(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る液体クロマトグラフの一実施例について、以下、図面を参照して説明する。本実施例の液体クロマトグラフは、検出器として質量分析計を有する液体クロマトグラフ質量分析装置である。
【0017】
図1に本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置の要部構成を示す。
【0018】
本実施例の液体クロマトグラフ質量分析装置は、大別して、液体クロマトグラフ100と質量分析計200から構成され、図示しない制御部により各部の動作が制御される。液体クロマトグラフ100は、移動相が貯留された移動相容器110、移動相を吸引して一定流量で送給するポンプ111、移動相中に所定量の液体試料を注入するインジェクタ112、液体試料に含まれる各種化合物を時間方向に分離するカラム113、及び該カラム113を温調するカラムオーブン114とを備えている。また、インジェクタ112に複数の液体試料を1つずつ導入するオートサンプラ(図示なし)を備えている。
【0019】
質量分析計200は、略大気圧であるイオン化室210と、真空ポンプ(図示なし)により真空排気された中間真空室220及び高真空の分析室230を備えた差動排気系の構成を有している。イオン化室210には、試料溶液に電荷を付与しながら噴霧するエレクトロスプレイイオン化プローブ(ESIプローブ)211が設置されている。イオン化室210と後段の中間真空室220との間は細径の加熱キャピラリ212を通して連通している。中間真空室220にはイオンを収束させつつ後段へ輸送するためのイオンガイド221が設置されており、中間真空室220と分析室230との間は頂部に小孔を有するスキマー222で隔てられている。分析室230には、四重極マスフィルタ231とイオン検出器232が設置されている。本実施例では質量分析計を簡素な四重極型のものとしたが、他の構成(三連四重極型、イオントラップ−飛行時間型等)の質量分析計を用いてもよい。
【0020】
質量分析計200では、SIM(選択イオンモニタリング)測定やMSスキャン測定を行うことができる。SIM測定では、四重極マスフィルタ231を通過させるイオンの質量電荷比を固定してイオンを検出する。MSスキャン測定では、四重極マスフィルタ231を通過させるイオンの質量電荷比を走査しつつイオンを検出する。
【0021】
本実施例の液体クロマトグラフは、以下に説明するイオン化プローブ接続用治具1を使用し、カラムオーブン114内に収容されるカラム113の出口側配管と、ESIプローブ211の入口側配管211aを接続することによって、ESIプローブ211の入口側配管211aが接続されたカラム113をカラムオーブン114内で移動可能に構成している点に特徴を有する。
【0022】
本実施例で用いられるイオン化プローブ接続用治具1は、
図1に一点鎖線で示す領域において、カラム113の出口側流路とESIプローブ211の入口側流路を接続するために用いられる。
【0023】
本実施例のイオン化プローブ接続用治具1の構成要素について説明する。本実施例のイオン化プローブ接続用治具1は、大別してアダプタ10、プローブ固定具20、ハウジング30(
図6参照)、及び押圧機構40(
図7参照)から構成されている。カラムオーブン114内でカラム113を効率よく温調するため、アダプタ10、ハウジング30、及び押圧機構40の各部は、熱伝導率が高い金属(アルミニウム等)により構成される。プローブ固定具20はステンレス鋼(SUS)等により構成
することができる。
【0024】
図2に示すように、アダプタ10は、円盤状のフランジ部11、該フランジ部11の一方の面(カラム113側の面)に設けられたカラム固定部12、該フランジ部11の他方の面(ESIプローブ211側の面)に設けられたプローブ接続部13を有している。これらがアダプタ10の本体を構成する。
【0025】
図3(a)に、カラム113の接続部113aの構造を示す。
図3(a)
の左は横断面図、
