(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一の弾性波フィルタの前記アンテナ素子に近い方の端子に前記第1インダクタンス素子が接続されることで、前記一の弾性波フィルタの自帯域以外の帯域のインピーダンスは、誘導性となる、
請求項1または2に記載のマルチプレクサ。
前記複数の弾性波フィルタのうち前記一の弾性波フィルタとのアイソレーションが必要な前記他の弾性波フィルタは、前記アンテナ素子に近い方の端子と反対側の端子に、直列または並列に第2インダクタンス素子を有している、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
前記第1インダクタンス素子と前記一の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子とが直列接続された状態で、前記第1インダクタンス素子を介して前記一の弾性波フィルタ単体を見た場合の、所定の通過帯域における複素インピーダンスと、前記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子が前記共通端子と接続された状態で、前記共通端子と接続された前記アンテナ素子に近い方の端子側から前記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタを見た場合の、前記所定の通過帯域における複素インピーダンスとは、複素共役の関係にある、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のマルチプレクサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、送信側の弾性表面波フィルタの送信端子をPA(Power Amplifier)、受信側の弾性表面波フィルタの受信端子をLNA(Low Noise Amplifier)に接続する際、インピーダンス整合を行うための整合素子の数を低減するために、送信側の弾性表面波フィルタの送信端子および受信側の弾性表面波フィルタの受信端子側の特性インピーダンスを、それぞれPAおよびLNAに合わせて設計することがある。しかし、送信側弾性表面波フィルタおよび受信側弾性表面波フィルタのアンテナ側の端子の特性インピーダンスは50Ωであるため、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とでは特性インピーダンスが異なる場合がある。この場合、特許文献1に記載の弾性表面波装置およびインピーダンス整合方法では、各端子について十分にインピーダンスを整合することができず、挿入損失が増加するという課題が生じている。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なる場合であっても、各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができるマルチプレクサ、送信装置および受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るマルチプレクサは、アンテナ素子を介して複数の高周波信号を送受信するマルチプレクサであって、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタと、前記アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に少なくとも1つの第1回路素子が接続されており、かつ、前記接続経路に少なくとも1つの第2回路素子が直列に接続されている共通端子と、第1インダクタンス素子とを備え、前記複数の弾性波フィルタのそれぞれは、入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、前記入力端子と前記出力端子とを接続する接続経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備え、前記複数の弾性波フィルタのうち、一の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子は、当該端子および前記共通端子に接続された前記第1インダクタンス素子を介して前記共通端子に接続され、かつ、前記並列共振子と接続され、前記複数の弾性波フィルタのうち、前記一の弾性波フィルタ以外の他の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子は、前記共通端子に接続され、かつ、前記直列共振子と接続されている。
【0008】
この構成によれば、第1回路素子および第2回路素子の種類、特性、接続位置および組み合わせ等により、インピーダンス整合の自由度を向上することができる。これにより、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なる場合であっても、各端子について十分にインピーダンスを整合することができる。したがって、マルチプレクサを構成する各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。よって、各弾性波フィルタとPAまたはLNAとの間にマッチング素子を設ける必要はなく、簡便な構成の高周波回路を実現することができる。
【0009】
また、前記一の弾性波フィルタの前記アンテナ素子に近い方の端子に前記第1インダクタンス素子が接続されることで、前記一の弾性波フィルタの自帯域以外の帯域のインピーダンスは、誘導性となってもよい。
【0010】
これにより、複素共役の関係を利用して、複素インピーダンスを特性インピーダンスに容易に調整することができる。よって、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なる場合であっても、各端子について十分にインピーダンスを整合することができる。したがって、マルチプレクサを構成する各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
【0011】
また、前記共通端子に最も近い側に接続された前記第1回路素子または前記第2回路素子は、インダクタンス素子であってもよい。
【0012】
これにより、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、かつ、スミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第3象限または第4象限にある場合に、各端子について十分に特性インピーダンスを整合することができる。したがって、特に、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω未満であってかつスミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第3象限または第4象限にある場合に、マルチプレクサを構成する各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
【0013】
また、前記第1回路素子は、インダクタンス素子であり、前記第2回路素子は、キャパシタンス素子であってもよい。
【0014】
これにより、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、かつ、スミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第4象限にある場合に、各端子について十分に特性インピーダンスを整合することができる。したがって、特に、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω未満であってかつスミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第4象限にある場合に、マルチプレクサを構成する各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
【0015】
また、前記第1回路素子は、キャパシタンス素子であり、前記第2回路素子は、インダクタンス素子であってもよい。
【0016】
これにより、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、かつ、スミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第3象限にある場合、および、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω以上であって、かつ、スミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第3象限または第4象限にある場合に、各端子について十分に特性インピーダンスを整合することができる。したがって、特に、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、かつ、スミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第3象限にある場合、および、共通端子側からみたときの特性インピーダンスの実部が50Ω以上であって、かつ、スミスチャートにおいてマルチプレクサの通過帯域における特性インピーダンスが第3象限または第4象限にある場合に、マルチプレクサを構成する各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
【0017】
また、前記複数の弾性フィルタの前記入力端子および前記出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子と反対側の端子の特性インピーダンスは、それぞれ異なっていてもよい。
【0018】
これにより、マルチプレクサを構成する各弾性波フィルタの特性インピーダンスをそれぞれ調整することができるので、各弾性波フィルタの特性インピーダンスの通過帯域内の挿入損失をそれぞれ適切に低減することができる。
【0019】
また、前記複数の弾性波フィルタのうち前記一の弾性波フィルタとのアイソレーションが必要な前記他の弾性波フィルタは、前記アンテナ素子に近い方の端子と反対側の端子に、直列または並列に第2インダクタンス素子を有していてもよい。
