(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法]
本発明の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法は、下記式(1)で表される化合物(A)(以下、単に「化合物(A)」ともいう)の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(B)(以下、単に「モノマー(B)」ともいう)を乳化重合する方法である。
【0015】
[式中、R
1は炭素数16以上24以下のアルキル基を示し、mは(CH
2CH
2O)の平均付加モル数を示し、0.5以上10以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。]
なお、本明細書において、「塗膜」とは、ポリマーエマルションを基板に塗布した後、乾燥させて硬化させた状態にある膜を意味し、「耐水塗膜」とは、耐水性を有する塗膜を意味する。
また、「耐水性を有する」とは、単に塗膜を水中に浸漬した状態での膨れや剥離の有無で評価するものではなく、実施例に記載のように、塗膜を水中に20日間静置浸漬した後に、ヘーズ値を測定し、ヘーズ値が10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下であることを意味する。
本発明の方法で得られるポリマー塗膜は耐水性に優れ、塗料、特に水性塗料分野や、粘着剤分野に好ましく用いることができ、その用途が一層広がることが期待される。
【0016】
本発明によれば、耐水性に優れた耐水塗膜用ポリマーエマルション、及びポリマー塗膜を製造することができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
すなわち、本発明のポリマーエマルションの製造方法においては、前記式(1)で表される化合物(A)の存在下で乳化重合するが、化合物(A)は界面活性能が高いことから、乳化重合において、ポリマーエマルションを小粒径化することが可能であり、このポリマーエマルションを用いて調製したポリマー塗膜は緻密な膜となるため、耐水性が優れたものになると考えられる。
また、一般的な乳化剤は、融点が0℃未満と低く、ポリマー塗膜中で移動しやすく、経時的に塗膜表面へブリードし、水を塗膜中へ引き込み易いが、化合物(A)は融点が好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上と高いことから、ポリマー塗膜中で移動しにくく、長期間放置されても塗膜表面へブリードしないので、水に曝される環境下に置かれても、ポリマー塗膜中に水を引き込みにくいことから、耐水性が優れたものになると考えられる。
【0017】
<化合物(A)>
化合物(A)は、下記式(1)で表される、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル又はその塩である。
なお、化合物(A)は、式(1)で表される、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩のいずれか1種を含有していればよく、2種以上を含有していてもよい。
【0019】
[式中、R
1は炭素数16以上24以下のアルキル基を示し、mは(CH
2CH
2O)の平均付加モル数を示し、0.5以上10以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。]
【0020】
式(1)におけるR
1であるアルキル基は、直鎖でも分岐鎖であってもよいが、ポリマーエマルションを小粒径化し、このポリマーエマルションを用いて調製したポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、直鎖であることが好ましい。
アルキル基の炭素数は、上記と同様の観点から、16以上であり、好ましくは18以上、より好ましくは20以上であり、そして、24以下であり、好ましくは22以下である。すなわち、アルキル基の炭素数は、好ましくは16以上22以下、より好ましくは18以上22以下、更に好ましくは20以上22以下である。
R
1の具体例としては、パルミチル基、マルガリル基、イソステアリル基、2−ヘプチルウンデシル基、ステアリル基、アラキジル基、ベヘニル基、リグノセリル基等のアルキル基が挙げられ、上記と同様の観点から、パルミチル基、ステアリル基、及びベヘニル基から選ばれる1種以上が好ましく、ベヘニル基がより好ましい。
【0021】
式(1)におけるmは、(CH
2CH
2O)の平均付加モル数を示し、ポリマーエマルションを小粒径化し、このポリマーエマルションを用いて調製したポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、0.5以上であり、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、そして、10以下であり、好ましくは8以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下、より更に好ましくは5以下、より更に好ましくは4以下である。すなわち、mは、0.5以上10以下であり、好ましくは1以上8以下、より好ましくは2以上7以下、更に好ましくは3以上7以下、より更に好ましくは4以上7以下である。
mは分布を有する場合があり、化合物(A)として、(CH
2CH
2O)の平均付加モル数mが異なる複数の化合物を含有することができる。なお、平均付加モル数mは、例えば、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0022】
式(1)におけるMは、陽イオン又は水素原子を示す。
