特許第6791270号(P6791270)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6791270磁性体の検査装置および磁性体の検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791270
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】磁性体の検査装置および磁性体の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20201116BHJP
【FI】
   G01N27/83
【請求項の数】16
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-564029(P2018-564029)
(86)(22)【出願日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2017002830
(87)【国際公開番号】WO2018138850
(87)【国際公開日】20180802
【審査請求日】2019年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】飯島 健二
【審査官】 村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/027659(WO,A1)
【文献】 特開平11−030607(JP,A)
【文献】 特開2003−050230(JP,A)
【文献】 特開2002−257789(JP,A)
【文献】 特開平02−240560(JP,A)
【文献】 特開2005−162379(JP,A)
【文献】 特開昭61−035348(JP,A)
【文献】 特開2005−292111(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/149165(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象であり長尺材からなる磁性体に対して予め磁界を印加し前記磁性体の磁化の方向を整える磁界印加部と、
前記磁界印加部により磁界が印加された後に、前記磁性体の磁界又は磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部と、
前記検知部により出力された前記検知信号に基づいて、前記磁性体の状態の判定を行う判定部とを備え
前記検知部は、前記磁性体を中心として前記磁性体を取り囲み、前記磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられ、前記検知信号を発生する検知コイルを含む、磁性体の検査装置。
【請求項2】
前記磁界印加部は、検査対象である磁性体に対して予め第1方向に磁界を印加し前記磁性体の磁化の方向を整え、
前記検知部は、前記磁界印加部により前記第1方向に磁界が印加された後の前記磁性体に対して、前記第1方向に交差する第2方向の磁界または前記第2方向の磁界の変化のうち少なくともいずれか一方を検知するとともに、検知した前記磁性体の前記第2方向の磁界または前記第2方向の磁界の変化に基づく検知信号を出力し、
前記判定部は、前記検知部により出力された前記検知信号に基づいて、前記磁性体の状態の判定を行うように構成されている、請求項1に記載の磁性体の検査装置。
【請求項3】
記磁界印加部は、前記長尺材の長手方向と交差する方向に磁界を印加し、
前記検知部は、前記長尺材からなる前記磁性体の前記第2方向の磁界または前記第2方向の磁界の変化を検知するように構成されている、請求項2に記載の磁性体の検査装置。
【請求項4】
前記磁界印加部は、出力される磁界が前記検知部での検知に影響しないように、前記検知部から前記長尺材が延びる前記第2方向に離間した位置に設けられている、請求項3に記載の磁性体の検査装置。
【請求項5】
前記磁界印加部は、前記長尺材からなる前記磁性体に対して前記第1方向に磁界を印加する第1磁界印加部と、前記第2方向において、前記検知部の前記第1磁界印加部の側とは反対側に設けられ、前記長尺材からなる前記磁性体に対し前記第2方向に交差する面に平行な方向に沿って磁界を印加する第2磁界印加部とを含む、請求項4に記載の磁性体の検査装置。
【請求項6】
前記検知コイルは、前記磁性体の前記第2方向の磁界の変化を検知して前記検知信号を発生するように構成されている、請求項3に記載の磁性体の検査装置。
【請求項7】
前記検知コイルは、差動コイルを含み、
前記判定部は、前記第2方向の磁界により前記差動コイルに含まれる2つのコイル部分により発生する各々の前記検知信号の大きさの差に基づいて前記長尺材からなる前記磁性体の状態を判定する、請求項6に記載の磁性体の検査装置。
【請求項8】
前記判定部は、前記検知部により出力された前記検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えた場合に、前記検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えたことを示す1つまたは複数の閾値信号を外部に出力するように構成されている、請求項1に記載の磁性体の検査装置。
【請求項9】
前記所定の閾値は、第1閾値と前記第1閾値よりも大きい値となる第2閾値とを含み、
前記判定部は、前記検知部により出力された前記検知信号が前記第1閾値を超えた場合に、前記検知信号が前記第1閾値を超えたことを示す第1閾値信号を外部に出力するとともに、前記検知部により出力された前記検知信号が前記第2閾値を超えた場合に、前記検知信号が前記第2閾値を超えたことを示す第2閾値信号を外部に出力するように構成されている、請求項8に記載の磁性体の検査装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記検知部により出力された前記検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えた回数を各々カウントするとともに、カウントされた回数が各々所定の回数を超えた場合に、カウントされた回数が前記所定の回数を超えたことを示す信号を外部に出力するように構成されている、請求項1に記載の磁性体の検査装置。
【請求項11】
前記検知部は、前記磁性体の磁化の状態を励振するための励振コイルをさらに含むとともに、前記励振コイルに流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振された前記磁性体の前記第2方向の磁界または前記第2方向の磁界の変化を検知するように構成されている、請求項3に記載の磁性体の検査装置。
【請求項12】
前記磁界印加部によって前記磁性体に印加される磁界は、前記励振コイルが前記磁性体の磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きい、請求項11に記載の磁性体の検査装置。
【請求項13】
前記検知部は、前記磁性体を前記検知部に対して前記第2方向に相対移動させることにより前記検知部の検知位置における前記磁性体の前記第2方向の磁界または前記第2方向の磁界の変化を検知するように構成されている、請求項3に記載の磁性体の検査装置。
【請求項14】
前記磁性体は、被検体に対して相対的に移動可能となるようにX線撮影装置に設けられる、前記被検体にX線を照射するX線照射部または前記被検体を透過したX線を検出するX線検出部の少なくともいずれか一方を移動させるためのワイヤを含み、
前記検知部は、前記ワイヤの前記第2方向の磁界を検知するように構成されている、請求項2〜1のいずれか1項に記載の磁性体の検査装置。
【請求項15】
前記検知コイルは、半円筒形のコイル部分を2つ組み合わせた円筒型コイルを含む、請求項1に記載の磁性体の検査装置。
【請求項16】
検査対象であり長尺材からなる磁性体に対して磁界を印加し前記磁性体の磁化の方向を整えるステップと、
前記磁界を印加した後、前記磁性体の磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知した前記磁性体の磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力するステップ
出力された前記検知信号に基づいて、前記磁性体の状態を判定するステップとを備え
前記検知信号を出力するステップにおいて、前記磁性体を中心として前記磁性体を取り囲み、前記磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられた検知コイルによって発生する前記検知信号を出力する、磁性体の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体の検査装置および磁性体の検査方法に関し、特に、磁性体の磁界を検知する検知部を備える磁性体の検査装置および磁性体の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性体の磁界を検知する検知部を備える磁性体の検査装置が知られている。このような磁性体の検査装置は、たとえば、特開2003−302379号公報参照)。
【0003】
