特許第6791657号(P6791657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791657
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】自動操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20201116BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   A01B69/00 303M
   A01C11/02 331B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-117643(P2016-117643)
(22)【出願日】2016年6月14日
(65)【公開番号】特開2017-221124(P2017-221124A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078031
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 皓一
(74)【代理人】
【識別番号】100077779
【弁理士】
【氏名又は名称】牧 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 高史
(73)【特許権者】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078031
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 皓一
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 高史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊織
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏臣
(72)【発明者】
【氏名】岡村 信行
(72)【発明者】
【氏名】船山 正行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】西風 聖也
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−180894(JP,A)
【文献】 特開2000−300010(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/119266(WO,A1)
【文献】 特開2016−011024(JP,A)
【文献】 特開2010−029134(JP,A)
【文献】 特開平06−181601(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0131152(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104603708(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関による原動部(20)と、操作に応じて走行方向を調節する操舵装置(34)と、この操舵装置(34)を直進制御によって直進固定する制御装置(100)とを備えて直進作業走行が可能な自動操舵制御装置において、前記制御装置(100)は、前記原動部(20)の検出回転速度が所定値以下の場合、操舵装置(34)に受ける外力が急変した場合、またはフロントタイヤに急に左右方向の外力が掛かった場合を中断事由としてこの中断事由の解消までの範囲で前記直進制御を停止するとともに、自動ブレーキ(23)の作動によって機体走行を停止し、さらに、中断事由が所定時間内に解消しない場合には、前記原動部(20)を停止することを特徴とする自動操舵制御装置
【請求項2】
前記制御装置(100)は、機体ローリングセンサ(21)による検出角度が所定値以上の場合を前記中断事由に加えることによって前記直進制御を停止することを特徴とする請求項1に記載の自動操舵制御装置
【請求項3】
前記制御装置(100)は、機体に備えたGPS位置センサ(22)による検出位置による進行方向が機体正面方向から外れている場合、または、GPS受信波が停止した場合を前記中断事由に加えて前記直進制御を停止することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動操舵制御装置
【請求項4】
前記制御装置(100)は、前記直進制御の停止とともにスロットル(20a)の調節によって前記原動部(20)の回転上昇を抑えるスロットル規制制御を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動操舵制御装置
【請求項5】
前記制御装置(100)は、前記直進制御の停止時に、スロットル(20a)の調節によって前記原動部(20)をアイドリング回転に下げるアイドリング制御を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の自動操舵制御装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場における直進作業走行のための直進制御機構を備える自動操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のように、圃場で苗の植付け等の作業を行う際に用いる苗移植機等の作業車両には、操舵部材を直進位置に保持して自動直進走行を行ない、さらに加えて自動操舵装置を設けることにより、機体が傾斜した場合にあっても、自動的に進行方向を修正して直進作業走行を続行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−74815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記作業車両は、自動操舵によって直進走行が確保されつつも、圃場の凹凸等によって操舵装置その他に異常負荷を受けた場合は、走行伝動系や操舵系の機器の損傷を招くことがあり、安全性が低下する問題があった。
