特許第6791492号(P6791492)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パネフリ工業株式会社の特許一覧

特許6791492陸棲腹足類忌避剤組成物及びこれを利用した陸棲腹足類忌避シート
<>
  • 特許6791492-陸棲腹足類忌避剤組成物及びこれを利用した陸棲腹足類忌避シート 図000004
  • 特許6791492-陸棲腹足類忌避剤組成物及びこれを利用した陸棲腹足類忌避シート 図000005
  • 特許6791492-陸棲腹足類忌避剤組成物及びこれを利用した陸棲腹足類忌避シート 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791492
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】陸棲腹足類忌避剤組成物及びこれを利用した陸棲腹足類忌避シート
(51)【国際特許分類】
   A01N 55/02 20060101AFI20201116BHJP
   A01N 43/16 20060101ALI20201116BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20201116BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20201116BHJP
   A01M 29/34 20110101ALI20201116BHJP
【FI】
   A01N55/02 160
   A01N43/16 Z
   A01P17/00
   A01N25/34 A
   A01M29/34
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-166474(P2016-166474)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-35070(P2018-35070A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永松 ゆきこ
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−154808(JP,A)
【文献】 特開2013−155116(JP,A)
【文献】 特開2001−354502(JP,A)
【文献】 特開2015−071573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 55/02
A01M 29/34
A01N 25/34
A01N 43/16
A01P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン−銅錯体と水系樹脂を含有し、水系樹脂が、カチオン性アクリル系樹脂またはノニオン性ウレタン系樹脂であることを特徴とする陸棲腹足類忌避剤組成物。
【請求項2】
カチオン性アクリル系樹脂が、スチレン−アクリル系共重合体である請求項記載の陸棲腹足類忌避組成物。
【請求項3】
水系樹脂が強制乳化型樹脂エマルションである請求項1又は2記載の陸棲腹足類忌避組成物。
【請求項4】
水系樹脂とキトサン−銅錯体の含有質量比が80:1〜1:20(固形分換算)である請求項1〜のいずれかの項記載の陸棲腹足類忌避組成物。
【請求項5】
基材の少なくとも一方の表面に請求項1〜のいずれかの項記載の陸棲腹足類忌避剤組成物から形成された忌避剤層を有する陸棲腹足類忌避シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カタツムリやナメクジ等の陸棲腹足類の忌避用組成物に関し、さらに詳細には、キトサン−銅錯体を有効成分とし、陸棲腹足類に対する忌避効果が高く、その効果の持続性にも優れる忌避用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カタツムリ、ナメクジ等の陸棲腹足類は、多湿条件を好み、梅雨時期に活発に活動するとともに生息密度も高まり、各種作物を加害する。陸棲腹足類は、日中は土壌中や物陰に潜み、夜間や雨天の日に活動し、植物の新芽、花、葉、果実などを食して食害痕を残す。
【0003】