特開2003−302379号公報には、長手方向に延びたスチールワイヤロープ(磁性体)の外周にスチールワイヤロープに対して相対移動可能に設けられたコイルホルダと、それぞれスチールワイヤロープを中心としてスチールワイヤロープの延びる方向に沿うようにコイルホルダの外周に巻き付けられて設けられる励磁コイル(検知部)および検出コイル(検知部)を備えるワイヤロープ断線検知装置(磁性体の検査装置)が開示されている。励磁コイル(検知部)は、スチールワイヤロープに対してスチールワイヤロープの長手方向に磁界を印加するように構成されている。また、検出コイル(検知部)は、スチールワイヤロープから生じるスチールワイヤロープの長手方向の漏洩磁化を検出(検知)して検知信号を出力するように構成されている。また、このワイヤロープ断線検知装置は、センサホルダとスチールワイヤロープとを長手方向に相対移動させることにより、スチールワイヤロープが断線した位置において生じる磁界の漏洩を検知して、スチールワイヤロープの断線を警報するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−302379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開2003−302379号公報のワイヤロープ断線検知装置(磁性体の検査装置)では、スチールワイヤロープ(磁性体)が有する磁化のバラツキに起因するノイズを検出してしまう。具体的には、スチールワイヤロープ等の磁性体内部の磁化の方向は、製造時(製造後)に、一定の方向に揃っていない場合がある。さらに、滑車等を通過する際に応力や曲がり等が加わることによっても磁性体内部の磁化の方向が変化し、不均一となる。このため、スチールワイヤロープに断線がない均一な部分であっても、スチールワイヤロープが有する磁化の方向のバラツキに起因して、検出コイル(検知部)がノイズに基づいた信号を検出(検知)してしまう場合がある。その場合には、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができないという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことが可能な磁性体の検査装置および磁性体の検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の1の曲面における磁性体の検査装置は、検査対象であり長尺材からなる磁性体に対して予め磁界を印加し磁性体の磁化の方向を整える磁界印加部と、磁界印加部により磁界が印加された後に、磁性体の磁界又は磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部と、検知部により出力された検知信号に基づいて、磁性体の状態の判定を行う判定部とを備え、検知部は、磁性体を中心として磁性体を取り囲み、磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられ、検知信号を発生する検知コイルを含む
【0008】
この発明の第1の局面による磁性体の検査装置では、上記のように、磁界印加部により予め磁界が印加された後の磁性体に対して、磁性体の磁界又は磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部と、検知部により出力された検知信号に基づいて、磁性体の状態の判定を行う判定部とを設け、検知部は、磁性体を中心として磁性体を取り囲み、磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられ、検知信号を発生する検知コイルを含む。これにより、磁性体に対して予め磁界が印加されるので、磁性体の均一となる部分(傷等のない部分)の磁化は略整えられる。一方で、磁性体に傷等のある部分の磁界は整わない。その結果、検知部から出力される検知信号が傷等のある部分とない部分とで異なることにより、判定部において磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【0009】
なお、本発明において、磁性体の「傷等」とは、磁性体のスレ、局所的磨耗、素線断線、凹み、腐食、亀裂、折れ等により生じる検知方向に対する(磁性体内部で傷等が生じた場合の空隙に起因するものを含む)断面積の変化、磁性体の錆、溶接焼け、不純物の混入、組成変化等により生じる透磁率の変化、その他磁性体が不均一となる部分を含む広い概念である。また、磁界の変化とは、磁性体と検知部とを相対移動させることによる検知部で検知される磁界の強さの時間的な変化、および、磁性体に印加する磁界を時間変化させることによる検知部で検知される磁界の強さの時間的な変化を含む広い概念である。また、「交差」は、直交に限らず、斜め方向に交わることをも含むものとする。
【0010】
上記第1の局面による磁性体の検査装置において、好ましくは、磁界印加部は、検査対象である磁性体に対して予め第1方向に磁界を印加し磁性体の磁化の方向を整え、検知部は、磁界印加部により第1方向に磁界が印加された後の磁性体に対して、第1方向に交差する第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化のうち少なくともいずれか一方を検知するとともに、検知した磁性体の第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化に基づく検知信号を出力し、判定部は、検知部により出力された検知信号に基づいて、磁性体の状態の判定を行うように構成されている。このように構成すれば、磁性体に対して、磁界または磁界の変化の検知方向である第2方向と交差する第1方向に予め磁界が印加されるので、磁性体の均一となる部分(傷等のない部分)の磁化は略第1方向に整えられる。その結果、第1方向に予め磁界を印加しない場合と比較して、第2方向の磁界は小さくなる。すなわち、磁化の大きさおよび方向のバラツキが低減し、かつ、検知方向と交差する方向を向くので、このバラツキに起因するノイズの発生を抑制することができる。その結果、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【0011】
この場合、好ましくは、磁界印加部は、長尺材の長手方向と交差する方向に磁界を印加し、検知部は、長尺材からなる磁性体の第1方向に交差する第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化を検知するように構成されている。このように構成すれば、短手方向(長手方向に交差する方向)に磁界を印加するため、比較的長い長手方向に印加する場合と比較して、磁性体の磁化が小さくなりかつ検知部の検出方向と交差する方向に向く。これにより、ノイズがより低減されるので、磁性体の状態(傷等の有無)の判定をより容易に行うことができる。
【0012】
上記長尺材からなる磁性体の検査装置において、好ましくは、磁界印加部は、出力される磁界が検知部での検知に影響しないように、検知部から長尺材が延びる第2方向に離間した位置に設けられている。ここで、検知部と磁界印加部との相対的な位置が変わると、検知部で検知される磁界にノイズが発生する要因となる。また、このノイズは、検知部と磁界印加部との距離が近いほど大きくなる。そのため、磁界印加部を、検知部における磁界の検知に影響がない程度にまで離間させて配置することにより、検知信号のS/N比の精度が上がる。その結果、検知部と磁界印加部との相対的な位置が変わることに起因するノイズの発生を抑制することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、磁界印加部は、長尺材からなる磁性体に対して第1方向に磁界を印加する第1磁界印加部と、第2方向において、検知部の第1磁界印加部の側とは反対側に設けられ、長尺材からなる磁性体に対し第2方向に交差する面に平行な方向に沿って磁界を印加する第2磁界印加部とを含むように構成されている。このように構成すれば、磁界印加部と磁性体とを第2方向の一方側または第2方向の他方側に対して相対移動させることにより第2方向の磁界の変化を検知する場合に、第2方向の一方側および第2方向の他方側のうちいずれの方向に相対移動させても、検知部による磁界が検知されるよりも前に、磁界印加部により磁性体の磁化の方向を第1方向に整えることができる。
【0014】
上記長尺材からなる磁性体の検査装置において、好ましくは、検知コイルは、磁性体の第2方向の磁界の変化を検知して検知信号を発生するように構成されている。このように構成すれば、検知コイルは、検知コイルの有する磁性体の延びる方向に沿って巻回される導線が形成する閉曲線内部の全磁束あるいは全磁束の変化により電圧を発生するので、容易に磁性体の第2方向の磁界の変化を検知することができる。
【0015】
この場合、好ましくは、検知コイルは、差動コイルを含み、判定部は、第2方向の磁界により差動コイルに含まれる2つのコイル部分により発生する各々の検知信号の大きさの差に基づいて長尺材からなる磁性体の状態を判定するように構成されている。このように構成すれば、差動コイルの一のコイル部分と他のコイル部分とにより発生する磁性体の傷等により生じる検知信号の差を検知することにより、磁性体の状態(傷等の有無)の局所的な変化をより容易に検知することができる。
【0016】
上記第1の局面による磁性体の検査装置において、好ましくは、判定部は、検知部により出力された検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えた場合に、検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えたことを示す1つまたは複数の閾値信号を外部に出力するように構成されている。このように構成すれば、磁性体の状態(傷等の有無)が不均一となる部分を、閾値信号に基づいて容易に判定することができる。ここで、本発明では、磁性体の磁化の方向を第1方向に整えているので、第2方向の磁界の検知にノイズが生じにくく、S/N比が良好となる。このため、閾値による判定であっても誤った判定が行われることが起こりにくくすることができる。
