(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
鋭意検討した結果、本願発明者は、特定の構造によって、三点曲げ試験における特性が向上することを新たに見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。この明細書において、「断面」という用語は、特に記載がない限り、プレス成形品(P)が延びる方向(長手方向)に垂直な断面を意味する。
【0014】
(自動車用の構造部材)
本実施形態の構造部材は、自動車用の構造部材である。この構造部材は、1枚の鋼板で形成された開断面のプレス成形品を含む。これらの構造部材およびプレス成形品をそれぞれ、以下では「構造部材(S)」および「プレス成形品(P)」と称する場合がある。
【0015】
プレス成形品(P)は、2つの縦壁部と、2つの縦壁部を結ぶ天板部と、を含む。天板部の少なくとも一部には、天板部から続く鋼板が重ね合わされて突出している突出部が形成されている。当該突出部を、以下では「突出部(Q)」と称する場合がある。突出部(Q)は、プレス成形品(P)の内側に向かうように、且つ、プレス成形品(P)の長手方向に沿って延びるように、天板部から突出している。
【0016】
プレス成形品(P)の内側とは、2つの縦壁部、天板部、および、2つの縦壁部の端部を結ぶ仮想の面によって囲まれた領域を意味する。
【0017】
プレス成形品(P)は、1枚の鋼板(素材鋼板)を変形させることによって形成できる。材料となる素材鋼板については後述する。
【0018】
突出部(Q)を除くプレス成形品(P)の断面は、底部がほぼ平らなU字状の部分を含んでもよい。プレス成形品(P)が後述するフランジ部を含む場合、突出部(Q)を除くプレス成形品(P)の断面は、略ハット状であってもよい。
【0019】
衝突安全性および軽量化の観点から、プレス成形品(P)を構成する鋼板の引張強度は高いことが好ましい。鋼板の引張強度は340MPa以上(たとえば、490MPa以上、590MPa以上、780MPa以上、980MPa以上、または1200MPa以上)であってもよい。引張強度の上限に限定はなく、2500MPa以下であってもよい。
【0020】
通常、プレス成形品(P)は、全体としては細長い形状を有する。縦壁部、天板部、および後述するフランジ部は、いずれもプレス成形品(P)の長手方向に沿って延びている。突出部(Q)は、プレス成形品(P)の長手方向全体にわたって形成されていてもよいし、プレス成形品(P)の長手方向の一部のみに形成されていてもよい。
【0021】
天板部は、2つの縦壁部を連結する。別の観点では、天板部は、2つの縦壁部を連結する横壁部である。そのため、この明細書において、天板部を横壁部と読み替えることが可能である。横壁部(天板部)を下方に向けてプレス成形品(P)を配置した場合、横壁部を底板部と呼ぶことも可能である。しかし、この明細書では、横壁部を上方に配置した場合を基準として、横壁部を天板部と称する。
【0022】
天板部と縦壁部とがなす角度は、通常、90°またはその近傍である。当該角度は、90°未満であってもよいが、通常は90°以上であり、90°〜150°の範囲にあってもよい。2つの縦壁部のそれぞれと天板部とがなす2つの角度は、異なっていてもよいが、ほぼ同じ(両者の差が10°以内)であることが好ましく、同じであってもよい。
【0023】
突出部(Q)で重ね合わされている鋼板同士は通常、密着している。それら鋼板同士の間に隙間があったとしてもごく狭い隙間であり、隙間の間隔はたとえば1mm以下であり、好ましくは0.5mm以下である。従来のプレス成形品には、天板部に溝状の凹部が形成されているものがあるが、本実施形態の突出部(Q)は、溝状の凹部とは異なる。
【0024】
通常、天板部には、突出部(Q)が1つだけ形成される。ただし、複数の突出部(Q)が天板部に形成されてもよい。通常、突出部(Q)は、天板部に対して垂直に突出するように形成される。
【0025】
突出部(Q)の幅WQは、縦壁部の高さHTの0.05〜0.95倍の範囲にあってもよいし、0.05〜1.50の範囲にあってもよい。当該倍率が1.0より大きい場合は、幅WQが縦壁部の高さHTよりも大きい。幅WQおよび高さHTについては、
図2で説明する。
【0026】
突出部(Q)は、天板部の幅方向の中央に形成されていてもよい。あるいは、突出部(Q)は、天板部の幅方向の中央ではない位置に形成されていてもよい。
【0027】