図3(a)の右はイオン化プローブ211側から接続部113aを見た図である。カラム113の接続部113aの内部の一端側には、カラム113の出口側流路113cが形成されている。出口側流路113cの先には接続空間113dが設けられており、その内周面の一部にユニファイねじ規格のねじ部(雌ねじ)113bが形成されている。カラム113の出口側流路113cの端部の、カラム113の長手方向(軸方向)に垂直な面は配管当接面113eとなっており、この配管当接面113eがイオン化プローブ211の入口側配管211aの端面が当接してカラム113の出口側流路113cと面当たり接続される。接続部113aの形状はカラム113の種類によって異なり、その接続空間113dの長さ(
図3(a), (b)に記載のL1, L2)も異なる。なお、カラム113の種類を問わずねじ部113bは共通である。以下の説明では、「軸方向」という文言はカラム113の長手方向を意味する。本実施例ではカラム113とESIプローブ211が同軸で配置されるため、この「軸方向」は両者に共通する軸方向である。なお、この「同軸」は本実施例における特徴であって、必ずしも両者の軸を共通の方向とする必要はない。
【0026】
カラム固定部12の外周面にも、ユニファイねじの規格(カラム113の接続部113aの接続空間113dの内周面に形成されたねじ部113bの形状)に対応したねじ部(雄ねじ)が設けられている。
図4はアダプタ10の本体の構成を説明する図であり、中央は断面図、左はカラム113側から見た図、右はESIプローブ211側から見た図である。アダプタ10の本体には軸方向(カラム113の長手方向)に貫通する貫通孔14が形成されている。貫通孔14はフランジ部11からプローブ接続部13にかけて、ESIプローブ211側に向かってテーパ状に広がっている。
【0027】
図5に示すように、操作部材15は、L字状の取っ手151の先端にC字状のリング部152を形成したものであり、該リング部152の内周面の3箇所に突出部153が設けられている。操作部材15の3つの突出部153をアダプタ10のフランジ部11とプローブ接続部13の間の凹部16(
図4参照)に差し込むことにより、アダプタ10の本体が軸周りの回転自在に保持される。
【0028】
プローブ固定具20は、ESIプローブ211の入口側配管211aを差し込むための貫通孔が形成された円錐台形の部材である。
図2の右上に拡大図で示すように、ESIプローブ211の入口側配管211aの端部はテーパ状に形成されており、該入口側配管211aにプローブ固定具20が取り付けられる。
【0029】
図6(a)はハウジング30をカラムオーブン114に取り付けた状態を上方から見た概略図、
図6(b)は同じ状態を側方から見た概略図である。カラムオーブン114は、上面が開放された直方体状の筐体であるカラムオーブン本体1141と、該カラムオーブン本体1141の上面を覆う蓋1142から構成される。ただし、
図6(a)ではカラムオーブン本体1141内のハウジング30の構成を分かりやすく示すため、蓋1142を外した状態を示している。カラムオーブン本体1141の内部にはハウジング30を軸方向に移動可能に収容する(即ち、ハウジング30の軸方向の長さよりも長い)凹部1141a(太線で囲まれた部分)が形成されており、またESIプローブ211側の側面には上方に開放した凹部1141bが形成されている。凹部1141bの大きさ(孔の軸に垂直な断面の径)は、ESIプローブ211の入口側配管211aの外径よりも少し大きく、その中に該ESIプローブ211の入口側配管が遊嵌される。また、カラムオーブン本体1141の角部には蓋1142を取り付ける際にねじ1141cを挿入するねじ孔1141dが設けられている。
【0030】
ハウジング30は、上面と、カラム113を挿入する側の面が開放した直方体状の筐体である。ハウジング30には、アダプタ取り付け部31、押圧機構収容部32、及びカラム載置部36が設けられている。
【0031】
アダプタ取り付け部31は、アダプタ10のフランジ部11の外形に対応した形状のスロット311aが形成され外面に突出部311bを有するアダプタ収容部311と、該突出部311bが差し込まれるレール部が形成され
図6(a)に実線で示す位置と一点鎖線で示す位置の間で該アダプタ収容部311を移動可能に保持するアダプタ収容部保持部312とを有している。スロット311aを挟んでその両側に位置する2つの側壁部には、それぞれ、上部が解放した凹部311cが形成されており、一方の側壁部の凹部311cにはカラム113の接続部113aが、他方の側壁部の凹部311cには、アダプタ10のプローブ接続部13が配置される。
