特許第6790889号(P6790889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790889
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】温度予測システムおよび温度予測方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/64 20180101AFI20201116BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20201116BHJP
【FI】
   F24F11/64
   F24F11/74
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-25059(P2017-25059)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-132230(P2018-132230A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年11月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】笠嶋 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】宇野 和史
(72)【発明者】
【氏名】有岡 孝祐
【審査官】 瀧本 絢奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−082597(JP,A)
【文献】 特開2011−258620(JP,A)
【文献】 特開2016−053443(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/106688(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00−11/89
H05K 7/20
G06F 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定領域の複数の測定点の温度を測定する温度センサと、
前記所定領域内の発熱源の発熱量を取得する取得部と、
前記複数の測定点の測定温度と前記取得部が取得した発熱量とを参照して温度予測対象の測定点の所定時間後の温度を予測するモデルを用いて、前記温度予測対象の測定点の前記所定時間後の温度を予測する予測部と、を備え、
前記モデルのパラメータは、前記測定点同士の位置関係に応じて前記複数の測定点の測定温度を参照する重みが設定されていることを特徴とする温度予測システム。
【請求項2】
前記パラメータは、前記温度予測対象の測定点から近い距離の測定点の重みが大きく、前記温度予測対象の測定点から遠い距離の測定点の重みが小さくなるようなパラメータであることを特徴とする請求項1記載の温度予測システム。
【請求項3】
過去における前記複数の測定点の測定温度および前記取得部が取得した発熱量と、前記過去から所定時間後の前記複数の測定点の測定温度とから、前記モデルを作成する作成部を備え、
前記作成部は、前記モデルの作成の際に、前記温度予測対象の測定点から近い距離の測定点の参照重みを大きくし、前記温度予測対象の測定点から遠い距離の測定点の参照重みを小さくすることを特徴とする請求項1または2に記載の温度予測システム。
【請求項4】
前記作成部は、前記モデルの作成の際に、前記温度予測対象の測定点から所定距離内の測定点だけを参照することを特徴とする請求項3記載の温度予測システム。
【請求項5】
前記所定領域に前記発熱源が複数備わり、
前記発熱源を1以上収容する複数の収容部を備え、
前記複数の測定点は、前記複数の収容部のそれぞれについて2点以上設定され、
前記作成部は、前記モデルの作成の際に、前記温度予測対象の測定点が設定されている前記収容部の測定点だけを参照することを特徴とする請求項3記載の温度予測システム。
【請求項6】
前記温度センサは、前記複数の測定点を経由する光ファイバであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の温度予測システム。
【請求項7】
前記所定領域に送風する送風機を備え、
前記送風機は、前記予測部の予測結果に応じて、送風量および送風方向の少なくともいずれかを調整することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の温度予測システム。
【請求項8】
温度センサにより、所定領域の複数の測定点の温度を測定し、
前記所定領域内の発熱源の発熱量を取得部が取得し、
前記複数の測定点の測定温度と前記取得部が取得した発熱量とを参照して温度予測対象の測定点の所定時間後の温度を予測するモデルを用いて、前記温度予測対象の測定点の前記所定時間後の温度を予測部が予測し、
