(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多層織物が厚み方向全体に拘束された拘束部と、前記厚み方向に隣接する第1の織物層と第2の織物層とが前記厚み方向に拘束されない非拘束部と、を備え、前記非拘束部は、前記厚み方向における前記第1の織物層と前記第2の織物層の間にスリットを備える請求項1に記載の繊維構造体。
前記第1の織物層及び前記第2の織物層は、結束糸により前記厚み方向に一体化されており、織物層の厚み内で前記結束糸が進む方向に隣り合う部分同士間の距離を糸間距離とすると、前記第1の織物層と前記第2の織物層とで前記糸間距離が異なる請求項1又は請求項2に記載の繊維構造体。
繊維構造体製の強化基材にマトリックス樹脂を含浸させた繊維強化複合材であって、前記繊維構造体が請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の繊維構造体であることを特徴とする繊維強化複合材。
【発明を実施するための形態】
【0017】
繊維構造体及び繊維強化複合材を具体化した一実施形態を
図1〜
図5にしたがって説明する。
図1に示すように、繊維強化複合材10は、多層織物製の繊維構造体11がマトリックス樹脂12に複合化されて構成されている。マトリックス樹脂としては、例えば、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂が使用される。繊維構造体11は、強化繊維製の緯糸13と、強化繊維製の経糸14とで構成されている。緯糸13及び経糸14は互いに直交する方向に延びている。この実施形態では強化繊維として炭素繊維が使用されている。全ての経糸14は同じ繊度の糸であり、全ての緯糸13は同じ繊度の糸である。なお、繊度とは、単位長さ当たりの重量のことである。また、緯糸13及び経糸14は炭素繊維を繊維束とした連続糸である。
【0018】
繊維構造体11は、複数本の緯糸13が互いに平行に配列された第1緯糸層21と、第1緯糸層21より下方に配置された第2緯糸層22と、第2緯糸層22より下方に配置された第3緯糸層23と、第3緯糸層23より下方に配置された第4緯糸層24と、を有する。また、繊維構造体11は、複数本の経糸14が互いに平行に配列された第1経糸層31と、第1経糸層31より下方に配置された第2経糸層32と、を有する。第1〜第4緯糸層21〜24及び第1〜第2経糸層31〜32は、いずれも繊維層である。
【0019】
繊維構造体11は、上から下へ第1緯糸層21、第1経糸層31、第2緯糸層22、第3緯糸層23、第2経糸層32、第4緯糸層24の順番で積層されている。
繊維構造体11において、経糸14の糸主軸が延びる方向を第1方向Y1とし、緯糸13の糸主軸が延びる方向を第2方向Y2とする。また、繊維構造体11において、繊維層が積み重なった積層方向を厚み方向Y3とする。第1方向Y1は、複数本の緯糸13が配列された方向でもある。
【0020】
繊維構造体11は、第1方向Y1に沿って一定の厚みの第1拘束部16aと、第1方向Y1において第1拘束部16aに連続した非拘束部17と、第1方向Y1において非拘束部17に連続した第2拘束部16bと、を有する。繊維構造体11は、第1方向Y1に沿って第1拘束部16aと非拘束部17と第2拘束部16bが一列に並んでいる。
【0021】
第1拘束部16a及び第2拘束部16bは、それぞれ第1緯糸層21、第1経糸層31、第2緯糸層22、第3緯糸層23、第2経糸層32、及び第4緯糸層24が厚み方向Y3に拘束されて形成されている。第1拘束部16a及び第2拘束部16bは、第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bにより厚み方向Y3に拘束されている。
【0022】
第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは、繊維構造体11の形状保持用であり、経糸の一つである。また、第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは、非強化繊維で構成されている。第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは、各経糸14と平行に配列されるとともに、経糸14の配列方向(第2方向Y2)において互いに異なる位置に配置されている。第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは、第1拘束部16a及び第2拘束部16bを厚み方向に結合する。