【0032】
また、アダプタ収容部311と一体的に構成され、該アダプタ収容部311とともに軸方向に移動する、2つの押圧機構収容部32が、カラム113が収容される位置を挟んで両側に設けられている。2つの押圧機構収容部32のそれぞれには、後述する2つの押圧機構40がそれぞれ有するばね44がそれぞれ収容される。
【0033】
さらに、ハウジング30の、ESIプローブ211が取り付けられる側の側面には、上方に開放した凹部であるイオン化プローブ収容部33が形成されている。この凹部の大きさ(孔の軸に垂直な断面の径)は、カラムオーブン本体1141に形成されたイオン化プローブ収容部1141bと同様であり、ESIプローブ211の入口側配管211aよりも少し大きく、従って該入口側配管211aはこの長孔に遊嵌される。また、この凹部の大きさはプローブ固定具20の底面(カラム113と反対側に位置する面。前記円錐台形の底面)の外径よりも小さい。従って、プローブ固定具20が取り付けられたESIプローブ211が所定の距離だけ後退すると、ハウジング30のイオン化プローブ収容部33周辺の内壁面にプローブ固定具20(前記円錐台形の底面)が当接し、それ以上のESIプローブ211の後退(前記所定位置以上の後退)が規制される。なお、本実施例の説明において、カラム113やESIプローブ211の「前進」は、一方が他方の側に向う移動を意味し、「後退」はその逆方向の移動を意味する。
【0034】
ハウジング30の2つの側面(軸方向と平行な2側面)にはそれぞれ、後述する押圧機構40の移動を規制する円形の孔34と軸方向に延びる長孔35(2つの側面に合計4つの孔)が形成されている。孔34はカラム113よりも低い位置に設けられ、長孔35はカラム113と同じ高さに設けられている。その他、ハウジング30の底部には、収容されるカラム113を下方から支えるカラム載置部36が形成されている。カラム載置部36の高さはカラム113のサイズに合わせて適宜変更することができるように構成してもよい。また、アダプタ収容部311とカラム載置部36を一体の部材として構成してもよい。
【0035】
図7(a)に押圧機構40の概略構成を示す。押圧機構40は、ハウジング30に収容される部材であり、カラム113を挟んでその両側に配置される。2つの押圧機構40はそれぞれ、L字状のアーム41と、一端が該アーム41の先端の接続点Aに角度θ(θ>90度)で固定された棒状の第1接続部材42、該第1接続部材42の他端の接続点Bに回動自在に一端が固定された棒状の第2接続部材43、該第2接続部材43の他端の接続点Cに接続されたばね(弾性部材)44、及び押圧部45を有している。この押圧機構40における押圧部45は前述のアダプタ収容部311と同一部品となっている。また、後述する別の態様のように、ばね44に取り付けられた板状の部材を押圧部45とすることもできる。即ち、アーム41、第1接続部材42、第2接続部材43、ばね44、及び押圧部45(アダプタ収容部311)が順に接続される。この押圧機構40では、ばね44はアダプタ収容部311に接続される。アダプタ収容部311のスロット311aには、アダプタ10のフランジ部11が収容されているため、押圧機構40によりアダプタ収容部311を移動させると、同時にアダプタ10も同方向に移動し、さらに該アダプタ10のカラム固定部12に固定されたカラム113も同方向に移動する。
図7(a)の押圧機構40は、同図に実線で示したアーム41、第1接続部材42、第2接続部材43、ばね44、及びアダプタ収容部311から構成される。後述する
図7(b), (c)においても同様に、押圧機構40a、40bを構成する部材を実線で、それ以外の部材を破線で示す。
【0036】
押圧機構40は、
図7(a)に示す形態の他にも種々の形態を採ることができる。
図7(b)及び(c)にそれぞれ一例を示す。
【0037】
図7(b)の押圧機構40aは、ばね44の端部に板状の押圧部45が取り付けられており、その押圧部45がカラム113の接続部113a(カラム113の外径よりも外側に延出した部分)に当接した構成となっている。カラム113の形状はカラムの種類によって様々であるが、カラム113が押圧機構40aにより押圧可能な領域を有する場合には、
