特許第6791659号(P6791659)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791659
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】生体電位測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/05 20060101AFI20201116BHJP
   A61B 5/04 20060101ALI20201116BHJP
   A61B 5/0402 20060101ALI20201116BHJP
   A61B 5/0488 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   A61B5/05 N
   A61B5/04 A
   A61B5/04 310A
   A61B5/04 330
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-120196(P2016-120196)
(22)【出願日】2016年6月16日
(65)【公開番号】特開2017-221515(P2017-221515A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 允
(72)【発明者】
【氏名】前田 俊樹
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭48−065786(JP,A)
【文献】 米国特許第7424322(US,B2)
【文献】 特開昭51−094893(JP,A)
【文献】 実開平01−178004(JP,U)
【文献】 米国特許第5018523(US,A)
【文献】 米国特許第6473649(US,B1)
【文献】 米国特許第5941903(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/04−5/053
A61N 1/00−1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する第一増幅回路と、
少なくとも前記刺激が印加されている間、前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除する第一スイッチと、
コンデンサを含み、前記第一増幅回路の出力における所定値以上の周波数成分を通過させるハイパスフィルタと、
前記第一増幅回路からの出力を増幅する第二増幅回路と、
少なくとも前記第一スイッチが前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除している間、前記コンデンサの充放電を停止させるとともに前記第二増幅回路の利得を低減する第二スイッチと、
を備えている、
生体電位測定装置。
【請求項2】
記ハイパスフィルタに含まれる抵抗素子の両端と並列に接続された第三スイッチを備えており
前記第三スイッチは、前記刺激の印加後に閉じられることにより、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を高くする、
請求項1に記載の生体電位測定装置。
【請求項3】
前記第三スイッチは、前記第一スイッチが前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を復帰させた後に閉じられることにより、前記カットオフ周波数を高くする、
請求項2に記載の生体電位測定装置。
【請求項4】
前記第三スイッチは、前記第二スイッチが前記コンデンサの充放電の停止と前記第二増幅回路の利得低減を解除した時点以降に閉じられることにより、前記カットオフ周波数を高くする、
請求項2または3に記載の生体電位測定装置。
【請求項5】
前記第三スイッチは、前記第一導出電極と前記第二導出電極の間に前記刺激によって誘発された反応波形が現れる前に開かれることにより、前記カットオフ周波数を元に戻す、
請求項2から4のいずれか一項に記載の生体電位測定装置。
【請求項6】
前記コンデンサは、前記第二増幅回路のフィードバックループ中に含まれている、
請求項1から5のいずれか一項に記載の生体電位測定装置。
【請求項7】
前記第一スイッチは、負論理のフォトMOSリレーであり、
前記第二スイッチは、正論理のSPSTアナログスイッチである、
請求項1から6のいずれか一項に記載の生体電位測定装置。
【請求項8】
前記第三スイッチは、正論理のSPSTアナログスイッチである、
請求項2に記載の生体電位測定装置。
【請求項9】
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する第一増幅回路と、
少なくとも前記刺激が印加されている間、前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除する第一スイッチと、
前記第一増幅回路からの出力を増幅する帰還増幅器を含む第二増幅回路と、
