(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上面視で、積雪荷重で上記ルーフパネルが一番たわみやすい第1の箇所と2番目にたわみやすい第2の箇所の両方に一番近いレインフォースとルーフパネルとの間にだけ上記補強シートを介在させたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した車両用ルーフ構造。
上記補強シートを一枚とし、その補強シートを、上記複数のレインフォースのうちの一つレインフォースにのみ支持させる条件で、補強シートを設ける箇所を決定することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載した車両用ルーフ構造の設計方法。
【背景技術】
【0002】
自動車用パネルはルーフパネルと呼ばれる外板部品と、フロアやダッシュロアなどの内板部品のことであり、投影面積が広い部品群である。そのため、板厚の低減による軽量化の割合は、他の骨格系部品と比較しても格段に大きい。その中でもルーフパネルは特にバンやミニバンなどで大きな投影面積を持つことから、薄板化による車体軽量化の効果が大きい。また、優れた操安性や走りの楽しさの志向から、車体の低重心化が要求される傾向にあるため、ルーフの軽量化のニーズは特に強い。
ここでルーフの最大の要求性能は積雪強度性能である。積雪強度とは、屋外を走行あるいは駐停車している際にルーフに積雪し、その重みでルーフパネルが反転し永久変形を起こしてしまう(パネルが元に戻らない)のを防ぐために必要な強度のことである。そのため、積雪強度性能は、ルーフを構成する部品にのみ要求される、特別な性能である。なお、ここでの強度は、パネルの反転(バックリング)にかかわるため、剛性の一種と考えてよい。
【0003】
ここで、特許文献1には、パネルの裏面全面に粘着性を有する熱硬化型補強シートを貼り付け、パネル表面の塗装焼き付け時に補強シートを発泡硬化させて、吸音とパネル補強を同時に行うことが記載されている。
また、特許文献2には、ルーフ積雪に対する補強方法として、ルーフパネルにルーフレールアウタを予め組み付けてルーフ部品を作製し、そのルーフ部品をキャブサイドのルーフレールインナに取り付けることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車体軽量化のためにルーフパネルを薄板化しながら積雪強度を向上させるためには、積雪による分布荷重負荷への剛性を高める観点で、ルーフパネルの断面係数を高めることが有効である。その手法として、例えばビード形状を配することが行われることがある。ただし、ルーフパネルにビードを形成すると、車内のこもり音を引き起こしたり、見栄えが良くなったりなどの理由で避けられる場合がある。また、ルーフの曲率半径を小さくすることも有効であるが、車のデザインバランスからも、ルーフは出っ張らない(曲率半径が大きい)形状が求められる。
更に、レインフォースを増やすことで剛性向上を図ることも出来るが、逆に質量増大に繋がるためレインフォースの数は最小限にしたい。
これらの背反するニーズと性能要件によって、ルーフパネルの薄板化は難しいのが課題である。
【0006】
ここで、特許文献1では、ルーフ特有の積雪による部分的なたわみについて何ら考慮されておらず、ほぼパネル全面に熱硬化型補強シートを設けるため、コスト高に繋がると共に、パネル面積が大きくなるほど積雪による部分的なたわみに効果が小さくなるという問題がある。
また特許文献2に記載の技術は、剛性を確保しやすい狭い面積のルーフには有効であると思われるが、バンやミニバンなど広い面積のルーフでは車両長手方向の剛性が低下するため、その性能確保には効果が少ない。
また、張り剛性のような1点荷重負荷に対しては、その弱いポイントを補強する方法で対策は可能である。しかし、積雪はパネル面全体への分布荷重であるため、補強ポイントを絞り込むことは困難である。
【0007】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、ルーフ構造において部品質量を増加させることなく、効果的に積雪強度を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するために、本発明の一態様は、ルーフパネルと、上記ルーフパネルを下側から支持する複数のレインフォースと、を備える車両用ルーフ構造であって、上記ルーフパネルの下面に、樹脂層を有する補強シートを1枚又は2枚以上、部分的に配置し、各補強シートは、それぞれ上記複数のレインフォースのうちの一つのレインフォースと上記ルーフパネルとの間に介在して、上記複数のレインフォースのうちの一つのレインフォースにのみ支持されていることを要旨とする。
