(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790897
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】液体成分付与装置
(51)【国際特許分類】
B05C 1/08 20060101AFI20201116BHJP
【FI】
B05C1/08
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-27838(P2017-27838)
(22)【出願日】2017年2月17日
(65)【公開番号】特開2018-130696(P2018-130696A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩茂
(72)【発明者】
【氏名】田村 紀智
(72)【発明者】
【氏名】樋口 均
(72)【発明者】
【氏名】土屋 信之
(72)【発明者】
【氏名】杉田 修一
【審査官】
市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−243059(JP,A)
【文献】
特開2007−273124(JP,A)
【文献】
特開平02−052066(JP,A)
【文献】
特開2015−066489(JP,A)
【文献】
特開2003−190858(JP,A)
【文献】
特開2010−069829(JP,A)
【文献】
特開2009−028719(JP,A)
【文献】
特開2012−157810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C1/00−3/20
7/00−21/00
B05D1/00−7/26
B41N1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体成分を貯留する貯留室を有するドクターチャンバーと、
該ドクターチャンバーから供給された前記液体成分を、表面に形成された凹部内に保持するグラビアロールと
を備え、
該グラビアロールの軸線方向に関して前記貯留室の両端には第1サイドシール及び第2サイドシールが設けられ、
前記凹部は、
前記グラビアロールが回転するにともない前記凹部内の液体成分が前記軸線方向に関して前記第2サイドシールに向かって流れるように螺旋状に延びる第1凹部部分と、
前記グラビアロールが回転するにともない前記凹部内の液体成分が前記軸線方向に関して前記第1サイドシールに向かって流れるように螺旋状に延びる第2凹部部分と
からなり、
前記第1凹部部分が形成された前記グラビアロールの表面には前記第1サイドシールが接し、前記第2凹部部分が形成された前記グラビアロールの表面には前記第2サイドシールが接する液体成分付与装置。
【請求項2】
前記グラビアロールは、
表面に前記第1凹部部分が形成された第1本体部と、
表面に前記第2凹部部分が形成された第2本体部と
を備え、
前記第1本体部と前記第2本体部とが取り外し可能である、請求項1に記載の液体成分付与装置。
【請求項3】
前記グラビアロールは、前記第1本体部と前記第2本体部との間に第3本体部をさらに備え、
前記第1本体部及び前記第2本体部はそれぞれ、前記第3本体部の両端部のいずれにも取り外し可能に取り付けることができる、請求項2に記載の液体成分付与装置。
【請求項4】
前記第1凹部部分の凹部と、前記第1サイドシールから前記第2サイドシールに向かう方向の前記グラビアロールの軸線とのなす角度が20°〜80°である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体成分付与装置。
【請求項5】
前記第2凹部部分の凹部と、前記第1サイドシールから前記第2サイドシールに向かう方向の前記グラビアロールの軸線とのなす角度が100°〜160°である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の液体成分付与装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体成分付与装置に係り、特に、ドクターチャンバー方式の液体成分付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、インクを貯留するドクターチャンバーと、ドクターチャンバーから供給されたインクを保持するグラビアロールと、グラビアロールからインクが転写される印刷ロールとを備えた印刷装置が記載されている。グラビアロールの表面には、インクを保持するための凹部が加工されている。凹部の形状としては、格子型等の閉鎖型セルの形状や、グラビアロールの軸方向に沿って螺旋状に延びるように形成された斜線型等がある。特許文献1のような印刷装置では、グラビアロールの表面に閉鎖型セルの形状の凹部が採用されているが、印刷インクよりも粘度の高い塗料を塗布するための塗装装置に設けられたグラビアロールでは、閉鎖型セルの形状の凹部を採用すると線状ムラのような塗膜外観不良が発生してしまうので、斜線型の凹部が採用されている。
【0003】
図6には、従来の塗装装置におけるドクターチャンバー方式の塗料付与装置が記載されている。この塗料付与装置は、凹部106が表面に加工されたグラビアロール100と、塗料102を貯留する貯留室103を有するドクターチャンバー101とを備えている。グラビアロール100の軸方向に関して貯留室103の両端にはサイドシール104,105が設けられている。サイドシール104,105はそれぞれ、グラビアロール100の表面に接している。凹部106は、サイドシール104からサイドシール105に向かう方向のグラビアロール100の軸線L