少なくとも前記第一スイッチが前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除している間、前記帰還増幅器の帰還経路の抵抗値を低下させることにより前記第二増幅回路の利得を低減する第二スイッチと、
を備えている、
生体電位測定装置。
【請求項10】
前記帰還増幅器の出力が入力されるコンデンサを含み、前記第一増幅回路の出力における所定値以上の周波数成分を通過させるハイパスフィルタを備えており、
前記第二増幅回路の利得が低減されることにより、前記コンデンサへの充放電が停止する、
請求項9に記載の生体電位測定装置。
【請求項11】
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する増幅回路と、
コンデンサと抵抗素子を含み、前記増幅回路の出力における所定値以上の周波数成分を通過させるハイパスフィルタと、
前記抵抗素子の両端と並列に接続されたスイッチと、
を備えており
前記スイッチは、前記刺激の印加後に閉じられることにより、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を高くする、
生体電位測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電位測定装置に関し、特に刺激によって生体に誘発される反応として導出電極間に現れる電位差を測定する装置(いわゆる誘発電位測定装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの刺激によって筋や神経の反応を誘発する検査として、運動誘発電位検査(motor-evoked potentials; MEP)、体性感覚誘発電位検査(somatosensory-evoked potentials; SEP)、神経伝導検査(nerve conduction studies; NCS)などが知られている。検査に際しては、一対の導出電極が生体に装着される。反応を誘発するための刺激としては、磁気刺激や電気刺激が用いられる。刺激により誘発された反応は、一対の導出電極間に現れる電位差の経時変化に対応する反応波形として記録される。刺激印加から反応波形が現れるまでの時間(潜時)や反応波形の振幅が、検査の指標として使用される。
【0003】
図3の(A)は、導出電極間に現れる電位差の経時変化(導出波形)の一例を示している。横軸は時間を示しており、縦軸は振幅を示している。横軸におけるゼロは、刺激が印加された時点を表している。符号RWは、刺激により誘発された反応波形を表している。同図より明らかなように、刺激のタイミングに同期した刺激アーチファクトAが導出波形に重畳する。
【0004】
非特許文献1によれば、電気刺激による刺激アーチファクトAは、アーチファクトスパイクAS、前期アーチファクトテール(fast artifact tail)FAT、および後期アーチファクトテール(slow artifact tail)SATの三つの成分に分類される。前期アーチファクトテールFATと後期アーチファクトテールSATは、刺激の印加が終了した後もしばらくの間持続する。磁気刺激による刺激アーチファクトについても同様である(非特許文献2)。これらの文献によれば、アーチファクトテールは、数ミリ秒から数十ミリ秒の間持続するという性質を持つ。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】McGill KC, Cummins KL, Dorfman LJ, Berlizot BB, Leutkemeyer K, Nishimura DG, Widrow B. On the Nature and Elimination of Stimulus Artifact in Nerve Signals Evoked and Recorded Using Surface Electrodes. IEEE Trans Biomed Eng. 1982 Feb; 29(2):129-37.
【非特許文献2】Bergmann TO, Molle M, Schmidt MA, Lindner C, Marshall L, Born J, Siebner HR. EEG-Guided Transcranial Magnetic Stimulation Reveals Rapid Shifts in Motor Cortical Excitability during the Human Sleep Slow Oscillation. J Neurosci. 2012 Jan 4;32(1):243-53.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アーチファクトテール成分の持続時間が長くなると、反応波形RWと刺激アーチファクトSAが重なってしまい、反応波形RWに歪みが生ずる。このような場合、反応波形の潜時や振幅を正確に測定することが困難であり、検査に支障が生じうる。
【0007】
本発明は、刺激アーチファクトを抑制して生体電位の測定精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための第一の態様は、生体電位測定装置であって、