天板部の幅を幅WTとし、突出部(Q)が天板部の幅方向の中央CTから距離Lだけ離れているとする。このとき、距離Lは、幅WTの0.05〜0.45倍の範囲にあってもよい。幅WTおよび距離Lについては、
図3で説明する。
【0028】
突出部(Q)で重ね合わされている鋼板同士は固定されていてもよい。たとえば、突出部(Q)で重ね合わされている鋼板同士は溶接されていてもよいし、他の方法で固定されていてもよい。溶接の例には、抵抗スポット溶接、レーザー溶接、およびアーク溶接が含まれる。
【0029】
プレス成形品(P)は、2つの縦壁部の端部から延びる2つのフランジ部を含んでもよい。この場合、突出部(Q)を除くプレス成形品(P)の断面は、たとえば略ハット状である。フランジ部は通常、天板部とほぼ平行な方向に延びる。
【0030】
本実施形態の構造部材(S)は、他の部材をさらに含んでもよい。当該他の部材を、以下では、「部材(M)」または「他の部材(M)」と称する場合がある。部材(M)は、プレス成形品(P)に固定されている。部材(M)の固定方法に限定はなく、溶接であってもよいし、他の固定方法であってもよい。溶接の例には、上述した例が含まれる。
【0031】
部材(M)は、プレス成形品と部材(M)とが閉断面を構成するように、プレス成形品(P)に固定されていてもよい。換言すれば、部材(M)が、開断面のプレス成形品(P)の開口部を閉じてもよい。たとえば、プレス成形品と部材(M)とが閉断面を構成するように、部材(M)がプレス成形品(P)の2つのフランジ部に固定されていてもよい。別の観点では、プレス成形品(P)と部材(M)とが中空体を構成するように、プレス成形品(P)の2つのフランジ部に部材(M)が固定されていてもよい。
【0032】
部材(M)は、金属板であってもよく、たとえば鋼板であってもよい。部材(M)は、プレス成形品(P)を構成する鋼板と同種の鋼板で形成されてもよい。部材(M)は、裏板と呼ばれるような板状の部材であってもよいし、プレス成形された成形品であってもよい。たとえば、部材(M)は、2つのフランジ部を有するプレス成形品(P)と同種の形状を有してもよい。その場合、プレス成形品(P)の2つのフランジ部と、部材(M)の2つのフランジ部とを固定できる。
【0033】
本実施形態の構造部材(S)は、バンパー、サイドシル、センターピラー、Aピラー、ルーフレール、ルーフアーチ、ベルトラインレインフォースメント、またはドアインパクトビームであってもよい。あるいは、構造部材(S)は、自動車用の他の構造部材であってもよい。
【0034】
(自動車用の構造部材の製造方法)
本実施形態の製造方法について以下に説明する。この製造方法は、本実施形態の構造部材(S)を製造する方法である。なお、本実施形態の構造部材(S)について説明した事項は、本実施形態の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。同様に、本実施形態の製造方法について説明した事項は、本実施形態の構造部材(S)に適用できる。
【0035】
本実施形態の製造方法は、第1工程と第2工程とを含む。第1工程は、2つの縦壁部となる2つの第1の部分、天板部となる2つの第2の部分、および突出部となる第3の部分を含む予備成形品を、1枚の素材鋼板を変形させることによって形成する工程である。典型的には、予備成形品において、第1〜第3の部分の間には明確な境界がない。しかし、それらの間に何らかの境界があってもよい。第1工程に特に限定はなく、公知のプレス成形によって行ってもよい。
【0036】
第2工程は、予備成形品をプレス成形することによって2つの縦壁部と天板部と突出部とを形成する工程である。第3の部分は、2つの第2の部分の間に配置され、且つ、2つの第2の部分よりも予備成形品の内側に向かって膨らんでいる。ここで、「予備成形品の内側」は、上述したプレス成形品(P)の内側に対応する領域を意味する。
【0037】
第2工程は、工程(i)と工程(ii)とを含む。工程(i)は、第3の部分を挟むように、予備成形品の内側に2つの可動パンチを配置する工程である。一例では、2つの可動パンチは、第1の部分および第2の部分に沿うように配置される。
【0038】
工程(ii)は、2つの可動パンチを2つの第1の部分の外側から押すことによって、2つの可動パンチで第3の部分を挟んで突出部を形成する工程である。このようにして第2工程が実施され、プレス成形品(P)が得られる。第2工程によって得られたプレス成形品(P)は、さらに後処理されてもよい。
