特許第6790955号(P6790955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790955
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】炭酸化物からの遊離炭素製造法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20201116BHJP
【FI】
   C01B32/205
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-61270(P2017-61270)
(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公開番号】特開2018-162192(P2018-162192A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】近藤 次郎
【審査官】 中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−187059(JP,A)
【文献】 特開2017−048101(JP,A)
【文献】 特表2014−531383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄を0.01〜5質量%含有するアルカリ珪酸化物と炭酸化物とを混合し、非酸化性雰囲気中で、700℃以上1600℃以下に加熱して、前記アルカリ珪酸化物から分離した状態で、炭素を得る、ことを特徴とする遊離炭素製造方法。
【請求項2】
前記炭酸化物が、アルカリ元素の炭酸化物又はアルカリ土類元素の炭酸化物から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の遊離炭素製造方法。
【請求項3】
前記炭酸化物が炭酸ナトリウム又は炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項2に記載の遊離炭素製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ珪酸化物が、珪酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の遊離炭素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸化物から炭素を分離して遊離炭素を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭酸化物は、各種添加剤又は各種原料として使用されることが多い。炭酸ナトリウムは、洗剤、入浴剤、ソーダガラスの原料として使用されており、食品添加物としての使用も認められている。炭酸カルシウムは、ベビーパウダー、チョーク、ゴムの添加剤、入浴剤、歯磨き粉、化粧品の原料として使用されている。
しかしながら、炭酸化物から遊離炭素を製造し炭素源として使用する試みはわずかしかない。先に本発明者らは先願である特許文献1及び2において、水ガラス又はアルカリ珪酸化物を用いて、炭酸化物から炭素を分離する方法を開示している。
【0003】
特許文献1には、アルカリ元素の炭酸化物及び/又はアルカリ土類元素の炭酸化合物を、水ガラス又はアルカリ珪酸化物と混合して、非酸化性雰囲気中で、700℃以上1600℃以下に加熱して炭酸化物からの炭素を分離する、遊離炭素の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、水ガラスと、アルカリ元素の炭酸化物及び/又はアルカリ土類元素の炭酸化物を混合した混合物をシリカアルミナ系セラミックス焼結体の表面に塗布し、非酸化性雰囲気中で、700℃以上1600℃以下に加熱して、炭酸化物から炭素を分離して膜状遊離炭素を製造する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1、2のいずれにおいても、炭酸化物から分離された遊離炭素のほとんどの部分は、使用した水ガラスの固化物であるところの珪酸ナトリウム又は使用したアルカリ珪酸化物を含有する、もしくは、これらを付着した状態で存在し、純粋な遊離炭素を得るには、その後、何らかの洗浄方法でこれらアルカリ珪酸化物を除去しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−187059号公報
