(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
連続搬送される金属板を、一端が溶融金属めっき浴に浸漬されたスナウト内を通して前記溶融金属めっき浴に浸漬させて、前記金属板にめっきする溶融金属めっき装置であって、
前記スナウトは、前記溶融金属めっき浴の浴面に対して傾斜して設置され、
前記スナウト内の前記溶融金属めっき浴の浴面の位置には、
前記溶融金属めっき浴に進入する前記金属板に対して溶融金属を吐出する吐出ノズルと、
前記金属板の幅方向に前記金属板を挟んで前記吐出ノズルと対向し、前記溶融金属を吸引する吸引ノズルと、
が設置されており、
前記吐出ノズルは、
前記金属板に対して前記溶融金属めっき装置のフロント側とバック側とにそれぞれ位置するように配置された2つの吐出口を有するヘッド部と、前記ヘッド部から前記スナウトの傾斜に沿って前記溶融金属めっき浴に浸漬される配管と、を有し、
前記配管と前記ヘッド部との接合位置は、前記吐出口の中間位置より前記フロント側にある、溶融金属めっき装置。
2つの前記吐出口の中心間距離を2L、前記吐出口の中間位置と前記接合位置との距離をDとしたとき、前記接合位置は、D/Lが0.4以上となる範囲内に設けられている、請求項1に記載の溶融金属めっき装置。
連続搬送される金属板を、一端が溶融金属めっき浴に浸漬されたスナウト内を通して前記溶融金属めっき浴に浸漬させて、前記金属板にめっきする溶融金属めっき方法であって、
前記スナウトは、前記溶融金属めっき浴の浴面に対して傾斜して設置され、
前記スナウト内の前記溶融金属めっき浴の浴面の位置には、
前記金属板に対して前記溶融金属めっき装置のフロント側とバック側とにそれぞれ位置するように配置された2つの吐出口を有するヘッド部と、前記ヘッド部から前記スナウトの傾斜に沿って前記溶融金属めっき浴に浸漬される配管と、を有し、前記配管と前記ヘッド部との接合位置が、前記吐出口の中間位置より前記フロント側に位置するように構成された、溶融金属を吐出する吐出ノズルと、
前記金属板の幅方向に前記金属板を挟んで前記吐出ノズルと対向し、前記溶融金属を吸引する吸引ノズルと、
が設置されており、
前記吐出ノズルから溶融金属を吐出し、前記吐出ノズルと対向する前記吸引ノズルにより前記溶融金属を吸引して、前記溶融金属めっき浴に前記金属板が進入する位置における前記スナウト内の浴面を流動させる、溶融金属めっき方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
<1.溶融金属めっき装置の全体構成>
まず、
図1及び
図2に基づいて、本発明の一実施形態に係る溶融金属めっき装置(連続溶融金属めっき装置)の全体構成の一例について、詳細に説明する。
図1は、溶融金属めっき装置100の構成例を模式的に示した説明図であり、溶融金属めっき装置100を側方(金属板Sの幅方向)から見た模式図を示している。
図2は、本実施形態に係る溶融金属めっき装置100のスナウト120内部の状態を示した模式図であり、下図は装置前方(金属板Sの板厚方向)から見た模式図であり、上図は下図のI−I切断線において上部側から見た模式図である。
【0018】
溶融金属めっき装置100は、例えば溶融亜鉛等の溶融金属5が収容されているめっき槽101と、スナウト120と、シンクロール130と、ガスワイピング装置140とを備える。溶融金属めっき装置100の前段に設けられている焼鈍炉110は、内部が還元性雰囲気に維持されており、連続搬送される鋼板等の金属板Sを加熱する。かかる焼鈍炉110によって、金属板Sの表面が活性化され、また、金属板Sの機械的性質が調整される。
【0019】
かかる焼鈍炉110の出側端部は、ターンダウンロール111が設けられた空間を経由して、スナウト120の上流側の端部に接続されている。スナウト120は、上流側の端部が焼鈍炉110の出側端部に接続され、下流側の端部が溶融金属5中に斜め上方から浸漬されている。かかるスナウト120の内部は大気雰囲気から遮断され、還元性雰囲気に維持されている。また、スナウト120の前段に位置する焼鈍炉110の内部についても、大気雰囲気から遮断されている。スナウト120は、一般的に、金属板の通板方向に対して直交する方向の断面が長方形を成す。本明細書において、溶融金属めっき装置100の「フロント」とは、スナウト120に対してガスワイピング装置140が位置する方向を意味し、溶融金属めっき装置100の「バック」とは、ガスワイピング装置140に対してスナウト120が位置する方向を意味する。