【0039】
以下では、出発材料である鋼板(素材鋼板)を「ブランク」と称する場合がある。ブランクは通常、平板状の鋼板であり、形成されるプレス成形品(P)の形状に応じた平面形状を有する。ブランクの厚さおよび物性は、プレス成形品に求められる特性に応じて選択される。ブランクの厚さは、たとえば0.4mm〜4.0mmの範囲にあってもよく、0.8mm〜2.0mmの範囲にあってもよい。プレス成形品(P)の肉厚は、ブランクの厚さと加工工程とによって決まり、ここで例示したブランクの厚さの範囲にあってもよい。
【0040】
ブランクは、引張強度が340MPa以上(たとえば、490MPa以上、590MPa以上、780MPa以上、980MPa以上、または1200MPa以上)の高張力鋼板(ハイテン材)であることが好ましい。構造部材の軽量化を図るためには、ブランクの引張強度が高いことが好ましく、590MPa以上(たとえば980MPa以上、または1180MPa以上)であることがより好ましい。ブランクの引張強度の上限に限定はなく、一例では2500MPa以下である。プレス成形品(P)の引張強度は、通常はブランクの引張強度と同等かそれよりも高く、ここで例示した範囲にあってもよい。部材(M)が鋼板からなる場合には、その鋼板の厚さおよび引張強度も、上記の例示範囲から選択することが可能である。
【0041】
素材鋼板(ブランク)の引張強度が590MPa以上である場合、第2工程がホットスタンピング(熱間プレス)によって行われてもよい。ブランクの引張強度が高い場合、冷間プレスでは突出部の先端部で割れが生じやすくなる。そのため、引張強度が590MPa以上(たとえば780MPa以上)のブランクを用いる場合には、第2工程をホットスタンピングによって行うことが好ましい。もちろん、引張強度が590MPa未満のブランクを用いる場合でも、第2工程をホットスタンピングによって行ってもよい。ホットスタンピングを行う場合、それに適した公知の組成を有するブランクを用いてもよい。
【0042】
ブランクの引張強度が590MPa以上で肉厚が1.4mm以上の場合には、突出部で割れが生じることを抑制するために、第2工程をホットスタンピングで行うことが特に好ましい。同様の理由で、ブランクの引張強度が780MPa以上で肉厚が0.8mm以上である場合には、第2工程をホットスタンピングで行うことが特に好ましい。加熱した鋼板は延性が高くなるため、第2工程をホットスタンピングで行う場合、ブランクの肉厚が3.2mmであっても割れが生じることが少ない。
【0043】
第1工程での変形は、通常、それほど大きくはない。そのため、ブランクの引張強度とは無関係に、第1工程は、通常、冷間加工(たとえば冷間プレス)で行うことができる。冷間加工を行うことによって、プレス成形品を精度よく成形することができる。また、冷間加工を行うことによって、ブランクを加熱する工程が省略でき、生産効率が高まる。ただし、必要に応じて第1工程を熱間加工(たとえばホットスタンピング)で行ってもよい。第1工程および第2工程のうち少なくとも第2工程がホットスタンプであることが好ましい。好ましい一例では、第1工程を冷間加工で行い、第2工程をホットスタンピングで行う。
【0044】
ホットスタンピングの一例について以下に説明する。ホットスタンピングを行う場合、まず、被加工物(ブランクまたは予備成形品)を所定の焼入れ温度まで加熱する。焼入れ温度は、被加工物がオーステナイト化するA3変態点(より具体的にはAc3変態点)よりも高い温度であり、たとえば910℃以上であってもよい。次に、加熱した被加工物を、プレス装置でプレスする。被加工物は加熱されているため、大きく変形させても割れが生じにくい。被加工物をプレスする際に被加工物を急冷する。この急冷によって、プレス加工の際に被加工物が焼入れされる。被加工物の急冷は、金型を冷却したり、金型から被加工物に向けて水を噴出させたりすることによって実施できる。ホットスタンピングの手順(加熱およびプレス等)およびそれに用いられる装置に特に限定はなく、公知の手順および装置を用いてもよい。
【0045】
以下では、本実施形態について図面を参照しながら説明する。以下で説明する実施形態は例示であり、以下の実施形態の構成の少なくとも一部を、上述した構成に置き換えることができる。以下の図面では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。さらに、以下の図面では、理解を容易にするために突出部で重ね合わされている鋼板の間に隙間を図示する場合があるが、通常、突出部で重ね合わされている鋼板同士は密着している。同様に、固定されている2枚の鋼板の間に隙間を図示する場合がある。
