(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力回転要素に連結され、順方向にトルクを伝達する際の入力側となり、螺旋状の第1駆動カム斜面を有する第1入力側カム部材と、出力回転要素に連結され、順方向にトルクを伝達する際の出力側となり、前記第1駆動カム斜面と伝達トルクに応じた力で摺接する螺旋状の第1被駆動カム斜面を有する第1出力側カム部材と、を備えた第1トルクカム機構と、
前記入力回転要素に連結され、逆方向にトルクを伝達する際の出力側となり、螺旋状の第2被駆動カム斜面を有する第2入力側カム部材と、前記出力回転要素に連結され、逆方向にトルクを伝達する際の入力側となり、前記第2被駆動カム斜面と伝達トルクに応じた力で摺接する螺旋状の第2駆動カム斜面を有する第2出力側カム部材と、を備えた第2トルクカム機構と、を装備し、
前記順方向にトルク伝達するときには、前記第1トルクカム機構を動力伝達状態とすると共に前記第2トルクカム機構を動力伝達解放状態とし、前記逆方向にトルク伝達するときには、前記第2トルクカム機構を動力伝達状態とすると共に前記第1トルクカム機構を動力伝達解放状態とする切替機構が備えられ、
前記第1入力側カム部材と前記第1出力側カム部材との間には、前記逆方向にトルク伝達するときに当該入出力部材同士を回転方向に追従させる第1追従ガイドが備えられ、
前記第2入力側カム部材と前記第2出力側カム部材との間には、前記順方向にトルク伝達するときに当該入出力部材同士を回転方向に追従させる第2追従ガイドが備えられている
ことを特徴とするトルクカム装置。
前記第1駆動カム斜面及び前記第2駆動カム斜面は前記順方向に沿った軸方向を向き、前記第1被駆動カム斜面及び前記第2被駆動カム斜面は前記逆方向に沿った軸方向を向くように配向され、
前記第1駆動ガイドカム斜面及び第2駆動ガイドカム斜面は前記逆方向に沿った軸方向を向き、前記第1被駆動ガイドカム斜面及び第2被駆動ガイドカム斜面は前記順方向に沿った軸方向を向くように配向されている
ことを特徴とする請求項2記載のトルクカム装置。
前記第1トルクカム機構の前記第1駆動カム斜面及び前記第1被駆動カム斜面、並びに、前記第2トルクカム機構の前記第2駆動カム斜面及び前記第2被駆動カム斜面の各トルク伝達面は、傾斜角度が所定の一定角度の単一傾斜面により構成され、
前記第1追従ガイドの前記第1駆動ガイドカム斜面及び前記第1被駆動ガイドカム斜面、並びに、前記第2追従ガイドの前記第2駆動ガイドカム斜面及び前記第2被駆動ガイドカム斜面の各ガイドカム斜面は、前記各トルク伝達面と同一傾斜角度の単一傾斜面により構成されている
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のトルクカム装置。
前記第1トルクカム機構の前記第1駆動カム斜面及び前記第1被駆動カム斜面、並びに、前記第2トルクカム機構の前記第2駆動カム斜面及び前記第2被駆動カム斜面の各トルク伝達面は、傾斜角度が徐々に変化する複数段傾斜面により構成され、
前記第1追従ガイドの前記第1駆動ガイドカム斜面及び前記第1被駆動ガイドカム斜面、並びに、前記第2追従ガイドの前記第2駆動ガイドカム斜面及び前記第2被駆動ガイドカム斜面の各ガイドカム斜面は、前記各トルク伝達面と同一傾斜角度の多段傾斜面により構成されている
ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のトルクカム装置。
前記出力側追従ガイド部材のガイドカム斜面は、当該出力側追従ガイド部材が装備される前記トルクカム機構の前記入力側カム部材の動きを示すベクトルと同方向で長さが少なくとも半分となるベクトルを描く斜面により構成されている
ことを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載のトルクカム装置。
前記入力側追従ガイド部材のガイドカム斜面は、当該入力側追従ガイド部材が装備される前記トルクカム機構の前記入力側カム部材の動きを示すベクトルと逆方向で長さが少なくとも半分となるベクトルを描く斜面により構成されている
ことを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載のトルクカム装置。
前記入力側又は出力側追従ガイド部材の径Rgが前記入力側又は出力側カム部材の径Rcと異なり、前記ガイドカム斜面の長さは、これらの径Rg,Rcの比率Re(=Rg/Rc)に基づいて設定された値であることを特徴とする請求項8又は9に記載のトルクカム装置。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明にかかるトルクカム装置及びこのトルクカム装置を装備する車両用の無段変速機の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。かかる実施形態を部分的に用いて実施したり、一部を変更して実施したり、同等の機能を有する他の機構や装置に置き換えて実施したりすることができるものである。
【0024】
〈各実施形態に係る無段変速機〉
図1は各実施形態に係る無段変速機を模式的に示す構成図であり、
図1に示すように、車両を走行させるための内燃機関(エンジン)又は電動モータ、或いはこれらの両方等からなる駆動源2には、遊星歯車機構等で構成された前後進切換機構4を介して、無段変速機5のプライマリプーリ6の固定シーブ8に結合された回転軸10が連結されている。この回転軸10には、固定シーブ8のシーブ面に対向してプーリのV字状溝を形成するシーブ面を有する可動シーブ12が、軸方向に摺動可能且つ相対回転不能に配設されている。
【0025】
また、無段変速機5のセカンダリプーリ14の固定シーブ16に結合された駆動軸(回転軸ともいう)18には、差動機構等を介して図示しない駆動輪が連結され、また、駆動軸18には固定シーブ16のシーブ面に対向してプーリのV字状溝を形成するシーブ面を有する可動シーブ20が、軸方向に摺動可能且つ相対回転不能に配設されている。
【0026】
さらに、セカンダリプーリ14の両シーブ16,20間にはV字状溝を狭める方向に付勢力を付加するスプリング22とトルクカム装置90が介装されている。
また、両プーリ6,14間には、ベルト26が巻き掛けられている。
さらに、スプリング22及びトルクカム装置90はセカンダリプーリ14の推力を調整してベルト26の挟圧力を調整する推力調整機構として機能する。
【0027】
なお、
図1には、プライマリプーリ6,セカンダリプーリ14及びベルト26について、変速比がロー側の状態とハイ側の状態とを示している。プライマリプーリ6,セカンダリプーリ14の各外側の半部にロー側の状態を示し、各内側の半部にハイ側の状態を示している。ベルト26については、ロー側の状態を実線で示し、ハイ側の状態を破線で示している。但し、破線で示したハイ状態は、プーリとベルトの半径方向の位置関係を示すのみであり、実際のベルト位置がプーリの内側半部に現れることはない。
【0028】
プライマリプーリ6の可動シーブ12の背面(シーブ面と反対側の面)13側には、可動シーブ12を軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構30が配設されている。