【0009】
また、本発明の一態様は、ルーフパネルと、上記ルーフパネルを下側から支持する複数のレインフォースと、上記ルーフパネルの下側に配置される補強シートとを、備え、上記補強シートは樹脂層を有し、その補強シートを、上記ルーフパネルの下面に1枚又は2枚以上、部分的に配置し、各補強シートは、上記複数のレインフォースのうちの一つのレインフォースにのみ支持又はレインフォースに支持されないとする条件で、上記複数のレインフォースで支持された上記ルーフパネルに対し、上側から積雪荷重を負荷した際における、上記ルーフパネルのたわみ分布を求め、上記たわみ分布に基づき、上記補強シートを設けることで上記積雪荷重によるたわみが小さく且つたわみの分布が均一化すると推定される位置を、上記補強シートを設ける箇所とすることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、ルーフパネルとレインフォースの間に対し、部分的に樹脂層を有する補強シートを適切に配置することで、ルーフ構造の質量および部品点数を増加することなく、積雪強度の向上が可能となる。この結果、本発明の態様によれば、ルーフパネルのさらなる薄板化による軽量化を図ることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
また各図には、実施例における寸法を併記した。その単位は全て[mm]である。
【0013】
本実施形態の車両用ルーフ構造は、ルーフパネルと、上記ルーフパネルを下側から支持する複数のレインフォースとを備える。
ルーフパネル1は、
図1に示すように、上面(表面)が上側に凸の曲率半径を有する面形状となっている。
複数のレインフォース2は、ルーフパネル1の裏面側に当該裏面の面に沿って並ぶように配置される。具体的には、本実施形態のレインフォース2は、
図2に示すように、ルーフパネル1の長手方向に沿って複数配置されている。
【0014】
レインフォース2は、例えば
図3に示すようなハット型の断面形状となっていて、中央部2aと、中央部2aの幅方向両側に位置する左右の取付け面部2bとから構成されている。
そして、レインフォース2は、
図4に示すように、左右の取付け面部2bに対し、長手方向に向けて所定間隔で配置されたマスチック接着剤3でルーフパネル1の裏面(下面)に取り付けられた構造となっている。
また、レインフォース2の長手方向端部は、不図示の車体フレームに固定されている。
以上のルーフパネル1及びレインフォース2は、上記構造に限定されず、公知の車両ルーフ用構造を採用しても構わない。
【0015】
上記のルーフ構造に対し、ルーフパネル1に対し上方から積雪荷重(等分布荷重)を負荷したときのパネルのたわみ分布を求める。たわみ分布は、実験によって求めても良いし、コンピュータを用いたCAEその他の構造解析によって変位コンター図を演算することで求めても良い。
次に、求めたたわみ分布から、一番たわみやすい、つまり一番たわむ箇所である第1の箇所T1と、2番目にたわみやすい、つまり2番目にたわむ箇所である第2の箇所T2を特定する。
この第1の箇所T1及び第2の箇所T2の特定も、コンピュータによる自動演算で特定するようにしても良い。
【0016】
本実施形態の場合には、構造上、長手方向中央部側がたわみやすく、CAE解析によって
図5中、符号T1,T2の位置でたわみが最大となったとする。すなわち、T1,T2が、一番たわみ易い箇所と二番目にたわみ易い箇所となる。また
図5中、T3は、たわみが小さい箇所である。
本実施形態では、
図5中、二つのたわみ最大部T1,T2の間に位置するレインフォース2に支持させるようにして、補強シート4を配置する(
図5の符号Rの位置に配置)。特にレインフォース2の長手方向中央部側でたわみが大きいので、レインフォース2の長手方向中央部位置に補強シート4を配置させている。
【0017】
すなわち、
図6及び、そのA−A断面図である
図7のように、ルーフパネル1の裏面と、長手方向中央部に位置するレインフォース2との間に、1枚の補強シート4を介在させる。この例では、ルーフパネル1の裏面に補強シート4を貼り付け、補強シート4の下面とレインフォース2との隙間にマスチック接着剤3を介装させることで取り付けている。隙間が形成されない場合には、マスチック接着剤3を介装させなくても良い。