【0005】
本発明の目的は、自動直進制御による直進作業走行の際に発生する異常に対処して安全を確保しうる自動操舵制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、内燃機関による原動部(20)と、操作に応じて走行方向を調節する操舵装置(34)と、この操舵装置(34)を直進制御によって直進固定する制御装置(100)とを備えて直進作業走行が可能な自動操舵制御装置において、前記制御装置(100)は、前記原動部(20)の検出回転速度が所定値以下の場合、操舵装置(34)に受ける外力が急変した場合、またはフロントタイヤに急に左右方向の外力が掛かった場合を中断事由としてこの中断事由の解消までの範囲で前記直進制御を停止するとともに、自動ブレーキ(23)の作動によって機体走行を停止し、さらに、中断事由が所定時間内に解消しない場合には、前記原動部(20)を停止することを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記制御装置(100)は、機体ローリングセンサ(21)による検出角度が所定値以上の場合を前記中断事由に加えることによって前記直進制御を停止することを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記制御装置(100)は、機体に備えたGPS位置センサ(22)による検出位置による進行方向が機体正面方向から外れている場合、または、GPS受信波が停止した場合を前記中断事由に加えて前記直進制御を停止することを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、前記制御装置(100)は、前記直進制御の停止とともにスロットル(20a)の調節によって前記原動部(20)の回転上昇を抑えるスロットル規制制御を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明において、前記制御装置(100)は、前記直進制御の停止時に、スロットル(20a)の調節によって前記原動部(20)をアイドリング回転に下げるアイドリング制御を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明により、直進制御によって操舵装置が直進固定されることにより、操舵操作なしに圃場における直進作業走行が可能となり、この場合において、原動部に受ける負荷によって内燃機関の回転速度が所定値以下の場合、操舵装置(34)に受ける外力が急変した場合、またはフロントタイヤに急に左右方向の外力が掛かった場合を中断事由としてその解消までの範囲で直進制御が停止されることから、直進走行に伴う原動部負荷が軽減され、走行路盤の部分的な窪み等の圃場の急激な変化に基づく過大な負荷による機器の損傷を回避することができ、さらに、直進作業走行の安全を図ることができる。
また、直進制御の停止とともに、自動ブレーキ(23)の作動によって機体走行が停止されることから、安全性を確保することができる。
さらに、中断事由の解消時には、直進制御の再開によって直進作業走行を安定して続行することができる。
また、中断事由が所定時間内に解消しなかった場合に限り、制御装置(100)は、原動部(20)を停止する制御を行うから、安全性を確保することができるとともに、原動部(20)の再起動操作の多用を抑えることができる。
【0013】
請求項2に係る発明により、請求項1に係る発明の効果に加え、直進制御下において、機体ローリング傾斜が所定角度以上の場合を中断事由に加えて直進制御を停止することにより、直進走行に伴うローリング傾斜による機体の不安定化を回避することができ、また、機体ローリングの水平回復を含む全中断事由の解消に伴う直進制御の再開により、直進作業走行を安定して続行することができる。
【0014】
請求項3に係る発明により、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加え、直進制御下において、機体が正面方向に対して傾斜するスリップ(ドリフト)によって機体に掛かっている負荷が、直進制御の停止によって軽減されるので、機器破損の防止、危険回避が可能となり、また、GPS電波の途絶による直進制御の停止により、GPS(22)の誤検知が防止されて安全性が確保され、また、走行方向の回復、GPS電波の回復を含む全中断事由の解消に伴う直進制御の再開によって直進作業走行を安定して続行することができる。
【0015】
請求項4に係る発明により、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、直進制御の停止に伴うスロットル規制制御により、アクセル操作やHSTレバー操作があっても原動部(20)の回転数及び車速の上昇が抑えられて危険回避に繋げることができる。
【0017】
請求項に係る発明により、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、前記直進制御の停止時のアイドリング制御によって原動部(20)の回転がアイドリングまで下がることにより、機体の走行車速が低下して安全性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】直進制御の入出力ブロック図
図2】油圧系統図
図3】自立直進安全制御のフローチャート
図4】下降前(a)と下降後(b)の植付部の動作背面図
図5】本発明の適用対象の乗用型苗移植機の側面図
図6】本発明の適用対象の乗用型苗移植機の平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。なお、説明においては、機体の前進方向Fを基準に、前後、左右と云う。
