(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、車両の制動制御装置の一実施形態である制御装置100について、
図1〜
図11を参照して説明する。
図1には、車両に対する制動力を調整可能に構成されている制動装置40と、制動装置40を作動させる制御装置100とを示している。制動装置40を備える車両には、各車輪10に対して個別に設けられている複数の制動機構20が設けられている。
【0016】
各制動機構20は、ブレーキ液としてのオイルが供給されるホイールシリンダ21と、車輪10と一体回転する回転体の一例であるディスクロータ22と、ディスクロータ22に近づく方向及びディスクロータ22から離れる方向に相対移動する摩擦材23とをそれぞれ有している。ホイールシリンダ21へのブレーキ液の供給によって、ホイールシリンダ21内の油圧であるWC圧Pwcが増大されると、摩擦材23をディスクロータ22に押し付ける力に応じた制動力が車輪10に付与されるようになる。この場合、摩擦材23をディスクロータ22に押し付ける力は、WC圧Pwcが高いほど大きくなる。すなわち、車輪10に対する制動力は、対応するホイールシリンダ21内のWC圧Pwcが高いほど大きくなる。
【0017】
制動装置40は、運転者によって操作されるブレーキペダルなどの制動操作部材41が連結されている油圧発生装置50と、各ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcを個別に調整することのできる制動アクチュエータ60とを有している。なお、運転者が制動操作部材41を操作することを「制動操作」といい、運転者が制動操作部材41を操作する力のことを「制動操作力」ということもある。
【0018】
油圧発生装置50は、制動操作力が入力されると、当該制動操作力に応じた油圧であるMC圧Pmcを発生させるマスタシリンダ51を備えている。
制動アクチュエータ60には、2系統の油圧回路として第1の油圧回路611及び第2の油圧回路612が設けられている。第1の油圧回路611には、各ホイールシリンダ21のうち二つのホイールシリンダ21が接続されている。第2の油圧回路612には、残り二つのホイールシリンダ21が接続されている。そして、油圧発生装置50から第1及び第2の油圧回路611,612にブレーキ液が流入されると、ホイールシリンダ21にブレーキ液が供給される。
【0019】
第1の油圧回路611においてマスタシリンダ51とホイールシリンダ21とを接続する液路には、リニア電磁弁である差圧調整弁62が設けられている。また、第1の油圧回路611において差圧調整弁62よりもホイールシリンダ21側には、各ホイールシリンダ21に対応した経路63a及び経路63dが設けられている。そして、こうした経路63a,63dには、WC圧Pwcの増大を規制する際に閉弁される保持弁64と、WC圧Pwcを減少させる際に開弁される減圧弁65とが設けられている。なお、保持弁64は常開型の電磁弁であり、減圧弁65は常閉型の電磁弁である。
【0020】
また、第1の油圧回路611には、ホイールシリンダ21から減圧弁65を介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ66と、ポンプ用モータ67の駆動に基づき作動するポンプ68とが接続されている。リザーバ66は、吸入用流路69を介してポンプ68に接続されるとともに、マスタ側流路70を介して差圧調整弁62よりもマスタシリンダ51側の液路に接続されている。また、ポンプ68は、供給用流路71を介して差圧調整弁62と保持弁64との間の接続部位72に接続されている。そのため、ポンプ用モータ67が駆動している場合、ポンプ68は、マスタシリンダ51内のブレーキ液をリザーバ66を介して汲み取り、当該ブレーキ液を接続部位72に吐出する。
【0021】
なお、第2の油圧回路612の構造は、第1の油圧回路611の構造とほぼ同一であるため、本明細書では、第2の油圧回路612の構造の説明については割愛するものとする。
【0022】
図1に示すように、制御装置100には、マスタシリンダ51内のMC圧Pmcを検出するための油圧センサ91と、各車輪10の回転速度である車輪速度を検出するための車輪速度センサ92と、前後方向の車両加速度である加速度Gxを検出するための加速度センサ93とが接続されている。
【0023】
制御装置100は、車輪速度センサ92から出力される信号に基づいて車輪の車輪速度を演算する。また、制御装置100は、各車輪10の車輪速度の少なくとも一つを用いて車体速度である車速VSを演算する。
【0024】
制御装置100は、加速度センサ93から出力される信号に基づいて前後方向における加速度Gxを演算する。制御装置100は、演算した加速度Gxに基づいて、車両が接地している路面の勾配の演算値である路面勾配RGを演算する。
【0025】
制御装置100は、車両に対する制動力の指示値である制動力指示値を設定し、この制動力指示値に基づいて制動装置40を作動させる自動制動制御を実施する。すなわち、制御装置100は、自動制動制御では、制動力指示値を、各ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcに対する指示値である油圧指示値PIに変換する。このとき、油圧指示値PIは、制動力指示値が大きいほど大きくなる。そして、制御装置100は、WC圧Pwcが油圧指示値PIとなるように制動装置40を作動させる。
【0026】
なお、自動制動制御としては、例えば、車両に対する制動力を調整することによって、車両を停車させ、その後、停車状態を保持する自動停止制御と、車両に対する制動力を減少させることによって、車両を発進させる、又は、車両の発進を補助する発進時制御とを挙げることができる。また、自動制動制御としては、例えば、運転者による制動操作によって停車した後に制動操作が解消された後でも、停車状態を保持すべく制動装置40を作動させる停止補助制御も挙げることができる。
