【実施例1】
【0018】
図3および
図4は、実施例1に係る温度予測システム100の全体構成を例示する図である。
図3で例示するように、温度予測システム100は、空調ファン20、温度センサ30、制御装置40などを備える。空調ファン20は、
図1および
図2で説明した空調ファン20と同様の機能を有する。温度予測システム100は、一例として、
図1および
図2で説明したサーバ室に適用される。
【0019】
図4で例示するように、温度センサ30は、各ラック11において複数の測定点31を有している。一例として、各測定点31は、各ラック11の吸気面に複数個所設定されている。例えば、各測定点31に温度計などを設置してもよいが、光ファイバを用いてもよい。例えば、各測定点31を通るように光ファイバを敷設し、当該光ファイバにより検出した温度分布に対し伝達関数を用いた補正計算を行うことで、各測定点31の温度を測定することができる。それにより、サーバ室の温度分布を測定することができる。一例として、光ファイバの長さ方向に沿って10cm〜数10cmの間隔で設定された測定点31の温度を精度良く検出することができる。本実施例においては、一例として、723点の測定点31を設ける。
【0020】
少なくともいずれかのラック11には、発熱を伴うサーバ12が配置されている。
図4の例では、No.2のラック11には1台のサーバ12が配置されている。No.1、No.3〜5、No.7〜10には、2台のサーバ12が配置されている。No.6のラック11にはサーバ12が配置されていない。したがって、合計で17台のサーバ12が配置されている。各サーバ12の位置をD
1〜D
17とする。
【0021】
制御装置40は、温度取得部41、発熱量取得部42、温度予測部43、制御部44などとして機能する。温度取得部41は、各測定点31の測定温度を取得する。発熱量取得部42は、各サーバ12の発熱量を取得する。例えば、発熱量取得部42は、各サーバ12の使用電力を測定する電力計の測定結果から各サーバ12の発熱量を取得する。サーバ12の発熱量が多くなると、ホットスポットが現れる傾向にある。そこで、温度予測部43は、温度取得部41が取得した各測定点31の測定温度と、発熱量取得部42が取得した発熱量とを参照して、各測定点31の所定時間後の温度を予測する。それにより、温度予測部43は、将来的なホットスポットを特定する。制御部44は、温度予測部43によって特定されたホットスポットに対して局所的に低温のエアーが供給されるように、空調ファン20の送風方向、送風量などを制御する。空調ファン20が複数設けられている場合には、制御部44は、空調ファン20ごとに、送風方向、送風量などを制御する。
【0022】
図5は、各部間の情報のやりとりを例示する図である。
図6は、各測定点31の予測モデルの入出力を例示する図である。
図5および
図6で例示するように、温度取得部41は、温度センサ30から取得した測定点1〜723の各測定温度y(t)を、温度予測部43が用いる予測モデルに入力する。また、発熱量取得部42は、各サーバ12の電力計などから取得した位置D
1〜D
17の各発熱量d(t)を温度予測部43が用いる予測モデルに入力する。「t」は、現在時刻を表す。「t+Δt」は、現在時刻からΔt時間後を表す。
【0023】
温度予測部43は、
図6で例示するように、予測モデルを用いて、位置D
1〜D
17の各発熱量d(t)と、測定点1〜723の各測定温度y(t)とを参照して、各測定点31の温度のΔt後の予測値y(t+Δt)を出力する。例えば、予測値y(t+Δt)は、A
uy(t)+B
ud(t)で表すことができる。「u」は、空調ファンの送風方向、送風量などのレベルを表す。A
uy(t)は、測定点31間の熱平衡を表す。B
ud(t)は、サーバ12の発熱に起因する温度上昇を表す。各測定点31の予測値y(t+Δt)を求めることで、将来的なホットスポットを特定することができる。制御部44は、各測定点31の温度の予測値を評価関数に適用することで、空調ファン20の制御値u
*(t)を決定する。空調ファン20は、制御部44から与えられる制御値に基づいて、送風を行う。それにより、将来的に現れるホットスポットに、事前に局所的に低温のエアーが供給される。その結果、ホットスポットを効率よく冷却することができる。
【0024】
