【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明の第1の態様は、チタンを含む金属酸化物を含有するセラミック素体を準備する工程と、前記セラミック素体の表層部の一部にパルスレーザを照射し、前記金属酸化物を改質して低抵抗部を形成する工程と、前記低抵抗部上に電極を電解めっき処理により形成する工程と、を備え、前記パルスレーザを、ピークパワー密度1×10
6W/cm
2〜1×10
9W/cm
2、周波数500kHz以下で照射することを特徴とする、セラミック電子部品の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の第2の態様は、チタンを含む金属酸化物を含有したセラミック素体と、前記セラミック素体の表層部の一部に形成され、前記金属酸化物が改質された低抵抗部と、前記低抵抗部上に形成されためっき金属からなる電極と、を備え、前記低抵抗部では金属酸化物がn型半導体化している、ことを特徴とするセラミック電子部品を提供する。
【0012】
本発明は以下の知見に基づく。チタンを含む金属酸化物(以下ではチタン系金属酸化物と呼ぶ)を含有したセラミック素体の表層部にレーザを照射すると、めっき金属を形成するための低抵抗部を形成できないか、又はクラックが発生することがある。その理由は、BaTiO
3のようなチタン系金属酸化物は、金属イオンと酸化物イオンとの結合力が強いため、低
パワーのレーザを照射しただけでは還元せず、低抵抗化が困難であるからと考えられる。一方、高
パワーのレーザを使用したとしても、金属酸化物がアブレーションしてしまったり、クラックが発生したりするため、製品としての特性悪化を招くという問題がある。そこで、レーザとしてパルスレーザを使用し、ピークパワー密度、周波数という2つのパラメータに注目することで、めっき電極を析出可能な低抵抗部を形成することができた。
【0013】
低抵抗部の形成メカニズムは以下のように推測される。すなわち、BaTiO
3のようなチタン系金属酸化物は、レーザ照射による加熱でO欠陥が生成され、余剰となった電子がチタン系金属酸化物の
伝導帯を流れる、いわゆるn型半導体になる。パルスレーザは、短い時間幅の中にエネルギーを集中させることができるため 高いピーク
パワーを得ることができる。パルスとパルスの時間間隔により、金属酸化物の表面近傍のみの
加熱と冷却とが繰り返され、過剰に熱が行き渡らないため、クラックやアブレーションを生じることなく低抵抗化(半導体化)が可能になる。
【0014】
パルスレーザの照射には適切な条件(ピークパワー密度、周波数などのパラメータ)が存在する。具体的には、パルスレーザを、ピークパワー密度1×10
6W/cm
2〜1×10
9W/cm
2、周波数500kHz以下の条件で照射した場合に良好な結果が得られる。上記のピークパワー密度より低いピークパワー密度で照射すると、チタン系金属酸化物が全く半導体化しなかったり、又はO欠陥が生じる温度に達するまでに時間を要するので、熱拡散により表面から比較的深くまで加熱されてしまったりする。その場合、熱影響を受ける範囲が広くなるため、体積膨張によりクラックが生じることがある。クラックが発生すると、たとえ低抵抗部が形成されても、抵抗値が高くなるためめっきできなくなる。一方、上記より高いピークパワー密度で照射すると、短時間で表面近傍の温度が上昇するため、O欠陥が生じる温度領域を超え、クラックが発生したり、金属酸化物が気化し飛散する、いわゆるアブレーションが発生したりすることがある。よって、パルスレーザのピークパワー密度を適切に調節することで、クラックやアブレーションの発生を抑制しながら、チタン系金属酸化物の半導体化が可能になる。
【0015】
パルスレーザの周波数を変更すると、パルスとパルスの時間間隔が変化する。ピークパワー密度が適切であったとしても、周波数が高すぎる(パルスとパルスの時間間隔が短過ぎる)と、一度加熱された表面の冷却が不十分なまま次のパルスが照射され、熱蓄積によりクラックが生じてしまう可能性がある。なお、周波数を極端に低くしたとしても、低抵抗化において特に問題はないと考えられるが、レーザ照射の処理時間の増加を招き、実質的に工業的に用いることが困難になる。
【0016】
パルスレーザの照射条件を、ピークパワー密度1×10
6W/cm
2〜1×10
8W/cm
2、周波数10kHz〜100kHzとした場合には、微細なクラックの発生を抑制でき、めっき析出性の良好な低抵抗部を形成できる。パルスレーザとしては、YVO
4レーザ、YAGレーザなど公知のレーザを使用できる。
【0017】
パルスレーザの照射により低抵抗部を形成可能なチタン系金属酸化物としては、例えば積層セラミックコンデンサに使用されるBaTiO
3がある。なお、BaTiO
3以外にも、SrTiO
3、TiO
2、PbTiO
3、PZT、PLZT、K
2Ti
6O
13、Ba
2Ti
9O
20のような他のチタン系金属酸化物でも、パルスレーザを照射することにより低抵抗部を形成可能である。
【0018】
本発明を積層セラミックコンデンサの外部電極形成に適用することができる。積層セラミックコンデンサの場合、セラミック電子部品の両端面には複数の内部電極の端部が露出しており、セラミック電子部品の両端面に隣接する少なくとも1つの側面であって、両端面との近傍部分に低抵抗部を形成し、めっき金属からなる電極を、セラミック電子部品の両端面と低抵抗部上とに連続的に形成した構造としてもよい。すなわち、低抵抗部を、内部電極の端部が露出した両端面に隣接する側面であって、両端面との近傍部分に形成した場合、このセラミックコンデンサをめっき浴の中に入れて電解めっきを行うことにより、セラミック電子部品の両端面と低抵抗部上とに連続的にめっき電極を形成することができる。両端面には複数の内部電極の端部が露出しているので、格別な低抵抗化を行わなくても、めっき電極を形成可能である。つまり、両端面と低抵抗部とに個別の電極を形成する必要がなく、1回のめっき処理で外部電極を形成可能になる。なお、必要に応じて、内部電極の端部が露出した両端面の一部又は全部にも低抵抗部を形成してもよい。
【0019】
本発明の「低抵抗部」とは、パルスレーザを照射していない部分(酸化物)に比べて抵抗値の低い部分(一種の半導体)を指す。低抵抗部は面状に連続している必要はなく、複数の部分が独立していてもよい。上述のように低抵抗部は他の表面部分に比べて抵抗値が低いので、めっき金属が析出しやすく、析出した金属が核となって成長するので、連続した電極を容易に形成できる。低抵抗部はパルスレーザを照射できる領域であれば任意の部位に形成できるので、めっき電極も電子部品の任意の部位に形成できる。しかも、めっき処理は1回で多数個の部品を同時に処理できるので、非常に効率的かつ工業的に安価である。
【0020】
本発明において「めっき金属からなる電極」とは、外部電極に限らず、任意の電極であってもよい。例えば、パッド電極、ランド電極、コイル状電極、回路パターン電極であってもよい。さらに、セラミック電子部品とは、チップ部品に限らず、回路モジュールのような複合部品であってもよいし、回路基板や多層基板であってもよい。