素と、ガラス転移点が40℃以上のスチレンブタジエンゴム(以下「SBR」ともいう。)とを含有する負極を備える非水電解質蓄電素子である。
【0012】
当該非水電解質蓄電素子によれば、非晶質炭素と、ガラス転移点が40℃以上と比較的高いSBRとを用いることで、同サイズの非晶質炭素を用いた場合において初期の低温出力抵抗を下げることができる。また、当該非水電解質蓄電素子によれば、同サイズの非晶質炭素を用いた場合において初期の放電容量も高めることができる。これら効果は負極活物質に非晶質炭素を用いた場合にみられる。なお、同サイズとは、非晶質炭素のメジアン径が等しいことをいう。
【0013】
当該非水電解質蓄電素子が上記効果を奏する理由は定かでは無いが、非晶質炭素とガラス転移点が40℃以上のSBRとを含有する合材の塗布後の加熱乾燥工程において、SBRが軟化及び硬化することで、非晶質炭素と良好な密着状態を形成すると推測される。また、ガラス転移点が40℃以上のSBRを用いることで初期の低温出力抵抗を下げることができるという効果は、負極活物質として黒鉛を用いた場合には生じない。負極活物質として非晶質炭素と特定のSBRを用いたときに生じる特異な効果である。この効果の有無は、負極活物質の層構造又は表面状態に起因するものと推測される。
【0014】
なお、「非晶質炭素」とは、広角X線回析法により決定される層間距離(d002)が3.40Å以上の炭素材料を意味する。
【0015】
なお、SBRのガラス転移点は示差走査熱量測定(DSC)によって求められる。具体的には、示差走査熱量測定装置(Rigaku Thermo plus DSC8230)を用いて、昇温速度を10℃/分に設定する。ベースラインがシフトした温度をガラス転移点とする。常温以下の測定では液体窒素を用いて低温雰囲気とする。
【0016】
上記非晶質炭素のメジアン径が7μm以下であることが好ましい。このように、粒径の小さい非晶質炭素を用いることで、初期低温出力抵抗をより低くすることができ、充放電サイクル後の低温出力抵抗の上昇を抑えることもできる。さらに、粒径の小さい非晶質炭素を用いることで、初期の放電容量を高めることもできる。
【0017】
なお、「メジアン径」は、JIS−Z−8819−2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。具体的には以下の方法による測定値とすることができる。測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社の「SALD−2200」)、測定制御ソフトとしてWing SALD−2200を用いて測定する。散乱式の測定モードを採用し、測定対象試料(非晶質炭素)が分散溶媒中に分散する分散液が循環する湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、累積度50%(D50)にあたる粒子径をメジアン径とする。なお、上記測定に基づくメジアン径は、負極のSEM画像から、極端に大きい非晶質炭素及び極端に小さい非晶質炭素を避けて100個の非晶質炭素を抽出して測定するメジアン径とほぼ一致することが確認されている。
【0018】
本発明の他の一態様は、非晶質炭素と、ガラス転移点が40℃以上のスチレンブタジエンゴムとを含有する合材を負極基材に塗工することを備える非水電解質蓄電素子の製造方法である。
【0019】
当該製造方法によれば、負極活物質として非晶質炭素を用いた非水電解質蓄電素子であって、同サイズの非晶質炭素を用いた場合で比較した初期の低温出力抵抗を下げることができる非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0020】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。以下、非水電解質蓄電素子の一例として、二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体はケースに収納され、このケース内に上記非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。また、上記ケースとしては、二次電池のケースとして通常用いられる公知のアルミニウムケース、樹脂ケースなどを用いることができる。
【0021】
(負極)
上記負極は、負極基材、及び負極基材に積層される負極合材層を有する。
【0022】
(負極基材)
上記負極基材は、導電性を有する基材である。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。また、負極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0023】
(負極合材層)
上記負極合材層は、負極の最表層として配される。負極合材層は、非晶質炭素及びSBRを含む。上記非晶質炭素は、負極活物質として機能する。また、SBRは、バインダー(結着剤)として機能する。負極合材層は、必要に応じて上記非晶質炭素以外の負極活物質、SBR以外のバインダー、増粘剤、導電剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0024】
(非晶質炭素)