これらの陸棲腹足類に対して、銅イオンが防除効果を有することが知られている。例えば、水酸化第二銅、硫酸銅などの銅化合物の懸濁液がナメクジに対し致死作用を示すことが報告されている(特許文献1)。しかし、このような液剤の形態では、散水や降雨により銅イオンが流出し、環境に悪影響が生じたり、効果の持続性が低下することが懸念される。そのため、不織布やプラスチックフィルムなどの基体に銅化合物を固定化することが試みられており、例えば、グルコン酸銅を、特定の水溶性樹脂及び水不溶性樹脂中に分散させた組成物をPETフィルム上に塗布したシートが提案されている(特許文献2)。
【0004】
一方、このような害虫に対する忌避効果を有する銅化合物としてキトサンと銅の錯体が知られている。この化合物は酸性の水溶液として利用され、繊維製品に適用することにより、ナメクジに対し忌避効果を示すことが報告されている(特許文献3)。しかし、上述のとおり、このような液剤の形態では、降雨などによりキトサン−銅錯体が流出して持続性が低下したり、生態系に悪影響を及ぼすことが懸念される。そのため、固体担体に固定化し、使用後は回収できるようにすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−162608号公報
【特許文献2】特開2001−354502号公報
【特許文献3】特許第5513863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らが、キトサン−銅錯体を樹脂と混合して固形剤化を試みたところ、そもそも相溶性が低く均一な組成物とならなかったり、相溶しても塗工性や膜形成性に問題が生じる場合があった。さらに膜が形成されたとしても、耐水性が低く、忌避効果が十分に持続されない場合があった。
【0007】
そこで本発明は、キトサン−銅錯体を有効成分とし、塗工性及び膜形成性が良好であるとともに、耐水性に優れ、陸棲腹足類に対する忌避効果が長期間にわたって持続する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、キトサン−銅錯体に特定の樹脂を組み合わせることにより、相溶性が高く均一な組成物が得られるとともに、この組成物は塗工性及び膜形成性に優れ、強固で安定的な膜を形成して耐水性に優れること、さらにこの膜にカタツムリやナメクジが接触すると、その粘液によって適度に膜の表面が溶解し、銅イオンと接触するため、鋭敏な忌避行動を示し、その効果の持続性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、キトサン−銅錯体と水系樹脂を含有し、水系樹脂が、カチオン性アクリル系樹脂、ノニオン性アクリル系樹脂、カチオン性ウレタン系樹脂及びノニオン性ウレタン系樹脂よりなる群から選ばれる1種または2種以上の樹脂であることを特徴とする陸棲腹足類忌避剤組成物である。
【0010】
また本発明は、基材の少なくとも一方の表面に上記組成物からなる忌避剤層を形成した陸棲腹足類忌避シートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の陸棲腹足類忌避剤組成物は、塗工性及び膜形成性が良好であり、形成された膜はキトサン−銅錯体を安定して保持し、かつ陸棲腹足類の粘液によって徐溶する性質を有する。また形成された膜は耐水性が高いため、陸棲腹足類に対する忌避効果及びその効果の持続性に優れるとともに、環境中への銅イオンの流出を防止できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の散水試験を示す外観図
図2】本発明の浸水試験を示す外観図
図3】本発明の陸棲腹足類忌避試験を示す外観図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にはキトサン−銅錯体を有効成分として用いる。キトサン−銅錯体は公知の化合物であり、例えば、特許第5513863号公報の記載に従って製造することができる。以下にその具体的な製法を例示する。
【0014】
キトサン−銅錯体の製造に用いるキトサンとしては、特に制限なく使用することができるが、脱アセチル化度70〜90、重量平均分子量1万以上のものが好ましく、脱アセチル化度80〜90、重量平均分子量50万以下のものが望ましく、さらに1万以上、20万以下のものが好適である。
【0015】
