(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、本発明において、非導電性部材又は絶縁性部材とは、体積抵抗率が1MΩ・cm以上の部材を意味する。
また、本明細書の実施例以外の記載においては、特段の断りのない場合、単に「粉体塗料」とは、分極材料を除く粉体塗料を意味するものとし、分極材料を含有する場合には、「分極材料を内包する粉体塗料」、「
分極材料を担持する粉体塗料」、「非導電性部材用粉体塗料」又は「分極材料を含む粉体塗料」と記載する。
【0011】
本発明の非導電性部材用粉体塗料は、分極材料を内包、又は担持することを特徴とする。このような非導電性部材用粉体塗料では、非導電性部材にも直接、美粧用、耐久用又は防錆用等の良好な塗膜を塗装することができる。
なお、本明細書において、「分極材料を内包する」とは、分極材料を粉体塗料の少なくとも一部の構成成分と溶融混合等液状で混合して得られる状態をいい、分極材料の一部が粉体塗料表面に露出、又は粉体塗料表面から突出した状態のものも含まれる。
また、「分極材料を担持する」とは、粉体塗料の溶融工程を経ることなく、分極材料と混合した状態をいい、粉体塗料の表面に分極材料が被覆されているもの、粉体塗料粉末と分極材料粉末が混合しているものを含む。
以下に、本発明の粉体塗料の詳細について説明する。
【0012】
(1)分極材料
上述のとおり、本発明の非導電性部材用粉体塗料は、分極材料を内包、又は担持する。
本発明で用いられる分極材料は、特に限定されず、金属酸化物、金属硫化物、導電性高分子、及び炭素材料等を用いることができる。
金属酸化物としては、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化バナジウム、酸化ニッケル、酸化モリブデン等の他、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム等の複合金属酸化物を用いることができる。
金属硫化物としては、硫化モリブデン、硫化チタン、硫化バナジウム等が挙げられる。
導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリチエニレン及びその誘導体、ポリピリジンジイル及びその誘導体、ポリイソチアナフテニレン及びその誘導体、ポリフリレン及びその誘導体、ポリセレノフェン及びその誘導体、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリフリレンビニレン、ポリナフテニレンビニレン、ポリセレノフェンビニレン、ポリピリジンジイルビニレン等のポリアリーレンビニレン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、気相法黒鉛、フッ化黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノカーボン、カーボンブック、活性炭等の非晶質(微結晶)炭素等が挙げられる。
これらの中でも、グラファイト及びチタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウムが好ましい。
分極材料の比誘電率は、8以上が好ましく、10以上であることがさらに好ましい。また、分極材料の平均粒径は、0.02μm〜50μmが好ましく、1μm〜30μmがより好ましい。
【0013】
(2)粉体塗料
本発明の粉体塗料は、特に限定されず、塗装の用途等に応じて適宜選択される。具体的には、エポキシ系粉体塗料、ポリエステル系粉体塗料、アクリル系粉体塗料、エポキシ-ポリエステルのハイブリッド系粉体塗料等公知の粉体塗料が挙げられる。
本発明の分極材料を内包、又は担持する粉体塗料は、上記粉体塗料に、以下に示す方法で分極材料を添加することにより得られる。
【0014】
(3)分極材料の添加方法
本発明において、非導電性部材用粉体塗料の製造方法は特に限定されないが、分極材料の添加方法は、内添法と外添法の2つの方法に分けられる。以下にそれぞれについて説明する。
(a)内添法
エポキシ樹脂等の樹脂材料及び硬化触媒に、分極材料を加えて、溶融混練を行う。必要に応じて、充填剤や各種添加材を加えることもできる。溶融混練には、エクストルーダー等を用いることができる。溶融混練時の温度は、樹脂材料等にもよるが、90℃〜120℃の範囲とするのが好ましい。溶融混練時間は、10分以下が好ましく、5分以下がより好ましく、60秒以下がさらに好ましい。
上述のように全ての原料を一度に溶融混練することもできるが、予め、一部の原料を溶融混合することもできる。溶融混合には、ニーダー、プラネタリーミキサー等を用いることができる。
溶融混練した後、冷却固化し、得られた混合物を微粉砕して、分級することにより分極材料を内包する粉体塗料が得られる。
分極材料の含有量は、分極材料を含む粉体塗料の総質量の1%〜20%であることが好ましく、3%〜10%であることがより好ましい。
【0015】
(b)外添法