図7(b)に示す押圧機構40aにより、カラム113を前進するように押圧することができる。
【0038】
図7(c)に示す押圧機構40bは、ハウジング30がアダプタ収容部311を有しない場合に用いられる一例である。この押圧機構40bでは、ばね44の端部に取り付けられた押圧部45が、アダプタ10のフランジ部11の、カラム113の接続部113aの外径よりも外側の領域(押圧可能領域11a、
図8参照)に取り付けられる。この押圧機構40bはフランジ部11の前記外側の領域を押圧して、アダプタ10及びカラム113を前進させる。
【0039】
図7(a)〜(c)に例示したように、押圧機構40(40a、40b)は、カラム113をその軸方向に前進させるような力を与えることができればよく、そのような機能を有するものであれば適宜の構成を採ることができる。別の表現を用いれば、押圧機構40は、アダプタ10(前記第1要素固定具)を直接押圧するものであってもよく、あるいはカラム113(前記第1要素)を押圧することにより該カラム113に固定されたアダプタ10を押圧するものや、アダプタ収容部311を押圧することにより該アダプタ収容部311のスロット311aに収容されたアダプタ10を押圧する(即ち、間接的にアダプタ10を押圧する)ものであってもよい。なお、本明細書で説明する各実施例(
図6、
図9〜13等)では、
図7(a)により説明した押圧機構40を用いている。
【0040】
図8に、カラム固定部12を取り付けた状態のフランジ部11の構成を示す。左は横断面図、右はカラム113側から見た図である。
図8の左図に示すように、フランジ部11は、カラム113の接続部113aの外径よりも外側に延出した押圧可能領域11aを有している。上述のとおり、本実施例では
図7(a)に示す押圧機構40を用いているが、
図7(c)の押圧機構40bを用いてこの押圧可能領域11aを押圧するように構成することもできる。以下、
図7(a)の押圧機構40又は
図7(c)の押圧機構40bを用いる場合の、本実施例のアダプタ10の利点を説明する。
【0041】
カラム113の形状はカラム種類によって様々であるため、その接続部113aに、押圧機構40aの押圧部45により押圧可能な領域が無い(即ち
図7(b)の押圧機構40aを用いることができない)場合がある。一方、本実施例のアダプタ10は押圧可能領域11aを有するフランジ部11を備えているため、接続部113aが押圧機構40aにより押圧可能な領域を有しないカラム113でも、
図7(a)の押圧機構40の押圧部45(アダプタ収容部311)または
図7(c)の押圧機構40bの押圧部45をフランジ部11の押圧可能領域11aに当接させてカラム113を前進させる力を与えることができる。
【0042】
本実施例のフランジ部11は円盤状であるが、フランジ部11は必ずしも円盤状である必要はなく、カラム固定部12の周縁(外側)に押圧可能領域11aを有するものであれば他の形状であってもよい。しかし、本実施例のような円盤状のフランジ部11を用いると、カラム113の入口側配管のねじれを解消するためにアダプタ10の本体を回転させたうえでハウジング30内のスロット311aに収容した場合でも、
図7(a)の押圧機構40の押圧部45(アダプタ収容部311)または
図7(c)の押圧機構40bの押圧部45によって確実にフランジ部11を押圧することができる。
【0043】
以上の理由から、フランジ部11は、本実施例のように、カラム113の長手軸まわりのカラム113の全長にわたる外形よりも外側に延出する押圧可能領域11aを有することが好ましい。これにより、
図8の左図のように、カラム113の後方(カラム113の出口端よりも上流側)からフランジ部11の押圧可能領域11aを見通せる状態となり、カラム113の後方からフランジ部11を押圧する押圧部45の形状を単純化する(例えば簡素な板状部材とする)ことができる。また、押圧機構40、40bをカラム113の後方に設けることができるため、カラム113の出口よりも下流側に位置するイオン化プローブの入口側配管211aの長さを最小限に抑えることができる。
【0044】
