特許第6791377号(P6791377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000069
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000070
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000071
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000072
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000073
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000074
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000075
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000076
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000077
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000078
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000079
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000080
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000081
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000082
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000083
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000084
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000085
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000086
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000087
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000088
  • 特許6791377-電動車両の制御方法、及び、制御装置 図000089
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791377
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】電動車両の制御方法、及び、制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20201116BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20201116BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20201116BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   B60L15/20 J
   B60L15/20 S
   B60L9/18 P
   H02P29/00
   H02P5/46 H
【請求項の数】13
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2019-521885(P2019-521885)
(86)(22)【出願日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】JP2017020521
(87)【国際公開番号】WO2018220805
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 彰
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健吾
【審査官】 鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−85850(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/157315(WO,A1)
【文献】 特開2011−97794(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/120979(WO,A1)
【文献】 特開2010−200568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
B60L 50/00−58/40
H02P 5/46
H02P 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両情報に基づいてモータトルク指令値を設定し、フロント駆動輪およびリア駆動輪の一方の駆動輪を第1駆動輪として当該第1駆動輪につながる第1モータのトルクを制御する電動車両の制御方法であって、
前記モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第1のトルク指令値を算出し、
前記第1モータの回転角速度を検出し、
前記第1のトルク指令値に基づいて、前記第1駆動輪へのトルク入力から前記第1モータの回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルGp(s)を用いて前記第1モータの回転角速度を推定し、
前記車両モデルGp(s)の逆特性と、車両のねじり振動周波数近傍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタH(s)とで構成されるフィルタH(s)/Gp(s)を用いて、前記第1モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第2のトルク指令値を算出し、
前記第1のトルク指令値と前記第2のトルク指令値とを加算して得られる第1最終トルク指令値に従って前記第1モータのトルクを制御し、
前記第1駆動輪とは別の駆動輪である第2駆動輪の制駆動トルクが入力される際には、当該制駆動トルクに基づいて前記第1モータの回転角速度の推定値を補正する、
電動車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1駆動輪とは別の駆動輪である第2駆動輪の制駆動トルクが入力される際には、当該制駆動トルクを入力とし、予めモデル化された前記第2駆動輪に対する前記第1モータの回転角速度の伝達関数を用いてモータ回転角速度補正量を算出し、
前記モータ回転角速度補正量に基づいて前記第1モータの回転角速度の推定値を補正する、
電動車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電動車両の制御方法において、
前記電動車両が前記第2駆動輪の動力源として第2モータを備える場合は、
前記車両モデルGp(s)は、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪へのトルク入力から前記第1モータおよび前記第2モータのモータ回転角速度への伝達特性を模擬した4WD車両モデルであって、
前記モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第3のトルク指令値を算出し、
前記第2モータの回転角速度を検出し、
前記第2駆動輪へのトルク入力から前記第2モータのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルGpr(s)の逆特性と、車両のねじり振動周波数近傍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタH(s)とで構成されるフィルタH(s)/Gpr(s)を用いて、前記第2モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第4のトルク指令値を算出し、
前記第3のトルク指令値と前記第4のトルク指令値とを加算して得られる第2最終トルク指令値に従って前記第2モータのトルクを制御し、
前記第1のトルク指令値と前記第3のトルク指令値とを入力とし、前記4WD車両モデルを用いて、前記第1モータの回転角速度推定値と前記第2モータの回転角速度推定値を算出するとともに、前記第3のトルク指令値に基づいて前記第1モータの回転角速度推定値を補正する、
電動車両の制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の電動車両の制御方法において、
前記電動車両が前記第2駆動輪の動力源として第2モータを備える場合は、
前記車両モデルGp(s)は、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪へのトルク入力と前記第1モータおよび前記第2モータのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した4WD車両モデルであって、
前記モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第3のトルク指令値を算出し、
前記第2モータの回転角速度を検出し、
前記第2モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第4のトルク指令値を算出し、
前記第3のトルク指令値と前記第4のトルク指令値とを加算して得られる第2最終トルク指令値に従って前記第2モータのトルクを制御し、
前記フィードフォワード演算では、
前記モータトルク指令値を前記第1駆動輪への第1目標トルク指令値と前記第2駆動輪への第2目標トルク指令値とに分配し、
前記第1目標トルク指令値と前記第2目標トルク指令値とを入力とし、前記4WD車両モデルを用いて、前記第1モータの回転角速度推定値と前記第2モータの回転角速度推定値と前記第1駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値と前記第2駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値とを算出するとともに、前記第2目標トルク指令値に基づいて前記第1モータの回転角速度推定値を補正し、
前記第1目標トルク指令値から前記第1駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値に所定のゲインを乗じた値を減算することにより前記第1のトルク指令値を算出し、
前記第2目標トルク指令値から前記第2駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値に所定のゲインを乗じた値を減算することにより前記第3のトルク指令値を算出する、
電動車両の制御方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数と、前記第2駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数とが異なる場合は、前記第1のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答と、前記第3のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答とを一致させる、
電動車両の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数より前記第2駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数が小さい場合は、前記第1のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答を、前記第3のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答に一致させ、