【0027】
制御装置100は、自動制動制御を実施するための機能部として、停車制動力付与部103と、停車制動力更新部101と、乖離量導出部102とを有している。
停車制動力付与部103は、ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcを停車油圧PSにすべく、停車油圧PSを油圧指示値PIとして制動装置40を制御する。この停車油圧PSは、車両を停車状態で維持するために必要な制動力の最小値である停車制動力を車両に付与するための油圧指示値PIである。
【0028】
乖離量導出部102は、停車制動力付与部103によって車両に停車制動力が付与されているときにおける車両の状態量と該車両の状態量の理想値との乖離量を導出する。例えば、乖離量導出部102は、上記乖離量として、停車制動力付与部103によって設定された停車油圧PSと停車油圧PSの理想値である理想停車油圧POとの乖離量を導出する。理想停車油圧POとは、現時点の車両の状態を考慮した、車両を停車させるのに必要なWC圧Pwcの最小値の実値のことである。なお、理想停車油圧POは、停車制動力の理想値と相関する値である。
【0029】
そして、停車制動力更新部101は、停車油圧PSを、車両を停車状態で維持するために必要な制動力を車両に付与するための理想値に近づけるべく停車油圧PSを更新する。例えば、乖離量導出部102によって乖離量が導出されている場合には、この乖離量に基づいて停車油圧PSを更新する。この更新された停車油圧PSを油圧指示値PIとして、停車制動力付与部103が制動装置40を制御する。
【0030】
図2を参照し、自動停止制御の実施によって、車両が停車し、その後、停車状態が維持される場合の一例について説明する。なお、
図2に示す例は、車両が接地している路面が水平路面である場合の例である。
【0031】
図2に示すように、自動停止制御の実施中では、制動力指示値と相関する油圧指示値PIに基づいて制動機構20の作動が制御される。車両が未だ停車していない場合、車両の目標減速度に基づいて油圧指示値PIが設定される。そして、ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcが油圧指示値PIとなるように、制動アクチュエータ60の差圧調整弁62及びポンプ68の作動が制御される。
【0032】
そして、タイミングt0で車速VSが停車直前車速VSTh1に達すると、車両が停車直前であると判定することができる。そのため、タイミングt0以降では、油圧指示値PIが停車油圧PSに向けて減少される。なお、
図2に示す例では、タイミングt1で車両が停車する。すなわち、タイミングt1で、車両が停車していない状態である走行状態から車両が停車した状態である停車状態に移行する。そのため、タイミングt1に達するまでには、油圧指示値PIが停車油圧PSと等しくなっているように油圧指示値PIが減少される。なお、例えば、車速VSが、停車直前車速VSTh1よりも小さい停車判定値VSTh2以下になったことをもって、車両が停車したと判定することができる。
【0033】
また、このように油圧指示値PIが減少している場合、ポンプ68の作動が継続された状態で差圧調整弁62に対する開度指示値が、油圧指示値PIの減少に応じて大きくなる。これにより、油圧指示値PIの減少に応じてホイールシリンダ21内のWC圧Pwcが減少される。
【0034】
タイミングt1からタイミングt2までの期間では、油圧指示値PIが停車油圧PSで保持されているため、WC圧Pwcが停車油圧PS又は停車油圧PS近傍の値で保持されている。タイミングt2以降では、停車油圧PSよりも高い保持油圧PHに油圧指示値PIが設定される。例えば、保持油圧PHは、停車油圧PSにオフセット値αを加算した和と等しい値である。オフセット値αは、差圧調整弁62を介してホイールシリンダ21内のブレーキ液がマスタシリンダ51側に流出することを加味した値である。このように油圧指示値PIが変更されると、差圧調整弁62に対する開度指示値が小さくなるため、WC圧Pwcが増大される。そして、タイミングt3でWC圧Pwcが保持油圧PHに達すると、差圧調整弁62に対する開度指示値が保持された状態で、ポンプ68の作動が停止される。これにより、タイミングt3以降でも、WC圧Pwcが保持油圧PH又は保持油圧PH近傍の値で保持される。また、車両の停車継続時間が所定期間よりも短いことが推定される場合には、停車油圧PSにオフセット値αを加算しなくてもよい。所定期間は、ブレーキ液のホイールシリンダ21内からマスタシリンダ51側への流出量が無視できる程度に少ない期間である。停車継続時間は、車両の進行先の交通情報、制動操作力等に基づいて推定することができる。
【0035】
このように車両を停車させる際、タイミングt0からタイミングt1までの期間のように油圧指示値PIが変化している場合、加速度Gxは、油圧指示値PIの減少に応じて変化する。しかし、
図2に示す例では、車両が停車するタイミングt1直後で加速度Gxが変動しない。また、本例では車両が水平路面に接地しているため、タイミングt1以降において加速度Gxが「0」となっている。
【0036】
ところで、車両が停止した際に車体が前後方向に揺り戻されることがある。車体が前後方向に揺り戻されると、加速度Gxが変動する。これに対し、
図2に示す例では、車両が停車するタイミングt1直後で加速度Gxが変動しない。このように車両の停車直後で加速度Gxが変動しない場合のことを、理想的な停車という。以下では、理想的な停車のことを「なめらか停車」又は「ソフトストップ」という。反対に、停車直後で加速度Gxが大きく変動する停車のことを「ハードストップ」という。ハードストップの詳細については後述する。
【0037】
なお、なめらか停車を車両に行わせることができた場合、停車時点での油圧指示値PI、すなわち停車油圧PSが、停車油圧PSの理想値とほぼ等しいと見なすことができる。
次に、
図3を参照し、発進時制御の実施によって、降坂路に停車していた車両を発進させる場合の一例について説明する。
