(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記データ格納部は、音源から前記被測定者の左耳までの空間音響伝達特性に関する第1のプリセットデータと、音源から前記被測定者の左耳の外耳道伝達特性に関する第2のプリセットデータとを対応付けて、左耳のデータセットとして記憶しており、
前記データ格納部は、音源から前記被測定者の右耳までの空間音響伝達特性に関する第1のプリセットデータと、音源から前記被測定者の右耳の外耳道伝達特性に関する第2のプリセットデータとを対応付けて、右耳のデータセットとして記憶しており、
前記比較部は、前記ユーザの左耳の外耳道伝達特性に関する測定データに基づくユーザデータを、前記左耳のデータセットの前記第2のプリセットデータ、及び前記右耳のデータセットの前記第2のプリセットデータとそれぞれ比較し、
前記第1のプリセットデータは、前記空間音響伝達特性の前記被測定者の左耳と右耳との時間差である遅延量を含む、
請求項1、または2に記載の頭外定位フィルタ決定システム。
前記比較部は、前記ユーザデータの前記第1及び前記第2の特徴量を前記第2のプリセットデータの前記第1及び第2の特徴量とそれぞれ比較し、所定の重み付けをして前記類似度スコアを算出する、請求項1または2に記載の頭外定位フィルタ決定システム。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(概要)
まず、音像定位処理の概要について説明する。ここでは、音像定位処理装置の一例である頭外定位処理について説明する。本実施形態にかかる頭外定位処理は、空間音響伝達特性と外耳道伝達特性を用いて頭外定位処理を行うものである。空間音響伝達特性は、スピーカなどの音源から外耳道までの伝達特性である。外耳道伝達特性は、外耳道入口から鼓膜までの伝達特性である。本実施形態では、ヘッドホンを装着した状態での外耳道伝達特性を測定し、その測定データを用いて頭外定位処理を実現している。
【0019】
本実施の形態にかかる頭外定位処理は、パーソナルコンピュータ、スマートホン、タブレットPCなどのユーザ端末で実行される。ユーザ端末は、プロセッサ等の処理手段、メモリやハードディスクなどの記憶手段、液晶モニタ等の表示手段、タッチパネル、ボタン、キーボード、マウスなどの入力手段を有する情報処理装置である。ユーザ端末は、データを送受信する通信機能を有している。さらに、ユーザ端末には、ヘッドホン又はイヤホンを有する出力手段(出力ユニット)が接続される。
【0020】
高い定位効果を得るには、ユーザ本人の特性を測定して頭外定位フィルタを生成する必要がある。ユーザ個人の空間音響伝達特性は、スピーカ等の音響機材や室内の音響特性が整えられたリスニングルームで行われることが一般的である。すなわち、ユーザがリスニングルームに行くか、ユーザの自宅などにリスニングルームを準備する必要がある。このため、ユーザ個人の空間音響伝達特性を適切に測定することができない場合がある。
【0021】
また、ユーザの自宅などにスピーカを設置してリスニングルームを準備した場合でも、左右非対称にスピーカが設置されている場合や、部屋の音響環境が音楽聴取に最適でない場合がある。このような場合、自宅で適切な空間音響伝達特性を測定することは大変困難である。
【0022】
一方、ユーザ個人の外耳道伝達特性の測定は、マイクユニット、及びヘッドホンを装着した状態で行われる。すなわち、ユーザがマイクユニット、及びヘッドホンを装着していれば、外耳道伝達特性を測定することができる。ユーザがリスニングルームに行く必要や、ユーザの家に大がかりなリスニングルームを準備する必要がない。また、外耳道伝達特性を測定するための測定信号の発生や、収音信号の記録などはスマートホンやパソコンなどのユーザ端末を用いて、行うことができる。
【0023】
このように、ユーザ個人に対して、空間音響伝達特性の測定を実施することが困難である場合がある。そこで、本実施の形態にかかる頭外定位処理システムは、外耳道伝達特性の測定結果に基づいて、空間音響伝達特性に応じたフィルタを決定している。すなわち、ユーザ個人の外耳道伝達特性の測定結果に基づいて、ユーザに適した頭外定位処理フィルタを決定している。
【0024】
具体的には、頭外定位処理システムは、ユーザ端末と、サーバ装置とを備えている。ユーザ以外の複数の被測定者に対して事前に測定された空間音響伝達特性及び外耳道伝達特性をサーバ装置が格納しておく。すなわち、ユーザ端末とは異なる測定装置を用いて、音源としてスピーカを用いた空間音響伝達特性の測定(以下、第1の事前測定とも称する)と、ヘッドホンを用いた外耳道伝達特性の測定(第2の事前測定とも称する)を、行う。第1の事前測定及び第2の事前測定は、ユーザ以外の被測定者に対して実施される。
【0025】
サーバ装置は、第1の事前測定の結果に応じた第1のプリセットデータと、第2の事前測定の結果に応じた第2のプリセットデータとを格納している。複数の被測定者に対して第1及び第2の事前測定を行うことで、複数の第1のプリセットデータと、複数の第2のプリセットデータとが取得される。空間音響伝達特性に関する第1のプリセットデータと、外耳道伝達特性に関する第2のプリセットデータとを、サーバ装置が、被測定者毎に対応付けて記憶する。サーバ装置は、データベースに、複数の第1のプリセットデータと、複数の第2のプリセットデータとを格納している。
【0026】
さらに、頭外定位処理を実行するユーザ個人に対しては、ユーザ端末を用いて、外耳道伝達特性のみを測定する(以下、ユーザ測定とする)。ユーザ測定は、第2の事前測定と同様に、音源としてヘッドホンを用いた測定である。ユーザ端末は、外耳道伝達特性に関する測定データを取得する。そして、ユーザ端末は、測定データに基づくユーザデータをサーバ装置に送信する。サーバ装置は、ユーザデータを複数の第2のプリセットデータとそれぞれ比較する。サーバ装置は、比較結果に基づいて、複数の第2のプリセットデータの中からユーザデータとの相関が高い第2のプリセットデータを決定する。
【0027】
そして、サーバ装置は、相関の高い第2のプリセットデータに対応付けられた第1のプリセットデータを読み出す。すなわち、サーバ装置は、比較結果に基づいて、複数の第1のプリセットデータの中から、ユーザ個人に適した第1のプリセットデータを抽出する。サーバ装置は、抽出した第1のプリセットデータをユーザ端末に送信する。そして、ユーザ端末は、第1のプリセットデータに基づくフィルタと、ユーザ測定に基づく逆フィルタとを用いて、頭外定位処理を行う。
【0028】
(頭外定位処理装置)
まず、本実施の形態にかかる音場再生装置の一例である頭外定位処理装置100を
図1に示す。
図1は、頭外定位処理装置100のブロック図である。頭外定位処理装置100は、ヘッドホン43を装着するユーザUに対して音場を再生する。そのため、頭外定位処理装置100は、LchとRchのステレオ入力信号XL、XRについて、音像定位処理を行う。LchとRchのステレオ入力信号XL、XRは、CD(Compact Disc)プレイヤーなどから出力されるアナログのオーディオ再生信号、又は、mp3(MPEG Audio Layer-3)等のデジタルオーディオデータである。なお、頭外定位処理装置100は、物理的に単一な装置に限られるものではなく、一部の処理が異なる装置で行われてもよい。例えば、一部の処理がパソコンなどにより行われ、残りの処理がヘッドホン43に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)などにより行われてもよい。
【0029】
頭外定位処理装置100は、頭外定位処理部10、フィルタ部41、フィルタ部42、及びヘッドホン43を備えている。頭外定位処理部10、フィルタ部41、及びフィルタ部42は後述する演算処理部120を構成し、具体的にはプロセッサにより実現可能である。
【0030】
頭外定位処理部10は、畳み込み演算部11〜12、21〜22、及び加算器24、25を備えている。畳み込み演算部11〜12、21〜22は、空間音響伝達特性を用いた畳み込み処理を行う。頭外定位処理部10には、CDプレイヤーなどからのステレオ入力信号XL、XRが入力される。頭外定位処理部10には、空間音響伝達特性が設定されている。頭外定位処理部10は、各chのステレオ入力信号XL、XRに対し、空間音響伝達特性のフィルタ(以下、空間音響フィルタとも称する)を畳み込む。空間音響伝達特性は被測定者の頭部や耳介で測定した頭部伝達関数HRTFでもよいし、ダミーヘッドまたは第三者の頭部伝達関数であってもよい。