前記第2駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数より前記第1駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数が小さい場合は、前記第3のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答を、前記第1のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答に一致させる、
電動車両の制御方法。
【請求項7】
請求項5に記載の電動車両の制御方法において、
前記第1駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数を減衰させる伝達特性を有するフィルタを用いたフィードフォワード演算により前記第1のトルク指令値を算出し、
前記第2駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数を減衰させる伝達特性を有するフィルタを用いたフィードフォワード演算により前記第3のトルク指令値を算出する、
電動車両の制御方法。
【請求項8】
請求項2に記載の電動車両の制御方法において、
前記第2駆動輪に対する前記第1モータの回転角速度の伝達関数のフィルタは、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪の少なくとも一方のねじり振動周波数をカットオフ周波数に設定したフィルタで近似される、
電動車両の制御方法。
【請求項9】
請求項2に記載の電動車両の制御方法において、
前記第2駆動輪に対する前記第1モータの回転角速度の伝達関数のフィルタは、前記第2駆動輪に対する前記第1モータの回転角速度の伝達特性のゲイン成分を構成するように近似される、
電動車両の制御方法。
【請求項10】
請求項2に記載の電動車両の制御方法において、
前記第2駆動輪に対する前記第1モータの回転角速度の伝達関数のフィルタは、分母にねじり振動周波数に起因する減衰係数を有し、
前記減衰係数が1未満となる特性を有する場合は、当該減衰係数を1以上の値に設定する、
電動車両の制御方法。
【請求項11】
請求項2に記載の電動車両の制御方法において、
前記フィードフォワード演算では、前記第1モータのトルクが駆動軸トルクに伝達されない不感帯を有する不感帯車両モデルを用いて、前記モータトルク指令値から駆動軸ねじり角速度を算出し、算出した前記駆動軸ねじり角速度を前記モータトルク指令値にフィードバックさせることによって、前記第1のトルク指令値を算出する、
電動車両の制御方法。
【請求項12】
請求項2に記載の電動車両の制御方法において、
前記車両モデルGp(s)は、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪へのトルク入力から前記第1モータおよび前記第2駆動輪の動力源としての第2モータのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した4WD車両モデルである、
電動車両の制御方法。
【請求項13】
車両情報に基づいてモータトルク指令値を設定し、フロント駆動輪およびリア駆動輪の一方の第1駆動輪につながる第1モータのトルクを制御するコントローラを備える電動車両の制御装置であって、
前記コントローラは、
前記モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第1のトルク指令値を算出し、
前記第1モータの回転角速度を検出し、
前記第1のトルク指令値に基づいて、前記第1駆動輪へのトルク入力から前記第1モータの回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルGp(s)を用いて前記第1モータの回転角速度を推定し、
前記車両モデルGp(s)の逆特性と、車両のねじり振動周波数近傍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタH(s)とで構成されるフィルタH(s)/Gp(s)を用いて、前記第1モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第2のトルク指令値を算出し、
前記第1のトルク指令値と前記第2のトルク指令値とを加算して得られる第1最終トルク指令値に従って前記第1モータのトルクを制御し、
前記第1駆動輪とは別の駆動輪である第2駆動輪の制駆動トルクが入力される際には、当該制駆動トルクに基づいて前記第1モータの回転角速度の推定値を補正する、
電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御方法、及び、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フィードフォワード(F/F)補償器とフィードバック(F/B)補償器とを用いたフィードフォワード、フィードバック制御系によりモータトルク指令値を算出することで、ドライブシャフトのねじりに起因した振動を除去する機能を有する電動車両の制振制御装置が知られている(JP2003−9566A参照)。
【発明の概要】
【0003】
ここで、JP2003−9566Aに開示された制振制御装置のフィードバック制御系では、モータトルクから制御対象のモータ回転角速度への伝達特性をモデル化した車両モデルを用いてモータ回転角速度を推定し、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差に基づいてフィードバックトルクを算出している。
【0004】
しかしながら、上記車両モデルは、2輪駆動の車両を前提として設計されているため、別の駆動輪から制駆動力(制駆動トルク)が入力された際は、上記車両モデルにより算出されたモータ回転角速度推定値と実際のモータ回転角速度とが乖離してしまう。このため、当該乖離を補償するために、上述のF/B補償器から必要以上の振動抑制補償値が出力されてしまい、ドライバの意図した加減速を得ることができない場合がある。
【0005】
本発明は、別の駆動輪から制駆動力が入力された場合でも、モータ回転角速度推定値と実際のモータ回転角速度とを一致させて、F/B補償器から余分な振動抑制補償値が出力されるのを抑制することを目的とする。
【0006】
本発明の一態様における車両の制御方法は、車両情報に基づいてモータトルク指令値を設定し、フロント駆動輪およびリア駆動輪の一方の駆動輪を第1駆動輪として当該第1駆動輪につながる第1モータのトルクを制御する電動車両の制御方法である。当該電動車両の制御方法は、モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第1のトルク指令値を算出し、第1モータの回転角速度を検出し、第1のトルク指令値に基づいて、第1駆動輪へのトルク入力から第1モータの回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルGp(s)を用いて第1モータの回転角速度を推定する。そして、車両モデルGp(s)の逆特性と、車両のねじり振動周波数近傍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタHf(s)とで構成されるフィルタHf(s)/Gp(s)を用いて、第1モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第2のトルク指令値を算出し、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを加算して得られるフロント最終トルク指令値に従って第1モータのトルクを制御する。第1駆動輪とは別の駆動輪である第2駆動輪の制駆動トルクが入力される際には、当該制駆動トルクに基づいて前記第1モータの回転角速度の推定値を補正する。
【0007】
本発明の実施形態については、添付された図面とともに以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の制御装置が適用される電動車両のシステム構成(システム構成1)を示すブロック図である。
図2図2は、電動モータコントローラによって行われる処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、アクセル開度−トルクテーブルの一例を示す図である。
図4図4は、本発明の制御装置が適用される電動車両のシステム構成(システム構成2)を示すブロック図である。
図5図5は、電動モータコントローラによって行われる処理の流れを示すフローチャートである。
図6図6は、前後駆動力分配処理を説明するための図である。
図7図7は、4WD車両の運動方程式を説明する図である。
図8図8は、第1実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図である。
図9図9は、第1、第2、第4実施形態の制御装置を電動車両に適用した際の制御結果の一例と、従来例に係る制御結果とを示したタイムチャートである。
図10図10は、第2実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図である。
図11図11は、第2実施形態の4WD車両モデルを示すブロック構成図である。
図12図12は、第2実施形態のフロントF/F補償器を示すブロック構成図である。
図13図13は、第2実施形態のフロント/リアF/F補償器を示すブロック構成図である。
図14図14は、第2実施形態のリアF/F補償器を示すブロック構成図である。
図15図15は、2WD車両の運動方程式を説明する図である。
図16図16は、第3実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図である。
図17図17は、第3実施形態のF/F補償器を示すブロック構成図である。
図18図18は、第3実施形態のF/B補償器を示すブロック構成図である。
図19図19は、第3実施形態の制御装置を電動車両に適用した際の制御結果の一例と、従来例に係る制御結果とを示したタイムチャートである。
図20図20は、第4実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図である。
図21図21は、第4実施形態のF/F補償器を示すブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
最初に、本発明にかかる電動車両の制御装置が適用される車両のシステム構成(システム構成1、システム構成2)について説明する。
【0010】
〈システム構成1〉
図1は、本発明の制御装置が適用される電動車両の主要なシステム構成(システム構成1)を示すブロック図である。なお、電動車両とは、車両の駆動源の一部または全部として、少なくとも一つの電動モータ(以下単にモータともいう)を備え、電動モータの駆動力により走行可能な自動車のことであり、電気自動車や、ハイブリッド自動車が含まれる。
【0011】
バッテリ1は、電動モータ4の駆動電力の放電、および、電動モータ4の回生電力の充電を行う。
【0012】
電動モータコントローラ2は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成される。電動モータコントローラ2には、車速V、アクセル開度θ、電動モータ4の回転子位相α、電動モータ4の電流(三相交流の場合は、iu、iv、iw)、制駆動力指令値等の車両状態を示す各種車両変数の信号がデジタル信号として入力される。電動モータコントローラ2は、入力された信号に基づいて電動モータ4を制御するためのPWM信号を生成する。また、生成したPWM信号に応じてインバータ3の駆動信号を生成する。なお、前述の制駆動力指令値は、ブレーキやエンジン出力など、システム構成1のモータ4以外に車両に作用する制駆動力(制駆動トルク)を指示する制駆動力指令値、または、例えばブレーキ圧センサなどのセンサにより検出される計測値等が使用されても良い。
【0013】
インバータ3は、相ごとに備えられた2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流の電流を交流に変換あるいは逆変換し、電動モータ4に所望の電流を流す。
【0014】
電動モータ(三相交流モータ)4は、インバータ3から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機5および駆動軸8を介して、左右の駆動輪9に駆動力を伝達する。また、電動モータ4は、車両の走行時に駆動輪9a、9bに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3は、電動モータ4の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
【0015】
電流センサ7は、電動モータ4に流れる3相交流電流iu、iv、iwを検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