【0038】
図3に示すように、油圧指示値PIが保持油圧PHで保持されているタイミングt4から発進時制御の実施が開始される。すると、タイミングt4では、発進時制御を構成する初期抜き処理が実施される。この初期抜き処理では、油圧指示値PIが保持油圧PHから停車油圧PSに変更される。すると、油圧指示値PIの減少によって、制動アクチュエータ60の差圧調整弁62に対する開度指示値が大きくなる。これによって、ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcが、停車油圧PS又は停車油圧PS近傍の値まで急激に減少される。
【0039】
そして、発進時制御では、初期抜き処理の実施が終了すると、油圧指示値PIを徐々に減少させる徐変処理が実施される。徐変処理の実施中では、油圧指示値PIの減少に連動し、差圧調整弁62の開度指示値が徐々に大きくなる。これにより、WC圧Pwcが徐々に減少する。車両が降坂路で停車していた場合、このようにWC圧Pwcを減少させる発進時制御が実施されているときに車両が発進する。
【0040】
なお、本実施形態では、徐変処理での油圧指示値PIの減少速度は、路面勾配RGに応じた値に設定される。
図4には、路面勾配RGと、WC圧Pwcの減圧速度との関係が図示されている。
図4に示すように、本実施形態では、路面勾配RGが大きく急な降坂路であるほど減圧速度を遅くしている。これによって、急な降坂路であるほど車両に対する制動力が緩やかに減少されるため、降坂路での車両の急発進を抑制することができる。
【0041】
図3に示す例では、初期抜き処理から徐変処理に移行し、油圧指示値PIが停車油圧PSよりも小さくなると、車両が発進する。この場合、車速VSが緩やかに増大しているため、加速度Gxの急激な変化が抑えられている。その結果、躍度Jが許容躍度Jaの範囲に収まっている。許容躍度Jaは、車両が理想的な発進をしたか否かを判定するための指標として設定されている。
【0042】
ここで、車両の理想的な発進とは、初期抜き処理の実施が開始された時点(
図3に示す例ではタイミングt4)から車速VSが発進しきい値VSThを超えるまでの反応時間Tiが規定時間以内であり、且つ、発進時の躍度Jが許容躍度Jaの範囲にある場合の発進のことを云う。以下では、車両の理想的な発進のことを「なめらか発進」という。なお、初期抜き処理の実施が開始された時点から車速VSが発進しきい値VSThを超えるまでの反応時間Tiが規定時間を超えている場合、引き摺り発進であると判定することができる。また、車両の発進時に躍度Jが許容躍度Jaを超えていると、飛び出し発進であると判定することができる。飛び出し発進及び引き摺り発進の詳細については後述する。
【0043】
図5を参照して、自動停止制御の実施によって車両が減速しているときに制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0044】
本処理ルーチンが実行されると、まずステップS101において、車両が停車直前であるか否かが判定される。例えば、車速VSが停車直前車速VSTh1以下になったときに、車両が停車直前であると判定することができる。そして、車両が停車直前であると判定できない場合(S101:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0045】
一方、車両が停車直前であると判定できる場合(S101:YES)、処理がステップS102に移行される。ステップS102では、なめらか停車履歴があるか否かが判定される。なめらか停車に成功したという実績が履歴として制御装置100のメモリに記憶されているときに、なめらか停車履歴があると判定することができる。当該履歴がメモリに記憶されている場合、なめらか停車した際に車両が接地していた路面の勾配、及び、なめらか停車した際の停車油圧PSであるソフトストップ油圧PAが当該履歴に関連付けられてメモリに記憶されている。
【0046】
そして、なめらか停車履歴がない場合(S102:NO)、処理がステップS103に移行される。一方、なめらか停車履歴がある場合(S102:YES)、処理がステップS107に移行される。
【0047】
ステップS107では、停車制動力更新部101によって、ソフトストップ油圧PAの値が停車油圧PSに設定される。ここで、車両が現在接地している路面の勾配である路面勾配RGが、なめらか停車に成功したときにおける路面勾配値と異なる場合、その差分に応じてソフトストップ油圧PAを補正し、補正後のソフトストップ油圧PAの値が停車油圧PSに設定される。その後、処理がステップS108に移行される。
【0048】
一方で、ステップS103では、補正フラグにオンがセットされているか否かが判定される。この補正フラグは、発進時制御の実施によってなめらか発進を行えなかったこと、すなわち飛び出し発進や引き摺り発進を行ったことを条件にオンがセットされる。また、この補正フラグは、なめらか停止を行えなかった場合にもオンがセットされる。補正フラグにオフがセットされている場合(S103:NO)、処理がステップS104に移行される。ステップS104では、後述する車両のプラントモデルを用いて推定油圧Peが算出され、その後、処理がステップS106に移行される。一方、補正フラグにオンがセットされている場合(S103:YES)、処理がステップS105に移行される。ステップS105では、補正した車両のプラントモデルを用いて推定油圧Peが算出され、その後、処理がステップS106に移行される。ステップS106では、停車制動力更新部101によって、推定油圧Peの値が停車油圧PSに設定される。その後、処理がステップS108に移行される。
【0049】