【0031】
4つの空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを1セットとしたものを空間音響伝達関数とする。畳み込み演算部11、12、21、22で畳み込みに用いられるデータが空間音響フィルタとなる。空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsのそれぞれは、後述する測定装置を用いて測定されている。
【0032】
そして、畳み込み演算部11は、Lchのステレオ入力信号XLに対して空間音響伝達特性Hlsに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部11は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。畳み込み演算部21は、Rchのステレオ入力信号XRに対して空間音響伝達特性Hroに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部21は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。加算器24は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部41に出力する。
【0033】
畳み込み演算部12は、Lchのステレオ入力信号XLに対して空間音響伝達特性Hloに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部12は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。畳み込み演算部22は、Rchのステレオ入力信号XRに対して空間音響伝達特性Hrsに応じた空間音響フィルタを畳み込む。畳み込み演算部22は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。加算器25は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部42に出力する。
【0034】
フィルタ部41、42にはヘッドホン特性(ヘッドホンの再生ユニットとマイク間の特性)をキャンセルする逆フィルタが設定されている。そして、頭外定位処理部10での処理が施された再生信号(畳み込み演算信号)に逆フィルタを畳み込む。フィルタ部41で加算器24からのLch信号に対して、逆フィルタを畳み込む。同様に、フィルタ部42は加算器25からのRch信号に対して逆フィルタを畳み込む。逆フィルタは、ヘッドホン43を装着した場合に、ヘッドホンユニットからマイクまでの特性をキャンセルする。マイクは、外耳道入口から鼓膜までの間ならばどこに配置してもよい。逆フィルタは、ユーザU本人の特性の測定結果から算出されている。
【0035】
フィルタ部41は、補正されたLch信号をヘッドホン43の左ユニット43Lに出力する。フィルタ部42は、補正されたRch信号をヘッドホン43の右ユニット43Rに出力する。ユーザUは、ヘッドホン43を装着している。ヘッドホン43は、Lch信号とRch信号をユーザUに向けて出力する。これにより、ユーザUの頭外に定位された音像を再生することができる。
【0036】
このように、頭外定位処理装置100は、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに応じた空間音響フィルタと、ヘッドホン特性の逆フィルタを用いて、頭外定位処理を行っている。以下の説明において、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに応じた空間音響フィルタと、ヘッドホン特性の逆フィルタとをまとめて頭外定位処理フィルタとする。2chのステレオ再生信号の場合、頭外定位フィルタは、4つの空間音響フィルタと、2つの逆フィルタとから構成されている。そして、頭外定位処理装置100は、ステレオ再生信号に対して合計6個の頭外定位フィルタを用いて畳み込み演算処理を行うことで、頭外定位処理を実行する。
【0037】
(空間音響伝達特性の測定装置)
図2を用いて、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを測定する測定装置200について説明する。
図2は、被測定者1に対して第1の事前測定を行うための測定構成を模式的に示す図である。
【0038】
図2に示すように、測定装置200は、ステレオスピーカ5とマイクユニット2を有している。ステレオスピーカ5が測定環境に設置されている。測定環境は、ユーザUの自宅の部屋やオーディオシステムの販売店舗やショールーム等でもよい。測定環境は、スピーカや音響の整ったリスニングルームであることが好ましい。
【0039】
本実施の形態では、測定装置200の処理装置201が、空間音響フィルタを適切に生成するための演算処理を行っている。処理装置201は、例えば、CDプレイヤー等の音楽プレイヤーなどを有している。処理装置201は、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末、スマートホン等であってもよい。また、処理装置201は、サーバ装置自体であってもよい。
【0040】
ステレオスピーカ5は、左スピーカ5Lと右スピーカ5Rを備えている。例えば、被測定者1の前方に左スピーカ5Lと右スピーカ5Rが設置されている。左スピーカ5Lと右スピーカ5Rは、インパルス応答測定を行うためのインパルス音等を出力する。以下、本実施の形態では、音源となるスピーカの数を2(ステレオスピーカ)として説明するが、測定に用いる音源の数は2に限らず、1以上であればよい。すなわち、1chのモノラル、または、5.1ch、7.1ch等の、いわゆるマルチチャンネル環境においても同様に、本実施の形態を適用することができる。
【0041】
マイクユニット2は、左のマイク2Lと右のマイク2Rを有するステレオマイクである。左のマイク2Lは、被測定者1の左耳9Lに設置され、右のマイク2Rは、被測定者1の右耳9Rに設置されている。具体的には、左耳9L、右耳9Rの外耳道入口から鼓膜までの位置にマイク2L、2Rを設置することが好ましい。マイク2L、2Rは、ステレオスピーカ5から出力された測定信号を収音して、収音信号を取得する。マイク2L、2Rは収音信号を処理装置201に出力する。被測定者1は、人でもよく、ダミーヘッドでもよい。すなわち、本実施形態において、被測定者1は人だけでなく、ダミーヘッドを含む概念である。
【0042】
上記のように、左右のスピーカ5L、5Rで出力されたインパルス音をマイク2L、2Rで測定することでインパルス応答が測定される。処理装置201は、インパルス応答測定により取得した収音信号をメモリなどに記憶する。これにより、左スピーカ5Lと左マイク2Lとの間の空間音響伝達特性Hls、左スピーカ5Lと右マイク2Rとの間の空間音響伝達特性Hlo、右スピーカ5Rと左マイク2Lとの間の空間音響伝達特性Hro、右スピーカ5Rと右マイク2Rとの間の空間音響伝達特性Hrsが測定される。すなわち、左スピーカ5Lから出力された測定信号を左マイク2Lが収音することで、空間音響伝達特性Hlsが取得される。左スピーカ5Lから出力された測定信号を右マイク2Rが収音することで、空間音響伝達特性Hloが取得される。右スピーカ5Rから出力された測定信号を左マイク2Lが収音することで、空間音響伝達特性Hroが取得される。右スピーカ5Rから出力された測定信号を右マイク2Rが収音することで、空間音響伝達特性Hrsが取得される。
【0043】
また、測定装置200は、収音信号に基づいて、左右のスピーカ5L、5Rから左右のマイク2L、2Rまでの空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに応じた空間音響フィルタを生成してもよい。例えば、処理装置201は、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを所定のフィルタ長で切り出す。処理装置201は、測定した空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを補正してもよい。
【0044】
このようにすることで、処理装置201は、頭外定位処理装置100の畳み込み演算に用いられる空間音響フィルタを生成する。
