【文献】
田中清貴 et al.,微分透磁率の測定法に対する一検討,平成16年度電気関係学会九州支部連合大会 予稿集,2004年,04-2P-04,204
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出手段は、前記基準材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値と、前記被試験材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値との差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出する、
ことを特徴とする請求項7に記載の長尺材の磁気特性変化部検出装置。
前記第1工程において、励磁コイル及び検出コイルに前記基準材を挿通して、前記励磁コイルによって前記基準材を長手方向に磁化すると共に、前記励磁コイルによる磁化によって前記基準材に発生した磁束を前記検出コイルによって検出することで、前記基準曲線を取得し、
前記第2工程において、前記励磁コイル及び前記検出コイルに前記被試験材を挿通して、前記励磁コイルによって前記被試験材を長手方向に磁化すると共に、前記励磁コイルによる磁化によって前記被試験材に発生した磁束を前記検出コイルによって検出することで、前記被試験曲線を取得し、
前記第4工程において、前記基準材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値と、前記被試験材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値との差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出する、
ことを特徴とする請求項11に記載の長尺材の磁気特性変化部検出方法。
【背景技術】
【0002】
長尺材の一例である鋼管(以下、「管」と称する)の熱処理において、部分的な焼き入れ不足が生じると、その箇所で磁気特性が変化することが知られている。この特性を利用して、管の磁気特性を測定することにより、管に施した熱処理の状態を把握することができる。
図1Aは、管の磁気特性の測定を行う最も一般的な手法として知られている、試験片を用いた測定方法の概要を示す説明図である。また、
図1Bは、
図1Aに示した測定方法により得られた測定結果(磁気特性曲線、BH曲線)の一例である。
図1Aに示すように、この測定方法では、管をその長手方向に短く切断した試験片TPに励磁コイル1と検出コイル2とを巻回する。そして、励磁コイル1により生成される磁界(磁界強度H)によって試験片TPを磁化し、この磁化によって試験片TPに発生した磁束を検出コイル2の誘導起電力として測定する。そして、誘導起電力を時間積分した後、試験片TPの断面積で除することで、試験片TP中の磁束密度Bを得る。
図1Bに示す結果は、正常に焼き入れした試験片TPの測定結果と、加熱後に空冷(焼鈍)した試験片TPの測定結果とを示しているが、熱処理の違いにより、磁気特性曲線が大きく変化することが分かる。実際の焼き入れ不良部位の磁気特性は、正常に焼き入れした場合の磁気特性と、焼鈍した場合の磁気特性との中間になると予測される。従って、この磁気特性曲線の変化を把握することにより、焼き入れ不良部位など、熱処理に起因した磁気特性が変化した部分を検出することが可能である。
【0003】
焼き入れ不良は、硬度不足などの材料特性の変化を招くため、早期に管を全数検査することが望ましい。しかしながら、
図1Aに示すような測定方法の場合、管を長手方向に短く切断する必要があり、しかも切断後の管は製品とすることができないため、管を全数検査することができない。全数検査するには、非破壊で測定する必要があるため、材料の磁気特性を間接的に測定する方法及び装置が種々提案されている。
また、管の周方向の一部など、正常な焼き入れ部位中の一部に微小な焼き入れ不良部位が分布するような場合、磁束を検出する検出コイル等のセンサの寸法が微小な焼き入れ不良部位の面積に対して十分小さくなければ、センサによって取得される磁気特性の情報には、正常な焼き入れ部位の磁気特性及び焼き入れ不良部位の磁気特性の双方の情報が含まれるものとなる。このため、正常な焼き入れ部位との磁気特性の違いに基づき、断面の一部に発生する焼き入れ不良部位を検出することには困難を伴うと考えられる。
【0004】
例えば特許文献1には、鋼材の焼入硬化層の深さを非破壊で測定する装置が提案されている。具体的には、特許文献1に記載の装置は、鋼材の表面に沿った方向に磁化するための低周波交流磁場を発生させる励磁コイルと、鋼材に発生した渦電流で誘起される誘導磁場を検出する検出コイルと、同種鋼材の既知の焼入硬化層の深さ及び出力電圧間の相関データが予め記憶され、検出コイルの出力電圧と相関データとから対象鋼材の焼入硬化層の深さを算出する演算手段と、を備えた装置であって、励磁コイル及び検出コイルの双方に鋼材が挿通される構成を備えている(特許文献1の請求項3、
図7参照)。すなわち、特許文献1には、いわゆる貫通コイル式の励磁コイル及び検出コイルを用いた装置が提案されている。
また、特許文献1には、鋼材表面に接触させる一対の平行な接触芯を有する側面視U字形の継鉄部材の一方の接触芯に励磁コイルを巻回するとともに、他方の接触芯に検出コイルを巻回した構成も、提案されている(特許文献1の請求項5、
図11参照)。すなわち、特許文献1には、外部の磁気回路(継鉄部材、励磁コイル)と検出コイルとを備える測定ヘッドを用いた装置も提案されている。
【0005】
特許文献1の
図7に記載の装置(貫通コイルを用いた装置)は、励磁コイル及び検出コイルを鋼材の周方向に沿って巻回し、鋼材を直接的に磁化して、鋼材中の磁束の時間変化を検出コイルで直接検出するという点で、
図1Aに示す測定方法と似ている。しかしながら、貫通型の励磁コイル単体では、生成される磁束の磁路が開磁路であるため、鋼材の長手方向端部の位置に応じて、鋼材の磁化状態が著しく異なる。すなわち、一定の磁化状態を得るには、鋼材の長手方向端部が励磁コイルの端部から十分に離れている必要がある。換言すれば、鋼材の長手方向端部に、測定できない領域(不感帯)が存在するという問題がある。検査歩留り向上のために材料特性の磁気特性変化部を全長に渡って精度良く検出するには、この不感帯を可能な限り減らす必要がある。
【0006】
また、特許文献1の
図11に記載の装置(外部磁気回路と検出コイルとを備える測定ヘッドを用いた装置)を、長手方向に相対移動する管の材料特性の磁気特性変化部検出に適用する場合、外部磁気回路を構成する継鉄部材(接触芯)が管に接触すると、管の外面に傷が生じるおそれがある。そのため、所定以上のクリアランス(継鉄部材と管との間隙)を設定する必要がある。しかしながら、管のパスライン変動に伴いクリアランスが大きくなると、磁束を介して得られる管の磁気的な情報が急激に減り、検出コイルで測定される値は、実質的に継鉄部材の磁気特性が支配的になってしまう。このため、パスライン変動が大きくなると、検出コイルで測定される値も変動して、必要である管の磁気特性を全長に渡って精度良く検出することができないという問題がある。
【0007】
特許文献2には、バルクハウゼンノイズを測定することにより材料の硬度を非破壊計測する方法が提案されている。具体的には、特許文献2には、被測定強磁性体材料へ増加または減少傾向にある磁界を印加し、これによる磁化の変化によって生じるバルクハウゼンノイズを測定することにより材料の硬度を非破壊計測する方法であって、バルクハウゼンノイズの振幅が最大となるときの磁界の強さを測定し、あらかじめ求めておいたバルクハウゼンノイズの振幅が最大となるときの磁界の強さと強磁性体材料の硬度との関係に基づいて、材料の硬度を計測する非破壊硬度計測方法が記載されている(特許文献2の請求項2等)。
【0008】
