(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような試料中の目的物質を分離・精製する場合において、通常、作業者は、管状デバイスの外部で磁性体粒子及び試料を混合し、この混合物(混合液)を管状デバイス内に導入している。そのため、磁性体粒子と試料を混合するための容器を準備する必要や、混合作業を別途行う必要があり、作業が煩雑化するという不具合があった。
【0007】
そこで、予め管状デバイス内の液体層内(最上部の液体層内)に磁性体粒子を入れておき、使用時において、その管状デバイス内に試料を導入する方法が考えられる。このようにすれば、混合用の容器の準備や、混合作業を省くことができる。このような方法を用いる場合には、管状デバイス内に磁性体粒子を導入した状態で、その管状デバイスを保管する必要がある。しかし、内部に磁性体粒子を導入した状態で管状デバイスを保管すると、液体層内の磁性体粒子の一部が、その自重によって、ゲル状媒体層の表面に吸着したり、ゲル状媒体層に埋没したりする。このようなゲル状媒体層に接触した磁性体粒子は、管状デバイスの使用時において、ゲル状媒体層に保持されたままで、その表面に目的物質を固定させることができなくなってしまう。すなわち、ゲル状媒体層に接触した磁性体粒子は、管状デバイスの使用時において、目的物質の分離・精製に寄与することができなくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、作業者の作業を簡易化でき、かつ、目的物質の分離・精製に寄与しない磁性体粒子の発生を抑制できる磁性体粒子操作用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る磁性体粒子操作用デバイスは、ゲル状媒体層及び液体層が長手方向に交互に重層されるとともに磁性体粒子が充填される内部空間が形成された管状の容器を備える。前記容器内には、磁性体粒子を含む液体が装填され、試料が導入される試料導入空間と、ゲル状媒体層及び液体層が前記長手方向に交互に重層され、前記試料導入空間内の試料に含まれる目的成分を前記磁性体粒子に固定させて前記長手方向に移動させる試料移動空間とが形成される。前記容器における前記試料導入空間の外側には、磁石が接触又は接近している。
【0010】
このような構成によれば、磁性体粒子操作用デバイスの保管中は、試料導入空間内の磁性体粒子は、磁石の磁力によって、試料導入空間における当該磁石と対向する位置で凝集されて保持される。
そのため、磁性体粒子操作用デバイスの保管中において、磁性体粒子がゲル状媒体層と接触することを防ぐことができる。
【0011】
また、磁性体粒子操作用デバイスを使用する際は、磁石を容器から遠ざけることにより、磁性体粒子を液体層内で分散させることができる。そして、この状態の磁性体粒子操作用デバイス内に試料を導入すれば、試料導入空間における液体層内において試料と磁性体粒子とを円滑に混合できる。そして、磁性体粒子に目的物質を固定させることができる。
【0012】
そのため、磁性体粒子操作用デバイスの外部において磁性体粒子と試料とを混合し、その混合物(混合液)を磁性体粒子操作用デバイス内に導入するという一連の作業を省くことができる。また、磁性体粒子は、保管中においてゲル状媒体層と接触しないため、磁性体粒子のほぼ全てを、目的物質の分離・精製に用いることができる。
【0013】
このように、本発明に係る磁性体粒子操作用デバイスによれば、作業者の作業を簡易化でき、かつ、目的物質の分離・精製に寄与しない磁性体粒子の発生を抑制できる。
【0014】
(2)また、前記容器における前記試料導入空間が形成されている部分の内面には、前記磁石に対向する位置に窪みが形成されていてもよい。
【0015】
このような構成によれば、試料導入空間内の磁性体粒子は、磁石の磁力によって、容器の内面に形成された窪みの内方において凝集される。
そのため、磁性体粒子を容器の窪みで保持することができる。
その結果、磁性体粒子操作用デバイスの保管中において、磁性体粒子を液体層内で安定的に保持できる。
【0016】
(3)また、前記容器には、磁場印加部を対向させて前記長手方向に移動させる対向面が形成されていてもよい。前記窪みは、前記容器の内面における前記対向面側とは異なる位置に形成されていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、容器に沿って磁場印加部を移動させる際に、容器の窪みが磁場印加部の移動の妨げになることを防止できる。
また、磁性体粒子が液体層内で分散された後においては、磁場印加部の磁力によって、磁性体粒子を容器の窪みから離間させることができる。
そのため、容器に沿って磁場印加部を移動させる際に、磁性体粒子が容器の窪み内に残留することを抑制できる。
【0018】