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する第一増幅回路と、
少なくとも前記刺激が印加されている間、前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除する第一スイッチと、
コンデンサを含み、前記第一増幅回路の出力における所定値以上の周波数成分を通過させるハイパスフィルタと、
前記第一増幅回路からの出力を増幅する第二増幅回路と、
少なくとも前記第一スイッチが前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除している間、前記コンデンサの充放電を停止させるとともに前記第二増幅回路の利得を低減する第二スイッチと、
を備えている。
【0009】
刺激に伴って第一導出電極と第二導出電極から第一増幅回路に電流が流れ込むと、生体と第一増幅回路の接地電位の間に電位差が発生し、前期アーチファクトテールの原因となる。しかしながら、上記の動作によれば、少なくとも刺激が印加されている間は第一導出電極と第二導出電極がオープンとされるため、第一導出電極と第二導出電極に流入する電流を抑制できる。したがって、導出波形に重畳する前期アーチファクトテールを抑制し、生体電位の測定精度を向上できる。
【0010】
第一スイッチの開閉動作時、および第一スイッチが第一導出電極と第二導出電極をオープンにしている間は、第一増幅回路にノイズが混入しやすい。この場合、当該ノイズが後段の第二増幅回路によって増幅されてしまう。しかしながら、上記の動作によれば、少なくとも第一導出電極および第二導出電極と第一増幅回路との電気的接続が解除されている間は第二増幅回路の利得が低減されるため、導出波形に重畳するノイズを抑制し、生体電位の測定精度を向上できる。
【0011】
生体に刺激が印加されている期間は、第一導出電極および第二導出電極と第一増幅回路との電気的接続が解除されている期間に含まれている。すなわち、刺激部による刺激が印加されている期間は、第二増幅回路の利得が低減されている。したがって、刺激が印加されている間に取得される導出波形の電位を抑制できる。よって、刺激とほぼ同時に発生するアーチファクトスパイクの導出波形への重畳を阻止し、生体電位の測定精度を向上できる。
【0012】
コンデンサの充放電は、後期アーチファクトテールが導出波形に重畳する原因となる。しかしながら、上記の動作によれば、少なくとも刺激部による刺激が印加されている間はコンデンサの充放電が停止されるため、導出波形に重畳する後期アーチファクトテールを抑制し、生体電位の測定精度を向上できる。
【0013】
上記の目的を達成するための第二の態様は、生体電位測定装置であって、
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する増幅回路と、
少なくとも前記刺激が印加されている間、前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記増幅回路との電気的接続を解除するスイッチと、
を備えている。
【0014】
このような構成によれば、少なくとも刺激が印加されている間は第一導出電極と第二導出電極がオープンとされるため、第一導出電極と第二導出電極に流入する電流を抑制できる。したがって、導出波形に重畳する前期アーチファクトテールを抑制し、生体電位の測定精度を向上できる。
【0015】
上記の目的を達成するための第三の態様は、生体電位測定装置であって、
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する増幅回路と、
コンデンサを含み、前記増幅回路の出力における所定値以上の周波数成分を通過させるハイパスフィルタと、
少なくとも前記刺激が印加されている間、前記コンデンサの充放電を停止させるスイッチと、
を備えている。
【0016】
このような構成によれば、少なくとも刺激部による刺激が印加されている間はコンデンサの充放電が停止されるため、導出波形に重畳する後期アーチファクトテールを抑制し、生体電位の測定精度を向上できる。
【0017】
上記の目的を達成するための第四の態様は、生体電位測定装置であって、
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する第一増幅回路と、
少なくとも前記刺激が印加されている間、前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除する第一スイッチと、
前記第一増幅回路からの出力を増幅する第二増幅回路と、
少なくとも前記第一スイッチが前記第一導出電極および前記第二導出電極と前記第一増幅回路との電気的接続を解除している間、前記第二増幅回路の利得を低減する第二スイッチと、
を備えている。
【0018】
このような構成によれば、少なくとも第一導出電極および第二導出電極と第一増幅回路との電気的接続が解除されている間は第二増幅回路の利得が低減されるため、導出波形に重畳するノイズを抑制し、生体電位の測定精度を向上できる。