【0020】
これにより、第2インダクタンス素子と他のインダクタンス素子との結合を利用することで、第2インダクタンス素子が設けられた弾性波フィルタのアイソレーションを大きくすることができる。
【0021】
また、前記第1インダクタンス素子と前記一の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子とが直列接続された状態で、前記第1インダクタンス素子を介して前記一の弾性波フィルタ単体を見た場合の、所定の通過帯域における複素インピーダンスと、前記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子が前記共通端子と接続された状態で、前記共通端子と接続された前記アンテナ素子に近い方の端子側から前記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタを見た場合の、前記所定の通過帯域における複素インピーダンスとは、複素共役の関係にあってもよい。
【0022】
これにより、第1インダクタンス素子と一の弾性波フィルタとが直列接続された回路と、当該一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタが共通端子で並列接続された回路とが合成された回路を有するマルチプレクサの共通端子から見た複素インピーダンスを、通過帯域内の低損失性を確保しつつ特性インピーダンスと整合させることが可能となる。また、共通端子とアンテナ素子との間に第1インダクタンス素子を直列接続することにより、共通端子から見たマルチプレクサの複素インピーダンスを誘導性側方向へと微調整することが可能となる。
【0023】
また、前記複数の弾性表面波フィルタのそれぞれを構成する圧電基板は、IDT(InterDigital Transducer)電極が一方面上に形成された圧電膜と、前記圧電膜を伝搬する弾性波音速よりも、伝搬するバルク波音速が高速である高音速支持基板と、前記高音速支持基板と前記圧電膜との間に配置され、前記圧電膜を伝搬するバルク波音速よりも、伝搬するバルク波音速が低速である低音速膜とを備えてもよい。
【0024】
一の弾性波フィルタの共通端子側に第1インダクタンス素子が直列接続された場合など、複数の弾性波フィルタ間でのインピーダンス整合をとるため、インダクタンス素子やキャパシタンス素子などの回路素子が付加される。この場合、各共振子のQ値が等価的に小さくなる場合が想定される。しかしながら、本圧電基板の積層構造によれば、各共振子のQ値を高い値に維持できる。よって、帯域内の低損失性を有する弾性波フィルタを形成することが可能となる。
【0025】
また、前記マルチプレクサは、前記複数の弾性波フィルタとして、第1の通過帯域を有し、前記アンテナ素子へ送信信号を出力する第1の前記弾性波フィルタと、前記第1の通過帯域に隣接する第2の通過帯域を有し、前記アンテナ素子から受信信号を入力する第2の前記弾性波フィルタと、前記第1の通過帯域および前記第2の通過帯域より低周波側にある第3の通過帯域を有し、前記アンテナ素子へ送信信号を出力する第3の前記弾性波フィルタと、前記第1の通過帯域および前記第2の通過帯域より高周波側にある第4の通過帯域を有し、前記アンテナ素子から受信信号を入力する第4の前記弾性波フィルタとを備え、前記第1インダクタンス素子が直列接続された前記一の弾性波フィルタは、前記第2の前記弾性波フィルタおよび前記第4の前記弾性波フィルタの少なくとも一方であってもよい。
【0026】
また、本発明の一態様に係る送信装置は、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を入力し、当該複数の高周波信号をフィルタリングして共通のアンテナ素子から無線送信させる送信装置であって、送信回路から前記複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の送信用弾性波フィルタと、前記アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に少なくとも1つの第1回路素子が接続されており、かつ、前記接続経路に少なくとも1つの第2回路素子が直列に接続されている共通端子とを備え、前記複数の送信用弾性波フィルタのそれぞれは、入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、前記入力端子と前記出力端子とを接続する接続経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備え、前記複数の送信用弾性波フィルタのうち、一の送信用弾性波フィルタの出力端子は、当該出力端子および前記共通端子に接続されたインダクタンス素子を介して前記共通端子に接続され、かつ、前記並列共振子と接続され、前記一の送信用弾性波フィルタ以外の送信用弾性波フィルタの出力端子は、前記共通端子に接続され、かつ、前記直列共振子および前記並列共振子のうち前記直列共振子と接続されている。
【0027】
また、本発明の一態様に係る受信装置は、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を、アンテナ素子を介して入力し、当該複数の高周波信号を分波して受信回路へ出力する受信装置であって、前記アンテナ素子から前記複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の受信用弾性波フィルタと、前記アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に少なくとも1つの第1回路素子が接続されており、かつ、前記接続経路に少なくとも1つの第2回路素子が直列に接続されている共通端子とを備え、前記複数の受信用弾性波フィルタのそれぞれは、入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、前記入力端子と前記出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備え、前記複数の受信用弾性波フィルタのうち、一の受信用弾性波フィルタの入力端子は、当該入力端子および前記共通端子に接続されたインダクタンス素子を介して前記共通端子に接続され、かつ、前記並列共振子と接続され、前記一の受信用弾性波フィルタ以外の受信用弾性波フィルタの入力端子は、前記共通端子に接続され、かつ、前記直列共振子および前記並列共振子のうち前記直列共振子と接続されている。
【0028】
また、本発明の一態様に係るマルチプレクサのインピーダンス整合方法は、アンテナ素子を介して複数の高周波信号を送受信するマルチプレクサのインピーダンス整合方法であって、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタのうち、一の弾性波フィルタの入力端子および出力端子の一方から、当該一の弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがショート状態となり、前記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタの入力端子および出力端子の一方から、当該弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがオープン状態となるよう、前記複数の弾性波フィルタを調整するステップと、前記一の弾性波フィルタにフィルタ整合用インダクタンス素子が直列接続された場合の、前記フィルタ整合用インダクタンス素子側から前記一の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスと、前記一の弾性波フィルタ以外の他の弾性波フィルタが共通端子に並列接続された場合の、前記共通端子側から前記他の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスとが、複素共役の関係となるように、前記フィルタ整合用インダクタンス素子のインダクタンス値を調整するステップと、前記フィルタ整合用インダクタンス素子を介して前記一の弾性波フィルタが前記共通端子と接続され、かつ、前記共通端子に前記他の弾性波フィルタが並列接続された合成回路の、前記共通端子から見た複素インピーダンスが特性インピーダンスと一致するよう、前記アンテナ素子と前記共通端子との接続経路と基準端子との間に接続される少なくとも1つの第1回路素子、および、前記アンテナ素子と前記共通端子との接続経路に直列に接続される少なくとも1つの第2回路素子とを調整するステップとを含み、前記複数の弾性波フィルタを調整するステップでは、入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、前記入力端子と前記出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを有する前記複数の弾性波フィルタのうち、前記一の弾性波フィルタにおいて、前記並列共振子が前記フィルタ整合用インダクタンス素子と接続されるよう前記並列共振子および前記直列共振子を配置し、前記他の弾性波フィルタにおいて、前記並列共振子および前記直列共振子のうち前記直列共振子が前記共通端子と接続されるよう、前記並列共振子および前記直列共振子を配置する。
【0029】
これにより、第1回路素子および第2回路素子の種類、特性、接続位置および組み合わせ等により、インピーダンス整合の自由度を向上することができる。よって、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なる場合であっても、各端子について十分にインピーダンスを整合することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るマルチプレクサ、送信装置および受信装置によれば、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なる場合であっても、各弾性波フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、実施の形態および図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0033】
(実施の形態1)
[1.マルチプレクサの基本構成]