【0046】
(第1実施形態)
第1実施形態では、構造部材(S)の一例について説明する。第1実施形態の構造部材100の斜視図を
図1に模式的に示す。さらに、構造部材100の長手方向に垂直な断面図を、
図2に模式的に示す。なお、以下では、
図2における上方(天板部側)をプレス成形品の上方と称し、
図2における下方(フランジ部側)をプレス成形品の下方と称する場合がある。
図1および
図2に示す一例では、構造部材(S)がプレス成形品(P)のみからなり、プレス成形品(P)がフランジ部を含む。しかし、本実施形態の構造部材(S)は、他の部材(M)を含んでもよいし、フランジ部を含まなくてもよい。
【0047】
構造部材100(構造部材(S))は、プレス成形品110(プレス成形品(P))を含む。プレス成形品110は、1枚の鋼板で形成されている。プレス成形品110は、2つの縦壁部111と、2つの縦壁部を結ぶ天板部112と、を含む。天板部112には、天板部112から続く鋼板が重ね合わされて突出している突出部113(突出部(Q))が形成されている。プレス成形品110は、さらに、2つの縦壁部111の端部から延びる2つのフランジ部114を含む。
【0048】
プレス成形品110が2つのフランジ部114を含むことで、天板部112に荷重が負荷された際、フランジ部114近傍の縦壁部111の部材外側への倒れ込みを抑制する効果がある。換言すると、プレス成形品110にフランジ部114が無ければ、縦壁部111全体が部材外側に倒れ込み、プレス成形品110の強度が高まりにくい。つまり、プレス成形品110がサイドシル等である場合、衝突特性が高まりにくい。
【0049】
突出部113は、プレス成形品110の内側に向かうように、且つ、プレス成形品110の長手方向に沿って延びるように、天板部112から突出している。突出部113は、天板部112の略中央部から、天板部112に対して略垂直に突出している。
【0050】
突出部113の幅WQ(天板部112から突出部113が突出している長さ)と縦壁部111の高さHTとは、上述した関係(比率)を満たしてもよい。ここで、縦壁部111の高さHTは、
図2に示すように、縦壁部111の端部から天板部112までの長さである。
【0051】
図1および
図2には、突出部113が、天板部112の略中央に形成されている一例を示している。しかし、
図3に示すように、天板部112の中央ではない位置に突出部113が形成されていてもよい。
図3に示す突出部113は、天板部112の幅方向の中央CTから距離Lだけ離れている。
【0052】
構造部材100は、プレス成形品110に加えて他の部材120(他の部材(M))を含んでもよい。他の部材120を含む構造部材の例を、
図4Aから
図4Fに示す。
図4Aから
図4Fに示す構造部材100では、プレス成形品110と部材120とが閉断面を構成するように、部材120がプレス成形品110に固定されている。
【0053】
図4Aに示す構造部材100は、板状の部材120を含む。部材120は、プレス成形品110の2つのフランジ部114に固定されている。
【0054】
図4Bに示す構造部材100は、断面が略ハット状の部材120を含む。部材120はプレス成形品であり、2つのフランジ部124を含む。プレス成形品110の内側と部材120の内側とが対向するように、プレス成形品110のフランジ部114と部材120のフランジ部124とが固定されている。
【0055】
図4Bに示した断面を有する構造部材100の一例の斜視図を
図4Cに示し、他の一例の斜視図を
図4Dに示す。
図4Cの一例では、突出部113が、プレス成形品110の長手方向の全体にわたって形成されている。
図4Dの一例では、突出部113が、プレス成形品110の長手方向の一部のみに形成されている。
【0056】
図4Eに示す構造部材100は、2つのプレス成形品110を含む。2つのプレス成形品110のうちの一方を、他の部材120とみなすことが可能である。2つのプレス成形品110の内側同士が対向するように、2つのプレス成形品110のフランジ部114同士が固定されている。
【0057】
図4Fに示す構造部材100のプレス成形品110は、フランジ部114を有さない。部材120は、2つの縦壁部121とそれらの縦壁部を結ぶ天板部122とを含む。