【特許文献2】特願2016−000542号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、燃料、添加材等の通常の炭素源として使用することができる遊離炭素を炭酸化物から製造する方法において、生成した遊離炭素をアルカリ珪酸化物から分離した状態で得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討した。その結果、鉄を含有するアルカリ珪酸化物と炭酸化物を混合し、加熱することにより、生成した炭素をアルカリ珪酸化物から分離した状態で、炭酸化物から遊離炭素を得る技術を見出し、本発明を完成するに至った。本明細書で用いる用語「分離した状態」とは、生成した炭素が、アルカリ珪酸化物に付着した状態で存在するのではなく、また混合された状態で存在することでもないことを意味する。
【0009】
本発明の要旨は次の通りである。
(1)鉄を0.01〜5質量%含有するアルカリ珪酸化物と炭酸化物とを混合し、非酸化性雰囲気中で、700℃以上1600℃以下に加熱して、前記アルカリ珪酸化物から分離した状態で、炭素を得る、ことを特徴とする遊離炭素製造方法。
(2)前記炭酸化物が、アルカリ元素の炭酸化物又はアルカリ土類元素の炭酸化物から選ばれることを特徴とする前記(1)に記載の遊離炭素製造方法。
(3)前記炭酸化物が、炭酸ナトリウム又は炭酸カルシウムであることを特徴とする前記(2)に記載の遊離炭素製造方法。
(4)前記アルカリ珪酸化物が、珪酸ナトリウムであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の遊離炭素製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、燃料、添加材等の通常の炭素源として使用することができる遊離炭素を、炭酸化物から回収容易な状態で製造することが可能となり、炭酸化物の利用範囲を広げることができる。
さらに、生石灰CaOは効率良くCOを吸収し炭酸カルシウムCaCOが生成することが知られており、本発明の方法を用い、入手容易な生石灰由来の炭酸カルシウム中の炭素を分離し遊離炭素とすると、トータルとしてCOをCへ転化することができる。
【0011】
また、CaOの代わりに、NaOにCOを吸収させNaCOを生成させ、本発明の方法を用い、炭酸ナトリウム中の炭素を分離し遊離炭素とすると、トータルとしてCOをCへ転化することができる。同様の反応は、他の酸化物に、特にアルカリ土類及びアルカリ金属の酸化物にCOを吸収させ炭酸化物を生成させた場合にも適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の遊離炭素製造方法について順次説明する。
まず、使用するアルカリ珪酸化物について説明する。
【0013】
アルカリ珪酸化物としては、例えば珪酸ナトリウムが代表的な化合物であり、Na2O・nSiO2の分子式で記載される。ここで、係数nはNaOに対するSiOの比を表し、連続的に変化することができる。一般的には、n=0.3〜4程度のものが多いが、本発明において、特にnが限定されるわけではない。Na2O・nSiO2で表される化合物は無水物の珪酸ナトリウムであるが、この他に、配位水又は結晶水を有する固体状のNaO・nSiO・mHOで表される珪酸ナトリウムも用いることができる。
【0014】
アルカリ珪酸化物としては、珪酸ナトリウムの他に、珪酸リチウム、及び、これら両方を含有する珪酸化物等を挙げることができる。
【0015】
アルカリ珪酸化物に鉄を含有させる方法としては、アルカリ珪酸化物の合成時に、例えばFeを添加すればよい。例として、鉄含有の珪酸ナトリウム合成方法を示す。所定量の水酸化ナトリウム、ケイ砂(SiO)、酸化鉄Feを混合し、これらと反応しない、もしくは無視できる程度の反応しかしないルツボにこれら原料を装入し、加熱溶融することで鉄含有の珪酸ナトリウムを得ることができる。もちろん、本発明において、アルカリ珪酸化物に鉄を含有させる方法は、上記の方法に限定されるわけではない。
【0016】
