(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ヒレ部はスリーブ本体の内面の上端部から延び、切れ込みを備え、該切れ込みを除いてスリーブの開口横断面を実質的に閉塞することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の区画貫通構造。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第一実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1には、コンクリートにおける区画貫通孔の形成用にコンクリートの打設前に配置される、本発明の一実施形態のスリーブ10が示されている。スリーブ10はボイドとも称される。スリーブ10は中空略円筒形のスリーブ本体12と、スリーブ本体12の一端部に設けられた環状のフランジ部14と、スリーブ本体12の内面12a(本実施形態では内周面)の上端部から延びる環状の延出部としてのヒレ部18とを備えている。ヒレ部18は内部に開口部18aを有する。好ましくはヒレ部18は、後述するように、区画貫通孔16を通って1または複数の配管または配線5を施したときに、配管または配線5がヒレ部18を通過して、ヒレ部18に適合して接触できる程度の弾性を有する。内面12aに対するヒレ部18の延出角度は特に限定されないが、例えば略垂直である。
【0012】
スリーブ本体12は一枚の矩形のシート状部材から形成され、フランジ部14も一枚の環状のシート状部材から形成され、ヒレ部18も一つの環状部材から形成されている。フランジ部14は、スリーブ本体12からスリーブ本体12の軸方向Aの外方へ延びており、コンクリート3を敷設したときはコンクリート3の上に位置し、スリーブ10が建物の上下方向に配置されたときにはスリーブ10の床下への落下を防止するように作用する。
図2(a)に示すように、フランジ部14の幅Wはスリーブ本体12の厚みTよりも大きい。
【0013】
図1に戻り、スリーブ本体12の下端部には、スリーブ本体12を床下地1(
図2(a)参照)に固定するための環状の固定具20が装着される。固定具20は、スリーブ本体12の外径に適合した内径を有する金属製のリング22と、リング22上に離間配置された複数の(
図1では4つ)取付部24を有する。各取付部24はボルト28(
図2(a)参照)を通すための孔26を有する。
【0014】
本実施形態では、スリーブ本体12、フランジ部14、およびヒレ部18は同じ熱膨張性の耐火樹脂材料から一体成形されている。耐火樹脂材料は、樹脂成分に熱膨張性層状無機物と無機充填材とを含む樹脂組成物である。スリーブ10は、樹脂組成物の各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、遊星式撹拌機等公知の装置を用いて混練し、公知の成形方法で成形することにより得ることができる。
【0015】
樹脂成分としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイソブチレン等の合成樹脂類が挙げられる。
【0017】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等が挙げられる。
【0018】
ゴム物質としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム物質等が挙げられる。
【0019】
これらの合成樹脂類および/またはゴム物質は、一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0020】
これらの合成樹脂類および/またはゴム物質の中でも、柔軟でゴム的性質を持っているものが好ましい。この様な性質を持つものは無機充填材を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟で扱い易いものとなる。より柔軟で扱い易い樹脂組成物を得るためには、ブチル等の非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。代わりに、樹脂自体の難燃性を上げて防火性能を向上させるという観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
【0021】
熱膨張性層状無機物は加熱時に膨張するものであるが、かかる熱膨張性層状無機物に特に限定はなく、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等を挙げることができる。熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたものであり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物の一種である。
【0022】
上記のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等でさらに中和してもよい。熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより大きいと、黒鉛の膨張度が膨張断熱層が得るのに十分であり、また粒度が20メッシュより小さいと、樹脂に配合する際の分散性が良く、物性が良好である。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。
【0023】
無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては特に限定されず、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。
【0024】