図4Fに示す一例では、縦壁部に対する天板部の方向が同じ方向となるように、プレス成形品110の縦壁部111と部材120の縦壁部121とが固定されている。
【0058】
図4A〜
図4Fでは、突出部113が天板部112の中央部に形成されている例を図示した。しかし、
図3に示したように、突出部113は天板部112に中央部以外の位置に形成されてもよい。
【0059】
(第2実施形態)
第2実施形態では、本実施形態の製造方法の一例について説明する。第2実施形態では
図1および
図2に示したプレス成形品110を製造する一例について説明するが、他のプレス成形品110も同様に製造できる。構造部材100が部材120を含む場合には、プレス成形品110に任意の方法で部材120を固定すればよい。
【0060】
プレス成形品110の製造方法を以下に説明する。まず、1枚の素材鋼板を変形させることによって、
図5に示す予備成形品210を形成する(第1工程)。予備成形品210は、2つの縦壁部111となる第1の部分211、天板部112となる2つの第2の部分212、突出部113となる第3の部分213、および2つのフランジ部114となる2つの第4の部分214を含む。第3の部分213は、2つの第2の部分212の間に配置され、且つ、2つの第2の部分212よりも予備成形品210の内側に向かって膨らんでいる。予備成形品210は、一般的なプレス成形によって形成できる。
【0061】
次に、予備成形品210をプレス成形することによって2つの縦壁部111と天板部112と突出部113とを形成する(第2工程)。この第2工程について、以下に説明する。
【0062】
第2工程で用いられるプレス成形装置300を、
図6Aに示す。プレス成形装置300は、2つの可動パンチ301、2つのスライド型302、上型303、およびプレート304を含む。可動パンチ301は、プレート304上を水平方向にスライドする。スライド型302も、水平方向に移動する。スライド型302は、上型303の下降によって駆動されるカム機構によって動かされてもよい。あるいは、スライド型302は、油圧シリンダなどのアクチュエータによって動かされてもよい。
【0063】
第2工程では、まず、
図6Aに示すように、プレス成形装置300に予備成形品210を配置する(工程(i))。工程(i)において、可動パンチ301は、第3の部分213を挟むように、予備成形品210の内側に配置される。
図6Aの一例では、2つの可動パンチ301は、第1の部分211および第2の部分212に沿うように配置されている。
【0064】
次に工程(ii)が行われる。工程(ii)の途中の状態を
図6Bに示し、工程(ii)の終了時の状態を
図6Cに示す。
図6Bおよび
図6Cに示すように、2つの可動パンチ301を2つの第1の部分211の外側から押すことによって、2つの可動パンチ301で第3の部分213を挟んで突出部113を形成する(工程(ii))。スライド型302によって第1の部分211を押すことによって、可動パンチ301が押される。このとき、第1の部分211は、可動パンチ301とスライド型302とに挟まれた状態で移動する。
【0065】
図6Cに示すように、2つの可動パンチ301で挟まれた第3の部分213は、重ね合わされて突出部113となる。なお、工程(ii)を実施する際に、
図6Cに示すように上型303を下降させて天板部112となる第2の部分212を押圧する。
【0066】
以上のようにして、プレス成形品110が製造される。なお、第2工程をホットスタンピングによって行う場合には、第2工程の前に予備成形品210を所定の温度まで加熱する。この加熱は、たとえば、予備成形品210を加熱装置内で加熱することによって行われる。そして、プレス成形装置300でプレス成形する際に、予備成形品210をプレスするとともに冷却する。このようにして、プレス成形と焼入れとが行われる。この場合、プレス成形装置300のプレス型には、冷却可能なプレス型が用いられる。そのようなプレス型は公知である。あるいは、プレス型から水を噴出させることによって冷却を行ってもよい。
【0067】
プレス成形品110が複数の突出部113を含む場合、予備成形品210は、突出部113の数に対応する第3の部分213を含む。この場合、3つ以上の可動パンチを用いればよい。隣接する2つの可動パンチで挟まれた第3の部分213が突出部113となる。
【実施例】
【0068】
本発明について、実施例によってより詳細に説明する。
【0069】
(実施例1)
