(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力回転要素に連結され、前記入力回転要素から出力回転要素へ順方向にトルクを伝達する際の入力側となり、螺旋状の第1駆動カム斜面を有する第1入力側カム部材と、前記出力回転要素に対して軸方向移動不能且つ相対回転可能に支持され、前記順方向にトルクを伝達する際の出力側となり、前記第1駆動カム斜面と伝達トルクに応じた力で摺接する螺旋状の第1被駆動カム斜面を有する第1出力側カム部材とからなる第1トルクカム機構と、
前記出力回転要素に対して軸方向移動不能且つ相対回転可能に支持され、前記出力回転要素から前記入力回転要素へ逆方向にトルクを伝達する際の出力側となり、螺旋状の第2駆動カム斜面を有する第2出力側カム部材と、前記入力回転要素に連結され、前記逆方向にトルクを伝達する際の入力側となり、前記第2駆動カム斜面と伝達トルクに応じた力で摺接する螺旋状の第2被駆動カム斜面を有する第2入力側カム部材とからなる第2トルクカム機構と、
前記入力回転要素と出力回転要素との間に介装され、前記入力回転要素に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に連結されたピニオンキャリアと、前記出力回転要素に連結されたリングギヤと、サンギヤとからなる遊星歯車機構と、
前記順方向にトルク伝達するときには前記第1出力側カム部材を前記出力回転要素に相対回転不能に連結すると共に前記第2出力側カム部材と前記サンギヤとを連結し、前記逆方向にトルク伝達するときには前記第2出力側カム部材を前記出力回転要素に相対回転不能に連結すると共に前記第1出力側カム部材と前記サンギヤとを連結する切替機構とを備えている
ことを特徴とするトルクカム装置。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機の変速機構の推力発生機構としてトルクカム機構を使用したものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。
このトルクカム機構は、2つのカム部材の回転位相差に応じて推力を発生させるもので、各カム部材には、回転軸と直交する環状面に対して軸方向へ傾斜したカム斜面がそれぞれ形成され、2つのカム部材が互いにカム斜面どうしを摺動させて相対回転することにより、カム部材が離接してその全長(軸方向長)が変化する。これにより、回転軸方向への力(推力)が発生し、トルクを伝達する。
【0003】
車両の変速機構では、駆動源側から車輪側にトルクを伝達するドライブ状態と、車輪側から駆動源側にトルクを伝達するコースト状態との2つの態様でトルクを伝達するので、ドライブ状態に対応した第1トルクカム機構と、コースト状態に対応したト第2トルクカム機構とを装備し、これらをトルク伝達状態に応じて使い分けるようにする。
【0004】
しかし、これら2つのトルクカム機構の切り替わり時に、動力を伝達していない状態から動力を伝達する状態に切り替わるトルクカム機構では、カム部材間のバックラッシに起因して、トルク伝達にタイムラグやショックが発生する。つまり、一方のトルクカム機構でトルクを伝達している時には、他方のトルクカム機構では2つのカム部材は互いに回転方向に追従操作していないため、他方のトルクカム機構でトルクを伝達させるためには、2つのカム部材を必要量だけ相対回転させることが必要になる。したがって、2つのカム部材を相対回転させる間はトルク伝達にタイムラグが発生し、2つのカム部材は相対回転後に瞬時にトルク伝達状態になるためトルクショックが発生する。
【0005】
特許文献1には、このトルクカム機構の切り替わり時のトルク伝達にタイムラグやショックの発生を抑制する技術も提案されている。この技術では、トルクカム機構がトルクを伝達していないときにも、スプリングによって2つのカム部材のカム面どうしを圧接させて、2つのカム部材の回転位相を互いに追従させて、カム部材間のバックラッシを抑えようとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、スプリングによって2つのカム部材のカム斜面どうしを圧接させているだけなので、様々な点から、追従が確実にできなくなりバックラッシが大きくなるものと考えられる。
【0008】
つまり、カム斜面どうしの摺動抵抗が大きい場合にはスプリングの付勢力が不足して追従操作が困難になる。また、2つのカム部材の相対回転量が大きく設定されていると、必要な追従量(追従のための回転)が多くなり追従操作が困難になる。さらに、車両が加速している場合にも追従操作が困難になる。このように追従が確実にできなくなると、バックラッシが大きくなるものと考えられる。
【0009】