100とのなす角度θが鋭角となるように螺旋状に延びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−141609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に示されるように、グラビアロール100が矢印Pの方向に回転すると、凹部106内に入り込んだ塗料は、凹部106に沿って流れるようになる。凹部106の傾斜方向によれば、サイドシール104付近では、凹部106内の塗料は軸線L
100の方向に関してサイドシール104から離れるように(矢印Qの方向に)流れるので、サイドシール104とグラビアロール100の表面との間を通り抜けて塗料が漏れることはないが、サイドシール105付近では、凹部106内の塗料は軸線L
100の方向に関してサイドシール105に向かうように(矢印Rの方向に)流れるので、サイドシール105とグラビアロール100の表面との間を(矢印Sのように)通り抜けて塗料が漏れてしまうといった問題点があった。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、グラビアロールが回転した時に液体成分が漏れない液体成分付与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る液体成分付与装置は、液体成分を貯留する貯留室を有するドクターチャンバーと、ドクターチャンバーから供給された液体成分を、表面に形成された凹部内に保持するグラビアロールとを備え、グラビアロールの軸線方向に関して貯留室の両端には第1サイドシール及び第2サイドシールが設けられ、凹部は、グラビアロールが回転するにともない凹部内の液体成分が軸線方向に関して第2サイドシールに向かって流れるように螺旋状に延びる第1凹部部分と、グラビアロールが回転するにともない凹部内の液体成分が軸線方向に関して第1サイドシールに向かって流れるように螺旋状に延びる第2凹部部分とからなり、第1凹部部分が形成されたグラビアロールの表面には第1サイドシールが接し、第2凹部部分が形成されたグラビアロールの表面には第2サイドシールが接する。
グラビアロールは、表面に第1凹部部分が形成された第1本体部と、表面に第2凹部部分が形成された第2本体部とを備え、第1本体部と第2本体部とが取り外し可能であってもよい。
グラビアロールは、第1本体部と第2本体部との間に第3本体部をさらに備え、第1本体部及び第2本体部はそれぞれ、第3本体部の両端部のいずれにも取り外し可能に取り付けることができてもよい。
第1凹部部分の凹部と、第1サイドシールから第2サイドシールに向かう方向のグラビアロールの軸線とのなす角度が20°〜80°であってもよい。
第2凹部部分の凹部と、第1サイドシールから第2サイドシールに向かう方向のグラビアロールの軸線とのなす角度が100°〜160°であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、第2サイドシールが接するグラビアロールの表面には、グラビアロールが回転するにともない凹部内の液体成分がグラビアロールの軸線の方向に関して第1サイドシールに向かって流れるように螺旋状に延びる凹部が形成されていることにより、第2サイドシールとグラビアロールの表面との間を液体成分が通り抜けることがないので、グラビアロールが回転したときに液体成分が漏れるのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】この発明の実施の形態に係る液体成分付与装置を備えた塗料装置の断面図である。
【
図2】この実施の形態に係る液体成分付与装置のドクターブレードを取り除いた状態の平面図である。
【
図4】この実施の形態に係る液体成分付与装置に設けられたグラビアロールの変形例の平面図である。
【
図5】この実施の形態に係る液体成分付与装置に設けられたグラビアロールの別の変形例の平面図である。
【
図6】従来の液体成分付与装置のドクターブレードを取り除いた状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1には、液体成分である塗料2を鋼鈑13の表面に塗布する塗装装置10が示されている。塗装装置10は、塗料2を付与するための液体成分付与装置である塗料付与装置1と、鋼鈑13に塗料2を塗布するアプリケーターロール11と、アプリケーターロール11との間に鋼鈑13を挟む金属製のバックアップロール12とを備えている。塗料付与装置1は、塗料2を貯留する貯留室3を有するドクターチャンバー4と、ドクターチャンバー4から供給された塗料を保持するための凹部20が表面5aに形成された金属製のグラビアロール5とを備えている。ドクターチャンバー4には、貯留室3の開口を部分的に覆うとともにグラビアロール5の表面5aに接する2つのドクターブレード6a,6bが設けられている。グラビアロール5の表面5aとアプリケーターロール11の表面11aとは接している。アプリケーターロール11の表面11aはゴム製である。
【0011】
図2に示されるように、グラビアロール5の軸線L
5方向に関して貯留室3の両端にはそれぞれ、発砲ポリエチレン製のサイドシール18及びサイドシール19が設けられている。この実施の形態では、前者を第1サイドシールとし、後者を第2サイドシールとする。尚、この定義は、後述する変形例でも説明するように、グラビアロール5の回転方向によって、前者を第2サイドシールとし、後者を第1サイドシールとすることもある。グラビアロール5は、その表面5aがサイドシール18及びサイドシール19のそれぞれに接するように設けられている。
【0012】
グラビアロール5の表面5aに形成された凹部20は、第1凹部部分21と第2凹部部分22とから構成されている。第1凹部部分21が形成された表面5aにはサイドシール18が接しており、第2凹部部分22が形成された表面5aにはサイドシール19が接している。第1凹部部分21では、凹部20は、サイドシール18からサイドシール19に向かう方向のグラビアロール5の軸線L
5とのなす角度θ
1が45°となるように螺旋状に延びている。一方、第2凹部部分22では、凹部20は、サイドシール18からサイドシール19に向かう方向のグラビアロール5の軸線L