前記モデルのパラメータは、前記測定点同士の位置関係に応じて前記複数の測定点の測定温度を参照する重みが設定されていることを特徴とする温度予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、温度予測システムおよび温度予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバなどを用いて、所定領域の各測定点の温度を取得することで、当該所定領域の温度分布を測定する技術が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2010−125712号
【特許文献2】特開2010−160081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーバ室内のように複数の発熱源が収容されている空間において、発熱源の発熱量と現時点での温度分布とから、将来的な高温箇所を推定する技術が望まれている。たとえば、上記測定技術を用いて特定の測定点の将来的な温度を予測するに際して、周囲の測定点の現在温度と発熱量とを参照し、当該特定の測定点の温度を予測する予測モデルを用いることが考えられる。しかしながら、この場合、本来は参照しなくてもよい温度情報の影響を強く受けると、温度の予測精度が低下するおそれがある。
【0005】
1つの側面では、本件は、将来的な温度を精度よく予測することができる温度予測システムおよび温度予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様では、温度予測システムは、所定領域の複数の測定点の温度を測定する温度センサと、前記所定領域内の発熱源の発熱量を取得する取得部と、前記複数の測定点の測定温度と前記取得部が取得した発熱量とを参照して温度予測対象の測定点の所定時間後の温度を予測するモデルを用いて、前記温度予測対象の測定点の前記所定時間後の温度を予測する予測部と、を備え、前記モデルのパラメータは、前記測定点同士の位置関係に応じて前記複数の測定点の測定温度を参照する重みが設定されている。
【発明の効果】
【0007】
将来的な温度を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】空調管理システムの概要を例示する図である。
図2】空調管理システムの概要を例示する図である。
図3】実施例1に係る温度予測システムの全体構成を例示する図である。
図4】実施例1に係る温度予測システムの全体構成を例示する図である。
図5】制御装置の各部間の情報のやりとりを例示する図である。
図6】各測定点の予測モデルの入出力を例示する図である。
図7】最小二乗推定を表す数式を例示する。
図8】(a)および(b)は最小二乗推定によって算出された予測モデルを用いて予測された予測温度と当該測定点における実測温度とを表す図である。
図9】最小二乗推定を表す数式を例示する。
図10】(a)〜(c)はモデル作成の際に参照する範囲を例示する図である。
図11】制御装置のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
図12】温度予測システムの他の例を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施例の説明に先立って、温度予測システムが適用されるシステムの一例として、空調管理システムの概要について説明する。図1および図2は、空調管理システム200の概要を例示する図である。高度情報化社会の到来に伴って、サーバ(計算機)で多量のデータが取り扱われるようになっている。その結果、複数のサーバを同一室内に設置して一括管理することが多くなっている。例えば、図1および図2で例示するように、データセンターでは、サーバ室内に複数のラック11を設置し、それぞれのラック11に1以上のサーバ12を収納している。図1の例では、No.1〜No.10のラック11が配置されている。そして、複数のサーバ12にジョブを有機的に配分し、大量のジョブを効率的に処理している。
【0010】
ジョブの処理にともなって、サーバ12から多量の熱が発生する。このため、熱によるサーバ12の故障、誤動作、処理能力の低下等を回避するために、サーバ12を冷却する手段が必要となる。
【0011】
例えば、図2で例示するように、データセンターのサーバ室内は、ラック11を設置する機器設置エリア10aと、機器設置エリア10aの床下に設けられて電力ケーブルや通信ケーブル等が配置される床下空間10bとに分離されている。床下空間10bには、空調機13から低温のエアーが供給される。この低温のエアーは、床下空間10bに設置された空調ファン20によって、機器設置エリア10aの床に設けられた通風口14を介して機器設置エリア10aに送られる。
【0012】
機器設置エリア10aには、複数のラック11が列毎に並んで配置される。例えば、ラック11の前面から低温のエアーを導入してサーバ12を冷却し、それにより温度が上昇したエアーを背面から排出するようになっている。以下、ラック11の前面(吸気側の面)を吸気面と呼び、ラック11の背面(排気側の面)を排気面と呼ぶ。ラック11の排気面から排出された高温のエアーは、天井などに設けられた配管15を介して空調機13に送られて冷却されて低温のエアーとして再利用される。
【0013】