図1で示したように、頭外定位処理装置100が、左右のスピーカ5L、5Rと左右のマイク2L、2Rとの間の空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに応じた空間音響フィルタを用いて頭外定位処理を行う。すなわち、空間音響フィルタをオーディオ再生信号に畳み込むことにより、頭外定位処理を行う。
【0045】
処理装置201は、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsのそれぞれに対応する収音信号に対して同様の処理を実施している。すなわち、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに対応する4つの収音信号に対して、それぞれ同様の処理が実施される。これにより、空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに対応する空間音響フィルタをそれぞれ生成することができる。
【0046】
(外耳道伝達特性の測定)
次に、外耳道伝達特性を測定するための測定装置200について、
図3を用いて説明する。
図3は、被測定者1に対して第2の事前測定を行うための構成を示している。
【0047】
処理装置201には、マイクユニット2と、ヘッドホン43と、が接続されている。マイクユニット2は、左マイク2Lと、右マイク2Rとを備えている。左マイク2Lは、被測定者1の左耳9Lに装着される。右マイク2Rは、被測定者1の右耳9Rに装着される。処理装置201、及びマイクユニット2は、
図2の処理装置201、及びマイクユニット2と同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0048】
ヘッドホン43は、ヘッドホンバンド43Bと、左ユニット43Lと、右ユニット43Rとを、有している。ヘッドホンバンド43Bは、左ユニット43Lと右ユニット43Rとを連結する。左ユニット43Lは被測定者1の左耳9Lに向かって音を出力する。右ユニット43Rは被測定者1の右耳9Rに向かって音を出力する。ヘッドホン43は密閉型、開放型、半開放型、または半密閉型等、ヘッドホンの種類を問わない。ヘッドホン43は、ヘッドホン43が装着された状態で、マイクユニット2が被測定者1に装着される。すなわち、左マイク2L、右マイク2Rが装着された左耳9L、右耳9Rにヘッドホン43の左ユニット43L、右ユニット43Rがそれぞれ装着される。ヘッドホンバンド43Bは、左ユニット43Lと右ユニット43Rとをそれぞれ左耳9L、右耳9Rに押し付ける付勢力を発生する。
【0049】
左マイク2Lは、ヘッドホン43の左ユニット43Lから出力された音を収音する。右マイク2Rは、ヘッドホン43の右ユニット43Rから出力された音を収音する。左マイク2L、及び右マイク2Rのマイク部は、外耳孔近傍の収音位置に配置される。左マイク2L、及び右マイク2Rは、ヘッドホン43に干渉しないように構成されている。すなわち、左マイク2L、及び右マイク2Rは左耳9L、右耳9Rの適切な位置に配置された状態で、被測定者1がヘッドホン43を装着することができる。
【0050】
処理装置201は、左マイク2L、及び右マイク2Rに対して測定信号を出力する。これにより、左マイク2L、及び右マイク2Rはインパルス音などを発生する。具体的には、左ユニット43Lから出力されたインパルス音を左マイク2Lで測定する。右ユニット43Rから出力されたインパルス音を右マイク2Rで測定する。このようにすることで、インパルス応答測定が実施される。
【0051】
処理装置201は、インパルス応答測定に基づく収音信号をメモリなどに記憶する。これにより、左ユニット43Lと左マイク2Lとの間の伝達特性(すなわち、左耳の外耳道伝達特性)と、右ユニット43Rと右マイク2Rとの間の伝達特性(すなわち、右耳の外耳道伝達特性)が取得される。ここで、左マイク2Lが取得した左耳の外耳道伝達特性の測定データを測定データECTFLとし、右マイク2Rが取得した右耳の外耳道伝達特性の測定データを測定データECTFRとする。また、両耳の外耳道伝達特性の測定データを測定データECTFとする。
【0052】
処理装置201は、測定データECTFL、ECTFRをそれぞれ記憶するメモリなどを有している。なお、処理装置201は、外耳道伝達特性又は空間音響伝達特性を測定するための測定信号として、インパルス信号やTSP(Time Streched Pule)信号等を発生する。測定信号はインパルス音等の測定音を含んでいる。
【0053】
図2、
図3で示した測定装置200によって、複数の被測定者1の外耳道伝達特性、及び空間音響伝達特性を測定する。本実施の形態では、
図2の測定構成による第1の事前測定を複数の被測定者1に対して実施する。同様に、
図3の測定構成による第2の事前測定を複数の被測定者1に対して実施する。これにより、被測定者1毎に、外耳道伝達特性、及び空間音響伝達特性が測定される。
【0054】
(頭外定位フィルタ決定システム)
次に、本実施の形態にかかる頭外定位フィルタ決定システム500について、
図4を用いて説明する。
図4は、頭外定位フィルタ決定システム500の全体構成を示す図である。頭外定位フィルタ決定システム500は、マイクユニット2と、ヘッドホン43と、頭外定位処理装置100と、サーバ装置300と、を備えている。
【0055】
頭外定位処理装置100とサーバ装置300とは、ネットワーク400を介して接続されている。ネットワーク400は、例えば、インターネットや携帯電話通信網などの公衆ネットワークなどである。頭外定位処理装置100とサーバ装置300とは無線又は有線により通信可能になっている。なお、頭外定位処理装置100とサーバ装置300とは一体の装置であってもよい。
【0056】
頭外定位処理装置100は、
図1で示したように、頭外定位処理された再生信号をユーザUに出力するユーザ端末となる。さらに、頭外定位処理装置100は、ユーザUの外耳道伝達特性の測定を行う。そのため、頭外定位処理装置100には、マイクユニット2とヘッドホン43とが接続されている。頭外定位処理装置100は、
図3の測定装置200と同様に、マイクユニット2と、ヘッドホン43とを用いたインパルス応答測定を行う。なお、マイクユニット2、及びヘッドホン43とBlueTooth(登録商標)などにより無線接続されていてもよい。
【0057】
頭外定位処理装置100は、インパルス応答測定部111と、ECTF特性取得部112と、送信部113と、受信部114と、演算処理部120と、逆フィルタ算出部121と、フィルタ記憶部122と、スイッチ124と、を備えている。なお、頭外定位処理装置100とサーバ装置300とが一体の装置である場合、該装置は受信部114に代えてユーザデータを取得する取得部を備えていてもよい。
【0058】
スイッチ124はユーザ測定と、頭外定位再生とを切り替える。すなわち、ユーザ測定の場合、スイッチ124は、ヘッドホン43とインパルス応答測定部111とを接続する。頭外定位再生の場合、スイッチ124は、ヘッドホン43を演算処理部120に接続する。
【0059】
インパルス応答測定部111は、ユーザ測定を行うため、インパルス音となる測定信号をヘッドホン43に出力する。ヘッドホン43が出力したインパルス音をマイクユニット2が収音する。マイクユニット2は収音信号をインパルス応答測定部111に出力する。なお、インパルス応答測定については、
図3の説明と同様であるため、適宜説明を省略する。すなわち、頭外定位処理装置100が、
図3の処理装置201と同様の機能を有している。頭外定位処理装置100と、マイクユニット2と、ヘッドホン43とがユーザ測定を行う測定装置を構成するインパルス応答測定部111は、収音信号に対して、A/D変換や同期加算処理などを行ってもよい。
【0060】
インパルス応答測定により、インパルス応答測定部111は、外耳道伝達特性に関する測定データECTFを取得する。測定データECTFは、ユーザUの左耳9Lの外耳道伝達特性に関する測定データECTFLと、右耳9Rの外耳道伝達特性に関する測定データECTFRとを含んでいる。
【0061】
ECTF特性取得部112は、測定データECTFL、ECTFRに対して所定の処理を行うことで、測定データECTFL、ECTFRの特性を取得する。例えば、ECTF特性取得部112は、離散フーリエ変換を行うことで、周波数振幅特性及び周波数位相特性を算出する。また、ECTF特性取得部112は、離散フーリエ変換に限らず、コサイン変換などにより、周波数振幅特性及び周波数位相特性を算出してもよい。周波数振幅特性の代わりに、周波数パワー特性が用いられていてもよい。