実施の形態1では、TD−LTE(Time Division Long Term Evolution)規格のBand25(送信通過帯域:1850−1915MHz、受信通過帯域:1930−1995MHz)およびBand66(送信通過帯域:1710−1780MHz、受信通過帯域:2010−2200MHz)に適用されるクワッドプレクサについて例示する。
【0034】
本実施の形態に係るマルチプレクサ1は、Band25用デュプレクサとBand66用デュプレクサとが共通端子50で接続されたクワッドプレクサである。
【0035】
図1は、実施の形態に係るマルチプレクサ1の回路構成図である。同図に示すように、マルチプレクサ1は、送信側フィルタ11および13と、受信側フィルタ12および14と、インダクタンス素子21と、共通端子50と、送信入力端子10および30と、受信出力端子20および40とを備える。また、マルチプレクサ1は、共通端子50においてアンテナ素子2に接続されている。共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と、基準端子であるグランドとの間には、インダクタンス素子31が接続されている。共通端子50とアンテナ素子2との接続経路には、キャパシタンス素子32が直列に接続されている。インダクタンス素子31は、キャパシタンス素子32よりも共通端子50側に接続されている。
【0036】
なお、本実施の形態において、インダクタンス素子31は第1回路素子、キャパシタンス素子32は第2回路素子、インダクタンス素子21は第1インダクタンス素子に相当する。また、インダクタンス素子31およびキャパシタンス素子32は、マルチプレクサ1に含めた構成としてもよいし、マルチプレクサ1に外付けされた構成であってもよい。また、キャパシタンス素子32は、インダクタンス素子31よりも共通端子50側に接続された構成としてもよい。
【0037】
送信側フィルタ11は、送信回路(RFICなど)で生成された送信波を、送信入力端子10を経由して入力し、当該送信波をBand25の送信通過帯域(1850−1915MHz:第1の通過帯域)でフィルタリングして共通端子50へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第1の弾性波フィルタ)である。
【0038】
受信側フィルタ12は、共通端子50から入力された受信波を入力し、当該受信波をBand25の受信通過帯域(1930−1995MHz:第2の通過帯域)でフィルタリングして受信出力端子20へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第2の弾性波フィルタ)である。また、受信側フィルタ12と共通端子50との間には、インダクタンス素子21が直列接続されている。インダクタンス素子21が受信側フィルタ12の共通端子50側に接続されることにより、受信側フィルタ12の通過帯域外の帯域を通過帯域とする送信側フィルタ11、13および受信側フィルタ14のインピーダンスは誘導性となる。
【0039】
送信側フィルタ13は、送信回路(RFICなど)で生成された送信波を、送信入力端子30を経由して入力し、当該送信波をBand66の送信通過帯域(1710−1780MHz:第3の通過帯域)でフィルタリングして共通端子50へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第3の弾性波フィルタ)である。
【0040】
受信側フィルタ14は、共通端子50から入力された受信波を入力し、当該受信波をBand66の受信通過帯域(2010−2200MHz:第4の通過帯域)でフィルタリングして受信出力端子40へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第4の弾性波フィルタ)である。
【0041】
送信側フィルタ11および13、ならびに、受信側フィルタ14は、共通端子50に直接接続されている。
【0042】
なお、インダクタンス素子21は、受信側フィルタ12と共通端子50との間に限らず、受信側フィルタ14と共通端子50との間に直列接続されていてもよい。
【0043】
[2.弾性表面波共振子の構造]
ここで、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する弾性表面波共振子の構造について説明する。
【0044】
図2は、実施の形態に係る弾性表面波フィルタの共振子を模式的に表す概略図であり、(a)は平面図、(b)および(c)は(a)に示した一点鎖線における断面図である。
図2には、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する複数の共振子のうち、送信側フィルタ11の直列共振子の構造を表す平面摸式図および断面模式図が例示されている。なお、
図2に示された直列共振子は、上記複数の共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数や長さなどは、これに限定されない。
【0045】
送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する共振子100は、圧電基板5と、櫛形形状を有するIDT(InterDigital Transducer)電極101aおよび101bとで構成されている。
【0046】
図2の(a)に示すように、圧電基板5の上には、互いに対向する一対のIDT電極101aおよび101bが形成されている。IDT電極101aは、互いに平行な複数の電極指110aと、複数の電極指110aを接続するバスバー電極111aとで構成されている。また、IDT電極101bは、互いに平行な複数の電極指110bと、複数の電極指110bを接続するバスバー電極111bとで構成されている。複数の電極指110aおよび110bは、X軸方向と直交する方向に沿って形成されている。
【0047】
また、複数の電極指110aおよび110b、ならびに、バスバー電極111aおよび111bで構成されるIDT電極54は、
図2の(b)に示すように、密着層541と主電極層542との積層構造となっている。
【0048】
密着層541は、圧電基板5と主電極層542との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。密着層541の膜厚は、例えば、12nmである。
【0049】
主電極層542は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。主電極層542の膜厚は、例えば162nmである。
【0050】
保護層55は、IDT電極101aおよび101bを覆うように形成されている。保護層55は、主電極層542を外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜である。保護層55の厚さは、例えば25nmである。
【0051】
なお、密着層541、主電極層542および保護層55を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、IDT電極54は、上記積層構造でなくてもよい。IDT電極54は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属又は合金から構成されてもよく、また、上記の金属又は合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、保護層55は、形成されていなくてもよい。
【0052】
次に、圧電基板5の積層構造について説明する。
【0053】
図2の(c)に示すように、圧電基板5は、高音速支持基板51と、低音速膜52と、圧電膜53とを備え、高音速支持基板51、低音速膜52および圧電膜53がこの順で積層された構造を有している。
【0054】
圧電膜53は、50°YカットX伝搬LiTaO
3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸から50°回転した軸を法線とする面で切断したタンタル酸リチウム単結晶、またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる。圧電膜53は、例えば、厚みが600nmである。なお、送信側フィルタ13および受信側フィルタ14については、42〜45°YカットX伝搬LiTaO
3圧電単結晶、または圧電セラミックスからなる圧電膜53が用いられる。
【0055】
高音速支持基板51は、低音速膜52、圧電膜53ならびにIDT電極54を支持する基板である。高音速支持基板51は、さらに、圧電膜53を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、高音速支持基板51中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電膜53および低音速膜52が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板51より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板51は、例えば、シリコン基板であり、厚みは、例えば200μmである。
【0056】
低音速膜52は、圧電膜53を伝搬するバルク波よりも、低音速膜52中のバルク波の音速が低速となる膜であり、圧電膜53と高音速支持基板51との間に配置される。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーのIDT電極外への漏れが抑制される。低音速膜52は、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜であり、厚みは、例えば670nmである。
【0057】
圧電基板5の上記積層構造によれば、圧電基板を単層で使用している従来の構造と比較して、共振周波数および反共振周波数におけるQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性表面波共振子を構成し得るので、当該弾性表面波共振子を用いて、挿入損失が小さいフィルタを構成することが可能となる。
【0058】
