(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
底吹き羽口を有する転炉の炉底耐火物は以下の要因によって損耗する。
・底吹き羽口近傍の溶湯流動による耐火物の摩耗
溶湯の脱炭を促進するため、炉底部に設けた羽口から溶湯内に撹拌用ガスを吹き込み、溶湯の撹拌が行われる。溶湯流動によって羽口近傍の耐火物が摩耗し、羽口を中心として擂り鉢状に損耗が進行する。
・装入スクラップによる耐火物の衝撃損耗
転炉操業では鉄源としてスクラップを使用しており、専用のシューターを用いて吹錬前に転炉内に装入している。スクラップは重いもので1tonもの重量があり、装入時にスクラップが炉壁や炉底部に衝突することで耐火物の損耗が進行する。
【0003】
底吹き羽口を有する転炉では、羽口を中心とする損耗が進むと共に、スクラップの衝撃を受ける炉底部位において局部損耗が進行する。特に、羽口の損耗とスクラップによる衝撃損耗が同時に進行するスクラップ衝突側炉底部の損耗が著しく、炉寿命のネックとなっている。
【0004】
上記課題に関連して、特許文献1では、溶鋼容器の内張りとして使用される耐酸化性、熱間強度に優れた耐火物として、重量割合で炭素3〜40%、残部がマグネシア質原料を主材とした配合物100%に対し、Mg
2Siを0.1〜10%添加することを特徴とするマグネシア−炭素質れんがの発明が開示されている。
また、特許文献2では、弾性率が室温で15GPa未満のMgO−C系レンガと弾性率が室温で15GPa以上のMgO−C系レンガとの境界位置を、二重管羽口の外周から500〜600mmとする炉底れんが積み構造の発明が開示されている。特許文献2によれば、これにより、羽口周辺とそれ以外の部分との損耗のバランスが良くなり、全体での寿命が向上するとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクラップが装入される側の炉壁は、スクラップによる衝撃損耗を抑制するため、熱間強度の高い耐火物(1400℃における熱間強度≧20MPa)が使用される場合がある。
炉底部も高強度化によりスクラップによる衝撃損耗の抑制が可能と考えられ、底吹き羽口を有する転炉の炉底部のスクラップ衝突部位の耐火物を高強度化したところ、強度の高い耐火物の熱膨張によって羽口に応力集中が生じ、羽口の損耗が増大するという新たな課題が判明した。
【0007】
なお、炉底部全面に高強度耐火物を内張りすれば、羽口への応力集中を防止できると考えられるが、高強度耐火物の熱膨張に伴って炉壁に横力が作用し、炉底との境界付近の炉壁耐火物が損傷するおそれがある。また、高強度耐火物は通常耐火物に比べて高コストであるという問題もある。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、底吹き羽口を有する転炉において、羽口への応力集中を生じさせることなく、スクラップの衝撃による耐火物の損耗を抑制することが可能な転炉炉底耐火物の内張り方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、線熱膨張係数が1.25×10
−5/K以下の耐火物を内張りした炉底の一部に、1400℃での熱間
曲げ強度が10MPa以上の高強度耐火物を内張りする範囲を設ける、底吹き羽口を有する転炉の炉底耐火物の内張り方法であって、
少なくとも装入スクラップの衝突により損耗する炉底部位に前記高強度耐火物を内張りし、
さらに、前記
装入スクラップの衝突により損耗する炉底部位に内張りされた高強度耐火物の内張り範囲の中心と羽口の中心とを結ぶ直線上において、スクラップ衝突側炉底部に内張りされる耐火物から前記羽口が受ける熱応力をσ
1、前記羽口を挟んで前記スクラップ衝突側炉底部の反対側に内張りされる耐火物から前記羽口が受ける熱応力をσ
2、前記羽口に内張りされる耐火物の熱間曲げ強度をsとすると、
σ
1−σ
2<sを満足するように、前記各耐火物の物性値と内張り範囲を決定することを特徴としている。
【0010】
