特許第6791373号(P6791373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6791373クロマトグラフ質量分析データ処理装置及びクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791373
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】クロマトグラフ質量分析データ処理装置及びクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20201116BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20201116BHJP
   G01N 27/62 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   G01N30/86 D
   G01N30/72 A
   G01N30/72 C
   G01N27/62 C
   G01N27/62 X
   G01N27/62 Y
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-516746(P2019-516746)
(86)(22)【出願日】2017年5月8日
(86)【国際出願番号】JP2017017358
(87)【国際公開番号】WO2018207228
(87)【国際公開日】20181115
【審査請求日】2019年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 真二
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−512534(JP,A)
【文献】 特開2014−134385(JP,A)
【文献】 特開2011−242255(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0025691(US,A1)
【文献】 国際公開第2017/002156(WO,A1)
【文献】 GC/MS&LC/MS用多検体定量支援ソフトウェア LabSolutions Insight,株式会社島津製作所,2015年10月 2日,URL,http://www.an.shimadzu.co.jp/data-net/labsolutions/insight/index.htm
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 30/72 − 30/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的化合物を含む試料をクロマトグラフ質量分析装置により測定することで収集されたデータに基づいて、該目的化合物に由来する所定の質量電荷比を有するターゲットイオンとそれとは異なる質量電荷比を有する一又は複数の確認イオンとについてそれぞれ抽出イオンクロマトグラムを作成し、それら抽出イオンクロマトグラム上のピークを利用して前記目的化合物を定量するクロマトグラフ質量分析データ処理装置において、
a)測定により収集された前記データに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記ターゲットイオン用の検量線を参照して定量値を算出するターゲットイオン利用定量計算部と、
b)前記データに基づいて、前記目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記一又は複数の確認イオン用の検量線をそれぞれ参照して定量値を算出する確認イオン利用定量計算部と、
c)前記目的化合物の定量分析結果として、前記ターゲットイオン利用定量計算部により得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形、前記確認イオン利用定量計算部により得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形、並びに、前記ターゲットイオン利用定量計算部及び前記確認イオン利用定量計算部においてそれぞれの定量計算の際に参照された前記ターゲットイオン用の検量線及び前記一又は複数の確認イオン用の検量線、を同一画面上に配置した表示画像を形成して表示部の画面上に表示させる表示処理部と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフ質量分析データ処理装置。
【請求項2】
コンピュータを用い、目的化合物を含む試料をクロマトグラフ質量分析装置により測定することで収集されたデータに基づいて、該目的化合物に由来する所定の質量電荷比を有するターゲットイオンとそれとは異なる質量電荷比を有する一又は複数の確認イオンとについてそれぞれ抽出イオンクロマトグラムを作成し、それら抽出イオンクロマトグラム上のピークを利用して前記目的化合物を定量するクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムであって、
a)測定により収集された前記データに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記ターゲットイオン用の検量線を参照して定量値を算出するターゲットイオン利用定量計算ステップと、
b)前記データに基づいて、前記目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記一又は複数の確認イオン用の検量線をそれぞれ参照して定量値を算出する確認イオン利用定量計算ステップと、