【0016】
回転センサ6は、例えば、レゾルバやエンコーダであり、電動モータ4の回転子位相αを検出する。
【0017】
図2は、電動モータコントローラ2によって行われる処理の流れを示すフローチャートである。ステップS201からステップS205に係る処理は、車両システムが起動している間、一定の間隔で常時実行されるようにプログラムされている。
【0018】
ステップS201では、車両状態を示す信号が電動モータコントローラ2に入力される。ここでは、車速V(km/h)、アクセル開度θ(%)、電動モータ4の回転子位相α(rad)、電動モータ4の回転速度Nm(rpm)、電動モータ4に流れる三相交流電流iu、iv、iw、バッテリ1の直流電圧値Vdc(V)、制駆動力指令値が入力される。
【0019】
車速V(km/h)は、図示しない車速センサや、他のコントローラより通信にて取得される。または、電動モータコントローラ2は、回転子機械角速度ωmにタイヤ動半径rを乗算し、ファイナルギヤのギヤ比で除算することにより車速v(m/s)を求め、3600/1000を乗算することで単位変換して、車速V(km/h)を求める。
【0020】
電動モータコントローラ2は、アクセル開度θ(%)を、図示しないアクセル開度センサから取得する。なお、アクセル開度θ(%)は、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから取得するようにしても良い。
【0021】
電動モータ4の回転子位相α(rad)は、回転センサ6から取得される。電動モータ4の回転速度Nm(rpm)は、回転子角速度ω(電気角)を電動モータの極対数pで除算して、電動モータ4の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm(rad/s)を求め、求めたモータ回転速度ωmに60/(2π)を乗算することによって求められる。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求められる。
【0022】
電動モータ4に流れる電流iu、iv、iw(A)は、電流センサ7から取得される。
【0023】
直流電流値Vdc(V)は、バッテリ1とインバータ3間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)により検出する。なお、直流電圧値Vdc(V)は、バッテリコントローラ(不図示)から送信される信号により検出するようにしてもよい。
【0024】
制駆動力指令値は、図示しないブレーキシステムに取り付けられた液圧センサ値から求まる制動トルク、または、システム構成1のモータ4以外に車両へ制駆動力を入力する他のコントローラ(不図示)から、通信にて取得しても良い。
【0025】
ステップS202では、電動モータコントローラ2が、車両情報に基づいて、ドライバが要求する基本目標トルクとしてのトルク指令値Tm*を設定する。具体的には、電動モータコントローラ2は、ステップS201で入力されたアクセル開度θ及び車速Vに基づいて、図3に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、トルク指令値Tm*を設定する。
【0026】
ステップS203では、電動モータコントローラ2が制振制御演算処理を行う。具体的には、電動モータコントローラ2は、ステップS202で設定された目標トルク指令値Tm*と、モータ回転速度ωmとに基づいて、駆動軸トルクを無駄にすることなく、駆動力伝達系振動(駆動軸8のねじり振動など)を抑制する制振制御後の最終トルク指令値Tmf*を算出する。制振制御演算処理の詳細については後述する。
【0027】
ステップS204では、電動モータコントローラ2が電流指令値算出処理を行う。具体的には、電動モータコントローラ2は、ステップS203で算出された最終トルク指令値Tmf*に加え、モータ回転速度ωmや直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id*、q軸電流目標値iq*を求める。例えば、トルク指令値、モータ回転速度、及び、直流電圧値と、d軸電流目標値及びq軸電流目標値との関係を定めたテーブルを予め用意しておいて、このテーブルを参照することにより、d軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*が求められる。
【0028】
ステップS205では、d軸電流id及びq軸電流iqをそれぞれ、ステップS204で求めたd軸電流目標値id*及びq軸電流目標値iq*と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流電流値iu、iv、iwと、電動モータ4の回転子位相αに基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを求める。続いて、d軸、q軸電流指令値id*、iq*と、d軸、q軸電流id、iqとの偏差から、d軸、q軸電圧指令値vd、vqを算出する。なお、ここでは、算出したd軸、q軸電圧指令値vd、vqに対して非干渉制御を加える場合もある。
【0029】
次に、d軸、q軸電圧指令値vd、vqと、電動モータ4の回転子位相αから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwを求める。そして、求めた三相交流電圧指令値vu、vv、vwと、電流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ3のスイッチング素子を開閉することによって、電動モータ4を目標トルク指令値Tm*で指示された所望のトルクで駆動することができる。
【0030】
〈システム構成2〉
図4は、本発明にかかる制御装置が適用される電動車両であって、前述のシステム構成1を備える電動車両とは異なる電動車両の所要なシステム構成(システム構成2)を示すブロック図である。
【0031】
バッテリ1frは、フロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rへ駆動電力を放電し、フロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rからの回生電力により充電される。
【0032】
電動モータコントローラ2frには、車速V、アクセル開度θ、フロント駆動モータ4fの回転子位相αf、リア駆動モータ4rの回転子位相αr、フロント駆動モータ4fの電流(三相交流の場合は、iu、iv、iw)、リア駆動モータ4rの電流(三相交流の場合は、iu、iv、iw)等の車両状態を示す各種車両変数の信号がデジタル信号として入力される。電動モータコントローラ2frは、入力された信号に基づいてフロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rを制御するためのPWM信号をそれぞれ生成する。また、生成したそれぞれのPWM信号に応じてフロントインバータ3fおよびリアインバータ3rの駆動信号を生成する。
【0033】
フロントインバータ3f、および、リアインバータ3r(以下、まとめてフロント/リアインバータ3f、3rともいう)は、相ごとに備えられた2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ1frから供給される直流の電流を交流に変換あるいは逆変換し、フロント駆動モータ4fおよびリア駆動モータ4rに所望の電流を流す。
【0034】
フロント駆動モータ4f(三相交流モータ)、および、リア駆動モータ4r(三相交流モータ)は(以下、まとめてフロント/リア駆動モータ4f、4rともいう)、フロント/リアインバータ3f、3rから供給される交流電流により駆動力を発生し、フロント減速機5fr、リア減速機5r、および、フロントドライブシャフト8f、リアドライブシャフト8rを介して、フロント駆動輪9fおよびリア駆動輪9r(以下、まとめてフロント/リア駆動輪9f、9rともいう)に駆動力を伝達する。また、フロント/リア駆動モータ4f、4rは、車両の走行時にフロント/リア駆動輪9f、9rに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、フロント/リアインバータ3f、3rは、回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1frに供給する。
【0035】
なお、本明細書において記載するフロント駆動輪9fは、車両前方の左右の駆動輪を示し、リア駆動輪9rは、車両後方の左右の駆動輪を示すものとする。
【0036】
フロント回転センサ6f、および、リア回転センサ6rは、例えば、レゾルバやエンコーダであり、フロント/リア駆動モータ4f、4rの回転子位相αf、αrをそれぞれ検出する。
【0037】
図5は、電動モータコントローラ2frによって行われる処理の流れを示すフローチャートである。ステップS501からステップS505に係る処理は、車両システムが起動している間、一定の間隔で常時実行されるようにプログラムされている。
【0038】
ステップS501では、上述したシステム構成1と同様に、以下で説明する制振制御演算に必要なフロント/リアの各構成それぞれの信号を、センサ入力、または、他のコントローラより通信にて取得する。
【0039】
ステップS502では、電動モータコントローラ2frが、車両情報に基づいてドライバが要求する基本目標トルクとしてのトルク指令値Tm*を設定する。具体的には、まず、電動モータコントローラ2frは、ステップS501で入力されたアクセル開度θおよび車速Vに基づいて、図3に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、トルク指令値Tm*を設定する。次に、電動モータコントローラ2frは、前後駆動力配分処理を実行して、フロント目標トルク指令値Tm1*、および、リア目標トルク指令値Tmr1*を算出する。
【0040】
図6は、前後駆動力配分処理を説明するための図である。図中のKfは、ドライバ要求トルクとしてのトルク指令値Tm*に応じて出力する駆動力を、フロント駆動モータ4fとリア駆動モータ4rとに分配するための値であって、0〜1の間の値に設定される。電動モータコントローラ2frは、トルク指令値Tm*に、0〜1の間の値に設定されるKfを乗じることにより、フロント駆動システムへのフロント目標トルク指令値Tm1*を算出する。同時に、電動モータコントローラ2frは、トルク指令値Tm*に、1−Kfを乗じることで、リア駆動システムのリア目標トルク指令値Tmr1を算出する。
【0041】
ステップS503では、電動モータコントローラ2frが制振制御演算処理を行う。本ステップにおいて、システム構成2のフロント駆動システムは、ステップS502で算出したフロント目標トルク指令値Tm1*を入力とし、駆動力伝達系振動(フロントドライブシャフト8fのねじり振動など)を抑制するフロント最終トルク指令値Tmf*を算出する。
【0042】
同様に、リア駆動システムは、ステップS502で算出したリア目標トルク指令値Tmr1を入力とし、駆動力伝達系振動(リアドライブシャフト8rのねじり振動など)を抑制するリア最終トルク指令値Tmrf*を算出する。本発明の特徴である制振制御演算処理の詳細については後述する。
【0043】
ステップS504では、システム構成1と同様に、電動モータコントローラ2frが電流指令値算出処理を行う。具体的には、電動モータコントローラ2frは、ステップS503で算出されたフロント/リア最終トルク指令値Tmf*、Tmrf*に加え、フロント/リアモータ回転角速度ωmf、ωmrや直流電圧値Vdcに基づいて、フロント/リア駆動モータ4f、4rそれぞれのd軸電流目標値id*、q軸電流目標値iq*を求める。
【0044】
ステップS505では、システム構成1と同様に、電動モータコントローラ2frが電流制御を行う。より具体的には、電動モータコントローラ2frは、システム構成1で説明したのと同様に求めたフロント/リア駆動システムへのそれぞれのPWM信号に応じて、フロント/リアインバータ3f、3rのスイッチング素子を開閉することによって、フロント/リア駆動モータ4f、4rをフロント/リア最終トルク指令値Tmf*、Tmrf*で指示された所望のトルクで駆動することができる。
【0045】
以上が、本発明の電動車両の制御装置が適用される電動車両のシステム構成、および、各システムが備えるコントローラ(電動モータコントローラ2、電動モータコントローラ2fr)が実行する処理の概要である。以下では、本発明の実施形態について、本発明の特徴である制振制御演算処理の詳細を中心に説明する。
【0046】
−第1実施形態−
