特許第6791565号(P6791565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791565
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】光学異性体用分離剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/29 20060101AFI20201116BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20201116BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20201116BHJP
   C07B 57/00 20060101ALN20201116BHJP
【FI】
   B01J20/29
   B01J20/281 X
   B01J20/26 L
   B01J20/283
   !C07B57/00 340
   !C07B57/00 330
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-518015(P2017-518015)
(86)(22)【出願日】2016年5月16日
(86)【国際出願番号】JP2016064447
(87)【国際公開番号】WO2016182083
(87)【国際公開日】20161117
【審査請求日】2019年3月27日
(31)【優先権主張番号】201510245550.4
(32)【優先日】2015年5月14日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】シェン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リ チャン
(72)【発明者】
【氏名】リ グン
(72)【発明者】
【氏名】岡本 佳男
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−081262(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/102920(WO,A1)
【文献】 特開昭63−178101(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/094377(WO,A1)
【文献】 岡本佳男 他,側鎖に不斉な置換基を有する多糖誘導体をHPLC用固定相に用いた光学分割,高分子学会予稿集,1989年 9月12日,Vol.38,No.7,p.2015-2017
【文献】 SHEN Jun et al.,Synthesis and Immobilization of Amylose Derivatives Bearing a 4-tert-Butylbenzoate Group at the 2-Po,Chem Lett,2010年 3月31日,Vol.39, No.5,p.442-444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/26 − 20/29
G01N 30/88
C07B 57/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシランの水酸基が、以下の(I)または(II)で示される基で置換されたキシラン−フェニルカルバメート誘導体と担体から構成される、光学異性体用分離剤。
【化1】
(式(I)において、R1はハロゲンまたは炭素数1〜5のアルキル基であり、R1の置換位置はメタ位である。式(II)において、R2及びR3はそれぞれ独立して、ハロゲンまたは炭素数1〜5のアルキル基であり、R2とR3は異なる基である。)
【請求項2】
キシランの水酸基を置換している基が、式(I)で示される基であり、R1が、炭素数
1〜5のアルキル基である、請求項1に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項3】
1が、メチル基またはエチル基である、請求項2に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項4】
キシランの水酸基を置換している基が、式(II)で示される基であり、式(II)におけるR2がハロゲンであり、R3が炭素数1〜5のアルキル基である、請求項1に記載の光学異性体用分離剤。
【請求項5】
2が塩素であり、R3がメチル基またはエチル基である、請求項4に記載の光学異性体
用分離剤。
【請求項6】
担体がシリカゲルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学異性体用分離剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学異性体用分離剤に関し、キシランの水酸基が特定の構造を有するカルバメート誘導体で置換された構造を有する光学異性体用分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