【0017】
この場合、好ましくは、所定の閾値は、第1閾値と第1閾値よりも大きい値となる第2閾値とを含み、判定部は、検知部により出力された検知信号が第1閾値を超えた場合に、検知信号が第1閾値を超えたことを示す第1閾値信号を外部に出力するとともに、検知部により出力された検知信号が第2閾値を超えた場合に、検知信号が第2閾値を超えたことを示す第2閾値信号を外部に出力するように構成されている。このように構成すれば、比較的小さな第1閾値を超えた第1閾値信号により、経過観察等注意を要する程度の小さな傷等を有する磁性体の状態を判定するとともに、比較的小さな第2閾値を超えた第2閾値信号により、早急に交換等を行う必要がある比較的大きな傷等を有する磁性体の状態を判定することができる。
【0018】
上記第1の局面による磁性体の検査装置において、好ましくは、判定部は、検知部により出力された検知信号が1つまたは複数の所定の閾値を超えた回数を各々カウントするとともに、カウントされた回数が各々所定の回数を超えた場合に、カウントされた回数が所定の回数を超えたことを示す信号を外部に出力するように構成されている。このように構成すれば、傷等の数に基づいて、磁性体の劣化等の状態を判定することができる。
【0019】
上記長尺材からなる磁性体の検査装置において、好ましくは、検知部は、磁性体の磁化の状態を励振するための励振コイルをさらに含むとともに、励振コイルに流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振された磁性体の第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化を検知するように構成されている。このように構成すれば、励振コイルにより磁性体の傷等の部分の磁化の状態が励振されるので、磁性体の傷等の部分からの第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化を容易に検知することができる。特に、交流電流等を励振コイルに流すことにより磁性体の磁化の状態に時間変化する励振を与える場合には、磁性体の磁界も時間変化する。そのため、磁性体と検知部とを相対移動させることなく、検知部により検知される磁界を変化させ、検知することができる。
【0020】
この場合、好ましくは、磁界印加部によって磁性体に印加される磁界は、励振コイルが磁性体の磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きくなるように構成されている。ここで、磁性体の磁化の方向が、予め磁界印加部が印加する大きい磁界により第1方向に整えられているので、磁性体の状態の判定において、第2方向に磁化の状態を励振するために必要な磁界は、第1方向で印加される磁化より小さいものでも検知には十分な大きさである。すなわち、第1方向に磁化の方向が整えられていない場合と比較して、磁化の状態を励振するために必要な磁界の大きさを小さくすることができる。
【0021】
上記長尺材からなる磁性体の検査装置において、必要に応じて、検知部は、磁性体を検知部に対して第2方向に相対移動させることにより検知部の検知位置における磁性体の第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化を検知するように構成されている。このように構成すれば、磁性体の検知部に磁界を検知される部分が相対移動に伴って変化するので、傷等のある部分とない部分との比較により、容易に傷等を検知することができる。
【0022】
上記第1の局面による磁性体の検査装置において、好ましくは、磁性体は、被検体に対して相対的に移動可能となるようにX線撮影装置に設けられる、被検体にX線を照射するX線照射部または被検体を透過したX線を検知するX線検知部の少なくともいずれか一方を移動させるためのワイヤを含み、検知部は、ワイヤの第2方向の磁界を検知するように構成されている。このように構成すれば、X線撮影装置に用いられるワイヤの状態(傷等の有無)を容易に判定することができる。
上記第1の局面による磁性体の検査装置において、好ましくは、検知コイルは、半円筒形のコイル部分を2つ組み合わせた円筒型コイルを含む。
【0023】
上記目的を達成するために、この発明の第2の局面における磁性体の検査方法は、検査対象であり長尺材からなる磁性体に対して磁界を印加し磁性体の磁化の方向を整えるステップと、磁界を印加した後、磁性体の磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知した磁性体の磁界または磁界の変化に基づく検知信号を出力するステップと、出力された検知信号に基づいて、磁性体の状態を判定するステップとを備え、検知信号を出力するステップにおいて、磁性体を中心として磁性体を取り囲み、磁性体の延びる方向に沿って巻回するように設けられた検知コイルによって発生する検知信号を出力する。
【0024】
この発明の第2の局面による磁性体の検査方法では、上記のように、磁界印加部により第1方向に磁界を印加した後、磁性体に対して、第1方向に交差する第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化のうち少なくともいずれか一方を検知するとともに、検知した磁性体の第2方向の磁界または第2方向の磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部を設ける。これにより、磁性体に対して、磁界または磁界の変化の検知方向である第2方向と交差する第1方向に予め磁界が印加されるので、磁性体に対して、磁界または磁界の変化の検知方向である第2方向と交差する第1方向に予め磁界が印加されるので、磁性体の均一となる部分(傷等のない部分)の磁化は略第1方向に整えられる。その結果、第1方向に予め磁界を印加しない場合と比較して、第2方向の磁界は小さくなる。すなわち、磁化の大きさおよび方向のバラツキが低減し、かつ、検知方向と交差する方向を向くので、このバラツキに起因するノイズの発生を抑制することができる。その結果、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上記のように、磁性体の状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態および第1参考例による磁性体の検査装置を備える移動型X線透視装置の全体構成を示した図である。
図2】本発明の第1実施形態および第1参考例による磁性体の検査装置の全体構成を示したブロック図である。
図3】本発明の第1実施形態による磁界印加部の磁界の印加方向を説明するための図である。
図4】本発明の第1実施形態による励振コイルおよび検知コイルを説明するための図である。
図5】本発明の第1実施形態による励振コイルの磁化の励振を説明するための図である。
図6】スチールワイヤロープに傷等がある場合を示す図である。
図7】本発明の第1実施形態による電子回路部を示したブロック図である。
図8】比較例よるスチールワイヤロープの磁化の方向を説明するための図である。
図9】本発明の第1実施形態および比較例による磁性体の検知信号の値のグラフである。
図10】本発明の第2実施形態による電子回路部を示したブロック図である。
図11】本発明の第1参考例による励振コイルと磁気センサ素子を説明するための図である。
図12】本発明の第1参考例による電子回路部を示したブロック図である。
図13】本発明の第実施形態による磁界印加部を説明するための図である。
図14】本発明の第1および実施形態の変形例による磁界印加部を説明するための図である。
図15】本発明の第実施形態の変形例による磁界印加部を説明するための図である。
図16】本発明の第1および第2実施形態の変形例による励振コイルおよび検知コイルを説明するための図である。
図17】本発明の第1および実施形態の変形例による励振コイルおよび検知コイルを説明するための図である。
図18】本発明の第2参考例による検知コイルを説明するための図である。
図19】本発明の第1〜第実施形態の変形例による励振コイルおよび検知コイルを説明するための図である。
図20】本発明の第1〜第実施形態の変形例によるX線撮影装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
(第1実施形態)
まず、図1図9を参照して、第1実施形態による検査装置100の構成について説明する。第1実施形態では、移動型X線撮影装置(回診車)900に内蔵されているスチールワイヤロープWを検査するために検査装置100が用いられる例について説明する。
【0029】
図1に示すように、移動型X線撮影装置900は、柱Pに対して上下(X方向)移動可能に構成されているX線照射部E1と、可搬型のX線検出部E2とを備え、車輪により移動可能に構成されている。X線照射部E1は、被検体にX線を照射する。また、X線検出部E2は、被検体を透過したX線を検出し、X線画像を受像する。また、X線照射部E1とX線検出部E2とは、たとえば、それぞれX管とFPD(フラットパネルディテクター)により構成されている。また、柱P内には、X線照射部E1を牽引し支えるスチールワイヤロープWと、スチールワイヤロープWの延びる上下方向(X方向)に対して移動可能に構成されている検査装置100が内蔵されている。なお、スチールワイヤロープWは、特許請求の範囲の「磁性体」、「長尺材」および「ワイヤ」の一例である。
【0030】