【0020】
本発明の適用対象となる作業車両である苗移植機1は、図5図6の側面図および平面図によって後に詳述するように、内燃機関による原動部20と、この原動部20から走行動力を受けて機体を作業走行可能に支持する走行輪10,11と、原動部20から操舵操作に応じた補助動力を受けて走行輪10を転舵する操舵部34と、作業装置である苗植付部4と、各種機器を制御する制御装置100等を備えて構成され、この制御装置100に直進制御の安全な適用を可能とする自立直進安全制御を設ける。
【0021】
すなわち、自立直進安全制御は、操舵部34を直進固定する直進制御について異常対応制御を設け、直進制御に伴う過大な負荷等を軽減することにより、直進制御の安全な適用を可能とする。
【0022】
(システム構成)
図1は、自立直進安全制御のシステム構成ブロック図である。
自立直進安全制御システムは、エンジン回転計20b、ローリングセンサ21、GPS位置センサ22の各検出信号を制御装置100に入力し、これらの検出値に応じて、操舵部34の直進制御のオン・オフ切換え、スロットル制御によるエンジン出力調節、自動ブレーキ23の制御による走行調節を可能に構成する。
【0023】
操舵部34は、油圧系統図を図2に示すように、操舵操作に応じて補助動力を供給するトルクジェネレータ82を備え、このトルクジェネレータ82は、オイルポンプ86によって供給されるミッションケース12内の作動油をアシスト切替弁84によって供給可能に構成することにより、補助動力が操舵部34の操作力を補って走行輪10を転舵可能に構成する。
【0024】
直進制御は、操舵部34が直進位置の時にアシスト切替弁84を切換え、トルクジェネレータ82の作動油を遮断するとともに、植付部4を昇降調節する電子油圧バルブ83および車速調節する静油圧式無段変速機23に作動油を直接供給するように構成する。この直進制御により、操舵部34が直進位置で強制固定されるので、操舵操作を要することなく直進作業走行が可能となる。
【0025】
また、直進作業走行時の異常発生に対処し、例えば、過大な負荷によるエンジン回転の低下、走行路盤の部分的な凹凸による機体の左右傾斜、横滑りスリップ(ドリフト)等の異常に伴う走行支持機構10,11から操舵機構34、および原動部20に及ぶ関係機器の破損を回避して安全を確保するために、異常対応処理を設ける。
【0026】
(自立直進安全制御)
具体的には、自立直進安全制御のフローチャートを図3に示すように、直進制御の選択による第一の処理ステップ(以下において、「S1」の如く略記する。)でGPS位置センサ22によって機体位置を検出し、設定方向への機体移動による直進走行の確認(S1a)によって操舵部34が固定されて直進制御が開始(S2)される。
【0027】
続いて、機体情報として、エンジン回転計20bによる原動部回転速度、機体のローリング傾斜角、GPS位置情報による進行方向についての判定(S3,S3a)によって異常に該当すると、すなわち、原動部回転速度の低下、ローリング傾斜、GPS電波、機体の移動方向のいずれかについての異常の場合を中断事由としてアシスト切替弁84により直進制御を停止(S4)する。
【0028】
この時、直進制御の停止とともに、異常対応処理(S4a,S4b)として、アクセル操作やHSTレバー操作があってもレバーを中立に戻し、または、レバー操作を無効にすることにより、原動部20の回転上昇及び車速上昇を抑えるように、スロットル規制制御を設け、また、安全確保のために、原動部20をアイドリング回転まで下げるアイドリング制御を設け、また、必要により、自動ブレーキ23を作動して機体走行を停止するとともに原動部20を停止する機体停止制御を選択可能に設ける。なお、原動部20の停止は、中断事由が所定時間内に解消しなかった場合に限定することにより、再起動操作の多用を抑えることができる。
【0029】
また、直進制御の停止以降は、機体情報の検出(S5)によって中断事由の有無判定(S5a)を継続し、すべての中断事由が解消した時点で直進制御を再開(S6)する制御処理を設けることにより、直進作業走行の再開までの操作性を向上することができる。
【0030】
また、中断事由として、機体角度が例えば、5度以上に急変した場合、ステアリングに受ける外力が急変した場合、ステアリングのタイヤ側が急に一定角度以上回った場合、フロントタイヤに急に左右方向の外力が掛かった場合を含めることにより、直進作業走行の安全を図ることができる。
【0031】
(植付部接地制御)
次に、植付部の昇降による接地制御について説明する。
図4は、植付部4の降下前(a)と降下後(b)の背面図である。
植付部4は、中央配置のセンターフロート55と、その両側部に配置のサイドフロート56,56とを備えて昇降可能に構成され、植付部4を下降する過程において、センターフロート55に接地検出と対応して上昇に切換えるように接地センサ55aを設けることにより、植付部4が圃場の凹凸に追従して保持されるので、植付け深さを確保することができる。
【0032】
この場合、植付部4を下降する過程で、異物Hが植付部4の側端部に接触した場合は、センターフロート55の接地センサ55aが異物Hを検出することなく植付部4が下降して植付部4の機器破損を招くこととなるので、接地センサ55aに加えてローリング傾斜センサ55bをセンターフロート55に設け、センターフロート55の傾斜検出と対応して植付部4の下降を上昇に切換えるように構成することにより、接地センサ55aを全フロート55,56,56に付設することなく、植付部4の全幅内で異物Hとの接触に対応して植付部4の機器破損を防止することができ、また、傾斜検出時に警報音を付帯することによって異物対応を報知することができる。
【0033】
(適用対象の作業車両)
次に、本発明の適用対象の作業車両である乗用型苗移植機について、関連機器を中心に説明する。