本実施形態の電動車両の制御装置は、上述したシステム構成2に適用されることを前提とする。以下に、第1実施形態の電動車両の制御装置が上述のステップS503にて実行する制振制御処理の詳細を説明する。なお、制振制御処理は、車両の駆動力伝達系において、主にドライブシャフトのねじりに起因した振動を除去(抑制)することを目的として実行される。
【0047】
まず初めに、フロント/リア駆動輪にそれぞれ駆動モータを有する車両(システム構成2、図4参照)のフロントトルク指令値からフロントモータ回転角速度の運動方程式について、図7を参照して説明する。
【0048】
図7は、システム構成2にかかる車両(以下、4WD車両とも称する)の駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは以下のとおりである。なお、補助記号のfはフロントを、rはリアを示している。
mf、Jmr:モータイナーシャ
wf、Jwr:駆動輪イナーシャ(1軸分)
df、Kdr:駆動系のねじり剛性
tf、Ktr:タイヤと路面の摩擦に関する係数
f、Nr:オーバーオールギヤ比
f、rr:タイヤ荷重半径
ωmf、ωmr:モータ回転角速度
θmf、θmr:モータ回転角度
ωwf、ωwr:駆動輪回転角速度
θwf、θwr:駆動輪回転角度
mf、Tmr:モータトルク
df、Tdr:駆動軸トルク
f、Fr:駆動力(2軸分)
θdf、θdr:駆動軸ねじり角度
V:車体速度
M:車体重量
図7より、4WD車両の運動方程式は、次式(1)〜(11)で表される。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
【数3】
【0052】
【数4】
【0053】
【数5】
【0054】
【数6】
【0055】
【数7】
【0056】
【数8】
【0057】
【数9】
【0058】
【数10】
【0059】
【数11】
【0060】
上記式(1)〜(11)をラプラス変換して、フロントモータトルクTmfからフロントモータ回転角速度ωmfまでの伝達特性を求めると、次式(12)で表せる。
【0061】
【数12】
【0062】
ただし、式(12)中の各パラメータは、それぞれ以下式(13)〜(17)で表される。
【0063】
【数13】
【0064】
【数14】
【0065】
【数15】
【0066】
【数16】
【0067】
【数17】
【0068】
式(12)に示す伝達関数の極と零点を調べると、次式(18)となる。
【0069】
【数18】
【0070】
式(18)のαとα´、βとβ´、ζprとζpr´、ωprとωpr´が極めて近い値を示すため、極零相殺(α=α´、β=β´、ζpr=ζpr´、ωpr=ωpr´と近似する)することにより、次式(19)に示すような(2次)/(3次)の伝達特性Gp(s)を構成することができる。
【0071】
【数19】
【0072】
結果として、4WD車両の運動方程式は、フロントのモータトルクからフロントのモータ回転角速度までの伝達特性を2次/3次式で表した車両モデルGp(s)に近似することができる(以下では4WD車両モデルGp(s)ともいう)。
【0073】
ここで、車両モデルGp(s)は、フロントドライブシャフト8fに起因するねじり振動を抑止する規範応答を次式(20)とする場合、フロント駆動システムのねじり振動を抑止するフィードフォワード補償器(フロントF/F補償器801、図8参照)は、以下式(21)で表せる。
【0074】
【数20】
【0075】
【数21】
【0076】
同様に、リアモータトルクTmrからリアモータ回転角速度ωmrまでの伝達特性を求めると、次式(22)となる。
【0077】
【数22】
【0078】
ここで、車両モデルGpr(s)は、リアドライブシャフト8rに起因するねじり振動を抑止する規範応答を次式(23)とする場合、リア駆動システムのねじり振動を抑止するF/F補償器(リアF/F補償器805、図8参照)は、以下式(24)で表せる。
【0079】
【数23】
【0080】
【数24】
【0081】
続いて、4WD車両のリア最終トルク指令値Tmfからフロントモータ回転角速度ωmfまでの運動方程式について、図7を用いて具体的に説明する。
【0082】
上記式(1)〜(11)をラプラス変換して、リア駆動輪の制駆動トルクとしてのリアモータトルク指令値からフロントのモータ回転角速度までの伝達特性を求めると、次式(25)で表せる。なお、式(22)中の各パラメータは、それぞれ上記式(13)〜(17)で表される。
【0083】
【数25】
【0084】
式(25)に示す伝達関数の極を調べると、次式(26)となる。
【0085】
【数26】
【0086】
ただし、式(26)の極のαとβは、原点と支配的な極から遠い位置にあるため、Gprf(s)で表される車両モデルへの影響は少ない。したがって、式(26)は、次式(27)で表す伝達関数に近似することができる。
【0087】
【数27】
【0088】
さらに、車両モデルGprf(s)にリアの制振制御アルゴリズムを考慮すると、次式(28)で示す伝達関数となる。
【0089】
【数28】
【0090】
次に、フロント駆動システムのモータ回転角速度推定値の規範応答からフロント駆動システムのねじり振動を抑止するために、式(28)の伝達関数を次式(29)の伝達関数とする。
【0091】
【数29】
【0092】
同様に、フロント最終トルク指令値Tmfからリアモータ回転角速度ωmrまでの伝達特性は、式(30)となる。
【0093】
【数30】
【0094】
ただし、式(30)の極のαとβは、原点と支配的な極から遠い位置にあるため、Gpfr(s)で表される車両モデルへの影響は少ない。したがって、式(30)は、次式(31)で表す伝達関数に近似することができる。
【0095】
【数31】
【0096】
さらに、車両モデルGpfr(s)にフロントの制振制御のアルゴリズムを考慮すると、次式(32)で示す伝達関数となる。
【0097】
【数32】
【0098】
次に、リア駆動システムのモータ回転角速度推定値の規範応答からリア駆動システムのねじり振動を抑止するために、式(32)式の伝達関数を次式(33)の伝達関数とする。
【0099】
【数33】
【0100】
以上説明した車両モデル(伝達関数)を用いて実行される制振制御演算処理を、図8を参照して説明する。
【0101】
図8は、第1実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図の一例である。図8で示す制御ブロックでは、フロント目標トルク指令値Tm1*と、フロントモータ回転角速度ωmfと、リア目標トルク指令値Tmr1*とから、フロント最終トルク指令値Tmf*が算出される。また、リア目標トルク指令値Tmr1*と、リアモータ回転角速度ωmrと、フロント目標トルク指令値Tm1*とから、リア最終トルク指令値Tmrf*が算出される。以下、図8で図示する各制御ブロックの詳細を説明する。
【0102】
フロントF/F補償器801は、上記式(21)で表されるフィルタGr(s)/Gp(s)から構成される。フロントF/F補償器801は、フロント目標トルク指令値Tm1*を入力とし、上記式(21)によるF/F補償処理を行うことにより、第1のトルク指令値を算出する。
【0103】
加算器809は第1のトルク指令値と、後述する第2のトルク指令値とを加算することによりフロント最終トルク指令値Tmf*を算出する。
【0104】
制御ブロック802は、上記式(12)で表される車両モデルGp(s)により構成される。制御ブロック802は、フロント最終トルク指令値Tmf*を入力とし、車両モデルGp(s)を用いて、フロントモータ回転角速度推定値を算出する。
【0105】
制御ブロック803は、上記式(25)で表される車両モデルGprf(s)により構成される。制御ブロック803は、リア駆動輪の制駆動トルクとしてのリア目標トルク指令値Tmr1*を入力とし、車両モデルGprf(s)を用いて、モータ回転角速度補正量としての補正フロントモータ回転角速度推定値を算出する。なお、車両モデルGprf(s)は、電動モータコントローラ2frのソフト演算負荷低減のため、上記式(25)の近似式である式(26)〜(28)のいずれの式を用いても良い。
【0106】
加算器810は、制御ブロック802の出力であるフロントモータ回転角速度推定値に、制御ブロック803の出力である補正フロントモータ回転角速度推定値を加算することにより、リア駆動輪の制駆動力を考慮して補正された、補正後のフロントモータ回転角速度推定値を算出する。これにより、フロントモータ回転角速度の推定値と検出値とを一致させることができる。
【0107】
減算器811は、補正後のフロントモータ回転角速度推定値からモータ回転角速度ωmf(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック804に出力する。
【0108】
制御ブロック804は、バンドパスフィルタHf(s)と、上記式(19)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック804は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hf(s)/Gp(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。バンドパスフィルタHf(s)の詳細は後述する。
【0109】
そして、加算器809において、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とが足し合わされて、フロント最終トルク指令値Tmf*が算出される。
【0110】
次にリア最終トルク指令値Tmrfの算出について説明する。リアF/F補償器805は、上記式(24)で表されるフィルタから構成される。リアF/F補償器805は、リア目標トルク指令値Tmr1*を入力とし、上記式(24)によるF/F補償処理を行うことにより、第3のトルク指令値を算出する。
【0111】
加算器812は第3のトルク指令値と、後述する第4のトルク指令値とを加算することによりリア最終トルク指令値Tmrf*を算出する。
【0112】
制御ブロック806は、上記式(22)で表される車両モデルGpr(s)により構成される。制御ブロック806は、リア最終トルク指令値Tmrf*を入力とし、車両モデルGpr(s)を用いて、リアモータ回転角速度推定値を算出する。
【0113】
制御ブロック807は、上記式(30)で表される車両モデルGpfr(s)により構成される。制御ブロック807は、フロント目標トルク指令値Tm1*を入力とし、車両モデルGpfr(s)を用いて、補正リアモータ回転角速度推定値を算出する。なお、車両モデルGpfr(s)は、電動モータコントローラ2frのソフト演算負荷低減のため、上記式(30)の近似式である式(31)〜(33)のいずれの式を用いても良い。
【0114】
加算器813は、制御ブロック806の出力であるリアモータ回転角速度推定値に、制御ブロック807の出力である補正リアモータ回転角速度推定値を加算することにより、フロント駆動輪の制駆動力を考慮して補正された、補正後のリアモータ回転角速度推定値を算出する。これにより、リアモータ回転角速度の推定値と検出値とを一致させることができる。
【0115】
減算器814は、補正後のリアモータ回転角速度推定値からリアモータ回転角速度ωmr(検出値)を減算して、リアモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック808に出力する。
【0116】
制御ブロック808は、バンドパスフィルタHr(s)と、上記式(22)で表す車両モデルGpr(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック808は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hr(s)/Gpr(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。バンドパスフィルタHr(s)の詳細は後述する。
【0117】
そして、加算器812において、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とが足し合わされて、リア最終トルク指令値Tmrf*が算出される。
【0118】
ここで、フロント/リアのバンドパスフィルタHf(s)、Hr(s)について説明する。バンドパスフィルタHf(s)、Hr(s)は、ローパス側、および、ハイパス側の減衰特性が略一致し、かつ、駆動系のねじり共振周波数fpが、対数軸(logスケール)上で、通過帯域の中央部近傍となるように設定される。
【0119】
例えば、バンドパスフィルタHf(s)、Hr(s)を一次のハイパスフィルタと一次のローパスフィルタとで構成する場合は、バンドパスフィルタHf(s)は、次式(34)のように構成され、バンドパスフィルタHrは、次式(35)のように構成される。
