【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置は、目的化合物を含む試料をクロマトグラフ質量分析装置により測定することで収集されたデータに基づいて、該目的化合物に由来する所定の質量電荷比を有するターゲットイオンとそれとは異なる質量電荷比を有する一又は複数の確認イオンとについてそれぞれ抽出イオンクロマトグラムを作成し、それら抽出イオンクロマトグラム上のピークを利用して前記目的化合物を定量するクロマトグラフ質量分析データ処理装置において、
a)測定により収集された前記データに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い
、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記ターゲットイオン用の検量線を参照して定量値を算出するターゲットイオン利用定量計算部と、
b)前記データに基づいて、前記目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い
、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記一又は複数の確認イオン用の検量線をそれぞれ参照して定量値
を算出する確認イオン利用定量計算部と、
c)前記目的化合物の定量分析結果として、前記ターゲットイオン利用定量計算部により得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形
、前記確認イオン利用定量計算部により得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形
、並びに、前記ターゲットイオン利用定量計算部及び前記確認イオン利用定量計算部においてそれぞれの定量計算の際に参照された前記ターゲットイオン用の検量線及び前記一又は複数の確認イオン用の検量線、を同一画面上に配置した表示画像を形成して表示部の画面上に表示させる表示処理部と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムは、コンピュータを用い、目的化合物を含む試料をクロマトグラフ質量分析装置により測定することで収集されたデータに基づいて、該目的化合物に由来する所定の質量電荷比を有するターゲットイオンとそれとは異なる質量電荷比を有する一又は複数の確認イオンとについてそれぞれ抽出イオンクロマトグラムを作成し、それら抽出イオンクロマトグラム上のピークを利用して前記目的化合物を定量するクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムであって、
a)測定により収集された前記データに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い
、既知濃度の目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記ターゲットイオン用の検量線を参照して定量値を算出するターゲットイオン利用定量計算ステップと、
b)前記データに基づいて、前記目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い
、既知濃度の目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記一又は複数の確認イオン用の検量線をそれぞれ参照して定量値
を算出する確認イオン利用定量計算ステップと、
c)前記目的化合物の定量分析結果として、前記ターゲットイオン利用定量計算ステップにおいて得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形
、前記確認イオン利用定量計算ステップにおいて得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形
、並びに、前記ターゲットイオン利用定量計算部及び前記確認イオン利用定量計算部においてそれぞれの定量計算の際に参照された前記ターゲットイオン用の検量線及び前記一又は複数の確認イオン用の検量線、を同一画面上に配置した表示画像を形成して表示部の画面上に表示させる表示処理ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【0014】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置及びクロマトグラフ質量分析データ処理プログラムにおいて「クロマトグラフ質量分析装置」は、ガスクロマトグラフ質量分析装置又は液体クロマトグラフ質量分析装置である。
【0015】
また、「クロマトグラフ質量分析装置」における質量分析装置は、通常の質量分析のみが可能である質量分析装置、MS/MS分析が可能である質量分析装置のいずれでもよい。前者の場合、典型的には質量分析装置は四重極型質量分析装置であり、その場合、ターゲットイオンや確認イオンは選択イオンモニタリング(SIM)測定における選択対象のイオンつまり質量電荷比値である。後者の場合、典型的には質量分析装置はトリプル四重極型質量分析装置又は四重極−飛行時間型質量分析装置(q−TOF MS)であり、その場合、ターゲットイオンや確認イオンはMRM測定における選択対象のMRMトランジションつまりプリカーサイオンとプロダクトイオンの質量電荷比値の組である。
