(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも前記加熱温度から前記加圧装置に当接される前記アルミニウム板の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2が1.2MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板の製造方法。
絶縁層とこの絶縁層の少なくとも一方の面に接合されたアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板を備えた絶縁回路基板と、前記絶縁層の他方の面側に配設されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法であって、
前記絶縁回路基板と前記ヒートシンクを積層したヒートシンク積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で所定の加熱温度まで加熱し、前記絶縁回路基板と前記ヒートシンクを接合するヒートシンク接合工程を有し、
このヒートシンク接合工程では、前記ヒートシンク積層体を前記加熱温度まで昇温した後に温度を下降させる降温過程において、少なくとも前記加熱温度から前記加圧装置に当接される前記アルミニウム板の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12を、前記加熱温度における加圧荷重P11よりも低く設定することを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
少なくとも前記加熱温度から前記加圧装置に当接される前記アルミニウム板の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12が1.2MPa以下であることを特徴とする請求項3に記載のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板の製造方法によって製造された絶縁回路基板10、及び、本発明の実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法によって製造されたヒートシンク付き絶縁回路基板30、並びに、この絶縁回路基板10及びヒートシンク付き絶縁回路基板30を用いたパワーモジュール1を示す。
【0017】
このパワーモジュール1は、ヒートシンク付き絶縁回路基板30と、このヒートシンク付き絶縁回路基板30の一方側(
図1において上側)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、を備えている。
【0018】
はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされている。
半導体素子3は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。
そして、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板30は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の他方側(
図1において下側)に接合されたヒートシンク31とを備えている。
【0019】
絶縁回路基板10は、
図1に示すように、絶縁層となるセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に形成された金属層13と、を備えている。
【0020】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、窒化アルミニウム、窒化珪素やアルミナ等から構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されている。本実施形態では、絶縁性の高いAlN(窒化アルミニウム)を用い、厚さは0.635mmに設定されている。
【0021】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に、導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。この回路層12の厚さt1は、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されている。本実施形態においては、回路層12は、純度99.00質量%以上99.50質量%未満のアルミニウム(以下、2Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板22がセラミックス基板11の一方の面に接合されることにより形成されており、このアルミニウム板22の厚さt1が0.6mmとされている。
【0022】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に、金属板が接合されることにより形成されている。この金属層13の厚さt2は、0.6mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されている。本実施形態においては、金属層13は、純度が純度99.99質量%以上のアルミニウム(以下、4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板23がセラミックス基板11の他方の面に接合されることにより形成されており、このアルミニウム板23の厚さt2が1.6mmとされている。
ここで、回路層12と金属層13の厚さの比t1/t2は、0.01≦t1/t2≦0.9の範囲内とされている。
【0023】
ヒートシンク31は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク31は、熱伝導性が良好な材料で構成されており、例えば銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、あるいは、SiC等からなる炭素質の多孔質体に金属を含浸させた炭素質複合材料(例えばAlSiC等)で構成されたものを用いることができる。
本実施形態においては、ヒートシンク31は、無酸素銅で構成されており、このヒートシンク31の厚さは、3mm以上10mm以下の範囲内に設定されている。
そして、本実施形態においては、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク31とが、固相拡散接合によって接合されている。