【0062】
さらに、ECTF特性取得部112は、周波数振幅特性に基づいて、測定データECTFの特徴量(特徴ベクトル)を取得する。ここで、測定データECTFLの特徴量を特徴量hpLとし、測定データECTFRの特徴量を特徴量hpRとする。特徴量hpLはユーザUの左耳に特徴を表し、特徴量hpRはユーザUの右耳に特徴を表している。
【0063】
例えば、特徴量hpL、hpRは、2kHz〜20kHzの周波数振幅特性である。すなわち、一部の周波数帯における周波数振幅特性をそれぞれ特徴量hpL、hpRとすることができる。特徴量hpL、hpRは、外耳道伝達特性の周波数領域における振幅値を特徴パラメータとする特徴ベクトルである。特徴量hpL、hpRは多次元のベクトル形式となっており、同じ次元数となっている。さらに、特徴量hpL、hpRは2kHz〜20kHzの周波数振幅特性を平滑化したデータであってもよい。
【0064】
もちろん、抽出する周波数帯は2kHz〜24kHzに限られるものではない。例えば、1kHz〜16kHzの周波数帯でもよく、あるいは、1kHz〜24kHzの周波数帯でもよい。特徴量hpL、hpRの1kHz以上の周波数振幅特性を含んでいることが好ましく、2kHz以上の周波数振幅特性を含んでいることがより好ましい。さらには、周波数振幅特性を平滑化したデータを特徴量としてもよい。
【0065】
逆フィルタ算出部121は、測定データECTFの特性に基づいて、逆フィルタを算出する。例えば、逆フィルタ算出部121は、測定データECTFの周波数振幅特性や周波数位相特性を補正する。逆フィルタ算出部121は、逆離散フーリエ変換により、周波数特性と位相特性とを用いて時間信号を算出する。逆フィルタ算出部121は、時間信号を所定のフィルタ長で切り出すことで、逆フィルタを算出する。
【0066】
上記のように、逆フィルタはヘッドホン特性(ヘッドホンの再生ユニットとマイク間の特性)をキャンセルするフィルタである。フィルタ記憶部122は、逆フィルタ算出部121が算出した左右の逆フィルタを記憶する。なお、逆フィルタの算出方法については、公知の手法を用いることができるため、詳細な説明を省略する。
【0067】
送信部113は、ECTF特性取得部112が算出した特徴量をユーザデータとして、サーバ装置300に送信する。送信部113は、ユーザデータに対して、通信規格に応じた処理(例えば、変調処理)を行って、送信する。なお、ユーザデータはユーザ測定に基づくデータであればよい。なお、送信部113が送信したユーザUの特徴量hpL、hpRを特徴量hpL_U、hpR_Uと示す。
【0068】
次に、サーバ装置300の構成について、
図5を用いて説明する。
図5は、サーバ装置300の制御構成を示すブロック図である。サーバ装置300は、受信部301と、比較部302と、データ格納部303と、抽出部304と、送信部305と、を備えている。サーバ装置300は、特徴量に基づいて、空間音響フィルタを決定するフィルタ決定装置となる。なお、頭外定位処理装置100とサーバ装置300とが一体の装置である場合、該装置は、送信部305を備えていなくてもよい。
【0069】
なお、サーバ装置300は、プロセッサやメモリなどを備えたコンピュータであり、プログラムにしたがって以下の処理を行う。また、サーバ装置300は単一な装置に限らず、2つ以上の装置の組み合わせにより実現してもよく、クラウドサーバ等の仮想サーバでもよい。データを格納するデータ格納部と、データ処理を行う比較部302,抽出部304は物理的に異なる装置であってもよい。
【0070】
受信部301は、頭外定位処理装置100から送信された特徴量hpL_U、hpR_Uを受信する。受信部301は、受信したユーザデータに対して、通信規格に応じた処理(例えば、復調処理)を行う。比較部302は、特徴量hpL_U、hpR_Uをデータ格納部303に格納されたプリセットデータと比較する。
【0071】
データ格納部303は、事前測定で測定された複数の被測定者に関するデータをプリセットデータとして格納するデータベースである。
図6を参照して、データ格納部303に格納されているデータについて、説明する。
図6は、データ格納部303に格納されているデータを示す表である。
【0072】
データ格納部303は、被測定者の左右の耳毎にプリセットデータを格納している。具体的には、データ格納部303は、被測定者ID、耳の左右、特徴量、空間音響伝達特性1、及び空間音響伝達特性2が1行に並んだテーブル形式となっている。なお、
図6に示すデータ形式は一例であり、テーブル形式ではなく、各パラメータのオブジェクトをタグ等で関連付けて保持するデータ形式等を採用してもよい。
【0073】
データ格納部303には、1人の被測定者Aに対して、2つのデータセットが格納されている。すなわち、データ格納部303は、被測定者Aの左耳に関するデータセットと、被測定者Aの右耳に関するデータセットが格納されている。
【0074】
1つのデータセットには、被測定者ID、耳の左右、特徴量、空間音響伝達特性1、及び空間音響伝達特性2が含まれている。特徴量は、
図3に示す測定装置200による第2の事前測定に基づくデータである。特徴量は、ECTF特性取得部112で取得された特徴量と同様のデータである。例えば、特徴量は、外耳道伝達特性の2kHz〜20kHzの周波数振幅特性である。また、ユーザデータが周波数振幅特性を平滑化したデータである場合、特徴量も周波数振幅特性を平滑化したデータとなっている。被測定者Aの左耳の特徴量は、特徴量hpL_Aと示し、被測定者Aの右耳の特徴量は、特徴量hpR_Aと示している。被測定者Bの左耳の特徴量は、特徴量hpL_Bと示し、被測定者Bの右耳の特徴量は、特徴量hpR_Bと示している。
【0075】
空間音響伝達特性1、及び空間音響伝達特性2は、
図2に示す測定装置200による第1の事前測定に基づくデータである。被測定者Aの左耳の場合、空間音響伝達特性1はHls_Aとなり、空間音響伝達特性2は、Hro_Aとなる。被測定者Aの右耳の場合、空間音響伝達特性1はHrs_Aとなり、空間音響伝達特性2は、Hlo_Aとなる。このように、1つの耳に関する2つの空間音響伝達特性がペアとなっている。被測定者Bの左耳については、Hls_BとHro_Bがペアとなり、被測定者Bの右耳については、Hrs_BとHlo_Bがペアとなっている。空間音響伝達特性1、及び空間音響伝達特性2は、フィルタ長で切り出された後のデータでもよく、フィルタ長で切り出される前のデータでもよい。
【0076】
被測定者Aの左耳については、特徴量hpL_Aと、空間音響伝達特性Hls_Aと、空間音響伝達特性Hro_Aとが対応付けられて、1つのデータセットとなっている。同様に、被測定者Aの右耳については、特徴量hpR_Aと、空間音響伝達特性Hrs_Aと、空間音響伝達特性Hlo_Aとが対応付けられて、1つのデータセットとなっている。同様に、被測定者Bの左耳については、特徴量hpL_Bと、空間音響伝達特性Hls_Bと、空間音響伝達特性Hro_Bとが対応付けられて、1つのデータセットとなっている。同様に、被測定者Bの右耳については、特徴量hpR_Bと、空間音響伝達特性Hrs_Bと、空間音響伝達特性Hlo_Bとが対応付けて、1つのデータセットとなっている。
【0077】
なお、空間音響伝達特性1、2のペアを第1のプリセットデータとする。すなわち、1つのデータセットを構成する空間音響伝達特性1、及び空間音響伝達特性2を第1のプリセットデータとする。特徴量を第2のプリセットデータとする。1つのデータセットを構成する特徴量を第2のプリセットデータとする。1つのデータセットは、第1のプリセットデータ、及び第2のプリセットデータを含んでいる。そして、データ格納部303は、第1のプリセットデータと第2のプリセットデータとを被測定者の左右の耳毎に対応付けて記憶している。
【0078】
ここで、n(nは2以上の整数)人の被測定者1に対して、第1及び第2の事前測定が予め行われているとする。この場合、データ格納部303には、両耳分である2n個のデータセットが格納されている。データ格納部303に格納されている特徴量を特徴量hpL_A〜hpL_N、hpR_A〜hpR_Nとして示す。特徴量hpL_A〜hpL_Nは、被測定者A〜Nの左耳に関する外耳道伝達特性から抽出された特徴ベクトルである。特徴量hpR_A〜hpR_Nは、被測定者A〜Nの右耳に関する外耳道伝達特性から抽出された特徴ベクトルである。