c)前記目的化合物の定量分析結果として、前記ターゲットイオン利用定量計算ステップにおいて得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形前記確認イオン利用定量計算ステップにおいて得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形、並びに、前記ターゲットイオン利用定量計算部及び前記確認イオン利用定量計算部においてそれぞれの定量計算の際に参照された前記ターゲットイオン用の検量線及び前記一又は複数の確認イオン用の検量線、を同一画面上に配置した表示画像を形成して表示部の画面上に表示させる表示処理ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC−MS)やガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)等のクロマトグラフ質量分析装置で収集されたデータを処理するクロマトグラフ質量分析データ処理装置、及びそのデータ処理をコンピュータで実行するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
GC−MSやLC−MS等のクロマトグラフ質量分析装置では、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフにおいて試料中に含まれる各種化合物をカラムを通して時間的に分離し、後段の質量分析装置において、その分離された各化合物から生成したイオンを質量電荷比に応じて分離して検出器で検出する。この場合、質量分析装置としては、質量分離器として四重極マスフィルタを用いた四重極型質量分析装置が広く利用されている。また、最近では、夾雑物の排除の効果が高い、トリプル四重極型質量分析装置等のタンデム型質量分析装置が利用されることも多い。
【0003】
こうしたクロマトグラフ質量分析装置を用いて試料に含まれる既知の化合物を定量する場合、通常、その化合物を特徴付けるイオンをターゲットイオンに定め、そのターゲットイオンに対する選択イオンモニタリング(SIM)測定や多重反応モニタリング(MRM)測定を質量分析装置で行う。そして、実測により得られたデータに基づきターゲットイオンについての抽出イオンクロマトグラム(マスクロマトグラムとも呼ばれる)を作成し、該クロマトグラムにおいて目的化合物の保持時間付近に現れるピークの面積値(又はピーク高さ)から該目的化合物の含有量や濃度を算出する。ターゲットイオンとしては、通常、その化合物の典型的なマススペクトルにおいて最大の信号強度を示すピークに対応したイオンが選択される。
【0004】
なお、ターゲットイオンは専ら定量に利用されるため、しばしば定量イオンとも呼ばれるが、本明細書では、ターゲットイオン以外の後述する確認イオンが定量に利用されることもあるため、当初、定量を目的に設定されるイオンをターゲットイオンと称することとする。
【0005】
或る化合物のターゲットイオンは該化合物を特徴付けるイオンではあるものの、実際の試料には様々な夾雑物が混じっていることもあるし、クロマトグラフでの分離条件が適切でないために成分分離が不十分であって複数の化合物が意図せず重なってしまっていることもある。こうした場合、特定の質量電荷比を有するターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラム上のピークだけを見ても、そのピークが確かに目的化合物に由来するものであるか否か、或いは別の化合物が重なっていないか否かを確認することは難しい。そのため、クロマトグラフ質量分析装置による定量分析では一般に、ターゲットイオン以外に、その化合物を特徴付ける質量電荷比を有するイオンを確認イオン(参照イオンと呼ばれることもある)として選定しておく。そして、実測のマススペクトル上でのその確認イオンのピーク(以下、マススペクトル上のピークをクロマトグラム上のピークと区別するために「マスピーク」ということとする)の信号強度とターゲットイオンのマスピークの信号強度との強度比(以下、「確認イオン比」という)を計算し、確認イオン比を利用してそのターゲットイオンが真に目的化合物由来であることの確認、つまりターゲットイオンのピーク同定が行われる(特許文献1、2等参照)。また、構造が類似した複数種の化合物が含まれている可能性がある場合などには、或る化合物のターゲットイオンを正確に同定するのに1種類の確認イオンだけでは不十分であることがあり、一つの化合物に対して複数種(通常は2種類程度)の確認イオンが用いられることもよくある。
【0006】
上述したターゲットイオン及び確認イオンを用いた定量分析は、例えば食品や環境水中の残留農薬の分析など、試料に含まれる多数の化合物を一斉に分析する多成分一斉分析においてしばしば用いられる。こうした分析では、各化合物についてターゲットイオン及び確認イオンを事前に設定しておく必要がある。ターゲットイオン及び確認イオンの設定によっては定量分析結果が大きく異なることがあるため、正確な定量には、ターゲットイオン及び確認イオンを適切に選択することが重要である。
【0007】
上述したように、通常は、最も大きな信号強度が得られるターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラム上のピークの面積値に基づいて定量値を求めるが、該ピークに夾雑物が重なっていると定量に支障をきたす。ターゲットイオンと確認イオンとは一つの化合物由来のイオンであるため、同じような挙動を示す。そこで、上述したようにターゲットイオンに基づく定量が適切でない場合に、ターゲットイオンと確認イオンとの役割を入れ替え、その確認イオンのクロマトグラムピークの面積値に基づいて定量を行う方法が知られている。
【0008】