【0024】
次に、本実施形態である絶縁回路基板の製造方法、及び、ヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法について、
図2から
図4を用いて説明する。
まず、
図3で示すように、セラミックス基板11の一方の面にアルミニウム板22を接合して回路層12を形成するとともに、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム板23を接合して金属層13を形成する(アルミニウム板接合工程S01)。
【0025】
このアルミニウム板接合工程S01においては、まず、
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、Al−Si系のろう材26を介在させ、回路層12となるアルミニウム板22を積層し、セラミックス基板11の他方の面に、Al−Si系のろう材27を介在させ、金属層13となるアルミニウム板23を積層する。
ここで、Al−Si系のろう材26,27においては、Si濃度が1質量%以上12質量%以下の範囲内のものを用いることが好ましい。また、Al−Si系のろう材26,27の厚さは5μm以上15μm以下の範囲内とすることが好ましい。
また、Al−Si系のろう材26,27として、Al−Si系ろう材箔にマグネシウムを積層したマグネシウム積層ろう材を用いることができる。マグネシウム積層ろう材は、例えば、Al−Si系ろう材箔の少なくとも一方の面に、マグネシウムを蒸着させることで得られる。
【0026】
次いで、アルミニウム板22、ろう材26、セラミックス基板11、ろう材27、アルミニウム板23の積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウム板22とセラミックス基板11とを接合して回路層12を形成し、アルミニウム板23とセラミックス基板11とを接合して金属層13を形成する。このとき、加圧装置は、回路層12となるアルミニウム板22及び金属層13となるアルミニウム板23に当接されることになる。
このアルミニウム板接合工程S01における接合条件は、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内、加熱温度は560℃以上655℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は10分以上120分以下の範囲内に設定されている。
ここで、本実施形態においては、セラミックス基板11の一方の面側に配設されたアルミニウム板22と他方の面側に配設されたアルミニウム板23とが材質、厚さが異なっているため、降温過程において反りが生じることになる。
【0027】
そして、このアルミニウム板接合工程S01では、上述の積層体を加熱温度まで昇温した後に温度を下降させる降温過程において少なくとも加熱温度からアルミニウム板22,23を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2を、加熱温度における加圧荷重P1よりも低く設定している。すなわち、加圧装置に当接されるアルミニウム板22,23の再結晶温度を基準として加圧荷重P2を規定しているのである。なお、加圧装置に当接されるアルミニウム板22とアルミニウム板23との再結晶温度が異なる場合には、再結晶温度が高い側の温度までとする。
本実施形態では、上述の積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程及び加熱温度における加圧荷重をP1とし、降温過程における加圧荷重をP2とし、P1>P2としている。
なお、上述のように、昇温過程、加熱温度、降温過程において加圧荷重を制御するために、本実施形態においては、ホットプレス装置を用いて積層体を加圧している。
【0028】
本実施形態では、上述の積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程及び加熱温度における加圧荷重P1を1.5MPa以上3.5MPa以下(15kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
そして、降温過程において少なくとも加熱温度からアルミニウム板22、23を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2を1.2MPa以下としている。
ここで、昇温過程及び加熱温度における加圧荷重P1と降温過程において、少なくとも加熱温度からアルミニウム板22、23の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2との比P1/P2が1.2以上12.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0029】
なお、加圧荷重P1の下限は1.5MPa以上(15kgf/cm
2以上)とすることが好ましく、1.8MPa以上(18kgf/cm
2以上)とすることがさらに好ましい。一方、加圧荷重P1の上限は3.5MPa以下(35kgf/cm
2以下)とすることが好ましく、2.8MPa以下(28kgf/cm
2以下)とすることがさらに好ましい。
【0030】
また、加熱温度の下限は560℃以上とすることが好ましく、620℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は655℃以下とすることが好ましく、650℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は10分以上とすることが好ましく、15分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は120分以下とすることが好ましく、60分以下とすることがさらに好ましい。
【0031】
以上のような工程によって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0032】
次に、
図4に示すように、この絶縁回路基板10の金属層13の他方側(
図4において下側)にヒートシンク31を積層する。絶縁回路基板10とヒートシンク31とが積層されたヒートシンク積層体を、加圧装置を用いて積層方向に加圧した状態で真空加熱炉に装入し、アルミニウムと銅との共晶温度未満の加熱温度で保持することにより、金属層13とヒートシンク31を固相拡散接合する(ヒートシンク接合工程S02)。このとき、加圧装置は、回路層12(アルミニウム板22)とヒートシンク31に当接されることになる。