図7(a)に示すとおり、本実施例の押圧機構40では、アーム41と第1接続部材42の接続点Aは、カラム113よりも下方に位置している。カラム113の両側に配置されているアーム41と第1接続部材42には1本の第1連結部材46が貫通しており、該第1連結部材46(
図9参照)の両端はハウジング30の側面に形成された孔34に取り付けられている。これにより接続点Aの位置が固定される。また、第2接続部材43とばね44は接続点Cで連結されており、第2連結部材47(
図9参照)はハウジング30の側面に形成された長孔35に、軸方向にのみ移動可能に取り付けられている。第1接続部材42と第2接続部材43の接続点Bはアーム41、第1接続部材42、及び第2接続部材43の動作に応じて適宜の位置に移動する。
【0045】
図9及び
図10を参照し、本実施例のイオン化プローブ接続用治具1を用いてカラム113の出口側流路にESIプローブ211の入口側配管211aを接続する際の操作手順を説明する。
図9はハウジング30の上方から見た要部の配置、
図10は側面から見た要部の配置を示す図である。なお、アダプタ10の形状は
図4及び
図6に示したとおりであるが、
図9及び
図10では、アダプタ10を簡略化してフランジ部11のみ図示している。また、押圧機構40の各部の位置を分かりやすく示すために、
図9ではアーム41の図示を省略している。
【0046】
本実施例のイオン化プローブ接続用治具1の使用時には、まず、カラム113の接続部113aをアダプタ10のカラム固定部12に固定する。上述のとおり、これは、接続部113aの内周面に形成されたねじ部113bをアダプタ10のカラム固定部12のねじ部に螺合することにより行う。そして、操作部材15によりアダプタ10を保持し、アダプタ10のフランジ部11をアダプタ収容部311のスロット311aに収容する。
【0047】
次に、ESIプローブ211の入口側配管211aにプローブ固定具20を取り付け、プローブ固定具20がハウジング30の内部に位置するように、該入口側配管211aをハウジング30のイオン化プローブ収容部33、及びカラムオーブン本体1141のイオン化プローブ収容部1141bに載置する(両凹部に遊嵌する)。プローブ固定具20の取り付け位置は、ESIプローブ211の後退可能な距離を規定することから、後述する操作時のESIプローブ211の移動距離を勘案して設定される。このときの各部の配置は
図9(a)及び
図10(a)に示すとおりである。
【0048】
その後、使用者がハンドルを操作して2つの押圧機構40のアーム41を倒していくと、第1接続部材42と第2接続部材43の成す角度が徐々に大きくなり、180度に近づいていく。上述のとおり、接続点Aは孔34に取り付けられた第1連結部材46によって固定されており、接続点Cは長孔35に取り付けられた第2連結部材47によって移動方向が軸方向のみに規制されている。従って、ばね44がフランジ部11側に移動し、該フランジ部11がESIプローブ211側に移動する。
【0049】
その間に、ESIプローブ211の入口側配管211aがアダプタ10のテーパ状の貫通孔14に進入し、少しずつ貫通孔14の内部を進んでいく。そして、ESIプローブ211の入口側配管211aの端面が貫通孔14を通過して、カラム113の接続部113a内の接続空間113dにおいてカラム113の出口側流路113cの端面及び配管当接面113eに当接する。この状態からさらにアーム41を倒していくと、配管当接面113eによってESIプローブ211の入口側配管211aの端面が押され、ESIプローブ211が後退していく。ESIプローブ211が所定の距離だけ後退すると、プローブ固定具20の端部がハウジング30の内壁面に当接し、ESIプローブ211の移動が規制される。そして、カラム113の出口側流路の端面がESIプローブ211の入口側流路の端面を押す力が徐々に大きくなり両者が面当たり接続される。その間、ばね44は少しずつ縮められていく。このときの各部の配置は
図9(b)及び
図10(b)に示すとおりである。
【0050】
図9(b)及び
図10(b)に示すように、第1接続部材42と第2接続部材43が直線上に位置する状態からさらにアーム41を倒していくと、第1接続部材42と第2接続部材43の屈曲方向がそれまでと逆になり接続点Bがさらに下方に移動し、縮められたばね44が復元されていく。本実施例では、L字状のアーム41の一方の辺(第1接続部材42が接続されていない側の辺)が水平になるまでアーム41を倒していくことによりこの状態(