しかしながら、従来の一般的な定量分析では、予め決められたターゲットイオンと確認イオンの下でピーク同定やピーク面積算出などの演算処理が実施されるため、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えたい場合、条件設定を変更して定量分析をやり直す必要がありかなり手間が掛かる。特に多成分一斉分析では、1回の測定で数十から場合によっては数百にも及ぶ膨大な数の化合物を定量することがあるが、このような多数の化合物について、一つ一つの化合物の条件設定を変更して定量分析をやり直そうとすると多大な時間が掛かってしまう。
【0009】
また、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えて新たな定量分析結果が得られたとしても、入れ替えの前後のいずれの定量分析結果が適切であるのかをユーザ(解析担当者)が判断する必要があるが、複数の定量分析結果を比較するのは容易ではない。さらにまた、その判断によって、やはり入れ替え前の定量分析結果のほうが適切であるとの結論であれば、入れ替えの操作や定量分析のやり直しに要した時間は無駄になるから、定量分析の作業の効率を大きく低下させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2016−133444号公報
【特許文献2】国際公開第2015/189949号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ターゲットイオンと確認イオンとの入れ替えの操作の手間を軽減することができるとともに、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えない場合と入れ替えた場合とで、或いは、複数の確認イオンのうちの一つをそれぞれ定量に用いた場合での定量分析結果の比較やいずれの定量分析結果が最も適切であるのかの判断をユーザが的確且つ簡便に行うことができるクロマトグラフ質量分析データ処理装置及びクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置は、目的化合物を含む試料をクロマトグラフ質量分析装置により測定することで収集されたデータに基づいて、該目的化合物に由来する所定の質量電荷比を有するターゲットイオンとそれとは異なる質量電荷比を有する一又は複数の確認イオンとについてそれぞれ抽出イオンクロマトグラムを作成し、それら抽出イオンクロマトグラム上のピークを利用して前記目的化合物を定量するクロマトグラフ質量分析データ処理装置において、
a)測定により収集された前記データに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記ターゲットイオン用の検量線を参照して定量値を算出するターゲットイオン利用定量計算部と、
b)前記データに基づいて、前記目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の前記目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記一又は複数の確認イオン用の検量線をそれぞれ参照して定量値を算出する確認イオン利用定量計算部と、
c)前記目的化合物の定量分析結果として、前記ターゲットイオン利用定量計算部により得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形、前記確認イオン利用定量計算部により得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形、並びに、前記ターゲットイオン利用定量計算部及び前記確認イオン利用定量計算部においてそれぞれの定量計算の際に参照された前記ターゲットイオン用の検量線及び前記一又は複数の確認イオン用の検量線、を同一画面上に配置した表示画像を形成して表示部の画面上に表示させる表示処理部と、
を備えることを特徴としている。
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムは、コンピュータを用い、目的化合物を含む試料をクロマトグラフ質量分析装置により測定することで収集されたデータに基づいて、該目的化合物に由来する所定の質量電荷比を有するターゲットイオンとそれとは異なる質量電荷比を有する一又は複数の確認イオンとについてそれぞれ抽出イオンクロマトグラムを作成し、それら抽出イオンクロマトグラム上のピークを利用して前記目的化合物を定量するクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムであって、
a)測定により収集された前記データに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記ターゲットイオン用の検量線を参照して定量値を算出するターゲットイオン利用定量計算ステップと、
b)前記データに基づいて、前記目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成し、該クロマトグラム上の前記目的化合物に対応するピークの面積又は高さを用い、既知濃度の目的化合物を含む標準試料を測定することで得られたデータに基づいて作成された前記一又は複数の確認イオン用の検量線をそれぞれ参照して定量値を算出する確認イオン利用定量計算ステップと、