ステップS108では、油圧指示値PIが停車油圧PSに変更される。その後、処理がステップS109に移行される。ステップS109では、車両が停止したか否かが判定される。車両が停止していない場合(S109:NO)、ステップS109の処理が繰り返し実行される。一方、車両が停止している場合(S109:YES)、処理がステップS110に移行される。ステップS110では、油圧指示値PIが保持油圧PHに変更され、その後、処理がステップS111に移行される。ステップS111では、車両がなめらか停車したか否かが判定される。なめらか停車したか否かの判定については後述する。なめらか停車ではなかった場合(S111:NO)、処理がステップS112に移行される。ステップS112では、補正フラグにオンがセットされる。その後、本処理ルーチンが終了される。一方、なめらか停車だった場合(S111:YES)、処理がステップS113に移行される。ステップS113では、ステップS107又はステップS106で設定した停車油圧PSがソフトストップ油圧PAとしてメモリに記憶される。その後、本処理ルーチンが終了される。
【0050】
なお、なめらか停車履歴は、車両の重量が変化したことが検出されたり、車両の重量が変化した可能性があると判定したりしたときに、メモリから消去される。また、補正フラグは、車両の重量が変化したことが検出されたり、車両の重量が変化した可能性があると判定したりしたときに、オフにセットされる。例えば、停車中に車両のドアや窓が開放されたときに、車両の重量が変化した可能性があると判定することができる。
【0051】
次に、
図6を参照し、自動停止制御によって車両を停止させる際の作用とともに、なめらか停車したか否かの判定方法の一例についても説明する。なお、
図6には、自動停止制御の実施によって、水平路面で車両がハードストップした場合のタイミングチャートが図示されている。
【0052】
図6に示すように、自動停止制御の実施が開始されると、制動アクチュエータ60の作動によって各ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcが調整されることで、車両が減速する。そして、車両が停車直前になると、すなわちタイミングt5よりも少し前になると、油圧指示値PIが停車油圧PSに変更される。すると、この油圧指示値PIに基づいた制動アクチュエータ60の作動によって、WC圧Pwcが停車油圧PS又は停車油圧PS近傍の値まで減少して保持される。そして、タイミングt5で車両が停車する。
【0053】
図6に示す例では、停車油圧PSが、停車油圧PSの理想値である理想停車油圧POよりも大きい値に設定されている。そのため、なめらか停車させるためには過剰な制動力が車両に付与された状態で、車両が停車する。その結果、停車直後の車両では、大きな揺り戻しが発生する。
図6に示す例では、加速度Gxは、タイミングt5において一旦「0」となった後に増減を繰り返しながら収束する。
【0054】
そこで、例えば、このように停車直後で加速度Gxが変動しているときにおける加速度Gxの最小値と最大値との差分が加速度Gxの変動幅ΔGxとして算出される。そして、この変動幅ΔGxが変動幅判定値ΔGxTh未満であるときには、なめらか停車したと判定し、変動幅ΔGxが変動幅判定値ΔGxTh以上であるときには、ハードストップしたと判定することができる。
【0055】
なお、
図6に示す例では、停車した後のタイミングt6からタイミングt7の間で、油圧指示値PIが保持油圧PHに向けて増大される。
次に、
図8を参照し、発進時制御の実施によって車両を発進させるときに制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。本処理ルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0056】
本処理ルーチンが実行されると、まずステップS201において、車両が停止中であるか否かが判定される。車両が停止中ではない場合(S201:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0057】
一方、車両が停止中である場合(S201:YES)、処理がステップS202に移行される。ステップS202では、車両が接地している路面が降坂路であるか否かが判定される。降坂路であるか否かの判定は、例えば、加速度Gxに基づいて算出された路面勾配RGを用いることができる。降坂路ではない場合(S202:NO)、本処理ルーチンが一旦終了される。一方、降坂路である場合(S202:YES)、処理がステップS203に移行される。なお、本実施形態では、車両が停止中であるか否かの判定処理(S201)を降坂路であるか否かの判定処理(S202)よりも先に行っているが、降坂路であるか否かの判定処理を車両が停止中であるか否かの判定処理よりも先に行うようにしてもよい。
【0058】
ステップS203では、なめらか停車履歴がメモリに記憶されているか否かが判定される。なめらか停車履歴がメモリに記憶されていない場合、現在の車両重量が前回の停車時における車両重量から変わっている可能性がある。
【0059】
そして、なめらか停車履歴がメモリに記憶されている場合(S203:YES)、処理がステップS208に移行される。
ステップS208では、制御装置100のメモリに記憶されているソフトストップ油圧PAの値が停車油圧PSに設定される。ここで、車両が現在接地している路面の勾配である路面勾配RGが、なめらか停車に成功したときにおける路面勾配値と異なる場合、その差分に応じてソフトストップ油圧PAを補正し、補正後のソフトストップ油圧PAの値が停車油圧PSに設定される。その後、処理がステップS209に移行される。
【0060】
一方、ステップS203において、なめらか停車履歴がメモリに記憶されていない場合(S203:NO)、処理がステップS204に移行される。ステップS204では、補正フラグにオンがセットされているか否かが判定される。補正フラグは、後述するステップS211又はステップS212でセットされる。補正フラグにオフがセットされている場合(S204:NO)、処理がステップS205に移行される。ステップS205では、後述する車両のプラントモデルを用いて推定油圧Peが算出され、その後、処理がステップS207に移行される。一方、補正フラグにオンがセットされている場合(S204:YES)、処理がステップS206に移行される。ステップS206では、補正した車両のプラントモデルを用いて推定油圧Peが算出され、その後、処理がステップS207に移行される。ステップS207では、停車制動力更新部101によって、推定油圧Peの値が停車油圧PSに設定される。その後、処理がステップS209に移行される。