Mが陽イオンである場合、式(1)で表される化合物は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩となる。この場合、式(1)で表される化合物は、厳密には以下の式(1−1)で表される。
【0024】
式(1−1)中のR
1及びmは、式(1)中のR
1及びmと同義であり、好ましい範囲も同じである。M
+は陽イオンを示す。
【0025】
Mである陽イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、及びトリエタノールアンモニウムイオン等のアルカノールアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの中では、ポリマーエマルションを小粒径化し、このポリマーエマルションを用いて調製したポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、Mは、好ましくはアルカリ金属イオン及びアルカノールアンモニウムイオンから選ばれる1種以上、より好ましくはアルカリ金属イオン、更に好ましくはナトリウムイオン(Na
+)及びカリウムイオン(K
+)から選ばれる1種以上、より更に好ましくはナトリウムイオン(Na
+)である。
なお、Mが二価以上の陽イオンの場合には、−SO
3−の陰イオンと対イオンとなるように存在すればよく、例えば、二価の陽イオンであれば、−SO
3−の量に対して、1/2量が存在すればよい。
【0026】
式(1)におけるMが水素原子である場合、式(1)で表される化合物は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルとなる。
【0027】
化合物(A)の融点は、ポリマー塗膜の耐水性を向上させる観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、ポリマーエマルション製造における作業性の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
なお、化合物(A)として、2種以上の化合物を用いる場合は、沸点の異なる複数の化合物の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値で上記の範囲とすることが好ましい。
【0028】
本発明の一実施形態において、R
1が直鎖の炭素数18以上22以下のアルキル基であり、mが1以上8以下であり、Mがナトリウムイオン又はカリウムイオンである化合物(A)を用いることが好ましい。
また、R
1が、直鎖の炭素数20以上22以下のアルキル基であり、mが2以上7以下であり、Mがナトリウムイオン又はカリウムイオンである化合物(A)を用いることがより好ましく、R
1が、直鎖の炭素数20以上22以下のアルキル基であり、mが3以上6以下であり、Mがナトリウムイオン又はカリウムイオンである化合物(A)を用いることが更に好ましい。
【0029】
化合物(A)の具体例としては、C
18H
37O−(CH
2CH
2O)
3−SO
3Na、C
18H
37O−(CH
2CH
2O)
3−SO
3K、C
22H
45O−(CH
2CH
2O)
4−SO
3Na、及びC
22H
45O−(CH
2CH
2O)
4−SO
3Kから選ばれる1種以上が好適に挙げられる。
化合物(A)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0030】
前記式(1)で表される化合物(A)は、下記式(2)で表されるエチレンオキシド化合物を硫酸化剤により硫酸エステル化し、更に塩基性物質で中和することによって得ることができる。硫酸化剤としては、硫酸、スルファミン酸(アミド硫酸)、三酸化硫黄、クロルスルホン酸等が挙げられるが、副反応抑制等の観点からスルファミン酸が好ましい。
硫酸化反応は、温度60〜140℃で行うことができる。
【0032】
なお、前記式(2)で表されるエチレンオキシド化合物は、公知の方法で合成することができる。例えば、炭素数18以上22以下の飽和アルコールに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ触媒の存在下に、常圧又は加圧下、室温〜200℃の温度でアルキレンオキサイドを付加させる方法により合成することができる。
【0033】
<ラジカル重合可能なモノマー(B)>
本発明に用いるラジカル重合可能なモノマー(B)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の好ましくは炭素数1以上22以下、より好ましくは1以上12以下、更に好ましくは1以上8以下のアルキル基を有する、(メタ)アクリル酸エステル;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル及び塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類等が挙げられる。
これらのモノマー(B)は単独重合、又は2種以上を併用して共重合させてもよい。
なお、(メタ)アクリル酸は、メタクリル酸及びアクリル酸から選ばれる1種又は2種を意味し、(メタ)アクリル酸エステルは、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種を意味する。以下においても同様である。
【0034】
<乳化重合>
本発明のポリマーエマルションの製造方法は、前記式(1)で表される化合物(A)の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(B)を乳化重合する方法である。