【0120】
【数34】
【0121】
ただし、τLf=1/(2πfHCf)、fHCf=kf・fpf、τHf=1/(2πfLCf)、fLCf=fpf/kfである。また、周波数fpfはフロント駆動システムの駆動系のねじり共振周波数とし、kfはバンドパスを構成する任意の値とする。
【0122】
【数35】
【0123】
ただし、τLr=1/(2πfHCr)、fHCr=kr・fpr、τHr=1/(2πfLCr)、fLCr=fpr/krである。また、周波数fprはリア駆動システムの駆動系のねじり共振周波数とし、krはバンドパスを構成する任意の値とする。
【0124】
ここで、第1実施形態の電動車両の制御装置による制振制御演算結果について、図9を参照して説明する。
【0125】
図9は、第1実施形態、および、後述する第2、第4実施形態の電動車両の制御装置による制振結果と、従来技術による制御結果とを比較するタイムチャートである。図中、上から順に、フロント最終トルク指令値Tmf*、リア最終トルク指令値Tmrf*、フロントの制振F/Bトルクである第2のトルク指令値、リアの制振F/Bトルクである第4のトルク指令値、車両の前後加速度、および、該前後加速度の拡大図をそれぞれ表している。なお、各図中の実線は、第1、第2、第4実施形態による制御結果を示し、破線は、従来技術による制御結果を示す。
【0126】
図9で示されるのは、フロントだけでなく、リア駆動輪の動力源にも電動モータを有する4WD電動車両において、停車状態からドライバがアクセルを急峻に踏み込むことによりフロント目標トルク指令値とリア目標トルク指令値とがステップ的に増加した場合に、車両が加速する場面での該車両の制御状態である。
【0127】
まず、時刻t1において、ドライバがアクセルペダルを踏み込むことにより、フロント目標トルク指令値とリア目標トルク指令値とがステップで変化する。
【0128】
そうすると、従来技術(破線)では、フロント/リアの一方の制駆動力しか考慮されていないので、他方の駆動輪による駆動力が加味される分、フィードバック制御系で算出されるフロント/リアのモータ回転速度推定値の値よりも実際の検出値が大きくなる。そうすると、想定よりも大きく検出されたモータ回転速度分のトルクを補償するため、時刻t1からt3にかけて、加速を妨げる負トルク側(モータトルクを小さくする方向)にトルク指令値を補正してしまう(第2、第4のトルク指令値参照)。そのため、フロント最終トルク指令値Tmf*とリア最終トルク指令値Tmrf*もドライバの要求するトルク指令値を出力することができなくなる。結果として、時刻t3に比べて、時刻t2付近の車両の前後加速度(加速度)がより制限されていることが分かる(特に前後加速度(拡大図)参照)。
【0129】
このように、従来技術では、制振制御のF/B補償器から余分な振動抑制補償が出力されることにより、車両の加速が妨げられ、ドライバによるアクセル操作あるいはブレーキ操作に基づくドライバの意図する加減速度を得ることができないので、ドライバに違和感を与えてしまう。
【0130】
これに対して、第1実施形態の電動車両の制御装置(実線)によれば、時刻t1にてフロント/リアの目標トルク指令値がステップで変化した場合でも、時刻t1〜t3での第2のトルク指令値および第4のトルク指令値は0である。これは、モータ回転角速度の推定値と検出値が一致した状態といえる。したがって、第1実施形態の電動車両の制御装置によれば、従来技術(破線)のように、フィードバック制御系においてフロントモータ回転角速度の推定値と検出値との差分に基づくトルク成分を補償するためにF/B補償器から余分な振動抑制補償(負トルク)が出力されるのを抑止することができる。そのため、時刻t1〜t3では、フロント最終トルク指令値Tmf*、リア最終トルク指令値Tmrf*はともに、ドライバの意図通りのトルク指令値を出力できている。
【0131】
この結果、フロントとリアの駆動輪を使用する加速時でも、ドライバの意図する加速度を得ることができる。これは、フロント駆動輪に対するリアのモータ回転角速度(あるいは、リア駆動輪に対するフロントのモータ回転角速度)の伝達関数に基づいて構成されたフィルタを用いてモータ回転角速度推定値を補正した効果である。
【0132】
なお、4WD電動車両の駆動側の制御結果について説明したが、回生時の制御結果も同様である。すなわち、従来技術では、4WD電動車両が減速する際、第2のトルク指令値と第4のトルク指令値とが余分な振動抑制補償により正トルク側に補正されることにより減速が妨げられるので、ドライバの意図する減速度を得ることができない。これに対して、第1実施形態の電動車両の制御装置によれば、上述の駆動側の制御と同様に、制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償(正トルク)が出力されることを抑止することができるので、ドライバの意図する減速を実現することができる。
【0133】
以上、第1実施形態の電動車両の制御装置は、車両情報に基づいてモータトルク指令値を設定し、フロント駆動輪およびリア駆動輪の一方の駆動輪を第1駆動輪(本実施形態においてはフロント駆動輪とする)として当該第1駆動輪につながる第1モータ(モータ4f)のトルクを制御する電動車両の制御方法を実現する装置である。当該電動車両の制御装置は、モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第1のトルク指令値を算出し、第1モータの回転角速度を検出し、第1のトルク指令値に基づいて、第1駆動輪へのトルク入力から第1モータの回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルGp(s)を用いて第1モータの回転角速度を推定する。そして、車両モデルGp(s)の逆特性と、車両のねじり振動周波数近傍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタHf(s)とで構成されるフィルタHf(s)/Gp(s)を用いて、第1モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第2のトルク指令値を算出し、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを加算して得られるフロント最終トルク指令値に従って第1モータのトルクを制御し、第1駆動輪とは別の駆動輪である第2駆動輪の制駆動トルクが入力される際には、当該制駆動トルクに基づいて前記第1モータの回転角速度の推定値を補正する。当該補正は、予めモデル化された第2駆動輪に対する第1モータの回転角速度の伝達関数を用いてモータ回転角速度補正量を算出し、当該モータ回転角速度補正量に基づいて第1モータの回転角速度の推定値を補正する。
【0134】
これにより、リア駆動輪から制駆動トルクが入力された場合でも、フロントモータ回転角速度の推定値と検出値とを一致させることができるので、フィードバック制御系においてフロントモータ回転角速度の推定値と検出値との乖離分に基づくトルク成分を補償するためにF/B補償器から余分な振動抑制補償が出力されるのを抑止することができる。
【0135】
−第2実施形態−
本実施形態の電動車両の制御装置は、上述したシステム構成2に適用されることを前提とする。以下、第2実施形態の電動車両の制御装置が上述したステップS503にて実行する制振制御演算処理について、図10を参照して説明する。
【0136】
図10は、第2実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図の一例である。図10に示す制御ブロックは、フロントF/F補償器901と、リアF/F補償器902と、4WD車両モデル903と、制御ブロック904と、制御ブロック905と、加算器908、909と、減算器906、907とから構成される。
【0137】
フロントF/F補償器901は、フロントの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタであって、上記式(21)で表されるフィルタGr(s)/Gp(s)から構成される。フロントF/F補償器901は、フロント目標トルク指令値Tm1*を入力とし、上記式(21)によるF/F補償処理を行うことにより、第1のトルク指令値を算出する。
【0138】
リアF/F補償器902は、リアの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタであって、上記式(24)で表されるフィルタGrr(s)/Gpr(s)から構成される。リアF/F補償器902は、リア目標トルク指令値Tmr1*を入力とし、上記式(24)によるF/F補償処理を行うことにより、第3のトルク指令値を算出する。
【0139】
4WD車両モデル903は、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値とを入力とし、図11で表される車両モデルを用いて、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfと、リアモータ回転角速度推定値ω^mrとを算出する。ここで用いられる車両モデルは、図11で示すとおり、フロント駆動輪とリア駆動輪とを有する四輪駆動車(4WD車両)の駆動力伝達系、すなわち、フロント駆動輪およびリア駆動輪へのトルク入力からフロント駆動モータおよびリア駆動モータのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルである。図11で示す4WD車両モデル903は、4WD車両の運動方程式(1)〜(11)と等価に構成されたブロック構成図である。
【0140】
ここで、図示する4WD車両モデル903において、第1のトルク指令値に基づいてフロントモータ回転角速度推定値ω^mfを算出する系に、第3のトルク指令値に基づいて算出されたリア駆動輪の駆動力Frが加算されている。これにより、4WD車両モデルにおいて、第1のトルク指令値に基づいて算出されるフロントモータ回転角速度推定値を、リア駆動輪の制駆動トルクを表す第3トルク指令値に基づいて補正することができる。
【0141】
図10で示す減算器906は、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfからモータ回転角速度ωmf(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック904に出力する。
【0142】
制御ブロック904は、上記式(34)で表すバンドパスフィルタHf(s)と、上記式(19)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック804は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hf(s)/Gp(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。
【0143】
加算器908は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを足し合わせて、フロント最終トルク指令値Tmf*を算出する。
【0144】
一方、減算器907は、リアモータ回転角速度推定値ω^mrからモータ回転角速度ωmr(検出値)を減算して、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出し、算出した値を制御ブロック905に出力する。
【0145】
制御ブロック905は、上記式(35)で表すバンドパスフィルタHr(s)と、上記式(19)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック804は、モータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hr(s)/Gpr(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。
【0146】
加算器909は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを足し合わせて、リア最終トルク指令値Tmrf*を算出する。
【0147】
ここで、フロント駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fpfと、リア駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fprとが異なる場合(fpf≠fpr)は、フロント駆動輪とリア駆動輪の駆動力応答を揃えるために、フロントF/F補償器901が行うF/F補償処理と、リアF/F補償器902が行うF/F補償処理の規範応答を一致させても良い。すなわち、図12で示すように、フロントF/F補償器901の構成に、制御ブロック1101を考慮することにより、フロントF/F補償器901が行うF/F補償処理と、リアF/F補償器902が行うF/F補償処理の規範応答を一致させることができる。