c)前記目的化合物の定量分析結果として、前記ターゲットイオン利用定量計算ステップにおいて得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形前記確認イオン利用定量計算ステップにおいて得られた前記目的化合物の定量値及びその計算に用いられた抽出イオンクロマトグラムのピーク波形、並びに、前記ターゲットイオン利用定量計算部及び前記確認イオン利用定量計算部においてそれぞれの定量計算の際に参照された前記ターゲットイオン用の検量線及び前記一又は複数の確認イオン用の検量線、を同一画面上に配置した表示画像を形成して表示部の画面上に表示させる表示処理ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【0014】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置及びクロマトグラフ質量分析データ処理プログラムにおいて「クロマトグラフ質量分析装置」は、ガスクロマトグラフ質量分析装置又は液体クロマトグラフ質量分析装置である。
【0015】
また、「クロマトグラフ質量分析装置」における質量分析装置は、通常の質量分析のみが可能である質量分析装置、MS/MS分析が可能である質量分析装置のいずれでもよい。前者の場合、典型的には質量分析装置は四重極型質量分析装置であり、その場合、ターゲットイオンや確認イオンは選択イオンモニタリング(SIM)測定における選択対象のイオンつまり質量電荷比値である。後者の場合、典型的には質量分析装置はトリプル四重極型質量分析装置又は四重極−飛行時間型質量分析装置(q−TOF MS)であり、その場合、ターゲットイオンや確認イオンはMRM測定における選択対象のMRMトランジションつまりプリカーサイオンとプロダクトイオンの質量電荷比値の組である。
【0016】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムをコンピュータで実行することにより具現化される本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置では、例えば定量分析対象であるデータが格納されている一又は複数のデータファイルがユーザにより指定されると、ターゲットイオン利用定量計算部は、上記データファイルに格納されているデータに基づいて、目的化合物について予め定められているターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを作成する。そして、その抽出イオンクロマトグラム上で目的化合物に対応する、つまりは目的化合物の保持時間付近に観測されるピークの例えば面積値を計算し、その面積値をそのターゲットイオン用の検量線に照らして定量値を算出する。これは、従来のクロマトグラフ質量分析データ処理装置で実施されている一般的な定量値の算出手法である。
【0017】
一方、確認イオン利用定量計算部は、上記データファイルに格納されているデータに基づいて、上記ターゲットイオンと同様に、目的化合物について予め定められている一又は複数の確認イオンの抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成する。そして、その確認イオン毎の抽出イオンクロマトグラム上で目的化合物に対応するピークの例えば面積値を計算し、その面積値をそれぞれの確認イオン用の検量線に照らして定量値を算出する。即ち、一般的には定量に用いられない確認イオンを用いて定量値を算出する。
【0018】
なお、ターゲットイオン用の検量線及び確認イオン用の検量線はそれぞれ、絶対検量線法(外部標準法)又は内部標準法により作成すればよい。例えば絶対検量線法により検量線を作成する場合には、定量分析対象である未知試料の測定に先立って又はその測定の直後に、濃度を複数段階に変化させた目的化合物を含む複数の標準試料の測定を行い、その測定で得られたデータに基づいて作成される抽出イオンクロマトグラム上のピークの面積又は高さから、濃度とピーク面積又は高さの関係を示す検量線を作成すればよい。ターゲットイオンの抽出イオンクロマトグラムを用いればターゲットイオン用の検量線を、確認イオンの抽出イオンクロマトグラムを用いれば確認イオン用の検量線を作成することができる。
【0019】
目的化合物についてのターゲットイオンを用いた定量分析結果と確認イオンを用いた定量分析結果とが得られると、表示処理部は、その複数の定量分析結果とそれぞれの定量値の計算に用いられた複数の抽出イオンクロマトグラムのピーク波形とを、同一画面上に配置した表示画像を形成する。ここで、複数の抽出イオンクロマトグラムのピーク波形は表示画面上で縦又は横に並べて表示してもよいし、同じグラフ枠内にピーク波形を重ねて表示してもよいし、或いは、複数のピーク波形を同じグラフ枠内でスタック状にずらして表示してもよい。いずれにしても、異なる定量値を算出する際の元となったピーク波形の形状が視覚的に比較し易いように表示すればよい。そして、こうして形成した表示画像を表示部の画面上に表示し、ユーザに提示する。
【0020】
これにより、目的化合物のターゲットイオンを用いた定量分析結果と、本来は定量を目的としたものではない確認イオンを用いた定量分析結果とが、表示部の同一画面上に一度に表示される。また、その際に、定量計算に利用された抽出イオンクロマトグラムのピーク波形が併せて表示される。ピークに目的化合物以外の夾雑物の重なりがあったり、ベースラインに異常な変動があったりすると、多くの場合、ユーザがピーク波形を見れば、それを認識することができる。したがって、ユーザは表示された複数のピーク波形を見比べて、ターゲットイオンや確認イオンのいずれが、又は複数の確認イオンのうちのいずれが定量に適切であるのかを容易に且つ的確に判断することができる。
【0021】
た、表示処理部は、目的化合物の定量値及び抽出イオンクロマトグラムのピーク波形とともに、それぞれの定量計算の際に参照されたターゲットイオン用及び確認イオン用の検量線も同一画面上に配置する。
【0022】