【0061】
ステップS209では、初期抜き処理の実施によって、油圧指示値PIが停車油圧PSに変更され、その後、処理がステップS210に移行される。ステップS210では、徐変処理の実施、すなわち油圧指示値PIの減少が開始され、その後、処理がステップS211に移行される。
【0062】
ステップS211では、なめらか発進したか否かが判定される。なめらか発進していない場合(S211:NO)、処理がステップS212に進み、補正フラグにオンがセットされる。その後、処理がステップS214に移行される。一方、なめらか発進した場合(S211:YES)、処理がステップS213に進み、補正フラグにオフがセットされる。その後、処理がステップS214に移行される。
【0063】
ステップS214では、油圧指示値PIが「0」になったか否かが判定される。油圧指示値PIが「0」ではない場合(S214:NO)、車両に制動力が未だ付与されていると判定できるため、ステップS214の判定が繰り返し実行される。一方、油圧指示値PIが「0」である場合(S214:YES)、車両には制動力が付与されていないと判定できるため、本処理ルーチンが一旦終了される。すなわち、発進時制御の実施が終了される。
【0064】
次に、
図9及び
図10を参照し、発進時制御の実施によってなめらか発進できなかった場合の作用について説明する。
図9は、車両が飛び出し発進した場合のタイミングチャートである。
図9に示すように、停車油圧PSが上記理想停車油圧POよりも低いときに車両が飛び出し発進するおそれがある。タイミングt8で発進時制御の実施が開始されると、初期抜き処理によって、油圧指示値PIが停車油圧PSに変更されるため、ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcが停車油圧PSに向けて急激に減少される。この場合、タイミングt8で油圧指示値PIが理想停車油圧PO、すなわち停車油圧PSの理想値を下回ることとなる。そのため、車両に対する制動力が急激に減少している最中に車両が発進することとなる。その結果、タイミングt8からタイミングt9までの期間において車速VSが急激に上昇し、加速度Gxが急変している。このため、タイミングt8からタイミングt9までの期間では、許容躍度Jaの範囲を超えるように躍度Jが変動する。このように躍度Jの変動幅ΔJが許容躍度Jaよりも大きい場合、今回の車両の発進がなめらか発進ではない、すなわち飛び出し発進であると判定することができる。
【0065】
図10は、車両が引き摺り発進した場合のタイミングチャートである。
図10に示すように、停車油圧PSが上記理想停車油圧POよりも高いときに車両が引き摺り発進するおそれがある。タイミングt10で発進時制御の実施が開始されると、初期抜き処理によって、油圧指示値PIが停車油圧PSに変更されるため、ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcが停車油圧PSに向けて急激に減少される。この場合、処理が初期抜き処理から徐変処理に移行しても、WC圧Pwcは理想停車油圧POよりも高い。そのため徐変処理による停車油圧PSの減少によって、WC圧Pwcを減少させても車両がなかなか発進しない。そして、タイミングt11で油圧指示値PI、すなわちWC圧Pwcが理想停車油圧POに達すると、車両が発進する。そして、初期抜き処理の実施タイミングであるタイミングt10から上記規定時間が経過したタイミングより後のタイミングt12で、車速VSが発進しきい値VSThに達する。すなわち、
図10に示す例では、タイミングt10からタイミングt12までの時間が反応時間Tiとなる。この場合、車両発進直後における躍度Jの変動幅ΔJが許容躍度Jaを超えないものの、反応時間Tiが規定時間を超えている。そのため、今回の車両の発進がなめらか発進ではない、すなわち引き摺り発進であると判定することができる。
【0066】
次に、
図7を参照し、車両のプラントモデルを用いた推定油圧Peの算出について説明する。
プラントモデル104は、現時点の車両の状態を示す値である車両状態量が入力されると、車両特性を基に車両の挙動を示す値の推定値を出力するものである。
図7に示した例では、車両の状態量として、油圧指示値PIと、車速VSと、路面勾配RGとが入力される。すると、プラントモデル104からは、車両挙動を示す値の一例として、車両の前後ピッチ量Gが出力される。
【0067】
前後ピッチ量Gは、車両の加速度Gxの値に対応している。そして、プラントモデル104に入力された油圧指示値PIが停車油圧の理想値と等しい場合、前後ピッチ量Gは「0」となる。一方、プラントモデル104に入力された油圧指示値PIが理想停車油圧POよりも大きい場合、油圧指示値PIと理想停車油圧POとの乖離量が多いほど、前後ピッチ量Gが大きくなる。換言すれば、前後ピッチ量Gが大きいほど、油圧指示値PIと理想停車油圧POとの乖離量が大きい。
【0068】
プラントモデル104から出力された前後ピッチ量Gは、余分油圧Prに変換される。具体的には、余分油圧Prは、前後ピッチ量Gが大きいほど高い値に設定される。すなわち、余分油圧Prは、車両の状態量と車両の状態量の理想値との乖離量と相関する値であると云うことができる。したがって、プラントモデル104を用いた余分油圧Prの設定は、乖離量導出部102によって行われる。
【0069】
そして、推定油圧Peは、プラントモデル104に入力した油圧指示値PIから余分油圧Prを減じた差として導出することができる。したがって、油圧指示値PI及び余分油圧Prを用いた推定油圧Peの算出は、停車制動力更新部101によって行われる。