このキトサンと銅錯体を形成する化合物として酢酸銅(II)を使用することができる。酢酸銅(II)を溶解した水溶液にキトサンを投入し、キトサンに酢酸銅を反応させた後、さらに酢酸を投入して反応生成物を溶解させることによって、キトサンと銅の結合物として、キトサン−銅錯体の水溶液を得ることができる。
【0016】
また、まず水に酢酸や乳酸などの有機酸や塩酸などの無機酸を溶解して酸水溶液を調製し、この酸水溶液にキトサンを投入して溶解させた後、このキトサンの水溶液に酢酸銅(II)や硫酸銅(II)塩化第二銅などを投入することによって、同様にキトサン−銅錯体の水溶液を得ることができる。このとき、酸水溶液は、45〜60℃の温水に2〜15質量%(以下、単に「%」で示す)濃度になるように有機酸や無機酸を溶解して調製することが好ましい。また酸水溶液へのキトサンの投入量は2〜8%程度が好ましく、45〜60℃を保ちながらキトサンを完全に溶解することが好ましい。さらに酢酸銅(II)や硫酸銅(II)塩化第二銅などは水和物であってもよく、キトサンの水溶液に塩濃度として2〜12%になるよう投入することが好ましく、45〜60℃を保ちながら反応させることで、キトサン−銅錯体の溶液を得ることができる。キトサンと銅イオンの反応に要する時間は2〜6時間程度であり、3〜5時間がより好ましい。
【0017】
上記のようにして得られるキトサン−銅錯体において、キトサンに対する銅イオンの結合様式としては、キトサン単位構造のCに結合しているアミノ基(−NH)に銅イオンがキレート結合しており、平均してキトサン単分子2〜6個に銅イオン1個の比率でランダムに配位していると考えられる。得られたキトサン−銅錯体の水溶液は任意の割合で水により容易に希釈することができる。
【0018】
一方、本発明に用いる水系樹脂は、樹脂成分が水を含む溶媒に分散したものであり、カチオン性アクリル系樹脂、ノニオン性アクリル系樹脂、カチオン性ウレタン系樹脂及びノニオン性ウレタン系樹脂よりなる群から選ばれる1種または2種以上のものである。これらの中でもキトサン−銅錯体との相溶性、膜形成性及び耐水性の観点から、カチオン性アクリル系樹脂、ノニオン性ウレタン系樹脂が好ましく、例えば、水溶性カチオン性アクリル系樹脂、カチオン性アクリル系樹脂エマルション、水溶性ノニオン性ウレタン系樹脂、ノニオン性ウレタン系樹脂エマルションなどが好適である。樹脂エマルションは、キトサン−銅錯体との相溶性等の観点から、反応性基や非反応親水性基あるいは非反応親水性セグメントを有する自己乳化型よりも外部乳化剤による強制乳化型のものが望ましい。また熱硬化反応によりポリマー間に架橋反応が生じる熱硬化性樹脂を用いてもよい。上記アクリル系樹脂は、少なくともアクリル酸またはアクリル酸エステルをモノマー単位として含む樹脂をいい、これらのホモポリマーまたは他の共重合可能なモノマーとのコポリマーを含む。キトサン−銅錯体との相溶性、膜形成性及び耐水性等の観点から、スチレン−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル系重合体が好適である。
【0019】
上記カチオン性アクリル系樹脂の市販品としては、NニカゾールRX−672A(日本カーバイド社製)、ポリゾールAP−1350((メタ)アクリル酸エステル)、ポリゾールAE−821(スチレン・アクリル酸エステル共重合物)(以上昭和電工社製)等が例示できる。ノニオン性アクリル系樹脂の市販品としては、ポリゾールAP−1700N(スチレン・アクリル酸エステル共重合体)等が例示できる。ノニオン性ウレタン系樹脂の市販品としては、アデカボンタイターHUX−895、HUX−830(ADEKA社製)、スーパーフレックスE−2000(第一工業製薬社製)等が例示できる。
【0020】
これらの水系樹脂の平均粒径は特に限定されるものではないが、キトサン−銅錯体との相溶性及び膜形成性等の観点から0.01μm〜10μmであることが好ましく、0.1μm〜2.0μmがより好ましい。
【0021】
本発明に用いる水系樹脂中の樹脂成分(固形分)の含有量は、5〜60%が好ましく、10〜55%がより好ましい。またキトサン−銅錯体との相溶性及び膜形成性等の観点から、その粘度が10〜5000mPa・sの範囲であることが好ましく、20〜4000mPa・sであることがより好ましい。水系樹脂は、水の他、界面活性剤、架橋剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、フィラーなどを含んでいてもよい。なお、本発明において水系樹脂の粘度及び平均粒径は、以下の測定方法によって測定される値を意味する。
