【実施例】
【0021】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に制限されない。
【0022】
<実施例1>
ブナ材由来のキシラン(Sigma-Aldrich)を60℃の水に分散し、アセトン不溶性画分としてキシランを回収することで予備処理を行った。
以下の反応式で示すように、予備処理を行ったキシランと、メタ位にメチルが置換したフェニルイソシアネートの超過量とを、80℃の溶液(ジメチルアセトアミド、塩化リチウム、乾燥ピリジン)中で反応させ、キシランの水酸基をカルバモイル化し、以下の(1)で示されるメタ−メチルフェニルカルバメート基が導入された、キシラン−フェニルカルバメート誘導体(a)を得た。
【化4】
得られたキシラン−フェニルカルバメート誘導体の
1H−NMRスペクトルを
図1に示す。
1H−NMRスペクトル(500MHz)は、Brucker-500 Spectrometer (Brucker, USA)を用いて得た。
【化5】
【0023】
(1)で示される置換基を有するフェニルカルバメート基で置換されたキシラン−フェニルカルバメート誘導体について熱重量分析を行った結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0024】
<実施例2〜7>
置換基の種類が異なるフェニルイソシアネートを用いること以外は実施例1と同様の手順により、以下の式(2)〜(7)で示される置換基を有するフェニルカルバメート基が導入されたキシラン−フェニルカルバメート誘導体(b)〜(g)を得た。
【化6】
【0025】
<比較例1〜4>
置換基の種類が異なるフェニルイソシアネートを用いること以外は実施例1と同様の手順により、以下の式(8)〜(12)で示さる置換基を有するフェニルカルバメート基が導入された比較例1〜4のキシラン−フェニルカルバメート誘導体(h)〜(k)を得た。
【化7】
【0026】
実施例及び比較例で作製した、各キシラン−フェニルカルバメート誘導体の
1H NMRデータ(DMSO−d6、80℃)を以下に示す。キシラン−フェニルカルバメート誘導体(j)と(k)については、公知であるのでデータは省略する。
(b):
1H NMR (DMSO‐d6):δ3.1-5.7 (glucose protons,6H), 6.6‐7.9 (aromatic,8H), 9.2‐10.1 (NH,2H).
(c):
1H NMR (DMSO‐d6):δ3.2‐5.3 (glucose protons, 6H), 6.6-7.7(aromatic,8H), 9.0-9.8 (NH,2H).
(d):
1H NMR (DMSO‐d6):δ3.1‐5.2 (glucose protons, 6H), 6,9-7.8(aromatic,8H), 9.1-9.9 (NH,2H).
(e):
1H NMR (DMSO‐d6):δl.8‐2.5 (CH
3,6H), 3.1‐5.3 (glucose protons,6H), 6.6‐7.6 (aromatic,8H), 8.7-9.6 (NH, 2H).
(f):
1H NMR (DMSO‐d6): δ0.7‐1.4(CH
3,6H), 2.1-2.7(CH
2,4H), 3.1-5,4(glucose protons, 6H), 6.6-7.8 (aromatic, 8H), 8.7‐9.8(NH,2H).
(g):
1H NMR (DMSO‐d6):δl.9-2.4(CH
3,6H), 3.1-5,3 (glucose protons, 6H), 6.8-7,9 (aromatic,6H) 9.1-10.0(NH,2H).
(h):
1H NMR (DMSO‐d6):δ3.1-5.6 (glucose protons, 6H), 7.2‐8.5(aromatic,8H), 9.7‐10.5 (NH,2H).
(i):
1H NMR (DMSO‐d6):δ3.4-4.0 (CH
3,6H),3.1-5.2(glucose protons, 6H), 6.3-7.5(aromatic, 8H), 8.6-9.4 (NH,2H).