【0079】
比較部302は、特徴量hpL_Uを、特徴量hpL_A〜hpL_N、hpR_A〜hpR_Nのそれぞれと比較する。そして、比較部302は、2n個の特徴量hpL_A〜hpL_N、hpR_A〜hpR_Nの中から、特徴量hpL_Uに最も類似する1つを選択する。ここでは、2つの特徴量の相関を類似度スコアとして算出している。比較部302は、最も類似度スコアが高い特徴量のデータセットを選択する。ここで、被測定者lの左耳が選択されているとして、選択された特徴量hpLを特徴量hpL_lとする。
【0080】
同様に、比較部302は、特徴量hpR_Uを、特徴量hpL_A〜hpL_N、hpR_A〜hpR_Nとそれぞれ比較する。そして、比較部302は、2n個の特徴量hpL_A〜hpL_N、hpR_A〜hpR_Nの中から、特徴量hpR_Uに最も類似する1つを選択する。ここで、被測定者mの右耳が選択されているとし、選択された特徴量を特徴量hpR_mとする。
【0081】
比較部302は、比較結果を抽出部304に出力する。具体的には、最も類似度スコアの高い第2のプリセットデータの被測定者IDと、耳の左右を抽出部304に出力する。抽出部304は、比較結果に基づいて、第1のプリセットデータを抽出する。
【0082】
抽出部304は、データ格納部303から、特徴量hpL_lに対応する空間音響伝達特性をデータ格納部303から読み出す。抽出部304は、データ格納部303を参照して、被測定者lの左耳の空間音響伝達特性Hls_l、空間音響伝達特性Hro_lを抽出する。
【0083】
同様に、抽出部304は、データ格納部303から、特徴量hpR_mに対応する空間音響伝達特性をデータ格納部303から読み出す。抽出部304は、データ格納部303を参照して、被測定者mの左耳の空間音響伝達特性Hrs_m、空間音響伝達特性Hlo_mを抽出する。
【0084】
このように、比較部302は、ユーザデータを複数の第2のプリセットデータと比較する。そして、抽出部304は、第2のプリセットデータとユーザデータとの比較結果に基づいて、ユーザに適した第1のプリセットデータを抽出する。
【0085】
そして、送信部305は、抽出部304が抽出した第1のプリセットデータを頭外定位処理装置100に送信する。送信部305は、第1のプリセットデータに対して、通信規格に応じた処理(例えば、変調処理)を行って、送信する。ここでは、左耳に関しては、空間音響伝達特性Hls_l、空間音響伝達特性Hro_lが第1のプリセットデータとして抽出されており、右耳に関しては、空間音響伝達特性Hrs_m、空間音響伝達特性Hlo_mが第1のプリセットデータとして抽出されている。よって、送信部305は、空間音響伝達特性Hls_l、空間音響伝達特性Hro_l、空間音響伝達特性Hrs_m、空間音響伝達特性Hlo_mを頭外定位処理装置100に送信する。
【0086】
図4の説明に戻る。受信部114は、送信部305から送信された第1のプリセットデータを受信する。受信部は、受信した第1のプリセットデータに対して、通信規格に応じた処理(例えば、復調処理)を行う。受信部114は、左耳に関する第1のプリセットデータとして、空間音響伝達特性Hls_l、空間音響伝達特性Hro_lを受信し、右耳に関する第1のプリセットデータとして、空間音響伝達特性Hrs_m、空間音響伝達特性Hlo_mを受信する。
【0087】
そして、フィルタ記憶部122は、第1のプリセットデータに基づいて、空間音響フィルタを記憶する。すなわち、空間音響伝達特性Hls_lがユーザUの空間音響伝達特性Hlsとなり、空間音響伝達特性Hro_lがユーザUの空間音響伝達特性Hroとなる。同様に、空間音響伝達特性Hrs_mがユーザUの空間音響伝達特性Hrsのとなり、空間音響伝達特性Hlo_mがユーザUの空間音響伝達特性Hloとなる。
【0088】
なお、第1のプリセットデータがフィルタ長で切り出した後のデータである場合、頭外定位処理装置100が第1のプリセットデータをそのまま、空間音響フィルタとして記憶する。例えば、空間音響伝達特性Hls_lがユーザUの空間音響伝達特性Hlsとなる。第1のプリセットデータがフィルタ長で切り出される前のデータである場合、頭外定位処理装置100が空間音響伝達特性をフィルタ長に切り出す処理を行う。
【0089】
演算処理部120は、4つの空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsに応じた空間音響フィルタと、逆フィルタとを用いて、演算処理を行う。演算処理部120は、
図1で示した頭外定位処理部10と、フィルタ部41、フィルタ部42で構成されている。よって、演算処理部120は、4つの空間音響フィルタと、2つの逆フィルタとを用いて、ステレオ入力信号に上記の畳み込み演算処理等を行う。
【0090】
このように、データ格納部303が、被測定者1毎に第1のプリセットデートと、第2のプリセットデータを対応付けて格納している。第1のプリセットデータは被測定者1の空間音響伝達特性に関するデータである。第2のプリセットデータは、被測定者1の外耳道伝達特性に関するデータである。
【0091】
比較部302はユーザデータを、第2のプリセットデータと比較する。ユーザデータは、ユーザ測定で得られた外耳道伝達特性に関するデータである。そして、比較部302は、ユーザの外耳道伝達特性と類似する被測定者1と、耳の左右とを決定する。
【0092】
抽出部304は、決定された被測定者と耳の左右とに対応する第1のプリセットデータを読み出す。そして、送信部305は、抽出された第1のプリセットデータを頭外定位処理装置100に送信している。ユーザ端末である頭外定位処理装置100は、第1のプリセットデータに基づく空間音響フィルタと、測定データに基づく逆フィルタとを用いて、頭外定位処理を行う。
【0093】
このようにすることで、ユーザUが空間音響伝達特性を測定しなくても、適切なフィルタを決定することができる。よって、ユーザがリスニングルームなどに行く必要や、ユーザの家にスピーカなどを設置する必要がなくなる。ユーザ測定はヘッドホン装着状態で実施される。すなわち、ユーザUがヘッドホンとマイクとを装着していれば、ユーザ個人の外耳道伝達特性を測定することができる。よって、簡単に簡便な方法で、定位効果の高い頭外定位を実現できる。なお、ユーザ測定と、頭外定位受聴に用いられるヘッドホン43は同じタイプのものであることが好ましい。
【0094】
また、本実施形態にかかる方法では、多数のプリセット特性を聴く聴感テストを行う必要や、身体的特徴を細かく測定する必要がない。よって、ユーザ負担を軽減することができ、利便性を向上することができる。特に高い周波数帯は個人特性の影響が高いので、特徴が表れやすい高周波数帯の周波数振幅特性をECTF特性取得部112が、特徴量hpL,hpRとして算出している。そして、被測定者とユーザの特徴量を比較することで、特性が似ている被測定者を選ぶことができる。そして選ばれた被測定者の耳の第1のプリセットデータを抽出部304が抽出するため、高い頭外定位効果が期待できる。
【0095】
なお、比較部302は、受信したユーザデータと、格納されている第2のプリセットデータとを、そのまま比較しなくてもよい。すなわち、比較部302は、受信したユーザデータと、格納されている第2のプリセットデータとの少なくとも一方に対して演算処理を施した後に比較を行ってもよい。例えば、ユーザデータと第2のプリセットデータが、2kHz〜20kHzの周波数振幅特性である場合、比較部302がそれぞれの周波数振幅特性に平滑化処理を施してもよい。そして、比較部302が平滑化処理後の周波数振幅特性を比較してもよい。
【0096】
あるいは、ユーザデータが、全周波数帯の周波数振幅特性であり、第2のプリセットデータが2kHz〜20kHzの周波数帯の周波数振幅特性である場合、比較部302が、ユーザデータから2kHz〜20kHzの周波数帯の周波数振幅特性を抽出してもよい。そして、比較部302が抽出された周波数振幅特性を比較してもよい。このように、比較部302における比較は、ユーザデータと第2のプリセットデータとを直接比較することだけではなく、ユーザデータから得られたデータと第2のプリセットデータから得られたデータとを比較することを含む。また、第2のプリセットデータとして、外耳道伝達特性自体ではなく、特徴量を用いることで、データ量を少なくすることができる。また、比較する毎に特徴量を求める必要がないため、サーバ装置300における処理負担を軽減することができる。