バルクハウゼンノイズの振幅は、磁気特性曲線の接線の傾き、すなわち微分透磁率が最大となる点で最大となることが公知である。したがい、特許文献2に記載の方法を用いて断面の一部に発生する焼き入れ不良部位を検出しようとする場合、磁気特性曲線において微分透磁率が最大となる点での磁界の強さを測定することで、材料の硬度を計測することになる。微分透磁率が最大となる点は、直交座標系で表された磁気特性曲線の第1象限又は第3象限に位置する。
しかしながら、後述のように、本発明者らが励磁コイル及び検出コイルに管を挿通して磁気特性曲線を取得した場合、取得した磁気特性曲線においてバルクハウゼンノイズの振幅が最大となる点(微分透磁率が最大となる点)の位置が、断面の一部に発生する焼き入れ不良部位の有無に関わらずほぼ一定になることが分かった。このため、特許文献2に記載の方法では、断面の一部に発生する焼き入れ不良部位を精度良く検出することができない。
【0009】
特許文献3には、磁性体材料の材料特性を電磁気的に計測する方法であって、被測定磁性体材料の微分透磁率、又は微分透磁率と相関のある量を測定し、その測定値が一定値となるように直流磁場を制御(回転磁化領域まで磁化)して、この状態にある被測定磁性体材料の電磁気的特性を、交流磁場を用いて測定することにより、材料特性の計測を行う磁性体材料の材料特性の計測方法が提案されている(特許文献3の請求項1等)。
【0010】
特許文献3に記載の方法を用いて断面の一部に発生する焼き入れ不良部位を検出しようとする場合、磁気特性曲線における回転磁化領域、すなわち近飽和領域で計測することになる。近飽和領域は、直交座標系で表された磁気特性曲線の第1象限又は第3象限に位置する。
しかしながら、後述のように、本発明者らが励磁コイル及び検出コイルに管を挿通して磁気特性曲線を取得した場合、取得した磁気特性曲線の近飽和領域での形状が、断面の一部に発生する焼き入れ不良部位の有無に関わらずほぼ同等になることが分かった。このため、特許文献3に記載の方法では、断面の一部に発生する焼き入れ不良部位を精度良く検出することができない。
【0011】
なお、上記説明においては、管を例に挙げて説明したが、上記問題は管の場合のみに限られるものではなく、例えば棒鋼など他の長尺材にも共通する問題である。また、上記説明においては、材料特性変化の原因として熱処理を一例に挙げたが、熱処理以外の原因、例えば加工に伴う硬化の大小や、脱炭、浸炭に伴う炭素量の変化でも同様の課題が生じる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、長尺材の長手方向端部の不感帯を減らすことが可能で、全長に渡って精度良く磁気特性変化部を検出可能な、長尺材の磁気特性変化部検出装置及び方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討したところ、長尺材の断面の一部に焼き入れ不良部位等の磁気特性変化部(以下、「異常部」と呼ぶ場合がある。)が存在する場合と、磁気特性変化部が全く存在しない場合とでは、長尺材を磁化して取得した磁気特性曲線の形状にわずかな有意差が生じることを見出した。具体的には、以下の通りである。
【0015】
特許文献2に記載の方法では、前述のように、材料の硬度との良好な相関を有する磁気的な測定値として、バルクハウゼンノイズの振幅が最大となるときの磁界強度を用いている。バルクハウゼンノイズの振幅が最大となるときの磁界強度は、磁気特性曲線と横軸(磁界強度)との交点である保磁力の値に近いため、特許文献2に記載の方法は、材料の硬度との良好な相関を有する磁気的な測定値として、保磁力を用いていると考えることもできる。この保磁力を用いる方法は、測定対象である材料がほぼ同一とみなされる物質から構成される場合に有効なのであって、正常材の中にわずかに異常部が存在するような測定対象には適さない。保磁力は、材料を一方向に磁化した後、逆向きに磁界を印加して材料中の磁束密度がゼロになるときの磁界強度であり、材料内の磁区がランダムになるような比較的大きな磁界が印加された状況での測定値である。このため、磁気的に硬い材料中の一部に異常部として磁気的に柔らかい材料が存在する場合や、逆に磁気的に柔らかい材料中の一部に異常部として磁気的に硬い材料が存在する場合においても、両方の材料の磁区の移動が既に始まっている状況での測定値となる。このため、保磁力を用いる方法では、わずかに含まれる磁気的な異常部を精度良く検出することができない。
一方、材料を一方向に強く磁化した状態から磁界強度ゼロを経て、逆向きに磁界強度を漸増する過程、すなわち、磁気特性曲線の第2象限又は第4象限においては、磁気的に硬い材料の磁区が動かない状態で磁気的に柔らかい材料の磁区の移動が始まり、その後さらに磁界強度が大きくなれば硬い材料の磁区の移動が始まる。つまり、第2象限又は第4象限においては、磁気的に硬い材料と柔らかい材料の何れが異常部であっても、両材料の磁区の移動開始タイミングが異なり、また磁気特性曲線の接線の傾きが異なる。このため、測定対象である材料中の一部に異常部が存在する場合、磁気的に硬い材料と柔らかい材料の特性の重畳が始まる磁界強度で、磁気特性曲線の接線の傾きが極大値又は極小値をとるように、磁気特性曲線の形状が正常な材料に対して変化することを知見した。
【0016】
前記課題を解決するため、本発明は、以下を採用する。
(1)本発明の一態様に係る長尺材の磁気特性変化部検出装置は、長尺材の磁気特性変化部を検出する装置であって、前記長尺材が挿通され、前記長尺材を長手方向に沿って磁化する励磁コイルと;前記長尺材が挿通され、前記励磁コイルによる磁化によって前記長尺材に発生した磁束を検出する検出コイルと;前記長尺材の前記長手方向に沿った一方側に位置してかつ前記長尺材が挿通される第1開口部、及び、前記長尺材の前記長手方向に沿った他方側に位置してかつ前記長尺材が挿通される第2開口部を有し、前記第1開口部及び前記第2開口部を通る軸線に対して略軸対称な形状を有する継鉄部材と;を備え、前記励磁コイル及び前記検出コイルは、前記継鉄部材と前記第1開口部と前記第2開口部とにより囲繞され
、前記第1開口部及び前記第2開口部は、前記継鉄部材の中央付近より前記長尺材に近接している。
【0017】
上記(1)に記載の長尺材の磁気特性変化部検出装置は、長尺材が挿通される励磁コイル及び検出コイルを備えた貫通コイル式を採用しているため、長尺材を直接的に磁化するとともに、長尺材中の磁束の時間変化を検出コイルで直接検出することが可能である。
また、この長尺材の磁気特性変化部検出装置が、励磁コイル及び検出コイルを囲繞する略軸対称な形状の継鉄部材をさらに備えるため、励磁コイルによる磁化によって長尺材に発生する磁束を、長尺材の長手方向の何れの部位においても、強制的に継鉄部材に導入することが可能である。すなわち、長尺材に発生する磁束の磁路が閉磁路となるため、開磁路の場合とは異なり、長尺材の磁化状態が、長尺材の長手方向端部の位置の影響を受け難くなる。すなわち、長尺材の長手方向端部が励磁コイルの端部から十分に離れていなくても、長尺材を一定の磁化状態にすることができる。よって、長尺材の長手方向端部の不感帯を減らすことが可能である。また、長尺材に発生する磁束が、長尺材の長手方向の何れの部位においても略均一になる。すなわち、長尺材と継鉄部材とによって形成される磁気回路が軸対称性を有するため、長尺材の長手方向の何れの部位に磁気特性変化部が存在しても、この磁気特性変化部を全長に渡って精度良く検出可能である。
さらに言うと、例えば、長尺材を移動させながら磁気特性変化部を検出する場合、継鉄部材を略軸対称としているので、長尺材のパスライン変動が、長尺材の長手方向に垂直な、どの方向に生じたとしても、磁束漏れを生じることなく伝えることができる。すなわち、長尺材を移動させる場合のパスライン変動の影響を低減可能である。
【0018】
なお、上記(1)に記載の態様に係る長尺材の磁気特性変化部検出装置は、励磁コイル、検出コイル及び継鉄部材を固定とし、長尺材の方をその長手方向に沿って相対移動させる場合に特に有用であるものの、この構成のみに限られるものではない。すなわち、長尺材の方を静止させた状態で、励磁コイル、検出コイル及び継鉄部材を長尺材の長手方向に移動させる形態も採用可能である。また、長尺材、励磁コイル、検出コイル及び継鉄部材の全てを、移動させない固定状態において検出するようにしてもよい。
