(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非晶質ポリエステルAが、カルボン酸成分として炭素数8以上20以下のアルキル基で置換されたコハク酸及び炭素数8以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸からなる群より選ばれる少なくとも1種のコハク酸系化合物を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のトナー。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[トナー]
本発明のトナーは、非晶質ポリエステルAと、結晶性ポリエステルCとを含有する、溶融混練法による粉砕トナーであって、
前記非晶質ポリエステルAが、炭素数3以上5以下の第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含むアルコール成分と、芳香族ジカルボン酸系化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物であり、
前記結晶性ポリエステルCが、脂肪族ジオールを含むアルコール成分と、脂肪族ジカルボン酸系化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物であり、
前記非晶質ポリエステルAのガラス転移点Tg(a)[℃]が下記式(I)を満たし、
前記非晶質ポリエステルAの溶解度パラメータをSP(a)[(cal/cm
3)
1/2]、前記結晶性ポリエステルCの溶解度パラメータをSP(c)[(cal/cm
3)
1/2]、前記結晶性ポリエステルCの結晶化温度をTc(c)[℃]としたとき、下記式(II)、及び式(III)を満たす。
式(I): 50 ≦ Tg(a) ≦ 60
式(II): 1.10 ≦ SP(a) - SP(c) ≦ 1.50
式(III): 5≦ Tc(c) - Tg(a) ≦ 17
本発明によれば、低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制に優れたトナーが得られる。本発明の効果が得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
式(I)の関係を満たすことで、優れた低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制を示すトナーが得られる。
式(II)の関係を満たすことで、非晶質ポリエステルAと結晶性ポリエステルCとの相溶を抑制しながら、結晶性ポリエステルCの分散性を高められるので、低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制に優れたトナーが得られる。
さらに、式(III)の関係を満たすことで、結着樹脂組成物を溶融混練したとしても、冷却過程で、結晶性ポリエステルCのドメインが形成されやすくなり、結晶性ポリエステルCがトナー中で微分散されるので、低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制に優れたトナーが得られる。
【0011】
〔式(I)〜(III)〕
式(I)に関して、Tg(a)は、得られるトナーの低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制に優れたトナーを得る観点から、50以上であり、好ましくは52以上であり、そして、60以下であり、好ましくは58以下である。
【0012】
式(II)に関して、[SP(a) - SP(c)]は、低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制に優れたトナーを得る観点から、1.10以上であり、好ましくは1.20以上であり、そして、1.50以下であり、好ましくは1.40以下である。
【0013】
式(III)に関して、[Tc(c) - Tg(a)]は、低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制に優れたトナーを得る観点から、5以上であり、好ましくは6以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、そして、17以下であり、好ましくは16以下、より好ましくは15以下である。
【0014】
本発明におけるガラス転移点Tg(a)は、実施例に記載の示差走査熱量測定によって観測される方法により測定される。
本発明におけるSP値:SP(a)及びSP(c)は、Fedorsらが提案した[POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, FEBRUARY, 1974, Vol.14, No.2, ROBERT F. FEDORS. (147〜154頁)]に記載の方法によって計算されたものである。
本発明における結晶化温度Tc(c)は、実施例に記載の示差走査熱量測定によって観測される方法により測定される。
なお、トナー中に非晶質ポリエステルが2種類以上含有される場合(但し、非晶質ポリエステルの含有量が10質量部以上のものを対象とする)、少なくとも、最も軟化点の低い非晶質ポリエステルが、非晶質ポリエステルAとして、上記式(I)〜(III)の条件を満足すればよい。
トナー中に結晶性ポリエステルが2種類以上含有される場合(但し、結晶性ポリエステルの含有量が10質量部以上のものを対象とする)、少なくとも、最も軟化点の低い結晶性ポリエステルが、結晶性ポリエステルCとして、上記式(I)〜(III)の条件を満足すればよい。
【0015】
〔非晶質ポリエステルA〕
非晶質ポリエステルAは、炭素数3以上5以下の第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含むアルコール成分と、芳香族ジカルボン酸系化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物である。
【0016】
炭素数3以上5以下の第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールとしては、耐熱保存性を向上させる観点から、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,3-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも1,2-プロパンジオールがより好ましい。
【0017】
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、耐熱保存性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、そして更に好ましくは100モル%である。
【0018】