(4)また、前記磁石は、前記試料導入空間内の液体の液面よりも低い位置において、前記容器に接触又は接近していてもよい。
【0019】
このような構成によれば、磁性体粒子操作用デバイスの保管中において、磁性体粒子を液体層内に保持できる。
そのため、磁性体粒子操作用デバイスの保管中において、磁性体粒子が液体層の外部に露出して乾燥することを防止できる。
【0020】
(5)また、前記磁石は、前記容器における前記試料導入空間の外側に、着脱可能に取り付けられていてもよい。
【0021】
このような構成によれば、磁石を容器に装着することで、磁石の磁力によって、容器の液体層内において磁性体粒子を保持できる。そして、磁石を容器から離脱させることで、磁性体粒子を液体層内で分散させることができる。
【0022】
(6)また、前記磁石は、前記容器に貼り付けられたシール部材により取り付けられていてもよい。
【0023】
このような構成によれば、簡易な構成で、磁石を容器に対して着脱させることができる。
【0024】
(7)また、前記容器は、本体と、キャップとを備えてもよい。前記本体には、前記試料導入空間及び前記試料移動空間が形成される。前記キャップは、前記本体に対して着脱可能であり、前記試料導入空間を開閉する。前記シール部材は、前記本体及び前記キャップに跨って貼り付けられていてもよい。
【0025】
このような構成によれば、作業者が、キャップを容器から取り外すためにシール部材を剥がす動作を行うと、その動作に伴って、磁石が容器から離脱される。
そのため、磁石を容器から離脱させるための一連の動作を簡易なものにできる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、試料導入空間内の磁性体粒子は、磁石の磁力によって、試料導入空間における当該磁石と対向する位置で凝集されて保持される。そのため、磁性体粒子操作用デバイスの保管中において、磁性体粒子がゲル状媒体層と接触することを防ぐことができ、磁性体粒子のほぼ全てを、目的物質の分離・精製に用いることができる。また、磁性体粒子操作用デバイスを使用する際は、磁石を容器から遠ざけることにより、磁性体粒子を液体層内で分散させることができる。このように、本発明に係る磁性体粒子操作用デバイスによれば、作業者の作業を簡易化でき、かつ、目的物質の分離・精製に寄与しない磁性体粒子の発生を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.磁性体粒子操作用デバイスの構成
(1)磁性体粒子操作用デバイスの内部構成
図1は、本発明の第1実施形態に係る磁性体粒子操作用デバイス1の構成例を示した正面図である。この磁性体粒子操作用デバイス1(以下、「デバイス1」という。)は、液体試料から目的物質を抽出・精製するためのものであり、一直線上に延びる管状の容器20を備えている。
【0029】
容器20内には、複数の液体層11と複数のゲル状媒体層12が形成されている。具体的には、容器20の最下部に液体層11が形成され、上方に向かって長手方向にゲル状媒体層12と液体層11とが交互に重層されている。この例では、4つの液体層11と3つのゲル状媒体層12が長手方向(上下方向)に交互に形成された構成となっているが、これに限られるものではなく、液体層11及びゲル状媒体層12の数は任意に設定可能である。
【0030】
容器20の最上部の液体層11は、目的物質を含む液体試料であり、後述するように、多数の磁性体粒子13が装填されている。容器20の最上部の液体層11は、目的物質を磁性体粒子13に固定させるための固定層11Aである。容器20の最下部の液体層11は、液体試料中の目的物質を溶出させるための溶出層11Cである。容器20の中間部の1つ又は複数(この例では2つ)の液体層11は、液体試料に含まれる夾雑物を除去するための洗浄層11Bである。これらの各液体層11は、ゲル状媒体層12によって互いに分離されている。液体試料に含まれる目的物質は、固定層11Aにおいて磁性体粒子13に固定された上で、磁場を変化させることによって容器20の最上部から最下部まで移動させる操作(粒子操作)が行われ、その間に洗浄層11Bによって洗浄された上で、最下部の溶出層11Cに溶出される。
【0031】
磁性体粒子13は、その表面又は内部に、核酸や抗原等の目的物質を特異的に固定可能な粒子である。容器20の最上部の液体層11(固定層11A)中で磁性体粒子13を分散させることにより、この液体層11中に含まれる目的物質が磁性体粒子13に選択的に固定される。
なお、目的物質が生体試料の細胞中に含まれるものの場合には、固定層11Aには、細胞溶解のための液が封入される。例えば、血液試料中の核酸を目的物質とする場合には、固定層11Aに、カオトロピック剤が含まれることが好ましい。
【0032】