炉底部に内張りする耐火物の線熱膨張係数が大きすぎると、前述したように、炉壁耐火物が損傷するおそれがある。そのため、本発明では、線熱膨張係数が1.25×10
−5/K以下の耐火物(以下、「通常耐火物」と呼ぶ。)を炉底部に内張りする。また、1400℃での熱間
曲げ強度が10MPa未満であると、装入スクラップの衝突による炉底耐火物の損傷を抑制できないため、少なくとも装入スクラップの衝突により損耗する炉底部位に、1400℃での熱間
曲げ強度が10MPa以上の高強度耐火物を内張りする。
【0011】
しかし、高強度耐火物は通常耐火物に比べて線熱膨張係数が大きいため、スクラップ衝突側炉底部に内張りされる耐火物の熱膨張量と、羽口を挟んでスクラップ衝突側炉底部の反対側に内張りされる耐火物の熱膨張量との差に起因する曲げ変形が羽口に発生する。
そこで、本発明では、羽口に作用する熱応力(σ
1−σ
2)が羽口耐火物の熱間曲げ強度s未満となるように各耐火物の物性値と内張り範囲を決定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る転炉炉底耐火物の内張り方法では、少なくとも装入スクラップの衝突により損耗する炉底部位に高強度耐火物を内張りすると共に、羽口に作用する熱応力が羽口耐火物の熱間曲げ強度未満となるように各耐火物の物性値と内張り範囲を決定するので、羽口への応力集中を生じさせることなく、スクラップの衝撃による耐火物の損耗を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。
【0015】
底吹き羽口を有する転炉の一例として、
図1に上底吹き式転炉の模式図を示す。
上底吹き式転炉は、溶鉄17を貯留する転炉11と、炉口11aから転炉11内に挿入され、先端部から溶鉄17に向けて酸素ガスを吹き付ける上吹きランス12と、転炉11の炉底部14に設けられ、溶鉄17に撹拌用ガスを吹き込む羽口13とを備えている。撹拌用ガスには、アルゴン、窒素、酸素、二酸化炭素などが使用される。
【0016】
転炉11の炉壁15上部には、溶鉄17を排出するための出鋼口16が形成されている。出鋼口16が形成されている炉壁15と対向する炉壁15は、スクラップが装入される装入壁とされている。本明細書では、便宜上、装入壁側を「装入側」、出鋼口16が形成されている炉壁15側を「出鋼側」と呼ぶ。
【0017】
転炉操業では、転炉11を傾動して炉内にスクラップを装入した後、溶鉄17を装入する。次いで、転炉11を直立させ、炉口11aから上吹きランス12を挿入し、溶鉄17に向けて酸素ガスを吹き付けると同時に、炉底部14の羽口13から撹拌用ガスを吹き込み、溶鉄17を撹拌しつつ吹錬を行う。
吹錬中に石灰系の造滓材を溶鉄17に添加することにより、炉内で生成した酸化物が造滓材と溶融してスラグ18が生成する。溶鉄17中のりんは、スラグ18中の酸化鉄と反応してCaOを含むスラグ18に吸収される。
【0018】
上記構成を有する転炉11の炉底部14に耐火物を内張りする方法について説明する。
炉底部14の平面図を
図2に示す。本実施の形態では、羽口13の数は♯1〜♯4の4つとされ、装入スクラップの衝突により損耗する炉底部位は♯2羽口の装入側炉底部とされている。
なお、装入スクラップの衝突により損耗する炉底部位は、転炉のサイズによっては装入側炉底部になるとは限らない。そのため、以下の説明では、便宜上、装入スクラップの衝突により損耗する炉底部位をスクラップ衝突側炉底部21、羽口13を挟んでスクラップ衝突側炉底部21の反対側をスクラップ非衝突側炉底部22と呼ぶ。
【0019】
スクラップ衝突側炉底部21を除く一般炉低部20には、線熱膨張係数が1.25×10
−5/K以下である通常耐火物23が内張りされている。スクラップ衝突側炉底部21には、1400℃での熱間
曲げ強度が10MPa以上である高強度耐火物24が内張りされている。本実施の形態では、♯2羽口を挟んでスクラップ衝突側炉底部21の反対側のスクラップ非衝突側炉底部22にも高強度耐火物24が内張りされている。
【0020】