アルコール成分は、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールに加えて、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは水酸基を炭素鎖の末端に有しているα,ω-脂肪族ジオール、より好ましくはα,ω-直鎖アルカンジオールを含む。α,ω-脂肪族ジオールの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、そして、好ましくは5以下、より好ましくは4以下であり、そして、より好ましくは4である。α,ω-直鎖アルカンジオールとしては、1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0019】
非晶質ポリエステルAのアルコール成分として、α,ω-脂肪族ジオールが含まれる場合、α,ω-脂肪族ジオール、好ましくはα,ω-直鎖アルカンジオールの含有量は、アルコール成分中、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは15モル%以上であり、そして、耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、更に好ましくは25モル%以下である。
【0020】
非晶質ポリエステルAのアルコール成分として、α,ω-脂肪族ジオールが含まれる場合、第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールとα,ω-脂肪族ジオールのモル比(第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオール/α,ω-脂肪族ジオール)は、耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1以上、更に好ましくは2以上であり、そして、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0021】
第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールとα,ω-脂肪族ジオールの合計含有量は、低温定着性及び耐熱保存性をより向上させる観点から、非晶質ポリエステルAのアルコール成分中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、そして、更に好ましくは100モル%である。
【0022】
他のアルコール成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール、炭素数6以上の脂肪族ジオール、グリセリン等の3価以上のアルコール等を用いてもよい。
【0023】
カルボン酸成分において、芳香族ジカルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられ、これらの中ではテレフタル酸が好ましい。
なお、本発明において、ジカルボン酸系化合物とは、ジカルボン酸、その無水物及びその炭素数1以上3以下のアルキル基を有するアルキルエステルを指すが、これらの中では、ジカルボン酸が好ましい。
【0024】
カルボン酸成分は、芳香族ジカルボン酸系化合物に加えて、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは3価以上のカルボン酸系化合物、より好ましくは3価のカルボン酸系化合物を含む。
3価以上のカルボン酸系化合物としては、例えば、好ましくは炭素数4以上30以下、より好ましくは炭素数4以上20以下、更に好ましくは炭素数4以上10以下の3価以上のカルボン酸、又はそれらの酸無水物、炭素数1以上3以下のアルキル基を有するアルキルエステル等の誘導体等が挙げられる。具体的には、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸(ピロメリット酸)又はそれらの酸無水物等が挙げられ、カスレをより抑制する観点、及び帯電安定性を向上させカブリの発生を抑制する観点から、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)又はその酸無水物が好ましく、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物(無水トリメリット酸)がより好ましい。
【0025】
3価以上のカルボン酸系化合物の含有量は、低温定着性及び耐熱保存性をより向上させる観点から、非晶質ポリエステルAのカルボン酸成分中、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、更に好ましくは1モル%以上であり、そして、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下である。
【0026】
カルボン酸成分は、芳香族ジカルボン酸系化合物に加えて、帯電安定性を向上させカブリの発生を抑制する観点から、好ましくは、炭素数8以上20以下のアルキル基で置換されたコハク酸及び炭素数8以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸からなる群より選ばれるコハク酸系化合物を含む。コハク酸系化合物の具体例としては、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸、デセニルコハク酸、それらの酸無水物、それらの炭素数1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。なかでも、ドデセニルコハク酸、テトラプロペニルコハク酸、又はそれらの酸無水物が好ましく、ドデセニルコハク酸無水物がより好ましい。
【0027】
コハク酸系化合物の含有量は、帯電安定性を向上させカブリの発生を抑制する観点、及び低温定着性をより向上させる観点から、非晶質ポリエステルAのカルボン酸成分中、好ましくは3モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上であり、そして、トナーの耐熱保存性をより向上させる観点から、非晶質ポリエステルAのカルボン酸成分中、好ましくは50モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、更に好ましくは25モル%以下である。
【0028】
他のカルボン酸成分としては、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0029】
なお、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、適宜含有されていてもよい。
【0030】
カルボン酸成分とアルコール成分の当量モル比(COOH基/OH基)は、ポリエステルの酸価を低減しつつ、分子量を向上させる観点から、好ましくは0.70以上1.15以下、より好ましくは0.75以上1.10以下、更に好ましくは0.75以上0.95以下である。
【0031】
