(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補償ファイバは、前記マルチコアファイバの二個以上のコア又は前記バンドルファイバの二本以上のファイバのそれぞれに接続されていることを特徴とする請求項1記載の広帯域パルス光源装置。
前記温度調節機構は、前記補償ファイバから出射される広帯域パルス光の出射のタイミングのずれの幅がしきい値以上の場合に動作する機構であることを特徴とする請求項4記載の広帯域パルス光源装置。
前記温度調節機構は、前記補償ファイバから出射される広帯域パルス光の出射のタイミングのずれの幅に応じて予め定めた量の温度調節を行う機構であることを特徴とする請求項4又は5記載の広帯域パルス光源装置。
前記伸長ファイバモジュールは、マルチコアファイバと、シングルコアファイバである補償ファイバとを備えており、マルチコアファイバは、シングルモードのマルチコアファイバであることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の広帯域パルス光源装置。
前記伸長ファイバモジュールは、バンドルファイバと、シングルコアファイバである補償ファイバとを備えており、バンドルファイバは、シングルモードファイバをバンドルしたファイバであることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の広帯域パルス光源装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、この出願の発明を実施するための形態(実施形態)について説明する。
まず、広帯域パルス光源装置の発明の実施形態について説明する。
図1は、第一の実施形態の広帯域パルス光源装置の概略図である。
図1に示す広帯域パルス光源装置は、広帯域パルス光を出射する広帯域パルス光源1と、広帯域パルス光源1から出射される広帯域パルス光のパルス幅を伸長する伸長ファイバモジュール2とを備えている。
【0011】
広帯域パルス光源1としては、この実施形態では、SC光を出力するものが使用されている。具体的には、広帯域パルス光源1は、パルスレーザ源11と、パルスレーザ源11からの光が入射する非線形素子12とを備えている。
パルスレーザ源11としては、種々のものを用いることができるが、例えばゲインスイッチレーザ、マイクロチップレーザ、ファイバレーザ等を用いることができる。非線形光学効果によりSC光を生成するため、パルスレーザ源11は超短パルスレーザ源であることが望ましい。
【0012】
非線形素子12には、ファイバが使用される場合が多い。例えば、フォトニッククリスタルファイバやその他パルスを入力して非線形が生じるファイバであれば非線形素子12として使用できる。広帯域パルス光源が後述のように分光測定に用いられる場合、ファイバのモードとしては測定安定性の観点からシングルモードを用いる場合が多いが、マルチモードであっても十分な非線形性を示し、測定波長範囲において期待する測定安定性が得られるものであれば、非線形素子12として使用できる。
【0013】
この実施形態の広帯域パルス光源装置は、材料の分光分析等の光測定に利用されることを想定しており、したがって出射される広帯域パルス光は、900nm〜1300nm程度の近赤外域の光となっている。また、広帯域とは、ある波長幅において連続スペクトルであることを意味するが、これは例えば少なくとも10nm、50nm又は100nmの波長幅に亘って連続スペクトルの光ということになる。つまり、この実施形態では、広帯域パルス光源1は、900nmから1300nmの範囲において少なくとも10nm、50nm又は100nmの波長幅に亘って連続したスペクトルの光を出射する光源となっている。
【0014】
伸長ファイバモジュール2は、ファイバ系の素子によってパルス伸長を行うモジュールである。伸長ファイバモジュール2は、パルス伸長の際、パルス幅が伸長された広帯域パルス光においてパルス内の時間と光の波長とが1対1に対応するようにしている。
図2は、ファイバによる広帯域パルス光のパルス伸長について示した概略図である。
【0015】
パルスレーザ源11が例えば超短パルスレーザ光L1を発振すると、超短パルスレーザ光L1は、非線形素子12に入射して非線形光学効果が生じ、ある波長域で連続スペクトルであるSC光L2となって出射する。このSC光L2を当該波長範囲で負の分散値を示す伸長用のファイバ(正常分散ファイバ)20に通すと、パルス幅が効果的に伸長される。
即ち、
図2に示すように、SC光L2においては、超短パルスではあるものの、1パルスの初期に最も長い波長λ
1の光が存在し、時間が経過すると徐々に短い波長の光が存在し、パルスの終期には最も短い波長λ
nの光が存在する。この光を、正常分散ファイバでるファイバ20に通すと、ファイバ20では、波長の短い光ほど遅れて伝搬するので、1パルス内の時間差が増長され、ファイバ20を出射する際には、短い波長の光は長い波長の光に比べてさらに遅れるようになる。この結果、出射するSC光L3は、時間対波長の一意性が確保された状態でパルス幅が伸長された光となる。即ち、
図2の下側に示すように、時刻t
1〜t
nは、波長λ
1〜λ
nに対してそれぞれ1対1で対応した状態でパルス伸長される。
【0016】
したがって、時間を特定して光強度を求めれば、それは、その時間に対応する波長の光強度(スペクトル)を示すことになる。これは、回折格子のような特別な素子を使用しなくても分光測定が行えるできることを意味する。尚、