光学異性体は、医薬やその原料として用いられる。このような生体に作用させる用途では、光学異性体は、通常は一方の光学異性体のみが用いられ、非常に高い光学純度が要求される。このような高い光学純度を要する光学異性体の製造方法としては、光学分割能を有する光学異性体用分離剤を収容するカラムを、液体クロマトグラフィー、疑似移動床クロマトグラフィー及び超臨界流体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーにおいて用いることによって、ラセミ体のような光学異性体の混合物から一方の光学異性体を分離する方法が知られている。
【0003】
光学異性体用分離剤には、光学活性な部位を有する高分子を用いることができる。このような光学異性体用分離剤は、通常、シリカゲル等の担体とその表面に担持される前記高分子とから構成され、カラム管に収容されて光学分割に用いられる。
光学活性な部位を有する高分子としては、従来から多糖やその多糖の水酸基がアルキル置換フェニルカルバメートで置換された多糖誘導体が知られている(特許文献1)。
その多糖としては、セルロース、アミロースに加え、キトサンを用いたものも知られている。
一方、多糖としてキシランを用い、その水酸基を3,5−ジメチルフェニルカルバメートで置換して得た誘導体や、3,5−ジクロロフェニルカルバメートで置換して得た誘導体を光学異性体用分離剤として利用することも知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−178101号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Okamoto 他、Reactive & Functional Polymers 37 (1998) 183-188
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の光学異性体用分離剤では、用いられたフェニルカルバメートの種類は3,5−ジメチルフェニルカルバメートと、3,5−ジクロロフェニルカルバメートのみであり、キシランの水酸基を置換するフェニルカルバメート基について、フェニル基に他の置換基が置換された高分子を用いた場合については、検討が行われていない。
そこで本発明では、キシランの水酸基を、上記の置換基を有するフェニルカルバメート基とは異なる他の置換基を有するフェニルカルバメート基で置換して得られる新規なキシラン−フェニルカルバメート誘導体と、担体から構成される光学異性体用分離剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、これまでに知られていなかった、キシランの水酸基を、3,5−ジメチルフェニルカルバメートや3,5−ジクロロフェニルカルバメートとは異なる他の置換基を有するフェニルカルバメート基で置換して得たキシラン誘導体が、従来のキシラン−3,5−ジメチルフェニルカルバメート誘導体や、キシラン−3,5−ジクロロフェニルカルバメート誘導体よりも、特定のラセミ体に対して優れた光学分割能を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] キシランの水酸基が、以下の(I)または(II)で示される基で置換されたキシラン−フェニルカルバメート誘導体と担体から構成される、光学異性体用分離剤。
【化1】
(式(I)において、Rはハロゲンまたは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rの置換位置はメタ位またはパラ位である。式(II)において、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲンまたは炭素数1〜5のアルキル基であり、RとRは異なる基である。)
[2] キシランの水酸基を置換している基が、式(I)で示される基であり、Rが、炭素数1〜5のアルキル基である、[1]に記載の光学異性体用分離剤。
[3] Rの置換位置がメタ位であり、Rがメチル基またはエチル基である、[2]に記載の光学異性体用分離剤。
[4] キシランの水酸基を置換している基が式(II)で示される基であり、式(II)におけるRがハロゲンであり、Rが炭素数1〜5のアルキル基である、[1]に記載の光学異性体用分離剤。
[5] Rが塩素であり、Rがメチル基またはエチル基である、[4]に記載の光学異性体用分離剤。
[6] 担体がシリカゲルである、[1]〜[5]のいずれかに記載の光学異性体用分離剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定のラセミ体について良好な分離能力を有する、光学異性体用分離剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】80℃ DMSO−dにおける、キシラン−3−メチルフェニルカルバメート誘導体のH−NMRスペクトルを示す図である。
図2】実施例1で作製した光学異性体用分離剤を用いて、特定のラセミ体を分離して得られたクロマトグラムを示す図である。
図3】実施例2、4、および比較例3で作製した光学異性体用分離剤を用いて、特定のラセミ体を分離して得られたクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の光学異性体用分離剤は、キシランの水酸基が、以下の(I)または(II)で示される基で置換されたキシラン−フェニルカルバメート誘導体と担体とから構成されるものである。