磁性体粒子13への目的物質の固定方法は特に限定されず、物理吸着、化学吸着等の各種公知の固定化メカニズムが適用可能である。例えば、ファンデルワールス力、水素結合、疎水相互作用、イオン間相互作用、π−πスタッキング等の種々の分子間力により、磁性体粒子13の表面あるいは内部に目的物質が固定される。
【0033】
磁性体粒子13の粒径は1mm以下が好ましく、0.1μm〜500μmがより好ましく、3〜5μmがさらに好ましい。磁性体粒子13の形状は、粒径が揃った球形が望ましいが、粒子操作が可能である限りにおいて、不規則な形状で、ある程度の粒径分布を持っていてもよい。磁性体粒子13の構成成分は単一物質でもよく、複数の成分からなるものでもよい。
【0034】
磁性体粒子13は、磁性体のみからなるものでもよいが、磁性体の表面に目的物質を特異的に固定するためのコーティングが施されたものが好ましく用いられる。磁性体としては、鉄、コバルト、ニッケル、ならびにそれらの化合物、酸化物及び合金等が挙げられる。具体的には、マグネタイト(Fe3O4)、ヘマタイト(Fe2O3又はαFe2O3)、マグヘマイト(γFe2O3)、チタノマグネタイト(xFe2TiO4・(1−x)Fe3O4)、イルメノヘマタイト(xFeTiO3・(1−x)Fe2O3)、ピロタイト(Fe1−xS(x=0〜0.13)‥Fe7S8(x〜0.13))、グレイガイト(Fe3S4)、ゲータイト(αFeOOH)、酸化クロム(CrO2)、パーマロイ、アルコニ磁石、ステンレス、サマリウム磁石、ネオジム磁石、バリウム磁石が挙げられる。
【0035】
磁性体粒子13に選択的に固定される目的物質としては、例えば、核酸、タンパク質、糖、脂質、抗体、受容体、抗原、リガンド等の生体由来物質や細胞自身が挙げられる。目的物質が生体由来物質である場合は、分子認識等により、磁性体粒子13の内部あるいは粒子表面に目的物質が固定されてもよい。例えば、目的物質が核酸である場合は、磁性体粒子13として、表面にシリカコーティングが施された磁性体粒子等が好ましく用いられる。目的物質が、抗体(例えば、標識抗体)、受容体、抗原及びリガンド等である場合、磁性体粒子13の表面のアミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、アピジン、ピオチン、ジゴキシゲニン、プロテインA、プロテインG等により、目的物質を粒子表面に選択的に固定できる。特定の目的物質を選択的に固定可能な磁性体粒子13として、例えば、ライフテクノロジーズから販売されているDynabeads(登録商標)や、東洋紡から販売されているMagExtractor(登録商標)等の市販品を用いることもできる。
【0036】
目的物質が核酸である場合、洗浄液(洗浄層11B)は、核酸が磁性体粒子13の表面に固定された状態を保持したまま、液体試料中に含まれる核酸以外の成分(例えばタンパク質、糖質等)や、核酸抽出等の処理に用いられた試薬等を洗浄液中に遊離させ得るものであればよい。洗浄液(洗浄層11B)としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム等の高塩濃度水溶液、エタノール、イソプロパノール等のアルコール水溶液等が挙げられる。
【0037】
核酸を溶出するための溶出液(溶出層11C)としては、水又は低濃度の塩を含む緩衝液を用いることができる。具体的には、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、蒸留水等を用いることができ、pH7〜9に調整された5〜20mMトリス緩衝液を用いることが一般的である。核酸が固定された磁性体粒子13を溶出液中で分散させることにより、核酸溶出液中に核酸を遊離溶出させることができる。回収された核酸は、必要に応じて濃縮や乾固等の操作を行った後、分析や反応等に供することができる。
【0038】
ゲル状媒体層12は、粒子操作前においてゲル状又はペースト状である。ゲル状媒体層12は、隣接する液体層11に対して不溶性又は難溶性であり、化学的に不活性な物質からなることが好ましい。ここで、液体に不溶性又は難溶性であるとは、25℃における液体に対する溶解度が概ね100ppm以下であることを意味する。化学的に不活性な物質とは、液体層11との接触や磁性体粒子13の操作(すなわち、ゲル状媒体層12中で磁性体粒子13を移動させる操作)において、液体層11、磁性体粒子13や磁性体粒子13に固定された物質に、化学的な影響を及ぼさない物質を指す。
【0039】
ゲル状媒体層12の材料や組成等は、特に限定されず、物理ゲルであってもよいし、化学ゲルであってもよい。例えば、WO2012/086243号に記載されているように、非水溶性又は難水溶性の液体物質を加熱し、加熱された当該液体物質にゲル化剤を添加し、ゲル化剤を完全に溶解させた後、ゾル・ゲル転移温度以下に冷却することで、物理ゲルが形成される。
【0040】
(2)磁性体粒子操作用デバイスの容器の形状