図1では機械式プーリ移動機構30を極めて簡略化して記載しているが、この機械式プーリ移動機構30は、トルクカム機構40と、遊星歯車機構50と、動力伝達機構60と、アクチュエータとしての電動モータ70とを備えている。
【0029】
各実施形態にかかるトルクカム装置90は、このような無段変速機のセカンダリプーリ14に推力発生機構として装備されている装備される。
以下、トルクカム装置90について第1〜3の三つの実施形態を例示して説明する。
なお、第1実施形態のトルクカム装置は符号90で示すが、これと区別するために、第2実施形態のトルクカム装置は符号190で示し、第3実施形態のトルクカム装置は符号290で示す。
【0030】
〈第1実施形態〉
図2,
図3に示すように、本実施形態のトルクカム装置90は、入力回転要素であるセカンダリプーリ14の可動シーブ20と、出力回転要素であるセカンダリプーリ14の固定シーブ16及び回転軸18との間に介装されている。本トルクカム装置90は、入力回転要素である可動シーブ20から出力回転要素である回転軸18にトルクが伝達されるドライブ走行時に推力を発生するとともにトルク伝達を行う第1トルクカム機構91と、出力回転要素である回転軸18から入力回転要素である可動シーブ20にトルクが伝達されるコースト走行時に推力を発生するとともにトルク伝達を行う第2トルクカム機構92とを、並列に有している。
【0031】
第1トルクカム機構91は、入力回転要素であるセカンダリプーリ14の可動シーブ20に固定された円筒状(筒状体)の第1入力側カム部材91Aと、出力回転要素である回転軸18に切替機構93を介して連結された円筒状(筒状体)の第1出力側カム部材91Bとを有しており、
図2に示すように、第2トルクカム機構92の内側に配置されている。したがって、
図3(a),(b)に示すように、第1トルクカム機構91の筒状体は、第2トルクカム機構92の筒状体よりも小径になっている。
【0032】
第1入力側カム部材91Aは、一端を可動シーブ20に固定され、他端に螺旋状の第1駆動カム斜面91aを有している。第1出力側カム部材91Bは、一端を切替機構93に連結され、他端に螺旋状の第1被駆動カム斜面91bを有している。第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとは、同一の角度で周方向に傾斜して延在する螺旋状の斜面であり、これらのカム斜面91a,91bは図示しないボールを介して滑らかに摺接している。ここでは、カム斜面91a,91bは、位相角度を180度ずらせて2個ずつ設けられている。
【0033】
第1入力側カム部材91Aが図中に矢印A1で示す方向に回転すると、第1駆動カム斜面91aが第1被駆動カム斜面91bに圧接しながら第1入力側カム部材91Aから第1出力側カム部材91Bに回転トルクが伝達される。このとき、第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとの間の圧接力は、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとを軸方向に離隔させる方向に働くが、第1出力側カム部材91Bの一端(切替機構93連結側の端部)は回転軸18に対して軸方向への相対移動不可となっているので、前記圧接力が、可動シーブ20に加わる推力となる。可動シーブ20にはこの推力に対するベルト26からの反力が加わるため、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとの全長は、この推力がバランスする長さになる。
【0034】
第2トルクカム機構92は、入力回転要素であるセカンダリプーリ14の可動シーブ20に固定された円筒状(筒状体)の第2入力側カム部材92Aと、出力回転要素である回転軸18に切替機構93を介して連結された円筒状(筒状体)の第2出力側カム部材92Bとを有しており、
図2に示すように、第1トルクカム機構91の外側に配置されている。
【0035】
第2入力側カム部材92Aは、一端を可動シーブ20に固定され、他端に螺旋状の第2被駆動カム斜面92aを有している。第2出力側カム部材92Bは、一端を切替機構93に連結され、他端に螺旋状の第2駆動カム斜面92bを有している。第2被駆動カム斜面92aと第2駆動カム斜面92bとは、同一の角度で周方向に傾斜して延在する螺旋状の斜面であり、これらのカム斜面92a,92bは図示しないボールを介して滑らかに摺接している。ここでは、カム斜面92a,92bは、位相角度を180度ずらせて2個ずつ設けられている。
【0036】
第2出力側カム部材92Bが図中に矢印A2で示す方向に回転すると、第2駆動カム斜面92bが第2被駆動カム斜面92aに圧接しながら第2出力側カム部材92Bから第2で入力側カム部材92Aに回転トルクが伝達される。このとき、第2駆動カム斜面92bと第2被駆動カム斜面92aとの間の圧接力は、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92Bとを軸方向に離隔させる方向に働くが、第2出力側カム部材92Bの一端(切替機構93連結側の端部)は回転軸18に対して軸方向への相対移動不可となっているので、前記圧接力が、可動シーブ20に加わる推力となる。可動シーブ20にはこの推力に対するベルト26からの反力が加わるため、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92Bとの全長は、この推力がバランスする長さになる。
【0037】
切替機構93は、入力回転要素(可動シーブ20)から出力回転要素(回転軸18)にトルクが伝達されるドライブ走行時には、第1トルクカム機構91の第1出力側カム部材91Bを固定シーブ16と一体のセカンダリプーリ14の回転軸18と一体回転する軸連結部材(出力回転要素に含まれる)18Aと駆動連結する。このときには、第2トルクカム機構92の第2出力側カム部材92Bと軸連結部材18Aとは切り離し状態とする。なお、
図2では、第1出力側カム部材91Bが軸連結部材18Aと駆動連結している状態を模式的に示している。
【0038】
また、切替機構93は、出力回転要素(回転軸18)から入力回転要素(可動シーブ20)にトルクが伝達されるコースト走行時には、第2トルクカム機構92の第2出力側カム部材92Bを軸連結部材18Aと駆動連結する。このときには、第1トルクカム機構91の第1出力側カム部材91Bと軸連結部材18Aとは切り離し状態とする。なお、切替機構93は、例えば電磁クラッチを用いて制御装置による電気的な制御で切替を実施できるように構成することができる。
【0039】
ところで、本トルクカム装置90では、各トルクカム機構91,92に、入出力部材同士を回転方向に追従させる追従ガイド94,95が備えられている。これらの追従ガイド94,95は、当該トルクカム機構の出力側カム部材が軸連結部材18Aと切り離し状態のときに、出力側カム部材を入力側カム部材の回転に追従させて回転させる。
【0040】