本発明は、この課題に着目して創案されたもので、順方向にトルク伝達するトルクカム機構と、逆方向にトルク伝達するトルクカム機構とを備え、トルクカム機構がトルク伝達していない場合にも、当該トルクカム機構の2つのカム部材間のバックラッシの発生を抑制することができるようにした、トルクカム装置及びこのトルクカム装置を備えた無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明のトルクカム装置は、入力回転要素に連結され、前記入力回転要素から出力回転要素へ順方向にトルクを伝達する際の入力側となり、螺旋状の第1駆動カム斜面を有する第1入力側カム部材と、前記出力回転要素に対して軸方向移動不能且つ相対回転可能に支持され、前記順方向にトルクを伝達する際の出力側となり、前記第1駆動カム斜面と伝達トルクに応じた力で摺接する螺旋状の第1被駆動カム斜面を有する第1出力側カム部材とからなる第1トルクカム機構と、前記出力回転要素に対して軸方向移動不能且つ相対回転可能に支持され、前記出力回転要素から前記入力回転要素へ逆方向にトルクを伝達する際の出力側となり、螺旋状の第2駆動カム斜面を有する第2出力側カム部材と、前記入力回転要素に連結され、前記逆方向にトルクを伝達する際の入力側となり、前記第2駆動カム斜面と伝達トルクに応じた力で摺接する螺旋状の第2被駆動カム斜面を有する第2入力側カム部材とからなる第2トルクカム機構と、前記入力回転要素と出力回転要素との間に介装され、前記入力回転要素に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に連結されたピニオンキャリアと、前記出力回転要素に連結されたリングギヤと、サンギヤとからなる遊星歯車機構と、前記順方向にトルク伝達するときには前記第1出力側カム部材を前記出力回転要素に相対回転不能に連結すると共に前記第2出力側カム部材と前記サンギヤとを連結し、前記逆方向にトルク伝達するときには前記第2出力側カム部材を前記出力回転要素に相対回転不能に連結すると共に前記第1出力側カム部材と前記サンギヤとを連結する切替機構とを備えていることを特徴としている。
【0011】
(2)前記切替機構が、前記出力回転要素に相対回転不能且つ軸方向移動可能に連結されると共に軸方向移動によって前記第1出力側カム部材と第2出力側カム部材との何れか一方の出力側カム部材に連結され、他方の出力側カム部材を解放するフォーク部材と、前記フォーク部材に相対回転可能且つ軸方向相対移動不能に支持されると共に前記他方の出力側カム部材を前記サンギヤに連結する噛合いリング部材とを備えていることが好ましい。
【0012】
(3)本発明の無段変速機は、プライマリプーリと、セカンダリプーリと、前記プライマリプーリ及び前記セカンダリプーリに掛け回されたベルト状部材と、前記プライマリプーリに推力を付与する第1推力付与機構と、前記セカンダリプーリに推力を付与する第2推力付与機構と、を備え、前記第1推力付与機構及び前記第2推力付与機構の少なくともいずれか一方に、前段に記載のトルクカム装置が装備されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1トルクカム機構が順方向にトルクを伝達している時には、第2トルクカム機構の第2出力側カム部材が遊星歯車機構のサンギヤに連結されて入力回転要素の回転に対して増速されるので、第2出力側カム部材を第2入力側カム部材に近接または当接させることができ、第2入力側カム部材と第2出力側カム部材との間のバックラッシの発生が抑制される。
また、第2トルクカム機構が逆方向にトルクを伝達している時には、第1トルクカム機構の第1出力側カム部材が遊星歯車機構のサンギヤに連結されて入力回転要素の回転に対して増速されるので、第1出力側カム部材を第1入力側カム部材に近接または当接させることができ、第1入力側カム部材と第1出力側カム部材との間のバックラッシの発生が抑制される。
このようにして、入力側カム部材と出力側カム部材との間のバックラッシの発生が抑制されるため、トルクの伝達方向を切り替える際に、トルク伝達のタイムラグの発生やトルクショックの発生が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明にかかるトルクカム装置及びこのトルクカム装置を装備する車両用の無段変速機の実施形態を説明する。なお、ここでは、車両が電気モータを駆動源とする電気自動車の場合を例示するが、車両の駆動源はエンジンであってもよく、また、車両はエンジンと電気モータとを駆動源とするハイブリッド車であってもよい。また、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。かかる実施形態を部分的に用いて実施したり、一部を変更して実施したり、同等の機能を有する他の機構や装置に置き換えて実施したりすることができるものである。