ここで、補強シート4の大きさは限定されないが、平面視で一つのレインフォース2とだけと重なる大きさとする。ただし、補強シート4は軽量ではあるが、補強シート4自体の質量を考慮すると、車体軽量化の観点では当然面積が小さい方が好ましい。補強シート4は、矩形形状で300mm×600mmまでの大きさであれば、レインフォース2を増やすよりも質量増加を小さく抑えられる。
【0018】
また補強シート4は、矩形形状で100mm×200mm以上の大きさがあることが好ましい。
また、使用する補強シート4の枚数は1枚が一番効果的である。それは、たわみの大きい2つ部位の間に貼付することで、両側のたわみ成長を抑制し、積雪負荷におけるパネル反転のきっかけを除去できるからである。またこれによって、面全体のたわみ分布も均一化に近づく。
補強シート4の枚数を増やす場合に、例えば、たわみの小さい部位と大きい部位の間にも貼付けた場合、たわみの成長が偏ってしまい、新たな反転ポイントを発生させてしまう恐れがある。
【0019】
ルーフパネル1の裏面(下面)から補強する上記の補強シート4は、樹脂層を有する。補強シート4は、樹脂層のみから構成されていても良いし、
図8に示すように、樹脂層4aの他に他の層が積層されていても良い。
図8に例示される補強シート4は、樹脂層4aと、樹脂層4aの表面(上面)に設けられた粘着層4bとを備える。
図8に例示される補強シート4は、更に、樹脂層4aの変形を抑える目的で、拘束層4cを有する。拘束層4cは、樹脂層4aと粘着層4bとの間に設けても良い。この拘束層4cを有することが好ましいが、拘束層4cを有していなくても良い。
【0020】
樹脂層4aを構成する樹脂は、硬化型樹脂が好ましい。硬化型樹脂としては光硬化型樹脂と熱硬化型樹脂が考えられるが、熱硬化型樹脂が通常使用される。
樹脂層4aを熱硬化型樹脂で構成する場合、樹脂層4aは、例えばエポキシ樹脂などの熱硬化型樹脂に発泡剤を含有して構成される。発泡剤を含有しなくても良いが、発泡剤を含有した場合、ルーフパネル1の表面を焼き付け塗装する際の加熱で発泡剤が発泡して層厚が増加することで、レインフォース2との隙間がより有効に無くすことが出来ると共に、焼き付け塗装後の空冷において樹脂を硬化させることが出来る。
拘束層4cは、例えばカーボンフィバーやガラス繊維、不織布、金属箔などで構成すればよい。
粘着層4bは、シールの粘着層と同様の機能を持ちルーフパネルと粘着させて施工し、塗装加熱後も剥離しない性能を持つものであれば、特に制限はされない。
【0021】
ここで、補強シート4を貼り付けることで、その部分のパネル剛性が局所的に高くなるので、その条件で構造解析を行って補強シート4の配置箇所を特定するようにしても良い。ただし、上述のようにたわみの大きい2カ所の部位に近い位置に1枚又は2枚の補強シート4を配置することが、簡便で且つ質量増を抑えつつ、積雪強度の向上効果を効果的に発現させることが出来る。
なお、後述の実施例PP3のように、たわみが最大の2カ所の位置にそれぞれ、レインフォース2に支持させずに補強シート4を貼り付けても積雪強度が向上する。このように補強シート4を部分的に貼り付けても良い。
【0022】
すなわち、複数の補強シート4を、ルーフパネル1の下面に1枚又は2枚以上、部分的に配置し、各補強シート4は、複数のレインフォース2のうちの一つレインフォース2にのみ支持又はレインフォース2に支持されないとする条件を解析条件とする。好ましくは、解析条件を、複数のレインフォース2のうちの一つレインフォース2にのみ支持させる条件とする。そして、複数のレインフォース2で支持されたルーフパネル1に対し、上側から積雪荷重を負荷した際における、上記ルーフパネル1のたわみ分布を求め、たわみ分布に基づき、補強シート4を設けることで上記積雪荷重によるたわみが小さく且つたわみの分布が均一化すると推定される位置を、補強シート4を設ける箇所とするようにしても良い。補強シート4の数は、1枚又は2枚が好ましい。
【0023】
但し、補強シート4をレインフォース2に支持させた方が、車体振動に対する取付け強度が高くなるので好ましい。
ここで、積雪強度は、ルーフパネル1のパネル全体に等分布荷重が付加された状態で、荷重上昇した際にパネルのバックリングが起こる荷重値で評価される。バックリング発生荷重が高い方が、性能は優位、つまり積雪が増えてもパネルが反転しにくいと評価される。