図2に示すΔλ/Δtは、時間の変化に対する波長の変化の大きさを示し、Δλは波長分解能を表している。Δtは受光器の検出速度(信号払い出し周期)に依存しており、従って波長分解能を高くするには、Δλ/Δtを小さく(勾配を緩やかに)する必要がある。このためには、伸長量を多くする必要がある。
【0017】
尚、伸長用のファイバ20としては、異常分散ファイバを使用することも可能である。この場合は、SC光においてパルスの初期に存在していた長波長側の光が遅れ、後の時刻に存在していた短波長側の光が進む状態で分散するので、1パルス内での時間的関係が逆転し、1パルスの初期に短波長側の光が存在し、時間経過とともにより長波長側の光が存在する状態でパルス伸長されることになる。上述の通り、波長帯域によって正常分散または異常分散で分散の絶対値が大きいファイバを用いる。
通信などで使用される一般的なシングルモードファイバは波長900〜1300nmにおいて正常分散を示すため、この実施形態では正常分散ファイバを用いている。
【0018】
実施形態の広帯域パルス光源装置において、伸長ファイバモジュール2は、マルチコアファイバ21を備えており、マルチコアファイバ21によってメインのパルス伸長作用を発揮させるモジュールとなっている。マルチコアファイバ21を採用する点は、広帯域パルス光源装置の高出力化をテーマとした発明者の研究の成果に基づいている。以下、この点について説明する。
【0019】
ファイバを使用したパルス伸長において、ファイバには何らかの損失があり、パルス伸長の際に損失が生じるのが避けられない。特に、前述したように波長分解能を高くするには伸長量を多くする必要があるが、伸長量はファイバ長に依存しており、伸長量を多くするにはファイバを長くする必要がある。しかし、ファイバを長くすると、損失が大きくなってしまい、出力の低下、効率の低下を招く。
【0020】
したがって、高分解能の広帯域パルス光を高出力で出射するには、伸長用のファイバにおける損失を補償することが必要になってくる。この方法としてまず考えられるのは、伸長用のファイバに入力させる広帯域パルス光のパワーを大きくすることである。発明者は、このような考えに基づき、伸長用のファイバに入力する広帯域パルス光のパワーを大きくする実験を行った。この結果、入力される広帯域パルス光のパワーがある限度以上大きくなると、出力される広帯域伸長パルス光の波長特性が急に不均一になり、スペクトルが大きく波を打ったような状態となることが判明した。
図3は、この点を確認した実験の結果を示す図であり、高強度の広帯域パルス光をファイバによりパルス伸長させた場合の意図しない非線形光学効果について確認した実験の結果を示した図である。
図3において縦軸は対数目盛である。
【0021】
図3に結果を示す実験では、中心波長1064nm、パルス幅2ナノ秒のマイクロチップレーザ光を非線形素子としてのフォトニッククリスタルファイバに入れてSC光とし、長さ5kmのシングルモードファイバを使用してパルス伸長させた。シングルモードファイバは、1100nm〜1200nmの範囲で正常分散のファイバである。この際、シングルモードファイバへの入射SC光のエネルギーを、0.009μJ、0.038μJ、0.19μJ、0.79μJと変化させた。
【0022】
図3に示すように、SC光のエネルギーが0.19μJまでの場合には、1100nm〜1200nmの波長範囲において出射光強度の大きなばらつきはないが、0.79μJの場合、出射光強度は波長に応じて激しく変動する。このような変動は、伸長用のシングルモードファイバに入射して伝搬する過程でSC光に意図しないさらなる非線形光学効果が生じたことを示すものである。このような非線形光学効果が生じると、新たな波長が別の時刻に生成されるため、時間波長一意性が崩れてしまう。尚、
図3に結果を示す実験では、入射するSC光のパルス幅は変わっていないので、ピーク値を変化させたということになる。
【0023】
広帯域伸長パルス光の分光特性が
図3に示すように大きく波打つような特性であると、特に分光測定の用途では大きな問題となり得る。即ち、波長のダイナミックレンジの関係で、光が弱い波長域についてはSN比が極端に悪くなり、その波長域では実質的に測定不能となり得る。また、ある材料の光特性を調べる等の理由でフラットな分光分布の光を照射する必要がある場合も、問題となり得る。
また、意図しない非線形光学効果により、本来必要ではない波長域において光が生成されると、その分で入力パワーが使われてしまうので、エネルギー効率が低下し、本来必要な波長域において十分な強度の光が得られないことになる。
【0024】
この実施形態では、上記の点を考慮し、伸長ファイバモジュール2が備えるメインの伸長用のファイバとしてマルチコアファイバ21を採用している。即ち、マルチコアファイバ21によれば、一つのコア210が伝送する広帯域パルス光のパワーを小さくすることができるので、全体として高出力の広帯域パルス光源装置とした場合でも、意図しない非線形光学効果の発生を防止することができる。このため、広い波長域に亘って高SN比の分光測定を高効率で行うことができるようになる。
【0025】
パルス伸長のためにマルチコアファイバ21を採用することは上記のように有益であるが、発明者の研究によると、マルチコアファイバ特有の課題が発生することが判ってきた。以下、この点について説明する。
図4は、マルチコアファイバによるパルス伸長特有の課題について示した概略図である。
【0026】
広帯域パルス光は、各コア210に分割されて伝搬し、各コア210でパルス伸長されて出射する。各コア210から出射した光は、照射面で重ね合わされる。このようにすると、各コア210で伝搬する広帯域パルス光のパワーはシングルコアのファイバを使用する場合に比べて低くなる。このため、意図しない非線形光学効果が発生しない。