上記非晶質炭素は、例えば難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)や、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)などが挙げられる。上記難黒鉛化性炭素としては、フェノール樹脂焼成体、フラン樹脂焼成体、フルフリルアルコール樹脂焼成体等を挙げることができる。上記易黒鉛化性炭素としては、コークス、熱分解炭素等を挙げることができる。
【0025】
上記非晶質炭素子は、難黒鉛化性炭素を含むことが好ましい。難黒鉛化性炭素を用いることで、当該非水電解質蓄電素子の初期の低温出力抵抗や、充放電サイクル後の低温出力抵抗の上昇をより抑えることなどができる。これは、難黒鉛化性炭素が充放電時の膨張収縮が小さいことなどによるものと推察される。上記非晶質炭素における難黒鉛化性炭素の含有量は特に限定されないが、下限としては70質量%が好ましく、90質量%がより好ましく、99質量%がさらに好ましい。この上限は、100質量%であってよい。なお、「難黒鉛化性炭素」とは、層間距離(d002)が3.60Å以上であり、常圧下で3300K付近の超高温まで加熱しても黒鉛に変換しない非晶質炭素をいう。
【0026】
上記非晶質炭素のメジアン径の上限としては、例えば12μmであり、7μmが好ましく、3.5μmがさらに好ましい。メジアン径が上記上限以下の非晶質炭素を用いることで、当該非水電解質蓄電素子の初期の低温出力抵抗や、充放電サイクルに伴う低温出力抵抗の上昇をより抑え、放電容量を高めることもできる。
【0027】
一方、非晶質炭素のメジアン径の下限としては、特に限定されないが、生産性、入手容易性等の観点から、例えば0.5μmであり、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。なお、非晶質炭素のメジアン径を上記下限以上とすることで、低温出力抵抗の充放電サイクルに伴う上昇をより抑えることもできる。
【0028】
上記非晶質炭素のBET比表面積の下限としては、1m
2/gが好ましく、2m
2/gがより好ましく、4m
2/gがさらに好ましい。また、上記BET比表面積の上限としては、10m
2/gが好ましく、9m
2/gがより好ましく、8m
2/gがさらに好ましい。上記BET比表面積を上記下限以上とすることで、初期の低温出力抵抗をより低くし、かつ充放電サイクルに伴う低温出力抵抗の上昇をより効果的に抑えることができる。一方、上記BET比表面積を上記上限以下とすることで、例えば電解質との反応を抑制することなどができる。
【0029】
上記非晶質炭素の負極合材層における含有量の下限としては、50質量%が好ましく、65質量%がより好ましく、80質量%がさらに好ましく、95質量%が特に好ましい。非晶質炭素の含有量を上記下限以上とすることにより、十分な放電容量や導電性等を確保することなどができる。一方、この含有量の上限としては、例えば99質量%とすることができる。
【0030】
上記負極合材層に含有されていてもよい他の負極活物質としては、通常使用される公知の材料が挙げられ、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)等が挙げられる。但し、上記負極活物質における負極活物質中の、上記非晶質炭素以外の負極活物質の含有量の上限としては、20質量%が好ましいことがあり、5質量%が好ましいこともあり、1質量%が好ましいこともある。
【0031】
(SBR)
SBRは、非晶質炭素及び必要に応じて含有される他の負極活物質等を固定するためのバインダーである。SBRは、スチレンとブタジエンとの共重合体であり、スチレン及びブタジエン以外の他の単量体がさらに共重合されていてもよい。SBRは、通常、水系バインダーとして用いられる。水系バインダーとは、合材を調製する際に、水系溶媒に溶解又は分散可能なバインダーを意味する。なお、水系溶媒とは、水、又は水を主体とする混合溶媒を意味する。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコールや低級ケトン等)を例示することができる。
【0032】
SBRのガラス転移点(Tg)の下限としては、40℃であり、45℃が好ましく、60℃であってもよい。このようにガラス転移点の高いSBRを用いることで、初期の低温出力抵抗をより低くすることができる。一方、このガラス転移点の上限としては、例えば120℃とすることができ、110℃であってもよく、80℃であってもよい。SBRのガラス転移点を上記上限以下とすることで、保存時等に生じる凝集の発生を抑制し、塗工性、ひいてはバインダーとしての結着性を良好に保つことなどができる。
【0033】
負極合材層におけるSBRの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。一方、SBRの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。SBRの含有量を上記範囲とすることで、当該非水電解質蓄電素子の低温出力抵抗を低減したり、放電容量を高めたりすることなどができる。
【0034】