図3は、羽口13周辺の縦断面を示したものである。炉底部14は、外殻を構成する鉄皮26と、鉄皮26の内面に接して設置されるパーマ耐火物31と、パーマ耐火物31の内側に設置され、稼働面を構成するウェア耐火物32とから概略構成されている。上述した通常耐火物23及び高強度耐火物24はウェア耐火物32である。
【0021】
羽口13は、
図3に示すように、鉄皮26から炉内に向かって上方に延びる複数の吹込みガス配管28と、吹込みガス配管28を被覆する羽口耐火物29と、撹拌用ガスを炉外から吹込みガス配管28へ供給するガス導入管27とを有している。各吹込みガス配管28の基端部は鉄皮26の内面に固定されている。
【0022】
図4は、通常耐火物23及び高強度耐火物24の熱膨張によって生じる羽口13の変形を模式的に示したものである。通常耐火物23及び高強度耐火物24が熱膨張することによって、羽口13は、高強度耐火物24から熱応力σ
1を、通常耐火物23から熱応力σ
2を受ける。高強度耐火物24は通常耐火物23に比べて線熱膨張係数が大きいため、熱応力σ
1は熱応力σ
2より大きくなる。
耐火物は圧縮力には強いが、引張力には弱い特性を有しているため、熱応力σ
1、σ
2によって羽口13が圧壊することはないが、羽口13の基端部が鉄皮26に固定されているため、
図4に示すように、熱応力(σ
1−σ
2)によって羽口13は曲げ変形する。熱応力(σ
1−σ
2)が羽口耐火物29の熱間曲げ強度sを超えると羽口13は折損する。
【0023】
本発明では、σ
1−σ
2<sを満足するように、通常耐火物23及び高強度耐火物24の物性値と内張り範囲を決定する。
羽口13を折損なく稼働させるためには、スクラップ衝突側炉底部21の範囲を小さくしたり、スクラップ非衝突側炉底部22にも高強度耐火物24を配置したりするなどの対策が必要となる。
【0024】
本実施の形態の場合、熱応力は(1)式及び(2)式によって算出することができる。
【0026】
ここで、
σ
1:スクラップ衝突側炉底部21の耐火物が羽口13に及ぼす熱応力(Pa)
σ
2:スクラップ非衝突側炉底部22の耐火物が羽口13に及ぼす熱応力(Pa)
α
A:高強度耐火物24の線熱膨張係数(1/K)
α
B:通常耐火物23の線熱膨張係数(1/K)
E:羽口13に直接接している耐火物の弾性率(Pa)であり、高強度耐火物24が羽口13に接していれば高強度耐火物24の弾性率E
A、通常耐火物23が羽口13に接していれば通常耐火物23の弾性率E
Bとなる。
ΔT:稼働時稼働面と常温の温度差(K)=1400℃
【0027】
L
1:スクラップ衝突側炉底部21に内張りされた高強度耐火物24の中心と羽口13の中心とを結ぶ直線25上における、スクラップ衝突側炉底部21に面する羽口13端から装入側炉底端までの距離(m)
L
2:スクラップ衝突側炉底部21に内張りされた高強度耐火物24の中心と羽口13の中心とを結ぶ直線25上における、スクラップ非衝突側炉底部22に面する羽口13端から出鋼側炉底端までの距離(m)
x
1:スクラップ衝突側炉底部21に内張りされた高強度耐火物24の中心と羽口13の中心とを結ぶ直線25上において、スクラップ衝突側炉底部21に内張りされている高強度耐火物24の長さ(m)
x
2:スクラップ衝突側炉底部21に内張りされた高強度耐火物24の中心と羽口13の中心とを結ぶ直線25上において、スクラップ非衝突側炉底部22に内張りされている高強度耐火物24の長さ(m)。なお、スクラップ非衝突側炉底部22に高強度耐火物24を内張りしない場合は、x
2はゼロとなる。
【0028】
図2中のL
1、L
2、x
1、x
2は、♯2羽口に作用する熱応力σ
1、σ
2を算出する際のL
1、L
2、x
1、x
2を示している。また、
図2の例における弾性率Eは、高強度耐火物24の弾性率E
Aとなる。
【0029】
以上のように、(1)式および(2)式によってσ
1、σ
2を算出し、σ
1−σ
2<sを満足するかどうかを評価し、満足しない場合は満足するように高強度耐火物24の内張り範囲を変更する等の対応を採る。
【0030】
次に、♯2羽口以外の羽口13に作用する熱応力σ
