(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法によって製造された絶縁回路基板10、及び、この絶縁回路基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
【0015】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(
図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に配設されたヒートシンク31と、を備えている。
【0016】
はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
【0017】
絶縁回路基板10は、
図1に示すように、絶縁層となるセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に形成された金属層13と、を備えている。
【0018】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0019】
回路層12は、
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる金属片22が接合されることにより形成されている。銅又は銅合金としては、無酸素銅やタフピッチ銅等を用いることができる。本実施形態においては、回路層12を構成する金属片22として、無酸素銅の圧延板を打抜いたものが用いられている。
この回路層12には、上述の金属片22をパターン状に接合することで回路パターンが形成されており、その一方の面(
図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層12の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.8mmに設定されている。
【0020】
金属層13は、
図3に示すように、セラミックス基板11の他方の面に銅又は銅合金からなる金属片23が接合されることにより形成されている。金属片23としては、無酸素銅やタフピッチ銅等で構成されたものを用いることができる。本実施形態においては、金属層13を構成する金属片23として、タフピッチ銅の圧延板が用いられている。ここで、金属層13の厚さは0.1mm以上3.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0021】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、熱伝導性が良好なアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されており、本実施形態においては、A6063合金で構成されている。このヒートシンク31の厚さは、3mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
なお、ヒートシンク31と絶縁回路基板10の金属層13とは、固相拡散接合されている。
【0022】
次に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、
図2及び
図3を用いて説明する。
まず、
図3で示すように、セラミックス基板11の一方の面に複数の金属片22を接合して回路層12を形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面に金属片23を接合して金属層13を形成する(金属片接合工程S01)。
【0023】
この金属片接合工程S01においては、まず、
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に複数の金属片22が接合される予定の領域にろう材ペースト26を塗布し、乾燥させる。また、セラミックス基板11の他方の面に金属片23が接合される予定の領域にろう材ペースト27を塗布し乾燥させる。ろう材ペースト26,27としては、Ag−Cu−Ti系ろう材やAg−Ti系ろう材を用いており、その塗布厚さ(乾燥後)が4μm以上7μm以下の範囲内とされている。
【0024】
そして、複数の金属片22及び金属片23上に仮止め材40を塗布し、仮止め材40がろう材ペースト26,27を向くように、複数の金属片22及び金属片23を積層する(積層工程S11)。
この積層工程S11においては、乾燥したろう材ペースト26と金属片22との間及び、乾燥したろう材ペースト27と金属片23との間に、それぞれ仮止め材40が配設されており、金属片22とセラミックス基板11(ろう材ペースト26)とが、セラミックス基板(ろう材ペースト27)と金属片23とが、位置決めされて仮止めされている。
ここで、本実施形態では、セラミックス基板11の一方の面に複数の金属片22をパターン状に配置することにより、回路パターンが形成される。
【0025】
本実施形態において使用される仮止め材40は、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とするものとされている。この仮止め材40は、室温(25℃)で固体であり、例えば、50℃以上で溶融状態となる。そこで、溶融状態の仮止め材40を塗布し、溶融状態で金属片22、23を積層し、位置決めを行った状態で冷却して仮止め材40を固化させることによって、セラミックス基板11と金属片22、23が仮止めされることになる。