SBR以外に含有されていてもよい他のバインダーとしては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、酢酸ビニル共重合体、アクリル酸変性SBR、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、フッ素ゴム、アラビアゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリエチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体(PEO−PPO)等を用いることができる。但し、SBR以外の他のバインダーの含有量の上限は、SBR100質量部に対して、50質量部が好ましく、10質量部がより好ましく、1質量部がさらに好ましい。このように、バインダーとしてガラス転移点が40℃以上のSBRのみを実質的に用いることで、本発明の効果がより十分に発揮される。
【0035】
(増粘剤)
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、CMC塩、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。これらの中でも、CMCが好ましい。なお、CMCの一部(例えば、30モル%以下、好ましくは10モル%以下、より好ましくは1モル%以下)が、陰イオン又は塩の一部として存在していてもよい。負極合材層に同サイズの非晶質炭素が含有されている場合、非イオン性のCMCが含有されていることで、低温出力抵抗の上昇抑制効果をより高めることができ、放電容量も高めることができる。この理由は定かでは無いが、非イオン性のCMCが存在する場合、CMCと非晶質炭素との親和性が良好になり、非晶質炭素の密着性が高まることが低抵抗性(導電性)に寄与することなどが推定される。
【0036】
CMCのエーテル化度の下限としては、0.4が好ましく、0.45がより好ましく、0.5がさらに好ましい。上記エーテル化度の上限としては、1.5であってもよいが、1が好ましく、0.8がより好ましく、0.6がさらに好ましい。CMCのエーテル化度を上記範囲とすることで、低温出力抵抗をより低くすることなどができる。この理由は定かでは無いが、CMCのエーテル化度を上記範囲とすることで、CMCと非晶質炭素との親和性が良好になり、非晶質炭素の密着性が高まることが低抵抗性(導電性)に寄与することなどが推定される。なお、CMCのエーテル化度は、無水グルコース1単位あたりに結合しているカルボキシメチル基の置換度をアルカリ度又は酸度で測定することにより算出することができる。CMCのエーテル化度の上限値は、理論的には3.0まで可能であるが、製造が非常に困難である。
【0037】
負極合材層におけるCMCの含有量の下限としては、0.3質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。一方、上記CMCの含有量の上限としては、5質量%が好ましく、3質量%がより好ましい。CMCの含有量を上記下限以上とすることで、抵抗の低減効果等をより十分なものとすることなどができる。一方、CMCの含有量を上記上限以下とすることで、当該非水電解質蓄電素子の放電容量を十分なものとすることができる。
【0038】
(負極のBET比表面積)
上記負極のBET比表面積の下限としては、2.20m
2/gが好ましく、2.3m
2/gがより好ましい。負極のBET比表面積を上記下限以上とすることで、初期の低温出力抵抗をより低くし、放電容量も高めることができる。なお、理由は定かではないが、ガラス転移点の高いSBRを用いることで、同サイズの非晶質炭素を用いた場合であっても、負極のBET比表面積を大きくでき、その結果、初期の低温出力抵抗をより低くすることなどができる。一方、このBET比表面積の上限としては、例えば4m
2/gであり、3m
2/gであってもよく、2.5m
2/gであってもよい。
【0039】
(正極)
上記正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極合材層を有する。
【0040】
上記正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS−H−4000(2014年)に規定されるA1085P、A3003P等が例示できる。
【0041】
正極合材層は、正極活物質を含むいわゆる正極合材から形成される。また、正極合材層を形成する正極合材は、必要に応じて導電剤、バインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。これらの任意成分は、上述した負極のものと同様とすることができる。
【0042】
上記正極活物質としては、例えばLi
xMO
y(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα−NaFeO
2型結晶構造を有するLi
xCoO
2,Li
xNiO
2,Li
xMnO
3,Li
xNi
αCo
(1−α)O
2,Li
xNi
αMn
βCo
(1−α−β)O
2等、スピネル型結晶構造を有するLi
xMn
2O
4,Li
xNi
αMn
(2−α)O
4等)、Li
wMe
x(XO
y)
z(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO
4,LiMnPO
4,LiNiPO
4,LiCoPO
4,Li
3V
2(PO
4)
3,Li
2MnSiO
4,Li
2CoPO