このヒートシンク接合工程S02における接合条件は、真空条件は10
−6Pa以上10
−3Pa以下の範囲内、加熱温度は440℃以上610℃以下の範囲内、上記加熱温度での保持時間は10分以上150分以下の範囲内に設定されている。
ここで、本実施形態においては、絶縁回路基板10とヒートシンク31との熱膨張係数が互いに異なっているため、降温過程において反りが生じることになる。
【0033】
そして、このヒートシンク接合工程S02では、上述のヒートシンク積層体を加熱温度まで昇温した後に温度を下降させる降温過程において少なくとも加熱温度から回路層12(アルミニウム板22)を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12を、加熱温度における加圧荷重P11よりも低く設定している。すなわち、加圧装置に当接されるアルミニウム板22の再結晶温度を基準として加圧荷重P12を規定しているのである。
本実施形態では、上述のヒートシンク積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程及び加熱温度における加圧荷重をP11とし、降温過程における加圧荷重をP12とし、P11>P12としている。
なお、上述のように、昇温過程、加熱温度、降温過程において加圧荷重を制御するために、本実施形態においては、ホットプレス装置を用いてヒートシンク積層体を加圧している。
【0034】
本実施形態では、上述のヒートシンク積層体を加熱温度まで加熱する昇温過程及び加熱温度で保持する保持過程における加圧荷重P11を1.5MPa以上3.5MPa以下(15kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定している。
そして、降温過程において少なくとも加熱温度から回路層12(アルミニウム板22)を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12を1.2MPa以下としている。
ここで、昇温過程及び加熱温度における加圧荷重P11と降温過程において、少なくとも加熱温度から回路層12(アルミニウム板22)の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12との比P1/P2が1.2以上12.0以下の範囲内であることが好ましい。
【0035】
なお、加圧荷重P11の下限は1.5MPa以上(15kgf/cm
2以上)とすることが好ましく、1.8MPa以上(18kgf/cm
2以上)とすることがさらに好ましい。一方、加圧荷重P11の上限は3.5MPa以下(35kgf/cm
2以下)とすることが好ましく、2.8MPa以下(28kgf/cm
2以下)とすることがさらに好ましい。
【0036】
また、加熱温度の下限は440℃以上とすることが好ましく、480℃以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度の上限は610℃以下とすることが好ましく、540℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、加熱温度での保持時間の下限は15分以上とすることが好ましく、30分以上とすることがさらに好ましい。一方、加熱温度での保持時間の上限は150分以下とすることが好ましく、120分以下とすることがさらに好ましい。
【0037】
以上のような工程によって、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板30が製造される。
次いで、回路層12の一方の面に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、加熱炉内においてはんだ接合する(半導体素子接合工程S03)。
上記のようにして、本実施形態であるパワーモジュール1が製造される。
【0038】
以上のような構成とされた本実施形態である絶縁回路基板の製造方法によれば、アルミニウム板接合工程S01では、積層体を加熱温度まで昇温した後に温度を下降させる降温過程において少なくとも前記加熱温度℃からアルミニウム板22、23を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2を、加熱温度における加圧荷重P1よりも低く設定しているので、降温過程においてアルミニウム板22、23が再結晶によって硬くなる前の段階で加圧荷重P2が低くなっており、積層体(絶縁回路基板10)に反りが生じた場合であっても、アルミニウム板22、23が加圧装置に局所的に強く押圧されることがなく、アルミニウム板22、23(回路層12及び金属層13)の変形を抑制することができる。また、昇温過程及び加熱温度における加圧荷重P1を高く設定することができ、アルミニウム板22,23とセラミックス基板11とを確実に接合することができる。
【0039】
さらに、本実施形態においては、降温過程において少なくとも前記加熱温度からアルミニウム板22,23の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2が1.2MPa以下とされているので、積層体(絶縁回路基板10)に反りが生じた場合であっても、アルミニウム板22、23(回路層12及び金属層13)の変形を確実に抑制することができる。
また、本実施形態においては、昇温過程及び加熱温度における加圧荷重P1を1.5MPa以上3.5MPa以下(15kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定しているので、セラミックス基板11とアルミニウム板22、23とを強固に接合することができる。
【0040】
また、本実施形態であるヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法によれば、ヒートシンク接合工程S02では、ヒートシンク積層体を加熱温度まで昇温した後に温度を下降させる降温過程において少なくとも加熱温度から回路層12(アルミニウム板22)の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12を、加熱温度における加圧荷重P11よりも低く設定しているので、降温過程において回路層12(アルミニウム板22)が再結晶によって硬くなる前の段階で加圧荷重P12が低くなっており、回路層12(アルミニウム板22)の変形を抑制することができる。また、加熱温度における加圧荷重P11を高く設定することができ、ヒートシンク31と絶縁回路基板10とを確実に接合することができる。