【0022】
(粘度の測定方法)
振動式、回転式、細管式、落体式、カップ式粘度計などを用いることができるが、特に単一円筒型回転式粘度計(B型)が好適に用いられ、20〜25℃での測定値が採用できる。
【0023】
(平均粒径の測定方法)
動的光散乱法を原理とする粒子径分布測定装置が好適に使用される。
【0024】
本発明の陸棲腹足類忌避剤組成物(以下、「忌避剤組成物」ということがある)中の上記キトサン−銅錯体の含有量は特に限定されるものではないが、膜形成性及び忌避効果等の観点から、固形分換算で0.5〜10%、好ましくは1〜5%である。一方、水系樹脂の含有量は、固形分換算で0.2〜55%、好ましくは1〜50%である。また水系樹脂とキトサン−銅錯体の含有質量比(固形物換算)は、80:1〜1:20(水系樹脂:キトサン−銅錯体)であることが好ましく、40:1〜2:1であることがより好ましい。
【0025】
本発明の陸棲腹足類忌避剤組成物には、上記必須成分の他、硬化剤等の成分を必要に応じ添加することができる。硬化剤としては、イソシアネート化合物、塩化ジルコニル化合物、チタンラクテートアンモニウム塩等が例示できる。市販品としては、メイカネートCX(明成化学工業社製)、オルガチックス(マツモトファインケミカル社製)等が例示できる。
【0026】
上記キトサン−銅錯体、水系樹脂及び必要に応じて添加される硬化剤等の任意成分を常法に従って混合することにより、本発明の陸棲腹足類忌避剤組成物を調製することができる。
【0027】
また上記陸棲腹足類忌避剤組成物から形成された忌避剤層を、基材の少なくとも一方の表面に設けることにより、本発明の陸棲腹足類忌避シートを得ることができる。
【0028】
上記基材としては特に限定されないが、例えば、木材、和紙、上質紙等の紙、綿や麻などの天然繊維やその織布、天然ゴム、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックの板やフィルム、繊維、織布、不織布や、金属、陶器、石等が例示される。これらの中でも、利用上の便利さ、経済性の観点から、紙、プラスチック等が好ましい。
【0029】
基材上に忌避剤層を形成させるにあたっては、常法に従って行うことができ、例えば、上記基材に忌避剤組成物をコーティングし、乾燥すればよい。忌避剤組成物をコーティングする方法としては、ナイフコーター、ロッドコーター(バーコーター)、スクイズコーター(2本ロールコーター)、リバースロールコーター、グラビアコーター等により塗工する方法が例示される。忌避剤組成物の塗布量は、特に限定されないが、例えば10〜100g/mが好ましく、20〜50g/mがより好ましい。バーコーターの番線やガラスコーターに設けたクリアランス、塗布回数、ロールのメッシュサイズや形状、ドクター刃のクリアランス、塗布回数などによって塗布量を制御することができる。基材上に形成される忌避剤層の厚みは特に限定されないが、忌避効果の持続性等の観点から5〜1000μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。コーティングにあたっては、忌避剤組成物を適宜希釈したり増粘剤を添加するなどして粘度を調整してもよい。乾燥条件は、溶媒が十分に除去されるように、溶媒の量や種類等に応じて適宜設定される。また必要に応じ加熱処理を行って熱硬化させてもよい。さらに膜の強度等の物性向上のために、乾燥処理後1〜4週間程度熟成させることが好ましい。
【0030】
本発明の忌避シートは、上記のように形成された忌避剤層が基材の一方または両方の表面に積層されたものである。忌避剤層を基材の一方のみに形成する場合、他方の表面には粘着剤層を設け、適用場所に固着できるようにしてもよい。
【0031】
本発明の忌避剤組成物及び忌避シートの適用対象である陸棲腹足類としては、オナジマイマイ、ウスカワマイマイ、アフリカマイマイ等のカタツムリ類、ナメクジ、ノハラナメクジ、コウラナメクジ、チャコウラナメクジ、フタスジナメクジ、ヤマナメクジ、アシヒダナメクジ等のナメクジ類が例示できる。
【0032】
本発明の陸棲腹足類忌避剤組成物によって形成される膜は、陸棲腹足類の粘液によって徐溶する性質を有する。そのため、陸棲腹足類が当該膜に接触すると、溶出した銅イオンを直接感知して鋭敏な忌避行動を示す。一方、この膜はキトサン−銅錯体を安定して保持し、粘液による溶出も微量にとどまる。さらにこの膜は耐水性に優れ、降雨等による銅イオンの流出も抑制されるため、環境への影響を抑えるとともに、長期間にわたってその忌避効果が維持される。