また、無機充填剤としては、これらの他に、硫酸カルシウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーソナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム「MOS」(商品名)、チタン酸ジルコン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。これらの無機充填剤は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
無機充填剤の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。無機充填剤は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため、粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm以上であると、分散性が良好である。添加量が多いときは、高充填が進むにつれて、樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、粒径の大きいものが好ましいが、100μm以下の粒径が成形体の表面性、樹脂組成物の力学的物性の点で望ましい。
【0026】
無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウムでは、粒径18μmの「ハイジライトH−31」(昭和電工社製)、粒径25μmの「B325」(ALCOA社製)、炭酸カルシウムでは、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(備北粉化工業社製)、粒径8μmの「BF300」(備北粉化工業社製)等が挙げられる。
【0027】
さらに、熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物は、膨張断熱層の強度を増加させ防火性能を向上させるために、前記の各成分に加えて、さらにリン化合物を含んでもよい。リン化合物としては、特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、防火性能の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、および、下記化学式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、コスト等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0029】
化学式(1)中、R1およびR3は、水素、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、または、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状あるいは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、または、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0030】
赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。ポリリン酸アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取り扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。市販品としては、例えば、クラリアント社製「AP422」、「AP462」、Budenheim Iberica社製「FR CROS 484」、「FR CROS 487」等が挙げられる。
【0031】
化学式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。中でも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点において好ましい。前記のリン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記樹脂組成物は、前記熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂成分100重量部に対し、前記熱膨張性層状無機物を10〜350重量部および前記無機充填材を30〜400重量部の範囲で含むものが好ましい。
【0033】
また、前記熱膨張性層状無機物および前記無機充填材の合計は、樹脂成分100重量部に対し、50〜600重量部の範囲が好ましい。
【0034】
かかる樹脂組成物は加熱によって膨張し耐火断熱層を形成する。この配合によれば、前記熱膨張性耐火材は火災等の加熱によって膨張し、必要な体積膨張率を得ることができ、膨張後は所定の断熱性能を有すると共に所定の強度を有する残渣を形成することもでき、安定した防火性能を達成することができる。
【0035】
前記樹脂組成物における熱膨張性層状無機物および無機充填材の合計量は、50重量部以上では燃焼後の残渣量を満足して十分な耐火性能が得られ、600重量部以下であると機械的物性が維持される。
【0036】
さらに本発明に使用する前記樹脂組成物は、それぞれ本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤の他、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料、粘着付与樹脂、成型補助材等の添加剤、ポリブテン、石油樹脂等の粘着付与剤を含むことができる。
【0037】
熱膨張性耐火材は市販品として入手可能であり、例えば、住友スリ―エム社製のファイアバリア(クロロプレンゴムとバーミキュライトを含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:3倍、熱伝導率:0.20kcal/m・h・℃)、三井金属塗料社のメジヒカット(ポリウレタン樹脂と熱膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物からなる熱膨張性耐火材、膨張率:4倍、熱伝導率:0.21kcal/m・h・℃)、積水化学工業社製フィブロック等の熱膨張性耐火材等も挙げられる。