【0019】
(2)上記(1)に記載の態様において、前記長尺材が内部を通るボビンを備え、前記ボビンの外面には、前記励磁コイル及び前記検出コイルが巻回され、前記ボビンの端部に形成された溝には、前記第1開口部を形成する部位及び前記第2開口部を形成する部位がそれぞれ嵌合していてもよい。
(
3)上記(1)
または(2)に記載の態様において、前記磁束が流れる方向に垂直な断面で見た場合に、前記継鉄部材の最小断面積が、前記長尺材の最小断面積以上であってもよい。
【0020】
上記(
3)に記載の態様によれば、継鉄部材の開口部の断面から長尺材の断面に導入される磁束よりも、継鉄部材の開口部の断面の磁束が多ければ、磁束を飽和させずに長尺材の断面に磁束を導入させることができる。
【0021】
(
4)上記(1)
〜(3)の何れか一項に記載の態様において、以下の構成を採用してもよい:前記検出コイルが複数設けられ;前記各検出コイルのうちの少なくとも一つが、前記第1開口部の位置及び前記第2開口部の位置の少なくとも一方に設けられている。
【0022】
上記(
4)に記載の態様によれば、長尺材の先端及び後端のうちの少なくとも一方に生じる不感帯を減らすことができる。
【0023】
(
5)上記(1)〜(
4)の何れか一項に記載の態様の磁気特性変化部検出装置において、前記長尺材を、前記励磁コイル、前記検出コイル及び前記継鉄部材に対して、前記長手方向に沿って相対移動させる送り出し機構をさらに備えてもよい。
【0024】
上記(
5)に記載の態様によれば、送り出し機構により、長尺材を連続搬送しながら磁気特性変化部を検出することができる。つまり、長尺材のパスライン変動を抑制しつつ、検出範囲の広い長尺材を安定的に連続検査することができる。
【0025】
(
6)上記(1)〜(
5)の何れか一項に記載の態様の磁気特性変化部検出装置において、前記磁気特性変化部検出装置は、前記検出コイルの出力電圧に基づき前記磁気特性変化部を検出する検出手段を更に備え、前記検出手段には、所定の硬度を有する長尺材の基準材が前記励磁コイルによって磁化された場合の前記検出コイルの出力電圧に基づき取得された磁気特性曲線が基準曲線として予め記憶されており、前記検出手段は、試験対象の長尺材である被試験材が前記励磁コイルによって磁化された場合の前記検出コイルの出力電圧に基づき被試験曲線である磁気特性曲線を取得する手順と、前記基準曲線と前記被試験曲線とを同一の直交座標系に同時に表示する手順と、前記基準曲線及び前記被試験曲線の形状の差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出する手順とを実行してもよい。
【0026】
上記(
6)に記載の態様によれば、検出手段が、基準曲線と被試験曲線とを同一の直交座標系に同時に表示する手順を実行するため、例えば、表示された基準曲線及び被試験曲線の形状を目視することで、各磁気特性曲線のわずかな形状の差を比較的容易に認識することが可能であり、この形状の差の大小に応じて、被試験材における磁気特性変化部を精度良く検出することが可能である。
【0027】
(
7)上記(
6)に記載の態様において、前記検出手段は、前記基準曲線の接線の傾きの変化と、前記被試験曲線の接線の傾きの変化との差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出してもよい。
【0028】
上記(
7)に記載の態様によれば、例えば、所定範囲の磁界強度における各磁気特性曲線の接線の傾きの変化量の大小に応じて、被試験材における磁気特性変化部を自動的に精度良く検出する手順を実行することが可能である。
【0029】
(
8)上記(
7)に記載の態様において、前記検出手段は、前記基準材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値と、前記被試験材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値との差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出してもよい。
【0030】
上記(
8)に記載の態様によれば、例えば、所定範囲の時間における各長尺材について得られた検出コイルの出力電圧の時間微分値の大小に応じて、被試験材における磁気特性変化部を自動的に精度良く検出することが可能である。
以上のように、本発明に係る長尺材の磁気特性変化部検出装置によれば、オペレータの目視による判断と、検出手段による自動検出との双方で、被試験材の磁気特性変化部を精度良く検出することが可能である。
【0031】
(
9)上記
(6)〜(8)の何れか一項に記載の態様の磁気特性変化部検出装置において、前記磁気特性変化部検出装置が、前記長尺材を焼き入れした後段の位置に配置されてもよい。
【0032】
(
10)上記(1)〜(
9)の何れか一項に記載の態様の磁気特性変化部検出装置を用いて、長尺材の磁気特性変化部を検出する方法であって、所定の硬度を有する長尺材を基準材とし、前記基準材を磁化することによって磁気特性曲線を取得し、該取得した磁気特性曲線を基準曲線とする第1工程と、試験対象の長尺材である被試験材を前記第1工程と同じ条件で磁化することによって磁気特性曲線を取得し、該取得した磁気特性曲線を被試験曲線とする第2工程と、前記基準曲線と前記被試験曲線とを同一の直交座標系に同時に表示する第3工程と、前記基準曲線及び前記被試験曲線の形状の差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出する第4工程と、を含む。
【0033】
上記(
10)に記載の態様によれば、第1工程〜第3工程を実行することにより、同じ磁化条件で取得された、基準材(異常部の無い正常な長尺材)の磁気特性曲線である基準曲線と、被試験材(試験対象の長尺材)の磁気特性曲線である被試験曲線とが、同一の直交座標系(縦軸が磁束密度、横軸が励磁電流)に同時に表示されることになる。このため、例えば、表示された基準曲線及び被試験曲線の形状を目視することで、各磁気特性曲線のわずかな形状の差を比較的容易に認識することが可能である。すなわち、被試験曲線を表示するのみでは、被試験材に磁気特性変化部が存在することによるわずかな形状の変化(基準曲線に対する形状の変化)を認識できない場合であっても、基準曲線と同時に表示することで形状の差を顕在化させることが可能である。この形状の差の大小に応じて、被試験材における磁気特性変化部を精度良く検出することが可能である。
【0034】
なお、本発明において、基準材に磁気特性変化部(異常部)が無いことは、例えば、予め硬さ試験を施すことで認識可能である。基準材としては、その材質や断面寸法が被試験材と同一のものを用いることが好ましい。複数の被試験材を試験する場合に、各被試験材の材質や断面寸法が同一である限り、共通する単一の基準材を用いればよいが、材質や断面寸法の異なる被試験材を試験する際には、これに応じた新たな基準材を用いることが好ましい。
また、本発明において、「同じ条件で磁化」とは、磁化手段(磁化コイル等)として同じものを用い、励磁電流の周波数や振幅を同一にして磁化することを意味する。
【0035】
(
11)上記(
10)に記載の態様において、前記第4工程において、前記基準曲線の接線の傾きの変化と、前記被試験曲線の接線の傾きの変化との差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出してもよい。
【0036】
本発明者が鋭意検討した結果によれば、本発明の第4工程において、被試験材における磁気特性変化部を検出するのに用いる基準曲線及び被試験曲線の形状の差は、基準曲線の接線の傾きの変化(微分透磁率の変化に相当)と、被試験曲線の接線の傾きの変化(微分透磁率の変化に相当)との差によって顕在化することが分かった。すなわち、上記(
11)に記載の態様によれば、被試験材における磁気特性変化部を精度良く検出することが可能である。
【0037】