本発明の方法においては、本発明の効果を損なわない範囲で、化合物(A)以外のその他の乳化剤を併用することができる。その他の乳化剤としては、例えば、アルコールエトキシレート、アルキルポリグリコシド、アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤;アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、脂肪酸石鹸、アルキルエーテルカルボキシレート等のアニオン性界面活性剤、更に水溶性保護コロイド等が挙げられる。
【0035】
乳化重合に用いるラジカル重合開始剤は、通常の乳化重合に用いられるものであればいずれも使用できる。ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスジイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド等のアゾ系化合物等が挙げられるが、重合反応性、作業性及び経済性の観点から、過硫酸塩が好ましい。さらに、重合開始剤としては、過酸化化合物に亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせたレドックス系の開始剤も使用できる。また、重合促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第一鉄アンモニウム等を用いることもできる。
【0036】
(各成分の割合)
本発明におけるラジカル重合可能なモノマー(B)の使用量は、エマルションの平均粒径を小さくし、重合安定性、塗膜の耐水性の観点から、全系に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
化合物(A)の使用量は、上記と同様の観点から、乳化剤総量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、100質量%以下である。
また、化合物(A)の使用量は、モノマー(B)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0037】
(乳化重合条件)
乳化重合において、モノマー(B)を添加する場合、モノマー滴下法、モノマー一括仕込み法、プレエマルション法等のいずれの方法も用いることができるが、重合安定性の観点から、プレエマルション法が好ましい。
プレエマルションの滴下時間は、1時間以上8時間以下、熟成時間は1時間以上5時間以下が好ましい。重合温度は、重合開始剤の分解温度により調整されるが、50℃以上90℃以下が好ましく、特に過硫酸塩の場合は70℃以上85℃以下が好ましい。
【0038】
[耐水塗膜用ポリマーエマルション]
本発明の耐水塗膜用ポリマーエマルションは、本発明の方法により得られる。
本発明の方法により得られる耐水塗膜用ポリマーエマルションの平均粒径は、塗膜の耐水性の観点から、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは160nm以下であり、そして、重合安定性の観点から、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは80nm以上である。
ポリマーエマルションの平均粒径の測定は、実施例に記載の方法により行うことができる。
また、ポリマーエマルションの粘度は、作業性の観点から、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは50mPa・s以上、更に好ましくは100mPa・s以上であり、そして、好ましくは50,000mPa・s以下、より好ましくは10,000mPa・s以下、更に好ましくは5,000mPa・s以下である。ポリマーエマルションの粘度の測定は、ブルックフィールド型粘度計を用いる回転粘度計法等の一般に用いられる測定方法により行うことができる。
【0039】
[塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、前記ポリマーエマルションを含有し、前記ポリマーエマルションを含有することにより、得られる塗膜の耐水性が向上する。
塗料組成物には、顔料や、必要に応じて、水、粘性制御剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を更に含有することができる。
顔料としては、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の体質顔料;ベンガラ、カーボンブラック、群青、黄酸化鉄等の着色顔料;二酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料、雲母チタン、オキシ塩化ビスマス等のパール系顔料等の無機系顔料;有機合成色素としての染料、有機顔料等が挙げられる。これらの顔料は単独で又は2種以上を組み合せて使用することができる。
【0040】
本発明の塗料組成物中のポリマーエマルションの含有量は、塗膜の耐水性の観点から、塗料組成物中の全固形分に対し固形分換算で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0041】
本発明の塗料組成物に顔料が含まれる場合、塗料組成物中の顔料の含有量は、塗膜の耐水性の観点から、塗料組成物中の全固形分に対し固形物換算(PWC)で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。PWCは下記式により算出される。
PWC=(塗料組成物中の顔料固形分÷塗料組成物中の全固形分)×100
【0042】
[ポリマー塗膜の製造方法]
本発明のポリマー塗膜(以下、単に「塗膜」ともいう)の製造方法は、下記工程1及び2を有する。
工程1:前記式(1)で表される化合物(A)の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(B)を乳化重合し、平均粒径30nm以上300nm以下のポリマーエマルションを得る工程
工程2:工程1で得られたポリマーエマルションを、基板に塗布し、乾燥する工程
【0043】