しかしながら、発明者の研究によると、マルチコアファイバ21において、各コア210は同一の材料ではあるものの、波長分散特性にばらつきがあり、このため、コア間においてパルス伸長の状況がばらついてしまう。即ち、
図4に示すように、各コア210で伸長されて出射するパルス光をパルス波形(時間波形)P1〜P4で示すと、パルス光P1〜P4は出射するタイミングが一致せず、幅dのずれが発生する。
【0027】
このようにずれが発生した各パルス光P1〜P4を合波して受光器3で受光した場合、
図2及び
図4から解るように、受光器3からの出力の時間波形において、ある時刻で検出している光の波長は一致せず、異なる波長の光強度が混ざったものとなってしまう。このため、このような光を分光測定に利用すると、分光測定の精度が低下してしまう。
【0028】
このようなマルチコアファイバにおけるコア間の波長分散特性のばらつきは、幾つかの要因で生じる。一つには、コア間の屈折率のばらつきである。各コアは同一の材料で形成されているが、製造時の要因から屈折率が僅かに異なる場合がある。周知のように光波の群遅延は屈折率に依存するため、屈折率がばらつくと波長分散特性が変化する。特に、パルス伸長を行う場合にはファイバがより長くなるので、波長分散特性のばらつきが顕著になり易い。
【0029】
波長分散特性のばらつきは、コア径のばらつきによっても生じる。各コアの径は設計上は同一であるが、製造上の僅かなばらつきが存在する。周知のように、群遅延は、光波がコアだけでなくクラッドにも一部染み出すようにして伝搬することにも起因する(構造的分散)。クラッドへの染み出し量はコア径に依存し、したがってコア径がばらつくと波長分散特性もばらついてしまう。
【0030】
さらに、ファイバの波長分散特性は、曲げやねじりといった外的圧力がファイバに加えられていてそれによって生じる応力の状況によってもばらつく。伸長用としてはkmオーダー程度まで長くなり得るファイバは、巻回された状態で通常は使用される。この場合、巻回の際に内側に位置するコアと外側に位置するコアとでは応力の状況が異なり、この結果、波長分散特性も異なってくる。さらに、内側のコアと外側のコアとでは圧縮と引っ張りの違いによりコア径も異なってくる場合があり、これによっても波長分散特性がばらつく。
このような要因のため、各コアが仕様としては同じ材料であり同じ長さであったとしても、各コアの波長分散特性は一定ではなく、この結果、パルス伸長の状況もばらついてしまう。
【0031】
この実施形態では、このようなマルチコアファイバ21を使用した際の問題を解決するため、伸長ファイバモジュール2が補償ファイバ22を備える構成が採用されている。補償ファイバ22は、マルチコアファイバ21の各コア210に対して接続されており、マルチコアファイバ21のコア間の波長分散特性のばらつきを補償償するものとなっている。
【0032】
各補償ファイバ22は、コネクタ素子23を介して各コア210に接続されている。コネクタ素子23としては、ファンアウトデバイスを使用することができる。溶融延伸型、空間光学型、平面導波路型等の適宜の構成のファンアウトデバイスをコネクタ素子23として採用することができる。
【0033】
各補償ファイバ22としては、この実施形態では、同じ材質のシングルコアのシングルモードファイバが使用されている。各補償ファイバ22は、マルチコアファイバ21の各コアの波長分散特性のばらつきを補償するものであるため、後述するように補償を実現する長さを有している。尚、各補償ファイバ22の出射端はバンドルされて照射面に向けられており、出射する各広帯域パルス光は、出射面において重ね合わされる。この他、各補償ファイバ22の出射側には適宜の出射側素子が設けられることもある。出射側素子としては、バンドルファイバやファインインデバイス等が採用され得る。また、光が同一の照射領域に重なって照射されるようにするレンズ等の空間光学素子が設けられることもある。
【0034】
尚、マルチコアファイバ21の入射側についても、適宜のコネクタ素子24が配置される。例えば、
図1に示すように、マイクロレンズアレイ241を使用して各コアに光を集光して入射させる構成が採用され得る。広帯域パルス光源1の非線形素子12からの光をビームエキスパンダ242で広げ、マイクロレンズアレイ241に照射する。マイクロレンズアレイ241は、各コア210に対応する位置にマクロレンズを配置した光学素子であり、光を分割して且つ集光して各コア210に入射させる機能を有する。
【0035】
このような第一の実施形態の構成において、各補償ファイバ22は、マルチコアファイバ21のコア間の波長分散特性のばらつきを補償するものであるため、その目的を実現する長さを有する。以下、この点について
図5を参照して説明する。
図5は、各補償ファイバ22の長さについて示した概略図である。
【0036】
図5に示すように、コア数を4とし、各コアを210a,210b,210c,210dとする。また、四本の補償ファイバ22を22a,22b,22c,22dとする。また、各コア210a〜210dでパルス伸長された後の広帯域パルス光の各パルスをP1,P2,P3,P4とする。尚、伸長される前の広帯域パルス光のパルスをP0とする。また、伸長前のパルスP0において、パルスの始期(最も長い波長λ
1が存在する時刻)をt
1とし、パルスの終期(最も短い波長λ
nの光が存在する時刻)をt
nとする。同様に、各パルスP1〜P4において、パルスの始期をt
