特許第6791276号(P6791276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6791276-冷媒配管の検査方法および冷媒配管 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791276
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】冷媒配管の検査方法および冷媒配管
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/2045 20190101AFI20201116BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20201116BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   G01N33/2045 100
   C23F11/00 D
   G01N17/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-13630(P2019-13630)
(22)【出願日】2019年1月29日
(65)【公開番号】特開2020-122684(P2020-122684A)
(43)【公開日】2020年8月13日
【審査請求日】2020年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】荒木 祥平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】大宅 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】今津 圭介
(72)【発明者】
【氏名】濱 沙由美
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇次
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103788072(CN,A)
【文献】 特開平01−276064(JP,A)
【文献】 特開2009−168692(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0158827(US,A1)
【文献】 特開昭57−073675(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101363792(CN,A)
【文献】 特開昭58−171575(JP,A)
【文献】 特開2012−220251(JP,A)
【文献】 特開2001−074198(JP,A)
【文献】 実開昭57−054046(JP,U)
【文献】 特開2003−239085(JP,A)
【文献】 特開昭62−040387(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/012306(WO,A1)
【文献】 特開平07−305993(JP,A)
【文献】 米国特許第04343660(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/20
G01N 17/00
G01N 21/00
C23F 11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金を含む冷媒配管の検査方法であって、
前記冷媒配管をアルカリ性水溶液に曝すことによる前記冷媒配管の色の変化に基づいて前記冷媒配管の蟻の巣状の腐食の発生可能性を検査する、
冷媒配管の検査方法。
【請求項2】
前記アルカリ性水溶液のpHは、9以上13以下である、
請求項1に記載の冷媒配管の検査方法。
【請求項3】
前記アルカリ性水溶液が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、および、カルシウムの中から選ばれる1種または2種以上の金属の水酸化物の水溶液である、
請求項1または2に記載の冷媒配管の検査方法。
【請求項4】
前記アルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の冷媒配管の検査方法。
【請求項5】
前記冷媒配管は、外表面に防食被膜を有しており、
前記冷媒配管の色の変化に基づいて前記防食被膜の欠陥の有無を検査する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の冷媒配管の検査方法。
【請求項6】
冷凍装置の熱交換器を構成し、内部に冷媒を流して用いられ、銅または銅合金を含む冷媒配管であって、
ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩を含む有機スルホネート化合物、または、オレイン酸モノグリセリルを含む多価アルコールの有機酸エステル化合物が配合された塗布剤を用いて防食被膜が形成されており、
前記冷媒配管を濃度が0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝した後の前記冷媒配管の外表面の色の変化(ΔL)が10以下である、
冷媒配管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷媒配管の検査方法および冷媒配管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷媒配管等において、比較的短期間で腐食により貫通に至ることすらある蟻の巣状の腐食が問題視されている。
【0003】