4F等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極合材層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
(セパレータ)
上記セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0044】
(非水電解質)
上記非水電解質は、非水溶媒に、電解質塩が溶解した溶液である。上記非水電解質は、非水溶媒及び電解質塩以外の他の成分を含有していてもよい。この他の成分としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の添加剤として用いられる各種添加剤等を挙げることができる。
【0045】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、特に限定されないが、例えば5:95以上50:50以下とすることが好ましい。
【0046】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができる。
【0047】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができる。
【0048】
上記電解質塩としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の電解質塩として通常用いられる公知の電解質塩を用いることができる。上記電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。
【0049】
上記リチウム塩としては、LiPF
6、LiPO
2F
2、LiBF
4、LiClO
4、LiN(SO
2F)
2等の無機リチウム塩、LiSO
3CF
3、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiN(SO
2CF
3)(SO
2C
4F
9)、LiC(SO
2CF
3)
3、LiC(SO
2C
2F
5)
3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF
6がより好ましい。
【0050】
当該非水電解質における上記電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0051】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、非晶質炭素と、ガラス転移点が40℃以上のSBRとを含有する合材を負極基材に塗工することを備える。また、当該製造方法は、通常、上記塗工された合材を乾燥させることをさらに備える。
【0052】
上記合材(負極合材層形成材料)は、非晶質炭素、SBR、及び必要に応じてその他の成分が、水等の分散媒によって分散されたスラリー(ペースト)である。この合材の負極基材への塗工は、公知の方法により行うことができる。なお、この塗工には、噴霧や浸漬等も含まれる。
【0053】
上記乾燥は、自然乾燥であってもよいし、加熱乾燥などであってもよい。加熱乾燥は、例えば40℃以上、好ましくは50℃以上150℃以下、1分以上60分以下で行うことができる。また、加熱乾燥の温度は、SBRのガラス転移点以上とすることもできる。この加熱乾燥により、密着性が高く、抵抗の低い負極合材層が形成される。なお、増粘剤として、CMC−NH
4塩を用いている場合、この加熱乾燥の際にアンモニアが揮発し、非イオン性のCMCとして負極合材層中に残存することとなる。
【0054】
上記乾燥後は、負極合材層と負極基材との密着性等を高めるために、負極合材層の厚さ方向にプレスを行ってもよい。このような工程を経て負極を得ることができる。
【0055】
当該非水電解質蓄電素子は、上記負極の製造以外は、従来公知の非水電解質蓄電素子と同様の方法により製造することができる。当該製造方法は、例えば、正極及び負極(電極体)をケースに収容すること、及び上記ケースに上記非水電解質を注入することを有する。
【0056】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば上記負極は、メッシュ状の負極基材に負極合材が担持された構造などであってもよい。また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0057】
図1に、本発明に係る非水電解質蓄電素子の一実施形態である矩形状の二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す二次電池1は、電極体2が電池容器3に収納されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0058】
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の二次電池1を備えている。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
まず、負極活物質である非晶質炭素としての難黒鉛化性炭素(メジアン径:2.0μm、BET比表面積:7.90m
2/g)と、増粘剤としてのCMC−NH