【0016】
図1は本実施形態に係る無段変速機を模式的に示す構成図であり、車両を走行させるための内燃機関(エンジン)、電動モータ等からなる駆動源2には、遊星歯車機構等で構成された前後進切換機構4を介して、無段変速機5のプライマリプーリ6の固定シーブ8に結合された回転軸10が連結されている。この回転軸10には、固定シーブ8のシーブ面に対向してプーリのV字状溝を形成するシーブ面を有する可動シーブ12が、軸方向に摺動可能且つ相対回転不能に配設されている。
【0017】
また、無段変速機5のセカンダリプーリ14の固定シーブ16に結合された駆動軸18には、差動機構等を介して図示しない駆動輪が連結され、また、駆動軸18には固定シーブ16のシーブ面に対向してプーリのV字状溝を形成するシーブ面を有する可動シーブ20が、軸方向に摺動可能且つ相対回転不能に配設されている。
【0018】
さらに、セカンダリプーリ14の両シーブ16,20間にはV字状溝を狭める方向に付勢力を付加するスプリング22とトルクカム装置90が介装されている。
また、両プーリ6,14間には、ベルト26が巻き掛けられている。
さらに、スプリング22及びトルクカム装置90はセカンダリプーリ14の推力を調整してベルト26の挟圧力を調整する推力調整機構として機能する。
【0019】
なお、
図1には、プライマリプーリ6,セカンダリプーリ14及びベルト26について、変速比がロー側の状態とハイ側の状態とを示している。プライマリプーリ6,セカンダリプーリ14の各外側の半部にロー側の状態を示し、各内側の半部にハイ側の状態を示している。ベルト26については、ロー側の状態を実線で示し、ハイ側の状態を破線で示している。但し、破線で示したハイ状態は、プーリとベルトの半径方向の位置関係を示すのみであり、実際のベルト位置がプーリの内側半部に現れることはない。
【0020】
プライマリプーリ6の可動シーブ12の背面(シーブ面と反対側の面)13側には、可動シーブ12を軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構30が配設されている。
図1では機械式プーリ移動機構30を極めて簡略化して記載しているが、この機械式プーリ移動機構30は、可動シーブ12に連結された駆動カム42と固定カム44とを有するトルクカム機構40と、アクチュエータとしての電動モータ70からの動力をトルクカム機構40に伝達するための2つの動力伝達機構50,60とを備えている。
【0021】
本実施形態にかかるトルクカム装置90は、このような無段変速機のセカンダリプーリ14に推力発生機構として装備される。
以下、トルクカム装置90について説明する。
【0022】
図1〜3に示すように、本実施形態のトルクカム装置90は、入力回転要素としてのセカンダリプーリ14の可動シーブ20と、出力回転要素としてのセカンダリプーリ14の固定シーブ16及び回転軸18との間に介装されている。本トルクカム装置90は、入力回転要素である可動シーブ20から出力回転要素である回転軸18にトルクが順方向に伝達されるドライブ走行時に推力を発生するとともにトルク伝達を行う第1トルクカム機構91と、出力回転要素である回転軸18から入力回転要素である可動シーブ20にトルクが逆方向に伝達されるコースト走行時に推力を発生するとともにトルク伝達を行う第2トルクカム機構92とを、並列に配設して構成されており、第1トルクカム機構91が第2トルクカム機構92の内周側に配設されている。
【0023】
第1トルクカム機構91は、セカンダリプーリ14の可動シーブ20に固定された円筒状(筒状体)の第1入力側カム部材91Aと、回転軸18に後に詳述する切替機構80を介して連結可能に設けられた円筒状(筒状体)の第1出力側カム部材91Bとを有しており、
図3(a)に示すように第1入力側カム部材91Aは、一端(図中上端)を可動シーブ20に固定され、他端に螺旋状の第1駆動カム斜面91aを有している。
【0024】
一方、第1出力側カム部材91Bには、一端に第1駆動カム斜面91aに対向する螺旋状の第1被駆動カム斜面91bが形成され、他端に、周方向に沿って間隙を存して配設された4つの連結部材91Cを介して円環状の第1クラッチ部材91Dが連結されている。第1クラッチ部材91Dの外周面には、前記切替機構80に噛合できるようにスプライン歯91E(
図4参照)が形成されている。
【0025】
第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとは、同一の角度で周方向に傾斜して延在する螺旋状の斜面であり、これらのカム斜面91a,91bは図示しないボールを介して滑らかに摺接している。ここでは、カム斜面91a,91bは、位相角度を180度ずらせて2個ずつ設けられている。