【0148】
これにより、ドライバがアクセルをON/OFF操作した際のフロント/リアのトルクの立上りと立下りをそれぞれ統一させることができるので、フロント/リア駆動輪の駆動力の応答スピードの違いにより2段加速感が生じることを抑止することができる。また、制振制御のアウターループの制御系を設計する際、複数駆動輪の規範応答を揃えることにより、制御系の設計を容易にすることができる。
【0149】
制御ブロック1101は、次式(36)で表されるフィルタGr(s)/Gp(s)から構成される。
【0150】
【数36】
【0151】
また、fpf≠fprの場合には、フロント駆動輪とリア駆動輪の駆動力応答を揃えるために、フロントF/F補償器901とリアF/F補償器902とを、図13で示すような構成としてもよい。すなわち、フロントF/F補償器901とリアF/F補償器902とが、それぞれ、フロントの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGr(s)/Gp(s)と、リアの駆動軸ねじり振動を抑止するフィルタGrr(s)/Gpr(s)の両方のフィルタにより構成されても良い。このような構成によっても、フロントF/F補償器901が行うF/F補償処理と、リアF/F補償器902が行うF/F補償処理の規範応答を一致させることができる。
【0152】
このような構成によれば、複数駆動輪のねじり振動周波数が全て減衰されるので、フロント/リアのF/F補償器901、902のみで、全ての駆動軸ねじり振動を抑制することができる。
【0153】
なお、フロント駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fpfが、リア駆動システムの駆動軸ねじり共振周波数fprより小さい場合(fpf<fpr)は、フロント/リアの駆動輪の規範応答を低周波側の特性に合わせるために、高周波側のリアF/F補償器902のF/F補償処理を、フロントF/F補償器901のF/F補償処理側に考慮しても良い。すなわち、図14で示すように、リアF/F補償器902の構成に、制御ブロック1201を考慮することにより、フロント/リア駆動輪の駆動力応答を、より低周波側の特性に合わせることができる。制御ブロック1201は、上記式(23)で表す車両モデルGrr(s)の逆特性と、上記式(20)で表す車両モデルGr(s)とで表されるフィルタGr(s)/Grr(s)により構成される。
【0154】
ここで、複数駆動輪の規範応答を高周波側に合わせると、低周波側の駆動軸ねじり振動周波数特性を持つ駆動輪に対して進み補償が必要となるので、当該駆動輪に対して、ドライバの要求するトルク以上のトルクを指示するトルク指令値を設定することになる。しかしながら、全開加速時等はトルクの上下限制限等があるため、進み補償を行うと規範応答通りのトルクを出力できない場合がある。したがって、本実施形態では、複数駆動輪の規範応答を低周波側に合わせている。
【0155】
以上のように算出されたリア最終トルク指令値Tmrf*とフロント最終トルク指令値Tmf*によっても、上述の図9で示した制御結果が示すとおり(図中の第2実施形態参照)、制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償が出力されることを抑止することができるので、フロントとリアの駆動輪を使用する加速時でも、ドライバの意図する加速度を得ることができる。
【0156】
以上、第2実施形態の電動車両の制御装置は、電動車両が第2駆動輪(リア駆動輪)の動力源として第2モータ(リア駆動モータ)を備える場合は、車両モデルGp(s)は、第1駆動輪および第2駆動輪へのトルク入力から第1モータおよび第2モータのモータ回転角速度への伝達特性を模擬した4WD車両モデルであって、モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第3のトルク指令値を算出し、第2モータの回転角速度を検出し、第2駆動輪へのトルク入力から第2モータのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した車両モデルGpr(s)の逆特性と、車両のねじり振動周波数近傍の周波数を中心周波数とするバンドパスフィルタHr(s)とで構成されるフィルタHr(s)/Gpr(s)を用いて、第2モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第4のトルク指令値を算出し、第3のトルク指令値と第4のトルク指令値とを加算して得られる第2最終トルク指令値に従って第2モータのトルクを制御する。そして、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値とを入力とし、4WD車両モデルを用いて、第1モータの回転角速度推定値と第2モータの回転角速度推定値を算出するとともに、第3トルク指令値に基づいて第1モータの回転角速度推定値を補正する。
【0157】
これにより、リア駆動輪から制駆動トルクが入力された場合でも、複数駆動輪を対象として設計された4WD車両モデルを用いてフロントモータ回転角速度の推定値と検出値とを一致させることができる。したがって、フィードバック制御系においてフロントモータ回転角速度の推定値と検出値との乖離分に基づくトルク成分を補償するためにF/B補償器から余分な振動抑制補償が出力されるのを抑止することができる。
【0158】
また、第2実施形態の電動車両の制御装置によれば、第1駆動輪(フロント駆動輪)の駆動軸ねじり振動周波数と、第2駆動輪(リア駆動輪)の駆動軸ねじり振動周波数とが異なる場合は、第1のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答と、第3のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答とを一致させる。これにより、ドライバがアクセルをON/OFF操作した際のフロント/リアのトルクの立上りと立下りをそれぞれ統一させることができるので、フロント/リア駆動輪の駆動力の応答スピードの違いにより2段加速感が生じることを抑止することができる。
【0159】
また、第2実施形態の電動車両の制御装置によれば、第1駆動輪(フロント駆動輪)の駆動軸ねじり振動周波数を減衰させる伝達特性を有するフィルタを用いたフィードフォワード演算により第1のトルク指令値を算出し、第2駆動輪(リア駆動輪)の駆動軸ねじり振動周波数を減衰させる伝達特性を有するフィルタを用いたフィードフォワード演算により第3のトルク指令値を算出してもよい。これにより、複数駆動輪のねじり振動周波数が全て減衰されるので、フロント/リアのF/F補償器のみで、全ての駆動軸ねじり振動を抑制することができる。
【0160】
また、第2実施形態の電動車両の制御方法によれば、第1駆動輪(フロント駆動輪)の駆動軸ねじり振動周波数より第2駆動輪(リア駆動輪)の駆動軸ねじり振動周波数が小さい場合は、第1のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答を、第3のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答に一致させる。また、第2駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数より第1駆動輪の駆動軸ねじり振動周波数が小さい場合は、第3のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答を、第1のトルク指令値を算出するフィードフォワード演算において使用する規範応答に一致させる。これにより、進み補償を必要とせずに、ドライバがアクセルをON/OFF操作した際のフロント/リアのトルクの立上りと立下りをそれぞれ統一させることができるので、フロント/リア駆動輪の駆動力の応答スピードの違いにより2段加速感が生じることを抑止することができる。
【0161】
−第3実施形態−
本実施形態の電動車両の制御装置は、上述したシステム構成1に適用されることを前提とする。以下、第3実施形態の電動車両の制御装置が上述したステップS203にて実行する制振制御演算処理について、図面等を参照して説明する。
【0162】
最初に、本実施形態における制振制御演算処理で用いられる車両モデルについて説明する。
【0163】
図15は、システム構成1の車両の駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは以下に示すとおりである。
m:モータイナーシャ
w:駆動輪イナーシャ(1軸分)
M:車体重量
d:駆動系のねじり剛性
t:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤ荷重半径
ωm:モータ回転角速度
θm:モータ回転角度
ωw:駆動輪回転角速度
θw:駆動輪回転角度
m:モータトルク
d:駆動軸トルク
F:駆動力(2軸分)
V:車体速度
θd:駆動軸ねじり角度
図14より、2輪駆動の車両(2WD車両)の運動方程式は、次式(37)〜(42)で表される。
【0164】
【数37】
【0165】
【数38】
【0166】
【数39】
【0167】
【数40】
【0168】
【数41】
【0169】
【数42】
【0170】
上記式(37)〜(42)をラプラス変換して、モータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性を求めると、次式(43)、(44)で表せる。
【0171】
【数43】
【0172】
【数44】
【0173】
ただし、式(44)中のa3、a2、a1、a0、b3、b2、b1、b0、は、それぞれ次式(45)で表される。
【0174】
【数45】
【0175】
また、モータトルクTmから駆動軸トルクTdまでの伝達特性は、次式(46)で表される。
【0176】
【数46】
【0177】
ただし、式(46)中のc1、c2は、次式(47)で表される。
【0178】
【数47】
【0179】
式(38)、(40)、(41)、(42)より、モータ回転速度ωmから駆動輪回転角速度ωwまでの伝達特性を求めると、次式(48)で表される。
【0180】
【数48】
【0181】
式(43)、(44)、(48)より、モータトルクTmから駆動輪回転角速度ωwまでの伝達特性は、次式(49)で表される。
【0182】
【数49】
【0183】
式(46)、(49)より、駆動軸トルクTdから駆動軸回転角速度ωwまでの伝達特性は、次式(50)で表される。
【0184】
【数50】
【0185】
ここで、式(50)を変形すると、次式(51)で表される。
【0186】
【数51】
【0187】
従って、式(50)、(51)より、駆動軸ねじり角速度ωdは、次式(52)で表される。
【0188】
【数52】
【0189】
ただし、式(52)中のHw(s)は、次式(53)で表される。
【0190】
【数53】
【0191】
式(53)中のv1、v0、w1.w0は、次式(54)のとおりである。
【0192】
【数54】
【0193】
また、式(54)は、次式(55)のとおりに変形することができる。
【0194】
【数55】
【0195】
ここで、式(55)中のζpは駆動軸トルク伝達系の減衰係数、ωpは駆動軸トルク伝達系の固有振動周波数である。
【0196】
さらに、式(55)の極と零点を調べると、α≒c0/c1となるため、極零相殺すると、次式(56)となる。
【0197】
【数56】
【0198】
ただし、式(56)中のgtは、次式(57)で表される。
【0199】
【数57】
【0200】
ここで、最終トルク指令値Tmf*は、次式(58)で表すことができる。
【0201】
【数58】
【0202】
そうすると、最終トルク指令値Tmf*は、次式(59)のとおりに置き換えることができる。
【0203】
【数59】
【0204】
そして、モータトルクTm=最終トルク指令値Tmf*(Tm=Tmf*)として、式(59)を式(56)に代入すると、次式(60)のように整理することができる。
【0205】
【数60】
【0206】
モータトルクから駆動軸トルクまでの規範応答は、次式(61)で表される。
【0207】
【数61】
【0208】
規範応答を式(61)とすると、最終トルク指令値Tmf*から駆動軸トルクTdまでの伝達特性(式(60))と、規範応答とが一致する条件は、次式(62)となる。
【0209】
【数62】
【0210】
次に、上記式(37)から(53)を適用して、モータから駆動軸までのギヤのバックラッシュ特性を模擬した不感帯をモデル化(不感帯モデル)する。そうすると、不感帯モデルを考慮した駆動軸トルクTdを、次式(63)で表すことができる。