これに対して、例えば、特許文献1(特開平06−010164号公報)に記載のように、配管に付着する潤滑剤に起因する銅系材料の蟻の巣状腐食に対する抑制剤等が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、蟻の巣状の腐食を抑制させる工夫を施したとしても、実際に使用される環境下において蟻の巣状の腐食が生じるか否かを把握するには、数ヶ月もの長い時間が必要になっている。
【0005】
本開示の内容は、上述した点に鑑みたものであり、耐久性を迅速に把握することが可能な冷媒配管の検査方法の提供、および、耐久性が高いことが確認された冷媒配管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係る冷媒配管の検査方法は、銅または銅合金を含む冷媒配管の検査方法であって、冷媒配管をアルカリ性水溶液に曝すことによる冷媒配管の色の変化に基づいて冷媒配管の蟻の巣状の腐食の発生可能性を検査する。
【0007】
ここで、冷媒配管をアルカリ性水溶液に曝すことには、アルカリ性水溶液中に冷媒配管を含浸させるだけでなく、アルカリ性水溶液を冷媒配管に噴霧することも含まれる。
【0008】
なお、上記の「冷媒配管を検査」は、例えば、冷媒配管の品質をランク付けをするための検査であってもよいし、冷媒配管の色の変化に基づいて冷媒配管として使用できるか否かを判断するための検査であってもよい。また、冷媒配管の色の変化度合いが小さいほど蟻の巣腐食が生じにくいと評価し、大きいほど蟻の巣腐食が生じやすいと評価するための検査であってもよい。また、冷媒配管の色の変化度合いが小さいほど貫通孔が生じるまでに要する時間が長いと評価し、大きいほど貫通孔が生じるまでに要する時間が短いと評価するための検査であってもよい。
【0009】
冷媒配管の色の変化の確認方法は、特に限定されず、例えば、肉眼による視認であってもよいし、測定装置を用いた光反射率の変化や明度の変化の確認であってもよい。
【0010】
この冷媒配管の検査方法は、冷媒配管をアルカリ性水溶液に曝すだけで、冷媒配管の色が大きく変化した場合には蟻の巣状の腐食の発生可能性が高く、色の変化が少ないか無い場合には蟻の巣状の腐食の発生可能性が低いと判断することができる。このため、冷媒配管の耐久性を迅速に把握することが可能になる。
【0011】
第2観点に係る冷媒配管の検査方法は、第1観点の冷媒配管の検査方法であって、アルカリ性水溶液のpHは、9以上13以下である。
【0012】
この冷媒配管の検査方法は、冷媒配管の耐久性をより迅速に把握することが可能になる。
【0013】
第3観点に係る冷媒配管の検査方法は、第1観点または第2観点の冷媒配管の検査方法であって、アルカリ性水溶液が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、および、カルシウムの中から選ばれる1種または2種以上の金属の水酸化物の水溶液である。
【0014】
第4観点に係る冷媒配管の検査方法は、第1観点から第3観点のいずれかの冷媒配管の検査方法であって、アルカリ性水溶液が、水酸化ナトリウム水溶液である。
【0015】
この冷媒配管の検査方法は、冷媒配管の耐久性をより確実に把握することが可能になる。
【0016】
第5観点に係る冷媒配管の検査方法は、第1観点から第4観点のいずれかの冷媒配管の検査方法であって、外表面に防食被膜を有している冷媒配管の色の変化に基づいて防食被膜の欠陥の有無を検査する。
【0017】
この冷媒配管の検査方法は、外表面に防食被膜を有している冷媒配管について、冷媒配管の耐久性を迅速に把握することが可能になる。
【0018】
第6観点に係る冷媒配管は、冷凍装置の熱交換器を構成するものである。冷媒配管は、内部に冷媒を流して用いられ、銅または銅合金を含む。冷媒配管は、ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩を含む有機スルホネート化合物、または、オレイン酸モノグリセリルを含む多価アルコールの有機酸エステル化合物が配合された塗布剤を用いて防食被膜が形成されている。冷媒配管を濃度が0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝した後の冷媒配管の外表面の色の変化(ΔL)が10以下である。
【0019】
なお、特に限定されないが、冷媒配管の色の変化(ΔL)は、25℃、1atmの条件下で判断することが好ましい。
【0020】
この冷媒配管は、冷媒配管を濃度が0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝した後の冷媒配管の外表面の色の変化(ΔL)が10以下であるため冷媒配管の耐久性が高い。
【0021】
また、この冷媒配管は、蟻の巣腐食に対する耐性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】半浸漬試験の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)冷媒配管の検査方法
本実施形態の冷媒配管の検査方法において検査される対象である冷媒配管は、内部に冷媒を流して用いられるものであり、銅または銅合金を含んで構成される。冷媒配管としては、空気調和装置等の冷凍装置における冷媒回路や熱交換器等を構成する配管であってよい。
【0024】
なお、検査対象である冷媒配管は、外表面に防食被膜を有しているものであることが好ましい。冷媒配管の検査方法では、冷媒配管の外表面に防食被膜が設けられているものについては、この防食被膜の欠陥の有無の検査であってよい。この防食被膜の詳細は、後述する。
【0025】