【0023】
第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは、繊維構造体11を構成する最上層の経糸14(第1経糸層31)より上の位置で第1緯糸層21の緯糸13の外面を通って折り返すように配置されている。また、第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは、最下層の経糸14(第2経糸層32)より下の位置で第4緯糸層24の緯糸13の外面を通って折り返すように配置されている。
【0024】
非拘束部17は、繊維構造体11における厚み方向Y3一端側の第1の織物層18と、厚み方向Y3他端側の第2の織物層19と、を備える。第1の織物層18は、第1緯糸層21と、第1経糸層31と、第2緯糸層22とで構成されている。第1の織物層18は、第1の結束糸15aによって厚み方向Y3に拘束されている。第1の織物層18では、第1の結束糸15aは、第1の織物層18の最上層の第1緯糸層21の緯糸13の外面を通って折り返すように配置され、第1の織物層18を厚み方向Y3に貫通し、第1の織物層18の最下層の第2緯糸層22の緯糸13の外面を通って折り返すように配置されている。よって、第1の結束糸15aは、厚み方向Y3に重なる緯糸13に沿って第1の織物層18を貫通している。
【0025】
第2の織物層19は、第3緯糸層23と、第2経糸層32と、第4緯糸層24とを積層して構成されている。第2の織物層19は、第2の結束糸15bによって厚み方向Y3に拘束されている。第2の織物層19では、第2の結束糸15bは、第2の織物層19の最上層の第3緯糸層23の緯糸13の外面を通って折り返すように配置され、第2の織物層19を厚み方向Y3に貫通し、第2の織物層19の最下層の第4緯糸層24の外面を通って折り返すように配置されている。よって、第2の結束糸15bは、厚み方向Y3に重なる緯糸13に沿って第2の織物層19を貫通している。
【0026】
非拘束部17において、第1の織物層18と第2の織物層19とは厚み方向Y3に分断されている。非拘束部17は、第1の織物層18の最下層を構成する第2緯糸層22と、第2の織物層19の最上層を構成する第3緯糸層23との間にスリット20を備える。第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは、第2緯糸層22と第3緯糸層23とを結合していない。スリット20は、第1方向Y1の全体の一部に存在し、かつ第2方向Y2の全体に亘って存在する。スリット20を厚み方向Y3に広げて開口することにより繊維構造体11を中空状や筒状に成型することが可能である。
【0027】
前記のように構成された多層織物製の繊維構造体11は、マトリックス樹脂を含浸硬化させて、繊維強化複合材10となる。よって、繊維強化複合材10は繊維構造体11製の強化基材にマトリックス樹脂を含浸させて形成されている。なお、マトリックス樹脂の含浸硬化は、例えば、RTM(レジン・トランスファー・モールディング)法で行なわれる。
【0028】
繊維構造体11にマトリックス樹脂12が含浸硬化されることにより、繊維構造体11の緯糸13及び経糸14は、マトリックス樹脂と複合化して繊維強化複合材10となる。そして、繊維強化複合材10は、例えば、航空機や乗用車等の移動体の外板として使用される。
【0029】
図2に示すように、繊維構造体11において、厚み方向Y3への寸法を厚みとする。繊維構造体11において、第1の織物層18の厚みT1は、第2の織物層19の厚みT2より厚い。第1の織物層18を構成する緯糸13を第1緯糸13aとする。第1緯糸13aについて、糸主軸Rに直交する断面視は横長扁平状である。第1方向Y1への第1緯糸13aの寸法のうち、最大寸法を幅W1とする。また、厚み方向Y3への第1緯糸13aの寸法のうち、最大寸法を厚みH1とする。第1の織物層18において、緯糸13の配列方向としての第1方向Y1に隣り合う第1緯糸13aの糸主軸R同士間の距離を第1のピッチP1とする。
【0030】
第2の織物層19を構成する緯糸13を第2緯糸13bとする。なお、第1緯糸13aと第2緯糸13bは、同じ繊度の緯糸13であり、断面形状が異なるだけである。第2緯糸13bについて、糸主軸Rに直交する断面視は横長扁平状であり、第1緯糸13aよりも幅広な扁平状である。第1方向Y1への第2緯糸13bの寸法のうち、最大寸法を幅W2とする。また、厚み方向Y3への第2緯糸13bの寸法のうち、最大寸法を厚みH2とする。
【0031】