【0211】
【数63】
【0212】
ここで、θdeadは、モータから駆動軸までのオーバーオールのギヤバックラッシュ量である。
【0213】
図16は、ステップS203で実行される制振制御演算処理を説明するための制御ブロック図である。本実施形態の制振制御演算処理は、F/F補償器1501と、F/B補償器1502と、加算器1503とを用いて実行される。
【0214】
F/F補償器1501は、目標トルク指令値Tm*を入力とし、第1のトルク指令値Tm1*と、第1のトルク指令値Tm1*に対するモータ回転角速度推定値ω^mとを算出する。
【0215】
F/B補償器1502は、モータ回転角速度推定値ω^mと、モータ回転速度検出値ωmと、制駆動力指令値Tmr1*を入力とし、第2のトルク指令値Tm2*を算出する。
【0216】
加算器1503は、第1のトルク指令値Tm1*と第2のトルク指令値Tm2*とを加算して、最終トルク指令値Tmf*を出力する。
【0217】
図17は、図16で示したF/F補償器1501の詳細を示す制御ブロック図である。F/F補償器1501は、駆動軸ねじり角速度F/B演算器1601と、車両モデル1602とから構成される。なお、ここで示すF/F補償器1501は、国際公開番号WO2013/157315に開示するF/F補償器と同一である。
【0218】
車両モデル1602は、式(37)から式(48)を適用して、車両パラメータ(図15参照)と、モータ4から駆動軸8までのギヤバックラッシュを模擬した不感帯モデルにより構成される。なお、車両モデル1602のうち、不感帯ブロック1603で示す不感帯特性(不感帯モデル)が考慮された駆動軸トルクTdは、上記式(63)が適用されて算出される。
【0219】
ここで、車両がコーストや減速から加速するようなシーンでは、ギヤのバックラッシュの影響により駆動モータトルクが駆動軸に伝達されない不感帯区間が発生する。これに対して、不感帯区間が考慮された車両モデル1602を用いて第1のトルク指令値を算出することにより、駆動モータトルクは、不感帯区間では概ね0となり、ギヤが噛み合うタイミングで増加するように制御される。そのため、ギヤバックラッシュの影響によりギヤが離れた場合に、ギヤが再び噛み合う際のショックを抑制することができる。
【0220】
車両モデル1602に第1のトルク指令値が入力されることで、駆動軸ねじり角速度推定値ω^dと、モータ回転角速度推定値ω^mとが算出される。
【0221】
そして、車両モデル1602から出力されたモータ回転角速度推定値は、F/B補償器1502に入力され(図16参照)、駆動軸ねじり角速度推定値ω^dは、駆動軸ねじり角速度F/B演算器1601に入力される。
【0222】
駆動軸ねじり角速度F/B演算器1601は、フィードバックゲイン1604(F/Bゲインk1)と、減算器1605とを備える。そして、駆動軸ねじり角速度F/B演算器901は、目標トルク指令値Tm1*と、駆動軸ねじり角速度推定値ω^dとを入力とし、第1のトルク指令値を算出する。
【0223】
フィードバックゲイン1604は、駆動軸ねじり角速度推定値ω^dを入力とし、上記式(62)を適用して、不感帯区間以外の領域での規範応答に係る減衰係数ζr1に基づいて算出されるF/Bゲインk1を乗じることにより算出される値を減算器1605に出力する。
【0224】
そして、減算器1605において、目標トルク指令値から、フィードバックゲイン1604の出力値を減算して、第1のトルク指令値を算出する。第1のトルク指令値は、車両モデル1602に出力されるとともに、図16で示す加算器1503に出力される。
【0225】
図18は、図16で示したF/B補償器1502の詳細を示す制御ブロック図である。F/B補償器1502は、ゲイン1701(ゲインK)と、制御ブロック1702と、加算器1703、1705と、制御ブロック1704と、減算器1706と、制御ブロック1707とから構成される。
【0226】
ゲインKは、フィードバック制御系の安定余裕(ゲイン余裕、位相余裕)を調整するために配置され、1以下の値に設定される。
【0227】
制御ブロック1702は、上記式(44)を適用した伝達特性Gp(s)により構成されるフィルタである。制御ブロック1702は、フィルタゲインKによるゲイン調整がなされる前の第2のトルク指令値を入力とし、伝達特性Gp(s)を用いて、モータ回転角速度推定値ω^m1を算出する。
【0228】
加算器1703は、F/F補償器1501が有する車両モデル1602により算出されたモータ回転角速度推定値ω^mと、制御ブロック1702の出力であるモータ回転角速度推定値ω^m1を加算して得た値を加算器1705に出力する。
【0229】
制御ブロック1704は、上記式(26)を適用した伝達特性Gprf(s)により構成されるフィルタである。制御ブロック1704は、制駆動力指令値Tmr1*を入力とし、伝達特性Gprf(s)を用いて算出したモータ回転角速度推定値ω^m2を算出する。
【0230】
そして、加算器1705において、モータ回転角速度推定値ω^mとモータ回転角速度推定値ω^m1を加算して得た値と、モータ回転角速度推定値ω^m2とが足し合わされる。これにより、第1のトルク指令値に基づいて算出されるフロントモータ回転角速度推定値を、リア駆動輪の制駆動トルクを表す制駆動力指令値に基づいて補正された最終モータ回転角速度推定値ω^m3が算出される。
【0231】
減算器1706は、最終モータ回転角速度推定値ω^m3から、モータ回転角速度ωmを減算する事により得たモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を制御ブロック1707に出力する。
【0232】
制御ブロック1707は、制御対象の伝達特性Gp(s)の逆系と、バンドパスフィルタHf(s)とから構成されるHf(s)/Gp(s)なるフィルタである。バンドパスフィルタHf(s)は、第1実施形態と同様に上記式(34)が適用されて構成される。制御ブロック1707は、減算器1706の出力であるモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、フィルタHf(s)/Gp(s)を用いて、第2のトルク指令値を算出する。
【0233】
なお、制御ブロック1704で使用する制御対象の伝達特性Gprf(s)は、フロント駆動輪とリア駆動輪のねじり振動周波数がカットオフ周波数となるように考慮した次式(64)を適用して構成されるフィルタで近似してもよい。このようなフィルタで近似することにより、演算負荷を低減することができる。なお、次式(64)は、フロント駆動輪とリア駆動輪の双方のねじり振動周波数を考慮しているが、少なくとも一方の駆動輪のねじり振動周波数のみを考慮したフィルタで近似しても良い。
【0234】
【数64】
【0235】
また、制御ブロック1704で使用する制御対象の伝達特性Gprf(s)は、定常状態における要素の特性(静特性)のみを考慮した、次式(65)を適用して構成されるフィルタで近似してもよい。これにより、車両モデルを用いずに、ゲイン調整によりモータ回転角度推定値ω^m2を算出できるので、演電動モータコントローラ2のソフト演算負荷を低減することができる。
【0236】
【数65】
【0237】
またさらに、制御ブロック1704は、ねじり振動周波数に起因する減衰係数が1未満となる特性を有する場合は、減衰係数ζ(ζpr、ζpf)を1に近似した上記式(29)で表す伝達特性Grrf(s)を、伝達特性Gprf(s)に代えて使用しても良い。すなわち、ねじり振動周波数に起因する減衰係数が1未満となる特性を有する場合は、減衰係数ζ(ζpr、ζpf)を1以上の値に設定してもよい。リア駆動輪からフロント駆動モータのモータ回転角速度の伝達関数において、分母のねじり振動周波数に起因する減衰係数が1未満の特性を有する場合、制駆動力の変化に応じてモータ回転角速度補正量(モータ回転角速度推定値ω^m2)が振動的となる特性がある。この場合、該減衰係数を1以上の値に設定することで、モータ回転角速度補正量の振動的な特性を抑止することができる。
【0238】
加えて、制御ブロック1702および制御ブロック1707にて使用される伝達特性Gp(s)は、第3実施形態においては、上記式(44)で表される2WD車両モデルに基づいて構成される旨説明した。しかしながら、第1実施形態で使用したのと同様に、フロント/リアの駆動力特性を考慮した4WD車両モデルに基づく上記式(12)が適用されて構成されてもよい。フロント駆動輪だけでなく、リア駆動輪も考慮した4WD車両モデルを用いることで、より正確にモータ回転角速度を推定することができる。
【0239】
ここで、第3実施形態の電動車両の制御装置による制振制御結果について、図19を参照して説明する。
【0240】
図19は、第3実施形態の電動車両の制御装置による制振結果と、従来技術による制御結果とを比較するタイムチャートである。図中、上から順に、最終トルク指令値Tmf*、制駆動力指令値Tmr1、第2のトルク指令値、車両の前後加速度をそれぞれ表している。なお、各図中の実線は、第3実施形態による制御結果を示し、破線は、従来技術による制御結果を示す。ただし、制駆動力指令値Tm1*は、従来と本実施形態において差異はないので、破線で示す。
【0241】
図19で示されるのは、2WD電動モータ車両で該電動モータが繋がる駆動輪とは別の駆動輪にも制駆動力(例えば、ブレーキトルクやエンジン出力等)が入力される車両での制御結果である。具体的には、停車状態からドライバがアクセルを急峻に踏み込むことによりフロント目標トルク指令値と別駆動輪の制駆動力指令値が増加して、車両が加速する場面における制御結果を示す。
【0242】
まず、時刻t1において、ドライバがアクセルペダルを踏み込むことにより、フロント最終トルク指令値がステップで変化する。
【0243】
そうすると、従来技術(破線)では、フロント/リア双方の制駆動力が考慮されていないので、別の駆動輪による駆動力が加わる分、フィードバック制御系で想定されるフロントのモータ回転速度の検出値が大きくなる。そうすると、想定よりも大きく検出されたモータ回転速度分のトルクを補償するため、時刻t1からt3にかけて、加速を妨げる負トルク側(モータトルクを小さくする方向)にトルク指令値を補正してしまう(第2のトルク指令値参照)。そのため、フロント最終トルク指令値Tmf*もドライバの要求するトルク指令値を出力することができなくなる。結果として、時刻t3に比べて、時刻t2付近の車両の前後加速度がより制限されていることが分かる。
【0244】
このように、従来技術では、制振制御のF/B補償器から余分な振動抑制補償が出力されることにより、車両の加速が妨げられ、ドライバによるアクセル操作あるいはブレーキ操作に基づくドライバの意図する加減速度を得ることができず、ドライバに違和感を与えてしまう。
【0245】
これに対して、第3実施形態の電動車両の制御装置(実線)によれば、時刻t1にてフロント最終トルク指令値がステップで変化した場合でも、時刻t1〜t3での第2のトルク指令値は0である。したがって、第3実施形態の電動車両の制御装置によっても、従来技術(破線)のような制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償(負トルク)が出力されることを抑止することができる。そのため、時刻t1〜t3において、フロント最終トルク指令値Tmf*は、ドライバの意図通りのトルク指令値を出力できている。
【0246】
この結果、別駆動輪に制駆動力が発生した場合でも、ドライバの意図する加速度を得ることができる。これは、別の駆動輪の制駆動力指令値に応じた駆動輪のモータ回転角速度の伝達関数に基づいて構成されたフィルタを用いて、モータ回転角速度推定値を補正した効果である。
【0247】
なお、2WD電動車両の駆動側の制御結果について説明したが、回生時も同様である。すなわち、従来技術では、2WD電動車両が減速する際、第2のトルク指令値が余分な振動抑制補償により正トルク側に補正されることにより減速が妨げられ、ドライバの意図する減速度を得ることができない。これに対して、第3実施形態の電動車両の制御装置によれば、上述の駆動側の制御と同様に、制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償(正トルク)が出力されることを抑止することができ、ドライバの意図する減速を実現することができる。
【0248】
以上、第3実施形態の電動車両の制御装置によれば、フィードフォワード演算において、第1モータ(フロント駆動モータ)のトルクが駆動軸トルクに伝達されない不感帯を有する不感帯車両モデル(車両モデル1602)を用いて、モータトルク指令値から駆動軸ねじり角速度を算出し、算出した駆動軸ねじり角速度をモータトルク指令値にフィードバックさせることによって、第1のトルク指令値を算出する。これにより、モータトルクは、不感帯区間では概ね0となり、ギヤが噛み合うタイミングで増加するように制御される。その結果、ギヤバックラッシュの影響によりギヤが離れた場合に、ギヤが再び噛み合う際のショックを抑制することができる。