【0026】
第1入力側カム部材91Aが図中に矢印A1で示す方向に回転すると、第1駆動カム斜面91aが第1被駆動カム斜面91bに圧接しながら第1入力側カム部材91Aから第1出力側カム部材91Bに回転トルクが伝達される。このとき、第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとの間の圧接力は、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとを軸方向に離隔させる方向に働くが、第1出力側カム部材91Bの他端は、後に詳述するように、回転軸18に対して軸方向への相対移動不可となっているので、前記圧接力が可動シーブ20に加わる推力となる。可動シーブ20にはこの推力に対するベルト26からの反力が加わるため、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとの全長は、この推力がバランスする長さになる。
【0027】
第2トルクカム機構92は、セカンダリプーリ14の可動シーブ20に固定された円筒状(筒状体)の第2入力側カム部材92Aと、回転軸18に切替機構80を介して連結可能に設けられた円筒状(筒状体)の第2出力側カム部材92Bとを有しており、
図3(b)に示すように第2入力側カム部材92Aは、一端(図中上端)を可動シーブ20に固定され、他端に螺旋状の第2駆動カム斜面92aを有している。
【0028】
一方、第2出力側カム部材92Bには、一端に第2駆動カム斜面92aに対向する螺旋状の第2被駆動カム斜面92bが形成され、他端に大径の第2クラッチ部材92Dが形成されている。第2クラッチ部材92Dの外周面には、第1クラッチ部材91Dと同様に、切替機構80に噛合できるようにスプライン歯92E(
図4参照)が形成されている。
【0029】
第2被駆動カム斜面92aと第2駆動カム斜面92bとは、同一の角度で周方向に傾斜して延在する螺旋状の斜面であり、これらのカム斜面92a,92bは図示しないボールを介して滑らかに摺接している。ここでは、カム斜面92a,92bは、位相角度を180度ずらせて2個ずつ設けられている。
【0030】
第2出力側カム部材92Bが図中に矢印A2で示す方向に回転すると、第2駆動カム斜面92bが第2被駆動カム斜面92aに圧接しながら第2出力側カム部材92Bから第2で入力側カム部材92Aに回転トルクが伝達される。このとき、第2駆動カム斜面92bと第2被駆動カム斜面92aとの間の圧接力は、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92Bとを軸方向に離隔させる方向に働くが、第2出力側カム部材92Bの他端は回転軸18に対して軸方向への相対移動不可となっているので、前記圧接力が可動シーブ20に加わる推力となる。可動シーブ20にはこの推力に対するベルト26からの反力が加わるため、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92Bとの全長は、この推力がバランスする長さになる。
【0031】
図1,2に示すように、トルクカム装置90は、さらに、2つのトルクカム機構91,92と出力回転要素としての回転軸18との間に介装された切替機構80と遊星歯車機構100とを備えている。出力回転要素としての回転軸18には、その出力側端部(図中左端部)に拡径部18Aと、拡径部18Aの外周部から可動シーブ20方向へ延設された連結ドラム18Bが形成されており、切替機構80と遊星歯車機構100とは連結ドラム18Bの内周側に配設されている。
【0032】
図4に示すように、切替機構80は、フォーク部材82とリング部材84とを備えている。
フォーク部材82は、回転軸18と同軸の円筒からなる胴部82aと、胴部82aの軸方向中間部から外方に向かって突設され、外周面にスプライン歯82bが形成された円環状の脚部82cと、胴部82aの軸方向両端部から内方に向かって突設され、内周面にスプライン歯82d,82fが形成された2つの腕部82e,82gと、胴部82aの軸方向中間部から内方に向かって突設された円環状の係合部82hとを備えている。そして、フォーク部材82は、連結ドラム18Bの内周面に形成されたスプライン歯18Cに脚部82cのスプライン歯82bを噛合させることにより、連結ドラム18B(即ち、回転軸18)に対して相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に支持されている。
【0033】
リング部材84は、外周面に係合部82hに嵌合する円環状の溝84aが形成された円筒状の胴部84bと、胴部84bの軸方向両端部から内方に向かって突設され、内周面にスプライン歯84d,84fが形成された2つの腕部84e,84gとを備えている。また、リング部材84は、溝84aが係合部82hに嵌合することにより、相対回転可能且つ軸方向への相対移動不能に、フォーク部材82に支持されている。