上記の好ましい方法においては、例えば、基準曲線の接線の傾きの変化と、被試験曲線の接線の傾きの変化とを、縦軸が変化量で横軸が励磁電流である同一の直交座標系に同時に表示し、この表示を目視することで、被試験材における磁気特性変化部を検出すればよい。あるいは、例えば、所定範囲の磁界強度における各磁気特性曲線の接線の傾きの変化量の大小に応じて、被試験材における磁気特性変化部を自動的に検出する方法を採用することも可能である。
【0038】
(
12)上記(
11)に記載の態様において、前記第1工程において、励磁コイル及び検出コイルに前記基準材を挿通して、前記励磁コイルによって前記基準材を長手方向に磁化すると共に、前記励磁コイルによる磁化によって前記基準材に発生した磁束を前記検出コイルによって検出することで、前記基準曲線を取得し、前記第2工程において、前記励磁コイル及び前記検出コイルに前記被試験材を挿通して、前記励磁コイルによって前記被試験材を長手方向に磁化すると共に、前記励磁コイルによる磁化によって前記被試験材に発生した磁束を前記検出コイルによって検出することで、前記被試験曲線を取得し、前記第4工程において、前記基準材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値と、前記被試験材について得られた前記検出コイルの出力電圧の時間微分値との差に基づき、前記被試験材における前記磁気特性変化部を検出してもよい。
【0039】
上記(
12)に記載の態様によれば、検出コイルには基準材に発生した磁束の時間変化に応じた誘導起電力が生じ、検出コイルから誘導起電力に応じた出力電圧が出力される。この検出コイルの出力電圧を時間積分することで、基準材に発生した磁束の大きさ、ひいては基準材に発生した磁束密度を測定可能である。被試験曲線の取得についても同様である。
ここで、基準曲線や被試験曲線のような磁気特性曲線を取得するには、励磁コイルに三角波や正弦波の励磁電流を通電することになるが、この場合、磁気特性曲線の接線の傾き(微分透磁率)は、検出コイルの出力電圧と相関を有する(励磁電流が三角波の場合、微分透磁率は検出コイルの出力電圧に比例する)ことになる。このため、検出コイルの出力電圧を時間微分することで、磁気特性曲線の接線の傾きの変化を把握することが可能である。換言すれば、磁気特性曲線の接線の傾きの変化を直接算出する代わりに、検出コイルの出力電圧の時間微分値を算出することで、被試験材における磁気特性変化部を検出することも可能である。
【0040】
上記の好ましい方法においては、例えば、基準材について得られた検出コイルの出力電圧の時間微分値と、被試験材について得られた検出コイルの出力電圧の時間微分値とを、縦軸が検出コイルの出力電圧の時間微分値で横軸が時間である同一の直交座標系に同時に表示し、この表示を目視することで、被試験材における磁気特性変化部を検出すればよい。あるいは、例えば、所定範囲の時間における各長尺材(基準材及び被試験材)について得られた検出コイルの出力電圧の時間微分値の大小に応じて、被試験材における磁気特性変化部を自動的に検出する方法を採用することも可能である。
【発明の効果】
【0041】
本発明の上記各態様によれば、長尺材の長手方向端部の不感帯を減らすことが可能で、全長に渡って精度良く磁気特性変化部を検出可能である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る長尺材の磁気特性変化部検出装置(以下、適宜、単に「磁気特性変化部検出装置」という)について説明する。本実施形態では、長尺材が管であり、管がその長手方向に沿って搬送される場合を例に挙げて説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図2Aは、本発明の一実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100の概略構成を示す側面図であり、
図2Bは同実施形態の励磁コイル10、検出コイル20、ボビン5及び継鉄部材30の概略構成を示す断面図であり、
図2Cは同実施形態の励磁コイル10、ボビン5及び継鉄部材30の概略構成を示す斜視図である。
図2Cの左図は、継鉄部材30を構成する一方の部材片30bを取り除いた状態を、右図は取り除いていない状態を示す。
図2Aに示すように、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、長手方向(
図2Aに示すX方向)に沿って搬送される管Pの磁気特性の変化を伴う磁気特性変化部を検出する装置である。具体的には、熱処理に起因した材料特性の磁気特性変化部を検出する装置である。本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、例えば、長尺材を焼き入れした後段の位置に配置される。
図2Aおよび
図2Bに示すように、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、励磁コイル10と、検出コイル20と、継鉄部材30と、ボビン5と、検出手段80と、を主に備えている。さらに、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、好ましい構成として、第1拘束ローラ対40と、第2拘束ローラ対50と、保持部材60と、案内ローラ群70と、を備えている。
【0044】
図2B及び
図2Cに示すように、励磁コイル10は、管Pが挿通され、管Pを長手方向(X方向)に沿って磁化するコイルである。具体的には、本実施形態の励磁コイル10は、管Pが内部を通る中空のボビン5の外面に巻回されている。励磁コイル10には、例えば、低周波の交流電流が通電され、管PはX方向に磁化されて、磁束φが発生する。なお、
図2B及び
図2Cにおいて、磁束φは破線で図示している。また、
図2Cの左図に図示する磁束φは、励磁コイル10に発生している磁束である。
【0045】
図2Bに示すように、検出コイル20は、管Pが挿通され、励磁コイル10による磁化によって管Pに発生した磁束φを検出するコイルである。具体的には、本実施形態の検出コイル20も、励磁コイル10と同様に、ボビン5の外面に巻回されている。ただし、検出コイル20は、ボビン5の外面のX方向の中央位置において、励磁コイル10の内側に巻回されている。検出コイル20には、管Pに発生した磁束φの時間変化に応じた誘導起電力が生じ、検出コイル20から検出手段80に対して誘導起電力に応じた出力電圧が出力される。この誘導起電力を測定することで、磁束φの大きさ、ひいては管Pに発生した磁束密度を測定可能である。
なお、励磁コイル10は、管Pを均一に磁化するために、第1開口部31と第2開口部32との間において、長い方が好ましい。また、
図2Bでは、励磁コイル10の中央位置に1つの検出コイル20が長尺材に挿通されているが、検出コイル20を複数設け、検出コイル20のうちの少なくとも一つが、第1開口部31の位置及び第2開口部32の位置の少なくとも一方に設けることにより、管Pの先端及び後端のうちの少なくとも一方に生じる不感帯を減らすことができる。
【0046】
検出手段80は、検出コイル20の出力電圧に基づき磁気特性変化部を検出する。検出手段80は、例えば、検出コイル20の出力電圧をA/D変換するA/D変換器と、該A/D変換器でA/D変換された検出コイル20の出力電圧に基づき磁気特性変化部を検出するための所定の手順を実行するプログラムがインストールされた汎用のパーソナルコンピュータとを備える。検出手段80が実行する所定の手順の具体的内容については後述する。
【0047】
図2Bに示すように、継鉄部材30は、管Pの搬送方向(X方向)上流側に位置してかつ管Pが挿通される第1開口部31、及び、管Pの搬送方向下流側に位置してかつ管Pが挿通される第2開口部32を有する。本実施形態の第1開口部31及び第2開口部32は、X方向から見た場合に略円形とされている。継鉄部材30は、第1開口部31及び第2開口部32を通る軸線(X方向の中心軸線)に対して略軸対称な形状を有している。励磁コイル10及び検出コイル20は、継鉄部材30と第1開口部31と第2開口部32とにより囲繞されている。
図2B及び