デバイス1の容器20は、直線状に形成される管状の容器である。詳しくは後述するが、容器20は、通常、その長手方向が上下方向に沿う状態で使用される。容器20は、膨出部21と、直線部22とを備えている。
【0041】
膨出部21は、容器20の最上部に配置されている。膨出部21は、他の部分よりも内径及び外径が大きい。膨出部21の上面は開口部となっており、膨出部21に対して着脱可能なキャップ30により当該開口部を封止することができる。膨出部21の内部空間が、試料導入空間の一例である。すなわち、キャップ30は、試料導入空間を開閉するためのものである。膨出部21には、上記した液体層11(固定層11A)が、装填される。膨出部21の詳細な構成については、後述する。
【0042】
直線部22は、膨出部21の下方に配置されている。直線部22は、上下方向に延びる筒状に形成されており、上端から下端にわたって同一の形状のまま(直線状に)延びている。図示しないが、直線部22の背面は、前後方向及び上下方向と直交する方向である幅方向に沿う平坦面状に形成されており、上下方向に延びている。すなわち、直線部22の背面は、面一に形成されている。直線部22には、上記した洗浄層11B、溶出層11C及びゲル状媒体層12が装填されている。具体的には、直線部22には、洗浄層11Bとゲル状媒体層12とが上下方向において交互に装填されており、それらの下方に、溶出層11Cが装填されている。最上部のゲル状媒体層12は、膨出部21の固定層11Aの下方に配置されており、固定層11Aに隣接している。最下部のゲル状媒体層12の下方には、溶出層11Cが配置されており、ゲル状媒体層12と溶出層11Cとは隣接している。この例では、直線部22において、2つの洗浄層11Bと、1つの溶出層11Cと、3つのゲル状媒体層12とが配置されている。
【0043】
直線部22の下端(容器20の底面)には、開口が形成されており、当該開口がフィルム部材40により封止されている。直線部22の最下部の液体層11(溶出層11C)である溶出液中に溶出された目的物質は、フィルム部材40を貫通させるようにしてピペットを溶出液中に挿入することにより、当該ピペット内に吸い出すことができる。フィルム部材40は、例えば、アルミなどにより形成されるが、これに限られるものではない。直線部22の内部空間が、試料移動空間の一例である。
【0044】
容器20内への液体層11及びゲル状媒体層12の装填は、適宜の方法により行い得る。本実施形態のように管状の容器20が用いられる場合、装填に先立って容器20の一端(例えば下端)の開口が封止され、他端(例えば上端)の開口部から液体層11及びゲル状媒体層12が順次装填されることが好ましい。
【0045】
容器20における各部の容量、すなわち、容器20内に装填される液体層11及びゲル状媒体層12の容量は、操作対象となる磁性体粒子13の量や、操作の種類等に応じて適宜に設定され得る。
【0046】
本実施形態のように容器20内に複数の液体層11及びゲル状媒体層12が設けられる場合、各部(各層)の容量は同一でもよいし、異なっていてもよい。各部(各層)の厚みも適宜に設定され得る。操作性等を考慮した場合、各部(各層)の厚みは、例えば2mm〜20mm程度が好ましい。
【0047】
容器20の肉厚は特に限定されるものではないが、操作用磁石130(後述する)と対向する背面側において肉厚が一定であれば、操作用磁石130と容器20の内周面との距離を一定に保つことができるため、磁性体粒子13をスムーズに移動できる。そのため、容器20の肉厚は、背面側において、少なくともゲル状媒体層12が装填された部分で一定であることが好ましい。容器20の長さは特に限定されず、一例として、50mm〜200mm程度でよい。
【0048】
容器20の材料は、容器20内で磁性体粒子13を移動可能であり、液体層11及びゲル状媒体層12を保持できるものであれば、特に限定されない。容器20外から磁場を変化させる操作(磁場操作)を行うことにより容器20内の磁性体粒子13を移動させるためには、プラスチック等の透磁性材料が好ましく、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、テトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン等の樹脂材料が挙げられる。容器20の材質としては、上述の素材の他、セラミック、ガラス、シリコーン、非磁性金属等も用いられ得る。容器20の内壁面の撥水性を高めるために、フッ素系樹脂やシリコーン等によるコーティングが行われてもよい。
【0049】
(3)膨出部及びその周辺の部材の詳細構成
図2は、磁性体粒子操作用デバイス1のA−A断面図である。
デバイス1において、膨出部21は、上下方向に延びる筒状に形成されている。膨出部21の前面211には、鉛直面211Aと、テーパ面211Bとが含まれている。膨出部21の背面212は、幅方向に沿う平坦面状に形成されており、上下方向に延びている。すなわち、膨出部21の背面212は、面一に形成されている。膨出部21の背面212が、対向面の一例である。