アルコール成分とカルボン酸成分との重縮合反応は、特に制限されるものではないが、例えば、不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じて、エステル化触媒、エステル化助触媒、重合禁止剤等の存在下、140℃以上、好ましくは180以上、そして、250℃以下、好ましくは240℃以下の温度で行うことができる。エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、ジ(2-エチルヘキサン酸)錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等が挙げられ、エステル化触媒とともに用い得るエステル化助触媒としては、没食子酸等が挙げられる。エステル化触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。エステル化助触媒の使用量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0032】
非晶質ポリエステルAの数平均分子量は、カスレをより抑制する観点から、好ましくは4,000以上、より好ましくは4,500以上であり、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは10,000以下、より好ましくは7,000以下である。なお、2種以上の非晶質ポリエステルを含有する場合の数平均分子量は、最も軟化点の低い温度を有する非晶質ポリエステルの値である。
【0033】
また、非晶質ポリエステルAは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。例えば、変性されたポリエステルとしては、特開平11-133668号公報、特開平10-239903号公報、特開平8-20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルをいう。
【0034】
非晶質ポリエステルAの軟化点は、耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは95℃以上であり、そして、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは125℃以下、より好ましくは115℃以下である。
【0035】
非晶質ポリエステルAのガラス転移点[Tg(a)]は、式(I)に規定するとおりである。
【0036】
非晶質ポリエステルAの酸価は、生産性を向上させる観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは3mgKOH/g以上、更に好ましくは4mgKOH/g以上であり、そして、耐熱保存性の観点から、好ましくは30mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下、更に好ましくは10mgKOH/g以下である。
【0037】
なお、ポリエステルの結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち[軟化点/吸熱の最高ピーク温度]の値で定義される結晶性指数によって表わされる。結晶性ポリエステルは、結晶性指数が0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上であり、そして、1.4以下、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下の樹脂である。一方、非晶質ポリエステルは、結晶性指数が1.4超え、好ましくは1.5超え、より好ましくは1.6以上であり、又は、0.6未満、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下の樹脂である。ポリエステルの結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。結晶性ポリエステルにおいては、吸熱の最高ピーク温度を融点とする。
【0038】
非晶質ポリエステルAのSP値〔ソルビリティー パラメーター:(cal/cm
3)
1/2〕:SP(a)は、好ましくは10.00以上、より好ましくは10.50以上、更に好ましくは11.00以上であり、そして、好ましくは12.50以下、より好ましくは12.00以下、更に好ましくは11.50以下である。
【0039】
トナーにおいて、非晶質ポリエステルAの含有量は、結着樹脂の合計量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
本発明において、結着樹脂の合計量とは、非晶質ポリエステルA、非晶質ポリエステルAH、及び結晶性ポリエステルCの合計量を意味する。
【0040】
〔非晶質ポリエステルAH〕
トナーは、耐高温オフセット性の観点から、好ましくは、非晶質ポリエステルAよりも軟化点が高い非晶質ポリエステルAHを更に含有する。
非晶質ポリエステルAHを含有する場合、非晶質ポリエステルAHの溶解度パラメータをSP(ah)[(cal/cm
3)
1/2]としたとき、下記式(IV)を満たすことが好ましい。
式(IV): |SP(ah) - SP(a)| ≦ 1.00
式(IV)に関して、|SP(ah) - SP(a)|は、低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制により優れたトナーを得る観点から、好ましくは0.80以下であり、より好ましくは0.70以下である。
なお、SP(ah)の算出方法は、前述のSP(a)と同様である。
【0041】
非晶質ポリエステルAHは、好ましくは、炭素数3以上5以下の第二級炭素原子に結合した水酸基を有する脂肪族ジオールを含むアルコール成分と、芳香族ジカルボン酸を含むカルボン酸成分との重縮合物である。
非晶質ポリエステルAHの好適例は、以下で特筆しない限り、上述の非晶質ポリエステルAのアルコール成分及びカルボン酸成分等の好適例と同様である。
【0042】
非晶質ポリエステルAHの軟化点は、耐高温オフセット性の観点から、好ましくは110℃以上、より好ましくは130℃以上であり、そして、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは170℃以下、より好ましくは160℃以下である。
【0043】
非晶質ポリエステルAと非晶質ポリエステルAHの軟化点の差は、耐高温オフセット性と低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、そして、帯電性の観点から、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。
【0044】
トナーにおいて、非晶質ポリエステルAHの含有量は、結着樹脂の合計量に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0045】
非晶質ポリエステルAと非晶質ポリエステルAHの質量比(非晶質ポリエステルA/非晶質ポリエステルAH)は、耐久性及び生産性の観点から、好ましくは20/80以上、より好ましくは40/60以上であり、そして、低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは80/20以下、より好ましくは60/40以下である。
【0046】