【0020】
ターンダウンロール111により通板方向が下向きに変えられた金属板Sは、スナウト120の内部を通過して、めっき槽101に保持されている溶融金属5へと連続的に浸漬される。かかるめっき槽101の内部には、シンクロール130が設けられている。シンクロール130は、金属板Sの幅方向に平行な回転軸を有しており、シンクロール130の外周面における、回転軸に沿う方向の幅は、金属板Sの幅以上となっている。かかるシンクロール130により、金属板Sの通板方向が上向きに変えられる。
【0021】
ガスワイピング装置140は、めっき槽101から導出される金属板Sの両面に対してガスを吹き付けることにより、金属板Sの表面に付着した溶融金属めっきの一部を掻き落とす。これにより、金属板Sの表面の溶融金属めっきの付着量が調整される。このとき、めっき槽101から導出される金属板Sは、両面に付着する溶融金属めっきの付着量を調整しやすくするために、めっき槽101から略垂直に導出される。
【0022】
シンクロール130によって通板方向を垂直方向に上向きに変えて金属板Sを導出するためには、シンクロール130はガスワイピング装置140の下方に配置される。溶融金属5内に浸漬させる金属板Sが通過するスナウト120は、ガスワイピング装置140を避けて配置されることが必要であり、シンクロール130の斜め上方に位置する。このため、シンクロール130に向けて搬送される金属板Sは、溶融金属5の浴面に対して斜め方向から進入させられる。これに伴って、スナウト120も、内部空間が金属板Sの通板方向に対して略平行となるように設けられている。
【0023】
このときの金属板Sの進入角度は、例えば50〜70°の範囲内の値とされる。金属板Sの進入角度が大きすぎると、金属板Sの周りを囲むスナウト120がガスワイピング装置140に緩衝するおそれがある。また、金属板Sの進入角度が小さすぎると、めっき槽101を大きくする必要が生じる。したがって、金属板Sの通板方向と略平行に設けられるスナウト120も、全体的に50〜70°程度傾いている。
【0024】
図1に示した溶融金属めっき装置100は、例えば50m/分以上の、比較的高速の通板速度下で使用される。金属板Sの通板速度が速くなるほど、スナウト120内の溶融金属5の浴面近傍では、溶融金属5に進入する金属板Sに付随して溶融金属5が引き込まれることによる随伴流が生成されやすくなる。そのため、溶融金属5の浴面に浮遊しているスカム等の異物が、随伴流に乗って引き込まれて金属板Sに付着しやすくなる。このため、本実施形態に係る溶融金属めっき装置100は、
図2に示すように、スナウト120内の溶融金属5の浴面近傍に、金属板Sを幅方向に挟むように、溶融金属を吐出する吐出ノズル150と、溶融金属を吸引する吸引ノズル160とが設けられている。吐出ノズル150からの溶融金属の吐出により、板厚方向(Y方向)に金属板Sを挟むように、吐出ノズル150側から吸引ノズル160側へ向かう吐出流が形成される。これにより、ダスト等の異物を含むスナウト120内の溶融金属5が吸引ノズル160に接続されたメタルポンプ等のポンプにより吸引され、スナウト120の外側へと排出される。
【0025】
<2.吐出ノズルの構成>
本実施形態に係る溶融金属めっき装置100では、
図2に示したように、スナウト120の内部に吐出ノズル150及び吸引ノズル160を設けることで、スナウト120内のめっき浴の浴面付近に浮遊する異物をスナウト120内部のめっき浴から除く。ここで、金属板Sを浴面に対して傾斜するようにめっき浴へ進入させることから、スナウト120は、金属板Sの傾斜に対して略平行となるように傾斜して配置される。そこで、本実施形態に係る溶融金属めっき装置100では、吐出ノズル150及び吸引ノズル160の配管を、浴面に対して傾斜配置されたスナウト120と干渉しないように傾斜させる。そして、吐出ノズル150からの吐出流が均一となるように、溶融金属を吐出する吐出ノズル150の吐出口を有するヘッド部に対して、ヘッド部へ供給される溶融金属が流通する配管を、2つの吐出口の中間位置から前方(すなわち、溶融金属めっき装置100のフロント側)にシフトさせた位置に接合する。