【化2】
(式(I)において、Rはハロゲンまたは炭素数1〜5のアルキル基であり、Rの置換位置はメタ位またはパラ位である。)
【化3】
(式(II)において、R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲンまたは炭素数1〜5のアルキル基であり、RとRは異なる基である。)
【0012】
本発明で用いるキシランは、β−1,4−キシラン、β−1,3−キシランのいずれあってもよく、これらの混合物でもよい。
キシランの数平均重合度(1分子中に含まれるピラノース環の平均数)は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上であり、特に上限はないが、1000以下であることが取り扱いの容易さの点で好ましく、より好ましくは5〜1000、更に好ましくは10〜1000、特に好ましくは10〜500である。
上記のキシラン−フェニルカルバメート誘導体において、キシランの水酸基について、未反応のものがあってもよく、また、本発明の効果を損なわない限り、他の置換基で置換されてもよい。その割合としては全水酸基の中で概ね20%以下である態様を挙げることができる。
【0013】
前記式(I)または(II)で表される置換基を有するフェニルカルバメート基により、キシランの水酸基の水素原子を置換する方法については、以下のような方法が挙げられる。
芳香族環上の水素が上記式(I)に記載のようにRで置換されたフェニルイソシアネート化合物、または上記式(II)に記載のように、R及びRで置換されたフェニルイソシアネート化合物を、塩化リチウムを溶解させたN,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンで例示されるアミド系溶媒に溶解させ、この溶液にキシランを加え、適当な温度及び時間(20〜100℃、1〜24時間)で反応を起こさせることで、フェニルイソシアネート化合物のイソシアネート基とキシランの水酸基とを反応させる。
上記アミド系溶媒の他にも、例えばピリジンを同時に用いることもできる。
【0014】
上記の式(I)において、ハロゲンとしては塩素、臭素またはフッ素を挙げることができ、塩素であることが好ましい。また、炭素数1〜5のアルキル基として、メチルまたはエチルであることが好ましい。
また、Rは、メタ位またはパラ位に位置するが、メタ位である方が、特定の光学異性体の光学分割能に優れる。
また、Rは、炭素数1〜5のアルキル基であることが、特定の光学異性体の光学分割能に優れるという観点から好ましい。
【0015】
式(II)において、ハロゲンとしては塩素、臭素またはフッ素を挙げることができ、塩素であることが好ましい。また、炭素数1〜5のアルキル基として、メチルまたはエチルであることが好ましい。
とRは同一の基ではなく、RまたはRのどちらかの基がハロゲンである場合、残りの基は炭素数1〜5のアルキル基であることが、特定の光学異性体の光学分割能に優れるという観点から好ましい。
具体的には、RまたはRのいずれかにおいて、ハロゲンとして塩素が置換し、ハロゲンではない基としてメチル基またはエチル基が置換していることが好ましい。例えば、Rがハロゲンであることが好ましく、塩素であることがより好ましい。また、Rが炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0016】
キシラン誘導体を担持するために用いる担体としては、多孔質有機担体又は多孔質無機担体が挙げられ、好ましくは多孔質無機担体を挙げることができる。多孔質有機担体として適当なものは、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリレート等から選択される高分子物質であり、多孔質無機担体として適当なものは、シリカゲル、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイトなどである。好ましい担体はシリカゲル、アルミナ、又はガラスである。
上記担体について、その表面処理を行うことにより、担体自体への分離対象物質の過剰な吸着を抑制できる。表面処理剤としては、アミノプロピルシランのようなシランカップリング剤や、チタネート系・アルミネート系カップリング剤を挙げることができる。
【0017】
本発明で用いることができる担体の平均粒径は、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜50μmである。担体の平均孔径は、通常10〜10000Å、好ましくは50〜1000Åである。
また、担体の比表面積は、通常5〜1000m/g、好ましくは10〜500m/gである。
本発明の光学異性体用分離剤の平均粒径は、顕微鏡画像を用いて測定する装置、例えばMalvern社製Mastersizer 2000Eにより測定することができる。
【0018】
本発明の光学異性体用分離剤において、担体に担持させるキシラン−フェニルカルバメート誘導体の量は、担体に対して1〜100重量%である態様を挙げることができ、5〜50重量%であることが好ましい。
この担持量は、熱重量分析によって求めることができる。