【0070】
プラントモデル104には、車両状態量に加え、補正項K1が入力されることもある。補正項K1は、制動アクチュエータ60の差圧調整弁62の車両加速度の性能のバラツキ及び性能の経年変化、加速度センサ93の性能のバラツキや出力の経年変化などを考慮し、プラントモデル104の出力値を現在の車両特性に基づいた値に実際の車両の挙動に近づけるためのものである。
【0071】
例えば、補正項K1は、車両がハードストップしたときにおける加速度Gxの変動幅ΔGx(
図6参照)が大きいほど大きい値に設定することができる。また、補正項K1は、車両が飛び出し発進したときにおける躍度Jの変動幅ΔJ(
図9参照)が大きいほど大きい値に設定することができる。また、補正項K1は、車両が引き摺り発進したときにおける反応時間Ti(
図10参照)が長いほど大きい値に設定することができる。
【0072】
補正項K1は、上記のように設定された値に対する信頼度に応じた補正がなされた上でプラントモデル104に入力される。すなわち、補正前の補正項K1に対する信頼度が低いときには、補正項K1は、「0」が乗算されてからプラントモデル104に入力される。一方、補正前の補正項K1に対する信頼度が高くなると、補正項K1は、信頼度に応じた係数(0よりも大きく、且つ1以下の値)が乗算されてからプラントモデル104に入力される。この係数は、信頼度が高いほど大きくなる。なお、信頼度は、車両のドアや窓が開放されたことをもって「0」に初期化される。
【0073】
そして、補正項K1を用いて前後ピッチ量Gを出力する場合、補正項K1をプラントモデル104に入力しない場合よりも、前後ピッチ量G、すなわち車両の状態量と車両の状態量の理想値との乖離量を小さくすることができる。
【0074】
なお、本実施形態では、
図5及び
図8の各処理ルーチンにおいて、ステップS104及びステップS205で推定油圧Peを算出する場合、補正項K1をプラントモデル104に入力することなく取得した前後ピッチ量Gを基に推定油圧Peが導出される。一方、ステップS105及びステップS206で推定油圧Peを算出する場合、補正項K1をプラントモデル104に入力して取得した前後ピッチ量Gを基に推定油圧Peが導出される。
【0075】
ここで、
図7に示すプラントモデル104を用いて導出した余分油圧Prの値が「0」である場合、プラントモデル104に入力された停車油圧PSが理想停車油圧POであると推定することができる。そのため、理想停車油圧POの導出する場合、前後ピッチ量Gが「0」と等しくなるようにプラントモデル104に入力する油圧を調整することで、理想停車油圧POを導出することができる。
【0076】
次に、本実施形態にかかる制御装置100の作用とともに、その効果について説明する。
本実施形態では、自動制動制御を実施している場合、油圧指示値PIが停車油圧PSと等しいときにおける車両状態量(例えば、油圧指示値PI、車速VS及び路面勾配RG)を基に、プラントモデル104を用い、停車油圧PSと理想停車油圧POとの乖離量に相関する余分油圧Prが導出される。そして、この余分油圧Prを基に推定油圧Peが演算される。すなわち、この推定油圧Peの値が停車油圧PSに設定される。このように最新の車両状態量を基に停車油圧PSを補正することにより、停車油圧PSを適正化することができる。
【0077】
なお、停車油圧PSと理想停車油圧POとの間に乖離が生じている場合、乖離量は、制動アクチュエータ60の差圧調整弁62の性能のバラツキ及び性能の経年変化、加速度センサ93の性能のバラツキや出力の経年変化に応じたものであると考えられる。この点、本実施形態では、停車油圧PSと理想停車油圧POとの間に乖離が生じている場合、当該乖離によって生じる車両挙動を示す値(例えば、加速度Gxの変動幅ΔGx、躍度Jの変動幅ΔJ、反応時間Ti)に基づいて補正項K1が導出される。そして、この補正項K1をもプラントモデル104に入力することで停車油圧PSが導出される。これにより、なめらか停車やなめらか発進の経験がなくても、停車油圧PSを理想停車油圧POにさらに近づけることができる。
【0078】
例えば、自動停止制御が実施されている場合、車両が停車直前になると、油圧指示値PIが停車油圧PSの値に設定される。このとき、停車油圧PSが理想停車油圧POよりも大きいと、車両がハードストップすることとなる。このようにハードストップした後で例えば発進時制御が実施される場合、ハードストップ時の車両の挙動を示す値として上記加速度Gxの変動幅ΔGxを基に補正項K1が演算され、この補正項K1をもプラントモデル104に入力することで導出した余分油圧Prを基に推定油圧Peが導出される。この推定油圧Peの値を停車油圧PSとすることにより、停車油圧PSを理想停車油圧POに近づけることができる。
【0079】
その結果、発進時制御の実施時において、初期抜き処理によって油圧指示値PIを、保持油圧PHから停車油圧PSに変更することで、車両が急発進することを、すなわち車両が飛び出し発進することを抑制できる。また、初期抜き処理から徐変処理に移行し、油圧指示値PIを徐々に減少させても車両がなかなか発進しないこと、すなわち車両が引き摺り発進することも抑制できる。つまり、車両発進時における車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
【0080】
発進時制御の実施によって車両を降坂路で発進させる場合、車両が飛び出し発進することがある。このようになめらか発進を車両にさせることができない場合、飛び出し発進時における躍度Jの変動幅ΔJを基に補正項K1が導出される。そして、こうした補正項K1をもプラントモデル104に入力して余分油圧Prを導出し、この余分油圧Prを基に推定油圧Peが導出される。この推定油圧Peの値を停車油圧PSとすることにより、停車油圧PSを理想停車油圧POに近づけることができる。
【0081】