【0026】
本実施形態においては、金属片22及び金属片23は、1個当たりの重量が4g以上10g以下の範囲内とされ、1個当たりの接合面積が600mm
2以上1400mm
2以下の範囲内とされている。
そして、本実施形態では、金属片22,23とセラミックス基板11との接合界面に配設される仮止め材40の重量が、金属片22,23の1個当たり1.5mg以上4.0mg以下の範囲内とされている。
【0027】
ここで、本実施形態においては、ろう材ペースト26,27とポリエチレングリコール(PEG)を主成分とする仮止め材40とが直接接触することから、ろう材ペースト26,27に含まれる有機物とポリエチレングリコール(PEG)等の仮止め材40に含まれる有機物とが必要以上に反応しないように、ろう材ペースト26,27の成分を適宜選択することが好ましい。
【0028】
次いで、金属片22、セラミックス基板11、金属片23の積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、金属片22とセラミックス基板11とを接合して回路層12を形成し、金属片23とセラミックス基板11とを接合して金属層13を形成する(接合工程S12)。
この接合工程S12における接合条件は、真空条件は1.0×10
−2Pa以下、加熱温度は810℃以上850℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は10分以上60分以下の範囲内、積層方向の加圧荷重が0.05MPa以上0.5MPa以下(0.5kgf/cm
2以上5.0kgf/cm
2以下)の範囲内に設定されている。
【0029】
なお、接合工程S12における加熱温度の下限は825℃以上とすることが好ましい。一方、加熱温度の上限は845℃以下とすることが好ましい。
また、接合工程S12における加熱温度での保持時間の下限は20分以上とすることが好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は40分以下とすることが好ましい。
さらに、接合工程S12における加圧荷重の下限は0.1MPa以上(1.0kgf/cm
2以上)とすることが好ましい。一方、加圧荷重の上限は0.3MPa以下(3.0kgf/cm
2以下)とすることが好ましい。
【0030】
以上のような工程によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0031】
次に、この絶縁回路基板10の金属層13の他方側にヒートシンク31を積層し、絶縁回路基板10とヒートシンク31とが積層されたヒートシンク積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウムと銅との共晶温度未満の加熱温度で保持することにより、金属層13とヒートシンク31を固相拡散接合する(ヒートシンク接合工程S02)。
このヒートシンク接合工程S02における接合条件は、真空条件は10
−3Pa以下、加熱温度は510℃以上545℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間が45分以上120分以下の範囲内に設定されている。
【0032】
次いで、回路層12の一方の面に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、加熱炉内においてはんだ接合する(半導体素子接合工程S03)。
上記のようにして、
図1に示すパワーモジュール1が製造される。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、セラミックス基板11の表面に、1個当たりの重量が4g以上10g以下の範囲内とされるとともに接合面積が600mm
2以上1400mm
2以下の範囲内とされた金属片22,23を接合する際に、金属片22,23とセラミックス基板11との接合界面に、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とする仮止め材40を1.5mg以上配設し、金属片22,23とセラミックス基板11とを仮止めしているので、金属片22,23とセラミックス基板11とを確実に仮止めすることができ、その後の工程において、金属片22,23とセラミックス基板11との位置ズレや金属片22,23の脱落を抑制することが可能となる。よって、絶縁回路基板10を比較的容易に製造することが可能となる。
【0034】
さらに、金属片22,23とセラミックス基板11との接合界面に、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とする仮止め材40を4.0mg以下配設し、金属片22,23とセラミックス基板11とを仮止めしているので、その後の接合工程S12において金属片22,23とセラミックス基板11とを積層方向に加圧して加熱した際に、回路パターン間への炭素残渣の付着を抑制できる。これにより、絶縁回路基板10において絶縁性が低下することを抑制できる。
【0035】