つまり、第1トルクカム機構91には、第2トルクカム機構92が駆動連結状態で第1トルクカム機構91が駆動連結を切り離されているコースト走行状態で、第1出力側カム部材91Bを第1入力側カム部材91Aの回転に追従させて回転させる第1追従ガイド94が装備されている。コースト走行状態では、第1トルクカム機構91の第1出力側カム部材91Bは軸連結部材18Aと切り離されて、第1入力側カム部材91Aに対して回転方向に連携していないが、第1追従ガイド94により、第1出力側カム部材91Bを第1入力側カム部材91Aの回転に追従させて回転させるようにしている。
【0041】
また、第2トルクカム機構92には、第1トルクカム機構91が駆動連結状態で第2トルクカム機構92が駆動連結を切り離されているドライブ走行状態で、第2出力側カム部材91Bを第2入力側カム部材91Aの回転に追従させて回転させる第2追従ガイド95が装備されている。ドライブ走行状態では、第2トルクカム機構92の第2出力側カム部材92Bは軸連結部材18Aと切り離されて、第2入力側カム部材92Aに対して回転方向に連携していないが、第2追従ガイド95により、第2出力側カム部材92Bを第2入力側カム部材92Aの回転に追従させて回転させるようにしている。
【0042】
ここで、追従ガイド94,95について説明する。
第1追従ガイド94は、第1入力側カム部材91Aに設けられて螺旋状の第1被駆動ガイドカム斜面94aを有する第1入力側追従ガイド部材94Aと、出力側カム部材91Bに設けられ螺旋状の第1駆動ガイドカム斜面94b第1を有する第1出力側追従ガイド部材94Bと、を有して構成される。
第2追従ガイド95は、第2入力側カム部材92Aに設けられて螺旋状の第2駆動ガイドカム斜面95aを有する第2入力側追従ガイド部材95Aと、第2出力側カム部材92Bに設けられ螺旋状の第2被駆動ガイドカム斜面95bを有する第2出力側追従ガイド部材94B,95Bと、を有して構成される。
【0043】
第1被駆動ガイドカム斜面94a,第1駆動ガイドカム斜面94b,第2駆動ガイドカム斜面95a及び第2被駆動ガイドカム斜面95bは、何れもカム斜面91a,91b,92a,92bと同一角度の螺旋状の斜面であり、ガイドカム斜面94a,94b,95a,95bは、位相角度を180度ずらせて2個ずつ設けられている。
【0044】
入力側カム部材91A,92A側の入力側追従ガイド部材94A,95Aのガイドカム斜面94a,95aは、入力側カム部材91A,92Aのカム斜面91a,92aとは逆方向(即ち、出力側カム部材91B,92Bのカム斜面91b,92bと同方向)を向き、出力側カム部材91B,92B側の出力側追従ガイド部材94B,95Bのガイドカム斜面94b,95bは、出力側カム部材91B,92Bのカム斜面91b,92bとは逆方向(即ち、入力側カム部材91A,92Aのカム斜面91a,92aと同方向)を向くように配置されている。
【0045】
これによって、第1ガイドカム斜面94a,95a及び第2ガイドカム斜面94b,95bは、入力側カム部材91A,92Aと出力側カム部材91B,92Bとが互いに離隔する方向に軸方向に相対移動しようとすると、互いに摺接して、出力側追従ガイド部材94B,95Bを入力側追従ガイド部材94A,95Aに接近するように、軸方向に追従移動させる。これによって、カム部材91A,91B間、又は、カム部材92A,92B間のバックラッシの発生が回避又は抑制されるようになっている。
【0046】
なお、本実施形態では、第1追従ガイド94の入力側追従ガイド部材94A及び出力側追従ガイド部材94Bも、第2追従ガイド95の入力側追従ガイド部材95A及び出力側追従ガイド部材95Bも、各トルクカム機構91,92(入力側カム部材91A,92A及び出力側カム部材91B,92B)に対して、径方向にずれて形成されている。
【0047】
つまり、第1トルクカム機構91は、
図2に示すように、最も内側の筒状空間(第1の半径r1を基準とする第1筒状空間)S1内に配置され、第2トルクカム機構92は、その外側の筒状空間(第2の半径r2を基準とする第2筒状空間)S2内に配置されるが、第1追従ガイド94及び第2追従ガイド95は、これらの筒状空間(第1筒状空間及び第2筒状空間)とは異なる筒状空間S3内に配置されている。ここでは、第1追従ガイド94も第2追従ガイド95も、第1トルクカム機構91が配置される第1筒状空間S1と、第2トルクカム機構92が配置される第2筒状空間S2との間の第3筒状空間S3内に配置されている。
【0048】
ただし、第1追従ガイド94と第2追従ガイド95とを、それぞれ別の空間に配置してもよい。例えば、第1追従ガイド94を第1筒状空間S1の内側に且つ第2追従ガイド95を第3筒状空間S3内に配置したり、第1追従ガイド94を第3筒状空間S3内に且つ第2追従ガイド95を第2筒状空間S2の外側に内に配置したりしてもよい。
【0049】
したがって、第1追従ガイド94は、第1トルクカム機構91の入力側カム部材91A及び出力側カム部材91Bの外周面から径方向外側に形成され、第2追従ガイド95は、第2トルクカム機構92の入力側カム部材92A及び出力側カム部材92Bの内周面から径方向内側に形成される。
【0050】
図4〜
図6の展開図では、第1トルクカム機構91,第1追従ガイド94,第2追従ガイド95及び第2トルクカム機構92をそれぞれの中心角を基準に表示している。
図4〜
図6に表示するものよりも、第1トルクカム機構91,第1追従ガイド94,第2追従ガイド95及び第2トルクカム機構92は、径方向内側から外側にこの順で配置されているので、実際の周方向長さ(
図4〜
図6中の横方向長さ)は、径方向外側ほど長くなる。なお、
図4〜
図6中の矢印はトルクカム装置90の回転方向を示す。
【0051】
次に、このトルクカム装置90の作動メカニズムを説明する。
無段変速機5では、車両のドライブ走行時に、ベルト26からセカンダリプーリ14に伝達される入力トルクが強まると、セカンダリプーリ14のベルト挟圧力が不足し、セカンダリプーリ14の固定シーブ18がベルト26に対して滑りを生じる。ただし、回転軸18と相対動可能な可動プーリ20はベルト26に追従するので、固定シーブ16は可動シーブ20に対して回転位相遅れを生じる。
【0052】
このときには、第1トルクカム機構91の第1出力側カム部材91Bが回転軸16に駆動連結されるので、可動シーブ20と一体回転する第1入力側カム部材91Aは、図示しないボールを介して第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとをスライドさせながら、固定シーブ16と一体回転する第1出力側カム部材91Bよりも先行するように相対回転しつつ、第1出力側カム部材91Bに対して軸方向に離隔するように(つまり、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとの全長を拡大する方向に)移動して可動シーブ20を固定シーブ16に接近させる。この結果、セカンダリプーリ14のV溝の溝幅が狭まってセカンダリプーリ14の推力が強まるため、ベルト挟圧力が強まり、固定シーブ16の滑りが解消される。
【0053】
一方、車両のコースト走行時に、駆動源が負の入力トルク(制動トルク)を作用する状態では、固定シーブ16の回転位相遅れは解消され、負の入力トルクに対してセカンダリプーリ14のベルト挟圧力が不足すると、固定シーブ16が可動シーブ20に対して回転位相進みを生じる(逆に言えば、可動シーブ20が固定シーブ16に対して回転位相遅れを生じる)。