【0034】
一方、遊星歯車機構100は、リングギヤ100Rとピニオンギヤ100Pとサンギヤ100Sとピニオンギヤ100Pを支持するキャリア100Cとを有する単純遊星歯車で構成されており、リングギヤ100Rが連結ドラム18Bに固定的に連結され、キャリア100cがスプライン機構18Aを介して可動プーリ20に連結された回転支持軸18Bの軸端(図中左端)に相対回転不能且つ軸方向への相対移動可能に支持され、これによって可動プーリ20の軸方向移動が許容されている。
【0035】
また、サンギヤ100Sには、サンギヤ100Sを切替機構80に連結するための連結軸120が結合されており、連結軸120には、その軸方向中間部に外方へ向かって突設された円板状のフランジ120Aと、軸端部に外方へ向かって突設され外周面にスプライン歯120C(
図4参照)が形成された円盤状の第3クラッチ部材120Bとが設けられている。
【0036】
さらに、
図5に示すように、第3クラッチ部材120Bには、その径方向中間部における同一径上に間隔を存して4つの円弧状の孔120Dが穿設されており、孔120Dには第1出力側カム部材91Bの連結部材91Cが貫通している。
図5から明確なように、孔120Dの円弧長は連結部材91Cの円弧長より長く設定されているので、連結部材91Cは孔120Dの円弧長の範囲内において移動可能である。
なお、孔120Dの円弧長と連結部材91Cの円弧長との関係は、連結部材91Cが孔120Dの何れか一方の内壁に当接または近接したときに、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとが当接状態(即ち、両カム部材91A,91B間のバックラッシがなくなる状態)となる長さ比とすることが好ましい。
【0037】
図2に示すように、拡径部18Aの内側面18Cとキャリア100Cの一側面100C1との間、キャリア100Cの他側面100C2と連結軸120の軸端面との間、フランジ120Aの側面と第1クラッチ部材91Dの側面との間および第3クラッチ部材120Bの側面と第2クラッチ部材92Dの側面との間には、それぞれスラスト軸受25A,25B,25C,25Dが介装されており、この構成により、第1及び第2出力側カム部材91B,92Bが、出力回転要素である回転軸18に対して軸方向への相対移動不能に支持されることとなる。
【0038】
ここで、切替機構82の作動態様を説明する。
フォーク部材82は図示しないアクチュエータにより軸方向に摺動駆動され、前記順方向へのトルク伝達が行われる状態、即ち、車両のドライブ走行状態では、
図4に示す位置に駆動されて、腕部82gのスプライン歯82fを第1クラッチ部材91Dのスプライン歯91Eに噛合させて第1出力側カム部材91Bを連結ドラム18B(回転軸18)に相対回転不能に連結すると共にリング部材84のスプライン歯84fを第3クラッチ部材120Bのスプライン歯120Cに噛合させ、スプライン歯84dを第2クラッチ部材92Dのスプライン歯92Eに噛合させて第2出力側カム部材92Bをサンギヤ100Sに連結する。
【0039】
この状態では、第1トルクカム機構91がトルク伝達を実行し、第2トルクカム機構92はトルク伝達に寄与しないので、本実施態様のような構成を備えない従来のトルクカム装置の構成では、第2出力側カム部材92Bが自由状態となり、引き摺り摩擦等の影響により回転が遅くなって第2入力側カム部材92Aから離間してバックラッシが大きくなってしまう。
一方、本実施態様の構成によれば、第2出力側カム部材92Bがサンギヤ100Sに連結されるので、第2出力側カム部材92Bの回転が遊星歯車機構100のギヤ比に応じた分だけ第2入力側カム部材92Aの回転に対して増速され、両カム部材92A,92Bを近接させてバックラッシの発生を抑制または解消することができる。
【0040】
また、前記逆方向へのトルク伝達が行われる状態、即ち、車両のコースト走行状態では、
図4に示す位置から左方へ移動されて、腕部82eのスプライン歯82dを第2クラッチ部材92Dのスプライン歯92Eに噛合させて第2出力側カム部材92Bを連結ドラム18B(回転軸18)に相対回転不能に連結すると共にリング部材84のスプライン歯84dを第3クラッチ部材120Bのスプライン歯120Cに噛合させ、スプライン歯84fを第1クラッチ部材91Dのスプライン歯91Eに噛合させて第1出力側カム部材91Bをサンギヤ100Sに連結する。
【0041】