また、本実施形態においては、複数の金属片22をセラミックス基板11にパターン状に配置して接合することにより回路パターンを形成しているので、仮止め材40で位置決めすることにより、精度良く回路パターンを形成することが可能となる。また、回路パターン間への炭素残渣の付着を抑制することにより、パターン間の絶縁性に優れた回路層12を形成することが可能となる。
【0036】
次に、本発明の第二の実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、
図4から
図6を参照して説明する。なお、第一の実施形態と同一の部材には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
この絶縁回路基板110は、
図4に示すように、セラミックス基板11(絶縁層)と、このセラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に形成された回路層112と、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に形成された金属層113と、を備えている。
【0037】
金属層113は、
図6に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図6において下面)にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム片123が接合されることによって形成されている。
【0038】
回路層112は、
図4で示すように、セラミックス基板11の一方の面に配設されたアルミニウム層112Aと、このアルミニウム層112Aの一方側(
図4において上側)に積層された銅層112Bと、を有している。
【0039】
アルミニウム層112Aは、
図6に示すように、複数のアルミニウム片122Aがセラミックス基板11の一方の面に接合されることにより形成されている。本実施形態においては、アルミニウム層112Aは、純度が99.99mass%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム片122Aがセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
銅層112Bは、
図6に示すように、アルミニウム層112Aの一方側(
図4において上側)に、銅片122Bが接合されることにより形成されている。本実施形態においては、銅層112Bは、
図6に示すように、無酸素銅の圧延板からなる複数の銅片122Bがアルミニウム層112Aに固相拡散接合されることにより形成されている。
【0040】
次に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法について、
図5及び
図6を参照して説明する。
まず、
図6で示すように、セラミックス基板11の一方の面にアルミニウム片122Aを接合してアルミニウム層112Aを形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム片123を接合して金属層113を形成する(アルミニウム片接合工程S101)。
このとき、複数のアルミニウム片122Aをパターン状に配置することにより、回路パターンが形成される。
【0041】
このアルミニウム片接合工程S101においては、まず、
図6に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、Al−Si系のろう材126を介在させ、アルミニウム層112Aとなるアルミニウム片122Aを積層し、セラミックス基板11の他方の面に、Al−Si系のろう材127を介在させ、金属層13となるアルミニウム片123を積層する(アルミ積層工程S111)
ここで、本実施形態では、予めアルミニウム片122Aとろう材126、及び、アルミニウム片123とろう材127とが超音波接合によって一体化されている。
【0042】
このアルミ積層工程S111においては、セラミックス基板11とアルミニウム片122Aとの接合界面、及び、セラミックス基板11とアルミニウム片123との接合界面に、それぞれ仮止め材40が配設されており、アルミニウム片122Aとセラミックス基板11、セラミックス基板11とアルミニウム片123とが位置決めされて仮止めされている。
本実施形態において使用される仮止め材40は、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とするものとされている。この仮止め材40は、室温(25℃)で固体であり、例えば、50℃以上で溶融状態となる。そこで、溶融状態の仮止め材40を塗布し、溶融状態でセラミックス基板11にアルミニウム片122A及びアルミニウム片123を積層し、位置決めを行った状態で冷却して仮止め材40を固化させることによって、セラミックス基板11とアルミニウム片122A、123が仮止めされることになる。
【0043】
本実施形態においては、アルミニウム片122A、123は、1個当たりの重量が4g以上10g以下の範囲内とされ、1個当たりの接合面積が600mm
2以上1400mm
2以下の範囲内とされている。