非晶質ポリエステルAには、本発明の効果を損なわない範囲で、前記非晶質ポリエステル以外の公知の非晶質樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂等の他の樹脂が併用されていてもよいが、非晶質ポリエステルの総含有量は、低温定着性をより向上させる観点から、非晶質ポリエステルA中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
【0047】
〔結晶性ポリエステルC〕
結晶性ポリエステルCは、脂肪族ジオールを含むアルコール成分と、脂肪族ジカルボン酸系化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物である結晶性ポリエステルである。
【0048】
結晶性ポリエステルCのアルコール成分は、ポリエステルの結晶性を高める観点、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、脂肪族ジオールを含有し、好ましくはα,ω-脂肪族ジオールを含有し、より好ましくはα,ω-直鎖アルカンジオールを含有する。
脂肪族ジオールの炭素数は、好ましくは2以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール等が挙げられ、耐熱保存性及びカスレの抑制を向上させる観点から、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブテンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0049】
脂肪族ジオールの含有量は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、100モル%以下であり、そして、更に好ましくは100モル%である。
【0050】
アルコール成分には、脂肪族ジオール以外の多価アルコール成分が含有されていてもよく、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族ジオール;グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、1,4−ソルビタン等の3価以上のアルコールが挙げられる。
【0051】
結晶性ポリエステルCのカルボン酸成分は、ポリエステルの結晶性を高める観点、トナーの低温定着性及び耐熱保存性を向上させる観点から、脂肪族ジカルボン酸系化合物を含有する。
【0052】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは9以上であり、そして、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下である。ただし、ここで脂肪族ジカルボン酸系化合物の炭素数とは、アルキルエステルの場合、当該アルキルエステルの炭素数を除外する。
脂肪族ジカルボン酸系化合物としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸等が挙げられ、耐熱保存性及びカスレの抑制を向上させる観点から、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、及びテトラデカン二酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0053】
脂肪族ジカルボン酸系化合物の含有量は、ポリエステルの結晶性を高める観点から、カルボン酸成分中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下であり、そして、更に好ましくは100モル%である。
【0054】
カルボン酸成分には、脂肪族ジカルボン酸系化合物以外の多価カルボン酸系化合物が含有されていてもよく、該多価カルボン酸系化合物としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸系化合物;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の3価以上の芳香族カルボン酸、及びこれらの無水物、アルキル基の炭素数1以上3以下のアルキルエステル等が挙げられる。
【0055】
また、アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸系化合物が、分子量調整等の観点から、適宜含有されていてもよい。
【0056】
結晶性ポリエステルCは、好ましくは、脂肪族ジオールを含むアルコール成分と脂肪族ジカルボン酸系化合物を含むカルボン酸成分との重縮合物である結晶性ポリエステルであり、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸系化合物の少なくとも1つの炭素数が9以上14以下である。炭素数が9以上14以下の化合物の含有量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量中、ポリエステルの結晶性を高める観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%、更に好ましくは60モル%以下である。
【0057】
結晶性ポリエステルCのカルボン酸成分とアルコール成分との当量比(COOH基/OH基)は、ポリエステルの軟化点を調整する観点から、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.75以上であり、そして、好ましくは1.10以下、より好ましくは1.00以下である。
【0058】
結晶性ポリエステルCの好適な合成法及びその条件は、前述の非晶質ポリエステルAで記載したものと同様である。
【0059】
なお、結晶性ポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂と複合化又は変性されたポリエステルを含む。他の樹脂と複合化されたポリエステルとしては、例えば、ポリエステルにスチレン/アクリル共重合体等のスチレン系樹脂を複合させた複合樹脂が挙げられる。変性されたポリエステルとしては、例えば、ポリエステルがウレタン結合で変性されたウレタン変性ポリエステル、ポリエステルがエポキシ結合で変性されたエポキシ変性ポリエステル等が挙げられる。
【0060】
結晶性ポリエステルCの結晶化温度Tc(c)は、トナーの耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上であり、そして、トナーの低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0061】
結晶性ポリエステルCの軟化点は、トナーの耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、そして、トナーの低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは115℃以下、更に好ましくは110℃以下である。
【0062】