スチールワイヤロープWは、磁性を有する素線材料が編みこまれる(たとえば、ストランド編みされる)ことにより形成され、X方向に延びる長尺材からなる磁性体である。また、図示は省略したが、スチールワイヤロープWは、X線照射部E1を移動させる際に滑車等の機構を通過し、滑車等による応力が加えられる。スチールワイヤロープWに劣化による切断が起こりX線照射部E1が落下するのを防ぐために、普段からスチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)を監視し、劣化が進行したスチールワイヤロープWを早い段階で交換することが必要である。
【0031】
図3(a)に示すように、検査装置100は、スチールワイヤロープWの磁界(磁束)の変化を検知するように構成されている。また、検査装置100は、フレームFに設けられる磁界印加部1、検知部2および電子回路部3を含む検査ユニットU(図2参照)と、検査ユニットUをスチールワイヤロープWに対して移動可能にするドライバ(図示なし)および駆動部(図示なし)とを備える。Y方向およびZ方向はスチールワイヤロープWの延びる方向に垂直な面内で直交する2つの方向である。なお、電子回路部3は、特許請求の範囲の「判定部」の一例である。
【0032】
磁界印加部1は、検査対象であるスチールワイヤロープWに対して予めY方向に磁界を印加し磁性体の磁化の方向を整えるように構成されている。また、磁界印加部1は、長尺材からなるスチールワイヤロープWに対してY2方向に磁界を印加する第1磁界印加部11aおよび11bと、X方向において、検知部の第1磁界印加部11aおよび11bの側とは反対側に設けられ、長尺材からなるスチールワイヤロープWに対しX方向に交差する面に平行かつY2方向と反対方向となるY1方向に沿って磁界を印加する第2磁界印加部12aおよび12bとを含む。すなわち、磁界印加部1は、長尺材の長手方向であるX方向と略直交する方向に磁界を印加するように構成されている。なお、Y方向(Y1方向およびY2方向)は、特許請求の範囲の「第1方向」の一例である。また、X方向(X1方向およびX2方向)は、特許請求の範囲の「第2方向」の一例である。
【0033】
具体的には、磁界印加部1(第1磁界印加部11aおよび11bと、第2磁界印加部12aおよび12bと)は、フレームFに対して固定されている(図2参照)。また、磁界印加部1は、たとえば、永久磁石により構成されている。磁界印加部1により印加される磁界の大きさは、スチールワイヤロープWの磁化の方向を(傷等のない部分においては)Y方向に略均一に整えるために、比較的強い磁界を印加することが可能に構成されている。
【0034】
また、第1磁界印加部11aと11bとは、第1磁界印加部11aのY2方向に向けられたN極(斜線あり)と第1磁界印加部11bのY1方向に向けられたS極(斜線なし)とがスチールワイヤロープWを挟んで対向するように設けられている。これにより、第1磁界印加部11aおよび11bの間を通過したスチールワイヤロープWは、図3(b)に示すように、第1磁界印加部11aおよび11bにより磁界が印加され、スチールワイヤロープWの延びる方向と直交するY2方向に磁化の方向が整えられる。
【0035】
また、第2磁界印加部12aと12bとは、第2磁界印加部12aのY2方向に向けられたS極(斜線なし)と第2磁界印加部12bのY1方向に向けられたN極(斜線あり)とがスチールワイヤロープWを挟んで対向するように設けられている。これにより、第2磁界印加部12aおよび12bの間を通過したスチールワイヤロープWは、第2磁界印加部12aおよび12bにより磁界が印加され、スチールワイヤロープWの延びる方向と直交するY1方向に磁化の方向が整えられる(磁化方向の図示は省略)。
【0036】
ここで、検査ユニットUをX1方向に移動させることにより、検査ユニットUに設けられた磁界印加部1および検知部2とスチールワイヤロープWとを相対移動させる場合、第1磁界印加部11aおよび11bによって検知部2により検査される部分に予め磁界が印加され、磁化の方向が整えられる。また、検査ユニットUをX2方向に移動させることにより、検査ユニットUに設けられた磁界印加部1および検知部2とスチールワイヤロープWとを相対移動させる場合、第2磁界印加部12aおよび12bによって検知部2により検査される部分に予め磁界が印加され、磁化の方向が整えられる。したがっていずれの方向に相対移動させる場合にも、磁界印加部1は、スチールワイヤロープWに対して、予め磁界を印加して磁化の方向を整えることができる。
【0037】
また、第1磁界印加部11aおよび11bと、第2磁界印加部12aおよび12bとは、磁界を印加する方向がY2方向とY1方向となり反対方向である。したがって、検査の前後において、磁界印加部1によりスチールワイヤロープWが磁化される方向が、逆になるので、検査後のスチールワイヤロープWに磁化が残存しにくい。
【0038】
また、磁界印加部1は、出力される磁界が検知部2での検知に影響しないように、検知部2から長尺材であるスチールワイヤロープWが延びるX方向に離間した位置に設けられている。具体的には、スチールワイヤロープWのたわみや、磁界印加部1と検知部2とが固定するフレームFのガタツキなどにより、スチールワイヤロープWに対する磁界印加部1および検知部2の相対位置の関係が変化すると、検知信号にノイズが生じる原因となる。そのため、磁界印加部1は、検知部2に与える影響が問題とならない程度に離間した位置に設けられている。
【0039】
また、磁界印加部1によって磁性体に印加される磁界は、励振コイル21(後述)がスチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きくなるように構成されている。具体的には、磁界印加部1により印加される磁界は、スチールワイヤロープWの磁化の方向を略Y2方向に整える(揃える)ために、比較的大きくする必要がある。一方で、励振コイル21によりスチールワイヤロープWの磁化を励振するのに必要な磁界は、比較的小さいもので十分である。詳しくは後に説明する。
【0040】
検知部2は、図4に示すように、励振コイル21と検知コイル22とを含む。また、励振コイル21および検知コイル22は、図3(a)および図4に示すように、長尺材からなる磁性体であるスチールワイヤロープWの延びる方向を中心軸として、長手方向に沿うように複数回巻回され、スチールワイヤロープWの延びるX方向(長手方向)に沿って円筒形となるように形成される導線部分を含むコイルである。したがって、巻回される導線の形成する面は、長手方向に略直交し、スチールワイヤロープWはコイルの内部を通過する。また、検知コイル22は、励振コイル21の内側に設けられている。
【0041】
また、励振コイル21に励振電流が流されることにより、励振コイル21の内部において、励振電流に基づいて発生する磁界がX方向に沿って印加されるように構成されている。これにより、励振コイル21は、スチールワイヤロープWの磁化の状態を励振する。具体的には、図5(a)のように、磁界印加部1により予め磁化の方向が整えられているので、励振コイル21による磁界の印加がない場合には、傷等のない部分において、スチールワイヤロープWの磁化の方向は、Y2方向に略揃っている。ここで、図5(b)に示すように、励振コイル21に一定の大きさかつ一定の周波数を有する交流電流(励振電流)が外部から流されることにより、スチールワイヤロープWの延びるX方向に振動する(X1方向への磁界とX2方向への磁界が周期的にあらわれる)ように磁界が印加される。また、励振コイル21に流れる時間変化する励振電流の向き(実線または点線)に伴って、励振コイル21により印加される磁界(実線または点線)の方向も変化する。
【0042】
したがって、時間変化する磁界によりスチールワイヤロープWの磁化の方向が励振され、スチールワイヤロープWから発せられる磁界も時間変化する。その結果、スチールワイヤロープWと検知コイル22との相対位置を変化させることなく、スチールワイヤロープWの同じ部分による磁界が時間変化するため、磁界の変化を検知する検知コイル22(後述)により、スチールワイヤロープWの状態を判定することができる。
【0043】
また、検知コイル22は、磁性体のX方向の磁界の変化を検知して電圧を発生するように構成されている。また、検知コイル22は、磁界印加部1によりY2方向に磁界が印加されたスチールワイヤロープWに対して、Y2方向に交差するX方向の磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化に基づく電圧を出力するように構成されている。また、検知コイル22は、励振コイル21によって発生する磁界の略全てが検知可能に(入力される様に)配置されている。
【0044】
また、検知コイル22は、2つのコイル部分である検知コイル22aおよび22bからなる差動コイルとなっている。また、検知コイル22は、励振コイル21に流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振されたスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知する。
【0045】
図6は、傷等のあるスチールワイヤロープWの例である。図6において、素線の編まれ方は、簡略化して示されている。図6(a)のスチールワイヤロープWは、表面部分の素線が断線している。そのため、素線断線の生じた部分から磁界が漏れ出ている。また、図6(b)のスチールワイヤロープWは、スレもしくは打痕により表面部に凹みが生じている。また、図6(c)のスチールワイヤロープWは、内部に素線断線が生じている。これら傷等のある位置の断面積S1、S2、S3は、傷等のない部分の断面積S0と比較して、それぞれ小さくなっているため、スチールワイヤロープWの全磁束(磁界に透磁率と面積とを掛けた値)は傷等のある部分で小さくなる。以上のように、磁界の漏れや、全磁束の減少が生じるため、傷等のある部分では検知される磁界に変化が生じる。