鉛直面211Aは、前面211における上部及び中央部の部分であって、上下方向に延びている。鉛直面211Aには、突出部211Cが形成されている。
【0050】
突出部211Cは、鉛直面211Aから前方に向かって突出している。突出部211Cは、側面視台形状に形成されている。これにより、突出部211Cの内面(後方側の面)には、前方に向かって凹む窪み211Dが形成されている。このように、窪み211Dは、背面212と異なる位置であって、背面212と対向する位置に形成されている。窪み211Dの上端部は、下方に向かうにつれて前方に向かうように傾斜しており、窪み211Dの下端部は、下方に向かうにつれて後方に向かうように傾斜している。
【0051】
テーパ面211Bは、前面211における下部の部分であって、鉛直面211Aの下方に配置されている。テーパ面211Bは、鉛直面211Aの下端に連続し、下方に向かうにつれて後方に向かうように傾斜している。
【0052】
膨出部21の鉛直面211Aには、シール部材50が貼付されている。シール部材50は、鉛直面211Aの突出部211Cの全面を覆っている。シール部材50と突出部211Cとの間には、保持用磁石60が介在している。すなわち、保持用磁石60は、鉛直面211Aに張り付けられたシール部材50によって、膨出部21(容器20)の外側に取り付けられている。
【0053】
保持用磁石60は、永久磁石であって、平板状に形成されている。保持用磁石60は、突出部211Cの前方側の面をほぼ覆うようにして、突出部211Cに当接している。すなわち、保持用磁石60は、窪み211Dと対向している。
【0054】
膨出部21の内部には、上記したように液体層11(固定層11A)が装填されており、さらに、多数の磁性体粒子13が装填されている。保持用磁石60は、膨出部21内の液体層11(固定層11A)の液面よりも低い位置に配置されている。磁性体粒子13は、保持用磁石60の磁力によって、液体層11(固定層11A)内であって、膨出部21の窪み211D内に凝集されている。
【0055】
このように、デバイス1では、膨出部21(突出部211C)の外側には、保持用磁石60が配置されており、保持用磁石60の磁力によって、膨出部21内の磁性体粒子13が、窪み211D内に凝集されている。デバイス1は、この状態を保って保管される。すなわち、デバイス1は、その内部に磁性体粒子13が導入され、かつ、磁性体粒子13が最上部の液体層11(固定層11A)において一定位置(窪み211D)で保持される状態で、保管される。
【0056】
2.磁性体粒子操作用装置
図3は、磁性体粒子操作用装置100の構成例を示した正面図である。この磁性体粒子操作用装置100(以下、「装置100」という。)は、
図1及び
図2に示すデバイス1が固定された状態で使用され、デバイス1の容器20内の液体試料に含まれる目的物質に対して粒子操作を行うためのものである。
【0057】
装置100には、デバイス1を保持する容器保持部110が形成された本体101と、容器保持部110に保持されているデバイス1の容器20を押圧して固定するための容器押圧部102とを備えている。この例では、容器押圧部102が、本体101に対してヒンジ(図示せず)により回動可能に取り付けられた扉により構成されている。ただし、容器押圧部102は、容器保持部110に保持されているデバイス1を固定可能な構成であれば、本体101に対して回動可能な構成に限らず、本体101に対してスライド可能な構成や、本体101に対して着脱可能な構成などであってもよい。
【0058】
容器保持部110は、本体101の前面120に形成された凹部により構成されている。容器保持部110は、デバイス1の膨出部21を収容する第1収容部111と、デバイス1の直線部22を収容する第2収容部112とが、上下方向D1に連続して延びるように形成されている。また、容器保持部110は、容器20が延びる方向(上下方向D1)に対して直交し、本体101の前面120に平行な方向である横方向D2の幅が、デバイス1に対応する幅となっている。
【0059】
具体的には、第1収容部111の横方向D2の幅W1は、デバイス1の膨出部21の幅よりも若干大きい。一方、第2収容部112の横方向D2の幅W2は、デバイス1の直線部22の幅よりも若干大きく、膨出部21の幅よりも小さい。また、第1収容部111及び第2収容部112は、上下方向D1に対して傾斜した絞り部113により接続されている。これにより、容器保持部110内にデバイス1を収容した状態では、デバイス1の膨出部21が容器保持部110の絞り部113に引っ掛かり、吊り下げられた状態で保持されるようになっている。
【0060】