【0041】
さらに、本実施形態においては、降温過程において少なくとも前記加熱温度から回路層12(アルミニウム板22)の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12が1.2MPa以下とされているので、ヒートシンク積層体(ヒートシンク付き絶縁回路基板30)に反りが生じた場合であっても、回路層12(アルミニウム板22)の変形を確実に抑制することができる。
また、本実施形態においては、昇温過程及び加熱温度における加圧荷重P11を1.5MPa以上3.5MPa以下(15kgf/cm
2以上35kgf/cm
2以下)の範囲内に設定しているので、絶縁回路基板10の金属層13とヒートシンク31とを強固に接合することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0043】
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板の回路層にパワー半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
また、本実施形態では、絶縁層をセラミックス基板で構成したもので説明したが、これに限定されることはなく、絶縁層を樹脂等で構成したものであってもよい。
【0044】
さらに、本実施形態では、セラミックス基板とアルミニウム板とをろう材を用いて接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、固相拡散接合によって接合してもよい。さらに、接合面にCu、Si等の添加元素を固着させ、これらの添加元素を拡散させることで溶融・凝固させる過渡液相接合法(TLP)によって接合してもよい。また、接合界面を半溶融状態として接合してもよい。
【0045】
また、本実施形態では、絶縁回路基板(金属層)とヒートシンクとを固相拡散接合によって接合するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ろう付け、TLP等の他の接合方法を適用してもよい。
さらに、本実施形態では、ヒートシンクを銅板の放熱板から成るものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム又はアルミニウム合金(例えばA3003合金、A6063合金等)、あるいは、SiC等からなる炭素質の多孔質体に金属を含浸させた炭素質複合材料(例えばAlSiC等)で構成されていてもよいし、内部に冷却媒体が流通される流路を備えたものであってもよい。
【0046】
ここで、AlSiC等の炭素質複合材料からなるヒートシンクを用いる場合には、例えば、
図5に示すような構造のヒートシンク付き絶縁回路基板130を提供することができる。
図5に示す絶縁回路基板110は、セラミックス基板111の一方の面にアルミニウム板を接合して回路層112が形成されるとともに、セラミックス基板111の他方の面にアルミニウム板を接合して金属層113が形成されている。また、ヒートシンク131は、SiCの多孔質体に含浸されたアルミニウム材からなるスキン層131aを有している。そして、絶縁回路基板110とヒートシンク131との間に銅板150が介在し、絶縁回路基板110の金属層113と銅板150、銅板150とヒートシンク131のスキン層131aとがそれぞれ固相拡散接合されている。
【0047】
また、本実施形態においては、アルミニウム板とセラミックス基板との接合と、絶縁回路基板とヒートシンクの接合を、別の工程で実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、アルミニウム板、セラミックス基板、ヒートシンクを積層して、これを積層方向に加圧して加熱し、これらの接合を同一の工程で実施してもよい。
【0048】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にそれぞれアルミニウム板を接合して回路層及び金属層を形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、接合時において、積層体に対して高荷重で加圧するとともに、加圧装置がいずれかのアルミニウム板に当接する構成であればそのよい。
さらに、アルミニウム板としては、純度99.9質量%以上のアルミニウムや純度が99.99質量%以上のアルミニウム等のアルミニウム板、又は、アルミニウム合金板を用いることもできる。
【0049】
例えば、
図6に示すように、セラミックス基板211の一方の面にのみアルミニウム板を接合して回路層212が形成されるとともに、セラミックス基板211の他方の面側に金属層が形成されていない絶縁回路基板210を対象としてもよい。
また、
図7に示すように、回路層312及び金属層313の一方をアルミニウム板からなるものとし、回路層312及び金属層313の他方を他の金属等で構成した絶縁回路基板310を対象としてもよい。
さらに、
図8に示すように、金属層413がアルミニウム板で構成され、回路層412がアルミニウム層412aと銅層412bが積層された構造の絶縁回路基板410を対象としてもよい。
【実施例】
【0050】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0051】
(実施例1)
AlNからなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mmt)を準備し、このセラミックス基板の一方の面に表1記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の圧延材からなるアルミニウム板(37mm×37mm×0.4mmt)をろう材を介して積層し、セラミックス基板の他方の面に表1記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の圧延材からなるアルミニウム板(37mm×37mm×0.4mmt)をろう材を介して積層した。なお、ろう材として、Al−7.5質量%Si合金からなるろう材箔(厚さ12μm)を用いた。
【0052】
この積層体を加圧装置(ホットプレス)を用いて積層方向に加圧して、6.0×10