ホットスポットを効率よく冷却するためには、精度の良い温度予測モデルが望まれる。温度分布を予測する数式モデルの構築方法として、過去の実測温度データを活用して、数式モデルのモデルパラメータを、実測データに適合するように(実測値と数式モデルによる推定値との差分が小さくなるように)最小二乗法により導出する方法がある。
図7は、最小二乗推定を表す数式を例示する。
【0025】
上述した予測モデルy(t+Δt)=A
uy(t)+B
ud(t)において、A
uおよびB
uがモデルパラメータに相当する。A
uは、[a
ji]で表すことができる。A
uは、空調ファン20の送風方向、送風量などのレベルごとに定められる。また、特定の測定点の温度を予測するに際して他の測定点の温度を参照するため、他の測定点の温度を参照するための係数が必要となる。そこで、「j」は、各測定点31の番号であり、本実施例においては1〜723である。「i」は、参照する各測定点31の番号であり、本実施例においては1〜723である。A
uは、この[a
ji]が空調ファン20の送風方向、送風量などのレベルごとに定められていることを表している。B
uは、[b
jk]で表すことができる。「j」は、各測定点31の番号であり、本実施例においては1〜723である。「k」は、参照するサーバ位置の番号であり、本実施例においては1〜17である。B
uは、この[b
jk]が空調ファン20の送風方向、送風量などのレベルごとに定められていることを表している。
【0026】
y
j(Δt)〜y
j(t
n)は、測定点jにおいて、所定時点を時刻ゼロとした場合のΔt〜t
nまでの各時刻における温度実測値を表す。Δt〜t
nまでの刻み値は、Δtである。したがって、t
nは、n・Δtである。
図7の最下段の数式が最も小さくなるようにa
jおよびb
jを決定することで、実測温度と予測温度との差が最も小さくなる。
【0027】
なお、
図7において、「T」は転置行列を意味する。また、「r」は、温度センサ30による実測値を意味する。例えば、予測に関わる係数として、a
jiが3つ、すなわちi=3、またb
jkが2つ、すなわちk=2であって、j=1の場合について検討する。この場合、
図7の最小自乗推定の数式では、y
1(Δt)と「y
1(0)×a
11+y
2(0)×a
12+y
3(0)×a
13+d
1(0)×b
11+d
2(0)×b
12」との差分、y
1(2Δt)と「y
1(Δt)×a
11+y
2(Δt)×a
12+y
3(Δt)×a
13+d
1(Δt)×b
11+d
2(Δt)×b
12」との差分、…(以下、時刻t
nまでの差分)の二乗和が最小になるように、a
11,a
12,a
13,b
11およびb
12が決定される。
【0028】
図8(a)は、ある測定点において
図7の最小二乗推定によって算出された予測モデルを用いて予測された予測温度と、当該測定点における実測温度と、を表す図である。
図8で例示するように、予測温度は実測温度に近いものの、丸印で例示するように予測温度にパルス状の誤差が発生していることがわかる。
【0029】
A
uは、723×723の行列式で表すことができ、左上から右下への対角成分が、自身の測定温度の係数を表している。パルス状の誤差が発生するときには対角成分から離れた成分が大きくなる。すなわち、測定点31の番号が離れている(距離が離れている)箇所の測定温度の影響が大きくなる。このように、本来はほとんど影響を与えない遠い距離の測定温度の影響が大きくなるようなパラメータが算出されてしまうと、誤差が大きくなる要因となる。そこで、本実施例においては、予測モデルのパラメータを決定する際に、空間配置における各測定点31同士の位置関係を制約条件に組み込む。これにより、モデルパラメータの決定精度が向上することになる。
【0030】
例えば、
図9のようにe
jとH
723の値を調整することで、a
jの重要性(重み)を調整することができる。例えば、
図10(a)で例示するように、温度予測対象とする測定点31の位置から1次元の方向において所定距離内の測定点31だけを参照するようにe
jおよびH
723の値を調整することが好ましい。または、
図10(b)で例示するように、温度予測対象とする測定点31の位置から2次元の方向において所定距離内の測定点31だけを参照するようにe
jおよびH
723の値を調整することが好ましい。または、
図10(c)で例示するように、温度予測対象とする測定点31の位置から3次元の方向において所定距離内の測定点31だけを参照するようにe