上記合成時のルツボ材質としては、各種セラミックス、白金、ニッケル等を挙げることができる。又、上記加熱時の雰囲気は、Ar等の不活性雰囲気、N等の非酸化性雰囲気、空気もしくはAr+Oのような酸化性雰囲気を選択することができる。雰囲気ガスの純度としては、一般的なガスボンベの純度、例えば、99.99%で十分である。雰囲気ガスの流量としては特に制約は無く、経済的な観点から少量でよく、加熱による反応容器内圧力の上昇・破損を防ぐ目的でガスフロー系にて本発明を実施するなら、排気管からガスが逆流しない流量であればよい。この流量として、例えば、数10mL〜数10L/分、好ましくは、100mL〜2L/分の流量を挙げることができる。
【0017】
アルカリ珪酸化物に対する鉄の含有量としては、0.01質量%以上5質量%以下である。0.01質量%より鉄の含有量が少なければ鉄を含有させた効果がほとんど見受けられない。逆に、5質量%より多く含有させても効果が変わらないか、逆に鉄含有の効果が薄れる場合もある。
【0018】
得られた鉄含有のアルカリ珪酸化物は、使用したルツボ形状に依存した塊状であるが、炭酸化物と混合するので、できるだけ均一に混合できるよう粉砕することが好ましい。粉砕後の粒径としては、例えば、粒径1μm〜1mm程度でよいが、本発明において特に粒径が限定されるわけではない。粉砕方法も特に限定されるわけではなく、少量ならアルミナ等の酸化物セラミック製の乳鉢、量が多ければ、回転式の粉砕ミル、ジェットミル等の各種の粉砕器を使用することができる。
【0019】
鉄含有のアルカリ珪酸化物と混合する炭酸化物は、特に限定されるわけではないが、例えば、アルカリ元素の炭酸化物やアルカリ土類元素の炭酸化物が使用可能であり、具体的には、炭酸ナトリウムや炭酸カルシウムを挙げることができる。形態は、一般的な粉末のものが使用できるが、特に限定されるわけではなく、例えば、平均粒径が1μm〜1mm、好ましくは、50〜500μmのものが使用できる。
【0020】
次に、炭酸化物と鉄含有のアルカリ珪酸化物との混合方法について説明する。
炭酸化物と鉄含有のアルカリ珪酸化物との混合方法は一般的な混合方法を採用することができ、例えば、乳鉢での混合、また、各種混合器、例えば、回転式の混合器等が使用できる。混合時間は、例えば、回転式の混合器であれば、60rpmで1〜10分、好ましくは、2〜5分も混合すると十分である。
【0021】
炭酸化物と鉄含有のアルカリ珪酸化物との混合比率も、特に限定されるものではないが、例えば、炭酸化物/アルカリ珪酸化物の質量比として、0.05〜5を選択できる。この比率は、炭酸化物と鉄含有のアルカリ珪酸化物との均一混合し易さに基づいており、混合し難さを許容するなら、炭酸化物/アルカリ珪酸化物との質量比として、0.01〜20でもよい。
【0022】
次に、炭酸化物と鉄含有のアルカリ珪酸化物との混合物の加熱方法について説明する。
加熱方法としては各種加熱炉が使用可能である。また、熱源として様々な高温プロセスから排出される排熱も、温度が適合すれば使用可能であり、排熱利用の加熱装置も使用できる。また、太陽光を集光して熱源とする加熱装置も使用可能である。太陽光を集光する加熱装置については、一般に、温度制御が大雑把であるので使用し難いが、本発明においては、反応可能な温度範囲が広いので使用可能であり、この点は本発明の特徴である。
【0023】
これら加熱装置に、上述の混合物を入れたるつぼを装入し、非酸化性雰囲気中で加熱すればよい。るつぼ材質としては、特に限定されるものではないが、加熱温度に対し耐熱性のあるものが選択されるべきである。例えば、シリカアルミナ、アルミナ、石英等の材質のるつぼが使用可能である。
【0024】
加熱の際の雰囲気としては非酸化性雰囲気が選択される。それは、生成した遊離炭素の酸化を防止するためである。例えば、アルゴン雰囲気等の不活性ガスの雰囲気、さらに窒素雰囲気も選択できる。使用する雰囲気ガスの純度としては、一般的なガスボンベの純度、例えば、99.99%で十分である。この程度の純度があれば、一般的な反応装置において、生成した遊離炭素の酸化を実質的に無視することができる。雰囲気ガスの流量としては特に、制約は無く、経済的な観点から少量でよく、加熱による反応容器内圧力の上昇・破損を防ぐ目的で、ガスフロー系にて本発明を実施するなら、排気管からガスが逆流しない流量であればよい。この流量として、例えば、数10mL〜数10L/分、好ましくは、100mL〜2L/分の流量を挙げることができる。