この状態は、第2トルクカム機構92がトルク伝達を実行し、第1トルクカム機構91がトルク伝達に寄与しない状態であるが、第1出力側カム部材91Bがサンギヤ100Sに連結されて増速されるので、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとの間のバックラッシの発生が抑制または解消される。
【0042】
次に、本実施形態によるトルクカム装置90の作動について説明する。
無段変速機5では、車両のドライブ走行時に、ベルト26からセカンダリプーリ14に伝達される入力トルクが強まると、セカンダリプーリ14のベルト挟圧力が不足し、セカンダリプーリ14の固定シーブ18がベルト26に対して滑りを生じる。ただし、回転軸18と相対動可能な可動プーリ20はベルト26に追従するので、固定シーブ16は可動シーブ20に対して回転位相遅れを生じる。
【0043】
このときには、第1トルクカム機構91の第1出力側カム部材91Bが、切替機構80を介して回転軸16に駆動連結されるので、可動シーブ20と一体回転する第1入力側カム部材91Aは、図示しないボールを介して第1駆動カム斜面91aと第1被駆動カム斜面91bとをスライドさせながら、固定シーブ16と一体回転する第1出力側カム部材91Bよりも先行するように相対回転しつつ、第1出力側カム部材91Bに対して軸方向に離隔するように(つまり、第1入力側カム部材91Aと第1出力側カム部材91Bとの全長を拡大する方向に)移動して可動シーブ20を固定シーブ16に接近させる。この結果、セカンダリプーリ14のV溝の溝幅が狭まってセカンダリプーリ14の推力が強まるため、ベルト挟圧力が強まり、固定シーブ16の滑りが解消される。
【0044】
一方、車両のコースト走行時に、駆動源が負の入力トルク(制動トルク)を作用する状態では、固定シーブ16の回転位相遅れは解消され、負の入力トルクに対してセカンダリプーリ14のベルト挟圧力が不足すると、固定シーブ16が可動シーブ20に対して回転位相進みを生じる(逆に言えば、可動シーブ20が固定シーブ16に対して回転位相遅れを生じる)。
【0045】
このときには、第2トルクカム機構92の第2出力側カム部材92Bが回転軸18に駆動連結されるので、固定シーブ16と一体回転する第2出力側カム部材92Bは、図示しないボールを介して第2駆動カム斜面92bと第2被駆動カム斜面91bとをスライドさせながら、固定シーブ16と一体回転する第1出力側カム部材92Bよりも先行するように相対回転しつつ、第2入力側カム部材92Aに対して軸方向に離隔するように(つまり、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92Bとの全長を拡大する方向に)移動して可動シーブ20を固定シーブ16に接近させる。この結果、セカンダリプーリ14のV溝の溝幅が狭まってセカンダリプーリ14の推力が強まるため、ベルト挟圧力が強まり、固定シーブ16の滑りが解消される。
【0046】
なお、車両の停止時等には、駆動トルクも制動トルクも作用しないため、トルクカム装置90によるプーリの推力は加えられない。本装置では、可動プーリ20を固定プーリ16に接近する方向に付勢するコイルスプリング22が装備されているので、この車両の発進時等の初期駆動時にも、ベルト滑りを防止してベルト26を確実にクランプすることができる。
【0047】
本実施形態にかかる無段変速機5は、上述のように構成されているので、トルクカム装置90を利用して、セカンダリプーリ14に推力を与えながら適宜の変速比で駆動トルクを伝達する。
【0048】
そして、本トルクカム装置90では、トルク伝達に寄与していないトルクカム機構において、出力側カム部材を遊星歯車機構のサンギヤに連結し、同遊星歯車機構のキャリアに常時連結された入力側カム部材に対して増速回転させるので、入力側カム部材と出力側カム部材との間のバックラッシの発生が抑制または解消される効果を得ることができる。
このため、例えば、車両の走行状態がドライブ走行からコースト走行に切り替わった場合では、切替機構80が第2出力側カム部材92Bを回転軸18に駆動連結して第2トルクカム機構をトルク伝達状態とするときに、第2入力側カム部材92Aと第2出力側カム部材92B間のバックラッシが抑制または解消されているので、切り替えに伴うトルクショックを抑制または防止できる。また、走行状態がコースト走行からドライブ走行に切り替わる場合でも、同様にトルクショックの抑制または防止が可能である。
【0049】
以上、実施形態について説明したが、本発明は各実施形態を適宜変形して実施することができる。
例えば上記実施形態では、セカンダリプーリ側に本トルクカム装置を装備しているが、プライマリプーリの側に本トルクカム装置を装備してもよい。
また、本発明のトルクカム装置及びこれを備えた無段変速機は、車両用の変速機として用いるのに適しているが、その他の種々の動力伝達系にも適用できる。