また、受信側フィルタ12の共通端子50側にインピーダンス整合用のインダクタンス素子21が直列接続された場合など、複数の弾性表面波フィルタ間でのインピーダンス整合をとるため、インダクタンス素子やキャパシタンス素子などの回路素子が付加される。これにより、共振子100のQ値が等価的に小さくなる場合が想定される。しかしながら、このような場合であっても、圧電基板5の上記積層構造によれば、共振子100のQ値を高い値に維持できる。よって、帯域内の低損失性を有する弾性表面波フィルタを形成することが可能となる。
【0059】
なお、高音速支持基板51は、支持基板と、圧電膜53を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、伝搬するバルク波の音速が高速となる高音速膜とが積層された構造を有していてもよい。この場合、支持基板
は、リチウムタンタレート、リチウムニオベイト、水晶等の圧電体、
サファイア、アルミナ、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト等の各種セラミック、ガラス等の誘電体またはシリコン、窒化ガリウム等の半導体及び樹脂基板等を用いることができる。また、高音速膜は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、DLC膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする媒質、上記材料の混合物を主成分とする媒質等、様々な高音速材料を用いることができる。
【0060】
なお、
図2の(a)および(b)において、λはIDT電極101aおよび101bを構成する複数の電極指110aおよび110bの繰り返しピッチ、LはIDT電極101aおよび101bの交叉幅、Wは電極指110aおよび110bの幅、Sは電極指110aと電極指110bとの間の幅、hはIDT電極101aおよび101bの高さを示している。
【0061】
[3.各フィルタおよびインダクタンス素子の構成]
[3−1.送信側フィルタの回路構成]
以下、
図3A〜
図3D、
図4を用いて、各フィルタの回路構成について説明する。
【0062】
図3Aは、実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand25の送信側フィルタ11の回路構成図である。
図3Aに示すように、送信側フィルタ11は、直列共振子102〜105と、並列共振子151〜154と、整合用のインダクタンス素子141、161および162とを備える。
【0063】
直列共振子102〜105は、送信入力端子10と送信出力端子61との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子151〜154は、送信入力端子10、送信出力端子61および直列共振子102〜105の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子102〜105および並列共振子151〜154の上記接続構成により、送信側フィルタ11は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。
【0064】
インダクタンス素子141は、送信入力端子10と直列共振子102との間、かつ、送信入力端子10と並列共振子151との間に直列接続されている。インダクタンス素子141は第2インダクタンス素子であり、後述するインダクタンス素子21を接続した受信側フィルタ12とのアイソレーションが必要な送信側フィルタ11は、アンテナ素子2に接続される共通端子50とは反対側の送信入力端子10に直列にインダクタンス素子141を有している。なお、インダクタンス素子141は、送信入力端子10と直列共振子102との接続経路と基準端子との間に接続されていてもよい。インダクタンス素子141を有することにより、インダクタンス素子141と他のインダクタンス素子161、162との結合を利用することで、送信側フィルタ11のアイソレーションを大きくすることができる。
【0065】
また、インダクタンス素子161は、並列共振子152、153および154の接続点と基準端子との間に接続されている。インダクタンス素子162は、並列共振子151と基準端子との間に接続されている。
【0066】
送信出力端子61は、共通端子50(
図1参照)に接続されている。また、送信出力端子61は、直列共振子105に接続されており、並列共振子151〜154のいずれにも直接接続されていない。
【0067】
図3Cは、実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand66の送信側フィルタ13の回路構成図である。
図3Cに示すように、送信側フィルタ13は、直列共振子301〜304と、並列共振子351〜354と、整合用のインダクタンス素子361〜363とを備える。
【0068】
直列共振子301〜304は、送信入力端子30と送信出力端子63との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子351〜354は、送信入力端子30、送信出力端子63および直列共振子301〜304の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子301〜304および並列共振子351〜354の上記接続構成により、送信側フィルタ13は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。また、インダクタンス素子361は、並列共振子351および352の接続点と基準端子との間に接続されている。インダクタンス素子362は、並列共振子353と基準端子との間に接続されている。インダクタンス素子363は、送信入力端子
30と直列共振子301との間に接続されている。インダクタンス素子363は、上述した送信側フィルタ11におけるインダクタンス素子141と同様、第2インダクタンス素子である。インダクタンス素子363は、送信入力端子30と直列共振子301との接続経路と基準端子との間に接続されていてもよい。
【0069】
送信出力端子63は、共通端子50(
図1参照)に接続されている。また、送信出力端子63は、直列共振子304に接続されており、並列共振子351〜354のいずれにも直接接続されていない。
【0070】
なお、送信入力端子10および30には、例えばPA(図示せず)が接続される。送信入力端子10および30の特性インピーダンスは、接続されるPAの特性に応じて異なっていてもよい。
【0071】
[3−2.受信側フィルタの回路構成]
図3Bは、実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand25の受信側フィルタ12の回路構成図である。
図3Bに示すように、受信側フィルタ12は、例えば、縦結合型の弾性表面波フィルタ部を含む。より具体的には、受信側フィルタ12は、縦結合型フィルタ部203と、直列共振子201と、並列共振子251〜253とを備える。
【0072】
図4は、実施の形態に係る縦結合型フィルタ部203の電極構成を示す概略平面図である。同図に示すように、縦結合型フィルタ部203は、IDT211〜219と、反射器220および221と、入力ポート230および出力ポート240とを備える。
【0073】
IDT211〜
215は、それぞれ、互いに対向する一対のIDT電極で構成されている。IDT
212および
214は、IDT
213をX軸方向に挟み込むように配置され、IDT
211および
215は、IDT
212〜
214をX軸方向に挟み込むように配置されてい
る。反射器220および221は、IDT211〜
215をX軸方向に挟み込むように配置されている。また、IDT211、213、21
5は、入力ポート230と基準端子(グランド)との間に並列接続され、IDT212、21
4は、出力ポート240と基準端子との間に並列接続されている。
【0074】
また、
図3Bに示すように、直列共振子201、ならびに、並列共振子251および252は、ラダー型フィルタ部を構成している。
【0075】
受信入力端子62は、インダクタンス素子21(
図1参照)を介して共通端子50(
図1参照)に接続されている。また、
図3Bに示すように、受信入力端子62は、並列共振子251に接続されている。
【0076】
図3Dは、実施の形態に係るマルチプレクサ1を構成するBand66の受信側フィルタ14の回路構成図である。
図3Dに示すように、受信側フィルタ14は、直列共振子401〜405と、並列共振子451〜454と、整合用のインダクタンス素子461とを備える。
【0077】
直列共振子401〜405は、受信出力端子40と受信入力端子64との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子451〜454は、受信出力端子40、受信入力端子64および直列共振子401〜405の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子401〜405および並列共振子451〜454の上記接続構成により、受信側フィルタ14は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。また、インダクタンス素子461は、並列共振子
451、452および453の接続点と基準端子との間に接続されている。
【0078】
受信入力端子64は、共通端子50(
図1参照)に接続されている。また、
図3Dに示すように、受信入力端子64は、直列共振子
405に接続されており、並列共振子
454には直接接続されていない。
【0079】
なお、受信出力端子20および40には、例えばLNA(図示せず)が接続される。受信出力端子20および40の特性インピーダンスは、接続されるLNAの特性に応じて異なっていてもよい。また、受信出力端子20および40並びに送信入力端子10および30の特性インピーダンスは、それぞれ異なっていてもよい。
【0080】
また、本実施の形態に係るマルチプレクサ1が備える弾性表面波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成は、上記実施の形態に係る送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14で例示した配置構成に限定されない。上記弾性表面波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成は、各周波数帯域(Band)における通過特性の要求仕様により異なる。上記配置構成とは、例えば、直列共振子および並列共振子の配置数であり、また、ラダー型および縦結合型などのフィルタ構成の選択である。