【0046】
その結果、たとえば、傷等のある場所に位置する検知コイル22aの検知電圧の値が検知コイル22bと比較して減少するため、差動コイル(検知コイル22全体)による検知電圧の差の値(検知信号)が大きくなる。すなわち、傷等のない部分での検知信号は略ゼロとなり、傷等のある部分では検知信号がゼロより大きい値を持つので、差動コイルにおいて、傷等の存在をあらわす明確な信号(S/N比の良い信号)が検知される。これにより、電子回路部3(後述)は、検知信号の差の値に基づいてスチールワイヤロープWの傷等の存在を検出することができる。また、傷等の大きさ(断面積の減少量の大きさ)が大きいほど、検知信号の値が大きくなるため、傷等の大きさを判定(評価)する際に、ある程度以上に大きな傷等があれば、検知信号が所定の第1閾値Th1または第2閾値Th2(後述)を超えたことを自動で判定することが可能となる。なお、傷等には錆等による透磁率の変化も含まれ、同様に検知信号としてあらわれる。
【0047】
図7に示すように、電子回路部3は、検知コイルからの信号に基づいて長尺材からなるスチールワイヤロープWの状態を判定するように構成されている、また、電子回路部3は、交流電源31と、増幅器32と、AD変換器33と、CPU34と、デジタル出力インターフェース35とを含む。交流電源31は、励振コイル21に交流電流を流す(出力する)。増幅器32は、検知コイル22から出力される検知信号(スチールワイヤロープWのX方向の磁界の強さに基づく電流)を増幅し、AD変換器33に出力する。AD変換器33は、増幅器32により増幅されたアナログの検知信号を、デジタルの検知信号に変換する。CPU34は、AD変換器33から出力される検知信号から交流成分を取り除く処理を行い、検知信号の絶対値の変化に対応した信号(DCレベル信号)に変換する同期検波整流処理を行うとともに、検知信号が後述する所定の閾値を超えた場合に、警報信号を出力する。また、CPU34は、交流電源31により出力される電流の強さを制御する。また、傷等の大きさを判定する機能をCPU34に持たせている。デジタル出力インターフェースは、外部の図示しないPCなどに接続され、処理がされた検知信号や警報信号のデジタルデータを出力する。また、外部のPCは、入力された信号の大きさをメモリに保存や、信号の大きさの時間経過に伴うグラフの表示とともに、CPU34を介して、検知部2(一体構成されたフレーム)のスチールワイヤロープWに対する移動速度の制御等を行う。
【0048】
また、電子回路部3は、検知コイル22(検知部2)により出力された検知信号が第1閾値Th1を超えた場合に、検知信号が第1閾値Th1を超えたことを示す第1閾値信号を外部に出力するとともに、検知部2により出力された検知信号が第2閾値Th2を超えた場合に、検知信号が第2閾値Th2を超えたことを示す第2閾値信号を外部に出力するように構成されている。
【0049】
(比較例)
ここで、磁界印加部1が設けられていないことを除いて同様に構成されている比較例による磁性体の検査装置101と比較しながら、検査装置100の磁界印加部1による磁化について説明する。
【0050】
磁界印加部1が設けられていない比較例による磁性体の検査装置101(図示省略)では、励振コイル21により、X方向に磁場が印加される。このとき、傷等の無い均一な部分で検知される検知信号(移動や励振等に伴う磁界の時間変化も含む磁性体の磁界の大きさ)が等しくなるように、励振コイル21によりX方向に印加する磁界を大きくする必要がある。また、予め磁化の方向を整えて(揃えて)いないので、励振コイル21によりX方向に印加される磁界は、磁化の方向を略X方向に揃える程度に大きくする必要がある。
【0051】
ここで、図8に示すように、磁界を印加する前において、磁性体であるスチールワイヤロープW内は、製造時点で、内部の構造ごとに磁化の方向がバラついている。また、滑車等の機構を通過し、応力等の外力が加えられることによっても、これらの磁化の方向は変化していく。したがって、傷等の無い均質な部分であっても、励振コイル21により磁化の方向をX方向に励振しても磁化の方向のバラツキが消しきれないため、スチールワイヤロープWの場所ごとの磁化の大きさおよび方向のバラツキにより検知信号にノイズが生じる原因となる。
【0052】
一方で、予め磁界を印加することにより磁化の大きさおよび方向を整えて(揃えて)おく場合は、磁性体の傷等のない部分の磁界は概ね一定の大きさとなって検知されるため、傷からの信号と区別が容易となる。
【0053】
特に、長尺材であるスチールワイヤロープWであれば、長手方向(X方向)に磁化させる場合と比較して、短手方向(Y方向)に磁化させる場合のスチールワイヤロープW(一般に磁性体)の磁化の大きさは、スチールワイヤロープWの太さに応じて数十分の1から数千分の1程度に小さくなり、かつ、短手方向(Y方向)に磁化の方向を整えるため、残留磁化の問題が緩和される。
【0054】
図9のグラフは、比較例および第1実施形態における、スチールワイヤロープWの磁界の変化のグラフである。グラフの縦軸は、検知信号の大きさに対応し、グラフの横軸は、検知位置(スチールワイヤロープWの検知される場所)に対応している。CPU34により同期検波整流処理がされているため、励振コイル21により印加される磁界の時間変化の影響は取り除かれている。
【0055】
磁界印加部1を設けない比較例による磁性体の検査装置101において、図9の整磁前のグラフに示すように、傷等の無い部分であっても、磁化の大きさおよび方向のバラツキによるノイズが検知されている。そのため、このような比較例による磁性体の検査装置101では、経験や知識(たとえば、特徴的な検知信号のあらわれのパターン方など)のない非専門化が傷等の有無を判断することは難しい。特に、閾値等を設けて信号の大きさのみに基づいて判定する場合、誤判定の原因となる。
【0056】
一方で、磁界印加部1が設けられた第1実施形態による検査装置100において、図9の整磁後のグラフに示すように、ノイズはほとんど検知されない。具体的には、ノイズ大きさが相対的に小さく、S/N比の良好なグラフとなり、検知信号が明確にあらわれている。したがって、磁界印加部1により、非専門家や閾値による判定であっても、誤判定が生じない程度にノイズを低減することができる。なお、図9の整磁後のグラフにおいて、スチールワイヤロープWの傷等のある部分の位置が差動コイルの一方側から他方側に移ったことによる検知信号の正負の逆転が明瞭にあらわれていることがわかる。
【0057】
(第1実施形態の効果)
本発明の第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0058】
本発明の第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1により予め磁界が印加された後のスチールワイヤロープWに対して、スチールワイヤロープWの磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部2と、検知部2により出力された検知信号に基づいて、スチールワイヤロープWの状態の判定を行う電子回路部3とを設ける。これにより、スチールワイヤロープWに対して予め磁界が印加されるので、スチールワイヤロープWの均一となる部分(傷等のない部分)の磁化は略整えられる。一方で、スチールワイヤロープWに傷等のある部分の磁界は整わない。その結果、検知部2から出力される検知信号が傷等のある部分とない部分とで異なることにより、電子回路部3においてスチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【0059】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1によりY2方向に磁界が印加された後のスチールワイヤロープWに対して、Y方向に略直交するX方向の磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化に基づく検知信号を出力する検知部2および電子回路部3を設ける。これにより、スチールワイヤロープWに対して、磁界の変化の検知方向であるX方向と略直交するY方向に予め磁界が印加されるので、スチールワイヤロープWの均一となる部分(傷等のない部分)の磁化は略Y方向に整えられる。その結果、Y方向に予め磁界を印加しない場合と比較して、X方向の磁界は小さく(略ゼロと)なる。すなわち、磁化の大きさおよび方向のバラツキが低減し、かつ、検知方向と直交する方向を向くので、このバラツキに起因するノイズの発生を抑制することができる。その結果、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【0060】
また、第1実施形態では、上記のように、スチールワイヤロープWは、長尺材からなり、磁界印加部1は、長尺材であるスチールワイヤロープWの長手方向(X方向)と略直交する方向(Y方向)に磁界を印加し、検知部2および電子回路部3は、スチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知するように構成されている。これにより、短手方向(長手方向に略直交する方向)に磁界を印加するため、比較的長い長手方向に印加する場合と比較して、スチールワイヤロープWの磁化の方向がより整いやすくなる。その結果、ノイズがより低減されるので、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定をより容易に行うことができる。また、長手方向に磁化する場合と比較して、磁性体の磁化が小さくなりかつ検知部の検出方向と略直交する方向に向く。これにより、ノイズがより低減されるので、磁性体の状態(傷等の有無)の判定をより容易に行うことができる。