また、第2の織物層19において、第1方向Y1に隣り合う第2緯糸13bの糸主軸R同士間の距離を第2のピッチP2とする。第1の織物層18における第1緯糸13aの第1のピッチP1は、第2の織物層19における第2緯糸13bの第2のピッチP2より狭い。言い換えると、第2のピッチP2は、第1のピッチP1より広い。
【0032】
その結果として、第2緯糸13bの幅W2は、第1緯糸13aの幅W1より広く、第2緯糸13bの厚みH2は、第1緯糸13aの厚みH1より薄い。言い換えると、第1の織物層18に配列された第1緯糸13aの厚みH1は、第2の織物層19に配列された第2緯糸13bの厚みH2より厚い。したがって、それぞれ2層の緯糸層を備えた第1の織物層18と第2の織物層19では、経糸層での厚みがほとんど同じであることから、第1緯糸13aを備えた第1の織物層18の厚みT1は、第2緯糸13bを備えた第2の織物層19の厚みT2より厚い。
【0033】
また、第1の織物層18と第2の織物層19とは緯糸13のピッチが異なることから、第1方向Y1における単位長さ当たりに存在する緯糸13の量は、第1の織物層18の方が第2の織物層19よりも多い。すなわち、第1の織物層18における糸密度は、第2の織物層19における糸密度より高い。
【0034】
なお、第1の織物層18を拘束した第1の結束糸15aにおいて、第1の織物層18の厚み方向Y3に延びる部分を直線部とした場合、第1の結束糸15aが進む方向、すなわち第1方向Y1に隣り合う直線部同士間の距離を糸間距離K3とする。同様に、第2の織物層19を拘束した第2の結束糸15bにおいて、第2の織物層19の厚み方向Y3に延びる部分を直線部とした場合、第1方向Y1に隣り合う直線部同士間の距離を糸間距離K3とする。第1の織物層18の第1緯糸13aは、第2の織物層19の第2緯糸13bより幅狭であるため、第1の織物層18での糸間距離K3は、第2の織物層19での糸間距離K3より狭い。
【0035】
次に、繊維構造体11における非拘束部17の製造方法について説明する。なお、第1拘束部16aは既に織製されているとし、第1拘束部16aに連続して非拘束部17を織製する場合で説明する。
【0036】
図3に示すように、織機60において、送り出された経糸14は、複数の綜絖61、筬62へ案内される。緯入れされた緯糸13は、筬62によって筬打ちされ、製織された織布Tは、巻取りローラ63に巻き取られる。
【0037】
織機60によって非拘束部17を製造する際、まず、
図5(a)に示すように、第1緯糸層21を形成する緯糸13が緯入れされ、筬62によって筬打ちされる。なお、以下の説明において、緯入れされる緯糸13は、全て第2緯糸13bと同じ幅W2の横長扁平状である。また、筬打ち場所Pは、
図5(a)の2点鎖線L1に示す位置であり、常に同じ位置である。そして、第1緯糸層21を形成する緯糸13は、筬打ち場所P、すなわち2点鎖線L1よりも織布Tから離れる側に緯入れされる。
【0038】
そして、第1緯糸層21を製造する際、まず、巻取りローラ63により、既に織製された織布Tが巻き取られ、筬打ち場所Pから巻取りローラ63側へ織布Tが移動する。第1の織物層18を製造するときの織布Tの移動量を第1移動量K1とする。この第1移動量K1は、第1緯糸13aの幅W1と同じであり、第2緯糸13bの幅W2より狭い。そして、織布Tが巻き取られると、織布Tの先端Gと筬打ち場所Pとの間には、幅W1に相当する隙間S1が形成される。
【0039】
なお、織布Tの移動量は、巻取りローラ63の巻取り速度を調節することで変化させることができる。例えば、巻取りローラ63の巻取り速度を速めると、一定時間当たりの織布Tの移動量が多くなり、巻取りローラ63の巻取り速度を遅くすると、一定時間当たりの織布Tの移動量が少なくなる。
【0040】
そして、緯糸13が緯入れされ、筬打ちされるが、第1移動量K1は、緯入れされた緯糸13の幅W2より短いため、緯糸13は、筬打ち場所Pから飛び出す分だけ筬62によって押し潰され、2点鎖線に示すように、緯糸13が筬打ち前に比べて縦長に変形する。その結果、第1緯糸13aが形成されるとともに、第1緯糸13aの幅W1となり、第1緯糸層21の一部が形成される。
【0041】
次に、
図5(b)に示すように、巻取りローラ63による織布Tの巻取りは行わず、第2緯糸層22形成用の緯糸13が、第1緯糸層21を形成したときと同様に緯入れされるとともに筬打ちが行われる。すると、第1緯糸13aが形成され、第2緯糸層22の一部が形成される。
【0042】
次に、
