【実施例】
【0033】
以下、実施例等を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
【0034】
製造例1
キトサン−銅錯体の調製:
容量2リットルのガラス製ビーカーに水道水を803.23g採り、ウォ―ターバスにて加温して50〜55℃に達したところに、酢酸(和光純薬工業株式会社製、試薬1級、純度99%)80gを投入し、溶解させた。
次に、この酢酸水溶液に、50gのキトサン(甲陽ケミカル(株)製「キトサンSK−10」:脱アセチル化度86.9、平均分子量約50000、灰分0.27%、フレーク状)を投入し、温度を保ちながら完全に溶解させた。
溶解したことを確認した後、最後に66.77gの酢酸銅(II)・1水和物(和光純薬工業(株)製、試薬1級、純度98%、計算上の銅含有量20.81g)を加え、3時間反応させることによって、1000gのキトサン−銅錯体の水溶液を得た。
【0035】
実施例1
忌避シートの作製:
製造例1で得られたキトサン−銅錯体の水溶液と水系樹脂としてスーパーフレックスE−2000(ウレタン系樹脂、ノニオン性、粘度612mPa・s、エステル骨格構造、強制乳化グレード、第一工業製薬社製)とを含有質量比1:23(固形分換算)となるように混合し、忌避剤組成物を調製した。この忌避剤組成物を40メッシュグラビアコーターを用いて3.5cm幅の和紙シートに塗工した後、180℃で2分間乾燥し、再び40メッシュグラビアコーターを用いて塗工し、180℃で2分間乾燥し、忌避剤層(塗布量43.1g/m
2)を形成した。
【0036】
実施例2
含有質量比1:12(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量43.5g/m
2)した以外は実施例1と同様にして忌避シートを得た。
【0037】
実施例3
水系樹脂としてNニカゾールRX672A(アクリル系樹脂、カチオン性、粘度33mPa・s、アクリル共重合物、強制乳化グレード、日本カーバイド社製)を用いて、含有質量比1:19(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量31.3g/m
2)した以外は実施例1と同様にして忌避シートを得た。
【0038】
実施例4
含有質量比1:9(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量35.2g/m
2)した以外は実施例3と同様にして忌避シートを得た。
【0039】
実施例5
水系樹脂としてポリゾールAE−821(アクリル系樹脂、カチオン性、粘度29mPa・s、スチレン・アクリル酸エステル共重合物、強制乳化グレード、昭和電工社製)を用いて、含有質量比1:21(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量40.1g/m
2)した以外は実施例1と同様にして忌避シートを得た。
【0040】
実施例6
含有質量比1:11(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量37.0g/m
2)した以外は実施例5と同様にして忌避シートを得た。
【0041】
比較例1
3.5cm幅の和紙シートに何も塗布しないで忌避シートを得た。
【0042】
比較例2
製造例1で得られたキトサン−銅錯体の水溶液のみを40メッシュグラビアコーターを用いて3.5cm幅の和紙シートに塗工(塗布量24.3g/m
2)した後、180℃で2分間乾燥し忌避剤層を形成した。
【0043】
比較例3
製造例1で得られたキトサン−銅錯体の水溶液と水溶性樹脂としてデンカサイズW−100(ポリビニルアルコール樹脂、ノニオン性、粘度1000mPa・s、完全けん化、電気化学工業社製)10%水溶液とを含有質量比1:45(固形分換算)となるように混合し、忌避剤組成物を調製した。この忌避剤組成物をグラビアコーターを用いて3.5cm幅の和紙シートに塗工(塗布量16.2g/m
2)した後、180℃で2分間乾燥し忌避剤層を形成した。
【0044】
比較例4
含有質量比1:22(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量14.7g/m
2)した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0045】
比較例5
含有質量比1:11(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工(塗布量10.6g/m
2)した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0046】
比較例6
水系樹脂としてアデカボンタイターHUX−380(ウレタン系樹脂、アニオン性、粘度19mPa・s、エステル骨格構造、強制乳化グレード、ADEKA社製)を用いて、含有質量比1:4(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0047】
比較例7
水系樹脂としてポリゾールAP−1900(アクリル系樹脂、アニオン性、粘度3200mPa・s、スチレンーアクリル酸エステル共重合物、強制乳化グレード、昭和電工社製)を用いて、含有質量比1:6(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0048】
比較例8
樹脂としてウォーターゾールACD02001(アクリル系樹脂、粘度3210mPa・s、有機溶媒含有グレード、DIC社製)を用いて、含有質量比1:5(固形分換算)となるように混合した忌避剤組成物を塗工した以外は比較例3と同様にして忌避シートを得た。
【0049】
試験例1
耐水試験:
実施例1〜6で得られた忌避シート1を15cm長さに切断し、それぞれ
図1のように壁5に貼付し、シャワー(φ0.5mm×69穴)4から3リットル/分の流速で30分間散水、あるいは
図2のように1リットルの水3を満たした約1.5リットル容量の水槽(11cm×8cm×16.5cm高さ)2に1時間浸水した後、24時間自然乾燥し、散水処理または浸水処理前の塗膜の質量に対する散水処理または浸水処理後の塗膜の質量の割合として溶脱率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
キトサン−銅錯体のみを用いた比較例2では、シート材に対する塗工性は優れるも耐水性が低く、散水処理後90%以上が溶脱した。また、ポリビニルアルコール樹脂を用いた比較例3〜5は、キトサン−銅錯体との相溶性は良好であったが、耐水性が低く、25〜70%程度の塗膜が溶脱した。アニオン性樹脂または有機溶媒を含む樹脂を用いた比較例6〜8では、相溶性が低く、すぐに分離したり、塗工した際にも塗布面が粗くなるなど膜形成が困難であり、そもそも忌避シートの調製が十分にできなかった。これに対して、実施例1〜6で用いた忌避剤組成物は、いずれもキトサン−銅錯体と水系樹脂との相溶性が良好でシート材に対する塗工性にも優れ、耐水性の高い強固で安定的な塗膜を形成し、散水・浸水処理後の溶脱はわずかであった。
【0052】
試験例2
カタツムリ耐水忌避試験:
試験例1で得られた各浸水、散水試験後の忌避シートを用いて、
図3のようにカタツムリ耐水忌避試験を実施した。すなわち幅3.5cm長さ15cmの忌避シート1を内径4.8cmの円筒容器6の内側に粘着シールで貼付した。容器内にはカタツムリ7を1頭静置した。10分以内にカタツムリが忌避シートを登って外へ出ているかどうか観察した。試験は5回以上繰り返し、試験毎にカタツムリを交換した。カタツムリが外に出なかった回数を全試験の回数で除した値を忌避率(%)とした。なおコントロールとして忌避剤組成物を塗工していないシートのみを用いて同様に試験した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
実施例1〜6の忌避シートは、水中に浸漬した後もにじみ等が生じることなく塗膜は浸漬前の状態を保ち、忌避効果も一定程度維持しており、耐水性に優れることが示された。