分極材料を加えない他は、上述の方法で作製した粉体塗料に分極材料を担持させる。担持方法としては、ドライブレンド法が挙げられる。この方法では、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、ナウターミキサー等を用いて、粉体塗料と分極材料を混合することにより分極材料を担持した粉体塗料を得ることができる。
また、分極材料を分散させた液中に粉体塗料を浸漬して混合撹拌した後、乾燥することによっても分極材料を担持する粉体塗料が得られる。
上記外添法の場合、分極材料の含有量は、分極材料を含む粉体塗料の総質量の0.1%〜10%であることが好ましく、1%〜5%であることがより好ましい。
【0016】
(4)粉体塗料の塗装方法
本発明の非導電性部材用粉体塗料の塗装方法は、特に限定されず、公知の塗装方法が適用できる。具体的には、摩擦荷電方式(トリボ式)や外部荷電方式(コロナ式)等の静電塗装等を用いることができる。
トリボ式静電塗装の場合には、プラスに帯電させた粉体塗料と分極した分極材を、被塗装面に付着させる。一方、コロナ式静電塗装の場合は、マイナスに帯電させた粉体塗料と分極した分極材を、被塗装面に付着させる。
なお、以下の記載において、単に「粉体塗料」とは、分極材料を除く粉体塗料をいい、例えば、分極材料を含有しないエポキシ系粉体塗料、ポリエステル系粉体塗料、アクリル系粉体塗料、エポキシ-ポリエステルのハイブリッド系粉体塗料等のことをいう。
トリボ式静電塗装においては、粉体塗料はプラスに帯電する。ここで、非導電性被塗装部材は、導電性部材を介して、接地されているため、被塗装面は弱いマイナスの電荷を帯びる。このような被塗装面に、プラスに帯電した粉体塗料が分極した分極材料を介して効果的に堆積することにより優れた付着性が実現される。
一方、コロナ式静電塗装においては、粉体塗料はマイナスに帯電する。ここで、非導電性被塗装部材は、導電性部材を介して、接地されているため、被塗装面は弱いプラスの電荷を帯びる。このような被塗装面に、マイナスに帯電した粉体塗料が分極した分極材料を介して効果的に堆積することにより優れた付着性が実現される。
上記方法により、被塗装部材表面に非導電性部材用粉体塗料を塗装した後、硬化することにより塗膜を得ることができる。硬化温度及び硬化時間は、特に限定されないが、150℃〜250℃で、10分〜2時間硬化するのが好ましい。必要に応じて被塗装部材に予め表面処理を施すことにより、塗膜の密着性等を向上させることもできる。
本発明の非導電性部材用粉体塗料から得られる塗膜の膜厚は特に限定されないが、10μm以上300μm以下が好ましい。
【0017】
本発明の非導電性部材用粉体塗料は、非導電性部材に効果的に塗装することができるため、各種プラスチック部材、ガラス部材、セラミックス部材、又はそれらの複合材料等の塗装に効果的に用いることができる。具体的には、携帯機器の筐体の他、基板、コンデンサー等の電子・電気機器用部材、バンパー、ドアミラーカバー等の自動車用部材等が挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、特に記載がない場合には、「%」及び「部」は質量%及び質量部を示す。また、以下の実施例の記載においては、「粉体塗料」とは、各実施例及び比較例に記載の方法で作製された粉体塗料をさし、分極材料を含むものも分極材料を含まないものも包含するものとする。
【0019】
(実施例1)
表1に示す質量比で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、2,4―ジアミノ―6―[2― (2―メチル―1―イミダゾリル)エチル] ―1,3,5―トリアジン及び鱗状黒鉛(グラファイト)粉末(比誘電率12〜13)を配合し、エクストルーダーにより100℃〜150℃で溶融混練した。このときの混練時間は、30秒以下であった。混合物を冷却固化した後、微粉砕することにより鱗状黒鉛粉末を内包する粉体塗料を得た。この粉体塗料をトリボ帯電式静電塗装ガン(旭サナック株式会社製)を用いて、冷間圧延鋼板(SPCC)に貼り付けた石膏ボードに塗装した(電圧:成り行き)。塗装時間は、10秒とした。その後、得られた塗膜を190℃で20分硬化した。
以下に示す方法で、塗装後の実施例1の粉体塗料の付着状態を評価した結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
(実施例2)
表1に示す質量比で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と2,4―ジアミノ―6―[2― (2―メチル―1―イミダゾリル)エチル] ―1,3,5―トリアジンを配合し、エクストルーダーにより100℃〜150℃で溶融混練した。このときの混練時間は、30秒以下であった。混合物を冷却固化した後、微粉砕することにより粉体塗料を得た。粉体塗料と鱗状黒鉛粉末(比誘電率12〜13)を表1に示す比で配合して、5分間ドライブレンドした。トリボ帯電式静電塗装ガンを用いて、得られた鱗状黒鉛粉末を担持する粉体塗料を、冷間圧延鋼板(SPCC)に貼り付けた石膏ボードに塗装した。塗装時間は、10秒とした。その後、190℃で20分硬化して塗膜を得た。
以下に示す方法で、塗装後の実施例2の粉体塗料の付着状態を評価した結果を表1に示す。