その結果、次回の自動停止制御の実施時にこのように導出した停車油圧PSを用いて制動アクチュエータ60の作動を制御することで、車両の停止時における揺り返し量を減少させることができる。すなわち、なめらか停車させやすくなる。また、次回の発進時制御の実施時にこのように導出した停車油圧PSを用いて制動アクチュエータ60の作動を制御することで、車両が飛び出し発進しにくくすることができる。つまり、車両停車時及び車両発進時における車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
【0082】
発進時制御の実施によって車両を降坂路で発進させる場合、車両が引き摺り発進することがある。このようになめらか発進を車両にさせることができない場合、引き摺り発進時に取得できる反応時間Tiを基に補正項K1が導出される。そして、こうした補正項K1をもプラントモデル104に入力して余分油圧Prを導出し、この余分油圧Prを基に推定油圧Peが導出される。この推定油圧Peの値を停車油圧PSとすることにより、停車油圧PSを理想停車油圧POに近づけることができる。
【0083】
その結果、次回の自動停止制御の実施時にこのように導出した停車油圧PSを用いて制動アクチュエータ60の作動を制御することで、車両の停止時における揺り返し量を減少させることができる。すなわち、なめらか停車させやすくなる。また、次回の発進時制御の実施時にこのように導出した停車油圧PSを用いて制動アクチュエータ60の作動を制御することで、車両が引き摺り発進しにくくすることができる。つまり、車両停車時及び車両発進時における車両挙動の安定性の低下を抑制することができる。
【0084】
なお、補正項K1を用いて余分油圧Prを導出する場合、補正項K1は、信頼度に応じた係数が乗算されてからプラントモデル104に入力される。これによって、余分油圧Prの導出に際し、偶発的に車両の状態量が変化した場合などのように信頼度が低い状況で取得した車両挙動を示す値(例えば、加速度Gxの変動幅ΔGx、躍度Jの変動幅ΔJ、反応時間Ti)が大きく反映されてしまうことを抑制できる。すなわち、プラントモデル104を用いた余分油圧Prの導出精度の低下を抑制することができる。
【0085】
本実施形態では、なめらか停車履歴がメモリに記憶されている場合には、そのときの停車油圧PSであるソフトストップ油圧PAを停車油圧PSとして設定することができる。これにより、自動停止制御の実施によって車両を停止させる場合には車両になめらか停車させやすくなる。また、発進時制御の実施によって降坂路で車両を発進させる場合には車両になめらか発進させやすくなる。
【0086】
ただし、停車状態を維持するための最低限の制動力は路面勾配RGによって異なる。このため、本実施形態では、車両が現在接地している路面の勾配となめらか停車に成功したときの路面勾配又はなめらか発進に成功したときの路面勾配と異なる場合には、ソフトストップ油圧PAを停車油圧PSとして設定することなく、プラントモデル104を用いて導出した推定油圧Peの値を停車油圧PSとして設定するようにしている。これにより、自動停止制御の実施によって車両を停止させる場合には車両になめらか停車させやすくなる。また、発進時制御の実施によって降坂路で車両を発進させる場合には車両になめらか発進させやすくなる。
【0087】
例えば乗員の乗り降りや、荷物の積み入れ又は積み出し等によって車両の総重量が変化すると、停車状態の保持に要する最小制動力が変化する。このため、重量の変化前に記憶したソフトストップ油圧PAを重量の変化後でも停車油圧PSとして設定したり、重量の変化前の車両の状態量に基づいて設定された補正フラグと信頼度とを重量の変化後でも用いたりした場合、プラントモデル104を用いて導出した推定油圧Peが理想停車油圧POから乖離するおそれがある。この点、本実施形態では、車両の総重量の変化を検出したり、総重量が変化した可能性があると判定したりした場合、なめらか停車履歴がメモリから消去され、且つ、補正フラグがオフにセットされ、信頼度が「0」に初期化される。そのため、プラントモデル104を用いて導出する余分油圧Pr、すなわち推定油圧Peの精度の低下を抑制することができる。
【0088】
なお、本実施形態では、発進時制御と自動停止制御との両者において、停車油圧PSの学習を行うようにしている。これによって、推定油圧Peの導出機会を確保し、推定油圧Peの導出精度を高めることができる。
【0089】
さらに、上記のように停車油圧PSを設定する停車制動力更新部101を備える制御装置100によれば、この停車油圧PSを用いることで、運転者が制動操作を行っている状況下で実施される停止補助制御に際しても停車時に付与される制動力が過剰になることを抑制できる。停止補助制御について、
図11を参照して説明する。
【0090】
図11には、制御装置100が実行する停止補助制御によって、車両の停車が補助される際のタイミングチャートを示している。
図11では、本実施形態の場合を実線で示し、比較例の場合を二点鎖線で示している。なお、本実施形態の場合とは、例えばプラントモデル104を用いた推定油圧Peの学習によって、停車油圧PSが理想停車油圧POと等しい場合のことである。一方、比較例の場合とは、停車油圧PSが理想停車油圧POと乖離しており、停車時に過剰な制動力が車両に付与されてしまう場合のことである。
【0091】
車両が停車するタイミングt21以前においては、運転者による制動操作により、ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcは、制動操作量に応じた油圧となっている。そして、タイミングt21で車両が停止すると、運転者が制動操作を解消する。すると、停止補助制御が実施される。この場合、油圧指示値PIは、停車油圧PSにオフセット値αを加算した和である保持油圧に設定される。
【0092】