【0081】
本実施の形態に係るマルチプレクサ1が備える弾性波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成のうち、本発明の要部特徴は、(1)送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14のそれぞれは、直列共振子および並列共振子の少なくとも1つを備え、(2)一の弾性波フィルタである受信側フィルタ12の受信入力端子62は、インダクタンス素子21を介して共通端子50に接続され、かつ、並列共振子251と接続され、(3)受信側フィルタ12以外の弾性波フィルタである送信側フィルタ11、13の送信出力端子61および63ならびに受信側フィルタ14の受信入力端子64は、それぞれ共通端子50に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子105、304および405と接続されている、ことである。
【0082】
つまり、実施の形態に係るマルチプレクサ1は、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性表面波フィルタと、アンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続されておりかつアンテナ素子2との接続経路にキャパシタンス素子32が直列に接続されている共通端子50と、共通端子50と一の弾性波フィルタである受信側フィルタ12の受信入力端子62との間に直列に接続されたインダクタンス素子21とを備える。
【0083】
ここで、複数の弾性表面波フィルタのそれぞれは、圧電基板5(
図2参照)上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板5上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の弾性表面波フィルタのうち、受信側フィルタ12の受信入力端子62は、インダクタンス素子21を介して共通端子50に接続され、かつ、並列共振子251と接続される。一方、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の送信出力端子61および63ならびに受信入力端子64は、それぞれ、共通端子50に接続され、かつ、直列共振子105、304および
405と接続されており、並列共振子とは接続されていない。
【0084】
また、インダクタンス素子31は共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間に接続され、かつ、キャパシタンス素子32は共通端子50とアンテナ素子2との接続経路に直列に接続されている。インダクタンス素子31のインダクタンス値およびキャパシタンス素子32のキャパシタンス値を変更することにより、共通端子50から見たマルチプレクサ1の複素インピーダンスを、スミスチャートにおいて、容量性側または誘導性側、および、オープン側またはショート側の2つの方向に移動するように調整することができる。
【0085】
[4.弾性表面波フィルタの動作原理]
ここで、本実施の形態に係るラダー型の弾性表面波フィルタの動作原理について説明する。
【0086】
例えば、
図3Aに示された並列共振子151〜154は、それぞれ、共振特性において共振周波数frpおよび反共振周波数fap(>frp)を有している。また、直列共振子102〜105は、それぞれ、共振特性において共振周波数frsおよび反共振周波数fas(>frs>frp)を有している。なお、直列共振子102〜105の共振周波数frsは、略一致するように設計されるが、必ずしも一致していない。また、直列共振子102〜105の反共振周波数fas、並列共振子151〜154の共振周波数frp、および、並列共振子151〜154の反共振周波数fapについても同様であり、必ずしも一致していない。
【0087】
ラダー型の共振子によりバンドパスフィルタを構成するにあたり、並列共振子151〜154の反共振周波数fapと直列共振子102〜105の共振周波数frsとを近接させる。これにより、並列共振子151〜154のインピーダンスが0に近づく共振周波数frp近傍は、低域側阻止域となる。また、これより周波数が増加すると、反共振周波数fap近傍で並列共振子151〜154のインピーダンスが高くなり、かつ、共振周波数frs近傍で直列共振子102〜105のインピーダンスが0に近づく。これにより、反共振周波数fap〜共振周波数frsの近傍では、送信入力端子10から送信出力端子61への信号経路において信号通過域となる。さらに、周波数が高くなり、反共振周波数fas近傍になると、直列共振子102〜105のインピーダンスが高くなり、高周波側阻止域となる。つまり、直列共振子102〜105の反共振周波数fasを、信号通過域外のどこに設定するかにより、高周波側阻止域における減衰特性の急峻性が大きく影響する。
【0088】
送信側フィルタ11において、送信入力端子10から高周波信号が入力されると、送信入力端子10と基準端子との間で電位差が生じ、これにより、圧電基板5が歪むことでX方向に伝搬する弾性表面波が発生する。ここで、IDT電極101aおよび101bのピッチλと、通過帯域の波長とを略一致させておくことにより、通過させたい周波数成分を有する高周波信号のみが送信側フィルタ11を通過する。
【0089】
以下、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の高周波伝送特性およびインピーダンス特性について、比較例に係るマルチプレクサと比較しながら説明する。
【0090】
[5.マルチプレクサの高周波伝送特性]
以下、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の高周波伝送特性を、比較例に係るマルチプレクサの高周波伝送特性と比較しながら説明する。
【0091】
比較例に係るマルチプレクサの構成は、
図1に示した本実施の形態に係るマルチプレクサ1と比較して、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子であるグランドとの間にインダクタンス素子31が接続されておらず、当該接続経路に直列にキャパシタンス素子32が形成されていない構成である。比較例に係るマルチプレクサは、共通端子50とアンテナ素子2との間に直列にインダクタンス素子が接続された構成である。
【0092】
図5Aは、実施の形態および比較例に係るBand25の送信側フィルタ11の通過特性を比較したグラフである。
図5Bは、実施の形態および比較例に係るBand25の受信側フィルタ12の通過特性を比較したグラフである。
図5Cは、実施の形態および比較例に係るBand66の送信側フィルタ13の通過特性を比較したグラフである。
図5Dは、実施の形態および比較例に係るBand66の受信側フィルタ14の通過特性を比較したグラフである。
【0093】
図5A〜
図5Dより、Band25の送信側および受信側、ならびに、Band66の送信側および受信側において、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の通過帯域内の挿入損失が比較例にかかるマルチプレクサの通過帯域内の挿入損失よりも優れていることが解る。さらに、実施の形態に係るマルチプレクサ1では、Band25の送信側および受信側、ならびに、Band66の受信側の全ての周波数帯域において、通過帯域内の要求仕様(送信側挿入損失2.0dB以下、および、受信側挿入損失3.0dB以下)を満足していることが解る。
【0094】
一方、比較例に係るマルチプレクサでは、Band25の送信側および受信側において、通過帯域内の要求仕様を満足していないことが解る。
【0095】
以上のように、本実施の形態に係るマルチプレクサ1によれば、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、それらを構成する各フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
【0096】
以下、本実施の形態に係るマルチプレクサ1が通過帯域内の低損失性を実現できる理由を含め、マルチプレクサ1におけるインピーダンス整合について説明する。
【0097】
[6.マルチプレクサにおけるインピーダンス整合]
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ、実施の形態に係るBand25の送信側フィルタ11単体の送信出力端子61から見た複素インピーダンス、および、受信側フィルタ12単体の受信入力端子62から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。また、
図6Cおよび
図6Dは、それぞれ、実施の形態に係るBand66の送信側フィルタ13単体の送信出力端子63から見た複素インピーダンス、および、受信側フィルタ14単体の受信入力端子64から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
【0098】
実施の形態に係るマルチプレクサ1では、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14単体でのインピーダンス特性においては、通過帯域外の周波数領域における複素インピーダンスがオープン側に来るように設計される。具体的には、
図6Aにおける、インダクタンス素子21が接続されていない送信側フィルタ11の通過帯域外領域B
OUT11、
図6Cにおける、インダクタンス素子21が接続されていない送信側フィルタ13の通過帯域外領域B
OUT13、および、
図6Dにおける、インダクタンス素子21が接続されていない受信側フィルタ14の通過帯域外領域B
OUT14の複素インピーダンスを、略オープン側に配置している。これらの複素インピーダンス配置を実現するため、上記3つのフィルタの、共通端子50に接続される共振子を、並列共振子ではなく直列共振子としている。
【0099】
一方、インダクタンス素子21が接続されている受信側フィルタ12では、共通端子50に接続される共振子を、並列共振子としている。このため、