冷媒配管の検査方法では、上記冷媒配管をアルカリ性水溶液に曝すことによる冷媒配管の色の変化を検査する。ここで、アルカリ性水溶液に曝された冷媒配管の色の変化の程度が顕著であるほどまたは色の変化の速度が速いほど、蟻の巣状の腐食の発生可能性が高いと判断し、アルカリ性水溶液に曝された冷媒配管の色の変化の程度が穏やかであるほどまたは色の変化の速度が遅いほど、蟻の巣状の腐食の発生可能性が低いと判断することができる。
【0026】
ここで、冷媒配管をアルカリ性水溶液に曝すことには、アルカリ性水溶液中に冷媒配管を含浸させるだけでなく、アルカリ性水溶液を冷媒配管に噴霧することも含まれる。
【0027】
また、冷媒配管の色の変化の確認方法は、特に限定されず、例えば、肉眼による視認であってもよいし、測定装置を用いた光反射率の変化や明度の変化の確認であってもよい。より具体的には、冷媒配管の色の変化は、ΔLとして評価することが好ましい。ここで、ΔLは、JISZ 8729に規定するL表色系における2つの物体色のCIE明度の差をいう。また、ΔLは、アルカリ性水溶液に曝される前の冷媒配管のL値と、曝された後の冷媒配管のL値との差である。
【0028】
アルカリ性水溶液としては、蟻の巣状の腐食の発生可能性を判断しやすくする観点から、25℃におけるpHが、9以上13以下であることが好ましく、冷媒配管の実使用上の許容度の観点から、10以上12以下であってもよい。
【0029】
アルカリ性水溶液としては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、および、カルシウムの中から選ばれる1種または2種以上の金属の水酸化物の水溶液か、アンモニア水溶液を用いることができる。なかでも、アルカリ性水溶液としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、および、カルシウムの中から選ばれる1種または2種以上の金属の水酸化物の水溶液であることが好ましく、蟻の巣状の腐食の発生可能性を判断しやすくする観点から、水酸化ナトリウム水溶液がより好ましい。例えば、アルカリ性水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合には、濃度が、0.1質量%以上1.0質量%以下であってよく、冷媒配管の実使用上の環境での耐性を確認する観点から検査が過度にならないようにするために、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。また、例えば、アルカリ性水溶液として水酸化カリウム水溶液を用いる場合には、濃度が、0.1質量%以上1.0質量%以下であってよく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以下であることがより好ましい。また、例えば、アルカリ性水溶液としてアンモニア水溶液を用いる場合には、濃度が、0.005質量%以上0.5質量%以下であってよく、0.2質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
冷媒配管の検査方法では、冷媒配管をアルカリ性水溶液に曝す時間としては、例えば、0.1時間以上24時間以下であってよく、0.5時間以上12時間以下であってもよい。蟻の巣状の腐食の発生可能性を判断しやすくする観点からは、2時間以上6時間以下であることが好ましい。
【0031】
(2)冷媒配管
本実施形態の冷媒配管は、内部に冷媒を流して用いられるものであり、銅または銅合金を含んで構成される。銅または銅合金の例としては、例えば、純銅、黄銅、青銅等が挙げられる。ここで、銅合金としては、銅が最も多い構成成分となっている合金が好ましい。冷媒配管としては、空気調和装置等の冷凍装置における冷媒回路や熱交換器等を構成する配管であってよい。なお、冷媒配管は、外表面に防食被膜を有しているものであることが好ましい。
【0032】
冷媒配管は、濃度が0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝した後の冷媒配管の色の変化(ΔL)が10以下のものである。ここで、ΔLは、JISZ 8729に規定するL表色系における2つの物体色のCIE明度の差であり、0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に曝される前の冷媒配管の外表面のL値と、0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝した後の冷媒配管の外表面のL値との差である。濃度が0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝した後の冷媒配管の色の変化(ΔL)が10以下であることが確認された冷媒配管であれば、空気調和装置等の冷凍装置において用いたとしても、蟻の巣状の腐食の発生可能性が低い。なお、蟻の巣状の腐食の発生可能性をさらに低下させる観点から、冷媒配管は、濃度が0.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝した後の冷媒配管の色の変化(ΔL)が8以下のものであることが好ましく、6.5以下のものであることがより好ましい。
【0033】
(2−1)防食被膜
冷媒配管が外表面に防食被膜を有している場合には、当該防食被膜としては、(A)有機スルホネート化合物、(B)多価アルコールの有機酸エステル化合物、および、(C)炭素数が8以上24以下である脂肪族アミン化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上の少なくともいずれかが含まれているものであることが好ましく、なかでも、蟻の巣状の腐食の発生可能性を十分に低下させることができる点で、(A)有機スルホネート化合物が含まれているものであることが好ましい。
【0034】
((A)有機スルホネート化合物)