11,t
21,t
31,t
41とし、パルスの終期をt
1n,t
2n,t
3n,t
4nとする。
【0037】
マルチコアファイバ21の各コア210a〜210dにより、波長に応じて群遅延が発生するから、伸長前のパルスP0の始期t
1は、伸長後の各パルスP1〜P4においてt
11〜t
41のように遅延し、終期t
nは、t
1n〜t
4nのように遅延する。この際、各コア210a〜210dの波長分散特性にばらつきが全くなければ、t
11〜t
41はみな同一の時刻となり、t
1n〜t
4nはみな同一の時刻となる。しかしながら、波長分散特性がばらついているため、
図4及び
図5に示すように、t
11〜t
41はずれており、t
1n〜t
4nもずれている。
【0038】
波長分散特性のばらつきというのは、波長の違いによる群遅延のばらつきであるから、伸長後の各パルスP1〜P4におけるパルス幅のばらつきということになる。しかし、波長分散特性のばらつきは、屈折率の相違や構造的要因による群遅延のばらつきに相当しているから、伸長前のパルスP0に対する全体としての遅延量も異なってくる。つまり、パルス幅のみならずパルスのタイミングもずれる。
尚、
図4の例では、コア210aにおいて最も群遅延が少なく、コア210dにおいて群遅延が多くなっているが、これは波長分散特性のばらつきのパターンの単なる一例であり、他のパターンでばらつく場合も勿論ある。
【0039】
このように波長分散特性がばらついている結果、各パルスP1〜P4のタイミングがずれている場合、各補償ファイバ22がそれを補償する長さとされる。即ち、第一のコア210aに接続された第一の補償ファイバ22aは最も長い長さとされ、第二のコア210bに接続された第二の補償ファイバ22bは次に長い長さとされ、第三のコア210cに接続された第三の補償ファイバ22cはその次にの長い長さとされ、第四のコア210dに接続された第四の補償ファイバ22dは、最も短い長さとされる。各長さの相違は、生じているパルスのずれの幅に応じて選定される。
【0040】
このように長さが最適化されて各補償ファイバ22a〜22dが接続されると、波長分散特性のばらつきが補償され、
図5に示すように各補償ファイバ22a〜22dを出射した際の各パルスP1’〜P4’は、パルス長やパルスのタイミングが一致したものとなる。
実際には、装置の製造の際、マルチコアファイバ21の各コア210a〜210dからのパルスP1〜P4をオシロスコープ等の測定機器でモニタし、各ずれの幅dに応じて各補償ファイバ22を接続する。そして、各補償ファイバ22を出射したパルス光P1’〜P4’を同様にオシロスコープで観察し、ずれの幅dが許容値に入っているかどうか確認する。許容値に入っていれば、その装置は合格であり出荷OKとされ、許容値に入っていなければ、補償ファイバ22を適宜交換して接続し、ずれの幅dが許容値内となるようにする。
【0041】
上記ずれの幅の許容値について、
図6を参照して説明する。
図6は、補償ファイバによる補償後の各パルスのずれの幅の許容値について示した概略図である。
各パルスのずれの幅が許容値内であるかどうかの判断は、上記のようにオシロスコープ等の測定機器を使用して行うが、ずれの幅の確認については、パルスの中央のような十分に強度がある箇所を基準にして行う。パルスの始期又は終期で行っても良いが、これらのタイミングでは強度が弱いので、ずれの幅の確認を精度良く行うことは難しい。したがって、例えばパルスの中央(時間幅の中央)のような十分に高い強度のところで比較をしてずれの幅を特定する。
【0042】
ずれの幅を確認する際の基準とするパルスをP1とし、
図6(1)に示すようにパルスP1の中央の時刻をt
1mとする。このパルスP1についての時間と波長との対応関係を
図6(2)に示す。対応関係において、時刻t
1mに対応する波長はλ
mであるとする。
いま、パルスP2は、パルスP1よりも分散の大きなコアを伝搬したとする。この場合、パルスP2はパルスP1に対して少し遅れる。パルスP2の中央の時刻をt
2mとすると、ずれの幅dは、t
1mとt
2mの差となる。そして、ずれの幅dは時間のずれであるが、ずれの幅dが存在している場合の波長のずれ、即ち時刻t
1mで観測される波長のずれをδλとする。
【0043】
この場合、パルスP1において、t
1mよりもΔt前の時刻には、λ
m−1の波長が観測される。ここでのΔtは時間分解能である。λ
m−1の波長は、t
m1よりも一つ前の時刻の波長として対応付けがされている。一つ前の時刻とは、受光器における信号払い出し周期において一つ前のタイミングで読み出された光電変換強度ということである。
【0044】
もし、ずれの幅dが大きく、
図6(2)に示すように、波長のずれδλがλ
m−1を超えてしまうと、λ
mの波長の強度の中に隣の波長の光の強度(又はそれ以上離れた波長の光の強度)を含んでしまうことになる。δλが波長分解能Δλ以下であれば、元々分解できないスペクトル強度の違いであるので、問題は小さい。しかし、波長分解能Δλを超えてしまうと、問題が顕在化する。したがって、ずれの幅dは、当該波長における波長分解能以下となる幅であれば良いということになる。波長分解能以下とは、そのずれの幅dにΔλ/Δtを乗算した場合に隣りの波長以上になってしまうような幅以下ということである。
【0045】
このように、実施形態の広帯域パルス光源装置によれば、広帯域パルス光がマルチコアファイバ21により分割されてパルス伸長されるため、高出力の光源装置としつつもパルス伸長の際に意図しない非線形光学効果を防止することができる。このため、広い波長域に亘って高SN比の分光測定を高効率で行うことができるようになる。そして、各コアの波長分散特性のばらつきが補償ファイバ22によって補償されるので、分割してパルス伸長した光が重ね合わされた際、時間対波長の一意性が精度良く保持される。