また、結晶性ポリエステルCの軟化点は、トナーの低温定着性をより向上させる観点から、非晶質ポリエステルAの軟化点よりも低いことが好ましく、その差は、好ましくは5℃以上、より好ましくは8℃以上、より好ましくは10℃以上であり、そして、好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは20℃以下である。
【0063】
結晶性ポリエステルCの融点は、トナーの耐熱保存性及びカスレの抑制をより向上させる観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上、更に好ましくは80℃以上であり、そして、トナーの低温定着性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、更に好ましくは100℃以下である。
【0064】
結晶性ポリエステルCのSP値:SP(c)は、トナーの耐熱保存性及びカスレの抑制をより向上させる観点から、好ましくは9.00以上、より好ましくは9.60以上であり、そして、好ましくは10.50以下、より好ましくは10.00以下である。
【0065】
トナーにおいて、結晶性ポリエステルCの含有量は、低温定着性をより向上させる観点から、結着樹脂の合計量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上であり、そして、トナーの耐熱保存性及びカスレの抑制をより向上させる観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0066】
非晶質ポリエステルAと結晶性ポリエステルCの質量比(非晶質ポリエステルA/結晶性ポリエステルC)は、耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましくは70/30以上、より好ましくは80/20以上、更に好ましくは90/10以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは97/3以下、より好ましくは95/5以下である。
【0067】
非晶質ポリエステルの合計量と結晶性ポリエステルCの質量比(非晶質ポリエステル/結晶性ポリエステルC)は、耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましくは70/30以上、より好ましくは80/20以上、更に好ましくは90/10以上であり、そして、低温定着性の観点から、好ましくは97/3以下、より好ましくは95/5以下である。
【0068】
本発明のトナーには、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の非晶質ポリエステルA及びAH以外の公知の非晶質樹脂、例えば、スチレン-アクリル樹脂等のビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂等の他の樹脂が併用されていてもよい。
【0069】
非晶質ポリエステルA及び結晶性ポリエステルCの総含有量は、低温定着性をより向上させる観点から、トナーの樹脂成分中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
非晶質ポリエステルA、非晶質ポリエステルAH、及び結晶性ポリエステルCの総含有量は、低温定着性をより向上させる観点から、トナーの樹脂成分中、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上であり、そして、100質量%以下である。
【0070】
トナーには、更に、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が含有されていてもよく、着色剤、離型剤及び荷電制御剤が含有されていることが好ましい。
【0071】
〔着色剤〕
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等を使用することができる。例えば、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾエロー等が挙げられる。本発明において、トナー粒子は、黒用トナー、カラー用トナーのいずれであってもよい。
【0072】
着色剤の含有量は、トナーの画像濃度を向上させる観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、そして、好ましくは40質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0073】
〔離型剤〕
離型剤としては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンポリエチレン共重合体ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス等の炭化水素ワックス及びそれらの酸化物、カルナウバワックス、モンタンワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステルワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、ポリプロピレンワックスが好ましい。
【0074】
離型剤の融点は、トナーの耐熱保存性をより向上させる観点から、好ましく60℃以上、より好ましく70℃以上であり、そして、耐高温オフセット性の観点から、好ましくは150℃以下である。
【0075】
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、トナーの低温定着性の向上と耐オフセット性の観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上であり、そして、トナーの耐久性の観点から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更に好ましくは4質量部以下である。
【0076】
〔荷電制御剤〕
荷電制御剤は、特に限定されず、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよい。
【0077】
正帯電性荷電制御剤としては、ニグロシン染料、例えば「ニグロシンベースEX」、「オイルブラックBS」、「オイルブラックSO」、「ボントロンN-01」、「ボントロンN-04」、「ボントロンN-07」、「ボントロンN-09」、「ボントロンN-11」(以上、オリヱント化学工業株式会社製)等;3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩化合物、例えば「ボントロンP-51」(オリヱント化学工業株式会社製)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、「COPY CHARGE PX VP435」(クラリアント社製)等;ポリアミン樹脂、例えば「AFP-B」(オリヱント化学工業株式会社製)等;イミダゾール誘導体、例えば「PLZ-2001」、「PLZ-8001」(以上、四国化成工業株式会社製)等;スチレン−アクリル系樹脂、例えば「FCA-701PT」(藤倉化成株式会社製)等が挙げられる。