図2Cに示すように、継鉄部材30の形状は球状であり、それぞれ半球状の形状を有する部材片30a及び部材片30bから構成されている。具体的には、部材片30aの第1開口部31及び第2開口部32をそれぞれ形成する部位(X方向から見て略半円形の部位)31a及び32aと、部材片30bの第1開口部31及び第2開口部32をそれぞれ形成する部位(X方向から見て略半円形の部位)31b及び32bとが、それぞれボビン5の端部に形成されたフランジ部51の溝に嵌合することで、各部材片30a及び30bは一体化し、球状の形状を有する継鉄部材30が形成されている。各部材片30a及び30bの管Pの搬送方向(X方向)上流側の端部、すなわち各部材片30a及び30bの第1開口部31を形成する部位31a及び31bは、励磁コイル10及び検出コイル20における管Pの搬送方向(X方向)上流側の端部よりも上流側に位置する。また、各部材片30a及び30bの管Pの搬送方向(X方向)下流側の端部、すなわち各部材片30a及び30bの第2開口部32を形成する部位32a及び32bは、励磁コイル10及び検出コイル20における管Pの搬送方向(X方向)下流側の端部よりも下流側に位置している。さらに、第1開口部31及び第2開口部32は、継鉄部材30の中央付近より管Pに近接している。これにより、励磁コイル10及び検出コイル20は、継鉄部材30と第1開口部31と第2開口部32とにより囲繞されることになる。
【0048】
なお、本実施形態の継鉄部材30の形状は球状であるが、本発明は球状のみに限られるものではなく、例えば、回転楕円体又は円筒など、略軸対称な形状を有する場合において、種々の構成を採用可能である。なお、継鉄部材30の他の実施形態については以降で説明する。また、本実施形態の継鉄部材30は、第1開口部31及び第2開口部32を除き、開口を有していない。しかしながら、磁気特性の変化が多大であるために、継鉄部材30に厳格な軸対称性を必要としないのであれば、例えば、継鉄部材30の一部に、中心軸に沿って延びるスリット部を形成し、継鉄部材30の軽量化を図ることも可能である。
【0049】
以上に説明したように、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、管Pが挿通される励磁コイル10及び検出コイル20を備える。すなわち、貫通コイル式の励磁コイル10及び検出コイル20を備えるため、管Pを直接的に磁化して、管P中の磁束の時間変化を検出コイル20で直接検出することが可能である。
また、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、略軸対称な形状の継鉄部材30を備え、励磁コイル10及び前記検出コイル20が、継鉄部材30と第1開口部31と第2開口部32とにより囲繞されているため、励磁コイル10による磁化によって管Pに発生する磁束φ(
図2B、
図2C参照)を、管Pの長手方向の何れの部位においても、強制的に継鉄部材30に導入することが可能である。すなわち、管Pに発生する磁束φの磁路が閉磁路となるため、開磁路の場合と異なり、管Pの磁化状態が管Pの端部の位置の影響を受け難く、管端部の不感帯を減らすことが可能である。また、管Pに発生する磁束φが、管Pの長手方向の何れの部位においても略均一になるため、管Pの長手方向の何れの部位に磁気特性変化部が存在しても、磁気特性変化部を全長に渡って精度良く検出可能である。また、継鉄部材の開口部の断面から管Pの断面に導入される磁束よりも、継鉄部材30の開口部の断面の磁束が多ければ、磁束を飽和させずに管Pの断面に磁束を導入させることができる。従って、磁束が流れる方向に垂直な断面で見た場合に、継鉄部材30の断面積は、管Pの断面積と同じであれば良く、継鉄部材30の断面積が管Pの断面積よりも大きい方が好ましい。
【0050】
図3A及び
図3Bは、管Pの磁化状態に及ぼす継鉄部材30の配置有無の影響を調査するための電磁場解析の結果の一例を示す図である。
図3Aは継鉄部材30を配置した場合の解析結果を、
図3Bは継鉄部材30を配置しなかった場合の解析結果を示す。
図3Aの左図及び
図3Bの左図は、管P及び励磁コイル10の、X方向における1/4断面図であり、
図3Aの左図には継鉄部材30のX方向における1/4断面図が示されている。
図3Aに示すように、継鉄部材30を配置した場合には、継鉄部材30の第1開口部31よりも管Pの搬送方向(X方向)上流側に位置する管Pの部位には、ほとんど磁束が発生していない。図示していないが、継鉄部材30の第2開口部32よりも管Pの搬送方向(X方向)下流側に位置する管Pの部位も同様である。換言すれば、
図3Aに示す結果は、管Pの端部が、継鉄部材30外の何処に位置していても、継鉄部材30内の管Pの部位に発生する磁束に影響がないことを示している。
一方、
図3Bに示すように、継鉄部材30を配置しなかった場合には、仮に継鉄部材30を配置したとすれば、継鉄部材30の第1開口部31よりも管Pの搬送方向(X方向)上流側に位置することになる管Pの部位に磁束が発生している。図示していないが、継鉄部材30の第2開口部32よりも管Pの搬送方向(X方向)下流側に位置することになる管Pの部位も同様であり、広範囲に磁束が分布している。換言すれば、
図3Bに示す結果は、管Pの端部が、仮に継鉄部材30を配置したとすれば、継鉄部材30外の位置に応じて、継鉄部材30内に位置することになる管Pの部位に発生する磁束に影響を受けることを示している。
【0051】
図4は、継鉄部材30外に位置する管Pの部位の突出長さL(mm)と、検出コイル20の中央位置に相当する位置にある管Pの部位に発生する磁束の磁束密度Bとの関係を、電磁場解析によって算出した結果の一例を示す。継鉄部材30を配置しない場合の結果は、継鉄部材30を配置したと仮定した場合の継鉄部材30の位置を基準にして、突出長さLを評価したものである。具体的には、
図4に示す結果は、継鉄部材30を配置する場合、励磁コイル10における管Pの搬送方向上流側の端部と継鉄部材30の第1開口部31内側との離間距離(及び、励磁コイル10における管Pの搬送方向下流側の端部と継鉄部材30の第2開口部32内側との離間距離)を5mmとし、継鉄部材30の肉厚(第1開口部31の内側と外側との離間距離、及び、第2開口部32の内側と外側との離間距離)を20mmとして、電磁場解析した結果である。従って、突出長さがL(mm)の場合、励磁コイル10の端部を基準にすると、継鉄部材30を配置する場合も配置しない場合も、励磁コイル10の端部からL+25mmだけ管Pの端部が突出していることを意味する。
図4に示すように、継鉄部材30を配置した場合には、継鉄部材30を配置しない場合と比べて、わずか10mmの突出長さで管P内の磁化状態が安定していることがわかる。
【0052】
上記の
図3A、
図3B、及び
図4に示す結果からも、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100によれば、前述のように管Pの端部の不感帯を減らすことが可能であることがわかる。
【0053】
また、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、管Pを移動させながら磁気特性変化部を検出する場合、継鉄部材30を略軸対称としているので、パスライン変動が管Pの長手方向に垂直などの方向に生じたとしても、磁束漏れを生じることなく伝えることができる。
図5B、
図6B、及び
図6Cにパスライン変動の影響を調査するための磁束密度変化の解析結果の一例を示す。
図5Bは、本実施形態におけるパスライン変動した場合の、長尺材の検出コイルの位置の磁束密度変化を表す解析結果である。
図5Bに示すように、管Pが継鉄部材30の開口部の中央に位置する時(D=0mmの時)、管Pの磁束密度が最も小さい。管Pの長手方向から見た時に、管Pが継鉄部材30の開口部の端部に近づくにつれ、管の磁束密度が増大する。なお、継鉄部材30が略軸対称な形状であるため、磁束密度は、管Pのパスライン変動の方向の影響を受けない。
図6B及び
図6Cは、従来の形態におけるパスライン変動した場合の、長尺材の検出コイルの位置の磁束密度変化を表す解析結果である。