【0027】
<光学異性体用分離剤の調製及び分析カラムの作製>
実施例1で作製したキシラン−フェニルカルバメート誘導体(a)(0.35g)を、テトラヒドロフラン(8mL)に完全に溶解した後、予めアミノプロピルトリエトキシシランで表面処理を行ったシリカゲル(平均粒径7μm、平均孔径100nm)(1.40g)の表面にコーティングして、光学異性用分離剤−1を得た。
光学異性体用分離剤−1を、ステンレススチール製のカラム(25 cm×0.20cm i.d.)に、スラリー法によって充填してカラム−1を得た。
カラム−1の理論段数は、ベンゼンを対象として、hexane/2-propanol (90/10, v/v)混合物を溶離液として用い、流速を0.1ml/min.に設定して測定したとき、1500−3000であった。
デッド時間(t
0)は、非保持物質として1,3,5-tri-tert-butylbenzeneを用いて測定を行った。
HPLC装置として、UV/Vis (Jasco UV-2070)及び円二色性検出器(JASCO CD-2095)付のJASCO PU-2089クロマトグラフを用いた。
サンプル(ラセミ体(2mg/mL)の溶液)のクロマトグラフシステムへの注入は、Intelligent sampler (JASCO AS-2055)を用いて行った。
以下の構造を有するラセミ体を分離して得られたクロマトグラムを
図2に示す。
【0028】
【化8】
【0029】
光学異性体用分離剤−1と同様に、実施例2〜7、比較例1〜4で得たキシラン−フェニルカルバメート誘導体(b)〜(k)を用いて、光学異性体用分離剤−2〜11を得た。そして、各光学異性体用分離剤を、実施例1のものと同様にステンレススチール製のカラムに充填した。
光学異性体用分離剤−1〜11が充填されたカラム−1〜11を用い、以下の構造を有するラセミ体1及び2を分離した。各カラムを用いた分析では、溶離液としてhexane/2-propanol (90/10, v/v)を用い、流速を0.1mL/min.とし、検出波長は254nmとした。
【化9】
【0030】
各カラムを用いてラセミ体1及び2の分離を行って得た結果を表2及び3に示す。
表中に示す化合物の不斉識別能力(分離係数α値)は以下で示すように、保持係数(k
1')から算出した。
また、実施例2、4及び比較例3の光学異性体用分離剤を用いたカラムによりラセミ体1を分離して得られたクロマトグラムを
図3に示す。
【0031】
保持係数(k
1’)
k
1’=[(対掌体の保持時間)−(デッドタイム)]/デッドタイム)
分離係数(α)
α=(より強く保持される対掌体の保持係数)/(より弱く保持される対掌体の保持係数)
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
*表中、括弧内は、最初に溶出したエナンチオマーの254nmにおける旋光度を示す。
【0034】
表2と3の結果から、極性の置換基を有する比較例1及び2よりも非極性の置換基を有する実施例1〜6の光学異性体用分離剤の方が、ラセミ体1及び2の分離係数が高いことが分かった。
【0035】
表2及び表3のラセミ体2の分離結果について見ると、メチル基が二つ置換している比較例4よりも、メチル基が1つだけ置換している実施例1及び5の方が分離係数が高かった。
またラセミ体1及び2のいずれについても、エチル基がパラ位に置換している実施例6は、実施例1及び5とほぼ同等の分離能力を有していた。
【0036】
表2及び表3の光学異性体用分離剤の中で、フェニルに塩素が置換しているものについて比較を行うと、メタ位に塩素が一つ置換している実施例2>パラ位に塩素が置換している実施例4>メタ位に塩素が、パラ位にメチル基が置換している実施例7>メタ位に塩素が二つ置換している比較例3、の順に、ラセミ体1及び2の分離係数が高かった。
【0037】
表2の実施例1及び5と、実施例2及び4との比較から、フェニルのメタ位に置換基が置換している方が、ラセミ体1及び2の分離能力に優れていることが分かった。
【0038】
また、表2の実施例2と実施例1の比較、および表3の比較例3と比較例4の比較により、電子供与性の置換基であるメチル基を有するものの方が、電子吸引性の置換基である塩素を有するものよりも、ラセミ体1及び2の分離能力に優れていることが分かった。