図5(c)に示すように、第2の織物層19を形成するため、第3緯糸層23の一部を形成する。まず、織布Tが巻取りローラ63によって巻き取られる。このときの織布Tの移動量を第2移動量K2とする。第2移動量K2は、第1の織物層18形成時の第1移動量K1より少ない。そして、緯糸13を緯入れするための隙間S1と、第1移動量K1とで、幅W2と同じ幅の隙間S2が形成される。
【0043】
そして、第3緯糸層23を形成する緯糸13は、筬打ち場所P、すなわち2点鎖線L1よりも織布Tから離れる側に緯入れされ、筬打ちされるが、緯入れされた緯糸13は筬打ち場所Pから飛び出さない状態となる。よって、緯糸13は押し潰されず、幅W2のままとなる。その結果、第2緯糸13bによって第3緯糸層23の一部が形成される。
【0044】
次に、
図5(d)に示すように、巻取りローラ63による織布Tの巻取りは行わず、第4緯糸層24形成用の緯糸13が、第3緯糸層23を形成したときと同様に緯入れされるとともに筬打ちが行われる。すると、第2緯糸13bが形成され、第4緯糸層24の一部が形成される。
【0045】
次に、第1の織物層18の第1緯糸層21の一部を再度形成するため、巻取りローラ63により、既に織製された織布Tが巻き取られ、織布Tが筬打ち場所Pから巻取りローラ63側へ移動する。このとき、第1緯糸層21及び第2緯糸層22となる部分は、第2の織物層19を形成するために既に巻取りローラ63側へ第2移動量K2だけ移動しており、第2移動量K2に相当する空間が形成されている。よって、第1緯糸13aを緯入れするためには、第1移動量K1と第2移動量K2の差分だけ織布Tを移動させればよく、このときの移動量は、第1移動量K1−第2移動量K2となる。
【0046】
そして、
図5(e)に示すように、巻取りローラ63により、既に織製された織布Tが、第1移動量K1−第2移動量K2だけ巻き取られ、筬打ち場所Pから巻取りローラ63側へ織布Tが移動する。次いで、第1緯糸層21を形成する緯糸13は、筬打ち場所P、すなわち2点鎖線L1よりも織布Tから離れる側に緯入れされるとともに、緯糸13が筬打ちされる。第1移動量K1−第2移動量K2は、緯入れされた緯糸13の幅W2より短いため、緯糸13は、筬打ち場所Pから飛び出す分だけ筬62によって押し潰され、2点鎖線に示すように、緯糸13が筬打ち前に比べて縦長に変形する。その結果、第1緯糸13aが形成されるとともに、第1緯糸13aの幅W1となり、第1緯糸層21の一部が形成される。
【0047】
また、織布Tが第1移動量K1−第2移動量K2となるように織布Tが巻き取られると、第2の織物層19を形成する部分において、緯糸13の先端Gと筬打ち場所Pとの間には、第1移動量K1と第2移動量K2の差分に相当する隙間S3が形成される。
【0048】
次に、
図5(f)に示すように、巻取りローラ63による織布Tの巻取りは行わず、第2緯糸層22形成用の緯糸13が、第1緯糸層21を形成したときと同様に緯入れされるとともに筬打ちが行われる。すると、第1緯糸13aが形成され、第2緯糸層22の一部が形成される。
【0049】
次に、再度、第1の織物層18を形成するため、第1緯糸層21の一部を形成する。まず、
図5(g)に示すように、織布Tが巻取りローラ63によって巻き取られる。このときの織布Tの移動量は第1移動量K1である。すると、緯糸13を緯入れするための隙間S1が形成される。同時に、第2の織物層19を形成する部分には、隙間S1と隙間S3の和に相当する隙間S4が形成される。第1方向Y1に沿う隙間S4の寸法は、第2緯糸13bの幅W2と同じである。
【0050】
そして、第1緯糸層21を形成する緯糸13は、筬打ち場所P、すなわち2点鎖線L1よりも織布Tから離れる側に緯入れされ、筬打ちされる。第1移動量K1は、緯入れされた緯糸13の幅W2より短いため、緯糸13は、筬打ち場所Pから飛び出す分だけ筬62によって押し潰され、2点鎖線に示すように、緯糸13が筬打ち前に比べて縦長に変形する。その結果、第1緯糸13aが形成されるとともに、第1緯糸13aの幅W1となり、第1緯糸層21の一部が形成される。
【0051】
次に、
図5(h)に示すように、巻取りローラ63による織布Tの巻取りは行わず、第2緯糸層22形成用の緯糸13が、第1緯糸層21を形成したときと同様に緯入れされるとともに筬打ちが行われる。すると、第1緯糸13aが形成され、第2緯糸層22の一部が形成される。
【0052】
次に、
図5(i)に示すように、再度、第2の織物層19を形成するため、第3緯糸層23の一部を形成する。このとき、既に形成された第3緯糸層23における第2緯糸13bの先端Gと筬打ち場所Pとの間には、第2緯糸13bの幅W2に相当する隙間S4が形成されている。このため、巻取りローラ63による織布Tの巻取りは行わない。