【0038】
前記熱膨張性耐火材は、火災時などの高温にさらされた際にその膨張層により断熱し、かつその膨張層の強度があるものであれば特に限定されないが、50kW/m2の加熱条件下で30分間加熱した後の体積膨張率が3〜50倍のものであれば好ましい。前記体積膨張率が3倍以上であると、膨張体積が前記樹脂成分の焼失部分を十分に埋めることができ、また50倍以下であると、膨張層の強度が維持され、火炎の貫通を防止する効果が保たれる。
【0039】
次に、
図2(a)〜(d)を参照しながら、スリーブ10を用いた区画貫通構造の施工方法について説明する。
【0040】
図2(a)に示すように、スリーブ10の下端部に固定具20を装着し、スリーブ10を床下地1に固定する。スリーブ10の床下地1への固定は、例えばボルト28を固定具20の取付部24の孔26を通って床下地1の中までねじ込むことによりなされる。
【0041】
次に、
図2(b)に示すように、コンクリートを床下地1へ流し込む。この図ではコンクリートの厚みすなわち高さHは、スリーブ本体12の下端13からフランジ部14の下面までの距離に等しい。このようにして、スリーブ10の内側の空洞を残し、スリーブ10の外側周囲にコンクリート3が打設され、区画貫通構造100が完成する。スリーブ10の内側の空洞は区画貫通孔16として作用する。
【0042】
次に、
図2(c)に示すように、コンクリート3を貫通するように、区画貫通孔16を通って1または複数の配管または配線5が施される。このとき、配管または配線5はヒレ部18の開口部18aを通過し、ヒレ部18はスリーブ10の配管または配線5と接触する。ヒレ部18は配管には、水道管、冷媒管、熱媒管、ガス管、吸排気管等の各種配管類が含まれる。配線には、電力用ケーブル、通信用ケーブル等の各種ケーブル類が含まれる。
【0043】
例えば
図2(c)において、区画貫通構造100の階下において矢印の方向から火災が発生した場合、
図2(d)に示すように、スリーブ10のスリーブ本体12、フランジ部14、およびヒレ部18が火災の熱により膨張し、スリーブ10と配管または配線5との間の隙間を埋め、火の進路を塞ぐ。ヒレ部18は配管または配線5と接触しているため、火の進路をより効果的に塞ぐ。このようにして、スリーブ10は、コンクリート3の打設を容易にするのみならず、耐火性を発揮し、区画貫通構造100に耐火性を付与する。このように、スリーブ10はコンクリートの養生後に引き抜く必要もなく、スリーブ10の設置と同時に耐火材が設置されていることを確認できる。
【0044】
ここまで、本発明を第一実施形態を例にとって説明してきたが、本発明はこれに限られず、以下のような種々の変形が可能である。
【0045】
・ヒレ部18は上記の第一実施形態の態様に限られず、別の態様であってもよい。
【0046】
例えば
図3(a)に示すように、ヒレ部18はスリーブ本体12の上端部からフランジ部14よりも上方に、フランジ14に対して90°<θ
1≦180°の角度をなし、スリーブ本体12に対して90°≦θ
2<180°の角度をなすように、配管または配線5の周囲を延びていてもよい。このとき、ヒレ部18の配管または配線5に対する位置が固定されるように、ヒレ部18と配管または配線5をひとまとめに固定する金属線などの固定具6が設けられてもよい。
【0047】
また、
図3(b)に示すように、ヒレ部18はガイド本体12に沿って互いに離間した複数個(図では4個)のヒレ部18が設けられてもよい。この場合、複数個のヒレ部18が配管または配線5の周囲を延び、かつ配管または配線5と接触するため、区画貫通孔16を通じた火の進入がより効果的に防止される。
【0048】
また、
図3(c)、(d)に示すように、スリーブ本体12がスリーブ本体12の内面12aから延びるヒレ部18に加えて、あるいは内面12aから延びるヒレ部18の代わりに、スリーブ本体12の外面12bから延びる1または複数のヒレ部18bを備えてもよい。外面12bに対する各ヒレ部18bの延出角度は特に限定されないが、例えば略垂直である。これらの実施形態においては、ヒレ部18bがコンクリート3内に埋設され、スリーブ10がコンクリート3に対し、より強固に固定される。
【0049】
また、
図3(e)、(f)に示すように、スリーブ本体12の内面12aおよび外面12bはスリーブ本体の長手方向軸に平行である場合に限られず、スリーブ本体12の厚みTがスリーブ本体12の長手方向に沿って変化し、内面12aまたは外面12bがスリーブ本体12の長手方向軸に対し傾斜していてもよい。この実施形態においては、スリーブ本体12がコンクリート3内に埋設され、スリーブ本体12の外面12bから延びるヒレ部18bの役割を兼ね備え得る。
【0050】
さらに、
図1、
図3(a)〜(f)の実施形態では、各ヒレ部18が配管または配線5の周囲に連続的に環状に延びているが、代わりにヒレ部18は配管または配線5の周囲に周方向に離間して複数個が配置されてもよい。
【0051】
・スリーブ本体12とフランジ部14には、
図1においてスリーブ10の長手方向に沿ってスリーブ10の上端から下端までを通る連続する切れ目17が設けられていてもよい。スリーブ10をブチルゴム等の弾性を有する樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成し、スリーブ10の長手方向に沿って延びる切れ目を設ければ、スリーブ10のコンクリート2からの着脱や、スリーブ10の配管または配線5からの着脱が容易となる。
【0052】
・スリーブ本体12とフランジ部14、スリーブ本体12とヒレ部18、およびフランジ部14とヒレ部18は、異なる熱膨張性の耐火樹脂材料から形成されてもよい。また、フランジ部14およびヒレ部18のうちの一方または両方が金属から形成されてもよい。このような場合でも、火災時には少なくともスリーブ本体12が膨張し、ヒレ部18が区画貫通孔16における火の通過を防ぐため、スリーブ10を通じた火の延焼が防止される。
・