乗用型苗移植機1は、図5及び図6の側面図及び平面図に示すように、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して作業装置である苗植付部(以下、作業装置ということがある)4が昇降可能に装着されている。
【0034】
この乗用型苗移植機1は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸(図示せず)に左右前輪10,10が各々取り付けられている。
【0035】
また、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
さらに、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸(図示せず)を支点にして後輪伝動ケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪伝動ケース18,18から外向きに突出する後輪車軸(図示せず)に後輪11,11が取り付けられている。
【0036】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、静油圧式無段変速装置(HST)23などを介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ミッションケース12内の主変速装置及び副変速装置により変速された後、走行動力と外部取り出し軸に分離して取り出される。
【0037】
エンジン20からHST23を介して伝達される走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13を経て前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪伝動ケース18,18を経て後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース(図示せず)に伝達され、それから植付伝動軸26によって苗植付部4へ伝動される。
【0038】
エンジン20の上部には操縦席31が設置された操縦部33があり、該操縦部33にはHST23を操作して走行車体2の前後進、停止及び走行速度を変速する走行操作レバー(HST操作レバー)17と走行車体2の走行速度をチェンジにより複数段に変速するための副変速レバー16が配置されている。
【0039】
またフロアステップ35上には走行クラッチペダル91を備え、該走行クラッチペダル91を踏み込み操作してサイドクラッチ(図示省略)を連結状態にし、その後で走行操作レバー17の前進側又は後進側への操作を行うことによって、車体2を移動させることができる。
【0040】
操縦席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。フロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。フロアステップ35は多数の穴が設けられており(図6参照)、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35上の後部は、後輪フェンダを兼ねるリアステップ36となっている。
【0041】
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗枠38(予備苗載せ台38a,38b,38c,38d)を設けても良い。予備苗枠38は機体に支持された支持枠体49に第3予備苗載台38cと第2、第3移動リンク部材39b,39cを取り付け、第2、第3移動リンク部材39b,39cで第2予備苗載台38bを支持し、さらに第1、第2移動リンク部材39a,39bと第2予備苗載台38bで第1予備苗載台38aを支持している。第1、第2、第3移動リンク部材39a,39b,39cは支持枠体49に取り付けられた第2移動リンク部材39bの回動中心軸に設けられた図示しないモータからなる回動機構(切替駆動装置)70で回動して、第1予備苗載台38a、第2予備苗載台38b、第3予備苗載台38cを前後ほぼ同一平面状に展開する展開状態と上下に段状に配置される積層状態に変更することができる。
【0042】
また、苗植付部4の昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、その端部側に縦リンク43が連結されている。
【0043】
そして、前記リンクベースフレーム42の下方に走行車体側の第1ローリング回動軸44を設け、前記縦リンク43に苗植付部側の第2ローリング回動軸44bを設け、該第1及び第2ローリング回動軸44、44bを連結軸44cで連結し、該連結軸44cを回転自在に挿入する第2ローリング軸44bを中心として苗植付部4をローリング自在に装着している。
【0044】
メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に昇降用油圧シリンダ46が設けられており、該シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0045】
また、苗載せ台51は苗植付部4の全体を支持する左右方向と上下方向に幅一杯の矩形の支持枠体65bと支持ローラ65aからなる枠体構造物65をレール状にして左右方向にスライドする構成である。
【0046】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース50、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分ずつ各条の苗取出口51a,…に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a,…に供給すると苗送りベルト51b,…により苗を下方に移送する苗載台51、苗取出口51a,…に供給された苗を圃場に植え付ける苗植付爪52aを備えた苗植付装置52,…、次工程における機体の進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ184等を備えている。