図6Aの継鉄部材230は、U字形である。
図6Bに示すように、本実施形態に比べて、従来の形態における管Pの磁束密度は、パスライン変動の影響が大きい。
図6B及び
図6Cに示すように、管PのパスラインがY軸方向又はZ軸方向のどちらに動くかによって、磁束密度の変化の仕方が異なる。すなわち、Y軸方向又はZ軸方向に対して斜めに動いた場合には、磁束密度の変化は、Y軸方向及びZ軸方向の複合の影響を受ける。特に、管Pが継鉄部材230と反対側(
図6AではZ軸のマイナス方向)に動いた際の磁化力の低下が顕著である。
図5B、
図6B、及び
図6Cに示す結果より、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100によれば、従来の形態に比べて、長尺材をその長手方向に沿って相対移動させる場合における長尺材のパスライン変動の影響を低減可能であることが分かる。
なお、
図5Bに示す本実施形態における解析と、
図6B及び
図6Cに示す従来の形態における解析は、同じ磁化力、すなわち同じコイル巻数及び同じ電流値で磁化させ、Y軸方向及びZ軸方向の一定距離(例えば2.0mm)のパスライン変動があると仮定し、磁極(継鉄部材)と管との最低間隔を設定(例えば2.0mm)としたときの、磁束密度の解析結果である。
【0054】
さらに、本実施形態において、検出コイルは、球状の継鉄部材30で囲繞されているので、周囲環境の電磁ノイズから検出コイルを遮蔽する効果がある。また、周囲に強磁性体がある場合、従来であれば強磁性体と管が磁気回路を形成し、その影響を検出コイルが検出するが、本実施形態の場合、球状の継鉄部材30で検出コイルを遮蔽しているので、周囲の影響を受けにくいという利点がある。
【0055】
本発明の一実施形態に係る送り出し機構について説明する。
同実施形態の磁気特性変化部検出装置は、長尺材を、励磁コイル、検出コイル及び継鉄部材に対して、長手方向に沿って相対移動させる送り出し機構を備える。
送り出し機構の好ましい構成として、
図2Aに示すように、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、第1拘束ローラ対40と、第2拘束ローラ対50と、保持部材60とを備えている。また、より好ましい構成として、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、案内ローラ群70を備えている。
図7Aは、同実施形態に係る送り出し機構の好ましい構成を示す斜視図であり、第1拘束ローラ対40及び案内ローラ群70の概略構成を示す。
図7Bは同実施形態における管の搬送方向(X方向)下流側から見た第1拘束ローラ対40を、
図7Cは同実施形態における管の搬送方向(X方向)上流側から見た案内ローラ群70を構成する案内ローラ対71を示す。
以下、
図2A及び
図7A〜
図7Cを適宜参照しつつ、同実施形態に係る送り出し機構の好ましい構成である、第1拘束ローラ対40、第2拘束ローラ対50、保持部材60及び案内ローラ群70について、順次説明する。
【0056】
第1拘束ローラ対40は、継鉄部材30の第1開口部31に対して管Pの搬送方向(X方向)上流側に位置し、間隙を挟んで対向配置されている。
図2A及び
図7Aに示す例では、第1拘束ローラ対40を構成する第1拘束ローラ40a及び40bは、上下方向に対向配置されているが、本発明はこの形態のみに限るものではなく、左右方向など他の方向に対向配置してもよい。また、
図7Bに示すように、本実施形態の第1拘束ローラ対40を構成する第1拘束ローラ40a及び40bは、それぞれ孔型ローラとされており、第1拘束ローラ40a及び40bによって形成される略円形の孔型が上記の間隙に相当する。第1拘束ローラ対40は、間隙(孔型)を通る管Pを継鉄部材30の第1開口部31に案内する機能を奏する。なお、本実施形態の第1拘束ローラ対40の間隙の寸法(孔型の直径r)は、好ましい構成として、管Pの外径と略同等とされている。また、本実施形態の第1拘束ローラ対40は、好ましい構成として、管Pの搬送方向(X方向)に沿って複数組(
図2A及び
図7Aに示す例では2組)配置されている。
【0057】
第2拘束ローラ対50は、継鉄部材30の第2開口部32に対して管Pの搬送方向(X方向)下流側に位置し、間隙を挟んで対向配置されている。
図2Aに示す例では、第2拘束ローラ対50を構成する第2拘束ローラ50a及び50bは、第1拘束ローラ対40と同様に、上下方向に対向配置されているが、本発明はこれに限るものではなく、左右方向など他の方向に対向配置してもよい。また、図示は省略するが、本実施形態の第2拘束ローラ対50を構成する第2拘束ローラ50a及び50bも、第1拘束ローラ40a及び40bと同様に、それぞれ孔型ローラとされており、第2拘束ローラ50a及び50bによって形成される略円形の孔型が上記の間隙に相当する。第2拘束ローラ対50は、継鉄部材30の第2開口部32に挿通され、間隙(孔型)を通る管Pを案内する機能を奏する。なお、本実施形態の第2拘束ローラ対50の間隙の寸法(孔型の直径)も、好ましい構成として、管Pの外径と略同等とされている。また、本実施形態の第2拘束ローラ対50も、好ましい構成として、管Pの搬送方向(X方向)に沿って複数組(
図2Aに示す例では2組)配置されている。
【0058】
保持部材60(
図2Aにおいてハッチングを施した部材)は、第1拘束ローラ対40及び第2拘束ローラ対50及び継鉄部材30に連結されており、第1拘束ローラ対40及び第2拘束ローラ対50及び継鉄部材30を一体的に保持する。本実施形態の保持部材60は、各部材片30a及び30b(
図2A参照)を、それらの対向方向(本実施形態では上下方向)から押圧し、各部材片30a及び30bを一体化する機能も奏している。
保持部材60には、符号61で示す箇所において、公知のリニアステージ(図示せず)やゴニオステージ(図示せず)が取り付けられており、管Pの搬送方向(X方向)に直交する第1方向(
図2Aに示すY方向。本実施形態では左右方向)に平行移動可能、管Pの搬送方向(X方向)及び第1方向(Y方向)の双方に直交する第2方向(
図2Aに示すZ方向。本実施形態では上下方向)に平行移動可能、第1方向(Y方向)回りに回動可能、及び、第2方向(Z方向)回りに回動可能とされている。具体的には、搬送ラインに固定されたベース部材62に対して、上記の各方向への平行移動を可能にするリニアステージや、上記の各方向回りの回動を可能にするゴニオステージを介して、保持部材60が連結されている。
【0059】
案内ローラ群70は、第1拘束ローラ対40に対して管Pの搬送方向(X方向)上流側に位置し、各間隙を挟んで対向配置された案内ローラ対71が管Pの搬送方向に沿って複数組(
図2A及び
図7Aに示す例では4組)配置されている。
図2A及び
図7Aに示す例では、案内ローラ対71を構成する案内ローラ71a及び71bは、何れも上下方向に対向配置されているが、本発明はこれに限るものではなく、左右方向など他の方向に対向配置してもよい。また、
図8に示す変形例のように、上下方向に対向配置された案内ローラ対71(71A)と、左右方向に対向配置された案内ローラ対71(71B)とを交互に配置するなど、対向方向が90°ずれた案内ローラ対71の組を管Pの搬送方向に対して交互に配置してもよい。
また、
図7Cに示すように、本実施形態の案内ローラ対71を構成する案内ローラ71a及び71bは、それぞれ孔型ローラとされており、案内ローラ71a及び71bによって形成される略円形の孔型が上記の各間隙に相当する。案内ローラ群70は、各間隙(孔型)を通る管Pを第1拘束ローラ対40に案内する機能を奏する。そして、案内ローラ群70を構成する各組の案内ローラ対71の各間隙の寸法(孔型の直径R)は、何れの組も第1拘束ローラ対40の間隙の寸法(孔型の直径r)よりも大きく、なお且つ、第1拘束ローラ対40に近い組ほど小さくなっている。
【0060】