【実施例】
【0033】
以下、実施例等を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【0034】
製造例1
キトサン−銅錯体の調製:
容量2リットルのガラス製ビーカーに水道水を803.23g採り、ウォ―ターバスにて加温して50〜55℃に達したところに、酢酸(和光純薬工業株式会社製、試薬1級、純度99%)80gを投入し、溶解させた。
次に、この酢酸水溶液に、50gのキトサン(甲陽ケミカル(株)製「キトサンSK−10」:脱アセチル化度86.9、平均分子量約50000、灰分0.27%、フレーク状)を投入し、温度を保ちながら完全に溶解させた。
溶解したことを確認した後、最後に66.77gの酢酸銅(II)・1水和物(和光純薬工業(株)製、試薬1級、純度98%、計算上の銅含有量20.81g)を加え、3時間反応させることによって、1000gのキトサン−銅錯体の水溶液を得た。
【0035】
実施例1
忌避シートの作製:
製造例1で得られたキトサン−銅錯体の水溶液と水系樹脂としてスーパーフレックスE−2000(ウレタン系樹脂、ノニオン性、粘度612mPa・s、エステル骨格構造、強制乳化グレード、第一工業製薬社製)とを含有質量比1:23(固形分換算)となるように混合し、忌避剤組成物を調製した。この忌避剤組成物を40メッシュグラビアコーターを用いて3.5cm幅の和紙シートに塗工した後、180℃で2分間乾燥し、再び40メッシュグラビアコーターを用いて塗工し、180℃で2分間乾燥し、忌避剤層(塗布量43.1g/m)を形成した。
【0036】
実施例2
含有質量比1:12(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量43.5g/m)した以外は実施例1と同様にして忌避シートを得た。
【0037】
実施例3
水系樹脂としてNニカゾールRX672A(アクリル系樹脂、カチオン性、粘度33mPa・s、アクリル共重合物、強制乳化グレード、日本カーバイド社製)を用いて、含有質量比1:19(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量31.3g/m)した以外は実施例1と同様にして忌避シートを得た。
【0038】
実施例4
含有質量比1:9(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量35.2g/m)した以外は実施例3と同様にして忌避シートを得た。
【0039】
実施例5
水系樹脂としてポリゾールAE−821(アクリル系樹脂、カチオン性、粘度29mPa・s、スチレン・アクリル酸エステル共重合物、強制乳化グレード、昭和電工社製)を用いて、含有質量比1:21(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量40.1g/m)した以外は実施例1と同様にして忌避シートを得た。
【0040】
実施例6
含有質量比1:11(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量37.0g/m)した以外は実施例5と同様にして忌避シートを得た。
【0041】
比較例1
3.5cm幅の和紙シートに何も塗布しないで忌避シートを得た。
【0042】
比較例2
製造例1で得られたキトサン−銅錯体の水溶液のみを40メッシュグラビアコーターを用いて3.5cm幅の和紙シートに塗工(塗布量24.3g/m)した後、180℃で2分間乾燥し忌避剤層を形成した。
【0043】
比較例3
製造例1で得られたキトサン−銅錯体の水溶液と水溶性樹脂としてデンカサイズW−100(ポリビニルアルコール樹脂、ノニオン性、粘度1000mPa・s、完全けん化、電気化学工業社製)10%水溶液とを含有質量比1:45(固形分換算)となるように混合し、忌避剤組成物を調製した。この忌避剤組成物をグラビアコーターを用いて3.5cm幅の和紙シートに塗工(塗布量16.2g/m)した後、180℃で2分間乾燥し忌避剤層を形成した。
【0044】
比較例4