【0061】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1は、出力される磁界が検知部2での検知に影響しないように、検知部2から長尺材が延びるX方向に離間した位置に設けられている。これにより、検知信号のS/N比の精度が上がる。その結果、検知部2と磁界印加部1との相対的な位置が変わることに起因するノイズを抑制することができる。
【0062】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1を、長尺材からなるスチールワイヤロープWに対してY2方向に磁界を印加する第1磁界印加部11aおよび11bと、X方向において、検知部2の第1磁界印加部11aおよび11bの側とは反対側に設けられ、長尺材からなるスチールワイヤロープWに対しX方向に交差する面に平行なY1方向に沿って磁界を印加する第2磁界印加部12aおよび12bとを含むように構成する。これにより、磁界印加部1とスチールワイヤロープWとをX方向の一方側であるX1方向側またはX方向の他方側であるX2方向側に対して相対移動させることによりX方向の磁界の変化を検知する場合に、X1方向側またはX2方向側うちいずれの方向に相対移動させても、検知部2において磁界が検知されるよりも前に、磁界印加部1によりスチールワイヤロープWの磁化の方向をY方向(Y1方向またはY2方向)に整えることができる。
【0063】
また、第1実施形態では、上記のように、検知信号を発生する検知コイル22を設けて、電子回路部3は、検知信号に基づいて長尺材からなるスチールワイヤロープWの状態を判定するように構成されている。これにより、検知コイル22は、検知コイル22の有するスチールワイヤロープWの延びるX方向に沿って巻回される導線が形成する閉曲線内部の全磁束に起因する誘電電圧が発生するので、容易にスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知することができる。
【0064】
また、第1実施形態では、上記のように、検知コイル22は、差動コイルを構成し、電子回路部3は、X方向の磁界により差動コイルに含まれる2つのコイル部分により発生する電圧の大きさの差に基づいて長尺材からなるスチールワイヤロープWの状態を判定するように構成されている。これにより、差動コイルの一のコイル部分と他のコイル部分とにより生じる電圧(検知信号)の差を検知することにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の局所的な変化をより容易に検知することができる。
【0065】
ここで、励振コイル21および検知コイル22の内部を通過するスチールワイヤロープWは、たわみが生じることにより、検知コイル22aおよび22bの中心軸から少しずれた位置(たとえば、図4の場合、距離r1>距離r2)を通ることがある。検知コイル22aおよび22bは、スチールワイヤロープWを中心軸として対称形(円筒対称)となるように構成されているので、スチールワイヤロープWの中心軸からのずれに起因するノイズは抑制される。
【0066】
さらに、差動コイルとなるように、検知コイル22に2つの検知コイル22aおよび22bを設けているので、それぞれのコイル部分におけるスチールワイヤロープWの中心軸からのずれが、略等しくなる。このことによっても、スチールワイヤロープWの中心軸からのずれに起因するノイズは抑制される。
【0067】
また、第1実施形態では、上記のように、電子回路部3は、検知部2により出力された検知信号が2つの所定の閾値Th1およびTh2を超えた場合に、検知信号が2つの所定の閾値Th1およびTh2を各々超えたことを示す2つの閾値信号(第1閾値信号および第2閾値信号)を外部に出力するように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)が不均一となる部分を、閾値信号に基づいて容易に判定することができる。ここで、第1実施形態では、スチールワイヤロープWの磁化の方向をY方向に整えているので、X方向の磁界の検知にノイズが生じにくく、S/N比が良好となる。このため、閾値Thによる判定であっても誤った判定が行われることが起こりにくくすることができる。
【0068】
また、第1実施形態では、上記のように、所定の閾値Thは、第1閾値Th1と第1閾値Th1よりも大きい値となる第2閾値Th2とを含み、電子回路部3は、検知部2および電子回路部3により出力された検知信号が第1閾値Th1を超えた場合に、検知信号が第1閾値Th1を超えたことを示す第1閾値信号を外部に出力するとともに、検知部により出力された検知信号が第2閾値Th2を超えた場合に、検知信号が第2閾値を超えたことを示す第2閾値信号を外部に出力するように構成されている。これにより、比較的小さな第1閾値Th1を超えた第1閾値信号により、経過観察等注意を要する程度の小さな傷等を有するスチールワイヤロープWの状態を判定するとともに、比較的大きな第2閾値Th2を超えた第2閾値信号により、早急に交換等を行う必要がある比較的大きな傷等を有するスチールワイヤロープWの状態を判定することができる。
【0069】
また、第1実施形態では、上記のように、励振コイル21に流れる励振電流により発生した磁界により磁化の状態が励振されたスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知するように構成されている。これにより、励振コイル21によりスチールワイヤロープWの傷等の部分の磁化の状態が励振されるので、スチールワイヤロープWの傷等の部分からのX方向の磁界の変化を容易に検知することができる。特に、交流電流等を励振コイル21に流すことによりスチールワイヤロープWの磁化の状態に時間変化する励振を与える場合には、スチールワイヤロープWの磁界も時間変化する。そのため、スチールワイヤロープWと検知部2とを相対移動させることなく、検知部2により検知される磁界を変化させ、検知することができる。
【0070】
また、第1実施形態では、上記のように、磁界印加部1によってスチールワイヤロープWに印加される磁界は、励振コイル21がスチールワイヤロープWの磁化の状態を励振するために発生させる磁界よりも大きくなるように構成されている。ここで、スチールワイヤロープWの磁化の方向が予め磁界印加部1の印加する大きい磁界によりY方向に整えられているので、スチールワイヤロープWの状態の判定において、X方向に磁化の状態を励振するために必要な磁界は、Y方向で印加される磁化より小さいものでも検知には十分な大きさである。すなわち、Y方向に磁化の方向が整えられていない場合と比較して、X方向に磁化の状態を励振するために必要な磁界の大きさを小さくすることができる。
【0071】
また、励振コイル21によるスチールワイヤロープWの磁化の方向は、磁性体の磁界印加部1によりに整えられた磁化の方向(Y2方向)と略直交するため、励振コイル21により印加される磁界は、X1またはX2方向にわずかに振れさせる程度でも検知コイル22により十分検知可能である。したがって、励振コイル21による磁界は、磁界印加部1により印加される磁界よりも十分に小さくすることができる。これにより、励振コイル21に流す電流の大きさを小さくすること(省電力化)ができる。また、磁界印加部1を永久磁石により構成したので、磁化の方向を整えるために電力が必要ない。これらの結果。バッテリー等により駆動する移動型X線撮影装置900に用いられる検査装置100等であっても検査を行うことができる。
【0072】
また、第1実施形態では、上記のように、スチールワイヤロープWは、被検体に対して相対的に移動可能となるように移動型X線撮影装置900に設けられ、検知部2は、X線照射部E1を移動させるためのスチールワイヤロープWのX方向の磁界を検知するように構成されている。これにより、移動型X線撮影装置900に用いられるワイヤの状態(傷等の有無)を容易に判定することができる。
【0073】
(第2実施形態)
次に、図10を参照して、第2実施形態による検査装置200の構成について説明する。第2実施形態による検査装置200は、第1実施形態とは異なり、励振コイルに供給される励振電流が時間変化しない直流電流である。
【0074】
具体的には、検査装置200は、検査ユニットUに設けられた電子回路部302を含む。また、電子回路部302は、図10に示すように、直流電源312を含む。直流電源は、励振コイル21に時間変化しない(一定値となる)直流電流を流す。これにより、励振コイル21内には、X方向に一定の大きさとなる静磁界が生じる。
【0075】
ここで、第2実施形態による検査装置200では、検知部202は、スチールワイヤロープWを検知部2に対してX方向に略一定となる定速度で相対移動させることにより検知部2の検知位置におけるスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知するように構成されている。
【0076】
具体的には、検査時に、検知部202の検知コイル22により検知されるスチールワイヤロープWの位置が時間変化するのに伴って、検知コイル22により検知される磁界も時間変化する。検知コイル22がスチールワイヤロープWの傷等のない部分を通過している場合には、検知コイル22内の磁界のX方向の大きさは略一定となるので、検知信号も一定値となる。一方、検知コイル22がスチールワイヤロープWの傷等のある部分に位置する場合、検知位置における磁界の大きさが時間変化するので、検知信号が変化する。これにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)を判定することができる。