【0097】
次に、本実施の形態にかかる頭外定位フィルタ決定方法について、
図7を用いて説明する。
図7は、頭外定位フィルタ決定方法を示すフローチャートである。なお、
図7に示すフローを実施する前に、測定装置200が第1及び第2の事前測定を実施しておく。すなわち、データ格納部303が、複数のデータセットを格納している状態で、
図7の処理が実施される。
【0098】
まず、インパルス応答測定部111がユーザ測定を実施する(S11)。これにより、インパルス応答測定部111がユーザUの外耳道伝達特性に関する測定データECTFL、ECTFRを取得する。そして、ECTF特性取得部112が、測定データECTFL、ECTFRから特徴量hpL_U、hpR_Uを算出する(S12)。ECTF特性取得部112が外耳道伝達特性の測定データをフーリエ変換して周波数振幅特性を算出する。ECTF特性取得部112が、所定の周波数帯の周波数振幅特性を抽出して、平滑化する。これにより、ユーザデータとなる特徴量hpL_U、hpR_Uが算出される。送信部113が、特徴量hpL_U、hpR_Uをサーバ装置300に送信する(S13)。
【0099】
サーバ装置300の受信部301が特徴量hpL_U、hpR_Uを受信すると、比較部302が、特徴量hpL_Uと、データ格納部303の全特徴量hpL_A〜hpL_N、hpR_A〜hpR_Nとの類似度スコアを算出する(S14)。そして、比較部302は、類似度スコアの最も高いデータセットを選ぶ(S15)。なお、2つの特徴量の相関を類似度スコアとすることができる。なお、類似度スコアは、相関値に限らず、距離ベクトルの大きさ(ユークリッド距離)、コサイン類似度(コサイン距離)、マハラノビス距離、ピアソン相関係数等であってもよい。比較部302は、類似度スコアが最も高いデータセットを選択する。抽出部304は、類似度スコアが最も高いデータセットの第1のプリセットデータを抽出する(S16)。すなわち、抽出部304は、2n個の第1のプリセットデータの中から、1つの第1のプリセットデータを読み出す。
【0100】
比較部302が、ユーザUの特徴量hpR_Uと、データ格納部303に格納された全特徴量hpL_A〜hpL_N、hpR_A〜hpR_Nとの類似度スコアを算出する(S17)。そして、比較部302は、類似度スコアの最も高いデータセットを選ぶ(S18)。抽出部304は、類似度スコアが最も高いデータセットの第1のプリセットデータを抽出する(S19)。すなわち、抽出部304は、2n個の第1のプリセットデータの中から、1つの第1のプリセットデータを読み出す。
【0101】
送信部305は、S16、S19で抽出された2つの第1のプリセットデータをそれぞれ頭外定位処理装置100に送信する(S20)。これにより、送信部305は、4つの空間音響伝達特性を頭外定位処理装置100に送信する。なお、左右の特徴量に対する比較処理、及び抽出処理の順番は反対でもよく、並行して処理されていてもよい。
【0102】
このようにすることで、空間音響伝達特性のユーザ測定を行わなくても、適切なフィルタを決定することができる。よって、利便性を向上することができる。
【0103】
以下、外耳道伝達特性の類似性から空間音響伝達特性を抽出する理由について説明する。精度の高い頭外定位効果を出すためには他人の空間音響伝達特性がユーザ自身の空間音響伝達特性と類似している必要がある。プリセットされた空間音響伝達特性を用いる方法では、個人性の影響が出る高い周波数においては効果が小さい場合がある。また、高い周波数帯は、主に外耳の影響を受けている。外耳道伝達特性はヘッドホンを装着した場合の伝達特性であり、外耳の影響が多分に含まれている。そこで、外耳道伝達特性の高い周波数帯について相関の高いものは外耳の形状が似ていると判断することができる。このため、特徴量として2kHz以上の高周波数帯の周波数振幅特性を用いている。そして、比較部302が、高周波数帯の周波数振幅特性が類似している外耳道伝達特性を持つ被測定者の空間音響伝達特性を抽出している。なお、特徴量は、所定の周波数以上の高周波数帯の周波数振幅特性を含んでいることが好ましい。所定の周波数としては、1kHzから3kHzまでの周波数とすることが好ましい。
【0104】
5人の被測定者A〜Eの外耳道伝達特性の特徴量を検討した結果について説明する。ここで、特徴量は外耳道伝達特性の2kHz〜20kHzの周波数振幅特性を平滑化したデータとしている。そして、2つの耳の特徴量の相関値を算出する。さらに、被測定者A〜Eの左右の耳の空間音響伝達特性Hls又は空間音響伝達特性Hrsの相関値を算出する。ここでは、2つの空間音響伝達特性の2kHz〜20kHzの周波数振幅特性の相関値を算出している。2つの特徴量の相関値(類似度スコア)が高い場合、空間音響伝達特性Hls又は空間音響伝達特性Hrsの相関値が高くなる。測定データのいくつかの例を以下に示す
【0105】
測定データ1(被測定者Bの左耳と被測定者Bの右耳)
特徴量の相関値:0.940508
空間音響伝達特性Hls_Bと空間音響伝達特性Hrs_Bの相関値:0.899687
【0106】
測定データ2(被測定者Cの右耳と被測定者Dの左耳)
特徴量の相関値:0.962504
空間音響伝達特性Hrs_Cと空間音響伝達特性Hls_Dの相関値:0.711014
【0107】
測定データ3(被測定者Bの右耳と被測定者Cの右耳)
特徴量の相関値:0.898839
空間音響伝達特性Hrs_Bと空間音響伝達特性Hrs_Cの相関値:0.859318
【0108】
測定データ4(被測定者Aの左耳と被測定者Bの右耳)
特徴量の相関値:0.105869
空間音響伝達特性Hls_Aと空間音響伝達特性Hrs_Bの相関値:0.328452
【0109】
測定データ5(被測定者Aの右耳と被測定者Dの左耳)
特徴量の相関値:0.480002
空間音響伝達特性Hrs_Aと空間音響伝達特性Hls_Dの相関値:0.388985
【0110】
特徴量同士の相関値と、空間音響伝達特性同士の相関値とは相関が高いことがわかる。例えば、測定データ1〜3に示すように、特徴量の相関値が高い場合、空間音響伝達特性の相関値も高くなる。また、測定データ4〜5に示すように、特徴量の相関値が低い場合、空間音響伝達特性の相関値も低くなる。
【0111】
したがって、ユーザUにとって類似度の高い被測定者の空間音響伝達特性を抽出するために、外耳道伝達特性の2kHz以上の周波数振幅特性を特徴量としている。比較部302は、特徴量をデータ格納部303の第2のプリセットデータと比較する。そして、比較部302は、比較結果に基づいて、相関値の高い被測定者を選択する。少なくとも、データ格納部303のプリセットデータは、同じ環境や条件で測定されたデータであることが望ましい。例えば、第1の事前測定及び第2の事前測定で用いるマイクユニット2は同じものとすることが好ましい。また、第2の事前測定と、ユーザ測定と、頭外定位受聴で用いるヘッドホン43は同じタイプのものであることが好ましい。
【0112】
複数の被測定者の外耳道伝達特性と空間音響伝達特性の測定データを
図8、
図9示す。
図8は、12人の被測定者の左耳の外耳道伝達特性と空間音響伝達特性Hlsとを示す図である。
図9は、12人の被測定者の右耳の外耳道伝達特性と空間音響伝達特性Hlsとを示す図である。
図8、
図9は2kHz〜20kHzの周波数振幅特性を示している。
【0113】
図8,
図9から分かるように、被測定者に応じて、あるいは耳に応じて、外耳道伝達特性と空間音響伝達特性の波形が大きく異なっている。よって、外耳道伝達特性から空間音響伝達特性を直接算出することが困難である。ユーザ端末において、空間音響伝達特性を算出することが困難となる。そのため、本実施の形態では、外耳道伝達特性同士の特徴量を比較して、その比較結果に基づいて、空間音響伝達特性を抽出している。
【0114】
また同じ被測定者でも左右で耳の形や位置等が異なるため、左右の耳で空間音響伝達特性が異なる。したがって、空間音響伝達特性のペアリングは左右の耳を別々に扱うことが好ましい。すなわち、特徴量hpLと、空間音響伝達特性Hlsと空間音響伝達特性Hroとを左耳に関する1つのデータセットとし、特徴量hpRと、空間音響伝達特性Hrsと空間音響伝達特性Hroを右耳に関する1つのデータセットとする。これにより、適切に頭外定位フィルタを決定することができる。
【0115】
変形例.