検量線を参照して定量値を求める場合、検量線自体の直線性が良好でないと、或いは、検量線を作成する際のプロットのばらつきが大きいと、算出される定量値の信頼性は低いと考えられる。そこで、検量線の形状や検量線と実測のプロットとの関係は、ターゲットイオンや確認イオンのいずれが、又は複数の確認イオンのうちのいずれが定量に適切であるのかを判断するうえでの一つの重要な指標である。本発明によれば、定量値の算出に利用された検量線が定量分析結果と同じ画面上に表示されるので、ユーザはこの検量線に基づいて定量の的確性を判断することができる。
【0023】
なお、多成分一斉分析のように、一つの試料に含まれる複数の目的化合物の定量を行いたい場合には、目的化合物それぞれについて、上記ターゲットイオン利用定量計算部及び上記確認イオン利用定量計算部による計算を実施し、上記表示処理部は、複数の目的化合物のうち、ユーザにより選択された一つの目的化合物についての定量分析結果を表示するとよい。このとき、複数の目的化合物のうちの一つをクリック操作等により選択可能である一覧表などを上記定量分析結果と同じ画面に表示しておくことで、ユーザは確認したい目的化合物を簡便に選択して、その定量分析結果を視認することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置及びクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムによれば、ユーザは、事前に設定されているターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えた、つまりは確認イオンを用いた定量分析結果を、ターゲットイオンを用いた定量分析の結果とともに表示画面上で確認することができる。したがって、ユーザはターゲットイオンと確認イオンとのいずれが定量に適切であるのか、又は、複数の確認イオンのうちのいずれが定量に適切であるのか、などを容易に且つ的確に判断することができる。
【0025】
また、本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置及びクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムでは、ターゲットイオンを用いた定量分析を実施してその結果を表示したあとに何らかの操作に応じて、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えた定量分析を実施するのではなく、始めから、ターゲットイオンを用いた定量分析と確認イオンを用いた定量分析とを実施して、その複数の定量分析結果を併せて表示する。したがって、ユーザはターゲットイオンを用いた定量分析結果と確認イオンを用いた一又は複数の定量分析結果とを一度に検討することができる。そのため、ユーザによる検討や判断に無駄な時間を要することがなく、効率良く定量解析を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置を備えたGC−MSシステムの一実施例の要部の構成図。
図2】本実施例のGC−MSシステムにおける特徴的な定量分析処理の手順を示すフローチャート。
図3図2に示した特徴的な定量分析処理の処理の具体的な説明図。
図4】本実施例のGC−MSシステムにおける定量分析結果の表示画面の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置を備えたガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)システムの一実施例について、添付図面を参照して説明する。
図1は本実施例のGC−MSシステムの要部の構成図である。
【0028】
本実施例のGC−MSシステムは、測定部として、制御部4により制御されるオートサンプラ1、ガスクロマトグラフ部(GC部)2、及びタンデム型質量分析部(MS/MS)部3を備え、さらに、アナログデジタル変換部(ADC)5、データ処理部6、入力部7、及び表示部8、を備える。データ処理部6が本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理装置に相当する。
【0029】
オートサンプラ1は、予めバイアル等に用意された複数の試料を制御部4の制御の下で自動的に選択して、ガスクロマトグラフ部2に供給するものである。ガスクロマトグラフ部2は図示しないものの、試料気化室、カラム、カラムオーブン、キャリアガス供給部等を含む。ガスクロマトグラフ部2では、オートサンプラ1から与えられた液体試料が試料気化室内で気化され、その気化した試料はキャリアガスの流れに乗ってカラムに導入される。そして、試料がカラムを通過する間に該試料中の各種化合物は時間的に分離され、カラム出口から出てタンデム型質量分析部3に導入される。
【0030】
タンデム型質量分析部3は典型的には、コリジョンセルを挟んで前後に四重極マスフィルタが配置されたトリプル四重極型質量分析装置である。タンデム型質量分析部3において例えば、導入された気体試料中の化合物はイオン源でイオン化され、生成された各種イオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンが前段の四重極マスフィルタを通過してコリジョンセルに導入される。コリジョンセルにはアルゴン等のコリジョンガスが導入されており、イオンはコリジョンガスに接触して衝突誘起解離(CID)により開裂し、それによって生成された各種のプロダクトイオンが後段の四重極マスフィルタに導入される。各種プロダクトイオンの中で特定の質量電荷比を有するイオンが後段の四重極マスフィルタを通過して検出器に到達し検出される。検出器は到達したイオンの量に応じた検出信号を生成し、この検出信号がアナログデジタル変換部5でデジタル化され、測定データとしてデータ処理部6に入力される。なお、これは多重反応モニタリング(MRM)測定モードの動作であり、それ以外に、プロダクトイオンスキャン測定モードなどの別のMS/MS分析も可能である。