上記のキシラン−フェニルカルバメート誘導体を担体に担持させる方法は化学的方法でも物理的方法でもよい。物理的方法としては、キシラン−フェニルカルバメート誘導体を可溶性の溶剤に溶解させ、担体と良く混合し、減圧または加温下、気流により溶剤を留去させる方法や、キシラン−フェニルカルバメート誘導体を可溶性の溶剤に溶解させ、担体と良く混合した後、キシラン−フェニルカルバメート誘導体に対し不溶性の溶剤に分散させることによって可溶性溶剤を拡散させてしまう方法もある。この様にして得られた分離剤は、加熱、溶媒の添加、洗浄などの適当な処理を行うことによって、その分離能を改善することも可能である。
【0019】
本発明の光学異性体用分離剤は、公知のサイズを有するカラムに公知の方法により充填して、HPLC用のカラムとして用いることができる。
本発明の光学異性体用分離剤を充填したカラムを用いてHPLCで光学異性体を分離する際の、HPLCの流速は適宜調整して用いることができ、0.1〜5ml/min程度の態様を挙げることできる。
【0020】
本発明の光学異性体用分離剤は、HPLC以外にもガスクロマトグラフィー用、電気泳動用、特にキャピラリーエレクトロクロマトグラフィー用(CEC用)、CZE(キャピラリーゾーン電気泳動)法、MEKC(ミセル動電クロマト)法のキャピラリーカラムの充填剤としても使用することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に制限されない。
【0022】
<実施例1>
ブナ材由来のキシラン(Sigma-Aldrich)を60℃の水に分散し、アセトン不溶性画分としてキシランを回収することで予備処理を行った。
以下の反応式で示すように、予備処理を行ったキシランと、メタ位にメチルが置換したフェニルイソシアネートの超過量とを、80℃の溶液(ジメチルアセトアミド、塩化リチウム、乾燥ピリジン)中で反応させ、キシランの水酸基をカルバモイル化し、以下の(1)で示されるメタ−メチルフェニルカルバメート基が導入された、キシラン−フェニルカルバメート誘導体(a)を得た。
【化4】
得られたキシラン−フェニルカルバメート誘導体のH−NMRスペクトルを図1に示す。H−NMRスペクトル(500MHz)は、Brucker-500 Spectrometer (Brucker, USA)を用いて得た。
【化5】
【0023】
(1)で示される置換基を有するフェニルカルバメート基で置換されたキシラン−フェニルカルバメート誘導体について熱重量分析を行った結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0024】
<実施例2〜7>
置換基の種類が異なるフェニルイソシアネートを用いること以外は実施例1と同様の手順により、以下の式(2)〜(7)で示される置換基を有するフェニルカルバメート基が導入されたキシラン−フェニルカルバメート誘導体(b)〜(g)を得た。
【化6】
【0025】
<比較例1〜4>
置換基の種類が異なるフェニルイソシアネートを用いること以外は実施例1と同様の手順により、以下の式(8)〜(12)で示さる置換基を有するフェニルカルバメート基が導入された比較例1〜4のキシラン−フェニルカルバメート誘導体(h)〜(k)を得た。
【化7】
【0026】
実施例及び比較例で作製した、各キシラン−フェニルカルバメート誘導体の1H NMRデータ(DMSO−d6、80℃)を以下に示す。キシラン−フェニルカルバメート誘導体(j)と(k)については、公知であるのでデータは省略する。
(b): 1H NMR (DMSO‐d6):δ3.1-5.7 (glucose protons,6H), 6.6‐7.9 (aromatic,8H), 9.2‐10.1 (NH,2H).
(c): 1H NMR (DMSO‐d6):δ3.2‐5.3 (glucose protons, 6H), 6.6-7.7(aromatic,8H), 9.0-9.8 (NH,2H).
(d): 1H NMR (DMSO‐d6):δ3.1‐5.2 (glucose protons, 6H), 6,9-7.8(aromatic,8H), 9.1-9.9 (NH,2H).
(e): 1H NMR (DMSO‐d6):δl.8‐2.5 (CH3,6H), 3.1‐5.3 (glucose protons,6H), 6.6‐7.6 (aromatic,8H), 8.7-9.6 (NH, 2H).
(f): 1H NMR (DMSO‐d6): δ0.7‐1.4(CH3,6H), 2.1-2.7(CH2,4H), 3.1-5,4(glucose protons, 6H), 6.6-7.8 (aromatic, 8H), 8.7‐9.8(NH,2H).
(g): 1H NMR (DMSO‐d6):δl.9-2.4(CH3,6H), 3.1-5,3 (glucose protons, 6H), 6.8-7,9 (aromatic,6H) 9.1-10.0(NH,2H).
(h): 1H NMR (DMSO‐d6):δ3.1-5.6 (glucose protons, 6H), 7.2‐8.5(aromatic,8H), 9.7‐10.5 (NH,2H).
(i): 1H NMR (DMSO‐d6):δ3.4-4.0 (CH3,6H),3.1-5.2(glucose protons, 6H), 6.3-7.5(aromatic, 8H), 8.6-9.4 (NH,2H).