【0026】
なお、以下の説明において、スナウト120において、溶融金属めっき装置100のバック側に位置する部分をバック部121、バック部121と対向し、溶融金属めっき装置100のフロント側に位置する部分をフロント部123とする(
図3参照)。また、バック部121とフロント部123との対向方向を前後方向(Y方向)、スナウト120内を通板される金属板Sの板幅方向に対応し、前後方向に対して直交する方向を幅方向(X方向)とする。
【0027】
[2−1.配管シフトによる作用]
まず、
図3及び
図4に基づいて、本実施形態に係る吐出ノズル150において、配管をフロント側へずらしてヘッド部に接合する理由について説明する。
図3は、本実施形態に係る溶融金属めっき装置100の吐出ノズル150の比較構成として、ヘッド部51の2つの吐出口の中間位置に配管53が接合された吐出ノズル50を示す説明図である。
図4は、本実施形態に係る溶融金属めっき装置100の吐出ノズル150の構成を示す説明図である。
図3及び
図4は、いずれも吸引ノズル側から幅方向(X方向)に吐出ノズルを見た状態を示している。
【0028】
本実施形態に係る吐出ノズル150は、金属板Sの幅方向(X方向)に溶融金属5を吐出する。吐出ノズル150からの吐出流は、金属板Sの前面側と背面側とを流れ、金属板Sを挟んで幅方向(X方向)に対向する吸引ノズル160側へ向かう。このとき、吐出流による浴面流速は、スナウト120内の浴面付近に浮遊する異物が金属板Sの表面に付着しないように、金属板Sの前面側と背面側とで略均一となることが望ましい。このため、本実施形態に係る吐出ノズル150は、
図4に示すように、ヘッド部151の金属板S側の面に、溶融金属を吐出する2つの吐出口155f、155bを前後方向(Y方向)に並んで配置している。フロント側吐出口155fは、金属板Sの前面に沿って溶融金属を吐出し、バック側吐出口155bは、金属板Sの背面に沿って溶融金属を吐出する。このように、2つの吐出口155f、155bを設けることで、金属板Sの前面側と背面側の浴面流速が略均一となりやすくなる。
【0029】
ここで、上述したように、スナウト120は溶融金属めっき浴の浴面に対して傾斜設置されるため、吐出ノズル150のヘッド部151に接合される配管153及び吸引ノズル160の配管は、スナウト120との干渉を回避するため、スナウト120の傾斜に合わせて、スナウト120と略平行となるように50〜70°程度傾斜させて配置される。しかし、吐出ノズル150の配管153の傾斜は、吐出流速に影響を及ぼし、浴面流速を不均一にする要因となる。
【0030】
例えば、
図3に示すように、ヘッド部151と配管153とを、ヘッド部151の2つの吐出口の中間位置にて接合させたとする。このとき、配管153内をヘッド部151に向かって上昇して流れる溶融金属は2つの吐出口155f、155bから吐出されるが、配管153は浴面に対して垂直な状態からスナウト120のバック部121に(
図3においては反時計回りに)傾斜されているため、フロント側吐出口155fよりもバック側吐出口155bから吐出される溶融金属の吐出量が多くなる。その結果、フロント側吐出口155fからの吐出流速が、バック側吐出口155bからの吐出流速よりも小さくなり、スナウト120内の溶融金属5の浴面流れが不均一となる。このため、一般的に、スナウト120のフロント部123側に起因する欠陥が多く発生している。
【0031】
そこで、本実施形態では、
図4に示すように、吐出ノズル150のヘッド部151と配管153との接合位置を、ヘッド部151の2つの吐出口の中間位置よりもフロント側とする。これにより、ヘッド部151と配管153との接合位置がヘッド部151の2つの吐出口の中間位置にある場合よりも、配管153を流れてきた溶融金属がフロント側吐出口155fから吐出され易くなる。その結果、フロント側吐出口からの溶融金属の吐出量が増加され、フロント側吐出口155fとバック側吐出口155bとで吐出流速を均一にすることができる。
【0032】
[2−2.具体的構成]
図5及び