以上のように、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、送り出し機構の好ましい構成として、第1拘束ローラ対40と、第2拘束ローラ対50と、を備えている。このため、第1拘束ローラ対40、第2拘束ローラ対50、及び、継鉄部材30の位置関係を適切に設定しておけば、管Pが継鉄部材30に衝突することを回避できると共に、第1拘束ローラ対40及び第2拘束ローラ対50によって挟まれた継鉄部材30内での管Pの位置変動を抑制可能である。位置関係を適切に設定するとは、例えば、第1拘束ローラ対40の間隙の中心、第1開口部31の中心、第2開口部32の中心、及び、第2拘束ローラ対50の中心が一直線上に位置するように設定することである。
【0061】
そして、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、送り出し機構の好ましい構成として、保持部材60を備えている。このため、曲がりを伴う管Pが第1拘束ローラ対40によって拘束された後に、管Pの位置や方向の変動に伴って第1拘束ローラ対40が管Pから押圧されると、第1拘束ローラ対40を保持する保持部材60が管Pの位置や方向の変動に応じて少なくとも平行移動又は回動することになる。これに伴い、第1拘束ローラ対40、第2拘束ローラ対50及び継鉄部材30も一体的に少なくとも平行移動又は回動することになるため、第1拘束ローラ対40、第2拘束ローラ対50及び継鉄部材30の位置関係は維持される。従って、第1拘束ローラ対40の平行移動や回動が生じる大きな管Pの曲がりが生じていたとしても、管Pが継鉄部材30に衝突することを回避できる。また、第1拘束ローラ対40及び第2拘束ローラ対50によって挟まれた継鉄部材30内での管Pの位置変動を抑制し、管Pと継鉄部材30とによって形成される磁気回路の軸対称性を向上させることが可能である。
【0062】
さらに、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100は、送り出し機構の好ましい構成として、案内ローラ群70を備えている。従って、たとえ、本実施形態のように、第1拘束ローラ対40及び第2拘束ローラ対50によって挟まれた継鉄部材30内での管Pの位置変動をできる限り抑制するべく、第1拘束ローラ対40の間隙の寸法を管Pの外径と略同等の寸法に設定したとしても、第1拘束ローラ対40から最も遠い組の案内ローラ対71の間隙の寸法は大きく設定できる。このため、管Pの曲がりが大きかったとしても、管Pの先端部を当該最も遠い組の案内ローラ対71の間隙に容易に通すことが可能である。そして、第1拘束ローラ対40に近い組の案内ローラ対71ほど間隙の寸法が小さくなっているため、管Pの先端部を安定的に第1拘束ローラ対40の間隙に誘導して通すことが可能である。
特に、
図8に示す変形例に係る送り出し機構の案内ローラ群によれば、管Pの搬送方向について隣り合う組の案内ローラ対71の対向方向が同じである場合(
図2A、
図7Aに示す例の場合)に比べて、隣り合う組の案内ローラ対71Aと71Bとの間の距離(管Pの搬送方向についての距離)を小さくすることができる。このため、一方の組の案内ローラ対71Aから、他方の組の案内ローラ対71Bへの管Pの受け渡しを円滑に行うことが可能である。
【0063】
以下、上記の構成を有する磁気特性変化部検出装置100を用いた磁気特性変化部検出方法(検出手段80が実行する所定の手順を含む)について説明する。
図9は、本実施形態に係る磁気特性変化部検出方法の概略工程を示すフロー図である。
【0064】
図9に示すように、本実施形態に係る磁気特性変化部検出方法においては、最初に、基準材を用意し、この基準材を磁気特性変化部検出装置100により磁化することによって磁気特性曲線を取得し、該取得した磁気特性曲線を基準曲線とする第1工程を実行する(
図9のS1)。具体的には、励磁コイル10に三角波や正弦波の励磁電流を通電して基準材を磁化し、検出手段80が、励磁電流に基づき磁界強度を算出する一方、検出コイル20の出力電圧を時間積分することで、基準材に発生した磁束の大きさ、ひいては基準材に発生した磁束密度を算出する。これにより、検出手段80は、縦軸が磁束密度で横軸が励磁電流(磁界強度に比例)の磁気特性曲線である基準曲線を取得する。検出手段80には、取得された基準曲線が記憶される。
【0065】
次に、本実施形態に係る磁気特性変化部検出方法においては、試験対象の管Pである被試験材を第1工程と同じ条件で磁気特性変化部検出装置100により磁化することによって磁気特性曲線を取得し、該取得した磁気特性曲線を被試験曲線とする第2工程を実行する(
図9のS2)。具体的には、励磁コイル10に基準材を磁化した場合と同一の周波数・振幅の励磁電流を通電して被試験材を磁化し、検出手段80が、励磁電流に基づき磁界強度を算出する一方、検出コイル20の出力電圧を時間積分することで、被試験材に発生した磁束の大きさ、ひいては被試験材に発生した磁束密度を算出する。これにより、検出手段80は、縦軸が磁束密度で横軸が励磁電流の磁気特性曲線である被試験曲線を取得する。
【0066】
次に、本実施形態に係る磁気特性変化部検出方法においては、基準曲線と被試験曲線とを同一の直交座標系(縦軸が磁束密度、横軸が励磁電流)に同時に表示する第3工程を実行する(
図9のS3)。具体的には、検出手段80が、具備するモニタに基準曲線及び被試験曲線を同時に表示する。
図10は、検出手段80が表示する基準曲線及び被試験曲線の一例を模式的に示す図である。被試験材としては、管Pの断面積の約12%程度の領域のビッカース硬度が100Hv以上低下しているもの(正常部:300Hv、異常部200Hv未満)を用い、基準材及び被試験材の双方を0.1Hzの三角波の励磁電流で励磁して取得した基準曲線及び被試験曲線である。
図10において、一点鎖線および二点鎖線で示す曲線が被試験曲線(異常)であり、実線で示す曲線が基準曲線(正常)である。
図10に示すように、管Pに異常部が存在する場合(被試験曲線)と存在しない場合(基準曲線)とでは、主として各磁気特性曲線の形状にわずかな有意差が生じている。
なお、
図10に符号Aで示す点は、異常部が存在する場合の磁気特性曲線の接線の傾きの変化率が最大となる点、すなわちバルクハウゼンノイズの振幅が最大となる点である。また、
図10に符号Bで示す点は、異常部が存在しない場合の磁気特性曲線の接線の傾きの変化率が最大となる点である。
図10に示すように、バルクハウゼンノイズの振幅が最大となる点や回転磁化領域では、基準曲線及び被試験曲線の形状はほぼ同等であり、有意差が生じていない。
【0067】
次に、本実施形態に係る磁気特性変化部検出方法においては、基準曲線及び被試験曲線の形状の差に基づき、被試験材における異常部を検出する第4工程を実行する(
図9のS4)。具体的には、検出手段80のモニタに表示された
図10に示すような基準曲線及び被試験曲線の形状をオペレータが目視することで、各磁気特性曲線のわずかな形状の差を認識し、この形状の差の大小に応じて、被試験材における異常部を精度良く検出することが可能である。
【0068】
ここで、本発明者が鋭意検討した結果によれば、上記の第4工程において、被試験材における異常部を検出するのに用いる基準曲線及び被試験曲線の形状の差は、基準曲線の接線の傾きの変化(微分透磁率の変化に相当)と、被試験曲線の接線の傾きの変化(微分透磁率の変化に相当)との差によって顕在化することが分かった。
従って、上記の第4工程において、基準曲線の接線の傾きの変化と、前記被試験曲線の接線の傾きの変化との差に基づき、被試験材における異常部を検出することが好ましい。この好ましい方法においては、例えば、検出手段80が、基準曲線の接線の傾きの変化と、被試験曲線の接線の傾きの変化とを、縦軸が変化量で横軸が励磁電流である同一の直交座標系に同時にモニタに表示するように構成すればよい。この表示をオペレータが目視することで、被試験材における異常部を検出することが可能である。
【0069】
また、本実施形態のように、励磁コイル10に三角波や正弦波の励磁電流を通電する場合、磁気特性曲線の接線の傾き(微分透磁率)は、検出コイル20の出力電圧と相関を有することになる。特に、励磁電流が三角波の場合には、微分透磁率は検出コイル20の出力電圧に比例することになる。以下、これについて説明する。