そして、本実施形態では、アルミニウム片122A、123とセラミックス基板11との接合界面に配設される仮止め材40の重量が、アルミニウム片122A、123の1個当たり1.5mg以上4.0mg以下の範囲内とされている。
【0044】
次いで、アルミニウム片122A、セラミックス基板11、アルミニウム片123の積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウム片122Aとセラミックス基板11とを接合してアルミニウム層112Aを形成し、アルミニウム片123とセラミックス基板11とを接合して金属層113を形成する(アルミ接合工程S112)。
このアルミ接合工程S112における接合条件は、真空条件は1.0×10
−2Pa以下、加熱温度は610℃以上650℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は20分以上90分以下の範囲内、積層方向の加圧荷重が0.1MPa以上0.7MPa以下(1.0kgf/cm
2以上7.0kgf/cm
2以下)の範囲内に設定されている。
【0045】
なお、アルミ接合工程S112における加熱温度の下限は630℃以上とすることが好ましい。一方、加熱温度の上限は645℃以下とすることが好ましい。
また、アルミ接合工程S112における加熱温度での保持時間の下限は30分以上とすることが好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は60分以下とすることが好ましい。
さらに、アルミ接合工程S112における加圧荷重の下限は0.2MPa以上(2.0kgf/cm
2以上)とすることが好ましい。一方、加圧荷重の上限は0.5MPa以下(5.0kgf/cm
2以下)とすることが好ましい。
【0046】
次に、
図6で示すように、アルミニウム層112Aの表面に、銅又は銅合金からなる銅片122Bを接合して銅層112Bを形成する(銅片接合工程S102)。
この銅片接合工程S102においては、まず、
図6に示すように、アルミニウム層112Aの表面に、銅層112Bとなる銅片122Bを積層する(銅積層工程S121)。
このとき、パターン状に配置されたアルミニウム層112Aの上にそれぞれ銅片122Bを積層する。
【0047】
この銅積層工程S121においては、アルミニウム層112Aと銅片122Bとの接合界面に仮止め材40が配設されており、銅片122Bとアルミニウム層112Aとが位置決めされて仮止めされている。
本実施形態において使用される仮止め材40は、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とするものとされている。この仮止め材40は、室温(25℃)で固体であり、例えば、50℃以上で溶融状態となる。そこで、溶融状態の仮止め材40を塗布し、溶融状態でアルミニウム層112A上に銅片122Bを積層し、位置決めを行った状態で冷却して仮止め材40を固化させることによって、アルミニウム層112Aと銅片122Bが仮止めされることになる。
【0048】
本実施形態においては、銅片122Bは、1個当たりの重量が4g以上10g以下の範囲内とされ、1個当たりの接合面積が600mm
2以上1400mm
2以下の範囲内とされている。
そして、本実施形態では、銅片122Bとアルミニウム層112Aとの接合界面に配設される仮止め材40の重量が、銅片122Bの1個当たり1.5mg以上4.0mg以下の範囲内とされている。
【0049】
次いで、銅片122Bとアルミニウム層112Aの積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、銅片122Bとアルミニウム層112Aとを固相拡散接合して回路層112を形成する(銅接合工程S122)。
この銅接合工程S122における接合条件は、真空条件は10
−3Pa以下、加熱温度は500℃以上545℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間が45min以上120min以下の範囲内に設定されている。
【0050】
以上のような工程によって、本実施形態である絶縁回路基板110が製造される。
【0051】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、セラミックス基板11の表面に、1個当たりの重量が4g以上10g以下の範囲内とされるとともに接合面積が600mm
2以上1400mm
2以下の範囲内とされたアルミニウム片122A,123を接合する際に、アルミニウム片122A,123とセラミックス基板11との接合界面に、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とする仮止め材40を1.5mg以上配設し、アルミニウム片122A,123とセラミックス基板11とを仮止めしているので、アルミニウム片122A,123とセラミックス基板11とを確実に仮止めすることができ、その後の工程において、アルミニウム片122A,123とセラミックス基板11との位置ズレやアルミニウム片122A,123の脱落を抑制することが可能となる。
【0052】