上記構成では、補償ファイバ22は各コア210に対して接続されたが、波長分散特性のばらつきの発生状況によっては一つのコア210のみに対して接続されれば足りる場合もある。
【0046】
次に、第二の実施形態の広帯域パルス光源装置について説明する。
図7は、第二の実施形態の広帯域パルス光源装置の概略図である。
第二の実施形態の広帯域パルス光源装置が第一の実施形態と異なるのは、補償ファイバ22の温度を調節する温度調節機構4を備えている点である。この実施形態では、温度調節機構4は、各補償ファイバ22に設けられており、各補償ファイバ22を互い独立して温度調節できるものとなっている。
【0047】
各温度調節機構4は、熱媒として気体を使用するもの、液体を使用するもののいずれでも良い。例えば、水又はパージガス等の熱媒を充填した恒温槽内に補償ファイバ22を配置し、熱媒を温度調節する機構を採用することができる。
この実施形態では、各温度調節機構4の動作についても最適化されている。即ち、各温度調節機構4の動作を制御するためのモニタ機構5が設けられており、このモニタ機構5からの信号に従って各温度調節機構4は動作するようになっている。
【0048】
温度調節の考え方としては、大きく分けて二つの考え方がある。一つは、補償ファイバ22に温度変化が生じると、屈折率が変化し、波長分散特性が変化する。この結果、他の補償ファイバ22との間で波長分散特性のばらつきが生じ、出射する広帯域パルス光のタイミングがずれる。これを防止するため、補償ファイバ22の温度を検出して温度調節し、補償ファイバ22の温度を一定に保つ。もう一つの考え方は、補償ファイバ22の温度によらず、広帯域パルス光のタイミングがずれたら、そのずれを補償するように温度調節するという考え方である。
【0049】
前者の考え方でも時間対波長の一意性の良い広帯域パルス光の出射が可能であるが、この実施形態では、時間対波長の一意性をより高めるため、後者の考え方を採用している。前者の考え方は、温度を一定にすれば波長分散特性は一定になるという考え方であるが、この考え方の場合、温度によらず波長分散特性が変化した場合に対応できない。例えば、補償ファイバ22の材料自体に経時的な変化が生じ、波長分散特性が変化した場合、対応できない。後者の考え方によると、このような波長分散特性の変化にも対応できる。このため、この実施形態では、モニタ機構5としては、各補償ファイバ22による波長分散特性のばらつきをモニタするものが採用されている。
【0050】
具体的に説明すると、モニタ機構5は、マルチコアファイバ21及び各補償ファイバ22によりパルス伸長された後の各広帯域パルス光を受光するものとなっている。
図6に示すように、この実施形態では、各補償ファイバ22は中継ファイバ25を介してバンドルファイバ26に接続されている。各中継ファイバ25は、途中で分岐しており、一方が照射用、他方がモニタ用となっている。モニタ用として分岐させるパワーは少しで良く、全体の10%以下で良い。
【0051】
各中継ファイバ25のモニタ用の分岐端から出射する光を受光する位置に、モニタ用受光器51が配置されている。
図7に示すように、この実施形態では、各温度調節機構4に対して制御信号を送るコントローラ50が設けられている。各モニタ用受光器51は、AD変換器52を介してコントローラ50に接続されている。
【0052】
コントローラ50は、プロセッサを内蔵しており、各モニタ用受光器51からの検出データを処理し、各広帯域パルス光のずれの幅を算出する。また、コントローラ50は、メモリのような記憶部を有しており、記憶部にはずれの幅のしきい値が記憶されている。さらに、記憶部には、しきい値を超えた場合に温度調節量を算出するための基準値が予め記憶されている。コントローラ50は、設定された基準値に従って温度調節量を算出し、温度調節機構4に対して制御信号を送り、その量だけ温度を変化させるよう構成されている。
【0053】
次に、上記コントローラ50による制御について説明する。
図8は、第二の実施形態における温度調節機構の制御について示した概略図である。
実際の温度調節では、ある特定の補償ファイバ22を基準とし、この補償ファイバ22からの出射パルスを基準として他の出射パルスのタイミングのずれをモニタする。以下、この基準となる補償ファイバ22を基準ファイバという。
図8(1)に示すように、基準ファイバ22からの出射パルスP1に対してある補償ファイバ22からの出射パルスP2のずれが観測される。このずれについて、検出データで特定されるパルスP1,P2の中心のずれの幅dが算出される。この幅dが最小(d=0)になるように、温度調節機構4が制御される。
【0054】
温度調節機構4の制御は、作業者がマニュアル作業で行っても良いが、コントローラ50に実装したプログラム(以下、温度調節プログラムという。)により行うことも可能である。
図9は、温度調節プログラムの一例を概略的に示したフローチャートである。
コントローラ50の記憶部には、上記ずれを解消するための基準値が記憶されている。基準値は、どの程度温度を変化させると出射パルスのタイミングがどの程度ずれるかという基準値であり、予め実験的に求められて記憶されている。