【0025】
炭酸化物と鉄含有のアルカリ珪酸化物との混合物の加熱温度は、700℃以上1600℃以下が良く、さらに好ましくは、850℃以上1300℃以下である。以下に記載する実施例から分かるように、本発明の方法により炭酸化物から遊離炭素を生成させるためには、700℃以上が必要である。さらに、700℃以上で850℃程度以下の加熱では、遊離炭素生成量が850℃以上よりも少なく、効率上劣ることとなる。
【0026】
また、加熱温度が1600℃より高くなると、遊離炭素は少ししか認められなくなるので、加熱温度は1600℃以下が良い。1600℃より高温では、遊離炭素がアルカリ珪酸化物自体により酸化されるために減少するのではないかと推測しているが、詳細は不明である。さらに、一般的なるつぼの耐熱性を考慮すると、1300℃以下がより好ましい。
【0027】
加熱の昇温速度は、特に制約が無く、例えば、通常の加熱炉の昇温速度である1〜40℃/分、好ましくは、10〜20℃/分が選択できる。最高温度での保持時間も、特に制約は無く、経済的な観点から短時間を選択してよく、例えば、1〜20分、好ましくは、5〜10分で十分である。その後の冷却速度も、特に制約は無く、最高温度での保持時間終了後、直ちに加熱を終了し、加熱装置の自然冷却に任せてよく、もし、加熱装置の構造上から冷却速度に制限があるならば、それに従ってよい。
【0028】
以上の製造方法によって生成する遊離炭素は、加熱装置の温度が低下してから回収するが、本発明の鉄を含有するアルカリ珪酸化物を使用した場合には、大半の遊離炭素がアルカリ珪酸化物から分離した状態で離れた地点に析出する。例として、炭酸化物と鉄含有アルカリ珪酸化物の混合物を高さ50mm程度のシリカアルミナルツボに入れ、このシリカアルミナルツボをさらに高さ150mm程度の石英ルツボに入れ、石英ルツボ上部にはシリカアルミナ製の蓋を載せ、石英ルツボ全体を加熱する。
【0029】
上記の加熱を行うと、生成遊離炭素は大部分が石英ルツボ上部のシリカアルミナ製の蓋に析出する。実施例で触れるが、本発明の方法を使用せず、鉄の含有率が0.01質量%未満の鉄をほとんど含有しないアルカリ珪酸化物を用いると、生成した遊離炭素はこのアルカリ珪酸化物に強く固着している。このため、遊離炭素を回収するには、熱水又はフッ化水素酸等でアルカリ珪酸化物を溶解し、遊離炭素を回収せねばならない。
【0030】
これに対し、本発明の鉄含有アルカリ珪酸化物を使用した場合には、ほとんどの遊離炭素が石英ルツボ上部のシリカアルミナ製の蓋に析出する。この遊離炭素はシリカアルミナ製の蓋に単に付着しているだけなので、容易に掻き落とすことができる。この様に、本発明では、生成した遊離炭素の回収が非常に容易となる。尚、このようにして得られた遊離炭素は、燃料等の通常の炭素源として使用することができる。
【0031】
本発明の反応メカニズムについてほとんど分かっていないが、以下のメカニズムが推測される。
アルカリ珪酸化物は最大量の酸素原子を有しており還元物質としては作用できない。従って、反応の進行に還元物質は関与しておらず、アルカリ珪酸化物は触媒として作用し、炭酸化物から遊離炭素を生成させると考えられる。推測されるメカニズムとしては、炭酸化物の酸素原子がイオンの形態でアルカリ珪酸化物中を拡散し、炭素が取り残されるというものである。このメカニズムでは拡散した酸素イオンが酸素分子としてアルカリ珪酸化物から離脱せねばならないが、今のところ、この現象が確認できているわけではなく、推定である。
【0032】
ただ、このメカニズムから推測すると、加熱が700℃以下ではアルカリ珪酸化物中の酸素イオン拡散速度が十分でなく、従って、本発明では700℃以上の加熱が必要である。また、1600℃より高温では一度生成した遊離炭素がアルカリ珪酸化物により酸化されると推測される点は、上述したとおりである。上述した炭酸化物とアルカリ珪酸酸化物の混合比も、良好に混合できることにより炭酸化物中の酸素原子を有効にアルカリ珪酸化物に移行させ拡散させる作用を有すると考えられるが、詳細は不明である。
【0033】
次に、本発明で遊離炭素がアルカリ珪酸化物から分離した状態で離れた地点に析出する理由であるが、次のように推測している。