【0019】
上記の目的を達成するための第五の態様は、生体電位測定装置であって、
生体に刺激を印加する刺激部と、
前記生体に装着される第一導出電極および第二導出電極と、
前記刺激により誘発されて生じる前記第一導出電極と前記第二導出電極の電位差を増幅する増幅回路と、
コンデンサを含み、前記増幅回路の出力における所定値以上の周波数成分を通過させるハイパスフィルタと、
前記刺激の印加後に前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数を高くするスイッチを備えている。
【0020】
刺激部による刺激に付随して、第一導出電極と第二導出電極の各々には分極が生じる。分極電圧は、直流成分である。ハイパスフィルタによって入力波形が基線電位に戻るまでの間、当該直流成分が刺激アーチファクトとして導出波形に重畳する。当該直流成分は、ハイパスフィルタの時定数が短いほど、短時間で基線電位に戻る。上記の構成によれば、分極電圧に起因して導出波形に重畳する刺激アーチファクトを抑制し、生体電位の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一実施形態に係る誘発電位測定装置の機能構成を示す図である。
図2】上記の誘発電位測定装置の一部の回路構成と動作を示す図である。
図3】上記の誘発電位測定装置により取得される導出波形を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例を以下詳細に説明する。図1は、一実施形態に係る誘発電位測定装置1(生体電位測定装置の一例)の機能構成を示している。
【0023】
誘発電位測定装置1は、刺激部2を備えている。刺激部2は、生体100に対して刺激を印加するように構成されている。刺激の例としては、電気的な刺激、磁気的な刺激などが挙げられる。
【0024】
誘発電位測定装置1は、第一導出電極3と第二導出電極4を備えている。第一導出電極3と第二導出電極4は、生体100における適宜の箇所に装着されるように構成されている。刺激部2による刺激に応じて、第一導出電極3と第二導出電極4の間には電位差が誘発される。
【0025】
誘発電位測定装置1は、第一増幅回路5と第一スイッチ6を備えている。第一スイッチ6は、第一導出電極3と第一増幅回路5の間の電気的接続、および第二導出電極4と第一増幅回路5の間の電気的接続を選択的に形成または解除できるように構成されている。第一導出電極3および第二導出電極4が第一増幅回路5と電気的に接続されている間、第一増幅回路5は、第一導出電極3と第二導出電極4の間に生じた電位差を増幅するように構成されている。
【0026】
誘発電位測定装置1は、ハイパスフィルタ7を備えている。ハイパスフィルタ7は、第一増幅回路5と電気的に接続されている。ハイパスフィルタ7は、第一増幅回路5からの出力における所定値以上の周波数成分を通過させるように構成されている。
【0027】
誘発電位測定装置1は、第二増幅回路8を備えている。第二増幅回路8は、ハイパスフィルタ7と電気的に接続されている。第二増幅回路8は、ハイパスフィルタ7を通過した第一増幅回路5からの出力を増幅するように構成されている。
【0028】
誘発電位測定装置1は、表示部9を備えている。表示部9は、第二増幅回路8と電気的に接続されている。表示部9は、第二増幅回路8からの出力をユーザが視認可能な態様に変換し、表示するように構成されている。当該態様の例としては、波形、数値、文字、記号などが挙げられる。
【0029】
誘発電位測定装置1は、第二スイッチ10を備えている。第二スイッチ10は、ハイパスフィルタ7および第二増幅回路8と電気的に接続されている。
【0030】
誘発電位測定装置1は、第三スイッチ11を備えている。第三スイッチ11は、ハイパスフィルタ7と電気的に接続されている。
【0031】
誘発電位測定装置1は、制御部12を備えている。制御部12は、刺激部2、第一スイッチ6、第二スイッチ10、および第三スイッチ11の各々に対して制御信号を入力できるように構成されている。
【0032】
図2の(A)は、上記のように構成された誘発電位測定装置1の一部の具体的な回路構成の一例を示している。
【0033】
第一増幅回路5は、差動アンプ5aを含んでいる。第一スイッチ6は、スイッチ素子6aとスイッチ素子6bを含んでいる。スイッチ素子6aは、第一導出電極3および差動アンプ5aの非反転入力端子と電気的に接続されており、両者の間の電気的接続を選択的に形成または解除できるように構成されている。スイッチ素子6bは、第二導出電極4および差動アンプ5aの反転入力端子と電気的に接続されており、両者の間の電気的接続を選択的に形成または解除できるように構成されている。
【0034】
制御部12は、第一スイッチ6のスイッチ素子6aとスイッチ素子6bを開閉するための制御信号SC1を出力できるように構成されている。
【0035】
差動アンプ5aからの出力は、信号減衰器として機能する可変抵抗、およびインピーダンス変換用のバッファアンプを経て後段の回路に入力される。当該回路は、アンプA1〜A3、抵抗R1〜R5、およびコンデンサCを含んでいる。当該回路は、ハイパスフィルタ7と第二増幅回路8(反転増幅回路)の双方の機能を有している。