【0047】
なお、機体の前部左右両側には、隣接条に植え付けられた苗の上方に位置し続け、作業者が機体を走行させる目安とする左右一対のサイドマーカ115,115を備えている。前記線引きマーカ184,184は圃場面を削って直進走行の目安となる線を形成するものであるが、土質が柔らかいと、溝が時間の経過によって自然に埋まったり、線引きマーカ184,184が巻き上げた泥で溝が見えなくなったりすることがある。このときは、サイドマーカ115,115と既に植えた隣接条の苗を合わせながら走行すると、隣接条の苗の植え付けにあわせた苗の植え付けが可能となるので、苗の植え付け方向が乱れることがなく、植付精度が向上する。
【0048】
また、苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。
これらフロート55,56,56を、圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55,56,56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52,…により苗が植え付けられる。各フロート55,56,56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動がフロート傾斜角センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じ前記昇降用油圧シリンダ46を制御する電子油圧バルブ83を切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0049】
苗植付部4には整地装置の一例であるロータ27(27a,27b)が取り付けられている。整地ロータ27a,27bの後ろ上方には、ロータカバー28を設け、フロート55,56上に泥がかからないようにしている。
【0050】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61,…によって一定量ずつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62,…でフロート55,56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず),…まで導き、施肥ガイド,…の前側に設けた作溝体64(図5),…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62に吹き込まれ、施肥ホース62内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0051】
操縦席31の前方下部に設けられた副変速レバー16はレバーガイド(図示せず)に沿って回動操作することにより、図示しない副変速装置が「路上走行速」、「中立」、「植付速」のいずれかに手動で切り換わるように構成されている。そして、副変速レバー16の基部側に設けた副変速レバーセンサ(レバー16の操作角度を検出するポテンショメータ87など)(図示せず)によって副変速レバー16の操作位置を検出することができる。
【0052】
(技術的ポイント)
上記作業車両について、その技術的ポイントについてまとめると、次のとおりである。
原動部20の検出回転速度が所定値以下の場合を中断事由としてこの中断事由の解消までの範囲で直進制御を停止することにより、直進走行に伴う原動部負荷が軽減され、走行路盤の部分的な窪み等の圃場の急激な変化に基づく過大な負荷による機器の損傷を回避することができ、内燃機関回転の回復時は、中断事由の解消による直進制御の再開によって直進作業走行を安定して続行することができる。
【0053】
また、機体ローリングセンサ21による検出角度が所定値以上の場合を中断事由に加えることによって直進制御を停止することにより、直進走行に伴うローリング傾斜による機体の不安定化を回避することができ、機体ローリングの水平回復を含む全中断事由の解消に伴う直進制御の再開によって直進作業走行を安定して続行することができる。
【0054】
また、機体に備えたGPS位置センサ22による検出位置による進行方向が機体正面方向から外れている場合、または、GPS受信波が停止した場合を中断事由に加えて直進制御を停止することにより、直進制御下において機体が正面方向に対して傾斜するスリップ(ドリフト)によって機体に掛かっている負荷が軽減されるので、破損の防止、危険回避が可能となり、また、GPS電波の途絶による直進制御の停止により、GPSの誤検知が防止されて安全性が確保され、走行方向の回復、GPS電波の回復を含む全中断事由の解消に伴う直進制御の再開によって直進作業走行を安定して続行することができる。
【0055】
また、直進制御の停止とともにスロットル20aの調節によって原動部20の回転上昇を抑えるスロットル規制制御により、アクセル操作やHSTレバー操作があっても内燃機関回転数及び車速の上昇が抑えられて危険回避に繋げることができる。
【0056】
また、直進制御の停止時の機体停止制御により、直進制御の停止とともに、自動ブレーキ23の作動によって機体走行を停止し、および原動部20を停止することで安全性を確保することができる。
【0057】
また、直進制御の停止時のアイドリング制御によって原動部20がアイドリング回転に下がることにより、機体の走行車速が低下して安全性が向上する。
【符号の説明】
【0058】
1 作業車両(乗用型苗移植機)
20 原動部(内燃機関)
20a スロットル
21 ローリングセンサ
22 GPS位置センサ
23 自動ブレーキ
34 操舵装置
100 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6