4塩(エーテル化度:0.6)と、バインダーとしてのSBR(Tg:45℃)とを用い、非晶質炭素95質量部、増粘剤2質量部、バインダー3質量部、及び水を混練して負極合材を調製した。非晶質炭素のメジアン径及びBET比表面積は、上記した方法により測定した。上記負極合材を、負極基材としての銅箔(厚み10μm)の表面に塗工し、加圧成形した後に120℃30分で乾燥して、負極合材層を形成し、負極を得た。
【0061】
上記負極と、正極活物質としてLiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、及びポリフッ化ビニリデンを5質量部含む正極合材層を有する正極と、ポリエチレン製のセパレータと、PC、DMC及びEMCを体積比で30%:30%:40%で混合した溶媒にLiPF
6を1.0mol/L溶かした非水電解質とを用いて実施例1の二次電池(非水電解質蓄電素子)を作製した。
【0062】
[実施例2〜10、比較例1〜4]
表1に示す負極活物質、及びTgを有するSBRを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜10及び比較例1〜4の各二次電池を得た。なお、表1中「HC」は難黒鉛化性炭素、「Gr」はグラファイト、「D50」はメジアン径を示す。測定値を表1に示す。
【0063】
[評価]
実施例1〜10及び比較例1〜4の二次電池について、以下の方法で評価を行った。
【0064】
(初期の放電容量及び低温出力抵抗の測定)
各二次電池を25℃において1CmAの定電流で4.2Vまで充電し、さらに4.2Vの定電圧で合計3時間充電した後、1CmAの定電流で終止電圧2.25Vまで放電を行うことを3回繰り返し、3回目の放電の容量を初期放電容量とした。
さらに、初期放電容量の確認試験後の各二次電池について、初期放電容量の50%を充電することで電池の充電状態(SOC)を50%に調整し、−10℃にて4時間保持した後、0.2CmA(I1)で10秒間放電した時の電圧(E1)、0.5CmA(I2)で10秒間放電した時の電圧(E2)、及び1CmA(I3)で10秒間放電した時の電圧(E3)をそれぞれ測定した。なお、I1及びI2でのそれぞれの放電後に電池の充電状態(SOC)を50%に調整した。これらの測定値(E1、E2、E3)を用いて、直流抵抗を算出した。具体的には、横軸を電流、縦軸を電圧とするグラフ上に、前記測定値E1、E2、E3をプロットし、それら3点を最小二乗法による回帰直線(近似直線)により近似し、その直線の傾きを−10℃でのSOCが50%の直流抵抗(DCR)とした。これを低温出力抵抗とする。
【0065】
(充放電サイクル試験)
60℃の恒温槽中で、充電電流2CmAにてSOC80%に相当する電圧まで定電流電圧充電した後、2CmAの放電電流にてSOC20%に相当する電圧まで定電流放電するサイクル試験を50サイクル行った。
【0066】
(充放電サイクル試験後の低温出力抵抗の測定)
上記「初期の放電容量及び低温出力抵抗の測定」に記載の方法と同様の方法にて、上記充放電サイクル試験後の各二次電池について、低温出力抵抗を測定した。
【0067】
測定された初期の放電容量、並びに初期、50サイクル後の低温出力抵抗を表1に示す。また、初期の低温出力抵抗に対する50サイクル後の低温出力抵抗の比を低温出力抵抗変化率としてあわせて表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示されるように、同サイズの非晶質炭素(HC)を含む負極合材層において、ガラス転移点が40℃以上のSBRを用いることで、初期の低温出力特性が低下し、初期の放電容量は大きくなることが分かる。また、メジアン径の小さい非晶質炭素を用いることで、初期の低温出力抵抗をより低くできることがわかる。具体的には、ガラス転移点が45℃であり、メジアン径が2.0〜3.5μmである実施例1、実施例3及び実施例5は低温出力抵抗が63〜77mΩcm
2であるのに対し、メジアン径が6.9μmである実施例7のそれは185mΩcm
2であった。メジアン径が3.5μmと6.9μmとの間にて単純にメジアン径の比例には依らない低温出力抵抗の違いがみられた。また、各メジアン径におけるガラス転移点−15℃に対するガラス転移点45℃及び103℃の初期の低温出力抵抗の比率では、メジアン径が3.5μm以下の負極活物質でその比率が小さくなる傾向がみられた。
【0070】
50サイクル後の低温出力抵抗の変化率では、メジアン径が6.9μm以下の負極活物質で100%より小さい値を示しており、負極活物質のメジアン径を6.9μm以下にすることで、サイクルに伴う抵抗の増加を抑制できることがわかった。
【0071】
[参考例]
負極活物質として黒鉛を用い、バインダーとして表2に記載のガラス転移点(Tg)を有するSBRをそれぞれ用いたこと以外は実施例1と同様にして、参考例としての各二次電池を得た。これらの二次電池の初期の低温出力抵抗を測定した。ガラス転移点(Tg)が45℃であるSBRを用いた電池の初期の低温出力抵抗値を100とした場合の各ガラス転移点(Tg)のSBRを用いた電池の低温出力抵抗の相対値を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示されるように、負極活物質として非晶質炭素の代わりに黒鉛を用いた場合は、SBRのガラス転移点が40℃以上になると逆に低温出力抵抗が上昇している。すなわち、ガラス転移点が40℃以上のSBRを用いることで初期の低温出力抵抗を下げることができるという効果は、非晶質炭素を用いたときに生じる特異な効果であるといえる。