【0054】
このときには、第2トルクカム機構92の第2出力側カム部材92Bが回転軸18に駆動連結されるので、固定シーブ16と一体回転する第2出力側カム部材92Bは、図示しないボールを介して第2駆動カム斜面92bと第2被駆動カム斜面91bとをスライドさせながら、固定シーブ16と一体回転する第1出力側カム部材92Bよりも先行するように相対回転しつつ、第2入力側カム部材92Aに対して軸方向に離隔するように(つまり、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92Bとの全長を拡大する方向に)移動して可動シーブ20を固定シーブ16に接近させる。この結果、セカンダリプーリ14のV溝の溝幅が狭まってセカンダリプーリ14の推力が強まるため、ベルト挟圧力が強まり、固定シーブ16の滑りが解消される。
【0055】
なお、車両の停止時等には、駆動トルクも制動トルクも作用しないため、トルクカム装置90によるプーリの推力は加えられない。本装置では、可動プーリ20を固定プーリ16に接近する方向に付勢するコイルスプリング22が装備されているので、この車両の発進時等の初期駆動時にも、ベルト滑りを防止してベルト26を確実にクランプすることができる。
【0056】
(作用及び効果)
本実施形態にかかる無段変速機5は、上述のように構成されているので、トルクカム装置90を利用して、セカンダリプーリ14に推力を与えながら適宜の変速比で駆動トルクを伝達する。
そして、本トルクカム装置90は、トルク伝達していない状態のトルクカム機構において、入力側カム部材と出力側カム部材との間のバックラッシの発生が抑制される効果を得ることができる。
【0057】
例えば、
図4は無段変速機5の変速比が最High状態でのトルクカム装置90の状態を示す展開図であり、
図5は無段変速機5の変速比が中間状態でのトルクカム装置90の状態を示す展開図であり、
図6は無段変速機5が最Low状態でのトルクカム装置90の状態を示す展開図であり、各図の(a)は第1トルクカム機構91の状態を示し、各図の(b)は第2トルクカム機構92の状態を示す。
【0058】
例えば
図4に示す最Highの状態で、ドライブ走行している場合には、切替機構93は、第1トルクカム機構91の第1出力側カム部材91Bを回転軸18と駆動連結するので、第1トルクカム機構91で、第1入力側カム部材91Aの第1駆動カム斜面91aと第1出力側カム部材91Bの第1被駆動カム斜面91bとの間でトルク伝達がなされる。伝達トルクと推力がバランスしていればこれを保持し、伝達トルクに対して推力が不足すれば、第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとの間で滑りが生じて、
図5(a)に示す中間状態の方向に移行する。
【0059】
このとき、第2トルクカム機構92では、第2出力側カム部材92Bは回転軸18と駆動連結されておらず、第2被駆動カム斜面92aと第2駆動カム斜面92bとの間でトルクに伝達はされていないので、追従ガイド94,95がない構成では、第2出力側カム部材92Bは特に第2入力側カム部材92Aと連動することはない。
【0060】
これに対して、本装置では、第2入力側カム部材92Aの回転によって第2追従ガイド95の入力側追従ガイド部材95Aが回転し、第1ガイドカム斜面95aが第2ガイドカム斜面95bに当接して出力側追従ガイド部材95Bを、
図5(b)に示すように軸方向に相対動させた中間状態に追従移行させ、第2被駆動カム斜面92aと第2駆動カム斜面92bとが近接している(または接触状態となる)ため、バックラッシの発生が抑制される。
【0061】
したがって、この
図5に示す状態でドライブ走行からコースト走行に切り替わっても、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92Bとでタイムラグを生じることなく速やかにトルク伝達が開始される。また、トルク伝達の開始時にトルクショックの発生も抑制される。
【0062】
あるいは、
図5に示す中間変速比の状態で、ドライブ走行している場合に、伝達トルクに対して推力が不足すれば、第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとの間で滑りが生じて、
図6(a)に示す最Lowの方向に移行する。このときにも、第2入力側カム部材92Aの回転によって第2追従ガイド95の入力側追従ガイド部材95Aが回転し、第1ガイドカム斜面95aが第2ガイドカム斜面95bに当接して出力側追従ガイド部材95Bを、
図6(b)に示すように軸方向に相対動させて最Lowの方向に追従移行させる。このため、バックラッシの発生が抑制される。
【0063】
一方、例えば
図6に示す最Lowの状態で、コースト走行している場合には、切替機構93は、第2トルクカム機構92の第2出力側カム部材92Bを回転軸18と駆動連結するので、第2トルクカム機構92で、第2入力側カム部材92Aの第2駆動カム斜面92aと第2出力側カム部材92Bの第2被駆動カム斜面92bとの間でトルク伝達がなされる。伝達トルクと推力がバランスしていればこれを保持し、伝達トルクに対して推力が不足すれば、第2駆動カム斜面92aと第2被駆動カム斜面92bとの間で滑りが生じて、
図5(b)に示す中間状態の方向に移行する。
【0064】
このとき、第1トルクカム機構91では、第1出力側カム部材91Bは回転軸18と駆動連結されておらず、第1駆動カム斜面91bと第1被駆動カム斜面91aとの間でトルクに伝達はされていないので、何の対策もしなければ、第1入力側カム部材91Aは第1入力側カム部材91Aと連動することはない。
【0065】
これに対して、本装置では、第1入力側カム部材91Aの回転によって第1追従ガイド94の入力側追従ガイド部材94Aが回転し、第1ガイドカム斜面94aが第2ガイドカム斜面94bに当接して出力側追従ガイド部材94Bを、
図5(a)に示すように軸方向に相対動させた中間状態の方向に追従移行させるため、バックラッシの発生が抑制される。
【0066】
したがって、この
図5に示す状態でコースト走行からドライブ走行に切り替わっても、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとでタイムラグを生じることなく速やかにトルク伝達が開始される。また、トルク伝達の開始時にトルクショックの発生も抑制される。
【0067】
あるいは、
図5に示す中間変速比の状態で、コースト走行している場合に、伝達トルクに対して推力が不足すれば、第2駆動カム斜面92aと第2被駆動カム斜面92bとの間で滑りが生じて、
図4(a)に示す最Highの方向に移行する。このときにも、第1入力側カム部材91Aの回転によって第1追従ガイド94の入力側追従ガイド部材94Aが回転し、第1ガイドカム斜面94aが第2ガイドカム斜面94bに当接して出力側追従ガイド部材94Bを、
図4(a)に示すように軸方向に相対動させた中最Lowの側に追従移行させ、バックラッシの発生を抑制する。
【0068】
ところで、追従ガイド94,95による出力側カム部材91B,92Bの追従動作は、
図7(a)に示すように入力側カム部材91A,92Aの周方向に追従させる回転動作と、