【0078】
また、負帯電性荷電制御剤としては、含金属アゾ染料、例えば「バリファーストブラック3804」、「ボントロンS-31」、「ボントロンS-32」、「ボントロンS-34」、「ボントロンS-36」(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、「アイゼンスピロンブラックTRH」、「T-77」(以上、保土谷化学工業株式会社製)等;ベンジル酸化合物の金属化合物、例えば、「LR-147」、「LR-297」(以上、日本カーリット株式会社製)等;サリチル酸化合物の金属化合物、例えば、「ボントロンE-81」、「ボントロンE-84」、「ボントロンE-88」、「ボントロンE-304」(以上、オリヱント化学工業株式会社製)、「TN-105」(保土谷化学工業株式会社製)等;銅フタロシアニン染料;4級アンモニウム塩、例えば「COPY CHARGE NX VP434」(クラリアント社製)、ニトロイミダゾール誘導体等;有機金属化合物等が挙げられる。
【0079】
荷電制御剤の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、結着樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
【0080】
[製造方法]
トナーは、粉砕法による粉砕トナーであり、例えば、結着樹脂及び着色剤、必要に応じて、離型剤、荷電制御剤等の原料を混合機で均一に混合した後、混練機で溶融混練し、冷却、粉砕、分級して製造することができる。
【0081】
トナーの製造方法は、好ましくは下記工程1及び工程2を含む。
工程1:非晶質ポリエステルA及び結晶性ポリエステルCを含有する結着樹脂を含むトナー用原料混合物を溶融混練する工程
工程2:工程1で得られた溶融混練物を粉砕し、分級する工程
【0082】
また、工程1では、着色剤も溶融混練することがより好ましく、他の樹脂、離型剤、荷電制御剤等の添加剤も、ともに溶融混練することが好ましい。
【0083】
結着樹脂、着色剤、荷電制御剤、及び、離型剤等のトナー原料は、あらかじめヘンシェルミキサー、ボールミル等の混合機で混合した後、混練機に供給することが好ましい。
【0084】
溶融混練には、密閉式ニーダー、一軸又は二軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて行うことができる。混練の繰り返しや分散助剤の使用をしなくても、トナー中に着色剤、荷電制御剤、離型剤等の添加剤を効率よく高分散させることができる観点から、二軸押出機を用いることが好ましい。
【0085】
二軸押出機は、混練部が密閉されており、混練の際に発生する混練熱により各材料を容易に溶融することができる。
【0086】
二軸押出機の設定温度は、押出し機の構造上、トナー原料の溶融特性に影響されず、意図した温度にて溶融混合することが容易である。
二軸押出機の設定温度(バレル設定温度)は、例えば、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは160℃以下、より好ましくは140℃以下である。
【0087】
回転周速度は、着色剤、荷電制御剤、離型剤等の添加剤のトナー中での分散性を向上させる観点、溶融混練時の機械力を低減し、発熱を抑制する観点から、同方向回転二軸押出機の場合、好ましくは0.05m/sec以上、より好ましくは0.10m/sec以上、より好ましくは0.15m/sec以上であり、そして、好ましくは5m/sec以下、より好ましくは1.0m/sec以下、より好ましくは0.40m/sec以下である。
【0088】
工程1で得られた溶融混練物を、粉砕が可能な程度に冷却した後、続く工程2に供する。
【0089】
工程2では、工程1で得られた溶融混練物を粉砕し、分級する。
【0090】
粉砕工程は、多段階に分けて行ってもよい。例えば、溶融混練物を硬化させて得られた樹脂混練物を、1〜5mm程度に粗粉砕した後、更に所望の粒径に微粉砕してもよい。
【0091】
粉砕工程に用いられる粉砕機は特に限定されないが、例えば、粗粉砕に好適に用いられる粉砕機としては、ハンマーミル、アトマイザー、ロートプレックス等が挙げられる。また、微粉砕に好適に用いられる粉砕機としては、流動層式ジェットミル、衝突板式ジェットミル、回転型機械式ミル等が挙げられる。粉砕効率の観点から、流動層式ジェットミル、又は衝突板式ジェットミルを用いることが好ましく、流動層式ジェットミルを用いることがより好ましい。
【0092】
分級工程に用いられる分級機としては、ロータ式分級機、気流式分級機、慣性式分級機、篩式分級機等が挙げられる。分級工程の際、粉砕が不十分で除去された粉砕物は再度粉砕工程に供してもよく、必要に応じて粉砕工程と分級工程を繰り返してもよい。
【0093】
本発明のトナーには、転写性を向上させるために、外添剤を用いることが好ましい。外添剤としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、メラミン系樹脂微粒子、ポリテトラフルオロエチレン樹脂微粒子等の樹脂粒子等の有機微粒子が挙げられ、2種以上が併用されていてもよい。これらの中では、シリカが好ましく、トナーの転写性の観点から、疎水化処理された疎水性シリカであることがより好ましい。
【0094】
シリカ粒子の表面を疎水化するための疎水化処理剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ジメチルジクロロシラン(DMDS)、シリコーンオイル、オクチルトリエトキシシラン(OTES)、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0095】
外添剤の平均粒子径は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは90nm以下である。
【0096】
外添剤の含有量は、トナーの帯電性や流動性、転写性の観点から、外添剤で処理する前のトナー粒子100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0097】
本発明のトナーの体積中位粒径(D
50)は、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上であり、そして、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下である。なお、本明細書において、体積中位粒径(D
50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。また、トナーを外添剤で処理している場合には、外添剤で処理する前のトナー粒子の体積中位粒径(D
50)をトナーの体積中位粒径(D
50)とする。
【0098】
本発明のトナーは、静電荷像現像用トナーとして用いられる。