工程1で用いる化合物(A)及びモノマー(B)については、前述のとおりである。
工程1において、前記化合物(A)の添加量(含有量)は、ポリマーエマルション中、モノマー(B)100質量部に対して、0.1質量部以上であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、そして、10質量部以下であり、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
こうして、平均粒径が30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上であり、そして、平均粒径が300nm以下、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは160nm以下であるポリマーエマルションを得る。
【0044】
工程2は、工程1で得られたポリマーエマルションを、基板に塗布し、乾燥する工程である。
用いる基板に特に制限はなく、ガラス、金属(アルミニウム、ステンレス等)、セラミックス(碍子、タイル等)、耐熱性高分子材料等からなる基板が挙げられる。
工程1で得られたポリマーエマルションを基板に塗布する方法に特に制限はなく、コンマコーター、ブレードコーター、グラビアコーター等のロールコーター、スロットダイコーター、リップコーター、カーテンコーター等の従来公知のコーティング装置を用いることができる。
【0045】
ポリマーエマルションを基板に塗布し乾燥するが、乾燥工程で加熱することにより、乾燥時間を短縮し、形成される塗膜の硬度を向上させることができる。
加熱温度は、生産性及び塗膜の均一性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。
加熱時間は、生産性及び塗膜の均一性の観点から、好ましくは10秒間以上、より好ましくは30秒間以上、より好ましくは1分間以上であり、そして、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下である。
塗膜の厚さは、用途等により異なるが、生産性、及び塗膜の耐水性の観点から、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下であり、そして、硬度を高める観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。
【0046】
ポリマー塗膜は、その用途により、モノマー(B)等を適宜変更して製造することができる。
例えば、粘着剤用途では、化合物(A)を用いた乳化重合によって、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ブチル等のポリマーガラス転移温度(Tg)の低いポリマーエマルションを製造した後、得られたポリマーエマルションに、必要に応じて、増粘剤、粘着付与剤等を配合したものを紙やフィルム等の基材に塗工し、熱風乾燥して厚さ10〜40μm程度のポリマー塗膜を形成させると、耐水性、及び粘着性能に優れた粘着製品を得ることができる。
また、塗料用途では、化合物(A)を用いた乳化重合によって、アクリル酸n−ブチル/メタクリル酸メチル共重合体等のポリマーエマルションを製造した後、得られたポリマーエマルションに、必要に応じて、成膜助剤、顔料等を配合したものを建築壁材等に乾燥膜厚が1〜500μm程度、好ましくは10〜300μm程度になるように塗工し、これを自然乾燥、又は熱風乾燥することにより、耐水性に優れた塗膜を得ることができる。
本発明の方法で得られるポリマー塗膜は耐水性に優れ、塗料、特に水性塗料分野や、粘着製品分野に好ましく用いることができる。
【0047】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法、耐水塗膜用ポリマーエマルション、それを含有する塗料組成物、及びポリマー塗膜の製造方法を開示する。
<1> 下記式(1)で表される化合物(A)の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(B)を乳化重合する、耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
【化6】
[式中、R
1は炭素数16以上24以下のアルキル基を示し、mは(CH
2CH
2O)の平均付加モル数を示し、0.5以上10以下であり、Mは陽イオン又は水素原子を示す。]
【0048】
<2> 式(1)におけるR
1であるアルキル基の炭素数が、好ましくは18以上、より好ましくは20以上であり、そして、好ましくは22以下である、前記<1>に記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
<3> 式(1)におけるmが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、そして、好ましくは8以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下、より更に好ましくは5以下、より更に好ましくは4以下である、前記<1>又は<2>に記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
<4> 化合物(A)が、好ましくは、R
1が直鎖の炭素数20以上22以下のアルキル基であり、mが2以上7以下であり、Mがナトリウムイオン又はカリウムイオンである化合物、より好ましくは、R
1が直鎖の炭素数20以上22以下のアルキル基であり、mが3以上6以下であり、Mがナトリウムイオン又はカリウムイオンである化合物である、前記<1>〜<3>のいずれかに記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