送信部113が送信するユーザデータは、特徴量に限らず、測定データECTF自体であってもよい。測定データECTFは時間領域のデータでもよく、周波数領域のデータでもよい。全周波数帯における周波数振幅特性をユーザデータとして送信部113がサーバ装置300に送信してもよい。
【0116】
第2のプリセットデータについても外耳道伝達特性の特徴量に限られるものではない。例えば、第2のプリセットデータは、全周波数帯の外耳道伝達特性であってもよい。あるいは、第2のプリセットデータは時間領域の外耳道伝達特性であってもよい。第2のプリセットデータは被測定者の外耳道伝達特性に関するデータであればよい。そして、比較部302において、第2のプリセットデータとユーザデータとに処理を行って、同じ形式の特徴量を算出するようにしてもよい。
【0117】
第1のプリセットデータについても時間領域の空間音響伝達特性に限られるものはない。例えば、第1のプリセットデータは、周波数領域の空間音響伝達特性であってもよい。なお、データ格納部303は、耳毎にデータセットを記憶するのではなく、被測定者毎にデータセットを記憶していてもよい。すなわち、1つのデータセットが、4つの空間音響伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsと、両耳の外耳道伝達特性の測定データの特徴量を含んでいてもよい。
【0118】
また、各データの周波数振幅特性、及び周波数位相特性等は、Logスケールでもよく、リニアスケールでもよい。第1及び第2のプリセットデータは、その他のパラメータや特徴量を含んでいてもよい。以下、プリセットデータのデータ形式の具体例について、
図10〜
図12を用いて説明する。
【0119】
変形例1.
図10は、変形例1におけるプリセットデータのデータ形式を示す表である。
図10では、第2のパラメータが外耳道伝達特性の測定データECTFL、ECTFR自体となっている。なお、第2の事前測定の測定データECTFL、ECTFRは、時間領域のデータでもよく、周波数領域のデータでもよい。この場合、頭外定位処理装置100が送信するユーザデータが測定データECTFL、ECTFRとなっていてもよい。この場合、比較部302が、測定データから、特徴量を算出する。
【0120】
データ格納部303が特徴量ではなく測定データECTF自体を記憶することで、比較する特徴量を適宜変更することができる。すなわち、より適した頭外定位フィルタを決定することができるように、特徴量を見直すことができる。また、測定データECTFL、ECTFRをそのまま特徴量として用いてもよい。
【0121】
さらに、変形例1では、第1のプリセットデータにおける空間音響伝達特性のペアリングが
図6と異なっている。空間音響伝達特性Hlsと空間音響伝達特性Hloのペアが、外耳道伝達特性の測定データECTFLと対応付けられている。例えば、被測定者Aの左耳に対するデータセットは測定データECTFL_Aと空間音響伝達特性Hls_Aと空間音響伝達特性Hlo_Aとを含んでいる。空間音響伝達特性Hrsと空間音響伝達特性Hroのペアが、外耳道伝達特性の測定データECTFRと対応付けられている。例えば、被測定者Bの右耳に対するデータセットは測定データECTFR_Bと空間音響伝達特性Hrs_Bと空間音響伝達特性Hro_Bとを含んでいる。
【0122】
空間音響伝達特性Hls、Hrsは空間音響伝達特性Hlo,Hroに比べてエネルギーも高い。このため、
図10のように、データセットに含まれる空間音響伝達特性のペアを設定してもよい。スピーカに近い側の耳の空間音響伝達関数Hls、Hrsは頭部の外側の伝達経路を通る。よって、空間音響伝達関数Hls、Hrsは外耳の影響を強く受けていると考えられる。変形例1では、空間音響伝達関数Hlsと空間音響伝達関数Hloとをペアリングして、空間音響伝達関数Hrsと空間音響伝達関数Hroとをペアリングしている。
【0123】
なお、耳とスピーカ配置の対称性から、ユーザUの左耳の外耳道伝達特性に最も類似する外耳道伝達特性が、被測定者1の右耳のデータとなることがあり得る。同様に、ユーザUの右耳の外耳道伝達特性に最も類似する外耳道伝達特性が、被測定者1の左耳のデータとなることがあり得る。
【0124】
変形例2.
図11は、変形例2におけるプリセットデータのデータ形式を示す表である。変形例2では、第1のプリセットデータは、空間音響伝達特性1、及び空間音響伝達特性2に加えて、遅延量(delay)とレベル(level)を含んでいる。遅延量は、空間音響伝達特性1から空間音響伝達特性2との間の到達時間の差を示している。例えば、遅延量ITDL_Aは、空間音響伝達特性Hls_Aにおけるインパルス音の到達時間と、空間音響伝達特性Hlo_Aにおけるインパルス音の到達時間と、の差となる。遅延量は被測定者の頭部の大きさに応じた値となる。
【0125】
レベルは空間音響伝達特性1の振幅レベルと、空間音響伝達特性の振幅レベルの差となる。例えば、レベルILDL_Aは、全周波数帯における空間音響伝達特性Hls_Aの周波数振幅特性の平均値と、全周波数帯における空間音響伝達特性Hlo_Aの周波数振幅特性の平均値と、の差となる。このように、第1のプリセットデータに対して、空間音響伝達特性のペアの特徴量を含めている。
【0126】
そして、送信部305は、このような特徴量を頭外定位処理装置100に送信する。頭外定位処理装置100では、ユーザUによる聴感テストなどで、このような特徴量を調整する。調整した特徴量を用いて、空間音響フィルタを最適化することができる。
【0127】
例えば、頭外定位処理部10が、空間音響伝達特性Hls、Hrsの空間音響フィルタを畳み込む際、遅延量は0とし、空間音響伝達特性Hlo、Hroの遅延量を適宜変更しても良い。
【0128】
さらには、低い周波数帯域についてもより定位効果を向上させために、遅延量を、ユーザUが調整してもよい。ユーザが空間音響伝達特性Hlsと空間音響伝達特性Hloとの間の遅延量、及び、空間音響伝達特性Hrsと空間音響伝達特性Hroのとの間の遅延量を独立に調整する。
【0129】
あるいは、頭部周囲の長さに応じた遅延量で空間音響伝達特性を遅延しても良い。例えば、ユーザUが頭部周囲の長さの計測値や、帽子のサイズを入力してもよい。これにより、頭部周囲の長さに応じた遅延量で空間音響伝達特性Hlo、Hroを空間音響伝達特性Hls、Hrsから遅延させることができる。
【0130】
ユーザUの左右の耳幅や頭部周囲を数値入力することで、中低域の位相差(遅延量)を算出するようにしてもよい。そして、被測定者のサイド側の空間音響伝達特性Hls、Hrsと、クロストーク側の空間音響伝達特性Hlo、Hroと、について、遅延量及びレベル差を反映させてもよい。このように、遅延量やレベルなどを考慮して、空間音響フィルタを算出することが可能である。
【0131】
第2のプリセットデータは、特徴量hpL、hpRと、外耳道伝達特性の測定データECTFL、ECTFRと、を含んでいる。第2のプリセットデータは、特徴量を有していることで、比較時において、外耳道伝達特性から、特徴量を算出する必要がなくなる。よって、処理を簡素化することができる。さらに、第2のプリセットデータは、外耳道伝達特性の測定データを含んでいることで、特徴量の見直しが可能になる。例えば、特徴量となる周波数振幅特性の周波数帯を変更することができる。
【0132】
変形例3.