【0053】
そして、第3緯糸層23を形成する緯糸13は、筬打ち場所P、すなわち2点鎖線L1よりも織布Tから離れる側に緯入れされ、筬打ちされるが、緯入れされた緯糸13は筬打ち場所Pから飛び出さない状態となる。よって、緯糸13は押し潰されず、幅W2のままとなる。その結果、第2緯糸13bによって第3緯糸層23の一部が形成される。
【0054】
次に、
図5(j)に示すように、巻取りローラ63による織布Tの巻取りは行わず、第4緯糸層24形成用の緯糸13が、第3緯糸層23を形成したときと同様に緯入れされるとともに筬打ちが行われる。すると、第2緯糸13bが形成され、第4緯糸層24の一部が形成される。
【0055】
以降、同様の方法により、各層が形成されていく。そして、所定本数の緯糸13が緯入れされると、第1の織物層18及び第2の織物層19が形成される。
次に、繊維構造体11の作用を記載する。
【0056】
非拘束部17について、スリット20より下側の第2の織物層19に対し、上側の第1の織物層18の厚みを異ならせたい場合がある。この場合、
図4に示すように、第1の織物層18に対し、第1経糸層31と第2緯糸層22の間に緯糸層50を追加することで厚みを増加させることが考えられる。このように緯糸層50を追加して厚みを増やす方法では、第1の織物層18の厚み調整は、緯糸層50の厚みに依存することとなり、厚み調整は緯糸層50の厚み毎に段階的にしか行うことができない。
【0057】
これに対し、本実施形態では、第1方向Y1に隣り合う緯糸13間のピッチを調節することで、緯糸13の幅を調整し、緯糸13の厚みを調整して第1の織物層18及び第2の織物層19の厚みを調整している。
【0058】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)隣り合う緯糸13のピッチを調整し、緯糸13の厚みを調整して第1の織物層18及び第2の織物層19の厚み調整を可能にした。このため、緯糸13の厚み内であれば、第1の織物層18及び第2の織物層19の厚みを所望する値に設定することができる。よって、緯糸層の追加又は削除でしか厚み調整ができない場合と異なり、第1の織物層18及び第2の織物層19の厚みを微調整することができる。
【0059】
(2)第1の織物層18は、緯糸13の糸密度を第2の織物層19より増やすことで厚みを厚くし、強度を高めている。このため、強度を高めたい部分に、繊維構造体11とは別の補強織物等を接合する場合と比べて、補強織物を接合するための手間を省くことができるとともに、重量の増加も無くすことができる。
【0060】
(3)第1の織物層18及び第2の織物層19の厚み調整は、織機60による織製時、巻取りローラ63による織布Tの巻取り速度を調節し、筬打ち時の緯糸13の押し潰し量を調節することで実現可能である。よって、織組織を変えることなく、第1の織物層18及び第2の織物層19の厚みの微調整が可能になる。
【0061】
(4)スリット20を挟んで存在する第1の織物層18及び第2の織物層19であっても、緯糸13間のピッチを調整し、緯糸13の厚みを調整することで、第1の織物層18及び第2の織物層19を所望する厚みに調整できる。したがって、スリット20を挟んだ第1の織物層18と第2の織物層19とで厚みを異ならせることが可能となり、筒状等に成型された繊維構造体11の周壁部分の厚みを任意の値に調節できる。
【0062】
(5)第1の織物層18での第1の結束糸15aの糸間距離K3は、第2の織物層19での第2の結束糸15bの糸間距離K3より短くなっている。これは、第1の織物層18の第1のピッチP1が、第2の織物層19の第2のピッチP2よりも狭いことを示している。このことからも、第1の織物層18の厚みが第2の織物層19の厚みより厚くなっていることが判別できる。
【0063】
(6)織機60によって繊維構造体11を製造するが、緯糸13の筬打ちによって第1の織物層18と第2の織物層19で緯糸13のピッチを調整し、第1の織物層18と第2の織物層19の厚みを微調整することができる。その結果、緯糸13の層を追加又は削除して厚みを調整する場合のように、使用する材料の増減なく厚みを調整することができる。
【0064】
(7)繊維構造体11を強化基材とした繊維強化複合材10は、第1の織物層18と第2の織物層19とで同じ繊度の緯糸13及び経糸14を使いつつ、第1の織物層18及び第2の織物層19の厚みが微調整可能である。よって、得られる繊維強化複合材10において、第1の織物層18及び第2の織物層19を強化基材とした部分についての厚みの微調整が可能となる。