ところで、省エネルギーおよび地球温暖化防止の観点から、データセンターで消費する電力の削減が要望されている。データセンターではサーバ12を冷却するために多大な電力を消費しているため、空調管理システム200自体の省電力化とともに、ラック11の配置を工夫して効率的な冷却が行われている。例えば、一般的なデータセンターでは、多数のラック11を列毎に並べ、且つ隣り合う列のラック11間で、吸気面と吸気面又は排気面と排気面とが向き合うように配置し、吸気面側の床に通風口14を配置している。
【0014】
このように、通風口14を介して低温のエアーが供給されるエリアと、ラック11から高温のエアーが排出されるエリアとを空間的に分離することにより、冷却効率の向上が図られている。低温のエアーが供給されるラック11の吸気面側のエリアはコールドアイルと呼ばれている。高温のエアーが排出されるラック11の排気面側のエリアは、ホットアイルと呼ばれている。
【0015】
しかしながら、ホットアイルからコールドアイル側に高温の排気が回り込んで局所的に高温になる部分(ホットスポット)が発生し、機器動作が不安定になることがある。これを回避するために、排気がコールドアイル側に回り込んでもホットスポットが発生しないように空調機13の設定温度を低くすることが考えられる、または、コールドアイル側への排気の回り込みが発生しないように空調機13のエアーの吹き出し量を多く設定することが考えられる。
【0016】
しかしながら、いずれの方法においても、一部のホットスポットに対応するために、全体を冷却する空調機の設定を変更すると、ホットスポット以外のエリアに対しては過剰な冷却となってしまう。この場合、空調に要する電力が増加し、エネルギーの無駄が発生する。ラック11ごとに空調機を設けることも考えられるが、空調機の設置数が多くなってしまう。そこで、ラック11よりも少ない数の空調ファン20の送風方向や送風量などを調整して、ホットスポットに対して局所的に低温のエアーを供給することでホットスポットを冷却する、という空調管理システムを構築することが考えられる。
【0017】
このような空調管理システムでは、ホットスポットが現れる箇所を予め予測して特定することが望まれる。以下の実施例では、将来的な温度を精度よく予測することができる温度予測システムおよび温度予測方法について説明する。
【実施例1】
【0018】
図3および図4は、実施例1に係る温度予測システム100の全体構成を例示する図である。図3で例示するように、温度予測システム100は、空調ファン20、温度センサ30、制御装置40などを備える。空調ファン20は、図1および図2で説明した空調ファン20と同様の機能を有する。温度予測システム100は、一例として、図1および図2で説明したサーバ室に適用される。
【0019】
図4で例示するように、温度センサ30は、各ラック11において複数の測定点31を有している。一例として、各測定点31は、各ラック11の吸気面に複数個所設定されている。例えば、各測定点31に温度計などを設置してもよいが、光ファイバを用いてもよい。例えば、各測定点31を通るように光ファイバを敷設し、当該光ファイバにより検出した温度分布に対し伝達関数を用いた補正計算を行うことで、各測定点31の温度を測定することができる。それにより、サーバ室の温度分布を測定することができる。一例として、光ファイバの長さ方向に沿って10cm〜数10cmの間隔で設定された測定点31の温度を精度良く検出することができる。本実施例においては、一例として、723点の測定点31を設ける。
【0020】
少なくともいずれかのラック11には、発熱を伴うサーバ12が配置されている。図4の例では、No.2のラック11には1台のサーバ12が配置されている。No.1、No.3〜5、No.7〜10には、2台のサーバ12が配置されている。No.6のラック11にはサーバ12が配置されていない。したがって、合計で17台のサーバ12が配置されている。各サーバ12の位置をD〜D17とする。
【0021】
制御装置40は、温度取得部41、発熱量取得部42、温度予測部43、制御部44などとして機能する。温度取得部41は、各測定点31の測定温度を取得する。発熱量取得部42は、各サーバ12の発熱量を取得する。例えば、発熱量取得部42は、各サーバ12の使用電力を測定する電力計の測定結果から各サーバ12の発熱量を取得する。サーバ12の発熱量が多くなると、ホットスポットが現れる傾向にある。そこで、温度予測部43は、温度取得部41が取得した各測定点31の測定温度と、発熱量取得部42が取得した発熱量とを参照して、各測定点31の所定時間後の温度を予測する。それにより、温度予測部43は、将来的なホットスポットを特定する。制御部44は、温度予測部43によって特定されたホットスポットに対して局所的に低温のエアーが供給されるように、空調ファン20の送風方向、送風量などを制御する。空調ファン20が複数設けられている場合には、制御部44は、空調ファン20ごとに、送風方向、送風量などを制御する。
【0022】