<5> 化合物(A)の融点が、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である、前記<1>〜<4>のいずれかに記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
<6> 化合物(A)が、C
18H
37O−(CH
2CH
2O)
3−SO
3Na、C
18H
37O−(CH
2CH
2O)
3−SO
3K、C
22H
45O−(CH
2CH
2O)
4−SO
3Na、及びC
22H
45O−(CH
2CH
2O)
4−SO
3Kから選ばれる1種以上である、前記<1>〜<5>のいずれかに記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
【0049】
<7> ラジカル重合可能なモノマー(B)が、芳香族ビニルモノマー、炭素数1以上22以下、好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上8以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、ビニルエステル、ニトリル類、共役ジエン類から選ばれる1種以上、好ましくは、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレンから選ばれる1種以上である、前記<1>〜<6>のいずれかに記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
<8> ラジカル重合可能なモノマー(B)の使用量が、全系に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60重量%以下である、前記<1>〜<7>のいずれかに記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
【0050】
<9> 化合物(A)の使用量が、乳化剤総量に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、100質量%以下である、前記<1>〜<8>のいずれかに記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
<10> 化合物(A)の使用量が、モノマー(B)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上であり、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である、前記<1>〜<9>のいずれかに記載の耐水塗膜用ポリマーエマルションの製造方法。
【0051】
<11> 前記<1>〜<10>のいずれかに記載の方法により得られる、耐水塗膜用ポリマーエマルション。
<12> 耐水塗膜用ポリマーエマルションの平均粒径が、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは160nm以下であり、そして、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは80nm以上である、前記<11>に記載の耐水塗膜用ポリマーエマルション。
<13> ポリマーエマルションの粘度が、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは50mPa・s以上、更に好ましくは100mPa・s以上であり、そして、好ましくは50,000mPa・s以下、より好ましくは10,000mPa・s以下、更に好ましくは5,000mPa・s以下である、前記<11>又は<12>に記載の耐水塗膜用ポリマーエマルション。
【0052】
<14> 前記<11>〜<13>のいずれかに記載のポリマーエマルションを含有する、塗料組成物。
<15> 塗料組成物中のポリマーエマルションの含有量が、塗料組成物中の全固形分に対し固形分換算で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である、前記<14>に記載の塗料組成物。
<16> 塗料組成物中の顔料の含有量が、塗料組成物中の全固形分に対し、下記式により算出される固形物換算(PWC)で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である、前記<14>又は<15>に記載の塗料組成物。
PWC=(塗料組成物中の顔料固形分÷塗料組成物中の全固形分)×100
【0053】
<17> 下記工程1及び2を有する、ポリマー塗膜の製造方法。
工程1:前記式(1)で表される化合物(A)の存在下、ラジカル重合可能なモノマー(B)を乳化重合し、平均粒径30nm以上300nm以下のポリマーエマルションを得る工程
工程2:工程1で得られたポリマーエマルションを、基板に塗布し、乾燥する工程
<18> 工程1において、前記化合物(A)の添加量(含有量)が、ポリマーエマルション中、モノマー(B)100質量部に対して、0.1質量部以上であり、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、そして、10質量部以下であり、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である、前記<17>に記載のポリマー塗膜の製造方法。
<19> ポリマーエマルションの平均粒径が、好ましくは50nm以上、より好ましくは80nm以上であり、そして、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは160nm以下である、前記<17>又は<18>に記載のポリマー塗膜の製造方法。