【0024】
なお、似た性能として張り剛性があるが、こちらはある1点に荷重が加わった場合のパネル剛性であるので、その部位のみの対策で良い。ただし、積雪強度はパネル全体にかかる分布荷重に対しての性能であるため、その点が異なる。
そして、本実施形態では、積雪荷重負荷時にパネルのたわみが大きい箇所を見出し、その最大部と2番目に大きい部位の中間の位置でかつレインフォース2と重なる範囲に補強シート4を配することで、質量増を抑えつつ、積雪強度を効果的に向上させることが可能となる。
【0025】
以上のように、本実施形態にあっては、車のデザインに影響されず、パネル裏面に軽量で高剛性な樹脂層4aを有する補強シート4を適切に部分配置することで、部品質量を増加させることなく、ルーフ構造に対し効果的に積雪強度を確保させることが可能となる。
すなわち、本実施形態によれば、ルーフパネル1とレインフォース2の間に対し、部分的に樹脂層4aを有する補強シート4を配置することで、ルーフ構造の質量および部品点数を増加することなく、積雪強度を向上できる。この結果、本実施形態によれば、ルーフパネル1のさらなる薄板化による軽量化を図ることも可能となる。
【実施例】
【0026】
図2に示したルーフ部品を模擬した、投影で1500W×2500L mmの大きさのCAEモデルを設定する。ルーフパネル1の形状は、
図1に示すように、W方向はR5000mm、L方向はR20000mmの2方向に曲率を持つ単純形状とした。パネルの板厚は0.60mmとした。
さらにルーフパネル1の裏面には、実部品を模して、ハット形状のレインフォース2を等間隔で5本配置した(
図2参照)。
図3及び
図4に示すように、レインフォース2の断面形状はハット型で全長同じ断面形状である。
【0027】
ここで、
図6のA−A’断面である
図7に示すように、ルーフパネル1とレインフォース2との間に配されるマスチック接着剤3については、マスチック接着剤3の弾性挙動を反映させるため、マスチック接着剤3を、ヤング率を持つビーム要素として、レインフォース2のフランジと補強シート4との間に設定した。
また、補強シート4は、
図7に示すようにモデル化した。補強シート4はルーフパネル1とマスチック接着剤3との間に配置し、マスチック接着剤3側をシェル要素で、ルーフパネル1側をビーム要素で構成した。この例では、補強シート4が樹脂層のみから構成され、その樹脂層が熱硬化型樹脂からなることを補強シートの条件として設定した。
まず
図6のモデルで積雪荷重を負荷すると、たわみの最大部位が分かる。すなわち、この例では、
図5のように、中央部のレインフォース2の両側がたわみ最大部T1,T2となる。
【0028】
そして、
図9に示すような検討実施モデルを作成した。
「PP無し」は、補強シート4の無いモデルである。
「PP1」は、二つのたわみ最大部の間に位置する中央のレインフォース2に1枚の補強シート4を支持させて配置したモデルである。
「PP2」は、更に、「PP1」に対し、たわみ最大部以外にも2枚の補強シート4を配置したモデルである。
「PP3」は、レインフォース2の無い部位であって最大たわみ部に配置したモデルである。
【0029】
以上の4つの検討実施モデルについて評価を実施した。
評価は積雪負荷解析にて行った。負荷は、ルーフパネル1全面を対象に、車両高さ方向に平行に等分布荷重を下向きに負荷した。
そして、ルーフパネル1が反転した後の最大たわみ部における変位と負荷荷重の曲線にて評価した。積雪強度の優劣は、パネル変位が急激に増加する荷重(バックリング荷重)の高低で評価した。
図10にその結果を示す。
【0030】
図10から分かるように、2つのたわみ最大部に1枚だけ補強シート4を配置した場合が、最も反転荷重が高く、積雪強度性能に最も優れることが分かる。
PP2とPP3は、ほぼ同程度の積雪強度性能となっているが、PP1の方が優れており、補強シート4の数は少ない方が好ましいことが分かる。なお、PP2の場合には、たわみが大きくない部分も補強シート4で補強してしまい、剛性の分布がその分、PP1に比べて若干悪くなっている。
ただし、いずれの場合も補強シート4を貼り付けることで、積雪強度が向上しているので、軽量化を考えると、少ない枚数で積雪強度性能を向上させることが好ましいことが分かる。すなわち、設ける補強シート4は2枚以下、好ましくは1枚で適切な配置位置を求めることが好ましい。