1、σ
2の算出方法について、♯1羽口を例に採り、
図5を用いて説明する。
スクラップ衝突側炉底部21に内張りされた高強度耐火物24の中心と♯1羽口の中心とを結ぶ直線25を引く。
L
1は、
図5中の直線25上において、スクラップ衝突側炉底部21に面する♯1羽口端からスクラップ衝突側炉底部21側の炉底端までの距離となり、L
2は、
図5中の直線25上において、スクラップ非衝突側炉底部22に面する♯1羽口端からスクラップ非衝突側炉底部22側の炉底端までの距離となる。
また、x
1は、
図5中の直線25上において、スクラップ衝突側炉底部21に内張りされた高強度耐火物24の長さである。スクラップ非衝突側炉底部22には高強度耐火物24が内張りされていないので、x
2はゼロとなる。
【0031】
本例では、♯1羽口に通常耐火物23のみ接しているので、前述した(1)式及び(2)式における弾性率Eは、通常耐火物23の弾性率E
Bとなる。
【0032】
以上のように、♯1羽口に作用する熱応力σ
1、σ
2を算出して、♯2羽口の場合と同様にσ
1−σ
2<sを満足するかどうかを評価し、満足しない場合は満足するように高強度耐火物24の内張り範囲を変更する等の対応を採る。他の羽口についても同様に評価し、必要に応じて対応を採る。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【実施例】
【0034】
本発明の効果について検証するために実施した検証試験について説明する。
底吹き羽口を有する転炉として、内容量:300m
3、羽口数:4、羽口幅:450mmのものを使用した。装入スクラップが衝突する炉底部位は、♯2羽口のスクラップ装入側である。また、炉底部の直径は6.5m、#2羽口とスクラップ衝突側炉底部の境界から装入側炉底端までの距離は2.8m、#2羽口とスクラップ非衝突側炉底部の境界から出鋼側炉底端までの距離は3.2mである。
炉底耐火物の厚さは1680mmであり、残寸500mmを使用限界とした。
【0035】
図6に示す3種類の耐火物内張りパターンについて検証試験を実施した。
パターン−1では、炉底部に高強度耐火物が内張りされていない(
図6(A)参照)。
パターン−2では、高強度耐火物がスクラップ衝突側炉底部に内張りされ、スクラップ衝突側炉底部を除く炉底部には通常耐火物が内張りされている(
図6(B)参照)。高強度耐火物が内張りされているスクラップ衝突側炉底部の範囲は、幅0.45m×長さ2.8mとされている。
パターン−3では、高強度耐火物がスクラップ衝突側炉底部及びスクラップ非衝突側炉底部に内張りされ、スクラップ衝突側炉底部及びスクラップ非衝突側炉底部を除く炉底部には通常耐火物が内張りされている(
図6(C)参照)。高強度耐火物が内張りされているスクラップ衝突側炉底部及びスクラップ非衝突側炉底部の範囲は、それぞれ幅0.45m×長さ1.4mとされている。
【0036】
使用した各耐火物の物性値を表1に、検証試験結果を表2に示す。なお、表1における熱間曲げ強度は1400℃における熱間曲げ強度、弾性率は1400℃焼成後の弾性率である。また、表2の炉底限界寿命は耐火物の損耗速度から算出した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
検証試験より以下のことが判明した。
・パターン−1では、高強度耐火物を内張りしておらず、スクラップ衝突側炉底部の損耗速度が大きかった。
・パターン−2では、スクラップ衝突側炉底部に高強度耐火物を内張りしたのでスクラップ衝突側炉底部の損耗速度は軽減されたが、#2羽口に生じる熱応力σ=σ
1−σ
2が羽口耐火物の熱間曲げ強度を上回ったため、羽口の損耗速度が増大し、パターン−1に比べて炉底限界寿命が低下した。
・パターン−3では、スクラップ衝突側炉底部とスクラップ非衝突側炉底部を均等に高強度化したため、全ての羽口に生じる熱応力σ=σ
1−σ
2が羽口耐火物の熱間曲げ強度未満となり、羽口の折損が生じなかった。その結果、炉底部全体の損耗速度が小さくなり、パターン−1に比べて炉底限界寿命が延びた。