さらに、アルミニウム片122A,123とセラミックス基板11との接合界面に、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とする仮止め材40を4.0mg以下配設し、アルミニウム片122A,123とセラミックス基板11とを仮止めしているので、その後のアルミ接合工程S112においてアルミニウム片122A,123とセラミックス基板11とを積層方向に加圧して加熱した際に、回路パターン間への炭素残渣の付着を抑制できる。
【0053】
また、本実施形態においては、アルミニウム層112Aの表面に、1個当たりの重量が4g以上10g以下の範囲内とされるとともに接合面積が600mm
2以上1400mm
2以下の範囲内とされた銅片122Bを接合する際に、銅片122Bとアルミニウム層112Aとの接合界面に、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とする仮止め材40を1.5mg以上配設し、アルミニウム層112Aと銅片122Bとを仮止めしているので、銅片122Bとアルミニウム層112Aとを確実に仮止めすることができ、その後の工程において、銅片122Bとアルミニウム層112Aとの位置ズレや銅片122Bの脱落を抑制することが可能となる。
【0054】
さらに、銅片122Bとアルミニウム層112Aとの接合界面に、ポリエチレングリコール(PEG)を主成分とする仮止め材40を4.0mg以下配設し、銅片122Bとアルミニウム層112Aとを仮止めしているので、その後の銅接合工程S122において銅片122Bとアルミニウム層112Aとを積層方向に加圧して加熱した際に、回路パターン間への炭素残渣の付着を抑制できる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0056】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
また、本実施形態では、絶縁層をセラミックス基板で構成したもので説明したが、これに限定されることはなく、絶縁層を樹脂等で構成したものであってもよい。
【0057】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板とアルミニウム板とをろう材を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、固相拡散接合によって接合してもよい。さらに、接合面にCu、Si等の添加元素を固着させ、これらの添加元素を拡散させることで溶融・凝固させる過渡液相接合法(TLP)によって接合してもよい。また、接合界面を半溶融状態として接合してもよい。
【0058】
また、本実施形態では、絶縁回路基板(金属層)とヒートシンクとを固相拡散接合によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ろう付け、TLP等の他の接合方法を適用してもよい。
さらに、本実施形態では、ヒートシンクをアルミニウムから成るものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅等で構成されていてもよいし、内部に冷却媒体が流通される流路を備えたものであってもよい。
【0059】
また、本実施形態においては、金属片とセラミックス基板との接合と、絶縁回路基板とヒートシンクの接合を、別の工程で実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、金属片、セラミックス基板、ヒートシンクを積層して、これを積層方向に加圧して加熱し、これらの接合を同一の工程で実施してもよい。
【0060】
また、第一実施形態において、金属片22及び金属片23が無酸素銅からなるものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウムやアルミニウム合金を用いることもできる。
【0061】
また、上記実施形態において、溶融温度が50℃以上の仮止め材40を用いたが、これに限定されることはない。ポリエチレングリコール(PEG)は平均重量分子量によって、溶融温度が異なる。平均重量分子量800〜20000のものが好ましい。平均重量分子量が800未満では常温で液体となるため取り扱い性が悪化するおそれがあり、20000を超えると、融点が高くなるため、塗布作業性が悪化するおそれが有る。なお、平均重量分子量800〜1000のものは溶融温度が約40℃、平均重量分子量6000でも溶融温度が約60℃程度である。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0063】
(実施例1)
AlNからなるセラミックス基板(43mm×37mm×0.635mmt)を準備し、このセラミックス基板の一方の面に回路層となる無酸素銅からなる銅片(表1参照)をろう材を介して積層し、セラミックス基板の他方の面に金属層となる無酸素銅からなる銅片(40mm×34mm×0.8mmt)をろう材を介して積層した。
なお、ろう材として、90mass%Ag−10mass%Ti合金からなるろう材ペースト(塗布厚さ0.0055mm)を用いて、それぞれの銅片に塗布した。
ここで、セラミックス基板の一方の面には、パターン間距離が6mmとなるように銅片を接合して回路パターンを形成した。
【0064】