図6に基づき、本実施形態に係る吐出ノズル150の具体的な構成を説明する。
図5は、本実施形態に係る吐出ノズル150の具体的構成を示す平面図及び側面図である。
図6は、ヘッド部151の2つの吐出口の中間位置からの配管153の接合位置のシフト量と、2つの吐出口155f、155bからの吐出流速比との関係との関係を示すグラフである。
【0033】
本実施形態に係る吐出ノズル150は、
図5に示すように、溶融金属を吐出する吐出口155f、155bを有するヘッド部151と、吐出口155f、155bから吐出される溶融金属が流通する配管153とからなる。
【0034】
ヘッド部151は、
図2に示したように、2つの吐出口155f、155bがスナウト120内の金属板Sと対向するように、めっき浴の浴面付近に配置される。このとき、フロント側吐出口155fとバック側吐出口155bとで金属板Sを前後方向(Y方向)に挟むように吐出ノズル150を設置して、フロント側吐出口155fからの吐出流が金属板Sの前面に沿って流れ、バック側吐出口155bからの吐出流が金属板Sの背面に沿って流れるようにする。本実施形態では、フロント側吐出口155f及びバック側吐出口155bの開口形状は円形であり、その口径は同一とするが、本発明はかかる例に限定されず、各吐出口からの吐出流速比が後述の範囲内であれば、開口形状は楕円形、多角形であってもよく、その開口面積も厳密に同一でなくてもよい。
【0035】
配管153は、例えばヘッド部151の底面(Z軸負方向側の面)に接合される。配管153は、ヘッド部151との接合位置から下方(Z軸負方向側)に向かうにつれて前方(Y軸正方向側)へ向かうように傾斜している。配管153は、例えば断面形状が円形の円筒であってもよい。なお、配管153の断面形状はかかる例に限定されず、例えば楕円形状の断面を有する筒状部材や多角形状の断面を有する中空の角管等を用いてもよい。また、配管153の開口面積は、特に限定されないが、圧力損失を最小とするため、配管153の周囲に配置されている装置等と干渉しない範囲で大きくするのがよい。
【0036】
本実施形態において、ヘッド部151と配管153との接合位置は、2つの吐出口155f、155bの中間位置C
1より、フロント側吐出口155f側に距離D(「シフト量D」ともいう。)だけシフトした位置に設けられる。接合位置をフロント側へずらすことで、2つの吐出口155f、155bの中間位置C
1に接合位置を設けた場合に吐出流速が弱くなるフロント側吐出口155fからの吐出流を、バック側吐出口155bからの吐出流と同等の吐出流速にする。
【0037】
より詳細には、2つの吐出口155f、155bの中心間距離を2L、吐出口155f、155bの中間位置C
1からの接合位置のシフト量をDとしたとき、接合位置は、D/Lが0.4以上となる範囲内に設けるようにする。なお、接合位置は、2つの吐出口155f、155bの高さ方向(Z方向)における中心位置C
2と配管153の中心C
3との交点として考える。
【0038】
D/Lが0.4以上となる範囲は、
図6に示すD/Lと2つの吐出口155f、155bからの吐出流速比との関係より、各吐出口155f、155bからの吐出流速が同程度とみなせる吐出流速比が1.1以下となるD/Lの範囲である。
図6に示すように、D/Lの値が大きくなるにつれて2つの吐出口155f、155bの吐出流速比は小さくなり、D/Lが0.67のときに吐出流速比が1に近づく。さらにD/Lの値が大きくなると吐出流速比は僅かに大きくなるが、1に近い値から大きく変化することはない。したがって、D/Lが0.4以上となるようにヘッド部151と配管153との接合位置を設定することで、各吐出口155f、155bからの吐出流による浴面流速を略同一にすることができる。
【0039】
なお、接合位置のシフト量Dの上限は、配管153がスナウト120のフロント部123に接触しない範囲であればよい。例えば、配管153がヘッド部151の底面に接合されている場合には、シフト量Dの上限は、スナウト120のフロント部123に接触せず、かつ、吐出口155f、155bの中間位置C