【0036】
第二増幅回路8の利得をGとした場合、ハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fとオフセット電圧Vofは、次式で表される。

=(1/2π)・(G/RC)
of=−(R/R)・(R)−VOS・(R/R

ここで、Rは抵抗R2の抵抗値、Rは抵抗R4の抵抗値、Rは抵抗R5の抵抗値である。Cは、コンデンサCの容量である。Iは、アンプA3の入力バイアス電流である。VOSは、アンプA3の入力オフセット電圧である。各回路要素のパラメータと回路の挙動との関係が明らかであるため、仕様に応じた調整が容易になされうる。
【0037】
アンプA1からの出力は、A/Dコンバータなどの適宜の回路を経て適宜の態様に変換され、表示部9に至る。
【0038】
第二スイッチ10は、抵抗R1の両端と並列に接続されている。制御部12は、第二スイッチ10を開閉するための制御信号SC2を出力できるように構成されている。
【0039】
第三スイッチ11は、抵抗R2の両端と並列に接続されている。制御部12は、第三スイッチ11を開閉するための制御信号SC3を出力できるように構成されている。
【0040】
図2の(B)は、上記のように構成された誘発電位測定装置1の動作を説明するタイミングチャートである。同図に示された時間の値は一例に過ぎない。
【0041】
制御部12は、刺激部2に対して制御信号を入力し、生体100に対して刺激を印加させる。制御部12は、第一スイッチ6に制御信号SC1を入力し、少なくとも当該刺激が印加されている間(t2〜t3)、第一スイッチ6に第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5との電気的接続を解除させる(t1〜t4)。時点t1は、制御信号SC1による第一スイッチ6の応答遅れを考慮して適宜に定められる。
【0042】
図2の(A)に示された例においては、制御信号SC1によってスイッチ素子6aが開かれ、第一導出電極3と差動アンプ5aの非反転入力端子との間の電気的接続が絶たれる。同様に、制御信号SC1によってスイッチ素子6bが開かれ、第二導出電極4と差動アンプ5aの反転入力端子との間の電気的接続が絶たれる。
【0043】
刺激に伴って第一導出電極3と第二導出電極4から第一増幅回路5に電流が流れ込むと、生体100と第一増幅回路5の接地電位の間に電位差が発生し、前期アーチファクトテールの原因となる。しかしながら、上記の動作によれば、少なくとも刺激が印加されている間は第一導出電極3と第二導出電極4がオープンとされるため、第一導出電極3と第二導出電極4に流入する電流を抑制できる。したがって、導出波形に重畳する前期アーチファクトテールを抑制し、誘発電位(生体電位の一例)の測定精度を向上できる。この効果は、特に刺激部2が刺激電極を通じて生体100に電気刺激を印加する場合において顕著となる。
【0044】
他方、図2の(B)に示されるように、制御部12は、第二スイッチ10に制御信号SC2を入力し、少なくとも第一スイッチ6が第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5との電気的接続を解除している間(t1〜t4)、第二スイッチ10に第二増幅回路8の利得Gを低減させる(t1〜t5)。
【0045】
時点t1は、制御信号SC2による第二スイッチ10の応答遅れを考慮して適宜に定められる。同図に示される例においては、第一スイッチ6と第二スイッチ10の動作タイミングが同時とされているが、第一スイッチ6の動作に先立って第二スイッチ10が動作されてもよい。
【0046】
図2の(A)に示される例においては、制御信号SC2によって第二スイッチ10が閉じられ、第二増幅回路8の一部を構成するアンプA1の利得が実質的にゼロとされる。
【0047】
第一スイッチ6の開閉動作時、および第一スイッチ6が第一導出電極3と第二導出電極4をオープンにしている間は、第一増幅回路5にノイズが混入しやすい。この場合、当該ノイズが後段の第二増幅回路8によって増幅されてしまう。しかしながら、上記の動作によれば、少なくとも第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5との電気的接続が解除されている間は第二増幅回路8の利得Gが低減されるため、導出波形に重畳するノイズを抑制し、誘発電位の測定精度を向上できる。
【0048】
前述のように、生体100に刺激が印加されている期間(t2〜t3)は、第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5との電気的接続が解除されている期間(t1〜t4)に含まれている。すなわち、刺激部2による刺激が印加されている期間は、第二増幅回路8の利得Gが低減されている。したがって、刺激が印加されている間に取得される導出波形の電位を抑制できる。よって、刺激とほぼ同時に発生するアーチファクトスパイクの導出波形への重畳を阻止し、誘発電位の測定精度を向上できる。
【0049】