含有質量比1:22(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量14.7g/m)した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0045】
比較例5
含有質量比1:11(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量10.6g/m)した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0046】
比較例6
水系樹脂としてアデカボンタイターHUX−380(ウレタン系樹脂、アニオン性、粘度19mPa・s、エステル骨格構造、強制乳化グレード、ADEKA社製)を用いて、含有質量比1:4(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0047】
比較例7
水系樹脂としてポリゾールAP−1900(アクリル系樹脂、アニオン性、粘度3200mPa・s、スチレンーアクリル酸エステル共重合物、強制乳化グレード、昭和電工社製)を用いて、含有質量比1:6(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0048】
比較例8
樹脂としてウォーターゾールACD02001(アクリル系樹脂、粘度3210mPa・s、有機溶媒含有グレード、DIC社製)を用いて、含有質量比1:5(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0049】
試験例1
耐水試験:
実施例1〜6で得られた忌避シート1を15cm長さに切断し、それぞれ図1のように壁5に貼付し、シャワー(φ0.5mm×69穴)4から3リットル/分の流速で30分間散水、あるいは図2のように1リットルの水3を満たした約1.5リットル容量の水槽(11cm×8cm×16.5cm高さ)2に1時間浸水した後、24時間自然乾燥し、散水処理または浸水処理前の塗膜の質量に対する散水処理または浸水処理後の塗膜の質量の割合として溶脱率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
キトサン−銅錯体のみを用いた比較例2では、シート材に対する塗工性は優れるも耐水性が低く、散水処理後90%以上が溶脱した。また、ポリビニルアルコール樹脂を用いた比較例3〜5は、キトサン−銅錯体との相溶性は良好であったが、耐水性が低く、25〜70%程度の塗膜が溶脱した。アニオン性樹脂または有機溶媒を含む樹脂を用いた比較例6〜8では、相溶性が低く、すぐに分離したり、塗工した際にも塗布面が粗くなるなど膜形成が困難であり、そもそも忌避シートの調製が十分にできなかった。これに対して、実施例1〜6で用いた忌避剤組成物は、いずれもキトサン−銅錯体と水系樹脂との相溶性が良好でシート材に対する塗工性にも優れ、耐水性の高い強固で安定的な塗膜を形成し、散水・浸水処理後の溶脱はわずかであった。
【0052】
試験例2
カタツムリ耐水忌避試験:
試験例1で得られた各浸水、散水試験後の忌避シートを用いて、図3のようにカタツムリ耐水忌避試験を実施した。すなわち幅3.5cm長さ15cmの忌避シート1を内径4.8cmの円筒容器6の内側に粘着シールで貼付した。容器内にはカタツムリ7を1頭静置した。10分以内にカタツムリが忌避シートを登って外へ出ているかどうか観察した。試験は5回以上繰り返し、試験毎にカタツムリを交換した。カタツムリが外に出なかった回数を全試験の回数で除した値を忌避率(%)とした。なおコントロールとして忌避剤組成物を塗工していないシートのみを用いて同様に試験した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1〜6の忌避シートは、水中に浸漬した後もにじみ等が生じることなく塗膜は浸漬前の状態を保ち、忌避効果も一定程度維持しており、耐水性に優れることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の陸棲腹足類忌避剤組成物及びこれを利用した忌避シートは、陸棲腹足類に対する忌避効果及びその持続性に優れるものであるため、作物を食害する陸棲腹足類防除材として有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 忌避シート
2 水槽
3 水
4 シャワー
5 壁
6 円筒容器
7 カタツムリ
図1
図2
図3