このとき、セラミックス基板及び銅片の接合面に、表1に示す条件で仮止め材を配置し、セラミックス基板と銅片の位置決めを行って仮止めした。
なお、仮止め材としては、ポリエチレングリコール(関東化学株式会社製、平均重量分子量1000、含有率90%以上)を用いた。
【0065】
この積層体を積層方向に加圧して、真空炉内(1.0×10
−3Pa)に装入して表1に示す条件でセラミックス基板と銅片とを接合し、絶縁回路基板を製造した。
上述のようにして得られた絶縁回路基板について、回路層のパターン間における抵抗値を測定した。
【0066】
(抵抗値)
耐電圧試験機(菊水電子工業株式会社製TOS5050)を用いて、接合後の絶縁回路基板のそれぞれの回路パターンにそれぞれ電極を当てて抵抗値を測定した。
【0067】
【表1】
【0068】
仮止め材の重量が1.5mg未満であった比較例1では、接合作業中にセラミックス基板から銅片が外れてしまい、接合することができなかった。仮止め材の重量が4mgを超えた比較例2では、回路パターン間に炭素残渣が残留し、パターン間の抵抗値が低下した。
仮止め材の重量が1.5mg以上4.0mg以下とした本発明例1〜6では、接合作業中にセラミックス基板から銅片が外れることが無く、回路パターン間の抵抗値も高かった。
【0069】
(実施例2)
AlNからなるセラミックス基板(43mm×37mm×0.635mmt)を準備し、このセラミックス基板の一方の面に回路層となる純度99質量%の純アルミニウムからなるアルミニウム片(表2参照)をろう材を介して積層し、セラミックス基板の他方の面に金属層となる純度99.99質量%の純アルミニウムからなるアルミニウム片(40mm×34mm×0.8mmt)をろう材を介して積層した。なお、ろう材として、Al−7.5mass%Si合金からなるろう材箔(厚さ0.017mm)を用いた。このろう材箔を予めアルミニウム片に超音波接合した。ここで、セラミックス基板の一方の面には、パターン間距離が6mmとなるようにアルミニウム片を接合して回路パターンを形成した。
【0070】
このとき、セラミックス基板及びアルミニウム片の接合面に、表2に示す条件で仮止め材を配置し、セラミックス基板とアルミニウム片の位置決めを行って仮止めした。なお、実施例1と同様の仮止め材を用いた。
【0071】
この積層体を積層方向に加圧して、真空炉(1.0×10
−3Pa)内に装入して表2に示す条件でセラミックス基板と銅片とを接合し、絶縁回路基板を製造した。
上述のようにして得られた絶縁回路基板について、実施例1と同様に回路層のパターン間における抵抗値を測定した。
【0072】
【表2】
【0073】
仮止め材の重量が1.5mg未満であった比較例11では、接合作業中にセラミックス基板からアルミニウム片が外れてしまい、接合することが出来なかった。仮止め材の重量が4mgを超えた比較例12では、回路パターン間に炭素残渣が残留し、パターン間の抵抗値が低下した。
仮止め材の重量が1.5mg以上4.0mg以下とした本発明例11〜16では、接合作業中にセラミックス基板からアルミニウム片が外れることが無く、回路パターン間の抵抗値も高かった。
【0074】
(実施例3)
AlNからなるセラミックス基板(43mm×37mm×0.635mmt)を準備し、このセラミックス基板の一方の面に回路層となる純度99質量%の純アルミニウムからなるアルミニウム片(40mm×34mm×0.8mmt)をろう材を介して積層し、セラミックス基板の他方の面に金属層となる純度99.99質量%の純アルミニウムからなるアルミニウム片(40mm×34mm×0.8mmt)をろう材を介して積層した。なお、ろう材として、Al−7.5mass%Si合金からなるろう材箔(厚さ0.017mm)を用いた。ここで、セラミックス基板の一方の面には、パターン間距離が6mmとなるようにアルミニウム片を接合して回路パターンを形成した。
この積層体を積層方向に加圧した状態で加熱し、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム層を形成し、セラミックス基板の他方の面に金属層を形成した。なお、このときの接合条件は、真空度1.0×10
−3Pa,加圧荷重0.5MPa,加熱温度646℃、保持時間56minとした。
【0075】
次に、アルミニウム層の表面に、無酸素銅からなる銅片(表3参照)を積層した。
このとき、アルミニウム層と銅片の接合界面に、表3に示す条件で仮止め材を配置し、アルミニウム層と銅片の位置決めを行って仮止めした。なお、実施例1と同様の仮止め材を用いた。
【0076】
この積層体を積層方向に加圧して、真空炉内に装入して表3に示す条件でアルミニウム層と銅片とを接合し、絶縁回路基板を製造した。
上述のようにして得られた絶縁回路基板について、実施例1と同様に回路層のパターン間における抵抗値を測定した。
【0077】
【表3】
【0078】
仮止め材の重量が1.5mg未満であった比較例21では、接合作業中にアルミニウム層から銅片が外れてしまい、接合することが出来なかった。仮止め材の重量が4mgを超えた比較例22では、回路パターン間に炭素残渣が残留し、パターン間の抵抗値が低下した。
仮止め材の重量が1.5mg以上4.0mg以下とした本発明例21〜26では、接合作業中にアルミニウム層から銅片が外れることが無く、回路パターン間の抵抗値も高かった。