【0031】
データ処理部6は機能ブロックとして、データ保存部60、定量演算部61、及び定量分析結果表示処理部68、を含み、さらに定量演算部61は、定量分析条件設定部62、確認イオン比許容値計算部63、ピーク同定処理部64、ピーク波形処理部65、検量線作成部66、定量値算出部67、を含む。このデータ処理部6の実体は、CPU、ROM、RAM、HDDやSDD等の補助記憶装置などを備えるパーソナルコンピュータ(又はより高性能なワークステーション)であり、該コンピュータにインストールされた専用のデータ処理ソフトウェアが該コンピュータ上で動作することにより、上記各部の機能が達成される。即ち、このデータ処理ソフトウェアが本発明に係るクロマトグラフ質量分析データ処理用プログラムに相当する。
【0032】
次に、本実施例のGC−MSシステムにおける特徴的な定量分析について、図2図4を参照して説明する。図2は本実施例のGC−MSシステムにおける特徴的な定量分析処理の処理手順を示すフローチャート、図3図2に示した特徴的な定量分析処理の処理の具体的な説明図、図4は本実施例のGC−MSシステムにおける定量分析結果の表示画面の一例を示す図である。
【0033】
ここでは、未知試料に含まれる多数の化合物を一斉に定量分析する多成分一斉分析を行うものとする。この多成分一斉分析では、分析対象の化合物の種類自体は予め決まっており、各化合物の含有量(濃度)を算出するのが目的である。もちろん、未知試料には目的の化合物が含まれていない場合もあり、その場合には、該化合物の含有量はゼロ(又は検出下限以下)となる。
未知試料についての多成分一斉分析を行う際には、化合物毎に検量線を作成する必要があるため、測定部では、濃度が既知である各化合物を含む標準試料と、定量分析対象である未知試料と、をそれぞれ測定する。ここでは、濃度が2段階に相違する2種類の標準試料と一又は複数の未知試料とをオートサンプラ1に用意しておく。
【0034】
ユーザは測定に先立って、目的化合物のそれぞれについて予め、測定時間範囲、一つのターゲットイオン、及び、一又は複数の確認イオンを定め、それらを分析条件として入力部7から入力する。ここでは、タンデム型質量分析部3でMRM測定を実行するので、ターゲットイオン及び確認イオンはいずれもMRMトランジション、つまり一つのプリカーサイオンの質量電荷比と一つのプロダクトイオンの質量電荷比との組である。
いま、或る目的化合物について、図3(a)に示すように、一つのプリカーサイオン(質量電荷比:Mx)について得られるMS/MSスペクトル(プロダクトイオンスペクトル)上における質量電荷比がMa、Mb、及びMcであるプロダクトイオンを、ターゲットイオン及び2種類の確認イオン(確認イオン1、確認イオン2)として設定するものとする。即ち、ターゲットイオン、確認イオン1、及び確認イオン2はそれぞれ、Mx>Ma、Mx>Mb、及びMx>McというMRMトランジションである。
【0035】
制御部4の制御の下で、オートサンプラ1は用意されている複数の試料(標準試料、未知試料)を順に選択し、ガスクロマトグラフ部2及びタンデム型質量分析部3は選択された試料についての測定を実行する。この際に制御部4は、上記のように設定された分析条件に従って、所定の測定時間範囲毎にターゲットイオン及び確認イオンに対応するMRMトランジションのMRM測定が実施されるようにタンデム型質量分析部3の動作を制御する。これにより、ガスクロマトグラフ部2で時間方向に分離された化合物毎に、それぞれに設定されているターゲットイオン及び確認イオンについてのMRM測定が実施され、ターゲットイオン及び確認イオンのイオン強度を示す信号がアナログデジタル変換5でデジタル化されてデータ処理部6に入力される。
【0036】
上述した一連の測定によって、その実体はパーソナルコンピュータの補助記憶装置であるデータ保存部60に、2種類の標準試料をそれぞれ測定することで取得されたデータが格納された標準試料データファイル、及び、一又は複数の未知試料をそれぞれ測定することで取得されたデータが格納された未知試料データファイルが保存される。また、各化合物のターゲットイオンや確認イオンの情報、或いは、測定前に設定される確認イオン比の許容値などの情報は、データファイルと関連付けられた分析条件データファイルにまとめて格納される。なお、このような分析条件データファイルに格納される情報は各データファイルの中にそれぞれ格納されるようにしても構わない。
【0037】
データ保存部60に上述したようにデータが保存されている状態で、ユーザは定量分析したいデータファイルを入力部7から指定したうえで定量分析の実行を指示する。この指示を受けて定量演算部61は、指定された標準試料データファイル、未知試料データファイル及びそれに関連する分析条件データファイルをデータ保存部60から読み出しメインメモリに一旦記憶する(ステップS1)。
【0038】
次に定量演算部61は、予めユーザにより設定されている同定対象の化合物リストから一つの化合物を選択して処理対象の目的化合物として設定する(ステップS2)。定量分析条件設定部62はメインメモリに記憶されたデータから、上記目的化合物についてのターゲットイオンに関する、確認イオン比許容値などの設定情報を取得する(ステップS3)。
【0039】