図6Bに示すように、受信側フィルタ
12の通過帯域外領域B
OUT12の複素インピーダンスを、略ショート側に配置している。通過帯域外領域B
OUT12をショート側に配置した目的については後述する。
【0100】
また、
図7は、実施の形態に係るBand25の受信側フィルタ12以外の全てのフィルタを共通端子50で並列接続した回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャート(左側)、および、実施の形態に係るBand25の受信側フィルタ12とインダクタンス素子21とが直列接続された回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャート(右側)である。
【0101】
図7に示すように、インダクタンス素子21と受信側フィルタ12の入力端子とが直列接続された状態で、インダクタンス素子21を介して受信側フィルタ12単体を見た場合の、所定の通過帯域における複素インピーダンスと、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の入力端子および出力端子のうちアンテナ素子2に近い方の端子が共通端子50と接続された状態で、共通端子50と接続された上記端子側から送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14を見た場合の、上記所定の通過帯域における複素インピーダンスとは、概ね複素共役に近い関係にあることが解る。つまり、上記2つの複素インピーダンスを合成すれば、インピーダンス整合がとれ、合成された回路の複素インピーダンスが特性インピーダンス付近に来ることとなる。
【0102】
なお、2つの回路の複素インピーダンスが複素共役の関係にあるとは、互いの複素インピーダンスの複素成分の正負が反転している関係を含み、複素成分の絶対値が等しい場合に限定されない。つまり、本実施の形態における複素共役の関係とは、一方の回路の複素インピーダンスが容量性(スミスチャートの下半円)に位置し、他方の回路の複素インピーダンスが誘導性(スミスチャートの上半円)に位置するような関係も含まれる。
【0103】
ここで、
図6Bに示したように、受信側フィルタ12の通過帯域外領域B
OUT12の複素インピーダンスを略ショート側に配置した目的は、通過帯域外領域B
OUT12(送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の通過帯域)の複素インピーダンスを、インダクタンス素子21により、上記複素共役の関係を有する位置にシフトさせるためである。なお、このときのインダクタンス素子21のインダクタンス値は、例えば、5.9nHである。
【0104】
仮に、受信側フィルタ12の通過帯域外領域B
OUT12がオープン側に位置する場合には、より大きなインダクタンス値を有するインダクタンス素子21により、通過帯域外領域B
OUT12を上記複素共役の関係を有する位置にシフトさせなければならない。インダクタンス素子21は、受信側フィルタ12に直列接続されているので、インダクタンス値が大きければ大きいほど受信側フィルタ12の通過帯域内の挿入損失が悪化してしまう。そこで、実施の形態に係る受信側フィルタ12のように、並列共振子251を利用して通過帯域外領域B
OUT12の複素インピーダンスをショート側に配置させることにより、インダクタンス素子21のインダクタンス値を小さくできるので、通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
【0105】
図8Aは、実施の形態に係るマルチプレクサ1を共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。つまり、
図8Aに示された複素インピーダンスは、
図7に示された2つの回路を合成したマルチプレクサの共通端子50から見た複素インピーダンスを表している。
図7に示された2つの回路の複素インピーダンスを、互いに複素共役となる関係に配置したことにより、合成された回路の複素インピーダンスは、4つの通過帯域において特性インピーダンスに接近したものとなっており、インピーダンス整合が実現されている。
【0106】
図8Bは、実施の形態に係るマルチプレクサ1の共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続し、かつ、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路に直列にキャパシタンス素子32を接続した場合の、アンテナ素子2側から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
図8Aに示されたように、互いに複素共役となる関係に配置された2つの回路を合成した回路では、複素インピーダンスが特性インピーダンスから容量性側かつオープン側へずれている。
【0107】
これに対して、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続し、かつ、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路にキャパシタンス素子32を直列に接続することにより、共通端子50から見たマルチプレクサ1の複素インピーダンスを誘導性側かつショート側へと調整する。なお、このときのインダクタンス素子31のインダクタンス値は、例えば7.0nH、キャパシタンス素子32のキャパシタンス値は2.5pFである。
【0108】
これにより、送信側フィルタ11および13並びに受信側フィルタ12および14において、それぞれの入力端子と出力端子のうちアンテナ素子2に近い方と反対側の端子の特性インピーダンスを、接続されるPAやLNAに合わせて調整することができる。したがって、送信側フィルタ11および13並びに受信側フィルタ12および14の設計を複雑化することなく、容易にアンテナ端子におけるインピーダンス整合をとることができる。
【0109】
[7.まとめ]
以上、実施の形態に係るマルチプレクサ1は、(1)受信側フィルタ12と共通端子50との間にインダクタンス素子21が直列接続されており、(2)共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続されており、かつ、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路にキャパシタンス素子32が直列に接続されており、(3)受信側フィルタ12の受信入力端子62には並列共振子251が接続されており、(4)送信側フィルタ11の送信出力端子61、送信側フィルタ13の送信出力端子63および受信側フィルタ14の受信入力端子64にはそれぞれ直列共振子105、304、405が接続されている。
【0110】
これによれば、インダクタンス素子21と受信側フィルタ12とが直列接続された回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスと、受信側フィルタ12以外の全てのフィルタを共通端子50で並列接続した回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスとを、複素共役の関係にすることができる。これにより、上記2つの回路が合成された回路を有するマルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスを、通過帯域内の低損失性を確保しつつ容易に特性インピーダンスと整合させることが可能となる。また、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31を接続し、かつ、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路にキャパシタンス素子32を直列に接続することにより、マルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスを、スミスチャートにおいて2つの方向に移動させることができる。例えば、上述したように、マルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスを、誘導性側かつショート側へと調整することが可能となる。したがって、送信側フィルタ11および13並びに受信側フィルタ12および14の設計を複雑化することなく、容易にアンテナ端子におけるインピーダンス整合をとることができる。
【0111】
なお、本実施の形態では、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路にキャパシタンス素子32を直列に接続する構成を示したが、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間に接続される回路素子、および、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路に直列に接続される回路素子は、インダクタンス素子およびキャパシタンス素子をどのように組み合わせてもよい。また、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間に接続される回路素子、および、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路に直列に接続される回路素子は、それぞれ少なくとも1つずつ設けられていればよく、2つ以上設けられていてもよい。
【0112】
(実施の形態2)
実施の形態2に係るマルチプレクサ1が実施の形態1に示したマルチプレクサ1と異なる点は、共通端子50とアンテナ素子2との間に接続される回路素子の種類および接続位置が異なる点である。
【0113】
図9は、本実施の形態に係るマルチプレクサ1の一例を示す回路構成図である。
図9に示すマルチプレクサ1は、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路に直列にインダクタンス素子33が接続され、かつ、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間にキャパシタンス素子34が接続されている。インダクタンス素子33は、キャパシタンス素子34よりも共通端子50側に接続されている。