図7(b)に示すように入力側カム部材91A,92Aの軸方向(スラスト方向)に追従させる回転動作とを合成したものとなり、
図7(c)に示すように、出力側カム部材91B,92Bは入力側カム部材91A,92Aの2倍の回転量で追従回転する。
【0069】
つまり、入力側カム部材91A,92Aは、周方向に移動しつつ軸方向に移動する。
入力側カム部材91A,92Aが、
図7(a)の(a1)に示す状態から(a2)に矢印で示すように周方向に移動するのに対しては、出力側カム部材91B,92Bは(a3)に矢印で示すように周方向に回転移動することで周方向移動に追従する。
また、入力側カム部材91A,92Aが、
図7(b)の(b1)に示す状態から(b2)に矢印で示すように軸方向に移動するのに対しては、出力側カム部材91B,92Bは(b3)に矢印で示すように周方向に回転移動することで軸方向移動に追従する。
したがって、入力側カム部材91A,92Aは、これらを合成して、7(c)の(c1)に示す状態から(c2)に矢印で示すように周方向及び軸方向に移動するのに対しては、出力側カム部材91B,92Bは(c3)に矢印で示すように周方向に入力側カム部材91A,92Aの2倍の回転量で回転移動することで、入力側カム部材91A,92Aの周方向移動及び軸方向移動に追従する。
【0070】
このように、出力側カム部材91B,92Bの入力側カム部材91A,92Aへの追従動作は大きくなるが、追従ガイド94,95による追従操作をしているときには、出力側カム部材91B,92Bと入力側カム部材91A,92Aとの間でのトルク伝達はされていないため、追従ガイド94,95の入力側追従ガイド部材94A,95Aと出力側追従ガイド部材94B,95Bとの間には過剰な負荷は加わらず、追従ガイド94,95の耐久性は確保される。また、追従ガイド94,95の各追従ガイド部材94A,94B,95A,95Bには追従時に過剰な負荷が加わらないので、これらの部材の径方向の厚みは小さくてもよい。
また、追従ガイド94,95のガイドカム斜面94a,94b,95a,95bにも過剰な負荷が加わらないので、ガイドカム斜面94a,94b,95a,95bは滑らかに加工するだけで単純に油膜接触するだけで耐久性も確保される。
【0071】
また、本実施形態では、追従ガイド94,95は、第1トルクカム機構91が配置される第1筒状空間S1とも第2トルクカム機構92が配置される第2筒状空間S2ともは異なる筒状空間S3内に配置されるので、各トルクカム機構91,92と干渉することなく追従ガイド94,95を設けることができる。
【0072】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態を説明する。この実施形態は、トルクカム装置190のみが第1実施形態と異なっている。
本実施形態では、
図8に示すように、各カム斜面191a,191b,192a,192b及び各ガイドカム斜面194a,194b,195a,195bが、傾斜角度が段階的に変化する多段傾斜面により構成されている。なお、
図8中の矢印はトルクカム装置190の回転方向を示す。また、トルクカム装置の断面については
図2とほぼ同様である。
【0073】
第1実施形態の各カム部材91A,91B,92A,92Bの各カム斜面91a,91b,92a,92bが、軸と直行する環状面に対して軸方向へ同一傾斜角度で一定傾斜した単一傾斜面(単一傾斜角度の螺旋状面)により構成されているが、本実施形態では、
図8に示すように、各カム部材191A,191B,192A,192Bの各カム斜面191a,191b,192a,192bが、傾斜角度が段階的に変化する多段傾斜面により構成されている。
【0074】
つまり、第1トルクカム機構191の第1入力側カム部材191Aの第1駆動カム斜面191a及び第1出力側カム部材191Bの第1被駆動カム斜面191bは、最Highの状態から最Low側に移動するにしたがって、接触面の傾斜角度が徐々に大きくなるように多段に構成されている。つまり、最High付近の領域では、緩やかな傾斜角度の斜面部191a1,191b1で摺接し、中間変速比付近の領域では、傾斜角度がやや急になった斜面部191a2,191b2で摺接し、最Low付近の領域では、傾斜角度がさらに急になった斜面部191a3,191b3で摺接する。最Highの時には、斜面部191a1,191b1に加えて非傾斜面部191a0,191b0でも摺接する。
【0075】
同様に、第2トルクカム機構192の第2入力側カム部材192Aの第2被駆動カム斜面192a及び第2出力側カム部材192Bの第2駆動カム斜面192bも、最Highの状態から最Low側に移動するにしたがって、接触面の傾斜角度が徐々に大きくなるように多段に構成されている。つまり、最High付近の領域では、緩やかな傾斜角度の斜面部192a1,192b1で摺接し、中間変速比付近の領域では、傾斜角度がやや急になった斜面部192a2,192b2で摺接し、最Low付近の領域では、傾斜角度がさらに急になった斜面部192a3,192b3で摺接する。また、最Highの時には、斜面部192a1,192b1に加えて非傾斜面部192a0,192b0でも摺接する。
【0076】
これに対応して、第1追従ガイド194のガイドカム斜面194a,194b及び第2追従ガイド195のガイドカム斜面195a,195bも、最High付近の領域に対応した緩やかな傾斜角度の斜面部と、中間変速比付近の領域に対応した中間的な傾斜角度の斜面部と、最Low付近の領域に対応した急な傾斜角度の斜面部とから構成されている。
その他の構成は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0077】
本実施形態のトルクカム装置190は、このように構成されるので、多段傾斜面により構成されたカム斜面191a,191b,192a,192bを通じて、伝達トルクの変化と推力の変化とが非線形な関係になり、この特性によって、最Low付近での急激なトルク変動に対して推力を安定させることができ、最High付近での推力不足に速やかに対処することができる。
【0078】
そして、第1追従ガイド194のガイドカム斜面194a,194b及び第2追従ガイド195のガイドカム斜面195a,195bも、カム斜面191a,191b,192a,192bと対応して多段傾斜面により構成されるので、第1実施形態と同様に、トルク伝達していないトルクカム機構191又は192の入出力側カム部材の間でのバックラッシの発生を抑制することができ、ドライブ走行とコースト走行との切り替わり時にも、タイムラグを生じることなく速やかにトルク伝達が開始され、また、トルク伝達の開始時にトルクショックの発生も抑制される。
【0079】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態を説明する。この実施形態も、トルクカム装置290のみが第1,2実施形態と異なっている。
本実施形態では、
図9に示すように、第1トルクカム機構291の追従ガイド294は、第1トルクカム機構291の入力側カム部材291A,出力側カム部材291Bの各筒状体を用いて形成され、第2トルクカム機構292の追従ガイド295は、第2トルクカム機構292の入力側カム部材292A,出力側カム部材292Bの各筒状体を用いて形成されている。なお、