図示しないが、デバイス1は、その長手方向が上下方向に沿い、その前面(膨出部21の前面211、及び、直線部の前面)が前方を向き、その背面(膨出部21の背面212、及び、直線部22の背面)が後方を向くようにして、容器保持部110内に収容される。
この状態で、容器押圧部102を構成する扉を閉じることにより、装置100内においてデバイス1が固定される。
【0061】
容器保持部110の背面側は開口しており、容器保持部110に対向するように操作用磁石130が配置されている。操作用磁石130は、永久磁石であって、上下方向D1に沿ってスライド可能に保持されている。操作用磁石130は、デバイス1内(容器20内)に分散された磁性体粒子13を磁力で引き付ける。これにより、容器20内で分散された磁性体粒子13が容器20の背面側に集められる。このようにして磁性体粒子13を操作用磁石130側に引き付けた状態で、操作用磁石130を上下方向D1に移動させることにより、容器20内の磁性体粒子13を上下方向D1に移動させることができる。
【0062】
このように、操作用磁石130は、磁場を変化させることにより容器20内の磁性体粒子13を移動させる磁場印加部を構成している。操作用磁石130は、モータ等の駆動手段によりスライドさせてもよいし、手動でスライドさせてもよい。磁場印加部が有する磁力源としては、操作用磁石130を用いる以外に電磁石を用いることも可能である。また、磁場印加部は、複数の磁力源を有してもよい。
【0063】
3.磁性体粒子の操作
図4は、磁性体粒子13を操作する際の態様について説明するための模式図であって、磁性体粒子13が容器20内において凝集されてから、磁性体粒子13が容器20内で分散されるまでの状態が示されている。
図5は、磁性体粒子13を操作する際の態様について説明するための模式図であって、磁性体粒子13が容器20内で分散されてから、磁性体粒子13が容器20の下方に移動されるまでの状態が示されている。なお、
図4及び
図5では、説明を分かりやすくするために、デバイス1(容器20)の形状を簡略化して示している。
図4及び
図5では、容器20の前面側が左方を向き、容器20の背面側が右方を向いた状態を示している。
【0064】
図4Aでは、上記したように、デバイス1において、容器20のの最上部(膨出部21)の液体層11(固定層11A)に、多数の磁性体粒子13が含まれた状態が示されている。
図4Aでは、上記したように、容器20の突出部211Cの外面にシール部材50が貼付されており、このシール部材50によって保持用磁石60が突出部211Cの外側で保持されている。また、容器20内において、磁性体粒子13は、保持用磁石60の磁力によって、突出部211Cの窪み211D内に凝集されている。すなわち、
図4Aは、デバイス1が保管されている状態、又は、デバイス1が保管された状態から取り出された状態を示している。
【0065】
図4Aに示す状態から、作業者は、容器20のキャップ30(
図1参照)を取り外し、
図4Bに示すように、容器20の上面の開口から、液体試料を内部に導入する。
【0066】
さらに、作業者は、
図4Cに示すように、シール部材50を引っ張り、容器20の突出部211Cからシール部材50を剥がす。すると、シール部材50とともに、保持用磁石60から容器20から離間する。このように、保持用磁石60は、シール部材50を容器20に貼付することで、容器20に装着され、シール部材50を容器20からを剥がすことで、容器20から離脱(離間)される。
【0067】
すると、保持用磁石60の磁力が容器20の膨出部21内に作用しなくなり、突出部211Cの窪み211D内に凝集されていた磁性体粒子13が、膨出部21内に分散する。上記したように、窪み211Dの上端部及び下端部は、傾斜している。そのため、磁性体粒子13は、窪み211D内に残留することなく、円滑に膨出部21内に分散する。
【0068】
そして、
図5Dに示すように、膨出部21内の全域に磁性体粒子13が分散すると、固定層11A中に含まれる目的物質が磁性体粒子13に選択的に固定される。
【0069】
なお、
図4A〜
図4C、及び、
図5Dまでのデバイス1に対する操作は、デバイス1が装置100に固定される前に行われてもよいし、デバイス1が装置100に固定された状態で行われてもよい。
図5E及び
図5Fに示す状態では、デバイス1は、装置100内に固定されている。
【0070】
その後、
図5Eに示すように、膨出部21の背面212に、磁力源である操作用磁石130が近付けられる。そして、目的物質が固定された磁性体粒子13が、磁場の作用により、容器20内の操作用磁石130側に集められる。これにより、磁性体粒子13は、窪み211Dから完全に離間し、膨出部21の背面212側に集められる。そして、
図5Fに示すように、操作用磁石130が容器20の外周面に沿って容器20の長手方向(上下方向)に移動されると、磁場の変化に追随して、磁性体粒子13も容器20の長手方向に沿って移動し、交互に重層された液体層11及びゲル状媒体層12を順次移動する。