<20> 乾燥時の加熱温度が、好ましくは50℃以上、より好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下であり、加熱時間が、好ましくは10秒間以上、より好ましくは30秒間以上、より好ましくは1分間以上であり、そして、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下である、前記<17>〜<19>のいずれかに記載のポリマー塗膜の製造方法。
<21> 塗膜の厚さが、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下であり、そして、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上となるように塗布する、前記<17>〜<20>のいずれかに記載のポリマー塗膜の製造方法。
【実施例】
【0054】
合成例1(化合物1の合成)
1−ドコサノール(東京化成工業株式会社製)のエトキシレート(エチレンオキシド平均付加モル数4.0)を250℃、133.3Paで減圧蒸留して未反応アルコールを除去し、反応温度110℃でスルファミン酸(スルファミン酸/エトキシレートのモル比:1.10)で硫酸化反応を行った。
得られたポリオキシエチレンベヘニルエーテル硫酸化物256gを48質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和後、窒素流入下80℃で加熱し、脱アンモニアを行い、水でポリオキシエチレンベヘニルエーテル硫酸ナトリウム塩濃度が13質量%になるように調整し、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル硫酸ナトリウム塩(C
22H
45O−(CH
2CH
2O)
4−SO
3Na:化合物1)を合成した。
【0055】
合成例2〜8(化合物2〜8の合成)
合成例1と同様にして、表1に示す化合物2〜8を合成した。
【0056】
<エチレンオキシド平均付加モル数mの算出>
「JIS K 0070−1992 7.1 中和滴定法」に記載の方法により、水酸基価を求め、下記式により、化合物1〜7のエチレンオキシド平均付加モル数mを算出した。結果を表1に示す。
平均付加モル数m=(M
a÷OHV−M
b)÷M
c×1000
OHV:前記式(2)で表されるエチレンオキシド化合物の水酸基価(mgKOH/g)
M
a:水酸化カリウムの分子量(56.1)
M
b:式(2)で表されるエチレンオキシド化合物の分子量
M
c:エチレンオキシドの分子量
なお、OHV(水酸基価)の算出に用いる酸価は、「JIS K 0070−1992 3.1 中和滴定法」に記載の方法により求めた。
【0057】
【表1】
【0058】
実施例1
合成例1で得られた化合物1を乳化剤として用い、下記の方法で乳化重合を行った。
攪拌機、原料投入口を備えた1L三つ口フラスコに、イオン交換水112.5g、重合開始剤として過硫酸カリウムを0.36g、化合物1を1.80gを混合し、500r/minで攪拌しながら、アクリル酸ブチル109.7g、スチレン109.7g、アクリル酸5.6gのモノマー混合物を約5分間かけて滴下し、30分間攪拌して乳化物滴下液を得た。
次に攪拌機、還流冷却器、原料投入口を備えた1Lセパラブルフラスコ内に、イオン交換水を162.5g、重合開始剤として過硫酸カリウムを0.09g、化合物1を0.45g、上記乳化物滴下液の17.1g(5質量%に相当)を仕込み、80℃に昇温し、30分間1段目重合を行なった。その後、残りの乳化物滴下液を3時間かけて滴下し、滴下終了後、さらに1時間80℃で熟成した。得られたポリマーエマルションを30℃に冷却した。
【0059】
実施例2〜4及び比較例1〜3
合成例2〜8で得られた化合物2〜8を乳化剤として用い、実施例1と同様にして乳化重合を行った。
なお、比較例1では、化合物5と化合物6の混合物(化合物5/化合物6=84質量%/16質量%)を使用した。
【0060】
<性能評価>
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたポリマーエマルションを用いて、平均粒径及びポリマー塗膜の耐水性を評価した。使用した化合物の融点、及び結果を表2に示す。
(1)化合物の融点
高感度型示差走査熱量計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:DSC7000X)を使用し、70μLパンに各化合物を入れ、−5℃から80℃まで1℃/minで昇温し、昇温時間に対する示差熱電極で検出する温度差の最大ピーク時の温度を融点とした。
(2)ポリマーエマルションの平均粒径
粒径・分子量測定システム(大塚電子株式会社製、商品名:ELSZ−1000ZS)を使用して、25質量%アンモニア水で中和したポリマーエマルション粒子を3万倍に希釈して平均粒径を測定した。測定解析法は、70回積算測定したキュムラント平均粒径を採用した。
(3)ポリマー塗膜の耐水性
25質量%アンモニア水で中和したポリマーエマルションを、透明アクリル板上にベーカー式フィルムアプリケーターNo.510(0〜50mil)(株式会社安田精機製作所製)を使用して、乾燥膜厚が50μmとなるよう塗工し、熱風乾燥機(エスペック株式会社製、商品名:SPS−222)で100℃、10分間乾燥した。
このアクリル板を23℃で20日間水に浸漬した後、ヘーズ・透過率計(株式会社村上色彩技術研究所製、商品名:HM−150)を使用して、ポリマー塗膜のヘーズ値を測定した。耐水性はヘーズ値が小さいほど良く、ヘーズ値が3%以下の場合には特に良好と判断される。
【0061】
【表2】
【0062】
表2から、実施例1〜4で用いた化合物1〜4の融点は20℃以上と高く、また、実施例1〜4で用いたポリマーエマルションの平均粒径は、比較例1〜3で用いたポリマーエマルションの平均粒径よりも小さく、その結果、実施例1〜4のポリマー塗膜は、比較例1〜3のポリマー塗膜に比べて、耐水性が優れていることが分かる。