図9中の矢印はトルクカム装置290の回転方向を示す。また、トルクカム装置の断面については、
図2において、追従ガイド94,95が配置される空間が不要になる他はほぼ同様のものとなる。
【0080】
つまり、第1追従ガイド294の第1ガイドカム斜面294aは、第1入力側カム部材291Aに、第1追従ガイド294の第2ガイドカム斜面294bは、第1出力側カム部材291Bに、それぞれ形成される。第1ガイドカム斜面294aと第2ガイドカム斜面294bとが摺接している。
【0081】
詳細には、第1入力側カム部材291Aには、図中矢印で示すトルク伝達方向を向いた螺旋状の第1駆動カム斜面291aが形成されるとともに、トルク伝達方向と反対方向を向いた螺旋状の第1ガイドカム斜面294aが形成される。
また、第1出力側カム部材291Bには、トルク伝達方向と反対方向を向いた螺旋状の第1被駆動カム斜面291bが形成されるとともに、トルク伝達方向を向いた螺旋状の第2ガイドカム斜面294bが形成される。
【0082】
第1ガイドカム斜面294a,第2ガイドカム斜面294bの螺旋状傾斜面の傾斜角度は、第1駆動カム斜面291a,第1被駆動カム斜面291bの傾斜角度と同様である。
このように、第1入力側カム部材291Aの一部が入力側追従ガイド部材294Aを構成し、第1出力側カム部材291Bの一部が出力側追従ガイド部材294Bを構成し、入力側追従ガイド部材294Aと出力側追従ガイド部材294Bとから第1追従ガイド294が構成される。
【0083】
また、第2追従ガイド295の第1ガイドカム斜面295aは、第2入力側カム部材292Aに、第2追従ガイド295の第2ガイドカム斜面295bは、第2出力側カム部材292Bに、それぞれ形成される。第1ガイドカム斜面295aと第2ガイドカム斜面295bとが摺接している。
【0084】
第2入力側カム部材292Aには、図中矢印で示すトルク伝達方向と反対方向を向いた螺旋状の第2被駆動カム斜面292aが形成されるとともに、トルク伝達方向を向いた螺旋状の第2ガイドカム斜面295aが形成される。
また、第2出力側カム部材292Bには、トルク伝達方向を向いた螺旋状の第2被駆動カム斜面292bが形成されるとともに、トルク伝達方向と反対方向を向いた螺旋状の第2ガイドカム斜面295bが形成される。
【0085】
第1ガイドカム斜面295a,第2ガイドカム斜面295bの螺旋状傾斜面の傾斜角度は、第2被駆動カム斜面292a,第2駆動カム斜面292bの傾斜角度と同様である。
このように、第2入力側カム部材292Aの一部が入力側追従ガイド部材295Aを構成し、第2出力側カム部材292Bの一部が出力側追従ガイド部材295Bを構成し、入力側追従ガイド部材295Aと出力側追従ガイド部材295Bとから第2追従ガイド295が構成される。
【0086】
第1,2実施形態では、追従ガイド94,95,194,195が、第1トルクカム機構91,191が配置される筒状空間(第1の半径を基準とする第1筒状空間)とも、第2トルクカム機構92,192が配置される筒状空間(第2の半径を基準とする第2筒状空間)とも異なる筒状空間内に配置されているが、本実施形態では、第1トルクカム機構291の追従ガイド294は第1筒状空間に、第2トルクカム機構292の追従ガイド295は第2筒状空間にそれぞれ配置されていることになる。
【0087】
本実施形態のトルクカム装置290は、このように構成されるので、追従ガイド294,295を通じて、第1,2実施形態と同様に、トルク伝達していないトルクカム機構291又は292の入出力側カム部材の間でのバックラッシの発生を抑制することができ、ドライブ走行とコースト走行との切り替わり時にも、タイムラグを生じることなく速やかにトルク伝達が開始され、また、トルク伝達の開始時にトルクショックの発生も抑制される。
【0088】
しかも、本実施形態のトルクカム装置290では、追従ガイド294,295が第1トルクカム機構291や第2トルクカム機構292の各部材291A,291B,292A,292Bの一部を利用して形成されているので、トルクカム装置290は、第1トルクカム機構291の筒状体を配置する筒状空間と第2トルクカム機構292の筒状体を配置する筒状空間とがあればよく、径方向に追従ガイドを形成する空間を別途確保することが不要になる。したがって、径方向の設計自由度が向上し、第1トルクカム機構291の筒状体や第2トルクカム機構292の筒状体の径方向の厚みを大きく確保し易い。
【0089】
<追従ガイドの幾何学的特徴>
上記の各追従ガイド94,95,194,195,294,295(以下、追従ガイド94,95等とも称する)の追従ガイド部材94A,94B,95A,95B,194A,194B,195A,195B,294A,294B,295A,295B(以下、追従ガイド部材94A,94B等とも称する)のガイドカム斜面94a,94b,95a,95b,194a,194b,195a,195b,294a,294b,295a,295b(以下、ガイドカム斜面94a,94b等とも称する)は、以下のような幾何学的な特徴を有している。
【0090】
(1)出力側追従ガイド部材の幾何学的特徴
出力側追従ガイド部材94B,95B,194B,195B,295B,295B(以下、出力側追従ガイド部材94B,95B等とも称する)のガイドカム斜面94b,95b,194b,195b,294b,295b(以下、ガイドカム斜面94b,95b等とも称する)は何れも、対応する入力側カム部材91A,92A,191A,192A,291A,292A(以下、入力側カム部材91A,92A等とも称する)の動きを示すベクトルと同方向で長さが少なくとも半分となるベクトルを描く斜面である。
【0091】
(2)入力側追従ガイド部材の幾何学的特徴
入力側追従ガイド部材94A,95A,194A,195A,295A,295A(以下、入力側追従ガイド部材94A,95A等とも称する)のガイドカム斜面94a,95a,194a,195a,294a,295a(以下、ガイドカム斜面94a,95a等とも称する)は何れも、対応する入力側カム部材91A,92A,191A,192A,291A,292A(以下、入力側カム部材91A,92A等とも称する)の動きを示すベクトルと逆方向で長さが半分となるベクトルを描く斜面である。
【0092】
換言すれば、入力側追従ガイド部材94A,95A等のガイドカム斜面94a,95a等は何れも、対応する出力側追従ガイド部材94B,95B等のガイドカム斜面94b,95b等の描くベクトルと逆方向で長さが等しいベクトル(即ち、原点対称ベクトル)を描く斜面である。
【0093】
上記の出力側追従ガイド部材及び入力側追従ガイド部材の幾何学的特徴について説明する。
トルクカム装置90,190,290(以下、トルクカム装置90等とも称する)の第1トルクカム機構91,191,291(以下、第1トルクカム機構91等とも称する)及び第2トルクカム機構92,192,292(以下、第2トルクカム機構92等とも称する)のうちの一方のトルクカム機構がトルク伝達しながら全長を変更すると、トルク伝達を行わない他方のトルクカム機構では、装備されている追従ガイド94又は95等によって上記全長の変更に追従して全長が変更される。