本実施形態では、保持油圧PH1は、車両が停止したときにおけるWC圧Pwcよりも低い。そのため、制動アクチュエータ60では、油圧指示値PI(=PH1)に応じた開度指示値に基づいて差圧調整弁62が作動される。すると、WC圧Pwcは、保持油圧PH1又は保持油圧PH1近傍の値まで減少し、当該値で保持される。このとき、ポンプ用モータ67を駆動させることなく、すなわちポンプ68を作動させることなく、WC圧Pwcを制御することができる。
【0093】
これに対して、比較例では、保持油圧PH2は、車両が停止したときにおけるWC圧Pwcよりも高い。そのため、制動アクチュエータ60では、ポンプ用モータ67の駆動によってポンプ68を作動させつつ、油圧指示値PI(=PH2)に応じた開度指示値に基づいて差圧調整弁62が作動される。すると、WC圧Pwcは、保持油圧PH2又は保持油圧PH2近傍の値まで増大し、当該値で保持される。そして、タイミングt22以降においてWC圧Pwcが保持されるようになると、ポンプ用モータ67の駆動が停止される。
【0094】
すなわち、本実施形態では、停車油圧PSを適正化させることができるため、停止補助制御の実施によってWC圧Pwcを制御するにあたって、ポンプ用モータ67を不要に駆動させてしまう事象の発生を抑制できる。その結果、ポンプ用モータ67の駆動時間を減少させることができるとともに、ポンプ用モータ67の駆動頻度を減らすことができる。これによって、ポンプ用モータ67及びポンプ68の負荷を軽減することができるとともに、ポンプ68の作動音の発生を軽減することができる。
【0095】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、停止補助制御を含んだ自動制動制御を実施する制御装置100を例示した。自動制動制御としては、停止補助制御は必須の構成ではない。
【0096】
・
図7を用いて説明したプラントモデル104の補正に関して、プラントモデル104に補正項K1を入力することに替えて、プラントモデル104から算出された前後ピッチ量Gに補正項K2を加算することで、余分油圧Prを導出するようにしてもよい。この場合、車両の状態量と車両の状態量の理想値との乖離量(例えば、加速度Gxの変動幅ΔGx、躍度Jの変動幅ΔJ、反応時間Ti)を基に、前後ピッチ量Gと同じ単位の補正項K2を導出する。そして、プラントモデル104から出力された前後ピッチ量Gと補正項K2とに基づいて余分油圧Prを導出する。この場合であっても、制動アクチュエータ60の差圧調整弁62の性能のバラツキ及び性能の経年変化、加速度センサ93の性能のバラツキや出力の経年変化などを考慮した余分油圧Prを得ることができる。
【0097】
なお、こうした補正項K2を用いる場合であっても、信頼度に応じた係数を補正項K2に乗じた積と、プラントモデル104から出力された前後ピッチ量Gとを基に、余分油圧Prを導出するようにしてもよい。
【0098】
・上記実施形態では、プラントモデル104の補正に関して、補正項K1に信頼度に対応した係数を乗算してプラントモデル104に入力するようにしている。補正項K1,K2の適用態様としては、信頼度が規定値以下であれば補正項K1,K2を用いた余分油圧Prの導出を行わず、信頼度が規定値よりも大きいときに補正項K1,K2を用いた余分油圧Prの導出を行うようにしてもよい。
【0099】
・補正項K1,K2に対して信頼度に対応した係数を乗算することなく、補正項K1,K2を余分油圧Prの導出に用いるようにしてもよい。すなわち、信頼度の大小に関わらず、補正項K1,K2の値を常に100%入力するように構成することもできる。
【0100】
・上記実施形態では、なめらか停車履歴がある場合、車両が現在接地している路面の勾配である路面勾配RGが、なめらか停車に成功したときにおける路面勾配値と異なっていても、メモリに記憶されているソフトストップ油圧PAを基に、停車油圧PSに設定される。しかしながら、車両が現在接地している路面の勾配である路面勾配RGが、なめらか停車に成功したときにおける路面勾配値と異なっている場合には、なめらか停車履歴がある場合であっても、プラントモデル104を用いて算出した推定油圧Peの値を停車油圧PSに設定するようにしてもよい。
【0101】
・上記実施形態では、停車油圧PSと理想停車油圧POとの乖離量に相関する値である余分油圧Prの導出に際してプラントモデル104を採用しているが、プラントモデル104を用いない別の方法で余分油圧Prや推定油圧Peを導出するようにしてもよい。
【0102】
・推定油圧Peを算出する際に、車両の進行先の路面情報や、先行車両の位置情報を取得して、車両の停車状態を維持するための適正な推定油圧Peを算出するようにしてもよい。
【0103】
・ドア又は窓が開放されても車両の重量が変化していないと判定できるときには、なめらか停車履歴の消去、補正フラグのオフ及び信頼度の初期化を行わなくてもよい。
・発進時制御及び自動停止制御において、なめらか停車履歴の有無に依らず、プラントモデル104を用いて導出した推定油圧Peの値を停車油圧PSに設定するようにしてもよい。すなわち、ステップS101において車両減速中である場合(S101:YES)、ステップS103に処理を移行させるようにしてもよい。同様に、ステップS202において降坂路である場合(S202:YES)、ステップS204に処理を移行させるようにしてもよい。
【0104】
・保持油圧PHの算出に用いるオフセット値αは、予め設定された所定値であってもよいし、停車状態の継続時間の予測値に応じて可変する値であってもよい。
・制動装置40は、ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcを自動調整することができるのであれば、上記実施形態で説明した装置とは構成の異なるものを適用してもよい。
【0105】
・制動装置は、車輪10と一体回転する回転体に摩擦材を押し付ける力を自動調整することができるのであれば、上記実施形態で説明した装置とは構成の異なるものを適用してもよい。このような制動装置としては、例えば、電動モータの駆動に応じた力で摩擦材を回転部材に押し付けることのできる電動制動装置を挙げることができる。