−4Paの雰囲気において表1に示す加熱温度にまで加熱し、セラミックス基板とアルミニウム板とを接合した。このとき、加熱温度までの昇温過程及び加熱温度における加圧荷重、加熱温度からの降温過程における加圧荷重を、表1に示す条件とした。
【0053】
上述のようにして得られた絶縁回路基板について、回路層及び金属層の変形、セラミックス基板と回路層及び金属層との接合状態を、以下のように評価した。
【0054】
(回路層及び金属層の変形)
回路層及び金属層を上面からレーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−X200)を用いて倍率10倍で観察し、回路層及び金属層の接合端部から0.5mmの範囲内における平均厚みを測定し、回路層及び金属層の接合端部から2mmの位置における厚みから5%以上減少した場合を「×」と評価した。回路層及び金属層のいずれかに変形が見られた場合、「×」と評価した。
【0055】
(接合性評価)
接合率は回路層とセラミックス基板との接合部の超音波探傷像を、超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて測定し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、回路層の面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
接合率が90%以上を「○」と評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
加熱温度から加圧装置に当接されるアルミニウム板の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2が加熱温度における加圧荷重P1と同一とされ、再結晶温度未満の加圧荷重を低くした比較例1においては、回路層及び金属層(アルミニウム板)の変形が認められた。降温過程において加圧装置とアルミニウム板とが局所的に強く接触し、回路層及び金属層(アルミニウム板)に変形が生じたと推測される。
昇温・保持時及び再結晶温度未満までの降温時における加圧荷重を比較的高い荷重で一定とした従来例1においては、回路層及び金属層(アルミニウム板)の変形が認められた。降温過程において加圧装置とアルミニウム板とが局所的に強く接触し、回路層及び金属層(アルミニウム板)に変形が生じたと推測される。
昇温・保持時及び再結晶温度未満までの降温時における加圧荷重を比較的低い荷重で一定とした従来例2においては、回路層及び金属層(アルミニウム板)とセラミックス基板とを接合することができなかった。
【0058】
これに対して、少なくとも加熱温度から加圧装置に当接されるアルミニウム板の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P2を、加熱温度における加圧荷重P1よりも低く設定した本発明例1〜13においては、回路層及び金属層(アルミニウム板)の変形は認められず、セラミックス基板と回路層及び金属層(アルミニウム板)とを確実に接合することができた。
【0059】
(実施例2)
上述の本発明例1の絶縁回路基板を準備するとともに、ヒートシンクとして表2記載の材質からなる板材(50mm×60mm×5mmt)を準備した。
絶縁回路基板の金属層側にヒートシンクを積層し、このヒートシンク積層体を加圧装置(ホットプレス)を用いて積層方向に加圧して、6.0×10
−4Paの雰囲気において表2に示す加熱温度にまで加熱し、金属層とヒートシンクとを固相拡散接合した。このとき、加熱温度までの昇温過程及び加熱温度における加圧荷重P11、加熱温度からの降温過程における加圧荷重を、表2に示す条件とした。なお、ヒートシンクの材質としてアルミニウム合金(A6063)及びAlSiCを用いた場合には、絶縁回路基板とヒートシンク(AlSiC又はA6063)の間に銅板(37mm×37mm×0.2mmt)を介して積層し、接合した。
【0060】
上述のようにして得られたヒートシンク付き絶縁回路基板について、回路層の変形、絶縁回路基板(金属層)とヒートシンクとの接合状態を、以下のように評価した。
【0061】
(回路層の変形)
回路層を上面からレーザー顕微鏡(キーエンス社製VK−X200)を用いて倍率10倍で観察し、回路層及の接合端部から0.5mmの範囲内における平均厚みを測定し、回路層の接合端部から2mmの位置における厚みから5%以上減少した場合を「×」と評価した。
【0062】
(接合性評価)
接合率は絶縁回路基板の金属層とヒートシンクとの接合部(ヒートシンクがAlSiC又はA6063の場合には絶縁回路基板と銅層との接合部)の超音波探傷像を、超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて測定し、以下の式から接合率を算出した。
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、即ち、絶縁回路基板の金属層の面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
接合率が90%以上を「○」と評価した。
【0063】
【表2】
【0064】
加熱温度から加圧装置に当接されるアルミニウム板の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12が加熱温度における加圧荷重P11と同一とされ、再結晶温度未満の加圧荷重を低くした比較例21においては、回路層(アルミニウム板)の変形が認められた。降温過程において加圧装置とアルミニウム板とが局所的に強く接触し、回路層(アルミニウム板)に変形が生じたと推測される。
昇温・保持時及び再結晶温度未満までの降温時における加圧荷重を比較的高い荷重で一定とした従来例21においては、回路層(アルミニウム板)の変形が認められた。降温過程において加圧装置とアルミニウム板とが局所的に強く接触し、回路層(アルミニウム板)に変形が生じたと推測される。
昇温・保持時及び再結晶温度未満までの降温時における加圧荷重を比較的低い荷重で一定とした従来例22においては、絶縁回路基板とヒートシンクとを接合することができなかった。
【0065】
これに対して、少なくとも加熱温度から加圧装置に当接されるアルミニウム板の再結晶温度までの温度領域における加圧荷重P12を、加熱温度における加圧荷重P11よりも低く設定した本発明例21〜34においては、回路層(アルミニウム板)の変形は認められず、絶縁回路基板とヒートシンクとを確実に接合することができた。