さらに、第二スイッチ10に制御信号SC2が入力されることにより、少なくとも第一スイッチ6が第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5との電気的接続を解除している間(t1〜t4)、第二スイッチ10にハイパスフィルタ7のコンデンサCの充放電を停止させる(t1〜t5)。
【0050】
図2の(A)に示される例においては、制御信号SC2によって第二スイッチ10が閉じられ、アンプA2の出力端子の電圧がゼロとなる。これにより、コンデンサCの充放電が停止される。
【0051】
コンデンサCの充放電は、後期アーチファクトテールが導出波形に重畳する原因となる。しかしながら、上記の動作によれば、少なくとも刺激部2による刺激が印加されている間はコンデンサCの充放電が停止されるため、導出波形に重畳する後期アーチファクトテールを抑制し、誘発電位の測定精度を向上できる。
【0052】
図2の(B)に示されるように、制御部12は、第三スイッチ11に制御信号SC3を入力し、刺激部2による生体100への刺激印加後、第三スイッチ11にハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fを高くさせる。
【0053】
図2の(A)に示される例においては、制御信号SC3によって第三スイッチ11が閉じられ、ハイパスフィルタ7の時定数が短くなる。これにより、ハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fが高くなる。
【0054】
刺激部2による刺激に付随して、第一導出電極3と第二導出電極4の各々には分極が生じる。分極電圧は、直流成分である。ハイパスフィルタ7によって入力波形が基線電位に戻るまでの間、当該直流成分が刺激アーチファクトとして導出波形に重畳する。当該直流成分は、ハイパスフィルタの時定数が短いほど、短時間で基線電位に戻る。上記の動作によれば、分極電圧に起因して導出波形に重畳する刺激アーチファクトを抑制し、誘発電位の測定精度を向上できる。特に刺激部2により磁気刺激が印加される場合においては、分極電圧が著しく大きくなるため、刺激アーチファクトの抑制に伴う前述の効果が顕著となる。
【0055】
図3の(B)は、第一スイッチ6、第二スイッチ10、および第三スイッチ11が上記のように動作した場合に取得された導出波形の一例を示している。図3の(A)に示された波形と比較すると、アーチファクトスパイクASが発生しておらず、前期アーチファクトテールFATと後期アーチファクトテールSATの重畳も抑制されていることが判る。したがって、刺激によって誘発された反応波形RWが明確に認識され、検査に必要な反応波形RWの潜時や振幅を正確に測定できる。
【0056】
より具体的には、図2の(B)に示されるように、制御部12は、t4において第一スイッチ6が第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5との電気的接続を回復させた後、制御信号SC3を通じて第三スイッチ11にハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fを高くさせる。
【0057】
また、制御部12は、第二スイッチ10がコンデンサCの充放電の停止と第二増幅回路8の利得低減を解除した時点(t5)以降に、制御信号SC3を通じて第三スイッチ11にハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fを高くさせる。
【0058】
さらに、制御部12は、第一導出電極3と第二導出電極4の間に刺激によって誘発された反応波形RWが現れる前に、制御信号SC3を通じて第三スイッチ11にハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fを元に戻させる。
【0059】
このような構成によれば、第三スイッチ11の動作に起因するノイズが導出波形に重畳する事態を回避できる。よって、誘発電位の測定精度をより向上できる。
【0060】
図2の(A)に示されるように、本実施形態においては、ハイパスフィルタ7の一部を構成するコンデンサCが、第二増幅回路8の一部を構成するアンプA1のフィードバックループ中に含まれている。
【0061】
このような構成によれば、コンデンサCの充放電を停止させる動作と、第二増幅回路8の利得Gを低減する動作を、共通の第二スイッチ10で遂行できる。換言すると、第二スイッチ10は、コンデンサCの充放電を停止させる動作を遂行するスイッチ素子と、第二増幅回路8の利得Gを低減する動作を遂行するスイッチ素子とを独立して含みうる。
【0062】
本実施形態においては、第一スイッチ6は、負論理のフォトMOSリレーである。生体100に近い側に設けられる第一スイッチ6は、静電気に耐性を有することが求められる。フォトMOSリレーは、この要求を満足しうる。また、第一導出電極3と第二導出電極4は、通常状態において第一増幅回路5と電気的に接続されているため、負論理の素子を用いることによって消費電力を低減できる。
【0063】