【0071】
次いで、操作用磁石130が容器20の先端部に対向する位置まで移動されると、磁性体粒子13が溶出層11Cに移動する。そして、溶出層11Cにおいて、目的物質が溶出される。
【0072】
このように、液体層11内で磁性体粒子13を分散させ、磁性体粒子13を液体層11内の液体と接触させることにより、磁性体粒子13への目的物質の固定、磁性体粒子13の表面に付着している夾雑物を除去するための洗浄操作、磁性体粒子13に固定されている目的物質の液体中への溶出等の操作が行われる。
【0073】
このとき、磁性体粒子13の周囲に液滴として物理的に付着している液体の大半は、磁性体粒子13がゲル状媒体層12の内部に進入する際に、磁性体粒子13の表面から脱離する。ゲル状媒体層12内への磁性体粒子13の進入及び移動により、ゲル状媒体層12が穿孔されるが、ゲルの復元力による自己修復作用により、ゲル状媒体層12の孔は直ちに塞がれる。そのため、磁性体粒子13による貫通孔を介したゲル状媒体層12への液体の流入は、ほとんど生じない。
【0074】
また、磁性体粒子13は、容器20内を移動する際には、膨出部21の背面212、及び、直線部22の背面に沿って移動する。すなわち、磁性体粒子13は、容器20の面一の部分に沿って移動する。そのため、容器20内部において磁性体粒子13を円滑に移動させることができる。
【0075】
4.作用効果
(1)本実施形態によれば、
図2に示すように、デバイス1において、膨出部21(試料導入空間)の外面には、保持用磁石60が当接している。
【0076】
そのため、デバイス1の保管中は、膨出部21(試料導入空間)内の磁性体粒子13は、保持用磁石60の磁力によって、試料導入空間における保持用磁石60と対向する位置で凝集されて保持される。
そのため、デバイス1の保管中において、磁性体粒子13がゲル状媒体層12と接触することを防ぐことができる。
【0077】
また、デバイス1を使用する際は、保持用磁石60を容器20から遠ざけることにより、磁性体粒子13を液体層11(固定層11A)内で分散させることができる。そして、この状態の容器20内に試料を導入すれば、液体層11(固定層11A)内において試料と磁性体粒子13とを円滑に混合できる。そして、磁性体粒子13に目的物質を固定させることができる。
【0078】
その結果、デバイス1の外部において磁性体粒子13と試料とを混合し、その混合物(混合液)をデバイス1内に導入するという一連の作業を省くことができる。また、磁性体粒子13は、保管中においてゲル状媒体層12と接触しないため、磁性体粒子13のほぼ全てを、目的物質の分離・精製に用いることができる。
このように、本実施形態によれば、作業者の作業を簡易化でき、かつ、目的物質の分離・精製に寄与しない磁性体粒子13の発生を抑制できる。
【0079】
(2)また、本実施形態によれば、
図2に示すように、デバイス1において、膨出部21(試料導入空間が形成されている部分)の内面には、保持用磁石60の対向する位置に窪み211Dが形成されている。
【0080】
そのため、膨出部21内の磁性体粒子13は、保持用磁石60の磁力によって、膨出部21の内面に形成された窪み211Dの内方において凝集される。
その結果、磁性体粒子13を膨出部21の窪み211Dで保持することができる。
よって、デバイス1の保管中において、磁性体粒子13を液体層11(固定層11A)内で安定的に保持できる。
【0081】
(3)また、本実施形態によれば、
図2に示すように、デバイス1において、膨出部21の背面は、面一な形状の対向面として形成されている。デバイス1において、窪み211Dは、膨出部21の背面212と異なる位置であって、背面212と対向する位置に形成されている。
【0082】
そのため、
図5に示すように、操作用磁石130を容器20に沿って移動させる際に、窪み211Dが操作用磁石130の移動の妨げになることを防止できる。
また、磁性体粒子13が液体層11(固定層11A)内で分散された後においては、操作用磁石130の磁力によって、磁性体粒子13を窪み211Dから離間させることができる。
そのため、容器20に沿って操作用磁石130を移動させる際に、磁性体粒子13が窪み211D内に残留することを抑制できる。
【0083】
(4)また、本実施形態によれば、
図2に示すように、デバイス1において、保持用磁石60は、膨出部21内の液体層11(固定層11A)の液面よりも低い位置であって、突出部211Cと対向する位置に配置されている。
【0084】
そのため、デバイス1の保管中において、磁性体粒子13を液体層11(固定層11A)内に保持できる。
その結果、デバイス1の保管中において、磁性体粒子13が液体層11(固定層11A)の外部に露出して乾燥することを防止できる。