【0027】
<光学異性体用分離剤の調製及び分析カラムの作製>
実施例1で作製したキシラン−フェニルカルバメート誘導体(a)(0.35g)を、テトラヒドロフラン(8mL)に完全に溶解した後、予めアミノプロピルトリエトキシシランで表面処理を行ったシリカゲル(平均粒径7μm、平均孔径100nm)(1.40g)の表面にコーティングして、光学異性用分離剤−1を得た。
光学異性体用分離剤−1を、ステンレススチール製のカラム(25 cm×0.20cm i.d.)に、スラリー法によって充填してカラム−1を得た。
カラム−1の理論段数は、ベンゼンを対象として、hexane/2-propanol (90/10, v/v)混合物を溶離液として用い、流速を0.1ml/min.に設定して測定したとき、1500−3000であった。
デッド時間(t)は、非保持物質として1,3,5-tri-tert-butylbenzeneを用いて測定を行った。
HPLC装置として、UV/Vis (Jasco UV-2070)及び円二色性検出器(JASCO CD-2095)付のJASCO PU-2089クロマトグラフを用いた。
サンプル(ラセミ体(2mg/mL)の溶液)のクロマトグラフシステムへの注入は、Intelligent sampler (JASCO AS-2055)を用いて行った。
以下の構造を有するラセミ体を分離して得られたクロマトグラムを図2に示す。
【0028】
【化8】
【0029】
光学異性体用分離剤−1と同様に、実施例2〜7、比較例1〜4で得たキシラン−フェニルカルバメート誘導体(b)〜(k)を用いて、光学異性体用分離剤−2〜11を得た。そして、各光学異性体用分離剤を、実施例1のものと同様にステンレススチール製のカラムに充填した。
光学異性体用分離剤−1〜11が充填されたカラム−1〜11を用い、以下の構造を有するラセミ体1及び2を分離した。各カラムを用いた分析では、溶離液としてhexane/2-propanol (90/10, v/v)を用い、流速を0.1mL/min.とし、検出波長は254nmとした。
【化9】
【0030】
各カラムを用いてラセミ体1及び2の分離を行って得た結果を表2及び3に示す。
表中に示す化合物の不斉識別能力(分離係数α値)は以下で示すように、保持係数(k')から算出した。
また、実施例2、4及び比較例3の光学異性体用分離剤を用いたカラムによりラセミ体1を分離して得られたクロマトグラムを図3に示す。
【0031】
保持係数(k’)
’=[(対掌体の保持時間)−(デッドタイム)]/デッドタイム)

分離係数(α)
α=(より強く保持される対掌体の保持係数)/(より弱く保持される対掌体の保持係数)
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
*表中、括弧内は、最初に溶出したエナンチオマーの254nmにおける旋光度を示す。
【0034】
表2と3の結果から、極性の置換基を有する比較例1及び2よりも非極性の置換基を有する実施例1〜6の光学異性体用分離剤の方が、ラセミ体1及び2の分離係数が高いことが分かった。
【0035】
表2及び表3のラセミ体2の分離結果について見ると、メチル基が二つ置換している比較例4よりも、メチル基が1つだけ置換している実施例1及び5の方が分離係数が高かった。
またラセミ体1及び2のいずれについても、エチル基がパラ位に置換している実施例6は、実施例1及び5とほぼ同等の分離能力を有していた。
【0036】
表2及び表3の光学異性体用分離剤の中で、フェニルに塩素が置換しているものについて比較を行うと、メタ位に塩素が一つ置換している実施例2>パラ位に塩素が置換している実施例4>メタ位に塩素が、パラ位にメチル基が置換している実施例7>メタ位に塩素が二つ置換している比較例3、の順に、ラセミ体1及び2の分離係数が高かった。
【0037】
表2の実施例1及び5と、実施例2及び4との比較から、フェニルのメタ位に置換基が置換している方が、ラセミ体1及び2の分離能力に優れていることが分かった。
【0038】
また、表2の実施例2と実施例1の比較、および表3の比較例3と比較例4の比較により、電子供与性の置換基であるメチル基を有するものの方が、電子吸引性の置換基である塩素を有するものよりも、ラセミ体1及び2の分離能力に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、特定のラセミ体について、キシランの水酸基が、フェニル基の3,5位が塩素またはメチル基で置換されているフェニルカルバメート基で置換されているキシラン−フェニルカルバメート誘導体よりも優れた分離能力を有する、キシラン−フェニルカルバメート誘導体を用いた光学異性体用分離剤を提供できる。
図1
図2
図3