図9(c)及び
図10(c)に示す状態)が実現され、カラム113の出口側流路とESIプローブ211の入口側流路の接続状態がロックされる。
【0051】
図9(b)及び
図10(b)に示す状態は、ばね44が最も縮められた状態であり、外部からいずれかの部材に力が加わるとばね44を復元する力が働き、接続点Bが上方と下方のいずれかに容易に移動する。このとき、接続点Bが上方に移動して
図9(a)及び
図10(a)に示す方向に戻ってしまうとカラム113の出口側流路113cとESIプローブ211の入口側流路の接続が解除されてしまう。そこで本実施例では、
図9(c)及び
図10(c)に示す状態までアーム41を押し込んでいる。この状態では、使用者がハンドルを操作し、ばね44を縮める力を加えない限り
図9(b)及び
図10(b)に示す状態に移行することがないため、カラム113の出口側流路とESIプローブ211の入口側流路の接続状態が維持される。
【0052】
図8に示したように、本実施例では、上記のような操作を行うことにより、カラム113の出口側流路113cとESIプローブ211の入口側配管211aの流路が連通した状態で、両流路の端面が配管当接面113eで面当たり接続され、接続部のデッドボリュームを最小限に抑えた接続状態が実現される。
【0053】
本実施例の液体クロマトグラフでは、質量分析計200のESIプローブ211に接続されたカラム113が、イオン化プローブ接続用治具1のアダプタ10に固定されハウジング30に取り付けられる。また、そのハウジング30はカラムオーブン114内に、軸方向に移動可能に収容される。即ち、カラムオーブン114の内部に設けられ、イオン化プローブ211の移動に追従する所定の方向(軸方向)のカラム113の移動を許容し、それ以外の方向の移動を規制するガイド機構は、カラム113を固定したハウジング30をカラムオーブン本体1141の凹部1141aに収容することで具現化される。
【0054】
従来の液体クロマトグラフでは、ESIプローブを移動する際に、ESIプローブの入口側の配管およびカラムを介して重量物であるカラムオーブンを引っ張る状態(つまりESIプローブの移動に伴いカラムオ―ブンが移動する状態)となり、ESIプローブの入口側の配管やカラムに大きな力がかかって損傷したり、両者の接続が外れたりすることがあった。特にナノESIやミクロESIにおいてESIプローブの入口側配管の長さを最小限に抑えることが求められる場合、ESIプローブ移動時の力を該配管が吸収できる余裕長さが少ないため、プローブ位置調整範囲が小さいような場合においても上記問題が顕著に発生していた。また、ESIプローブとカラムが一体的に構成されている場合でも、ESIプローブの位置調整時には、該ESIプローブと一体化されたカラムによりカラムオーブンが引っ張られ、カラムに損傷が生じることがあった。本実施例の液体クロマトグラフでは、ESIプローブ211の配置を調整する際にESIプローブ211に伴って移動するのはカラム113とイオン化プローブ接続用治具1(ガイド機構の一部)のみであり、重量物であるカラムオーブン114が移動することはないため、上述の問題が起こる可能性が大きく低減される。
【0055】
本実施例の液体クロマトグラフでは、ハウジング30(及び該ハウジング内で保持されるカラム113)の移動方向が軸方向のみに限定されているため、ポンプ111の脈動等が生じてもカラム113に不所望の振動が生じることが抑制される。また、従来の液体クロマトグラフでは、ESIプローブやカラムに比べて大きな構成要素であるカラムオーブンの移動を許容するための空間を装置内部あるいはカラムオーブン設置スペース(カラムオーブンが液体クロマトグラフの他の構成要素から独立して設けられる場合など)に設ける必要があったが、本実施例の液体クロマトグラフではそのような空間を設ける必要がなく、従来よりも装置を小型化することができる。
【0056】