【0065】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 第1の織物層18において第1方向Y1に沿って第1緯糸13aの厚みを異ならせ、第1方向Y1に沿って第1の織物層18の厚みを異ならせてもよい。同様に、第2の織物層19において第1方向Y1に沿って第2緯糸13bの厚みを異ならせ、第1方向Y1に沿って第2の織物層19の厚みを異ならせてもよい。この場合、第1の織物層18を通る第1の結束糸15a同士の糸間距離K3も第1緯糸13aの厚みに応じて異なり、第2の織物層19を通る第2の結束糸15b同士の糸間距離K3も第2緯糸13bの厚みに応じて異なる。
【0066】
○ 繊維構造体11は、第1拘束部16aと第2拘束部16bとを備える形態でなくてもよい。例えば、繊維構造体11は、第1拘束部16aだけを備え、第1拘束部16aから第1の織物層18と第2の織物層19が二股状に別れる形態であってもよい。この場合、分断部分はスリット20として存在しない。
【0067】
○ 実施形態では、隣り合う緯糸13のピッチを異ならせて第1の織物層18及び第2の織物層19の厚みを調整したが、隣り合う経糸14のピッチを異ならせて第1の織物層18及び第2の織物層19の厚みを調整してもよい。例えば、第1の織物層18の経糸14は、第2の織物層19の経糸14より糸の厚みが厚く、第1の織物層18における経糸14のピッチが、第2の織物層19における経糸14のピッチより狭くてもよい。
【0068】
又は、第1の織物層18の経糸14及び緯糸13は、第2の織物層19の緯糸13及び経糸14より糸の厚みが厚く、第1の織物層18における緯糸13及び経糸14のピッチが、第2の織物層19における緯糸13及び経糸14のピッチより狭くてもよい。
【0069】
○ 実施形態では、第2の織物層19の緯糸13は、筬打ち時に押し潰されなかったが、第2の織物層19の緯糸13を押し潰して厚み調整してもよい。
○ 繊維構造体11において、拘束部と非拘束部の配置は適宜変更してもよい。
【0070】
○ 実施形態では、巻取りローラ63による織布Tの移動速度を調節することで、筬打ち場所Pからの緯糸13の突出量を調節して緯糸13を押し潰すようにしたが、押し潰す方法は変えてもよい。例えば、筬打ちストロークを変えて緯糸13を押し潰す量を調節してもよい。
【0071】
○ 繊維構造体11において、積層する緯糸層及び経糸層の数や積層する緯糸層及び経糸層の順番は適宜変更してもよい。
○ 繊維構造体11を繊維強化複合材10の強化基材として使用する場合、マトリックス樹脂の種類や繊維強化複合材10の製造方法に、特に規制はない。
【0072】
○ 緯糸13及び経糸14を構成する繊維束は、繊維強化複合材10に要求される物性に対応して、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の高強度の有機繊維、ガラス繊維やセラミック繊維等の無機繊維を使用してもよい。
【0073】
○ 緯糸13及び経糸14は、連続糸ではなく紡績糸であってもよい。
○ 緯糸13及び経糸14は、同じ繊度の糸でなくてもよく、繊度の異なる糸であってもよい。
【0074】
○ 緯入れされる緯糸13は横長扁平状に限らない。例えば、緯糸13は扁平形状や円形状、縦長扁平状であってもよい。
○ 第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは強化繊維で構成されていてもよい。
【0075】
○ 第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bは緯糸の一つであってもよい。
○ 第1の結束糸15a及び第2の結束糸15bによる折り返しは、多層織物の厚み方向両端の最外層で折り返されていなくてもよく、途中で折り返されていてもよい。
【0076】
○ 第1の織物層18における第1緯糸13aの本数と、第2の織物層19における第2緯糸13bの本数の比は実施形態に限定されず、適宜変更してもよい。このとき、第1緯糸13a及び第2緯糸13bの緯入れの順番や第1移動量K1及び第2移動量K2の大きさも適宜変更してもよい。
【0077】
○ 経糸14を結束糸として繊維構造体11を拘束してもよい。このとき、経糸14は、第1緯糸層21、第2緯糸層22、第3緯糸層23、及び第4緯糸層24を厚み方向に結合する。
【0078】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
(1)前記第1の織物層と前記第2の織物層とで糸の断面形状が異なる繊維構造体。