【0249】
また、第3実施形態の電動車両の制御装置によれば、第2駆動輪(リア駆動輪)に対する第1モータ(フロント駆動モータ)の回転角速度の伝達関数のフィルタは、第1駆動輪(フロント駆動輪)および第2駆動輪の少なくとも一方のねじり振動周波数をカットオフ周波数に設定したフィルタで近似される。これにより、電動モータコントローラ2にようソフト演算負荷を低減することができる。
【0250】
また、第3実施形態の電動車両の制御装置によれば、第2駆動輪(リア駆動輪)に対する第1モータ(フロント駆動モータ)の回転角速度の伝達関数のフィルタは、第2駆動輪に対する第1モータの回転角速度の伝達特性のゲイン成分を構成するように近似される。これにより、車両モデルを用いずに、ゲイン調整によりモータ回転角度推定値ω^m2を算出できるので、演電動モータコントローラ2のソフト演算負荷を低減することができる。
【0251】
また、第3実施形態の電動車両の制御装置によれば、第2駆動輪(リア駆動輪)に対する第1モータ(フロント駆動モータ)の回転角速度の伝達関数のフィルタは、分母にねじり振動周波数に起因する減衰係数を有し、減衰係数が1未満となる特性を有する場合は、当該減衰係数を1以上の値に設定する。これにより、モータ回転角速度補正量の振動的な特性を抑止することができる。
【0252】
また、第3実施形態の電動車両の制御装置によれば、車両モデルGp(s)として、第1駆動輪および第2駆動輪へのトルク入力から第1モータおよび第2モータのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した4WD車両モデルを用いてよい。フロント駆動輪だけでなく、リア駆動輪も考慮された車両モデルを用いることで、より正確にモータ回転角速度を推定することができる。
【0253】
−第4実施形態−
本実施形態の電動車両の制御装置は、上述したシステム構成2に適用されることを前提とする。以下、第4実施形態の電動車両の制御装置が上述したステップS503にて実行する制振制御演算処理について、図20、21を参照して説明する。
【0254】
図20は、第4実施形態の制振制御演算処理を実現するブロック構成図の一例である。図20で示す制御ブロックは、F/F補償器1801と、制御ブロック1802と、制御ブロック1803と、加算器1804、1805と、減算器1806、1807とから構成される。
【0255】
F/F補償器1801は、フロント目標トルク指令値Tm1*と、リア目標トルク指令値Tmr1*とを入力とし、4WD車両モデルを使用したF/F補償処理を行う。これにより、F/F補償器1801は、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とを算出するとともに、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfと、リアモータ回転角速度推定値ω^mrとを算出する。F/F補償器1801の詳細を図21を用いて説明する。
【0256】
図21は、F/F補償器1801において実行されるF/F補償処理を実現する制御ブロック構成の一例である。
【0257】
図示するとおり、F/F補償器1801は、4WD車両モデル1900と、フロント駆動軸ねじり角速度F/B演算器1901と、リア駆動軸ねじり角速度F/B演算器1902と、から構成される。
【0258】
4WD車両モデル1900は、4WD車両の運動方程式(1)〜(11)と等価に構成された図10で示す4WD車両モデル903に、フロント不感帯モデル1903と、リア不感帯モデル1904とを加えて構成される。
【0259】
フロント不感帯モデル1903は、車両パラメータ(図7参照)とフロント駆動モータ2fからフロント駆動輪9fまでのギヤバックラッシュ特性を模擬した不感帯モデルであって、前述の式(63)で表される。
【0260】
リア不感帯モデル1904は、フロントと同様に、車両パラメータ(図7参照)とリア駆動モータ2rからフロント駆動輪9rまでのギヤバックラッシュ特性を模擬した不感帯モデルであって、上記式(37)から(53)を適用して、次式(66)で表される。
【0261】
【数66】
【0262】
このように構成された4WD車両モデル1900は、第1のトルク指令値と第3のトルク指令値とを入力とし、フロント駆動軸ねじり角速度推定値と、リア駆動軸ねじり角速度推定値と、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfと、リアモータ回転角速度推定値ω^mrとを算出する。
【0263】
ここで、図示する4WD車両モデル1900において、第1のトルク指令値に基づいてフロントモータ回転角速度推定値ω^mfを算出する系に、第3のトルク指令値に基づいて算出されたリア駆動輪の駆動力Frが加算されている。これにより、4WD車両モデルにおいて、第1のトルク指令値に基づいて算出されるフロントモータ回転角速度推定値を、リア駆動輪の制駆動トルクを表すリア目標トルク指令値に基づいて補正することができる。
【0264】
フロント駆動軸ねじり角速度F/B演算器1901は、まず、入力されるフロント駆動軸ねじり角速度推定値に、フロント最終トルク指令値からフロント駆動軸トルクまでの伝達特性と規範応答とを一致させるためのゲインk1を乗じる。そして、フロント目標トルク指令値Tm1*からフロント駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk1を乗じた値を減じて、第1のトルク指令値を算出する。ゲインk1は、上記式(62)が適用される。
【0265】
リア駆動軸ねじり角速度F/B演算器1902は、まず、入力されるリア駆動軸ねじり角速度推定値に、リア最終トルク指令値からリア駆動軸トルクまでの伝達特性と規範応答とを一致させるためのゲインk2を乗じる。そして、リア目標トルク指令値Tmr1*からリア駆動軸ねじり角速度推定値にゲインk2を乗じた値を減じて、第3のトルク指令値を算出する。ゲインk2は、次式(67)で表される。
【0266】
【数67】
【0267】
図20に戻って説明を続ける。加算器1806は、フロントモータ回転角速度推定値ω^mfから、フロントモータ回転角速度ωmfを減算することで、フロントモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出して、算出値を制御ブロック1802に出力する。
【0268】
制御ブロック1802は、上記式(34)で表すバンドパスフィルタHf(s)と、上記式(19)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック1802は、フロントモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hf(s)/Gp(s)を乗算することにより、第2のトルク指令値を算出する。
【0269】
そして、加算器1804において第1のトルク指令値と第2のトルク指令値とが足し合わされることにより、フロント最終トルク指令値Tmf*が算出される。
【0270】
同様に、加算器1807は、リアモータ回転角速度推定値ω^mrから、リアモータ回転角速度ωmrを減算することで、リアモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を算出して、算出値を制御ブロック1803に出力する。
【0271】
制御ブロック1802は、上記式(35)で表すバンドパスフィルタHr(s)と、上記式(19)で表す車両モデルGp(s)の逆特性とから構成される。制御ブロック1803は、リアモータ回転角速度の推定値と検出値の偏差を入力とし、Hr(s)/Gp(s)を乗算することにより、第4のトルク指令値を算出する。
【0272】
そして、加算器1805において第3のトルク指令値と第4のトルク指令値とが足し合わされることにより、リア最終トルク指令値Tmrf*が算出される。
【0273】
ここで、複数駆動輪を有する車両において、フロントとリアの駆動輪の駆動軸ねじり振動共振周波数が異なる場合、一方の駆動輪は、他方の駆動輪のトルク外乱の影響により駆動軸ねじり振動が誘起されてしまう。しかしながら、上述したように、複数駆動輪を対象とする車両モデル1900と、複数駆動輪それぞれに配置された駆動ねじり角速度F/B演算器1901、1902を用いることにより、上記の駆動軸ねじり振動を抑制することができる。なお、制御系の遅れや外乱が無い場合には、F/F補償器1801のみでフロント/リアの駆動輪の駆動軸ねじり振動を抑制することも可能である。
【0274】
このように算出されたリア最終トルク指令値Tmrf*とフロント最終トルク指令値Tmf*によっても、上述の図9で示した制御結果が示すとおり(図中の第4実施形態参照)、制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償が出力されることを抑止することができるので、フロントとリアの駆動輪を使用する加速時でも、ドライバの意図する加速度を得ることができる。
【0275】
以上、第4実施形態の電動車両の制御装置によれば、電動車両が第2駆動輪(リア駆動輪)の動力源として第2モータ(リア駆動モータ)を備える場合は、車両モデルGp(s)は、前記第1駆動輪および前記第2駆動輪へのトルク入力と第1モータ(フロント駆動モータ)および第2モータのモータ回転角速度までの伝達特性を模擬した4WD車両モデルであって、モータトルク指令値に基づくフィードフォワード演算により第3のトルク指令値を算出し、第2モータの回転角速度を検出し、第2モータの回転角速度の検出値と推定値との偏差から第4のトルク指令値を算出し、第3のトルク指令値と第4のトルク指令値とを加算して得られる第2最終トルク指令値に従って第2モータのトルクを制御する。そして、フィードフォワード演算では、モータトルク指令値を第1駆動輪への第1目標トルク指令値(フロント目標トルク指令値)と第2駆動輪への第2目標トルク指令値(リア目標トルク指令値)とに分配し、第1目標トルク指令値と第2目標トルク指令値とを入力とし、4WD車両モデル1900を用いて、第1モータの回転角速度推定値と第2モータの回転角速度推定値と第1駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値と第2駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値とを算出するとともに、第2目標トルク指令値に基づいて前記第1モータの回転角速度推定値を補正する。また、第1目標トルク指令値から第1駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値に所定のゲインを乗じた値を減算することにより第1のトルク指令値を算出し、第2目標トルク指令値から第2駆動輪の駆動軸ねじり角速度推定値に所定のゲインを乗じた値を減算することにより第3のトルク指令値を算出する。
【0276】
これにより、制振制御のF/B補償器からの余分な振動抑制補償が出力されることを抑止することができるので、フロントとリアの駆動輪を使用する加速時でも、ドライバの意図する加速度を得ることができるとともに、フロント/リアの駆動輪の駆動軸ねじり振動を抑制することができる。
【0277】
以上、本発明に係る一実施形態の電動車両の制御装置について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、様々な変形や応用が可能である。例えば、第1実施形態の電動車両の制御装置は、システム構成2の4WD車両に適用されることを前提とする旨説明したが、システム構成1の車両に適用することもできる。その場合は、リア目標トルク指令値Tmr1*(図6参照)を、システム構成1のF/B補償器1502(図16参照)、および、制御ブロック1704(図18参照)に入力される制駆動力指令値として扱う。これにより、システム構成1の車両においても、リア目標トルク指令値としての制駆動力指令値から、補正モータ回転角速度推定値を算出して、システム構成2の車両と同等の効果を得ることができる。
【0278】
また、上述した実施形態の説明においては、車両の前方側の駆動輪をフロント駆動輪(第1駆動輪)とし、車両の後方側の駆動輪をリア駆動輪(第2駆動輪)として説明したが、車両の前後方向と一致させる必要は必ずしもなく、車両の後方側の駆動輪をフロント駆動輪(第1駆動輪)とし、車両の前方側の駆動輪をリア駆動輪(第2駆動輪)としてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21