上記実施例でガイド機構の一部として用いたイオン化プローブ接続用治具1では、押圧機構40のアーム41に取り付けられたハンドルを操作するのみで、使用者は簡単にカラム113の出口側流路とESIプローブ211の入口側流路211aを接続することができる。また、本実施例のイオン化プローブ接続用治具1では、アダプタ10にESIプローブ211の入口側配管211aを挿入するための貫通孔14が形成されており、また、その貫通孔14がテーパ状である。そのため、ESIプローブ211の入口側配管211aを差し込んでいくと、貫通孔14の内部でESIプローブ211の入口側流路とカラム113の出口側流路113cが精緻に位置合わせされ、接続箇所で液漏れが生じる心配がない。
【0057】
本実施例では、操作部材15が円盤状のフランジ部11を回転可能に保持する構成を採っている。そのため、アダプタ10をアダプタ収容部311にセットした後に、フランジ部11を回転させてカラム113の入口側に接続された配管のねじれを解消することができる。また、使用者は操作部材15を持ってアダプタ10をアダプタ収容部311にセットすることができるため、カラムオーブン等に触れることなく、安全かつ簡便に取り付けることができる。
【0058】
本実施例では、イオン化プローブ接続用治具1の押圧機構40に、軸方向に収縮するばね44が含まれている。そのため、使用者がハンドルに大きな力を加え、その結果、アーム41に過度な力が加えられた場合でも、ばね44の弾性によって力の一部が吸収され、カラム113やESIプローブ211の入口側配管211aが損傷するのを防止することができる。また、カラム113の種類によってカラム113の出口から突出する配管の長さ(つまり
図3の接続空間113dの長さL1, L2)が異なるが、ばね44を含む構成を有する押圧機構40を用いることにより、貫通孔14内部(つまり、カラム113の接続部113aの接続空間113d)へのESIプローブ211の入口側配管211aの進入量が調整されるため、カラム113毎の接続部113aの形状の違いを吸収してカラム113の出口側端面とESIプローブ211の入口側端面を確実に面当たりさせることができる。
【0059】
カラム113とESIプローブ211の面当たり接続部にある一定の圧力(面圧)を付与するために必要な力の大きさは、両者の当接面積に比例する。本実施例ではESIプローブ211の入口側配管211aの端部がテーパ状であることから、カラム113の出口側の端面と当接する面積が小さくなり、上記面圧を付与するために必要な力が小さくなる。従って、ばね定数の小さいばね44を用い、非力な者でも容易に両者を面当たり接続できるように構成することができる。さらに、ESIプローブ211の入口側配管211aの端部がテーパ状であるため、アーム41に加えられた力を分散し、ESIプローブ211の入口側配管211aの端部の変形や破損を防止して耐久性を高めることができる。
【0060】
上記実施例は好ましい一実施形態の例示であって、本発明の主旨に沿って適宜に変更することができる。
上記実施例では、アダプタ10をカラム113の出口側の端部に固定したが、アダプタ10をカラム113の入口側や本体に固定するように構成することもできる。ただし、その場合、アーム41に加えられた力がカラム113本体を介してESIプローブ211との接続部に伝わる。そのため、キャピラリカラムのような破損しやすいカラム113を用いる際には慎重に力を加える必要がある。従って、上記実施例のように、アダプタ10をカラム113の出口側の端部(接続部113a)に取り付けることが好ましい。この場合、アーム41に加えられた力がカラム113本体を介さずにESIプローブ211との接続部に伝わるため、キャピラリカラム等を用いる場合でも特に慎重な操作を必要としない。
【0061】
上記実施例では、ガイド機構として上記構成のイオン化プローブ接続用治具1を用いたが、より簡素にはカラムを保持するカラム保持体と、カラムオーブン内に形成され、所定の方向について該カラム保持体よりも大きい凹部とを組み合わせた構成や、カラム保持体と、該カラム保持体の移動方向を一方向にガイドするガイドレールを有する構成等とすることができる。
また、カラムを複数の方向に移動可能とすることもできる。例えば上記実施例の場合には、カラムオーブン本体1141の凹部1141aを軸方向以外の一方向についてもハウジング30よりも長くすればよい。この場合、軸方向と上記軸方向以外の一方向のそれぞれにハウジング30の移動を案内するガイドレールを備えることが好ましい。
【0062】