図12は、変形例3におけるプリセットデータのデータ形式を示す表である。変形例3では、第1のプリセットデータは、空間音響伝達特性の周波数位相特性1、周波数位相測定2、及び周波数振幅特性1、周波数振幅特性2を有している。また、第2のプリセットデータは、特徴量1、及び特徴量2を有している。
【0133】
特徴量1は、外耳道伝達特性の2kHz〜20kHzにおける周波数振幅特性である。特徴量2は、外耳道伝達特性の2kHz未満の低周波数帯における周波数振幅特性である。例えば、2種類の特徴量に対して、重み付けをして類似度スコアを算出することができる。
【0134】
変形例3では、第1のプリセットデータとして、データ格納部303が、周波数領域における空間音響伝達特性を格納している。例えば、時間領域の空間音響伝達特性Hls_Aをフーリエ変換することで、周波数振幅特性Hls_am_Aと周波数位相特性Hls_p_Aとが算出される。そして、データ格納部303は、周波数振幅特性と周波数位相特性を第1のプリセットデータとして格納している。
【0135】
そして、送信部305は、抽出されたデータセットの周波数振幅特性と周波数位相特性を頭外定位処理装置100に送信する。そして、頭外定位処理装置100が周波数振幅特性と周波数位相特性に基づいて、空間音響伝達特性の空間音響フィルタを生成する。あるいは、サーバ装置300が、周波数振幅特性と周波数位相特性に基づいて、空間音響伝達特性の空間音響フィルタを生成してもよい。そして、サーバ装置300が生成した空間音響フィルタを頭外定位処理装置100に送信してもよい。また、サーバ装置300がフィルタ生成処理の一部を行い、残りの処理を頭外定位処理装置100が行っても良い
【0136】
その他の実施の形態.
頭外定位処理装置100となるユーザ端末は、パソコン、スマートホン、携帯音楽プレイヤー、mp3プレイヤー、タブレット端末である。なお、ユーザ端末は、物理的に単一な装置に限定されるものではない。例えば、ユーザ端末は、携帯音楽プレイヤーと、パソコンなどを組み合わせた構成であってもよい。この場合、ヘッドホンを接続した携帯音楽プレイヤーが測定信号を発生する機能を有し、マイクユニットを接続したパソコンが測定データを記憶する機能、及びユーザデータを送信する通信機能を有している。
【0137】
また、ユーザ測定を行うユーザ端末と、頭外定位処理を行うユーザ端末は、異なる端末であってもよい。こうすることで、ユーザが任意のユーザ端末を用いて頭外定位処理された再生信号を受聴することができる。さらには、ユーザが複数の端末(再生装置)で同じ頭外定位フィルタを共有することができる。この場合、同じヘッドホン43については同じ頭外定位フィルタを設定し、異なるヘッドホン43については異なる頭外定位フィルタを設定する
【0138】
ユーザデータは測定により得られた測定データ自体であってもよい、測定データから抽出された一部の測定データであってもよい。さらには、ユーザデータは、測定データに対して平滑化などの処理が施されたデータであってもよい。
【0139】
類似度の高い複数の第1のプリセットデータを提示して、ユーザUに選ばせても良い。例えば、比較部302は、類似度スコアが高い3つのデータセットを選択する。送信部305は、片耳について、3つの第1プリセットデータを送信する。ユーザUが3つの第1のプリセットデータを用いて頭外定位受聴したとき聴感に基づいて,ユーザUが最適な第1のプリセットデータを選択しても良い。さらには、聴感に応じて、頭外定位フィルタを補正してもよい。
【0140】
データ格納部303にて類似度を算出する場合、周波数に応じて重み付けを行ってもよい。あるいは、特徴量となる周波数帯域を変更しても良い。聴感効果における外耳の影響は約2kHz〜約16kHzであるので、特徴量はこの帯域の振幅値を含んでいることが望ましい。また、周波数振幅特性は、Logスケールであっても、リニアスケールであってもよい。
【0141】
データ格納部303は外耳道伝達特性の測定データECTF自体を保存しておき、比較部302において特徴量を算出しても良い。したがって、データ格納部303に格納されている第2のプリセットデータは、被測定者の耳の外耳道伝達特性に関するデータであればよい。例えば、第2のプリセットデータは、時間領域の外耳道伝達特性であってもよく、周波数領域の外耳道伝達特性であってもよい。さらに、第2のプリセットデータは、外耳道伝達特性の一部を抽出したデータであってもよい。また、第2のプリセットデータは、外耳道伝達関数の測定データに対して平滑化処理などの処理を行ったデータであってもよい。
【0142】
また、第1のプリセットデータは、被測定者1の左右の耳の空間音響伝達特性に関するデータであればよい。第1のプリセットデータは、時間領域の空間音響伝達特性であってもよく、周波数領域の空間音響伝達特性であってもよい。さらに、第1のプリセットデータは、空間音響伝達特性の一部を抽出したデータであってもよい。
【0143】
さらにプリセットデータは、逐次増加させていくことも可能である。すなわち、新しいユーザ(被測定者)が外耳道伝達特性の測定に加えて、空間音響伝達特性を測定した場合、その測定データに基づいて、新しいデータデータセットが追加される。このようにすることで、候補となるプリセットデータのデータセット数を順次増やしていくことができるため、ユーザUに適した頭外定位処理フィルタを決定することができる。
【0144】
なお、サーバ装置300は、複数の測定装置200からプリセットデータを収集しても良い。例えば、インターネットなどのネットワークを介して,複数の測定装置200からのプリセットデータをサーバ装置300が取得する。このようにすることで、候補となるプリセットデータのデータセット数を増やすことができる。よって、よりユーザUに適したフィルタを決定することができる。
【0145】
ヘッドホン43とマイクユニット2は、無線により信号を入出力するものでもよい。また、ユーザの耳に音を出力する出力ユニットとして、ヘッドホン43の代わりに、イヤホンなどを用いることも可能である。
【0146】
データ格納部303のデータを、あらかじめ測定環境(リスニングルーム、スタジオ等)毎にグループ分けしてもよい(またはタグ等で紐付けをしてもよい)。そして、ユーザ端末が、ユーザUに対して複数のリスニングルームを表示する。ユーザUが聴きたいリスニングルームを選択する。ユーザ端末からユーザデータが送信されたら、サーバ装置300は指定されたリスニングルームに紐づいている特徴量との類似度を算出し、相関の高い被測定者の第1のプリセットデータセットをユーザ端末へ送信する。ユーザUは第1のプリセットデータを用いた頭外低位処理で試聴することができ、試聴後、気に入ったら購入し、代金を払う。データを提供した被測定者に、その代金に基づく対価(例えば数%)が支払われるようにしてもよい。
【0147】
上記処理のうちの一部又は全部は、コンピュータプログラムによって実行されてもよい。上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0148】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。