遊離炭素生成時にはアルカリ珪酸化物は加熱されているので、アルカリ珪酸化物付近の温度が最も高い。生成する炭素微粒子は、本来、高温部より低温部に析出しやすいので、遊離炭素はアルカリ珪酸化物から離れた地点に析出すると考えられる。にもかかわらず、アルカリ珪酸化物に遊離炭素が析出するのは遊離炭素が正に帯電し、アルカリ珪酸化物表面が負に帯電しているためと考えている。
【0034】
遊離炭素は炭酸化物から離脱して微粒子となるが、酸素原子の電子吸引力は強いので、炭素微粒子を構成する炭素原子の内の極一部は電子を奪われ、結果、炭素微粒子は正に帯電していると考えられる。又、上で述べたように、アルカリ珪酸化物中を酸素イオンが拡散し、アルカリ珪酸化物表面から酸素分子として離脱すると、後に電子が残されるので、アルカリ珪酸化物表面は負に帯電する。この結果、正に帯電した炭素微粒子が負に帯電したアルカリ珪酸化物表面に吸引され、アルカリ珪酸化物表面に析出すると考えられる。
【0035】
本発明の方法ではアルカリ珪酸化物に鉄を添加しているが、鉄は酸化鉄としてアルカリ珪酸化物中に存在している。酸化鉄はp型半導体であり、高温でホールを発生させ、アルカリ珪酸化物に良好な電気伝導を付与する。この結果、酸素が離脱したアルカリ珪酸化物表面の負の帯電が緩和され、正に帯電した炭素微粒子を吸引することがなくなり、炭素微粒子は比較的低温である地点、すなわち、アルカリ珪酸化物から分離した状態で離れた地点に析出すると考えられる。
【0036】
本発明による遊離炭素生成効率は、後述する本発明例1に記載しているように60%程度である。遊離炭素生成効率が100%よりかなり低い理由としては、炭酸化物から二酸化炭素が放出され、残りの部分がアルカリ珪酸化物と化合物を生成する反応が本発明の反応と同時に進行するので、遊離炭素生成効率が100%には達しないと考えられる。
【実施例】
【0037】
(本発明例1)
市販の水酸化ナトリウム(粒状の特級試薬)とケイ砂(SiO2)(200〜300メッシュ)を、NaO:SiO比が1:2となり、水酸化ナトリウムとケイ砂が反応しNaO・2SiOが生成した場合に約20gとなる量を各々秤量し、さらに表1〜4に示す鉄濃度に対応する量の酸化鉄(Fe、粉状の特級試薬)を秤量し、これらを上部内径約36mm深さ約36mmのニッケルルツボに装入した。これを内径約41mm深さ約115mmの石英ルツボへ入れた。石英ルツボにアルミナ製の蓋をし、Ar雰囲気の加熱炉で1200℃まで10℃/分で昇温し、30分間保持後、室温まで自然冷却した。冷却後、ニッケルルツボの中にはわずかに青みがかった透明の均一なガラス状物質が生成していた。この生成物の質量減少を測定すると、水酸化ナトリウムが完全に脱水しケイ砂と反応しNaO・2SiOが生成した場合の質量減少と一致し、所定量の鉄を含有するNaO・2SiOが生成したことが判明した。
【0038】
ニッケルルツボにはテーパーが付いているが、ニッケルルツボを伏せて底を軽く叩くと生成したガラス状の鉄含有NaO・2SiOを取り出すことができた。鉄含有NaO・2SiOのニッケルルツボとの接触部分は、所々わずかに黄色を帯びていたので、この部分をステンレス製のスクレーパーで削り落としわずかに青みがかった鉄含有NaO・2SiO塊を得た。この塊をアルミナ乳鉢にて1mm以下に粉砕し、その内の約15gをシリカアルミナルツボへ装入した。
【0039】
上記シリカアルミナルツボを加熱炉へ入れ、乾燥空気を2L/分で流しながら、10℃/分で昇温し、700℃で12時間保持後、室温まで自然冷却した。この酸化処理により、鉄含有NaO・2SiO粉中の不純物有機物及び炭素を完全除去した。又、鉄含有NaO・2SiO粉は完全に無水物となったと考えられる。冷却後、加熱炉からシリカアルミナルツボを取り出し、直ちに秤量した。
【0040】
さらに、鉄含有NaO・2SiO粉の約10gに市販の炭酸ナトリウム(粉状の特級試薬)所定量をアルミナ乳鉢で手早く混合し、高さ約50mmのシリカアルミナルツボに入れ、このシリカアルミナルツボをさらに高さ150mm程度の石英ルツボに入れ、石英ルツボ上部にはシリカアルミナ製の蓋を載せた。この石英ルツボ全体を、Ar雰囲気の加熱炉で表1〜4に示す温度まで10℃/分で昇温し5分間保持後室温まで自然冷却した。冷却後、シリカアルミナルツボの内壁はほとんど変化が無く、石英ルツボ上部のシリカアルミナ製の蓋へは黒色物が析出していた。以上の実験条件及び結果を表1〜4に示す。
【0041】