上記実施例で用いたイオン化プローブ接続用治具1では、接続点Aをカラム113よりも低い位置としたが、接続点Aの高さをカラム113と同じ高さにすることもできる。以下、そのような変形例について、
図11〜
図13を参照して説明する。
【0063】
図11は、変形例のイオン化プローブ接続用治具1aのハウジング30aを側面から見た図(
図6(b)に対応する図)である。また、
図12は、変形例のイオン化プローブ接続用治具1aの構成要素の配置を示す図(
図9(a)に対応する図)である。この変形例では、孔34aと長孔35が同じ高さ(カラムと同じ高さ)に設けられている。
【0064】
図13は、変形例における押圧機構40aの操作を説明する図(
図10に対応する図)である。上記実施例では、接続点Aがカラム113よりも低い位置に固定されていたが、変形例では接続点A'がカラム113と同じ高さであり、その位置で第1連結部材46aに固定される。ただし、上記実施例と異なり、第1連結部材46aは、アーム41aと第1接続部材42aの接続点A’毎にそれぞれ(合計2つ)設けられ、それぞれ孔34aに固定される。上記実施例では2本のアーム41を、カラム113よりも低い位置にある接続点Aで第1連結部材46により連結し、一方のアーム41の端部にハンドルを設けたが、変形例では接続点A’がカラム113と同じ高さに位置しており、この位置で2本のアーム41aを連結することはできない。そこで、変形例では接続点X’において第3連結部材(図示なし)により2本のアーム41aを連結し、これをハンドルとしても用いる。接続点C及び第2連結部材47aの位置は上記実施例と同じである。変形例においても押圧機構40aの操作手順は上記実施例と同様である。即ち、ハンドルを操作し、第1接続部材42aと第2接続部材43aが直線上に位置するまでアーム41aを倒していくことによりカラム113の出口側流路とESIプローブ211の入口側配管211aを圧接して両者を接続し、さらにアーム41aを倒すことによりそれらの接続状態がロックされる。
【0065】
上記実施例では液体クロマトグラフ質量分析装置を例に挙げて説明したが、質量分析計に代えてイオン移動度分析計や分級装置を検出部として備えた液体クロマトグラフにおいても同様のものを用いることができる。
また、上記実施例では、ESIプローブを例に挙げたが、APCIプローブ等、他のイオン化プローブを接続する場合も上記同様の構成を採ることができる。
【0066】
さらに、上記実施例ではカラム113とESIプローブ211の流路が合致するようにアダプタ10とプローブ固定具20とを規制しつつアダプタ10がカラム113の軸方向に前進することを許容する一方、プローブ固定具20がESIプローブ211の軸方向の所定位置以上に後退しないように規制する構成としたが、
図14に示すように、カラム113とESIプローブ211とを両者の流路が合致するように規制しつつESIプローブ211がその軸方向に前進する(つまりカラム113に向かう方向に前進する)ことを許容する一方、カラム113がその軸方向の所定位置以上に後退しないように規制する構成とすることもできる。
図13では上記実施例の押圧機構40の各要素に対応する要素を同様の符号(42b等)で表し、カラム113及びESIプローブの入口側配管211a以外の各要素の符号を省略している。この構成によっても、デッドボリュームを生じることなくカラム113の出口側流路とESIプローブ211の入口側流路を接続できるという点では上記実施例の構成と同等の効果が得られるものの、押圧機構40の長さの分だけESIプローブ211の入口側配管211aが長くなり(
図14の配管延長部)、その分だけ溶出液に含まれる成分が拡散しやすくなる。従って、上記実施例の構成、つまりカラム113の軸方向に前進することを許容する一方、プローブ固定具20がESIプローブ211の軸方向の所定位置以上に後退しないように規制する構成がより好ましい。この構成によると、カラム113の出口側流路とESIプローブ211の入口側流路の接続部、及びESIプローブ211の配管長を最短にし、溶出液中の成分の拡散を最小限に抑えることができる。
【0067】
その他、上記実施例で説明した各部の形状や個数は一例に過ぎず、それらは使用する装置の構成や使用環境等に応じて適宜に変更することができる。