【0094】
このとき、追従ガイド94,95等では、出力側追従ガイド部材94B,95B等のガイドカム斜面94b,95b等と、入力側追従ガイド部材94A,95A等のガイドカム斜面94a,95a等とが接触して追従操作を行う。追従操作は、トルク伝達を行わないトルクカム機構において行われるので、追従操作に際し、出力側追従ガイド部材94B,95B等のガイドカム斜面94b,95b等と、入力側追従ガイド部材94A,95A等のガイドカム斜面94a,95a等とは、僅かな荷重が加わるだけである。したがって、ガイドカム斜面94b,95b等とガイドカム斜面94a,95a等とがわずかに接触しているだけで追従操作を実施することができる。
【0095】
ここで、第1実施形態の第1追従ガイド94に着目してさらに説明する。第2トルクカム機構92がトルク伝達しながら全長を変更する際には、入力側カム部材92Aは出力側カム部材92Bに対して相対的な回転位相を変更させながら軸方向に相対移動する。このとき、第1トルクカム機構91では、第1トルクカム機構91の入力側カム部材91Aが第2トルクカム機構92の入力側カム部材92Aと一体に移動する。そして、第1追従ガイド94は、この入力側カム部材91Aの動きに出力側カム部材91Bを追従させる。
【0096】
第1トルクカム機構91及び第2トルクカム機構92の全作動範囲(最High〜最Lowのすべての変速比範囲)で追従ガイド94が追従操作を行える最短若しくは最短に近いガイドカム斜面94aを考えると、
図10に示す追従ガイド94´を例示することができる。
【0097】
第1トルクカム機構91及び第2トルクカム機構92の全作動範囲で、追従ガイド94´が追従操作を行うには、
図10(a)に示す最Highの状態(
図4に対応する状態)で、出力側追従ガイド部材94Bのガイドカム斜面94bの一端(ここでは、基端)と、入力側追従ガイド部材94Aのガイドカム斜面94aの一端(ここでは、基端)とが僅かに接触することが必要である。
【0098】
さらに、
図10(b)に示す中間変速比の状態(
図5に対応する状態)を経て、
図10(c)に示す最Lowの状態(
図6に対応する状態)で、出力側追従ガイド部材94Bのガイドカム斜面94bの他端(ここでは、先端)と、入力側追従ガイド部材94Aのガイドカム斜面94aの他端(ここでは、先端)とが僅かに接触することが必要である。
【0099】
入力側カム部材91Aの出力側カム部材91Bに対する移動ベクトルをV1〔
図10(c)参照〕とすると、追従ガイド94´の出力側追従ガイド部材94B´のガイドカム斜面94b´は、ベクトルV1と同方向で長さが略半分となるベクトルV2を描く斜面となる。
【0100】
同様に、追従ガイド94´の入力側追従ガイド部材94A´のガイドカム斜面94a´は、ベクトルV1と逆方向で長さが略半分となるベクトルV3を描く斜面となる。換言すれば、入力側追従ガイド部材94A´のガイドカム斜面94a´は出力側追従ガイド部材94B´のガイドカム斜面94b´の描くベクトルと逆方向で長さが等しいベクトル(即ち、原点対称ベクトル)を描く斜面となる。
【0101】
第1実施形態の場合、この
図10に示す第1追従ガイド94の変形例と同様に追従ガイド94´と同様に第2追従ガイド95の変形例を構成することができる。
また、第2実施形態の場合、この出力側追従ガイド部材及び入力側追従ガイド部材の幾何学的特徴に対応して、各ガイドカム斜面194a,194b,195a,195bを形成している。以下、これについて
図8,
図11,
図12を参照して説明する。
【0102】
つまり、
図8に示すように、第1トルクカム機構191の第1入力側カム部材191A及び第1出力側カム部材191Bは、最High付近の領域では、緩やかな傾斜角度の斜面部191a1,191b1で摺接し、中間変速比付近の領域では、傾斜角度がやや急になった斜面部191a2,191b2で摺接し、最Low付近の領域では、傾斜角度がさらに急になった斜面部191a3,191b3で摺接する。
【0103】
このため、第1入力側カム部材191Aは第1出力側カム部材191Bに対して、
図11(a),
図12に示すように、最High付近の領域ではベクトル(PO→P11)、中間変速比付近の領域ではベクトル(P11→P12)、最Low付近の領域ではベクトル(P12→P13)にそれぞれ示すように移動する。
【0104】
これに対して、第1追従ガイド194の出力側追従ガイド部材194Bのガイドカム斜面194bについては、第1入力側カム部材191Aの移動ベクトル(PO→P11)に対応した緩やかな傾斜角度の斜面部は、ベクトル(PO→P11)と同方向で長さが略半分となるベクトル(PO→P31)を描く斜面となる。第1入力側カム部材191Aの移動ベクトル(P11→P12)に対応した傾斜角度がやや急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P11→P12)と同方向で長さが略半分となるベクトル(P31→P32)を描く斜面となる。第1入力側カム部材191Aの移動ベクトル(P12→P13)に対応した傾斜角度が急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P12→P13)と同方向で長さが略半分となるベクトル(P32→P33)を描く斜面となる。
【0105】
一方、第1追従ガイド194の入力側追従ガイド部材194Bのガイドカム斜面194aについては、第1入力側カム部材191Aの移動ベクトル(PO→P11)に対応した緩やかな傾斜角度の斜面部は、ベクトル(PO→P11)と逆方向で長さが略半分となるベクトル(PO→P41)を描く斜面となる。第1入力側カム部材191Aの移動ベクトル(P11→P12)に対応した傾斜角度がやや急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P11→P12)と逆方向で長さが略半分となるベクトル(P41→P42)を描く斜面となる。第1入力側カム部材191Aの移動ベクトル(P12→P13)に対応した傾斜角度が急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P12→P13)と逆方向で長さが略半分となるベクトル(P42→P43)を描く斜面となる。
【0106】
また、
図8に示すように、第2トルクカム機構192の第2入力側カム部材192A及び第2出力側カム部材192bについても、最High付近の領域では、緩やかな傾斜角度の斜面部192a1,192b1で摺接し、中間変速比付近の領域では、傾斜角度がやや急になった斜面部192a2,192b2で摺接し、最Low付近の領域では、傾斜角度がさらに急になった斜面部192a3,192b3で摺接する。
【0107】
このため、第2入力側カム部材192Aは第2出力側カム部材192Bに対して、
図11(b),
図12に示すように、最High付近の領域ではベクトル(PO→P21)、中間変速比付近の領域ではベクトル(P21→P22)、最Low付近の領域ではベクトル(P22→P23)にそれぞれ示すように移動する。
【0108】