本発明のトナーは、そのまま一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して用いられる二成分現像用トナーとして、それぞれ一成分現像方式又は二成分現像方式の画像形成装置に用いることができる。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0100】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT-500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0101】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度、結晶性ポリエステルの融点〕
示差走査熱量計「Q-100」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、室温(25℃)から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、0℃にて1分間維持する。その後、昇温速度10℃/minで測定する。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱の最高ピーク温度とする。結晶性ポリエステルにおいては、吸熱の最高ピーク温度を融点とした。
【0102】
〔樹脂のガラス転移点:Tg(a)等〕
示差走査熱量計「Q-20」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱ピークを測定する。吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移点とする。
【0103】
〔樹脂の結晶化温度:Tc(c)等〕
示差走査熱量計「Q-20」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却する。観測される発熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を結晶化温度とする。
【0104】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。ただし、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0105】
〔樹脂の数平均分子量〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により数平均分子量を求める。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、試料をテトラヒドロフランに、40℃で溶解させる。次いで、この溶液を孔径0.20μmのPTFEタイプメンブレンフィルター「DISMIC-25JP」(東洋濾紙株式会社製)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてテトラヒドロフランを、毎分1mLの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μLを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー株式会社製のA-500(5.0×10
2)、A-1000(1.01×10
3)、A-2500(2.63×10
3)、A-5000(5.97×10
3)、F-1(1.02×10
4)、F-2(1.81×10
4)、F-4(3.97×10
4)、F-10(9.64×10
4)、F-20(1.90×10
5)、F-40(4.27×10
5)、F-80(7.06×10
5)、F-128(1.09×10
6))を標準試料として作成したものを用いる。括弧内は分子量を示す。
測定装置:HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)
分析カラム:TSKgel GMH
XL+TSKgel G3000H
XL(東ソー株式会社製)
【0106】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計「DSC Q20」(ティー エイ インスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温し、その温度から降温速度5℃/minで-10℃まで冷却する。次に試料を昇温速度10℃/minで180℃まで昇温し測定する。そこで得られた融解吸熱カーブから観察される吸熱の最高ピーク温度を離型剤の融点とする。
【0107】
〔外添剤の平均粒子径〕
平均粒子径は、個数平均粒子径を指し、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から500個の粒子の粒径(長径と短径の平均値)を測定し、それらの数平均値とする。
【0108】
〔トナーの体積中位粒径(D
50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター株式会社製)
アパチャー径:100μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター株式会社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター株式会社製)
分散液:電解液にエマルゲン109P(花王株式会社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB(グリフィン):13.6)を溶解して5質量%に調整したもの
分散条件:前記分散液5mLに測定試料10mgを添加し、超音波分散機「US-1」(株式会社エスエヌディー製、出力:80W)にて1分間分散させ、その後、前記電解液25mLを添加し、更に、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を調製する。
測定条件:前記電解液100mLに、3万個の粒子の粒径を20秒間で測定できる濃度となるように、前記試料分散液を加え、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D
50)を求める。
【0109】
樹脂製造例A1〜A2、A5、AH1〔樹脂A1〜A2、A5、AH1〕
表1に示す無水トリメリット酸以外の原料モノマー及びエステル化触媒を、窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、200℃に昇温して6時間反応させた。更に210℃に昇温した後、無水トリメリット酸を添加し、常圧(101.3kPa)にて1時間反応させ、更に40kPaにて所望の軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルA1〜A2、A5、AH1を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。
【0110】
樹脂製造例A3〜A4〔樹脂A3〜A4〕