有機スルホネート化合物としては、下記式(I)で表される合成スルホネート化合物および/または下記式(II)で表される合成スルホネート化合物であることが好ましい。
【0035】
[上記式(I)中、R1〜R7はそれぞれ独立して水素、または炭素数4〜12の脂肪族炭化水素基を表し(ただし、R1〜R7全てが水素の場合を除く)、MはCaまたはZnを表す。]
【0036】
[上記式(II)中、R1〜R7はそれぞれ独立して水素、または炭素数4〜12の脂肪族炭化水素基を表し(ただし、R1〜R7全てが水素の場合を除く)、MはCaまたはZnを表す。]
なかでも、合成スルホネート化合物として、ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩を含むことが好ましく、防食被膜が含む防錆剤はジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩のみであってもよい。
【0037】
なお、冷媒配管の外表面の防食被膜中に有機スルホネート化合物が存在することは、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)を用いた分析により確認することができる。
【0038】
((B)多価アルコールの有機酸エステル化合物)
多価アルコールの有機酸エステル化合物としては、下記式(III)で表されるグリセリン脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0039】
式(III):R−COOCH−CH(OH)−CHOH
[上記式(III)中、Rは炭素数11以上29以下の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基を表す。]
なかでも、多価アルコールの有機酸エステル化合物として、オレイン酸モノグリセリルを含むことが好ましく、防食被膜が含む防錆剤はオレイン酸モノグリセリルのみであってもよいし、下記式(IV)で表されるコハク酸無水物誘導体と併用されていてもよい。
【0040】
[上記式(IV)中、Rは炭素数8以上24以下である直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基を表す。]
なお、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)を用いた分析によれば、防食被膜中に存在する多価アルコールの有機酸エステル化合物は、対応する有機酸となって検出される。例えば、オレイン酸モノグリセリル(C2140)の場合は、オレイン酸(C1833)となって検出される。
【0041】
なお、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)を用いた分析によれば、防食被膜中に存在するコハク酸無水物誘導体は、対応するコハク酸誘導体となって検出される。例えば、オクタデセニルコハク酸無水物(C2238)の場合は、オクタデセニルコハク酸(C2239)となって検出される。
【0042】
((C)炭素数が8以上24以下である脂肪族アミン化合物)
炭素数が8以上24以下である脂肪族アミン化合物としては、オレイルアミンが好ましく、上記式(IV)で表されるコハク酸無水物誘導体が併用されていてもよい。
【0043】
なお、冷媒配管の外表面の防食被膜中に炭素数が8以上24以下である脂肪族アミン化合物が存在することは、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)を用いた分析により確認することができる。
【実施例】
【0044】
以下、冷媒配管の実施例および比較例を示すが、本願発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
検査に用いるアルカリ性水溶液として、実施例1では0.2質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液(pH12.7)を用い、実施例2では、0.2質量%濃度の水酸化カリウム水溶液(pH12.6)を用い、実施例3では、0.01質量%濃度のアンモニア水溶液(pH9.8)を用いた。
【0046】
また、検査対象である銅製の冷媒配管(KMCT製リン脱酸銅)として、下記配管A〜Jを用意した。
【0047】
配管A:防食被膜が設けられていないもの(被膜無し)
配管B:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤であるベンゾトリアゾール系化合物(大和化成社製の商品名OA−386)を0.3質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0048】
配管C:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤であるベンゾトリアゾール系化合物(大和化成社製の商品名OA−386)を1.0質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0049】
配管D:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤である(A)有機スルホネート化合物としてのジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩を0.1質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0050】