図5は、各部間の情報のやりとりを例示する図である。図6は、各測定点31の予測モデルの入出力を例示する図である。図5および図6で例示するように、温度取得部41は、温度センサ30から取得した測定点1〜723の各測定温度y(t)を、温度予測部43が用いる予測モデルに入力する。また、発熱量取得部42は、各サーバ12の電力計などから取得した位置D〜D17の各発熱量d(t)を温度予測部43が用いる予測モデルに入力する。「t」は、現在時刻を表す。「t+Δt」は、現在時刻からΔt時間後を表す。
【0023】
温度予測部43は、図6で例示するように、予測モデルを用いて、位置D〜D17の各発熱量d(t)と、測定点1〜723の各測定温度y(t)とを参照して、各測定点31の温度のΔt後の予測値y(t+Δt)を出力する。例えば、予測値y(t+Δt)は、Ay(t)+Bd(t)で表すことができる。「u」は、空調ファンの送風方向、送風量などのレベルを表す。Ay(t)は、測定点31間の熱平衡を表す。Bd(t)は、サーバ12の発熱に起因する温度上昇を表す。各測定点31の予測値y(t+Δt)を求めることで、将来的なホットスポットを特定することができる。制御部44は、各測定点31の温度の予測値を評価関数に適用することで、空調ファン20の制御値u(t)を決定する。空調ファン20は、制御部44から与えられる制御値に基づいて、送風を行う。それにより、将来的に現れるホットスポットに、事前に局所的に低温のエアーが供給される。その結果、ホットスポットを効率よく冷却することができる。
【0024】
ホットスポットを効率よく冷却するためには、精度の良い温度予測モデルが望まれる。温度分布を予測する数式モデルの構築方法として、過去の実測温度データを活用して、数式モデルのモデルパラメータを、実測データに適合するように(実測値と数式モデルによる推定値との差分が小さくなるように)最小二乗法により導出する方法がある。図7は、最小二乗推定を表す数式を例示する。
【0025】
上述した予測モデルy(t+Δt)=Ay(t)+Bd(t)において、AおよびBがモデルパラメータに相当する。Aは、[aji]で表すことができる。Aは、空調ファン20の送風方向、送風量などのレベルごとに定められる。また、特定の測定点の温度を予測するに際して他の測定点の温度を参照するため、他の測定点の温度を参照するための係数が必要となる。そこで、「j」は、各測定点31の番号であり、本実施例においては1〜723である。「i」は、参照する各測定点31の番号であり、本実施例においては1〜723である。Aは、この[aji]が空調ファン20の送風方向、送風量などのレベルごとに定められていることを表している。Bは、[bjk]で表すことができる。「j」は、各測定点31の番号であり、本実施例においては1〜723である。「k」は、参照するサーバ位置の番号であり、本実施例においては1〜17である。Bは、この[bjk]が空調ファン20の送風方向、送風量などのレベルごとに定められていることを表している。
【0026】
(Δt)〜y(t)は、測定点jにおいて、所定時点を時刻ゼロとした場合のΔt〜tまでの各時刻における温度実測値を表す。Δt〜tまでの刻み値は、Δtである。したがって、tは、n・Δtである。図7の最下段の数式が最も小さくなるようにaおよびbを決定することで、実測温度と予測温度との差が最も小さくなる。
【0027】
なお、図7において、「T」は転置行列を意味する。また、「r」は、温度センサ30による実測値を意味する。例えば、予測に関わる係数として、ajiが3つ、すなわちi=3、またbjkが2つ、すなわちk=2であって、j=1の場合について検討する。この場合、図7の最小自乗推定の数式では、y(Δt)と「y(0)×a11+y(0)×a12+y(0)×a13+d(0)×b11+d(0)×b12」との差分、y(2Δt)と「y(Δt)×a11+y(Δt)×a12+y(Δt)×a13+d(Δt)×b11+d(Δt)×b12」との差分、…(以下、時刻tまでの差分)の二乗和が最小になるように、a11,a12,a13,b11およびb12が決定される。
【0028】
図8(a)は、ある測定点において図7の最小二乗推定によって算出された予測モデルを用いて予測された予測温度と、当該測定点における実測温度と、を表す図である。図8で例示するように、予測温度は実測温度に近いものの、丸印で例示するように予測温度にパルス状の誤差が発生していることがわかる。
【0029】
は、723×723の行列式で表すことができ、左上から右下への対角成分が、自身の測定温度の係数を表している。パルス状の誤差が発生するときには対角成分から離れた成分が大きくなる。すなわち、測定点31の番号が離れている(距離が離れている)箇所の測定温度の影響が大きくなる。このように、本来はほとんど影響を与えない遠い距離の測定温度の影響が大きくなるようなパラメータが算出されてしまうと、誤差が大きくなる要因となる。そこで、本実施例においては、予測モデルのパラメータを決定する際に、空間配置における各測定点31同士の位置関係を制約条件に組み込む。これにより、モデルパラメータの決定精度が向上することになる。
【0030】