確認イオン比許容値は、確認イオンのマスピークの強度とターゲットイオンのマスピークの強度との比に基づいて該ターゲットイオンのピークが真に目的化合物由来のものであるか否かを確認するための基準である。したがって、確認イオンのマスピークが真に目的化合物由来のものであるか否かを確認するための基準は、設定されている確認イオン比許容値に基づいて計算し直す必要がある。そこで、確認イオン比許容値計算部63は、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えたときの組み合わせ毎に確認イオン比許容値を計算し直す。この例では確認イオン比は2種類あるので、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えたときの組み合わせは図3(c)に示す[A]、[B]、[C]の3組である。仮に確認イオンが1種類だけであれば、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えたときの組み合わせは2組のみであるし、確認イオンの種類がさらに多ければその組み合わせの数も多くなる。ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えたときの確認イオン比許容値は、元の確認イオン比許容値の逆数を計算すればよい。
【0040】
次にピーク同定処理部64は、未知試料、標準試料についてそれぞれ得られたデータに基づき、図3(b)に示すような、目的化合物由来のターゲットイオン及び確認イオンの質量電荷比における抽出イオンクロマトグラムをそれぞれ作成する。そして、各抽出イオンクロマトグラムにおいてピーク検出を行い、検出されたクロマトグラムピークの例えばピークトップの保持時間におけるターゲットイオンのマスピーク強度と確認イオンのマスピーク強度とから確認イオン比を計算し、その確認イオン比がステップS4で求まった確認イオン比許容値に収まるか否かを判定することでピークを同定する(ステップS5)。このピーク同定は、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えたときの組み合わせ毎に実施され、ターゲットイオンのマスピーク又は確認イオンのマスピークの強度がそれぞれ規定の確認イオン比許容値に収まるか否か判定される。
【0041】
ターゲットイオンのマスピーク又は確認イオンのマスピークの強度がそれぞれ規定の確認イオン比許容値に収まらない場合、様々な対応を採ることができる。例えば、その場合には、抽出イオンクロマトグラム上でのピーク検出が適切でない可能性があるから、ピーク検出をやり直す、つまり別のピークの探索を試みてもよい。また、目的化合物由来のピークに夾雑物などが重なっている可能性があるから、ターゲットイオンと全ての確認イオンのマスピークの強度が確認イオン比許容値を外れている場合には当該目的化合物の定量分析を中止する一方、少なくともいずれか一つのイオンのマスピークの強度が確認イオン比許容値に収まっていれば許容値を外れたことを記録したうえで定量分析を継続してもよい。こうした対応は適宜に決めておくことができる。
【0042】
ステップS5において目的化合物由来のイオンのピークが適切に同定できていることが確認されたならば、ピーク波形処理部65は予め設定されている波形処理条件に従って、各抽出イオンクロマトグラム上で観測されるクロマトグラムピークについての波形処理を実施し、該ピークの面積値を算出する(ステップS6)。波形処理条件は、ピークの開始点及び終了点やベースラインの引き方などを決めるものである。なお、このステップS6の処理を上記ステップS5に先立って実行し、算出されたピーク面積値を用いて確認イオン比を求め、ピーク同定を行うようにしてもよい。このステップS6では、未知試料、標準試料の全てについて、目的化合物に対応するターゲットイオン及び確認イオンのクロマトグラムピークの面積値が求まる。
【0043】
次いで検量線作成部66は、化合物の濃度が相違する2つの標準試料において目的化合物由来のターゲットイオンと2つの確認イオンとの組み合わせ毎に得られた各ピーク面積値を用いて、その組み合わせ毎に検量線を作成する(ステップS7)。即ち、図3(d)に示すように、C1、C2という2種類の濃度の目的化合物についてそれぞれピーク面積値が相違する、ターゲットイオン又は確認イオンのクロマトグラムピークが得られるから、その濃度C1、C2とピーク面積値との関係から検量線を作成することができる。この検量線は図3(c)に示した[A]、[B]、[C]の組み合わせ毎に求まるから、ここでは三つの検量線が得られる。
なお、ここでは化合物の濃度が2種類のみであるが、好ましくは3〜5種類程度の異なる濃度の結果から検量線を作成するほうが、より正確な検量線を作成することができる。特に、検量線が非直線性を有する場合には、検量線を作成するためのプロットは多いほうがよい。
【0044】
定量値算出部67は、図3(d)に示すように、未知試料中の目的化合物由来のターゲットイオンと2つの確認イオンとの組み合わせ毎に得られた各ピーク面積値を、その組み合わせに対応する検量線に照らして定量値(濃度値)を算出する(ステップS8)。ここでは、一つの未知試料中の目的化合物について、[A]、[B]、[C]の組み合わせ毎に定量値が求まる。つまり3種類の定量値が得られる。これらは同じになる場合もあれば、互いに異なる場合もある。
【0045】
或る一つの目的化合物について定量値が求まると、定量演算部61では上記同定対象の化合物リストに挙げられている全ての化合物について処理が終了したか否かが判定される(ステップS9)。そして、未処理の化合物があればステップS9からS2へと戻り、未処理の化合物を次の同定対象の目的化合物に設定してステップS3〜S8の処理を実施する。そして、同定対象の化合物リストに挙げられている全ての化合物についてステップS2〜S8の処理を繰り返し、ステップS9においてYesと判定されるとステップS9からS10へと進む。
【0046】
ステップS10において、定量分析結果表示処理部68は全ての目的化合物についての定量分析結果を集約した、図4に示すような定量分析結果表示画面を作成し、これを表示部8の画面上に表示する。図4に示す定量分析結果表示画面100には、サンプルリスト表示欄101、化合物定量結果表示欄102、化合物詳細情報表示欄103、及び検量線表示欄104が配置されている。