【0016】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムをコンピュータで実行することにより具現化される本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置では、例えば定量分析対象であるデータが格納されている一又は複数のデータファイルがユーザにより指定されると、ターゲットイオン利用定量計算部は、上記データファイルに格納されているデータに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成する。そして、その抽出イオンクロマトグラム上で目的化合物に対応する、つまりは目的化合物の保持時間付近に観測されるピークの例えば面積値を計算し、その面積値をそのターゲットイオン用の検量線に照らして定量値を算出する。これは、従来のクロマトグラフ質量分析データ処理装置で実施されている一般的な定量値の算出手法である。
【0017】
一方、確認イオン利用定量計算部は、上記データファイルに格納されているデータに基づいて、上記ターゲットイオンと同様に、目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成する。そして、その確認イオン毎の抽出イオンクロマトグラム上で目的化合物に対応するピークの例えば面積値を計算し、その面積値をそれぞれの確認イオン用の検量線に照らして定量値を算出する。即ち、一般的には定量に用いられない確認イオンを用いて定量値を算出する。
【0018】
なお、ターゲットイオン用の検量線及び確認イオン用の検量線はそれぞれ、絶対検量線法(外部標準法)又は内部標準法により作成すればよい。例えば絶対検量線法により検量線を作成する場合には、定量分析対象である未知試料の測定に先立って又はその測定の直後に、濃度を複数段階に変化させた目的化合物を含む複数の標準試料の測定を行い、その測定で得られたデータに基づいて作成される抽出イオンクロマトグラム上のピークの面積又は高さから、濃度とピーク面積又は高さの関係を示す検量線を作成すればよい。ターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを用いればターゲットイオン用の検量線を、確認イオンの抽出イオンクロマトグラムを用いれば確認イオン用の検量線を作成することができる。
【0019】
目的化合物についてのターゲットイオンを用いた定量分析結果と確認イオンを用いた定量分析結果とが得られると、表示処理部は、その複数の定量分析結果とそれぞれの定量値の計算に用いられた複数の抽出イオンクロマトグラムのピーク波形とを、同一画面上に配置した表示画像を形成する。ここで、複数の抽出イオンクロマトグラムのピーク波形は表示画面上で縦又は横に並べて表示してもよいし、同じグラフ枠内にピーク波形を重ねて表示してもよいし、或いは、複数のピーク波形を同じグラフ枠内でスタック状にずらして表示してもよい。いずれにしても、異なる定量値を算出する際の元となったピーク波形の形状が視覚的に比較し易いように表示すればよい。そして、こうして形成した表示画像を表示部の画面上に表示し、ユーザに提示する。
【0020】
これにより、目的化合物のターゲットイオンを用いた定量分析結果と、本来は定量を目的としたものではない確認イオンを用いた定量分析結果とが、表示部の同一画面上に一度に表示される。また、その際に、定量計算に利用された抽出イオンクロマトグラムのピーク波形が併せて表示される。ピークに目的化合物以外の夾雑物の重なりがあったり、ベースラインに異常な変動があったりすると、多くの場合、ユーザがピーク波形を見れば、それを認識することができる。したがって、ユーザは表示された複数のピーク波形を見比べて、ターゲットイオンや確認イオンのいずれが、又は複数の確認イオンのうちのいずれが定量に適切であるのかを容易に且つ的確に判断することができる。
【0021】
ま
た、表示処理部は、目的化合物の定量値及
び抽出イオンクロマトグラムのピーク波形とともに、それぞれの定量計算の際に参照されたターゲットイオン用及び確認イオン用の検量線
も同一画面上に配置
する。
【0022】
検量線を参照して定量値を求める場合、検量線自体の直線性が良好でないと、或いは、検量線を作成する際のプロットのばらつきが大きいと、算出される定量値の信頼性は低いと考えられる。そこで、検量線の形状や検量線と実測のプロットとの関係は、ターゲットイオンや確認イオンのいずれが、又は複数の確認イオンのうちのいずれが定量に適切であるのかを判断するうえでの一つの重要な指標である。
本発明によれば、定量値の算出に利用された検量線が定量分析結果と同じ画面上に表示されるので、ユーザはこの検量線に基づいて定量の的確性を判断することができる。
【0023】
なお、多成分一斉分析のように、一つの試料に含まれる複数の目的化合物の定量を行いたい場合には、目的化合物それぞれについて、上記ターゲットイオン利用定量計算部及び上記確認イオン利用定量計算部による計算を実施し、上記表示処理部は、複数の目的化合物のうち、ユーザにより選択された一つの目的化合物についての定量分析結果を表示するとよい。このとき、複数の目的化合物のうちの一つをクリック操作等により選択可能である一覧表などを上記定量分析結果と同じ画面に表示しておくことで、ユーザは確認したい目的化合物を簡便に選択して、その定量分析結果を視認することができる。