実施例1では、本実施形態の構造部材(S)について、三点曲げ試験のシミュレーションを行った。シミュレーションには、汎用のFEM(有限要素法)ソフト(LIVERMORE SOFTWARE TECHNOLOGY社製、商品名LS−DYNA)を用いた。
【0070】
実施例1でシミュレーションに用いた本発明例のサンプル2の断面図を
図7Aに示す。
図7Aの構造部材100は、プレス成形品110と、そのフランジ部114に溶接された板状の部材120とからなる。
図7Aに示したサンプル2のサイズは以下の通りである。なお、サンプル2において、突出部113は、天板部112の中央に形成されており、且つ、プレス成形品110の長手方向の全体にわたって形成されている。
【0071】
・突出部の幅WQ:15mm
・縦壁部の高さHT:60mm
・2つの縦壁部間の距離(天板部の幅)WT:80mm
・部材120の幅:120mm
・コーナー部RaおよびRbにおける曲率半径:5mm
・長手方向の長さ:800mm
【0072】
本発明例のサンプル3の断面図を、
図7Bに示す。サンプル3は、突出部113を構成する鋼板同士が溶接部113aで溶接されている点のみがサンプル2とは異なる。
【0073】
また、比較例として、
図7Cに模式的に示すサンプル1および
図7Dに模式的に示すサンプル4を仮定した。サンプル1は、プレス成形品10と、プレス成形品10のフランジ部14に溶接された板状の部材20とからなる。プレス成形品10は、2つの縦壁部11と、それらを結ぶ天板部12と、フランジ部14とを含む。プレス成形品10の天板部12にも、プレス成形品10の内側に向かって突出している突出部13が形成されている。しかし、突出部13を構成する鋼板は重ね合わされておらず、突出部13は全体として溝状の形状を有する。サンプル1のサイズを
図7Cに示す。なお、
図7Cの符号Rは、曲率半径を示す。サンプル4は、ロールフォーミングにより成形された中空閉断面の部材を想定した。したがって、サンプル4は、1つの鋼板からなる。ロールフォーミング品40の天板部12の中央には突出部13が形成されており、且つ、ロールフォーミング品40の長手方向の全体にわたって形成されている。ロールフォーミング品40の突出部の形状は、本発明例のサンプル2と同じとした。
【0074】
サンプル1〜4は、厚さが1.4mmで引張強度が1500MPaである鋼板からなるものであると仮定した。プレス成形品(プレス成形品110、10)のフランジ部と他の部材(部材120、20)とは、スポット溶接(ピッチ:40mm)によって固定したと仮定した。そして、スポット溶接部の破壊および材料破断を考慮してシミュレーションを行った。サンプル4(ロールフォーミング品40)は継目無しとした。
【0075】
シミュレーションで用いた三点曲げ試験の方法を
図8に模式的に示す。三点曲げ試験は、2つの支点1にサンプルを載せ、インパクタ2によって上方から(各サンプルの天板部側から)サンプルを押すことによって行った。インパクタ2の衝突方向を、
図7A〜
図7Dのそれぞれに矢印で示す。
【0076】
三点曲げ試験において、2つの支点1の間の距離Sは400mmとした。支点1の曲率半径は30mmとした。インパクタ2の曲率半径は150mmとした。インパクタ2の衝突速度は7.5km/hとした。インパクタ2の幅(
図8の紙面に垂直な方向の長さ)は、サンプルの天板部の幅よりも大きくした。
【0077】
シミュレーション結果を、
図9および
図10に示す。なお、サンプル4のシミュレーション結果は
図10にのみ示す。
図9の横軸は変位量を示す。ここで、変位量は、インパクタ2がサンプルに接触してからのインパクタ2の移動距離である。
図9の縦軸は、インパクタ2に生じた荷重を示す。さらに、
図10には、荷重の最大値を示す。
【0078】
図10に示すように、本発明例のサンプル2および3は、比較例のサンプル1および4に比べて、最大荷重が大きかった。これは、衝突に対する耐性が高いことを示している。
【0079】
変位量が40mmのときのサンプル1(比較例)およびサンプル2(本発明例)の断面形状を
図11Aおよび
図11Bにそれぞれ示す。
図11Aに示すサンプル1の断面において、突出部13の底部と部材20との距離は21.6mmであった。
図11Bに示すサンプル2の断面において、天板部112と部材120との距離は29.5mmであった。この結果は、サンプル2の断面二次モーメントが大きいことを示している。すなわちこの結果は、比較例のサンプル1に比べて本実施例のサンプル2の方が衝突に対する耐性が高いことを示唆している。