【0085】
(5)また、本実施形態によれば、
図4に示すように、デバイス1において、保持用磁石60は、容器20に対して着脱可能に取り付けられている。
【0086】
そのため、保持用磁石60を容器20に装着することで、保持用磁石60の磁力によって、容器20の液体層内において磁性体粒子13を保持できる。そして、保持用磁石60を容器20から離脱させることで、磁性体粒子13を液体層11(固定層11A)内で分散させることができる。
【0087】
(6)また、本実施形態によれば、
図2に示すように、保持用磁石60は、容器20に貼り付けられたシール部材50により、容器20に取り付けられている。
【0088】
そのため、簡易な構成で、保持用磁石60を容器20に対して着脱させることができる。
【0089】
5.第2実施形態
以下では、
図6を用いて、本発明の第2実施形態に係る磁性体粒子操作用デバイス1の構成について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、上記と同様の符号を用いることにより説明を省略する。
図6は、本発明の第2実施形態に係る磁性体粒子操作用デバイス1の構成例を示した断面図である。
【0090】
上記した第1実施形態では、シール部材50は、容器20(膨出部21)の前面211(鉛直面211A)に貼付される。対して、第2実施形態では、シール部材50は、容器20及びキャップ30に貼付される。
【0091】
具体的には、第2実施形態では、デバイス1において、シール部材50は、未開封確認用のシールとしても用いられる。シール部材50は、保持用磁石60を介在させて容器20の鉛直面211Aに貼付されるとともに、容器20及びキャップ30に跨って貼付される。シール部材50の一端部は、キャップ30の上面に貼付されている。デバイス1は、この状態で保管される。
【0092】
作業者は、シール部材50が容器20及びキャップ30に跨って貼付されていることを確認することで、デバイス1が未開封であることを確認する。
そして、デバイス1を使用する際は、作業者は、キャップ30を容器20から取り外すために(磁性体粒子操作用デバイス1を使用するために)、まず、シール部材50を容器20から剥がす。
すると、シール部材50とともに保持用磁石60が容器20から離間する。そして、容器20内において、磁性体粒子13が分散される。
【0093】
このように、第2実施形態のデバイス1によれば、作業者が、キャップ30を容器20から取り外すために(磁性体粒子操作用デバイス1を使用するために)シール部材50を剥がす動作を行うと、その動作に伴って、保持用磁石60が容器20から離脱(離間)される。換言すれば、作業者は、磁性体粒子操作用デバイス1を使用するための通常の作業である未開封確認用シールの取り外しの作業を行うことで、その作業によって、保持用磁石60を容器20から離間させることができる。
そのため、保持用磁石60を容器20から離脱させるための一連の動作を簡易なものにできる。
【0094】
6.変形例
上記した実施形態では、容器20において、直線部22には、液体層11として洗浄層11B及び溶出層11Cが装填されるとして説明した。しかし、容器20において、直線部22には、目的物に対して所定の反応を生じさせるための反応層が装填されていてもよい。また、膨出部21及び直線部22には、液体層11及びゲル状媒体層12が3層で重層されてもよい。さらには、直線部22には、液体層11及びゲル状媒体層12が3層で重層されてもよい。例えば、容器20において、膨出部21に固定層11Aが充填され、直線部22にゲル状媒体層12及び溶出層11Cが充填されてもよい。この場合、直線部22では、上方側にゲル状媒体層12が位置し、下方側に溶出層11Cが位置する。
【0095】
また、上記した実施形態では、保持用磁石60は、永久磁石であるとして説明した。しかし、保持用磁石60は、電磁石であってもよい。
【0096】
また、上記した実施形態では、保持用磁石60は、膨出部21の外面に当接された状態で保持されるとして説明した。しかし、保持用磁石60は、膨出部21の外面に接近された状態で保持されてもよい。例えば、保持用磁石60は、デバイス1を保管するための保管用容器に固定されており、デバイス1を保管用容器で保管する状態で、保持用磁石60が膨出部21に接近するものであってもよい。
【0097】
また、上記した実施形態では、保持用磁石60は、シール部材50が容器20に貼付されることで、容器20に取付けられるとして説明した。しかし、保持用磁石60は、シール部材50以外の他の構成により、容器20に取り付けられてもよい。例えば、保持用磁石60又は保持用磁石60を保持する部材に係合部を設け、膨出部21の外面に被係合部を設け、係合部と被係合部とを係合させることにより、保持用磁石60を容器20に着脱可能に取り付けてもよい。