具体的に説明すると、温度が上昇すると屈折率は小さくなり、屈折率が小さくなると波長分散は多くなる。したがって、広帯域パルス光のタイミングは遅れる。逆に、温度が低下すると屈折率は大きくなり、波長分散は少なくなる。このため、広帯域パルス光のタイミングは早くなる。したがって、ある時刻を0として広帯域伸長パルス光の出射のタイミングを表すと、概略的には
図8(2)に示すようなものとなる。
温度変化ΔTに対するタイミングのずれの幅Δdは、実験的に調べることが可能である。この実施形態では、各補償ファイバ22についてΔd/ΔTが予め調べられており、この値がコントローラ50の記憶部に記憶されている。
【0055】
図9に示すように、温度調節プログラムは、ずれの幅dがしきい値を超えた場合、そのずれの幅dを解消するための温度調節量Tを算出する。即ち、T=−d/(Δd/ΔT)を算出し、温度調節量Tをずれの幅dを観測した補償ファイバ22の温度調節機構4に送る。温度調節機構4は、温度調節量Tだけ補償ファイバ22の温度が上昇又は下降するよう温度調節する。このような温度調節を温度調節機構4が行うよう、温度調節プログラムはプログラミングされコントラーラ50に実装されている。
上記の制御例は、ずれの幅dがしきい値を超えた場合には温度調節を行う例であったが、PID制御等のようなフィードバック制御をしても良い。即ち、d=0になるようにするフィードバック制御を行い、即時性を高めても良い。
【0056】
第二の実施形態に広帯域パルス光源装置によれば、各補償ファイバ22の波長分散特性のばらつきが温度調節によって抑え込まれるので、使用環境の変化、ファイバ材料自体の特性変化により波長分散特性が変化した場合にも、出射される各広帯域パルス光のタイミングのずれは小さく抑え込まれる。このため、時間対波長の一意性が高く安定して保持され、信頼性の高い広帯域パルス光源装置となる。
【0057】
上記温度調節において、ずれの幅dのしきい値は、第一の実施形態におけるずれの幅dと同じようにすることができる。即ち、パルス幅(時間幅)の中心でずれの幅dを把握する場合、その中心の時間に対応した波長における波長分解能以下となる時間幅ということになる。この幅を超えた場合、上記のような温度調節をする。
尚、温度調節機構4の制御としては、各補償ファイバ22の温度をセンサで検出し、これが一定になるように制御を行っても良い。この場合でも、温度変化による波長分散特性のばらつき、広帯域パルス光の出射のタイミングのばらつきが抑え込まれるため、時間対波長の一意性の精度が高められる。
【0058】
上記第二の実施形態では、温度調節機構4が各補償ファイバ22について設けられており、各々独立して温度調節がされるので、きめ細かい温度調節が可能になり、波長分散特性のばらつきをきめ細かく抑え込むことができる。このため、時間対波長の一意性がより高い精度で保持される。尚、温度調節機構4は、複数の補償ファイバ22についてまとめて温度調節を行う機構であっても良い。この場合は、それら複数の補償ファイバ22について、温度変化による波長分散特性の変化(経時的ばらつき)を抑え込むことができるという効果がもたらされる。
【0059】
また、上記第二の実施形態において、広帯域パルス光の出射のタイミングのずれの幅dがしきい値を超えた場合に温度調節機構4が動作する点は、温度調節機構4の動作を必要最小限する意義がある。この点は、装置の省エネルギー性能を高める効果がある。
予め求められた基準値に従って温度調節量を算出して温度調節を行う点には、温度調節が不足したり過剰になったりしないという効果がある。温度調節については、温度の上昇(加熱)を継続し、ずれの幅dがしきい値以下になったら停止するとか、温度の低下(冷却)を継続し、ずれの幅dがしきい値以下になったら停止するといったやり方もあるが、このようにすると、一時的に温度調節が不足したり過剰になったりする問題が生じ得る。上記実施形態の構成では、そのような問題はない。
【0060】
次に、第三の実施形態の広帯域パルス光源装置について説明する。
図9は、第三の実施形態の広帯域パルス光源装置の概略図である。
第三の実施形態においても、伸長ファイバモジュール2はマルチコアファイバ21と各補償ファイバ22とを備えており、各補償ファイバ22はマルチコアファイバ21のコア間の波長分散特性のばらつきを補償するものとなっている。そして、各補償ファイバ22には温度調節機構4が付設されており、各温度調節機構4を制御するコントローラ50が設けられている。
【0061】
図9に示すように、第三の実施形態では、マルチコアファイバ21の入射側に各補償ファイバ22が配置されており、第一第二の実施形態とは配置位置が逆となっている。波長分散は、全体の伝送路の長さで決まるので、このような配置であっても効果としては等価である。尚、広帯域パルス光源1内の非線形素子12としてのファイバは、出射端が分岐したファイバとなっている。分岐の数は、マルチコアファイバ21のコア数に等しい。非線形素子12としてのファイバの各出射端は、コネクタ素子27、中継ファイバ25及び別のコネクタ素子27を介してマルチコアファイバ21の各コア210にそれぞれ接続されている。
【0062】
この実施形態でも伸長ファイバモジュール2におけるパルス伸長の状況を監視するモニタ機構5が設けられているが、
図9に示すように、各モニタ機構5は、各補償ファイバ22の入射側において光を取り出す構成となっている。即ち、各モニタ機構5は、マルチコアファイバ21の出射端で反射して戻ってきた光を取り出してパルスのタイミングを検出するものとなっている。
【0063】
具体的には、
図9に示すように、各中継ファイバ25上には、分岐素子として光サーキュレータ53が配置されている。各光サーキュレータ53には、モニタ用ファイバ(符号省略)が接続されており、各モニタ用ファイバの出射端を臨む位置には、モニタ用受光器51が配置されている。各モニタ用受光器51は、同様にAD変換器52を介してコントローラ50に接続されている。