これに対して、第2追従ガイド195の出力側追従ガイド部材195Bのガイドカム斜面195bについては、第2入力側カム部材192Aの移動ベクトル(PO→P21)に対応した緩やかな傾斜角度の斜面部は、ベクトル(PO→P21)と同方向で長さが略半分となるベクトル(PO→P51)を描く斜面となる。第2入力側カム部材192Aの移動ベクトル(P21→P22)に対応した傾斜角度がやや急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P21→P22)と同方向で長さが略半分となるベクトル(P51→P52)を描く斜面となる。第2入力側カム部材192Aの移動ベクトル(P22→P23)に対応した傾斜角度が急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P22→P23)と同方向で長さが略半分となるベクトル(P52→P53)を描く斜面となる。
【0109】
一方、第2追従ガイド195の入力側追従ガイド部材195Bのガイドカム斜面195aについては、第2入力側カム部材192Aの移動ベクトル(PO→P21)に対応した緩やかな傾斜角度の斜面部は、ベクトル(PO→P21)と逆方向で長さが略半分となるベクトル(PO→P61)を描く斜面となる。第3入力側カム部材193Aの移動ベクトル(P21→P22)に対応した傾斜角度がやや急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P21→P22)と逆方向で長さが略半分となるベクトル(P61→P62)を描く斜面となる。第2入力側カム部材192Aの移動ベクトル(P22→P23)に対応した傾斜角度が急になった傾斜角度の斜面部は、ベクトル(P22→P23)と逆方向で長さが略半分となるベクトル(P62→P63)を描く斜面となる。
【0110】
(3)各追従ガイド部材の径がカム径と異なる場合の幾何学的特徴
例えば第3実施形態のように追従ガイド部材294A,294B,295A,295Bの径(ガイド径ともいう、ここでは、半径とするが直径としてもよい)Rgがカム部材291A,291B,292A,292Bの径(カム径ともいう、ここでは、半径とするが直径としてもよい)Rcと同径であれば、上記のベクトルの長さの関係(長さ特性)は上記のままでよい。しかし、ガイド径Rgがカム径Rcと異なる場合には、上記のガイドカム斜面の動きを示すベクトルは、ガイド径Rgのカム径Rcに対する比率Re(=Rg/Rc)に応じて増減する(Rc,Rgはいずれも図示せず)。
そこで、上記の出力側追従ガイド部材及び入力側追従ガイド部材の幾何学的特徴については、各斜面の長さをこの比率Re(=Rg/Rc)に応じて増減補正するなど、比率Reに基づいて設定する。
【0111】
つまり、入力側カム部材91A,92A等の動きは、軸方向の動きと周方向の動きとの合成となる。ガイド径Rgがカム径Rcと異なる場合には、軸方向の動き(軸方向の移動量h、
図10参照)については、カムの移動量とガイドの移動量とは同一である必要がある。一方、周方向の動きについては影響が生じる。入力側カム部材91A,92A等の周方向の動きは、出力側追従ガイド部材94B,95B等及び入力側追従ガイド部材94A,95A等を周方向に動かすが、このときの周方向移動量は、回転角度θとして一致する。
【0112】
したがって、入力側カム部材91A,92A等が周方向に移動する長さ(カムの周方向移動長)Lcは、回転角度θとカム径Rcとの積算値(Lc=θ・Rc)となる。回転角度θが等しければ、カムの周方向移動長Lcはカム径Rcと比例する。
同様に、出力側追従ガイド部材94B,95B等及び入力側追従ガイド部材94A,95A等が周方向に移動する長さ(ガイドの周方向移動長)Lgは、回転角度θとガイド径Rgとの積算値(Lg=θ・Rg)となる。回転角度θが等しければ、ガイドの周方向移動長Lgはガイド径Rgと比例する。
【0113】
図13は、第1実施形態の第1トルクカム機構91と第1追従ガイド94の例に、追従ガイド部材の径がカム径と異なる場合の幾何学的特徴を説明する図である。第1実施形態では、
図13(a)に示すように、第1トルクカム機構91が半径r1(
図2参照)を基準とする第1筒状空間S1内に配置され、第1追従ガイド94は第1筒状空間S1の外側に隣接し半径r3(
図2参照)を基準とする第3筒状空間S3内に配置されている。
【0114】
入力側カム部材91Aが出力側カム部材91Bに対して回転角度θだけ回転すると、出力側追従ガイド部材94Bも入力側追従ガイド部材94Aに対して回転角度θだけ回転する。
図13(b)は、入力側カム部材91Aが配置される第1筒状空間S1と、第1追従ガイド94が配置される第3筒状空間S3とをそれぞれ展開して、周方向長さを同一目盛にして示す図である。第1筒状空間S1の外側に隣接する第3筒状空間S3内に配置されている追従ガイド94の各部材94A,94Bは、第1筒状空間S1内のトルクカム機構91の各カム部材91A,91Bに対して、ガイド径Rgのカム径Rcに対する比率Re(=Rg/Rc、ここでは、r3/r1>1)で増加する。
このように、第1トルクカム機構91の入力側カム部材91Aと第1追従ガイド94の入力側追従ガイド部材94Aのそれぞれの軸方向の移動量hは同一であり、且つ周方向移動量Lc,Lgが異なることから、入力側カム部材91Aのカム斜面91aの角度α(図示略)やこれと等しい出力側カム部材91Bのカム斜面91bの角度α(図示略)と、入力側追従ガイド部材94Aのガイドカム斜面94aの角度β(図示略)やこれと等しい出力側追従ガイド部材94Bのガイドカム斜面94bの角度β(図示略)とは、異なる角度で設定することが必要になる。
【0115】
一方、第2トルクカム機構92と第2追従ガイド95の場合、第2トルクカム機構92が半径r2を基準とする第2筒状空間S2内に配置され、第2追従ガイド95は第2筒状空間S2の内側に隣接し半径r3を基準とする第3筒状空間S3内に配置されているので、追従ガイド95の各部材95A,95Bは、第2筒状空間S2内のトルクカム機構92の各カム部材92A,92Bに対して、ガイド径Rgのカム径Rcに対する比率Re(=Rg/Rc、ここでは、r3/r2<1)で減少する。
したがって、第2トルクカム機構92の入力側カム部材92Aと第2追従ガイド95の入力側追従ガイド部材95Aのそれぞれの軸方向の移動量hは同一であり、且つ周方向移動量Lc,Lgが異なることから、入力側カム部材95Aのカム斜面92aの角度αやこれと等しい出力側カム部材95Bのカム斜面95bの角度αと、入力側追従ガイド部材95Aのガイドカム斜面95aの角度βやこれと等しい出力側追従ガイド部材95Bのガイドカム斜面95bの角度βとは、異なる角度で設定することが必要になる。
【0116】
<その他>
以上、実施形態について説明したが、本発明は各実施形態を適宜変形して実施することができる。
例えば上記実施形態では、セカンダリプーリ側に本トルクカム装置を装備しているが、プライマリプーリの側に本トルクカム装置を装備してもよい。
また、第2実施形態のカム斜面が多段傾斜面で構成されるカムの変形例として、この多段化をさらに進めてカム斜面が無段階に連続的に変化するものに適用することも可能である。
また、本発明のトルクカム装置及びこれを備えた無段変速機は、両用の変速機として用いるのに適しているが、その他の種々の動力伝達系にも適用できる。