【0077】
第2実施形態のその他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0078】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、上記のように、検知部202は、スチールワイヤロープWを検知部2に対してX方向に略一定となる定速度で相対移動させることにより検知部202の検知位置におけるスチールワイヤロープWのX方向の磁界の変化を検知するように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWの検知部202に磁界を検知される部分が相対移動に伴って変化するので、傷等のある部分とない部分との比較により、容易に傷等を検知することができる。また、定速度で相対移動させることによって、傷等のない位置では検知信号が略一定となり、傷等のある位置では異なる検知信号が出力されるため、スチールワイヤロープWの傷等の状態の判定が容易となる。
【0079】
第2実施形態のその他の効果については、第1実施形態と同様である。
【0080】
第1参考例
次に、図11および図12を参照して、第1参考例による検査装置300の構成について説明する。第1参考例による検査装置300は、第1実施形態とは異なり、スチールワイヤロープWの磁界を検知する磁気センサ素子23が設けられている。
【0081】
具体的には、検査装置300は、検査ユニットに設けられる検知部203と電子回路部303を備えている。また、検知部203は、スチールワイヤロープWの長手方向に直交する面において、スチールワイヤロープWを円周状に取り囲むように複数(スチールワイヤロープWを軸として対称に12個)配置されている。また、磁気センサ素子23は、たとえば、コイル、励振コイルつきコイル、励振コイルつき差動コイル、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子などのいずれか1つあるいはいくつかが複合したものにより構成されている。ここで、単にコイルを用いる場合は、静磁界を検出できないため、磁性体を移動させながら測定を行う必要があるのに対し、励振コイルを併用した場合は、測定対象の磁性体を静止させた状態においても、測定を行うことが可能となる。また、ホール素子、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗素子を用いたときは、これら素子そのものが静磁界を測定することが可能なことから、測定対象の磁性体を静止させた状態においても、測定を行うことが可能となる。なお、磁気センサ素子23を、2方向あるいは3方向を検出するように複数の磁気センサ素子23を複数個所に配置してもよい。また、磁気センサ素子23は、磁界の変化の大きさのみならず磁界の大きさも検出するように構成することもできる。
【0082】
また、図12に示すように、電子回路部303は、磁気センサ素子23を電気的に制御し、検知部203からの電気信号を処理して検知信号として出力するように構成される。
【0083】
第1参考例のその他の構成については、第1実施形態と同様である。
【0084】
第1参考例の効果)
第1参考例では、上記のように、磁界印加部1によりY2方向に磁界が印加された後のスチールワイヤロープWに対して、磁界または磁界の変化を検知するとともに、検知したスチールワイヤロープWの磁界に基づく検知信号を出力する検知部2を設ける。これによっても、磁化の大きさおよび方向のバラツキが低減した状態で検知が行われるため、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【0085】
また、第1参考例では、上記のように、検知部2は、スチールワイヤロープWの磁界を検知する少なくとも1つの磁気センサ素子23がスチールワイヤロープWの外側に配置されるように構成されている。これにより、検知部2を、内部を通過するスチールワイヤロープWの磁界の変化を検知するコイルにより構成する場合とは異なり、スチールワイヤロープWの寸法(たとえば、太さ等)の制限から開放され応用範囲が拡大する。
【0086】
第1参考例のその他の効果については、第1実施形態と同様である。
【0087】
(第実施形態)
次に、図13を参照して、第実施形態による検査装置400の構成について説明する。
【0088】
実施形態による検査装置400は、検知コイル224から出力される検知信号が入力され増幅する増幅部324と、AD変換器334と、CPU344と、切り替え可能な交流電源314および直流電源364とが設けられた電子回路304を備えている。また、検査装置400は、切り替え可能な交流電源314および直流電源364の一方と接続されるコイル部44と、コイル部44が巻かれるヨーク部14yとを備える。
【0089】
また、第実施形態による検査装置400は、予めスチールワイヤロープWに磁界を印加する際にはコイル部44に直流電源316を接続する。これにより、スチールワイヤロープWとヨーク部14yとに磁気回路が形成され、スチールワイヤロープWに予め磁界が印加される。すなわち、スチールワイヤロープWが、長手方向(X方向)に対して略平行となる方向に予め磁化されることになる。この場合、ヨーク部14yが特許請求の範囲の「磁界印加部」として機能している。
【0090】
また、第4実施例では、測定時にはコイル部44に交流電源314を接続する。予めスチールワイヤロープWの測定対象領域を長手方向(X方向)に磁化した後に測定を行う点は変わらない。
【0091】
なお、コイル部44に流す電流は、上記のように交流電源314と直流電源364との切り替えにより、内部に流れる電流をそれぞれ交流電流と直流電流とに変更することができる。また、予め磁界を印加する際と測定する際との電流源の切り替え(選択)や電流量の増減は、CPU344により変更される。
【0092】
(第実施形態の効果)
実施形態では、上記のように、予め磁界が印加された後のスチールワイヤロープWに対して、スチールワイヤロープWの状態の判定を行うように構成されている。これにより、スチールワイヤロープWの状態(傷等の有無)の判定を容易に行うことができる。
【0093】
すなわち、上記のように、ヨーク部14yにより磁性体に予め磁界を印加する方向(X方向)と、検知部2により磁界を検出する方向(X方向)が直交(交差)していない場合でも、スチールワイヤロープWの傷等のある部分については、他の部分に比べて生ずる磁界(または磁界の変化)が乱れるため、その後に磁界(または磁界の変化)を測定すれば、スチールワイヤロープW上に傷等が存在するかどうかを判定することが可能である。
【0094】
ただし、検知部に含まれる励振コイルにより交流磁界を印加して測定を行う場合には、第1実施形態のように、スチールワイヤロープWの長手方向と直交する方向に磁化する方が、スチールワイヤロープWの傷等をより高精度に検出することが可能となる。
【0095】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0096】
たとえば、上記第1〜第実施形態では、磁性体を長尺材とする例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体は、たとえば、長尺材以外の薄板、鉄球(ベアリング)等でもよい。その他、均一な構造をもつ磁性体全般の検査に本発明を用いることができる。また、磁性体が薄板等である場合、薄板等の面に垂直な方向(厚みの方向)に磁化を印加し、薄板等の面の延びる方向の磁界または磁界の変化を検知するように構成してもよい。
【0097】
また、上記第1〜第実施形態では、長尺材からなる磁性体をスチールワイヤロープとする例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、たとえば、長尺材からなる磁性体は、薄板、角材、円筒状のパイプ、針金、チェーン等でもよい。
【0098】
また、上記第1〜第実施形態では、磁界印加部が検査ユニットと一体構成とされている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁界印加部と検知部との相対位置は変更可能に構成してもよい。具体的には、スチールワイヤロープの磁化の方向を磁界印加部により長手と直交する方向に整えた後、磁界印加部のみをスチールワイヤロープWから離した位置に移動させてもよい。これにより、検知部によるスチールワイヤロープの磁界または磁界の変化の検知時に、磁界印加部の磁界が検知部に影響しないように離間させることができる。
【0099】
また、第1および実施形態において、スチールワイヤロープの延びる方向(X方向)と垂直な方向(Y方向)に予め磁界を印加する場合に、磁界印加部1の構成を、図14に示すような構成としてもよい。具体的には、図14(a)に示すように、第1磁界印加部11eおよび11fと、第2磁界印加部12eおよび12fとの磁界の印加方向は、同一であってもよい。また、図14(b)に示すように、第1磁界印加部11gおよび11hと、第2磁界印加部12gおよび12hとの磁界の印加方向は、平行でなくてもよい(それぞれ、Y方向と、Y方向に対して角度θ傾いた方向となっている)。また、図14(c)に示すように、第1磁界印加部11iおよび第2磁界印加部12iのように、単一の構成(対向するように設けない構成)として同一方向に磁界を印加してもよい。また、図14(d)および(e)に示すように、検知部の片側にのみ磁界印加部13aおよび13b(または、磁界印加部13c)を設けるように構成してもよい。なお、第1磁界印加部および第2磁界印加部の磁極の向きは、共に同一の方向(たとえば、Y2方向)でもよいし、互いに逆向きとなる方向(たとえば、Y1方向とY2方向)でもよい。