表1に示す原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10L容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃まで昇温した後、220℃まで5時間かけて昇温を行った。その後、8.0kPaにて表1に示す軟化点に達するまで反応を行い、非晶質ポリエステルA3〜A4を得た。得られた樹脂の物性を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
樹脂製造例C1〜C6〔樹脂C1〜樹脂C6〕
表2に示す原料モノマー、及びエステル化触媒を窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気下、130℃から200℃まで10時間かけて昇温を行い、200℃で8kPaにて1時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。得られた樹脂の物性を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
実施例1〜5及び比較例1〜7
表3に示す所定量の結着樹脂100質量部、着色剤「REGAL 330R」(キャボット スペシャリティー ケミカルズ インク社製)5.0質量部、離型剤「NP-055」(三井化学株式会社製、ポリプロピレンワックス、融点:146℃)1.0質量部、及び荷電制御剤「ボントロンE-304」(オリヱント化学工業株式会社製)1.0質量部を、ヘンシェルミキサーを用いて1分間混合後、以下に示す条件で溶融混練した。
【0115】
同方向回転二軸押出機「PCM-30」(株式会社池貝製、軸の直径 2.9cm、軸の断面積 7.06cm
2)を使用した。運転条件は、バレル設定温度 100℃、軸回転数 200r/min(軸の回転の周速 0.30m/sec)、混合物供給速度 10kg/h(軸の単位断面積あたりの混合物供給量 1.42kg/h・cm
2)であった。
【0116】
得られた樹脂混練物を冷却し、粉砕機「ロートプレックス」(ホソカワミクロン株式会社製)により粗粉砕し、目開きが2mmのふるいを用いて体積中位粒子径が2mm以下の粗粉砕物を得た。得られた粗粉砕物を、気流分級機「DS2型」(衝突板式、日本ニューマチック株式会社製)を用いて体積中位粒径(D
50)が8.0μmになるように粉砕圧を調整して微粉砕した。得られた微粉砕物を、気流分級機「DSX2型」(日本ニューマチック株式会社製)を用いて体積中位粒径(D
50)が8.5μmになるように静圧(内部圧力)を調整して分級を行い、トナー粒子を得た。
【0117】
得られたトナー粒子100質量部と、外添剤として疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル株式会社製、疎水化処理剤:DMDS、平均粒子径:16nm)0.5質量部、及び疎水性シリカ「RY50」(日本アエロジル株式会社製、疎水化処理剤:シリコーンオイル、平均粒子径:40nm)1.0質量部を、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて2100r/min(周速度29m/sec)で3分間混合して、トナーを得た。
【0118】
試験例1〔低温定着性〕
未定着画像を取れるように改造した、プリンター「OKI MICROLINE 5400」(株式会社沖データ製)にトナーを充填し、2cm角のベタ画像の未定着画像を印刷した。「OKI MICROLINE 3010」(株式会社沖データ製)を改造した外部定着装置を使用して、定着ロールの回転速度180mm/secにて、定着ロールの温度を100℃から230℃まで5℃ずつ上昇させながら、各温度でこの未定着画像の定着処理を行い、定着画像を得た。各定着温度で得られた画像を、400gの荷重をかけた砂消しゴム「ER-502R」(株式会社ライオン事務器製)で5往復擦り、擦り前後の画像濃度を画像濃度測定器「Gretag SPM50」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、擦り前後の画像濃度比率(%)([擦り後の画像濃度/擦り前の画像濃度]×100)が最初に85%を超える温度を最低定着温度とし、低温定着性の指標とした。値が小さいほど低温定着性に優れる。結果を表3に示す。
【0119】
試験例2〔耐熱保存性〕
20ml容のポリプロピレン製の容器に、5gのトナーを入れた。トナーの入った容器を、60℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に入れ、ポリビンの蓋をあけた状態で、3時間保存した。放置後のトナーの凝集度を測定し、耐熱保存性の指標とした。この数値が小さいほど、耐熱保存性に優れる。結果を表3に示す。
(凝集度)
凝集度は、パウダーテスタ(ホソカワミクロン株式会社製)を用いて測定する。
150μm、75μm、45μmの目開きの篩を重ね、一番上にトナーを5g載せ、1mmの振動幅で60秒間振動させる。振動後、篩い上に残ったトナー量を測定し、下記の計算式を用いて凝集度の計算を行う。
【数1】
【0120】
試験例3〔カスレ抑制〕
非磁性一成分現像装置「MicroLine5400」(株式会社沖データ製)にトナー50gを実装し、25℃、相対湿度50%の環境下でA4サイズの黒ベタ画像を印刷した。次に印字率1%で500枚印字を行った後、再度A4サイズの黒ベタ画像を印刷した。なお、印字媒体にJ紙(富士ゼロックス株式会社製)を用いた。初期の黒ベタ画像の下部から5cmの中央部分の画像濃度(ID1)と500枚印字後の下部から5cmの中央部分の画像濃度(ID2)を「Gretag SPM50」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の画像濃度の差を確認した。画像濃度の差が0.4を超えた場合はその印字枚数を供給カスレ抑制の評価結果とし、0.4を超えない場合は500枚ずつ印字を行い、同様に評価した。印字枚数が多いほど供給カスレの抑制に優れる。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
以上の結果より、実施例1〜5のトナーは、低温定着性、耐熱保存性、及びカスレの抑制のいずれもが良好であることが分かる。
これに対し、結晶性ポリエステルを用いていない比較例1では、低温定着性に欠ける。
比較例2及び比較例3から、非晶質ポリエステルAのガラス転移点と結晶性ポリエステルCの結晶化温度の差(Tc(c)-Tg(a))が所定の範囲となることで、低温定着性及び耐熱保存性が向上するものの、これら比較例2,3では、ガラス転移点の低い非晶質ポリエステルを用いたことから、耐熱保存性とカスレの抑制が不十分である。
ガラス転移点の高い非晶質ポリエステルを用いた比較例4では、低温定着性に欠ける。
非晶質ポリエステルAと結晶性ポリエステルCのSP値の差(SP(a) - SP(c))の大きい比較例5では、カスレの抑制が不十分である。
SP値の差(SP(a) - SP(c))の小さい比較例6では、耐熱保存性とカスレの抑制が不十分である。
非晶質ポリエステルAのガラス転移点と結晶性ポリエステルCの結晶化温度の差(Tc(c) - Tg(a))の小さい(マイナスの値をとる)比較例7では、耐熱保存性とカスレの抑制が不十分である。