1からヘッド部151のフロント側端部に最も寄せた位置までの距離となる。このとき、接合位置は、フロント側吐出口155fよりもフロント側へずれていてもよい。また、配管153は、ヘッド部151の側面に接合されてもよく、この場合にも、配管153は、スナウト120のフロント部123に接触しないように設けられていればよい。
【0040】
D/Lと吐出流速比との関係は、配管153の傾斜角度によって変動するが、50〜70°の範囲においては略一定であり、その変動は無視できる程度のものである。すなわち、配管153の傾斜角度が50〜70°においては、D/Lが0.4以上となるように配管153を接合位置からフロント側へシフトさせることで、各吐出口155f、155bからの吐出流による浴面流速を略同一にすることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本実施形態に係る溶融金属めっき装置100の吐出ノズル150の構成により浴面流速分布が均一となることを検証するため、2つの吐出口を有する吐出ノズルの吐出口の口径またはヘッド部と配管との接合位置を変化させたときの浴面流速分布について数値流体解析を実施した。
【0042】
まず、上記
図3に示したように、フロント側吐出口55fとバック側吐出口55bとの口径を同一とし、2つの吐出口55f、55bの中間位置に配管53を接合させたとき、溶融金属は、バック側吐出口55bから優先的に吐出され、フロント側吐出口55fからの吐出が弱い傾向にあった。
【0043】
[比較例]
まず、2つの吐出口55f、55bの口径比を変更したときの各吐出口55f、55bからの浴面流速分布を調べた。
【0044】
比較例Aとして、吐出の弱いフロント側吐出口55fの口径を拡大した場合を検証した。その結果を
図7及び
図8に示す。
図7は、比較例Aにおけるノズル径比、ノズル形状の模式図、及び、各吐出口55f、55bから吸引ノズル60へ向かう浴面流速分布を表す浴面コンター図を示す説明図である。ノズル形状の模式図は、吐出ノズル50を吐出ノズル50側から吸引ノズル60を見たときの状態を示しており、浴面コンター図は、スナウト内部における浴面を上方からみた状態を示している。
図8は、比較例Aにおけるフロント側吐出口55fの口径を拡大した場合のノズル径比と流量比及び吐出流速比とを示すグラフである。
図7及び
図8において、ノズル径比が1の場合は、2つの吐出口55f、55bが同一口径である場合であり、ノズル径比が0.8の場合は、バック側吐出口55bの形状は変化させず、フロント側吐出口55fの口径を拡大した場合である。また、
図7の浴面コンター図においては、色が薄い部分ほど浴面流速が大きいことを示している。
【0045】
図8に示すように、フロント側吐出口55fの口径を拡大した場合、溶融金属の吐出流量を大きくすることはできる。しかし、開口部分の断面積増加に伴い、吐出流速比は2つの吐出口55f、55bの口径が同一である場合よりも低下する結果となった。また、
図7の浴面コンター図より、浴面流速分布のバック側とフロント側との差も拡大した。
【0046】
次に、比較例Bとして、吐出が強いバック側吐出口55bの径を縮小した場合を検証した。その結果を
図9及び
図10に示す。
図9は、比較例Bにおけるノズル径比、ノズル形状の模式図、及び、各吐出口55f、55bからの浴面流速分布を表す浴面コンター図を示す説明図である。
図10は、比較例Bにおけるバック側吐出口55bの口径を縮小した場合のノズル径比と流量比及び吐出流速比とを示すグラフである。
図9及び
図10において、ノズル径比が1の場合は、2つの吐出口55f、55bが同一口径である場合であり、ノズル径比が0.8、0.625の場合は、フロント側吐出口55fの形状は変化させず、バック側吐出口55bの口径を縮小した場合である。また、
図9においても、浴面コンター図では色が薄い部分ほど浴面流速が大きいことを示している。
【0047】
バック側吐出口55bの口径を縮小した場合、
図10に示すように、各吐出口55f、55bから吐出される溶融金属の流量比は、ノズル径比が小さくなるにつれて小さくなり、吐出流速比も、2つの吐出口55f、55bの口径が同一である場合よりも1に近づき若干改善した。
図9に示す浴面コンター図からも、浴面流速分布のバック側とフロント側との差が若干改善している。
【0048】