5とのなす角度θ
2が135°となるように螺旋状に延びている。
【0013】
次に、この発明の実施の形態に係る液体成分付与装置を含む塗装装置の動作について説明する。
図1に示されるように、グラビアロール5が矢印Aの方向に回転すると、凹部20内に塗料2が入り込み、凹部20からあふれた塗料2はドクターブレード6a,6bによって貯留室3内に掻き落とされることで、適量の塗料2が凹部20内に保持される。グラビアロール5の回転と共に、これと接するアプリケーターロール11も回転する。グラビアロール5とアプリケーターロール11とは接しているので、凹部20内の塗料2がアプリケーターロール11の表面11a上に転写される。アプリケーターロール11の回転と共にバックアップロール12も回転し、これらの間で挟まれながら搬送された鋼鈑13の表面に、アプリケーターロール11の表面11a上の塗料2が塗布される。
【0014】
次に、ドクターチャンバー4の貯留室3内の塗料2が、グラビアロール5の表面5aに形成された凹部20内に供給される原理を、
図3に基づいて説明する。
グラビアロール5が矢印Aの方向に回転すると、凹部20に入り込んだ塗料2は凹部20に沿って流れるようになる。第1凹部部分21では、凹部20に沿って塗料2が流れると、塗料2は軸線L
5の方向に関してサイドシール18から離れるように(矢印Bの方向に)流れることになり、サイドシール18とグラビアロール5の表面5aとの間を通り抜けることはない。一方、第2凹部部分22では、凹部20に沿って塗料2が流れると、塗料2は軸線L
5の方向に関してサイドシール19から離れるように(矢印Cの方向に)流れることになり、サイドシール19とグラビアロール5の表面5aとの間を通り抜けることはない。その結果、塗料2は、サイドシール18及び19とグラビアロール5の表面5aとのそれぞれの間から漏れることを防ぐことができる。
【0015】
このように、サイドシール19が接するグラビアロール5の表面5aには、グラビアロール5が回転するにともない凹部20内の塗料2が軸線L
5の方向に関してサイドシール18に向かって流れるように螺旋状に延びる凹部20が形成されていることにより、サイドシール19とグラビアロール5の表面5aとの間を塗料2が通り抜けることがないので、グラビアロール5が回転したときに塗料2が漏れるのを防ぐことができる。
【0016】
この実施の形態では、第1凹部部分21における凹部20とサイドシール18からサイドシール19に向かう方向のグラビアロール5の軸線L
5とのなす角度θ
1が45°であったが、この角度に限定するものではなく、20°〜80°の範囲であればよい。この角度が20°未満の場合は、鋼鈑13の塗装表面に横スジが発生して外観不良となり、この角度が80°を超えると、鋼鈑13の塗装表面に縦スジが発生して外観不良となることが確認された。また、第2凹部部分22における凹部20とサイドシール18からサイドシール19に向かう方向のグラビアロール5の軸線L
5とのなす角度θ
2が135°であったが、この角度に限定するものではなく、100°〜160°の範囲であればよい。この角度が90°以上〜100°未満の場合、塗料の流動性が低いため、一度入り込んだ塗料が固着する可能性があり、好ましくない。また、この角度が160°を超える場合、塗料をチャンバー内に戻すための流動性が低いため、サイドシール19とグラビアロール5の表面5aとの間から塗料が漏れる場合があり、好ましくない。
【0017】
この実施の形態では、グラビアロール5の表面5aに第1凹部部分21及び第2凹部部分22を形成したものであったが、この形態に限定するものではない。
図4に示されるように、グラビアロール5を、第1本体部31の端部に第2本体部32を取り外し可能に取り付けて構成し、第1本体部31の表面31aに第1凹部部分21を形成し、第2本体部32の表面32aに第2凹部部分22を形成してもよい。これにより、塗料2の特性に応じて、第1凹部部分21及び第2凹部部分22のそれぞれの形状の組み合わせを変えることができる。
【0018】
さらに、
図5に示されるように、グラビアロール5を、第1本体部31と、第2本体部32と、これらの間に設けられる第3本体部33とから構成してもよい。
図5では、第3本体部33の表面33aには、第1凹部部分21が形成されているが、第2凹部部分22が形成されてもよい。また、
図5では、第3本体部33の左端に第1本体部31が取り外し可能に取り付けられるとともに第3本体部33の右端に第2本体部32が取り外し可能に取り付けられているが、左端に第2本体部32を取り付け、右端に第1本体部31を取り付けてもよい。第1本体部31及び第2本体部32を後者のように取り付ける必要があるのは、グラビアロール5の回転方向が実施の形態と反対方向の場合である。この場合、サイドシール18(
図2参照)とグラビアロール5の表面5aとの間から塗料2が漏れる可能性があるので、第2凹部部分22が形成された表面5aにサイドシール18が接するように、第1本体部31と第2本体部32と第3本体部33とを組み立てる必要がある。尚、この場合には、実施の形態とは異なり、サイドシール19が第1サイドシールとなり、サイドシール18が第2サイドシールとなる。
【0019】
この実施の形態では、貯留室3内に貯留される液体成分は塗料2であったが、これに限定するものではなく、特許文献1のようなインクや、接着剤等であってもよい。すなわち、液体状(ペースト状も含む)の物質であればどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 塗料付与装置(液体成分付与装置)、2 塗料(液体成分)、3 貯留室、4 ドクターチャンバー、5 グラビアロール、5a (グラビアロールの)表面、18,19 サイドシール(第1サイドシール,第2サイドシール)、20 凹部、21 第1凹部部分、22 第2凹部部分、31 第1本体部、32 第2本体部、33 第3本体部、L
5 (グラビアロールの)軸線。