【0064】
マルチコアファイバ21の各コア210中を伝搬した各広帯域パルス光は、殆どの光が出射端から出射して照射面に照射されるものの、一部の光は出射端で反射して戻る。この反射光は、マルチコアファイバ21の各コアから各補償ファイバ22を通って戻り、各中継ファイバ25上の光サーキュレータ53で取り出されて各モニタ用受光器51で検出される。
【0065】
この実施形態においても、各モニタ用受光器51からの検出データが処理されて各パルスのタイミングのずれの幅dが算出され、ずれの幅dがしきい値を超えている場合、超えている補償ファイバ22の温度調節機構4が動作する。このため、ずれの幅dがしきい値以下に抑え込まれ、時間対波長の一意性が高く保持された広帯域パルス光が出射される。
この実施形態では、各モニタは、マルチコアファイバ21の出射端で反射して戻ってきた光を検出するので、全体の波長分散は倍になり、したがってずれの幅dも倍になる。このため、算出したずれの幅dを1/2倍してしきい値と比較するか、しきい値を2倍にしてから比較する。
【0066】
次に、第四の実施形態の広帯域パルス光源装置について説明する。
図10は、第四の実施形態の広帯域パルス光源装置の概略図である。
第四の実施形態においても、伸長ファイバモジュール2はマルチコアファイバ21と各補償ファイバ22とを備えており、各補償ファイバ22はマルチコアファイバ21のコア間の波長分散特性のばらつきを補償するものとなっている。
この実施形態では、各補償ファイバ22には長さ調整機構40が設けられている。長さ調整機構40としては、例えばピエゾ素子によって補償ファイバ22を伸縮させて長さを調整する機構が採用できる。
【0067】
この実施形態においても、各補償ファイバ22から出射される広帯域パルス光の出射のタイミングのずれを検出するするモニタ機構5が設けられている。モニタ機構5が検出したずれはコントローラ50に入力され、コントローラはずれに従って各長さ調整機構40を制御するようになっている。即ち、ずれの幅がしきい値を超えている場合、長さ調整機構40が動作する。そして、ある補償ファイバ22を基準とし、それよりも早いタイミングで出射している補償ファイバ22については長さ調整機構40により伸ばして光路長を長くし、遅いタイミングで出射している補償ファイバ22については縮めて光路長を短くする。光路長の調節により、波長分散が全体として均一になり、ずれのないタイミングで各広帯域パルス光が出射する。
【0068】
この場合にも、コントローラ50には、各補償ファイバ22の長さ変化量とずれの幅との関係が予め調べられ、基準値としてコントローラ50内の記憶部に記憶されている。コントローラ50に含まれるプロセッサは、この基準値に従って各補償ファイバ22の長さ調整量を決定し、各長さ調整機構40を動作させる。
この実施形態においても、各広帯域パルス光の出射のタイミングのずれがしきい値以下に抑え込まれる。このため、時間対波長の一意性が高く保持された広帯域パルス光が出射される。
尚、温度調節機構4を使用する場合と比べると、長さ調整機構40(機構的な光路長の調整)による場合、波長分散量の調整を応答性良く行うことができるため、波長分散特性のばらつきを抑え込む動作の高速性という点で優れたものになる。
【0069】
次に、このような広帯域パルス光源装置を使用する分光測定装置及び分光測定方法の各発明の実施形態について説明する。
図11は、実施形態の分光測定装置の概略図である。
図11に示す分光測定装置は、広帯域パルス光源装置10と、広帯域パルス光源装置10からの広帯域パルス光が照射された対象物Sからの光の受光位置に配置された受光器7と、受光器7からの出力を処理する演算手段8とを備えている。
【0070】
広帯域パルス光源装置10には、上述した第二の実施形態のものが使用されているが、第一の実施形態のものや第三、第四の実施形態のものでも良いことは勿論である。この実施形態では、対象物Sの透過光を分光測定することが想定されているため、対象物Sは透明な受け板6上に配置される。測定波長帯域は900nm〜1300nm程度の近赤外域となっているため、受け板6は、この帯域において良好な透過率を有する材質のものが使用される。
受け板6の光出射側に、受光器7が配置されている。受光器7としては、フォトダイオードが使用される。1GHz〜10GHz程度の高速フォトダイオードが好適に使用できる。
【0071】
演算手段8としては、プロセッサ81及びストレージ82を備えた汎用PCが使用できる。ストレージ82には、分光測定ソフトウェアがインストールされており、これには、受光器7からの出力の時間的変化をスペクトルに変換するコードを含む測定プログラム83や、スペクトルの算出の際に使用される基準スペクトルデータ84等が含まれている。尚、受光器7と汎用PCとの間にはAD変換器71が設けられており、受光器7の出力は、AD変換器71によりデジタルデータに変換されて汎用PCに入力される。
【0072】
図12は、分光測定ソフトウェアに含まれる測定プログラムの構成について示した概略図である。
図12の例は、吸収スペクトル(分光吸収率)を測定するための構成の例となっている。基準スペクトルデータ84は、吸収スペクトルを算出するための基準となる波長毎の値である。基準スペクトルデータ84は、広帯域パルス光源装置10からの光を対象物Sを経ない状態で受光器7に入射させることで取得する。即ち、対象物Sを経ないで光を受光器7に直接入射させ、受光器7の出力をAD変換器71経由で汎用PCに入力させ、時間分解能Δtごとの値を取得する。各値は、パルス内のΔtごとの各時刻(t