この結果は、配管53からヘッド部51へ供給される溶融金属のうち、フロント側吐出口55fへの溶融金属の配分量が増加し、さらに、フロント側吐出口55fの断面積が不変であることから、フロント側吐出口55fの吐出流速も増加させることができたと考えられる。しかし、吐出口の口径を縮小することは、溶融金属の合金層付着によるノズルの詰まりを誘発するため望ましくない。このようなノズル閉塞のリスクを考えると、各吐出口55f、55bから吐出される溶融金属の吐出流速比の改善効果は小さく、有効な対策とは言えない。
【0049】
[実施例]
一方で、上記比較例A、Bの解析結果より、浴面流速分布、より具体的には各吐出口からの吐出流の到達距離は、溶融金属の流量ではなく、吐出流速に依存することが明確となった。例えば、
図9のノズル径比0.625の場合には、フロント側吐出口55fからの吐出流量はバック側吐出口55bからの吐出流量より大きくなったにも関わらず、吐出流の到達距離は、浴面コンター図よりバック側吐出口55bからの吐出流の方が長くなっている。
【0050】
以上の比較例A、Bの解析結果より、i)スナウト120内の浴面流れの均一化には吐出口からの流量でなく流速が重要である、ii)吐出口の口径比を変化させるだけではスナウト120内の浴面流れの均一化は達成できない、という知見を得た。これらを踏まえて、本願発明者らは、2つの吐出口からの溶融金属の吐出によって形成される浴面流速を均一化するため、吐出口の口径比を変化させることに頼らず、傾斜してめっき浴に挿入される配管153と浴面に対して水平に設置されるヘッド部151との接合位置を、2つの吐出口155f、155bの中間位置からシフトさせる構成を想到した。
【0051】
図11及び
図12に、2つの吐出口155f、155b(55f、55b)の口径は同一として、ヘッド部151(51)と配管153(53)との接合位置を、2つの吐出口の中間位置とした場合(D/L=0.00(配管シフトなし))と、2つの吐出口の中間位置からフロント側にシフトした場合(D/L=0.67(配管シフトあり))とについて検証した結果を示す。
図11は、配管シフト有無による浴面流速分布を検証した時の、ノズル径比、配管シフト量、ノズル形状の模式図、及び、各吐出口からの浴面流速分布を表す浴面コンター図を示す説明図である。
図12は、配管シフト有無による流量比及び吐出流速比を示すグラフである。配管の傾斜角度(すなわち、スナウト120の浸漬角度)は60°であった。また、
図12においても、浴面コンター図では色が薄い部分ほど浴面流速が大きいことを示している。
【0052】
図11に示すように、2つの吐出口の中間位置からヘッド部と配管との接合位置をシフトさせた場合、浴面コンター図より、ヘッド部と配管との接合位置を2つの吐出口の中間位置に設けた場合(すなわち、配管シフトなしの場合)と比較して、フロント側吐出口155fからの吐出流及びバック側吐出口155bからの吐出流の到達距離が長くなっていることがわかる。また、
図12より、ヘッド部と配管との接合位置をシフトさせることで、流量比及び吐出流速比共にバック側とフロント側とでの差がほぼなくなり、均一な吐出流が形成されることがわかる。
【0053】
以上より、本実施形態のように2つの吐出口の中間位置からヘッド部と配管との接合位置をD/Lが0.4以上となるように設定することで、均一な吐出流を形成できることがわかる。なお、配管のシフト量の適切な値は、実際には、スナウトの浸漬角度、吐出口の中心間距離、吐出口の開口形状等によって変化するため、数値流体解析または水モデル等の模型実験または実機試験により決定するのが望ましい。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
例えば、上記実施形態では、吐出ノズル150には2つの吐出口155f、155bを設ける構成としたが、本発明はかかる例に限定されない。吐出ノズルの吐出口は複数であればよく、例えば3つ以上であってもよい。このとき、各吐出口は、スナウトのバック部とフロント部とが対向する前後方向に配列される。また、吐出ノズルの配管は、例えば前後方向の両端にある吐出口の中間位置よりもフロント側へシフトするようにしてもよい。実際には、各吐出口からの吐出流が略均一となるように、数値流体解析あるいは実験により配管のシフト量を決定するのがよい。