【0022】
(比較例1)
表1に示す配合比(質量)で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及び2,4―ジアミノ―6―[2― (2―メチル―1―イミダゾリル)エチル] ―1,3,5―トリアジンを配合し、エクストルーダーにより100℃〜150℃で溶融混練した。このときの混練時間は、30秒以下であった。混合物を冷却固化した後、微粉砕することにより粉体塗料を得た。この粉体塗料をトリボ帯電式静電塗装ガンを用いて、冷間圧延鋼板(SPCC)に貼り付けた石膏ボードに塗装した。塗装時間は、10秒とした。その後、190℃で20分硬化して塗膜を得た。
以下に示す方法で、塗装後の比較例1の粉体塗料の付着状態を評価した結果を表1に示す。
【0023】
(実施例3)
表2に示す質量比で、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と2,4―ジアミノ―6―[2― (2―メチル―1―イミダゾリル)エチル] ―1,3,5―トリアジンを配合し、エクストルーダーにより100℃〜150℃で溶融混練した。このときの混練時間は、30秒以下であった。混合物を冷却固化した後、微粉砕することにより粉体塗料を得た。粉体塗料とカーボンブラック(比誘電率8〜12)を表2に示す比で配合して、5分間ドライブレンドした。得られたカーボンブラックを担持する粉体塗料をトリボ帯電式静電塗装ガンを用いて、冷間圧延鋼板(SPCC)に貼り付けた石膏ボードに塗装した。塗装時間は、10秒とした。その後、190℃で20分硬化して塗膜を得た。
以下に示す方法で、塗装後の実施例3の粉体塗料の付着状態を評価した結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
(実施例4)
鱗状黒鉛粉末に変えて、チタン酸バリウム(比誘電率1200)を用いた他は、実施例2と同様に、チタン酸バリウムを担持する粉体塗料を作製して、塗装した。以下に示す方法で、塗装後の実施例4の粉体塗料の付着状態を評価した結果を表2に示す。
【0026】
(比較例2)
鱗状黒鉛粉末に変えて、ジメチルシリコーン処理ヒュームドシリカ(比誘電率2.0〜2.7)を用いた他は、実施例2と同様に、ジメチルシリコーン処理ヒュームドシリカを担持する粉体塗料を作製して、塗装した。以下に示す方法で、塗装後の比較例2の粉体塗料の付着状態を評価した結果を表2に示す。
【0027】
(比較例3)
鱗状黒鉛粉末に変えて、アクリル粒子(比誘電率2.7〜4.5)を用いた他は、実施例2と同様に、アクリル粒子を担持する粉体塗料を作製して、塗装した。以下に示す方法で、塗装後の比較例3の粉体塗料の付着状態を評価した結果を表2に示す。
【0028】
(粉体塗料の付着状態の評価)
上述のとおり、トリボ帯電式静電塗装ガンを用いて実施例及び比較例の粉体塗料を石膏ボードに塗装した後、塗装面を目視で観察して、粉体塗料の付着状態を評価した。評価結果は、以下の3段階で表す。
◎:塗装面の全域にわたり、所定の厚みで粉体塗料の付着が認められる
○:塗装面の30%以上の領域で粉体塗料の付着が認められる。
×:塗装面の30%未満の領域で粉体塗料の付着が認められる、又は粉体塗料の付着が認められない
【0029】
表1に示すように、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と2,4―ジアミノ―6―[2― (2―メチル―1―イミダゾリル)エチル] ―1,3,5―トリアジンから得られた比較例1では、トリボ帯電式静電塗装による粉体塗料の付着はほとんど認められなかった。これに対して、鱗状黒鉛粉末をビスフェノールA型エポキシ樹脂及び2,4―ジアミノ―6―[2― (2―メチル―1―イミダゾリル)エチル] ―1,3,5―トリアジンとともに溶融混練して得られた実施例1、及び鱗状黒鉛粉末を比較例1の粉体塗料とドライブレンドして得られた実施例2では、塗装面全体に十分な厚さの粉体塗料が付着することがわかった。
以上の結果より、鱗状黒鉛粉末を内包した粉体塗料、又は鱗状黒鉛粉末を担持した粉体塗料では、非導電性部材にも効率的に静電塗装ができることがわかった。
【0030】
表2に示すように、ジメチルシリコーン処理ヒュームドシリカを担持した比較例2及びアクリル粒子を担持した比較例3では、トリボ帯電式静電塗装による粉体塗料の付着はほとんど認められなかった。これに対して、カーボンブラックを担持した実施例3では、粉体塗料の付着が認められた。さらに、チタン酸バリウムを担持した実施例4では、鱗状黒鉛粉末を担持した実施例2と同様、塗装面全体に十分な厚さの粉体塗料が付着することがわかった。
以上の結果より、比誘電率の低い分極しない粉末を担持した粉体塗料では、非導電性部材に塗装することはできないが、比誘電率の高い分極材料の粉末を担持した粉体塗料では、静電塗装により、非導電性部材に効果的に塗装できることが確認された。分極材料の比誘電率は、8以上であることが好ましいと考えられる。
なお、鱗状黒鉛粉末以外の比誘電率の高い分極材料を内包した粉体塗料でも同様に、良好な付着性が得られることが確認されている。