1,t
2,t
3,・・・,以下、パルス内時刻という。)の基準強度として記憶される(V
1,V
2,V
3,・・・)。
【0073】
各パルス内時刻t
1,t
2,t
3,・・・での基準強度V
1,V
2,V
3,・・・は、対応する各波長λ
1,λ
2,λ
3,・・・の強度(スペクトル)である。パルス内時刻t
1,t
2,t
3,・・・と波長との関係が予め調べられており、各パルス内時刻の値V
1,V
2,V
3,・・・が各λ
1,λ
2,λ
3,・・・の値であると取り扱われる。
そして、対象物を経た光、すなわち対象物からの透過光を受光器7に入射させた際、受光器7からの出力はAD変換器71を経て同様に各パルス内時刻t
1,t
2,t
3,・・・の値(測定値)としてメモリに記憶される(v
1,v
2,v
3,・・・)。各測定値は、基準スペクトルデータ84と比較される(v
1/V
1,v
2/V
2,v
3/V
3,・・・)。そして、必要に応じて逆数の対数を取り、吸収スペクトルの算出結果とする。
【0074】
上記のような演算処理をするよう、測定プログラム83はプログラミングされている。尚、
図12の例では、吸収スペクトルを調べるだけのようになっているが、実際には、吸収スペクトルを調べることで、対象物の成分の比率を分析したり、対象物を同定したりすることもある。
【0075】
次に、上記分光測定装置の動作について説明する。以下の説明は、分光測定方法の実施形態の説明でもある。実施形態の分光測定装置を使用して分光測定する場合、対象物Sを配置しない状態で広帯域パルス光源装置10を動作させ、受光器7からの出力データを処理して予め基準スペクトルデータ84を取得する。その上で、対象物Sを受け板7に配置し、広帯域パルス光源装置10を再び動作させる。そして、受光器7からの出力データをAD変換器71を介して演算手段8に入力し、測定プログラム83によりスペクトルに変換して吸収スペクトルを算出する。
【0076】
このような分光測定装置又は分光測定方法によれば、伸長ファイバモジュール2において意図しない非線形光学効果が生じない広帯域パルス光源装置10を使用しているので、時間対波長の一意性が高く保持された光により分光測定が行える。このため、分光測定の精度が高くなる。また、ダイナミックレンジの関係で特定の波長域においてSN比が低下してしまう問題はない。さらに、エネルギー効率を高くして光を照射できることから、光吸収の多い対象物についても透過光強度を高くして測定することができるメリットもある。
【0077】
また、伸長ファイバモジュール2においてマルチコアファイバ21のコア間の波長分散特性のばらつきを補償ファイバ22が補償しているので、時間対波長の一意性の精度がさらに高くなっている。このため、この点でも分光測定の精度が高められている。
尚、上記説明では対象物Sからの透過光の分光測定を例にしたが、対象物Sからの反射光を受光する位置に受光器7を設け、対象物Sからの反射光の分光測定を行うようにすることも可能であり、この場合も同様の効果が得られる。さらに、広帯域パルス光が照射された対象物Sからの散乱光又は蛍光を捉えて分光測定する場合もあり得る。したがって、対象物Sからの光は、光照射された対象物Sからの透過光、反射光、蛍光、散乱光などであり得る。
【0078】
上述した各実施形態の広帯域パルス光源装置は、分光測定の他、非線形光学顕微鏡のような顕微鏡技術にも応用が可能である。また、広帯域パルス光源1としては、SC光を出射するものの他、ASE(Amplified Spontaneous Emission)光源、SLD(Superluminescent diode)光源などが採用されることもあり得る。ASE光源は、ファイバ内で発生する光なので、ファイバとの親和性が高く、低損失で伸長ファイバモジュール2に広帯域パルス光を入射させることができ、高効率の広帯域パルス光源装置を構成することができる。また、SLD光源も、狭い活性層での発光を取り出すので伸長ファイバモジュール2に低損失で入射させることができ、高効率の広帯域パルス光源装置を構成することができる。
【0079】
上記各実施形態において、マルチコアファイバ21に代えてバンドルファイバを使用しても良い。バンドルファイバとしては、シングルコアのシングルモードファイバを複数本束ねた構造のものが採用される。理論的には2本のみのファイバを束ねたものでも効果があるが、2〜7本程度束ねたものが使用できる。材質としては、石英系、フッ素系等で良く、広帯域パルス光の波長帯域において損失が少ないものが好適に使用される。バンドルの方法としては、接着による場合の他、溶融(融着)であっても良い。
【0080】
非線形素子12としてのファイバとの接続については、空間光学型のファインデバイスの他、溶融分岐ファイバを使用することができる。例えば、非線形素子12としてのファイバの出射端を複数に分岐させ、分岐して延びる各ファイバに対してバンドルファイバの各ファイバを接続する構成が考えられる。
【0081】
尚、マルチコアファイバに比べてバンドルファイバの方が安価に入手できるので、コスト上の優位性がある。他方、バンドルファイバに比べてマルチコアファイバは構造的にコンパクトになり、ループさせた際にもバンドルファイバほどはかさばらないというメリットがある。また、入射端面における損失(コアに入射しない光の量)も、バンドルファイバに比べるとマルチコアファイバの方が少なくなる場合が多く、効率の点でもマルチコアファイバの方が優れている。