析出した黒色物を掻き落として回収したところ粉状であった。表1〜4に示す全実験について、この粉状黒色物を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。さらに、表2のNo.8の黒色析出物について、XPS(X線光電子分光法)による分析を行ったところ、グラファイト型カーボンであった。
【0042】
実験系の中に炭素源は炭酸ナトリウムしかないので、炭酸ナトリウムから遊離炭素が生成したことが判明した。又、実験No.8の析出炭素量は、炭酸ナトリウム中の炭素量の約60質量%に相当する量であった。製造された炭素は、ほぼ100%純度の遊離炭素であるので、燃料等の炭素源として使用することができる。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
(比較例1)
比較例1は、鉄含有量を変更したことを除いて、本発明例1と同様の実験を行った。比較例1では、実験後、鉄含有量が少ない場合には、石英ルツボ蓋への黒色物析出はほんのわずかしか視認できなかった。逆に鉄含有量が多い場合には、石英ルツボ蓋への黒色物析出は十分認められたが、シリカアルミナルツボへも少量の黒色物が析出し、効果は十分ではなかった。実験条件及び結果を表5、表6に示す。
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
(比較例2)
比較例2は、加熱炉温度条件を変更したことを除いて、本発明例1と同様の実験を行った。比較例2では、実験後、石英ルツボ蓋への黒色物析出は全く、又は、わずかしか視認できなかった。実験条件及び結果を表7に示す。
【0050】
【表7】
【0051】
(比較例3)
比較例3は、空気を流通させる大気雰囲気炉を使用したことを除いて、本発明例1と同様の実験を行った。比較例3では、実験後、石英ルツボ蓋への黒色物析出は視認できなかった。実験条件及び結果を表8に示す。
【0052】
【表8】
【0053】
(本発明例2)
本発明例2は、NaO:SiO比が2:1となるよう、水酸化ナトリウムとケイ砂を秤量し使用し、炭酸ナトリウムを炭酸カルシウムに変えたこと以外は、本発明例1と同様の実験を行った。実験条件及び結果を表9、10に示す。
【0054】
表9、10の全実験について、乾燥した粉状の黒色物を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。さらに、表9の実験No36の黒色析出物について、XPS(X線光電子分光法)による分析を行ったところ、グラファイト型カーボンであった。
実験系の中に炭素源は炭酸カルシウムしかないので、炭酸カルシウムから遊離炭素が生成したことが判明した。
【0055】
【表9】
【0056】
【表10】
【0057】
(比較例4)
比較例4は、加熱炉温度条件を変更したことを除いて、本発明例2と同様の実験を行った。比較例4では、実験後、石英ルツボ蓋への黒色物析出は全く、又は、わずかしか視認できなかった。実験条件及び結果を表11に示す。
【0058】
【表11】
【0059】
(本発明例3)
本発明例3は、市販の炭酸ナトリウム粉末の代わりに、市販の炭酸カルシウム粉末を使用したことを除いて、本発明例1と同様の実験を行った。実験条件及び結果を表12、13に示す。
【0060】
表12、13の全実験について、乾燥した粉状の黒色物を燃焼赤外線吸収法で炭素分析したところ、ほぼ100%の炭素であった。さらに、表12のNo48の黒色析出物について、XPS(X線光電子分光法)による分析を行ったところ、グラファイト型カーボンであった。
実験系の中に炭素源は炭酸カルシウムしかないので、炭酸カルシウムから遊離炭素が生成したことが判明した。
【0061】
【表12】
【0062】
【表13】
【0063】
(比較例5)
比較例5は、温度条件を変更したことを除いて、本発明例3と同様の実験を行った。比較例5では、実験後、石英ルツボ蓋への黒色物析出は全く、又は、わずかしか視認できなかった。実験条件及び結果を表14に示す。
【0064】
【表14】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、燃料、添加材等の通常の炭素源として使用することができる遊離炭素を、炭酸化物から製造することが可能となり、又、遊離炭素の回収も容易となる。よって、本発明は、産業上の利用可能性が高いものである。