【0114】
ここで、共通端子50とアンテナ素子2との間に接続される素子の種類および接続位置の最適な組み合わせについて説明する。
図10は、本実施の形態に係るマルチプレクサ1において、共通端子50から見た複素インピーダンスと、共通端子50とアンテナ素子2との間に接続される回路素子の種類および接続位置との関係を説明するための図である。
図11A〜
図11Dは、本実施の形態に係るマルチプレクサにおいて、共通端子とアンテナ素子との間に接続される回路素子の種類および接続位置の一例を示す図である。なお
図11A〜
図11Dでは、アンテナ素子2の接続端子を端子2aとして示している。
【0115】
共通端子50とアンテナ素子2の端子2aとの間に接続される回路素子の種類および接続位置の最適な組み合わせは、共通端子50からみたマルチプレクサ1の特性インピーダンスの実部の値と、マルチプレクサ1の高周波通過帯域における特性インピーダンスがスミスチャートにおいてどの象限に位置するかとにより異なる。
【0116】
マルチプレクサ1の特性インピーダンスの実部が50Ω以上である場合には、マルチプレクサ1の通過帯域における特性インピーダンスが
図10に示すスミスチャートにおいて第3象限および第4象限のいずれにある場合であっても、
図11Aに示すインダクタンス素子33およびキャパシタンス素子34の組み合わせが有効である。つまり、
図11Aに示すように、マルチプレクサ1の共通端子50(
図9参照)と端子2aとの接続経路に直列にインダクタンス素子33が接続され、インダクタンス素子33と共通端子50との接続経路と基準端子との間にキャパシタンス素子34が接続されている構成である。
【0117】
この構成により、共通端子から見たマルチプレクサの複素インピーダンスを、通過帯域内の低損失性を確保しつつ特性インピーダンスと整合させることが可能となる。
【0118】
また、マルチプレクサ1の特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、マルチプレクサ1の高周波通過帯域における特性インピーダンスが
図10に示すスミスチャートにおいて第3象限にある場合には、
図11Bに示すインダクタンス素子33およびキャパシタンス素子34の組み合わせが有効である。
【0119】
つまり、
図11Bに示すように、マルチプレクサ1の共通端子50(
図9参照)と端子2aとの接続経路に直列にインダクタンス素子33が接続され、端子2aとインダクタンス素子33との接続経路と基準端子との間にキャパシタンス素子34が接続されている構成である。この構成は
図9に示した回路素子の組み合わせと同様である。
【0120】
したがって、
図9に示したインダクタンス素子33とキャパシタンス素子34との組み合わせおよび接続位置は、マルチプレクサ1の共通端子50側からみた特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、かつ、マルチプレクサ1の通過帯域における特性インピーダンスがスミスチャートにおいて第3象限にある場合に有効である。
【0121】
また、マルチプレクサ1の特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、マルチプレクサ1の高周波通過帯域における特性インピーダンスが
図10に示すスミスチャートにおいて第4象限にある場合には、
図11Cに示すインダクタンス素子31およびキャパシタンス素子32の組み合わせ、および、
図11Dに示すインダクタンス素子31および33の組み合わせが有効である。
【0122】
つまり、
図11Cに示すように、マルチプレクサ1の共通端子50(
図9参照)と
アンテナ2に接続される端子2aとの接続経路に直列にキャパシタンス素子32が接続され、端子2aとキャパシタンス素子32との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続されている構成である。この構成は、
図1に示したインダクタンス素子31およびキャパシタンス素子32の組み合わせと同様である。したがって、
図1に示したインダクタンス素子31とキャパシタンス素子32との組み合わせおよび接続位置は、マルチプレクサ1の共通端子50側からみた特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、かつ、マルチプレクサ1の通過帯域における特性インピーダンスがスミスチャートにおいて第4象限にある場合に有効である。
【0123】
また、
図11Dに示すように、マルチプレクサ1の共通端子50(
図9参照)と
アンテナ2に接続される端子2aとの接続経路に直列にインダクタンス素子33が接続され、端子2aとインダクタンス素子33との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続されている構成としてもよい。この構成についても、マルチプレクサ1の共通端子50側からみた特性インピーダンスの実部が50Ω未満であって、かつ、マルチプレクサ1の通過帯域における特性インピーダンスがスミスチャートにおいて第4象限にある場合に有効である。
【0124】
なお、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間に接続される回路素子、および、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路に直列に接続される回路素子は、それぞれ1つずつに限らず、2つ以上設けられていてもよい。
図12は、本実施の形態に係るマルチプレクサの他の例を示す回路構成図である。
【0125】
図12に示すマルチプレクサ1は、共通端子50とアンテナ素子2との間の接続経路に直列にキャパシタンス素子32を備えている。また、共通端子50とキャパシタンス素子32との接続経路と基準端子との間に、インダクタンス素子31を備えている。さらに、
図12に示すマルチプレクサ1は、キャパシタンス素子32とアンテナ素子2との間の接続経路と基準端子との間に、インダクタンス素子35を備えている。
【0126】
この構成によれば、共通端子50とアンテナ素子2との接続経路と基準端子との間に2つのインダクタンス素子31および
35がそれぞれ配置されているので、より微調整が可能となる。したがって、スミスチャートにおいて特性インピーダンスを誘導性側およびショート側に容易に調整してインピーダンス整合をとることができる。
【0127】
(その他の変形例など)
以上、本発明の実施の形態に係るマルチプレクサついて、クワッドプレクサの実施の形態を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態には限定されない。例えば、上記実施の形態に次のような変形を施した態様も、本発明に含まれ得る。
【0128】
例えば、実施の形態に係る圧電基板5の圧電膜53は、50°YカットX伝搬LiTaO
3単結晶を使用したものであるが、単結晶材料のカット角はこれに限定されない。つまり、LiTaO
3基板を圧電基板として用いて、実施の形態に係るマルチプレクサを構成する弾性表面波フィルタの圧電基板のカット角は、50°Yであることに限定されない。上記以外のカット角を有するLiTaO
3圧電基板を用いた弾性表面波フィルタであっても、同様の効果を奏することが可能となる。
【0129】
また、本発明に係るマルチプレクサ1は、さらに、アンテナ素子2と共通端子50の接続経路と基準端子との間に少なくとも1つの第1回路素子が接続されておりかつアンテナ素子2と共通端子50との接続経路に少なくとも1つの第2回路素子が直列に接続されている構成であってもよい。ここで、第1の回路素子および第2の回路素子は、それぞれインダクタンス素子またはキャパシタンス素子であってもよい。例えば、本発明に係るマルチプレクサ1は、高周波基板上に、上述した特徴を有する複数の弾性波フィルタと、チップ
状の第1のインダクタンス素子、第1の回路素子および第2の回路素子とが実装された構成を有していてもよい。
【0130】
また、インダクタンス素子は、例えば、チップインダクタであってもよいし、高周波基板の導体パターンにより形成されたものであってもよい。また、キャパシタンス素子は、例えば、チップキャパシタであってもよいし、高周波基板の導体パターンにより形成されたものであってもよい。
【0131】
また、本発明に係るマルチプレクサは、実施の形態のようなBand25+Band66のクワッドプレクサに限られない。
【0132】
図13Aは、実施の形態の変形例1に係るマルチプレクサの構成を示す図である。例えば、本発明に係るマルチプレクサは、
図13Aに示すように、送信帯域および受信帯域を有するBand25、Band66およびBand30を組み合わせたシステム構成に適用される、6つの周波数帯域を有するヘキサプレクサであってもよい。この場合、例えば、Band25の受信側フィルタに、インダクタンス素子21が直列接続され、Band25の受信側フィルタの受信入力端子には並列共振子が接続される。さらに、Band25の受信側フィルタ以外の5つのフィルタの共通端子と接続される端子には、直列共振子が接続され並列共振子は接続されない。また、共通端子とアンテナ素子2との接続経路にキャパシタンス素子32が直列に接続されており、かつ、共通端子とキャパシタンス素子32との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続されている。
【0133】
図13Bは、実施の形態の変形例2に係るマルチプレクサの構成を示す図である。例えば、本発明に係るマルチプレクサは、
図13Bに示すように、送信帯域および受信帯域を有するBand1、Band3およびBand7を組み合わせたシステム構成に適用される、6つの周波数帯域を有するヘキサプレクサであってもよい。この場合、例えば、Band1の受信側フィルタに、インダクタンス素子21が直列接続され、Band1の受信側フィルタの受信入力端子には並列共振子が接続される。さらに、Band1の受信側フィルタ以外の5つのフィルタの共通端子と接続される端子には、直列共振子が接続され並列共振子は接続されない。また、共通端子とアンテナ素子2との接続経路にキャパシタンス素子32が直列に接続されており、かつ、共通端子とキャパシタンス素子32との接続経路と基準端子との間にインダクタンス素子31が接続されている。
【0134】