【0047】
この例では、サンプルリスト表示欄101には、同定対象となったサンプルの測定データが格納されているデータファイル名及びサンプルタイプ(標準試料、未知試料等)が一覧表示されたサンプルリストが表示されている。
また、化合物定量結果表示欄102には、同定対象の化合物の名称、ターゲットイオンの質量電荷比(MRMトランジション)、ターゲットイオンを定量に用いたときの定量値、確認イオンの質量電荷比(MRMトランジション)、確認イオンを定量に用いたときの定量値、などを含む化合物リストが表示されている。ユーザはこの化合物リストを確認することで、各化合物についてターゲットイオンを定量に用いたときの定量値と確認イオンを定量に用いたときの定量値とを併せて確認することができる。
【0048】
化合物詳細情報表示欄103には、化合物定量結果表示欄102に表示されている化合物リスト上でユーザにより指定された化合物(図4では網掛けで示した「化合物a」)を定量する際に利用された、ターゲットイオン及び確認イオンの抽出イオンクロマトグラムのピーク波形が並べて表示されている。各ピーク波形の近傍には、ターゲットイオン及び確認イオンの質量電荷比(MRMトランジション)と算出された定量値が併せて表示されている。ピーク面積値や保持時間なども併せて表示してもよい。上記化合物リスト上でユーザが任意の化合物の行をクリック操作すると、定量分析結果表示処理部68は化合物詳細情報表示欄103に表示されているピーク波形を、その操作により指示された化合物に対応するターゲットイオン及び確認イオンの抽出イオンクロマトグラムのピーク波形の表示に更新する。ユーザはこのピーク波形を見比べることで、例えば、目的化合物に夾雑物が重なっていないか否か、或いは、ピークが飽和していないか否か等を判断し、ターゲットイオンと複数の確認イオンのうち、いずれに基づく定量値が最も信頼性が高いかを推測することができる。
【0049】
また検量線表示欄104には、化合物詳細情報表示欄103に表示されているターゲットイオン及び複数の確認イオンのいずれかに対応する検量線が表示されている。化合物詳細情報表示欄103に表示されている三つのピーク波形の近傍をユーザが適宜クリック操作すると、定量分析結果表示処理部68は検量線表示欄104に表示されている検量線を、その操作により指示されたイオンに対応する検量線の表示に更新する。検量線の直線性が良好でない場合、或いは、検量線と実測のピーク面積を示すプロットとの乖離が大きい場合(ブロットのばらつきが大きい場合)には、検量線に基づく定量値の信頼性が低い可能性がある。そこで、ユーザはこの検量線を確認することで、いずれに基づく定量値が最も信頼性が高いかを推測することができる。
【0050】
なお、図4では検量線を一つのみ表示しているが、化合物詳細情報表示欄103に表示されているピーク波形に対応してそれぞれ検量線を表示してもよい。また、化合物詳細情報表示欄103において複数のピーク波形を並べて表示するのではなく、同一の時間軸及び強度軸上にピーク波形の表示色を変えて重ねて合わせて表示してもよい。また、縦軸方向に少しずつずらしたスタック表示としてもよい。ピーク波形や検量線の表示方法は例えば表示すべき情報の量などに応じて適宜変更することができる。
【0051】
また、一つの目的化合物についてのターゲットイオンと複数の確認イオンのうち、いずれに基づく定量値が最も信頼性が高いかをユーザが推定する際により有用な情報を併せて表示するようにしてもよい。例えば検量線の直線性の程度を示す或いはプロットのばらつき(分散)度合いを示す指標値を計算してそれを表示するようにしてもよい。さらに、予めこうした指標値の閾値を設定できるようしておき、算出された指標値が閾値を超えているか否かの判定結果を表示するようにしてもよい。また、化合物詳細情報表示欄103に表示されている複数のピーク波形の波形形状の相似性の程度を示す指標値を計算し、それを表示したり、その指標値が予め設定された閾値以下である(つまりは相似性が低い)か否かの判定結果を表示したりしてもよい。また一般に、ピーク波形形状はガウス分布等、決まった分布関数に従う可能性が高いから、そうした分布関数に従って描かれるカーブと実際のピーク波形形状とのずれの程度などを指標化して表示してもよい。
【0052】
以上のように本実施例のGC−MSシステムでは、試料中の各化合物について、定量のために予め設定したターゲットイオンと一又は複数の確認イオンのそれぞれに基づく定量値を自動的に計算し、それら定量値とその計算に利用された抽出イオンクロマトグラムのピーク波形とを同一の表示画面上に併せて表示している。それによって、ターゲットイオンと確認イオンとを入れ替えて定量分析をやり直す手間が不要になり、確認イオンが複数であっても、ターゲットイオン及びその複数の確認イオンに基づく全ての定量分析結果を一括して比較し評価することが可能となる。
【0053】
なお、上記実施例では、質量分析装置がタンデム型質量分析装置であるGC−MSシステムに本発明を適用する場合について説明したが、質量分析装置はタンデム型でなく例えばシングルタイプの四重極型質量分析装置でもよい。その場合、質量分析装置ではMRM測定の代わりにSIM測定を実施すればよい。また、GC−MSでなくLC−MSで収集されたデータを用いた定量分析に本発明を適用できることも明らかである。
【符号の説明】
【0054】
1…オートサンプラ
2…ガスクロマトグラフ(GC)部
3…タンデム型質量分析(MS/MS)部
4…制御部
5…アナログデジタル変換部(ADC)
6…データ処理部
60…データ保存部
61…定量演算部
62…定量分析条件設定部
63…確認イオン比設定値計算部
64…ピーク同定処理部
65…ピーク波形処理部
66…検量線作成部
67…定量値算出部
68…定量分析結果表示処理部
7…入力部
8…表示部
図1
図2
図3
図4