図4(a)に示すように、第1実施形態のヒレ部18の代わりに、ヒレ部18はスリーブ10(スリーブ本体12)の内面12aの上端部から延び、中央に切れ込み18cを備え、切れ込み18cを除いてスリーブ10(スリーブ本体12)の開口横断面を実質的に閉塞する構成を有していてもよい。なお、実質的に閉塞するとは、スリーブ10(スリーブ本体12)の開口横断面の50%以上、好ましくは60%、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、最も好ましくは90%以上を閉塞することを指す。この別例では、ヒレ部18が切れ込み18cを除くスリーブ10の開口横断面を実質的に閉塞することで、区画貫通孔16のキャップとしても作用する。
【0053】
切れ込み18cは、この図では、スリーブ本体12の軸心から径方向外側に延び、ヒレ部18により配管または配線5を包囲することを支援するために設けられている。ヒレ部18とスリーブ10には、切れ込み18cの位置からヒレ部18を通過し、スリーブ10の長手方向に沿ってスリーブ10の上端から下端までを通る連続する切れ目17’も設けられている。この例では、ヒレ部18はスリーブ10(およびスリーブ本体12)とは異なる材料から形成されている。スリーブ10の材料は第1実施形態で説明したのと同一であってよく、例えば樹脂成分がブチルゴム樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェノール樹脂、ニトリルゴム樹脂等である、熱膨張性層状無機物、特には熱膨張性黒鉛を含む熱膨張性の耐火樹脂材料から形成される。ヒレ部18は成形性が良好な任意の材料から形成してもよく、例えば金属、陶器、プラスチック、紙等の成形品であってよい。好ましくは、樹脂成分がブチルゴム樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェノール樹脂、ニトリルゴム樹脂等である樹脂材料から形成される。より好ましくは、ヒレ部18はかかる樹脂成分に熱膨張性層状無機物と無機充填材とをさらに含む熱膨張性の耐火樹脂材料から形成される。一例として、ヒレ部18の樹脂成分としてブチルゴム樹脂を用いると、切れ込み18cに配管または配線5が通されたときに配管または配線5の形状に適合して変形する程度の弾性を有する。
【0054】
図4(b)に示すように、ヒレ部18はスリーブ本体12の上端部および下端部の少なくとも一方に配置されており(図では両方に配置)、切れ目17’および切れ込み18cを通ってヒレ部18が配管または配線5の周囲を覆うようにスリーブ10を床下地1に配置すると、ヒレ部18はスリーブ10の上下で区画貫通孔16へ異物が混入するのを防止すると共に、火災時には炎が進入するのを防止する。
・フランジ部14は省略してもよい。
・本発明の区画貫通構造100は、
図5(a),(b)に示すような、内部に開口部31を有する環状の蓋部材30をさらに備えていてもよい。蓋部材30は金属から形成されてもよいし、耐火性樹脂組成物の成形体であってもよい。また、美観を与えるように蓋部材30にはコーティング等の仕上層がさらに施されても良い。例えば蓋部材30は、スリーブ10を構成する耐火性樹脂組成物と同一のまたは異なる、弾性を有するブチルゴム等の樹脂成分を含む耐火性樹脂組成物から形成される。
図5(b)に示すように、蓋部材30は蓋本体32と、本体32よりも径が小さい脚部34とを有する。
【0055】
図6に示すように、蓋部材30はスリーブ10の一端部に取り付けられ、蓋部材30の開口部31に配管または配線5が収容され、蓋本体32がフランジ部14の上に配置され、脚部34がスリーブ10と配管または配線5の間に挟まれるように配置される。
図5(a)に示すように、蓋部材30は本体32と小さい脚部34とを通る切れ目33を有するため、切れ目33の両側で蓋部材30を把持して蓋部材30を拡径し、配管または配線5の周囲に巻き付けることにより、配管または配線5を区画貫通孔16に通して設置した後でもスリーブ10と配管または配線5の間に配置することができる。なお、切れ目33は省略してもよい。
【0056】
この実施形態では蓋部材30は、配管または配線5の外周面に接し、かつスリーブ10と配管または配線5との間の隙間の間を閉塞しているため、区画貫通構造100に耐火性がさらに付与されている。また、
図6の区画貫通構造100を上から見たときに、蓋部材30がフランジ部14の上をカバーして配管または配線5の周囲でスリーブ10と配管または配線5との間の隙間を塞いでいるため、フランジ部14および区画貫通孔16の中が見えず、視覚的にも美観が保たれる。
【0057】
なお、蓋部材30が脚部34を有するときは、脚部34の下方にヒレ部18が位置するため、
図3(b)の実施形態におけるようにヒレ部18をスリーブ本体12の上端部よりも下方に設ける必要があるが、蓋部材30が脚部34を有しない場合は
図1の実施形態のようなヒレ部18を設けることができる。
・固定具20の取付部24の数は4つに限定されず、スリーブ10を床下地1へ固定させるのに十分な任意の数であってもよい。
・固定具20を省略してもよい。
・スリーブ10の少なくともスリーブ本体12の外周に、補強用の金属板等をさらに施してもよい。このようにすることで、コンクリート3の打設時のスリーブ10(特にはスリーブ本体12)の変形を防いだり、火災時にスリーブ10が熱膨張してもスリーブ10の強度を補強することができる。
・スリーブ10および蓋部材30以外にも、耐火性を向上させるために、本発明の区画貫通構造には、任意の公知の耐火性充填材、耐火性樹脂組成物、耐火性シート、または耐火性金属板等をさらに用いてもよい。
・
図1〜5では、区画貫通孔16の断面が円形である場合を想定し、スリーブ10が断面円形である環状部材である実施形態を示しているが、スリーブ10の形状は、区画貫通孔16の形状に適合させればよく、例えば区画貫通孔16が断面矩形であれば、スリーブ10は断面矩形の環状部材となるよう形成してもよい。
【0058】
・本発明のスリーブは、床下地(相対的にコンクリート打設の床材となる階下の床のみならず、天井床も含む)のみならず、側壁などの壁下地にも適用可能である。