励磁電流Iが三角波の場合、励磁電流Iの時間微分値dI/dtは一定であるため、以下の式(1)が成立する。
dI/dt=C1(C1は定数) ・・・(1)
また、励磁コイル10によって生成される磁界の磁界強度Hは、励磁コイル10に通電する励磁電流Iに比例するため、以下の式(2)が成立する。
H=C2・I(C2は定数) ・・・(2)
上記の式(1)及び式(2)より、以下の式(3)が成立する。
dt/dH=1/(C1・C2) ・・・(3)
【0070】
一方、管P(基準材及び被試験材)に発生する磁束φと磁束密度Bとの間には、管Pの断面積をSとすると、以下の式(4)で表される関係が成立する。
B=φ/S ・・・(4)
ここで、微分透磁率をμとすると、以下の式(5)が成立する。
μ=dB/dH=dt/dH・dB/dt ・・・(5)
上記の式(5)の右辺に上記の式(3)を代入すると、以下の式(6)が成立する。
μ=1/(C1・C2)・dB/dt ・・・(6)
上記の式(6)の右辺に上記の式(4)を代入すると、以下の式(7)が成立する。
μ=1/(C1・C2)・dφ/dt・1/S
=1/(C1・C2・S)・dφ/dt ・・・(7)
上記の式(7)において、dφ/dtは検出コイル20の出力電圧に等しいため、これをVとし、1/(C1・C2・S)をC3(C3は定数)とすると、上記の式(7)は以下の式(8)で表される。
μ=C3・V ・・・(8)
すなわち、励磁電流Iが三角波の場合、磁気特性曲線の接線の傾き(微分透磁率μ)は、検出コイル20の出力電圧Vに比例する。同様に、励磁電流Iが正弦波の場合、磁気特性曲線の接線の傾き(微分透磁率μ)は、検出コイル20の出力電圧Vと相関を有する。
【0071】
以上のように、磁気特性曲線の接線の傾き(微分透磁率μ)は、検出コイル20の出力電圧Vと相関を有するため、検出コイル20の出力電圧を時間微分することで、磁気特性曲線(基準曲線及び被試験曲線)の接線の傾きの変化を把握することが可能である。換言すれば、磁気特性曲線の接線の傾きの変化を直接算出する代わりに、検出コイル20の出力電圧の時間微分値を算出することで、被試験材における異常部を検出することも可能である。
すなわち、上記の第4工程において、基準材について得られた検出コイル20の出力電圧の時間微分値と、被試験材について得られた検出コイル20の出力電圧の時間微分値との差に基づき、被試験材における異常部を検出することも可能である。
上記の好ましい方法においては、例えば、検出手段80が、基準材について得られた検出コイル20の出力電圧の時間微分値と、被試験材について得られた検出コイル20の出力電圧の時間微分値とを、縦軸が検出コイル20の出力電圧の時間微分値で横軸が時間である同一の直交座標系に同時にモニタに表示しするように構成すればよい。この表示をオペレータが目視することで、被試験材における異常部を検出することが可能である。
図11は、
図10に示す基準曲線及び被試験曲線の接線の傾きの変化と励磁電流の関係を示すグラフである。具体的には、検出コイル20に生じた誘導起電力から演算したd
2B/dI
2(磁束密度Bを励磁電流Iで2階微分した値)と励磁電流の関係を示している。
【0072】
以上に挙げた例では、第4工程において、検出手段80のモニタに、以下の(a)〜(c)の何れかを同一の直交座標系に同時に表示し、この表示をオペレータが目視することで、被試験材における異常部を検出することについて説明した。
(a)基準曲線及び被試験曲線
(b)基準曲線の接線の傾きの変化及び被試験曲線の接線の傾きの変化
(c)基準材について得られた検出コイル20の出力電圧の時間微分値及び被試験材について得られた検出コイル20の出力電圧の時間微分値
しかしながら、本実施形態に係る異常検出方法は、これに限るものではなく、第4工程において、オペレータの目視による判断に替えて、或いはオペレータの目視による判断に加えて、検出手段80が異常部を自動検出することも可能である。すなわち、検出手段80が、基準曲線及び被試験曲線の形状の差に基づき、被試験材における異常部を自動的に検出する手順を実行するように構成することも可能である。
【0073】
検出手段80が被試験材における異常部を自動的に検出する手順としては、例えば、所定範囲の磁界強度における各磁気特性曲線の接線の傾きの変化量の大小に応じて、被試験材における異常部を自動的に検出する手順を例示できる。
また、例えば、所定範囲の時間における各管P(基準材及び被試験材)について得られた検出コイル20の出力電圧の時間微分値の大小に応じて、被試験材における異常部を自動的に検出する手順を採用することも可能である。
【0074】
図12は、基準材と、管端から徐々にビッカース硬度の低下量が減少する(すなわち、正常部とのビッカース硬度の差が小さくなる)異常部が存在する被試験材とについて、評価指標EIを算出した結果の一例を示す図である。
図12に示すように、基準材について算出した評価指標EIと、被試験材について算出した評価指標EIとの間には有意差があり、例えば、評価指標EI=0.1近辺にしきい値を設定すれば、算出した評価指標EIがこのしきい値を超える場合には被試験材に異常部が存在すると自動的に判定可能である。
また、異なるしきい値を複数設定し、いずれのしきい値を超えるかによって異常部の程度(正常部との硬度差)を評価することも可能であると考えられる。
【0075】
本実施形態に係る磁気特性変化部検出方法においては、以上に説明した第4工程を実行した後(
図9のS4)、同じ基準材を用いて試験することができる次の被試験材があるか否かを判断する(
図9のS5)。次の被試験材がある場合(
図9のS5において「Yes」の場合)には再び第2工程から繰り返し実行し、無い場合(
図9のS5において「No」の場合)には動作を終了する。
【実施例】
【0076】
以下、本実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100を用いて、下記の条件(1)〜(11)で、正常な管と磁気特性変化部を有する管とを検査した結果の一例について説明する。
検査対象とした管Pは、0.15%炭素鋼からなる管8本である。そのうち、1本の管については、冷却条件を一部変化させて、焼き入れ不良部位を強制的に形成し、磁気特性を変化させた。
(1)管の寸法:外径35mm、肉厚3.5mm
(2)管の搬送速度:300mm/sec
(3)継鉄部材30の材料:炭素濃度0.05%の極低炭素鋼
(4)継鉄部材30の寸法:外径160mm、肉厚30mmの球状
(5)継鉄部材30と管外面との最小ギャップ:10mm
(6)励磁コイル10の寸法:内径58mm、長さ95mm
(7)検出コイル20の寸法:内径56mm、長さ10mm
(8)励磁コイル10の巻数:200回
(9)検出コイル20の巻数:30回
(10)励磁電流:ピーク電流12Aの三角波
(11)励磁周波数:1.5Hz
【0077】
図13は、上記の検査による検査結果の一例を示す。
図13の横軸は磁化の周期を示す時間を示し、縦軸は検出コイル20に生じた誘導起電力から演算したd
2B/dI
2(磁束密度Bを励磁電流Iで2階微分した値)である。
図13に示すように、磁気特性変化部を有する1本の管についての波形は、他の7本の正常な管についての波形とは明らかに異なるものとなるため、この波形の差異から磁気特性変化部を検出することができる。
【0078】
他の実施形態について説明する。上記実施例では、継鉄部材の形状は球状であるが、本実施形態では、
図14に示すように、形状が円筒である継鉄部材130も採用可能である。本実施形態の継鉄部材130及び管Pの寸法は、例えば以下の通りである。
(1)
図14に示すX方向の継鉄部材130の長さ:300mm
(2)管Pの寸法:外径115mm、肉厚8.6mm
【0079】
なお、上記実施形態では、検出対象の磁気特性変化部として焼き入れ不良部位を例示したが、上記実施形態に係る磁気特性変化部検出装置100の検出対象はこれに限るものではなく、磁気特性の変化を広く検出可能である。例えば、浸炭、脱炭なども磁気特性の変化を伴うため、同様に検出可能である。