上述したように、本発明に係るマルチプレクサでは、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なる場合であっても、各端子について十分にインピーダンスを整合することができる。これにより、構成要素である弾性波フィルタの数が多くても、通過帯域内の挿入損失を低減することができる。
【0135】
さらに、本発明に係るマルチプレクサは、送受信を行うデュプレクサを複数有する構成でなくてもよい。例えば、複数の送信周波数帯域を有する送信装置として適用できる。つまり、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を入力し、当該複数の高周波信号をフィルタリングして共通のアンテナ素子から無線送信させる送信装置であって、送信回路から複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の送信用弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に少なくとも1つの第1回路素子が接続されておりかつアンテナ素子との接続経路に少なくとも1つの第2回路素子が直列に接続されている共通端子とを備えていてもよい。ここで、複数の送信用弾性波フィルタのそれぞれは、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の送信用弾性波フィルタのうち、一の送信用弾性波フィルタの出力端子は、当該出力端子および共通端子に接続されたインダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続される。一方、上記一の送信用弾性波フィルタ以外の送信用弾性波フィルタの出力端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている。第1回路素子および第2回路素子は、インダクタンス素子であってもよいし、キャパシタンス素子であってもよい。
【0136】
さらに、本発明に係るマルチプレクサは、例えば、複数の受信周波数帯域を有する受信装置として適用できる。つまり、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を、アンテナ素子を介して入力し、当該複数の高周波信号を分波して受信回路へ出力する受信装置であって、アンテナ素子から複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の受信用弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に少なくとも1つの第1回路素子が接続されておりかつアンテナ素子との接続経路に少なくとも1つの第2回路素子が直列に接続されている共通端子とを備えてもよい。ここで、複数の受信用弾性波フィルタのそれぞれは、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の受信用弾性波フィルタのうち、一の受信用弾性波フィルタの入力端子は、当該入力端子および共通端子に接続されたインダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続される。一方、上記一の受信用弾性波フィルタ以外の受信用弾性波フィルタの入力端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている。第1回路素子および第2回路素子は、インダクタンス素子であってもよいし、キャパシタンス素子であってもよい。
【0137】
上記のような構成を有する送信装置または受信装置であっても、本実施の形態に係るマルチプレクサ1と同様の効果が奏される。
【0138】
また、本発明は、上記のような特徴的な弾性波フィルタおよびインダクタンス素子を備えるマルチプレクサ、送信装置および受信装置だけではなく、このような特徴的な構成要素をステップとしたマルチプレクサのインピーダンス整合方法としても成立する。
【0139】
図14は、実施の形態に係るマルチプレクサのインピーダンス整合方法を説明する動作フローチャートである。
【0140】
本発明に係るマルチプレクサのインピーダンス整合方法は、(1)互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタのうち、一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)の入力端子および出力端子の一方から、当該一の弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがショート状態となり、上記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタ(弾性波フィルタB)の入力端子および出力端子の一方から、当該弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがオープン状態となるよう、複数の弾性波フィルタを調整するステップ(S10)と、(2)上記一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)にフィルタ整合用インダクタンス素子が直列接続された場合の、フィルタ整合用インダクタンス素子側から上記一の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスと、上記一の弾性波フィルタ以外の他の弾性波フィルタ(複数の弾性波フィルタB)が共通端子に並列接続された場合の、共通端子側から他の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスとが、複素共役の関係となるように、フィルタ整合用インダクタンス素子のインダクタンス値を調整するステップ(S20)と、(3)フィルタ整合用インダクタンス素子を介して上記一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)が共通端子と接続され、かつ、共通端子に上記他の弾性波フィルタ(複数の弾性波フィルタB)が並列接続された合成回路の、共通端子から見た複素インピーダンスが、特性インピーダンスと一致するよう、アンテナ素子と共通端子との接続経路と基準端子との間に接続される少なくとも1つの第1回路素子、および、アンテナ素子と共通端子との接続経路に直列に接続される少なくとも1つの第2回路素子とを調整するステップ(S30)とを含む。
【0141】
ここで、第1回路素子および第2回路素子のそれぞれは、例えばアンテナ整合用インダクタンス素子またはアンテナ整合用キャパシタンス素子である。この場合、第1回路素子および第2回路素子の調整とは、アンテナ整合用インダクタンス素子のインダクタンス値およびアンテナ整合用キャパシタンス素子のキャパシタンス値を調整することとしてもよい。なお、第1回路素子および第2回路素子の調整として、第1回路素子および第2回路素子の種類、特性、接続位置および組み合わせ等を変更することを含んでもよい。
【0142】
さらに、(4)複数の弾性波フィルタを調整するステップでは、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電基板上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを有する上記複数の弾性波フィルタのうち、上記一の弾性波フィルタにおいて、並列共振子がフィルタ整合用インダクタンス素子と接続されるよう並列共振子および直列共振子を配置し、上記他の弾性波フィルタにおいて、並列共振子および直列共振子のうち直列共振子が共通端子と接続されるよう、並列共振子および直列共振子を配置する。
【0143】
この構成では、上述したように第1の回路素子および第2の回路素子を調整することにより、インピーダンス整合の自由度を向上することができる。これにより、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なる場合であっても、各端子について十分にインピーダンスを整合することができる。
【0144】
また、上記実施の形態では、マルチプレクサ、クワッドプレクサ、送信装置および受信装置を構成する送信側フィルタおよび受信側フィルタとして、IDT電極を有する弾性表面波フィルタを例示した。しかしながら、本発明に係るマルチプレクサ、クワッドプレクサ、送信装置および受信装置を構成する各フィルタは、直列共振子および並列共振子で構成される弾性境界波やBAW(Bulk Acoustic Wave)を用いた弾性波フィルタであってもよい。これによっても、上記実施の形態に係るマルチプレクサ、クワッドプレクサ、送信装置および受信装置が有する効果と同様の効果が奏される。
【0145】
また、上記実施の形態に係るマルチプレクサ1では、受信側フィルタ12にインダクタンス素子21が直列接続された構成を例示したが、送信側フィルタ11
、13、または、受信側フィルタ14にインダクタンス素子21が直列接続された構成も本発明に含まれる。つまり、本発明に係るマルチプレクサは、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路と基準端子との間に少なくとも1つの第1回路素子が接続されておりかつアンテナ素子との接続経路に少なくとも1つの第2回路素子が直列に接続されている共通端子と、第
1インダクタンス素子とを備え、複数の弾性波フィルタのうち、送信側フィルタの出力端子は、当該出力端子および共通端子に接続された第1インダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続され、上記送信側フィルタ以外の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうちアンテナ素子側の端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている構成を有していてもよい。これによっても、弾性表面波フィルタの送信端子または受信端子側とアンテナ端子側とで特性インピーダンスが異なっていても十分にインピーダンスを整合することができる。したがって、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、低損失のマルチプレクサを提供することが可能となる。