配管E:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤である(A)有機スルホネート化合物としてのジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩を1.0質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0051】
配管F:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤である(A)有機スルホネート化合物としてのジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩を2.0質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0052】
配管G:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤である(C)炭素数が8以上24以下である脂肪族アミン化合物としてのオレイルアミンを1.0質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0053】
配管H:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤である(C)炭素数が8以上24以下である脂肪族アミン化合物としてのオレイルアミンを5.0質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0054】
配管I:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤である(B)多価アルコールの有機酸エステル化合物としてのオレイン酸モノグリセリルを1.0質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0055】
配管J:金属加工油(出光興産社製の商品名AF−2A)に防錆剤である(B)多価アルコールの有機酸エステル化合物としてのオレイン酸モノグリセリルを5.0質量%となるように溶解させた塗布剤を用いて、銅製の冷媒配管の外表面に防錆被膜を形成した。
【0056】
なお、配管B〜Jのいずれにおいても、塗布剤に10秒間浸漬することにより塗布を行い、塗布後には、60℃で5分間乾燥させた。
【0057】
ここで、各配管A〜Jについて、実施例1〜3のアルカリ性水溶液に25℃の環境下で4時間浸漬させる試験を行った。なお、浸漬前と、4時間の浸漬後と、について、それぞれL値を測定し、その差であるΔLを求めた。L値の測定装置としては、ZE6000(日本電色工業)を用い、反射測定系Φ6、光源C/2の測定条件で測定した。
【0058】
また、各配管A、B、E、G、H、I、Jについては、図1に示す環境下に曝した際の腐食の発生度合いを確認する試験を行った。図1に示すように、各サンプルとなる配管A、B、E、G、H、I、J(両端部が閉じられており内部に加圧空気が充填されている)を、上端が開口した円筒形状の500ml容積の樹脂ボトル96の中に入れ、樹脂ボトル96の上端をシリコン栓により密閉した。各配管A、B、E、G、H、I、Jは、ボトルの内側における腐食が生じないようにするため、上端をホットメルト樹脂97によって密閉した。当該密閉空間(樹脂ボトル96の内部であって各配管A、B、E、G、H、I、Jの外部)の中には、蟻の巣状の腐食を生じさせる濃度が1000ppmであるギ酸水溶液95を300ml入れた。以上の環境下において、各配管A、B、E、G、H、I、Jが、25℃の環境下で貫通孔が開くタイミング(圧力の低下が観察されるタイミング)を特定するために、加圧空気が充填されている各配管A、B、E、G、H、I、Jの内部の圧力を圧力計98を用いて観察した。
【0059】
以上の試験におけるΔLおよび貫通時間の結果を表1および表2に示す。なお、表1において空欄で示す箇所については、試験を行っていない。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
以上の実施例1では、0.2質量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液に4時間曝する検査を行ったが、配管A、B、C、D、G、H、IでL値が大きく減少しており、配管E、F、JではL値の減少が小さく抑えられていることが確認された。これらの傾向は、冷媒配管として使用した場合に実際に蟻の巣状の腐食が生じる傾向(ギ酸を用いた貫通時間の傾向)と一致した。
【0063】
また、実施例2では、0.2質量%濃度の水酸化カリウム水溶液に4時間曝する検査を行ったが、配管A、BでL値が大きく減少しており、配管FではL値の減少が小さく抑えられていることが確認された。これらの傾向も、冷媒配管として使用した場合に実際に蟻の巣状の腐食が生じる傾向(ギ酸を用いた貫通時間の傾向)と一致した。
【0064】
さらに、実施例3では、0.01質量%濃度のアンモニア水溶液に4時間曝する検査を行ったが、配管A、BでL値が大きく減少しており、配管FではL値の減少が小さく抑えられていることが確認された。これらの傾向も、冷媒配管として使用した場合に実際に蟻の巣状の腐食が生じる傾向(ギ酸を用いた貫通時間の傾向)と一致した。
【0065】
以上の結果から、アルカリ性水溶液を用いた検査により、冷媒配管において蟻の巣状の腐食の発生可能性を判断できることが確認された。なお、アルカリ性水溶液のなかでも、水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合には、蟻の巣状の腐食の発生可能性を迅速に判断することができることが確認された。
【0066】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】
【特許文献1】特開平06−010164号公報
図1