【0100】
また、第1および実施形態では、磁界印加部1による磁場の印加方向をスチールワイヤロープWと交差する方向とする場合に、スチールワイヤロープWの長手方向に直交する方向としたが、少なくとも磁界の印加方向がスチールワイヤロープの長手方向に交差するように(たとえば、検出方向である長手方向に対して45度から135度の範囲で交差するように)設ければよい。
【0101】
また、上記第1および実施形態では、磁界印加部を永久磁石により構成する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁界印加部を電磁石(コイル)により構成してもよい。
【0102】
また、第実施形態において、スチールワイヤロープの延びる方向と沿った方向(X方向)に予め磁界を印加する際に、磁界印加部14の構成を、図15に示すような構成としてもよい。具体的には、図15(a)に示すように、第1磁界印加部11jおよび11kと、第2磁界印加部12jおよび12kとの磁界の印加方向は、同一(すなわち、同じ特性)であってもよい。また、図15(b)に示すように、第1磁界印加部11lおよび11mと、第2磁界印加部12lおよび12mとの磁界の印加方向は、平行でなくてもよい(それぞれ、X方向と、Y方向に対して角度θ傾いた方向となっている)。また、図15(c)に示すように、第1磁界印加部11nおよび第2磁界印加部12nのように、単一の構成(対向するように設けない構成)として同一方向に磁界を印加して(同一の特性として)もよい。また、図15(d)および(e)に示すように、検知部の片側にのみ磁界印加部13dおよび13e(または、磁界印加部13f)を設けるように構成してもよい。なお、第1磁界印加部および第2磁界印加部の磁極の向きは、共に同一の方向(たとえば、X2方向)でもよいし、互いに逆向きとなる方向(たとえば、X1方向とX2方向)でもよい。なお、第実施形態のようにヨーク部により予め磁界を印加してもよいし、永久磁石により予め磁界を印加してもよい。
【0103】
また、上記第1および第2実施形態では、励振コイル21の内側に差動コイルとなる検知コイル22aおよび22bを配置する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、図17(a)に示すように、差動コイルからなる検知コイル22cおよび22dを励振コイル21cの外側に配置してもよい。また、図17(b)に示すように、差動コイルからなる検知コイル22eおよび22fを、励振コイル21dを挟むように励振コイル21dのX方向(長手方向)の両側に並べて配置してもよい。また、図17(c)に示すように、差動コイルではない単一の検知コイル22gを励振コイル21eの内側(または、外側)に配置してもよい。また、図17(d)に示すように、2つの励振コイル21fおよび21gを、単一の検知コイル22hを挟むように検知コイル22hのX方向(長手方向)の両側に並べて配置してもよい。図17(e)に示すように、単一の励振コイル21hと単一の検知コイル22iとをX方向(長手方向)に並べて配置してもよい。また、図17(f)に示すように、差動コイルとなる検知コイル22jおよび22k(または、単一の検知コイル)を配置し、励振コイルを省略した構成としてもよい。
【0104】
また、上記第1および実施形態では、円筒形のコイル(検知コイルおよび励振コイル)がスチールワイヤロープWを取り囲むように設けられている例を示したが、本発明はこれに限らない。本発明では、図18に示すように、検知コイル220(励振コイル210)を角筒形としてもよい。
【0105】
また、図1に示す第2参考例では、検知コイル221を、スチールワイヤロープWを取り囲まず、スチールワイヤロープWに沿う方向の磁界を検知するようスチールワイヤロープWから離間した位置に配置している。また、図19に示すように、半円筒形(馬蹄形)のコイル部分19a(図20(a)参照)を2つ組み合わせた円筒型コイル19b(図19(b)参照)を用いても良い。なお、半円筒型(馬蹄形)のコイルは、スチールワイヤロープが設置された(端部が塞がれた)状態でも、容易に着脱可能である。なお、第実施形態において、励振コイルはコイル部に相当する。
【0106】
また、上記第1〜第実施形態では、磁性体の検査装置(検査ユニット)がスチールワイヤロープに沿って移動可能に構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、磁性体の検査装置(検査ユニット)は移動しないように構成されていてもよい。この場合、磁性体の検査装置は、定位置において内部または付近を通過するスチールワイヤロープの磁界を検知する。
【0107】
また、上記第1〜第実施形態では、また、電子回路部は、検知コイル(検知部)により出力された検知信号が所定の閾値(第1閾値Th1および第2閾値Th2)を超えた場合、外部に信号を出力するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電子回路部を、検知信号が閾値Thを超えた回数Nをカウントするとともに、カウントされた回数Nが所定の回数Mを超えた場合に、カウントされた回数Nが所定の回数Mを超えたことを示す信号を外部に出力するように構成してもよい。これにより、電子回路部は、閾値Thを超えた回数Nをカウントし、傷等の多さに基づいてスチールワイヤロープの劣化の状態を判定することができる。また、前回測定時において閾値Thを超えた回数Nと今回測定時に閾値Thを超えた回数Nとを比較することにより、スチールワイヤロープWの傷等の有無の状態の継時的な変化(たとえば、劣化の進行速度)を判定するように構成してもよい。また、所定の閾値の数は、1つや、2つ以外の複数(たとえば、3つ)としてもよい。
【0108】
また、上記第1〜第実施形態では、検査装置100(200,300)を、移動型X線撮影装置(回診車)に用いる例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、検査装置100(200,300)を、図20(a)に示す据え置き型のX線照射装置(X線撮影装置)901、図20(b)に示すスタンド型のX線照射装置(X線撮影装置)902および図20(c)に示すスタンド型のX線検出装置(X線撮影装置)903に用いてもよい。さらに、ワイヤを利用した装置やインフラ、例えば、エレベータ、ロープウエイなどの移動用装置や、つり橋・橋脚等のワイヤ部分についても適用可能である。さらに、ワイヤのみならず、電柱、上下水道配管、ガス管、パイプライン等、磁性体の損傷を測定するあらゆる用途に適用可能である。なお、X線照射部E11およびX線照射部E12は、ともにX線管等を含みX線を照射する部分であり、X線検出部E23は、FPD(フラットパネルディテクター)等を含むX線を検出する部分である。また、X線照射部E11、X線照射部E12およびX線検出部E23は、それぞれスチールワイヤロープWに牽引され支えられている。また、検査装置100(200,300)は、スチールワイヤロープWに沿って移動可能に構成されている。
【0109】
また、上記第1〜第実施形態では、磁性体の「傷等」として主に磁性体表面の傷を検出対象として説明したが、断線(完全ではなくワイヤロープであれば素線の断線)、太さの変化、腐食(錆)、亀裂、透磁率の不均一も検出対象に含まれる。また、検出対象は、磁性体の表面に限らず、内部でもよい。その他、磁性体の磁界又は磁界の不均一性を生じさせる状態であれば、「磁性体の状態」として検出可能である。
【0110】
また、「磁性体の磁界又は磁界の変化」には、外部から磁界を印加した場合の、磁界が印加された磁性体の近傍で観測される磁界又は磁界の変化の他、外部から磁界を印加しない場合の、磁性体そのものから生ずる磁界又は磁界の変化をも含む。
【符号の説明】
【0111】
1、13a、13b、13c、13d、13e、13f 磁界印加部
2、203 検知部
3、302、303、304 電子回路部(判定部)
11a、11b、11e、11f、11g、11h、11i、11j、11k、11l、11m、11n 第1磁界印加部
12a、12b、12e、12f、12g、12h、12i、12j、12k、12l、12m、12n 第2磁界印加部
14y ヨーク部(磁界印加部)
21、21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、21h、210 励振コイル
22、22a、22b、22c、22d、22e、22f、22g、22h、22i、22j、22k、220、221、224 検知コイル
23 磁気センサ素子
44 コイル部(磁界印加部、励振コイル)
100、200、300 検査装置(磁性体の検査装置)
900 移動型X線撮影装置(X線撮影装置)
901 据え置き型X線照射装置(X線撮影装置)
902 スタンド型X線照射装置(X線撮影装置)
903 スタンド型X線検出装置(X線撮影装置)
E1、E11、E12 X線照射部
E2、E23 X線検出部
Th 所定の閾値
Th1 所定の第1閾値
Th2 所定の第2閾値
M 所定の回数
W スチールワイヤロープ(磁性体、長尺材、ワイヤ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20