本実施形態においては、第二スイッチ10と第三スイッチ11は、正論理のSPST(single-pole single-throw)アナログスイッチである。これらのスイッチは、応答速度が速いことが求められる。SPSTスイッチは、この要求を満足しうる。また、第二スイッチ10と第三スイッチ11は、通常状態において開かれているため、正論理の素子を用いることによって消費電力を低減できる。
【0064】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするための例示にすぎない。上記の実施形態に係る構成は、本発明の趣旨を逸脱しなければ、適宜に変更・改良されうる。また、等価物が本発明の技術的範囲に含まれることは明らかである。
【0065】
図3の(B)に示された導出波形は、第一スイッチ6、第二スイッチ10、および第三スイッチ11の全てが動作した場合の例である。しかしながら、第一導出電極3と第二導出電極4へ流れ込む電流を抑制することによって前期アーチファクトテールを抑制するという効果が得られればよい場合、誘発電位測定装置1は、第二スイッチ10と第三スイッチ11を備えない構成とされうる。
【0066】
上記の実施形態においては、一対の導出電極(第一導出電極3と第二導出電極4)が生体100に装着されている。しかしながら、二対以上の導出電極が生体100に装着され、各導出電極対より取得される誘発電位差に基づく反応波形が表示部9に表示される構成も採用されうる。この場合、表示部9における表示に供されていない導出電極対に対応付けられた第一スイッチ6について上述の動作が行なわれれば、前述した前期アーチファクトテールの抑制効果が得られる。
【0067】
あるいは、刺激の印加中にコンデンサCの充放電を停止させることによって後期アーチファクトテールを抑制するという効果を得られればよい場合、誘発電位測定装置1は、第一スイッチ6と第三スイッチ11を備えない構成とされうる。この場合、第二スイッチ10は、少なくとも刺激の印加中にコンデンサCの充放電を停止させる機能を有していればよい。
【0068】
あるいは、第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5の間の電気的接続が解除されている間に第二増幅回路8の利得Gを低減することによってアーチファクトスパイクと後期アーチファクトテールを抑制するという効果を得られればよい場合、誘発電位測定装置1は、第三スイッチ11を備えない構成とされうる。この場合、第二スイッチ10は、少なくとも第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5の間の電気的接続が解除されている間に第二増幅回路8の利得Gを低減する機能を有していればよい。
【0069】
あるいは、刺激の印加後にハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fを高くすることによって前期アーチファクトテールを抑制するという効果を得られればよい場合、誘発電位測定装置1は、第一スイッチ6と第二スイッチ10を備えない構成とされうる。
【0070】
上記の実施形態においては、第一スイッチ6は、負論理のフォトMOSリレーである。しかしながら、第一導出電極3および第二導出電極4と第一増幅回路5の間の電気的接続を選択的に形成または解除できれば、第一スイッチ6として適宜のスイッチ素子が採用されうる。そのようなスイッチ素子の例としては、正論理のフォトMOSリレー、メカニカルリレー、アナログスイッチなどが挙げられる。
【0071】
上記の実施形態においては、第二スイッチ10は、正論理のSPSTアナログスイッチである。しかしながら、コンデンサCの充放電の停止と第二増幅回路8の利得低減を行なうための開閉動作が可能であれば、第二スイッチ10として適宜のスイッチ素子が採用されうる。そのようなスイッチ素子の例としては、負論理のSPSTアナログスイッチ、メカニカルリレー、フォトMOSリレーなどが挙げられる。
【0072】
上記の実施形態においては、第三スイッチ11は、正論理のSPSTアナログスイッチである。しかしながら、ハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fを高くするための開閉動作が可能であれば、第三スイッチ11として適宜のスイッチ素子が採用されうる。そのようなスイッチ素子の例としては、負論理のSPSTアナログスイッチ、メカニカルリレー、フォトMOSリレーなどが挙げられる。
【0073】
これまでに説明した態様は、神経や筋肉の電位を測定する生体電位測定装置に関連する。しかしながら、上記の各態様は、心電図検査等のような他の生体電位測定装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1:誘発電位測定装置、2:刺激部、3:第一導出電極、4:第二導出電極、5:第一増幅回路、6:第一スイッチ、7:ハイパスフィルタ、8:第二増幅回路、10:第二スイッチ、11:第三スイッチ、C:コンデンサ、f:ハイパスフィルタのカットオフ周波数、G:第二増幅回路の利得、RW:反応波形
図1
図2
図3