jおよびH
723の値を調整することが好ましい。または、着目する測定点31が位置するラック11内の測定点31だけを参照するようにe
jおよびH
723の値を調整することが好ましい。
【0031】
または、各測定点31の温度を予測するに際して、他の測定点31の参照の重みを変更してもよい。例えば、温度予測対象とする測定点31から近い位置の測定点31の参照重みを大きくし、遠い位置の測定点31の参照重みを小さくするようにしてもよい。
【0032】
図8(b)は、番号100の測定点31において、e
jについて、j−2=0.2、j−1=0.5、j=1、j+1=0.5、j+2=0.2とし、H
723について、対角成分のみが1で他をゼロとした場合の予測モデルを用いて推定された予測温度を表す図である。言い換えると、自身の重みを1とし、両隣の重みを0.5とし、その隣を0.2に近くなるようにモデルを作成した場合の予測温度である。このような条件では、温度予測対象の測定点から近い距離の測定点の重みが大きくなり、温度予測対象の測定点から遠い距離の測定点の重みが小さくなる。
図8(b)で例示するように、予測温度が実測温度に近くなっていることがわかる。
【0033】
図11は、制御装置40のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
図11で例示するように、制御装置40は、CPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などを備える。これらの各機器は、バスなどによって接続されている。CPU(Central Processing Unit)101は、中央演算処理装置である。CPU101は、1以上のコアを含む。RAM(Random Access Memory)102は、CPU101が実行するプログラム、CPU101が処理するデータなどを一時的に記憶する揮発性メモリである。記憶装置103は、不揮発性記憶装置である。記憶装置103として、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリなどのソリッド・ステート・ドライブ(SSD)、ハードディスクドライブに駆動されるハードディスクなどを用いることができる。CPU101が記憶装置103に記憶されているプログラムを実行することによって、温度予測システム100に制御装置40の各部が実現される。なお、制御装置40は、専用の回路などのハードウェアであってもよい。
【0034】
(他の例)
図12は、温度予測システムの他の例を例示する図である。
図12で例示するように、温度予測システムは、空調ファン20および温度センサ30が、インターネットなどの電気通信回線301を通じてクラウド302と接続された構成を有する。また、温度予測システムは、電気通信回線301に接続され、温度センサ30が設置されているサーバ室を監視する監視サーバ303を備えていてもよい。
【0035】
クラウド302は、
図11のCPU101、RAM102、記憶装置103、インタフェース104などを備え、制御装置40としての機能を実現する。このような温度予測システムでは、例えば、外国のサーバ室で測定された測定結果が、日本に設置されているクラウド302で受信し、将来的なホットスポットがクラウド302によって予測される。なお、クラウド302の代わりに、イントラネットなどを介して接続されたサーバを用いてもよい。
【0036】
上記各例において、温度センサ30が、所定領域の複数の測定点の温度を測定する温度センサの一例として機能する。発熱量取得部42が、前記所定領域内の発熱源の発熱量を取得する取得部の一例として機能する。温度予測部43が、前記複数の測定点の測定温度と前記取得部が取得した発熱量とを参照して温度予測対象の測定点の所定時間後の温度を予測するモデルを用いて、前記温度予測対象の測定点の前記所定時間後の温度を予測する予測部の一例として機能する。また、温度予測部43は、過去における前記複数の測定点の測定温度および前記取得部が取得した発熱量と、前記過去から所定時間後の前記複数の測定点の測定温度とから、前記モデルを作成する作成部の一例として機能する。
【0037】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。