例えば、図9のようにeとH723の値を調整することで、aの重要性(重み)を調整することができる。例えば、図10(a)で例示するように、温度予測対象とする測定点31の位置から1次元の方向において所定距離内の測定点31だけを参照するようにeおよびH723の値を調整することが好ましい。または、図10(b)で例示するように、温度予測対象とする測定点31の位置から2次元の方向において所定距離内の測定点31だけを参照するようにeおよびH723の値を調整することが好ましい。または、図10(c)で例示するように、温度予測対象とする測定点31の位置から3次元の方向において所定距離内の測定点31だけを参照するようにeおよびH723の値を調整することが好ましい。または、着目する測定点31が位置するラック11内の測定点31だけを参照するようにeおよびH723の値を調整することが好ましい。
【0031】
または、各測定点31の温度を予測するに際して、他の測定点31の参照の重みを変更してもよい。例えば、温度予測対象とする測定点31から近い位置の測定点31の参照重みを大きくし、遠い位置の測定点31の参照重みを小さくするようにしてもよい。
【0032】
図8(b)は、番号100の測定点31において、eについて、j−2=0.2、j−1=0.5、j=1、j+1=0.5、j+2=0.2とし、H723について、対角成分のみが1で他をゼロとした場合の予測モデルを用いて推定された予測温度を表す図である。言い換えると、自身の重みを1とし、両隣の重みを0.5とし、その隣を0.2に近くなるようにモデルを作成した場合の予測温度である。このような条件では、温度予測対象の測定点から近い距離の測定点の重みが大きくなり、温度予測対象の測定点から遠い距離の測定点の重みが小さくなる。図8(b)で例示するように、予測温度が実測温度に近くなっていることがわかる。
【0033】
図11は、制御装置40のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。図11で例示するように、制御装置40は、CPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などを備える。これらの各機器は、バスなどによって接続されている。CPU(Central Processing Unit)101は、中央演算処理装置である。CPU101は、1以上のコアを含む。RAM(Random Access Memory)102は、CPU101が実行するプログラム、CPU101が処理するデータなどを一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置103は、不揮発性記憶装置である。記憶装置103として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどのソリッド・ステート・ドライブ(SSD)、ハードディスクドライブに駆動されるハードディスクなどを用いることができる。CPU101が記憶装置103に記憶されているプログラムを実行することによって、温度予測システム100に制御装置40の各部が実現される。なお、制御装置40は、専用の回路などのハードウェアであってもよい。
【0034】
(他の例)
図12は、温度予測システムの他の例を例示する図である。図12で例示するように、温度予測システムは、空調ファン20および温度センサ30が、インターネットなどの電気通信回線301を通じてクラウド302と接続された構成を有する。また、温度予測システムは、電気通信回線301に接続され、温度センサ30が設置されているサーバ室を監視する監視サーバ303を備えていてもよい。
【0035】
クラウド302は、図11のCPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などを備え、制御装置40としての機能を実現する。このような温度予測システムでは、例えば、外国のサーバ室で測定された測定結果が、日本に設置されているクラウド302で受信し、将来的なホットスポットがクラウド302によって予測される。なお、クラウド302の代わりに、イントラネットなどを介して接続されたサーバを用いてもよい。
【0036】
上記各例において、温度センサ30が、所定領域の複数の測定点の温度を測定する温度センサの一例として機能する。発熱量取得部42が、前記所定領域内の発熱源の発熱量を取得する取得部の一例として機能する。温度予測部43が、前記複数の測定点の測定温度と前記取得部が取得した発熱量とを参照して温度予測対象の測定点の所定時間後の温度を予測するモデルを用いて、前記温度予測対象の測定点の前記所定時間後の温度を予測する予測部の一例として機能する。また、温度予測部43は、過去における前記複数の測定点の測定温度および前記取得部が取得した発熱量と、前記過去から所定時間後の前記複数の測定点の測定温度とから、前記モデルを作成する作成部の一例として機能する。
【0037】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
20 空調ファン
30 温度センサ
40 制御装置
41 温度取得部
42 発熱量取得部
43 温度予測部
44 制御部
100 温度予測システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12