【実施例1】
【0016】
図1は、実施例1に係るFETの断面図である。
図1に示すように、基板10上にグラフェン層12が形成されている。活性領域以外のグラフェン層12は除去されている。グラフェン層12上にソース電極24およびドレイン電極26が設けられている。グラフェン層12上のソース電極24とドレイン電極26との間に第1ゲート電極20と第2ゲート電極22が形成されている。グラフェン層12と第1ゲート電極20および第2ゲート電極22との間にゲート絶縁膜14が設けられている。ゲート絶縁膜14は、グラフェン層12上に形成された酸化アルミニウム膜16と酸化アルミニウム膜16上に形成された酸化シリコン膜18とを有している。第1ゲート電極20と第2ゲート電極22との間のグラフェン層12上に接触するオーミック電極28が形成されている。非活性領域からソース電極24およびドレイン電極26上に配線30が設けられている。
【0017】
第1ゲート電極20および第2ゲート電極22のゲート長をそれぞれLg1およびLg2とする。第1ゲート電極20と第2ゲート電極22との間の距離をLggとする。第1ゲート電極20とソース電極24との距離および第2ゲート電極22とドレイン電極26との距離をLgoとする。ゲート長Lg1、Lg2、距離LggおよびLgoは、第1ゲート電極20、第2ゲート電極22、ソース電極24およびドレイン電極26の下面(すなわち、ゲート絶縁膜14またはグラフェン層12に接する面)における距離で定義される。実施例1では、第2ゲート電極22のゲート長Lg2は第1ゲート電極20のゲート長Lg1より小さい。
【0018】
図2は、実施例1に係るFETの等価回路図である。
図2に示すように、ソース電極24とドレイン電極26の間に第1ゲート電極20および第2ゲート電極22が設けられている。第1ゲート電極20には、ゲート電圧Vgが印加され、第2ゲート電極22には基準電圧Vrefが印加される。基準電圧Vrefを適切に設定することにより、ドレイン電極26から第1ゲート電極20下のチャネルにホールが注入されることを抑制できる。これにより、高いドレイン電圧におけるチャネル内のホール濃度の増加を抑制できる。このため、ドレイン電流が飽和し、ドレインコンダクタンスを抑制できる。よって、最大発振周波数fmax等のFET性能を向上させることができる。チャネルへのホールの供給を抑制するため、基準電位Vrefは第1ゲート電極20に印加されるバイアス電圧より高いことが好ましい。例えば、第2ゲート電極22は、ソース電極24に電気的に接続され、同電位となっていることが好ましい。
【0019】
[比較例]
実施例1の効果について説明するため、比較例1および比較例2についてシミュレーションを行った。
図3(a)および
図3(b)は、比較例1および比較例2に係るFETの断面図である。
図3(a)に示すように、比較例1は、ソース電極24とドレイン電極26との間に第1ゲート電極20が1本のみのシングルゲート構造である。
図3(b)に示すように、比較例2は、実施例1と同様にソース電極24とドレイン電極26との間に第1ゲート電極20および第2ゲート電極22が設けられたデュアルゲート構造であるが、ゲート長Lg1=Lg2である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0020】
シミュレーションは各材料および膜厚を実施例1の製造方法で例示する材料および膜厚とし、グラフェン層12の抵抗等は、グラフェン層12に印加される電界等により算出した。グラフェン層12の膜厚は0.3nmとした。なお、グラフェン層12の膜厚は0.2nmから0.5nmの範囲が好ましい。比較例1のシミュレーションではLgo=0.01μmとした。比較例2のシミュレーションではLg1=Lg2、Lgg=0.02μmおよびLgo=0.01μmとした。ゲート幅(ゲートフィンガの長さ)を50μmとした。ゲート直列抵抗Rg(ゲート電極20および22の抵抗)は、ゲート幅50μmのとき、11Ω/Lg1(またはLg2)とした。すなわち、Lg1=1μmのときRg=0.55Ωmm、Lg1=2μmのときRg=0.275Ωmmである。ドレイン電圧VD=2Vとし、ゲート電圧VGを−3Vから+3Vまで0.5Vステップで計算し、遮断周波数f
Tおよび最大発振周波数fmaxの最大値をf
Tおよびfmaxとした。
【0021】
図4(a)および
図4(b)は、比較例1および2に係るトランジスタのゲート長Lgに対するf
Tおよびfmaxを示す図である。
図4(a)および
図4(b)において、ドットはシミュレーション結果を示し、直線はドットをつなぐ線である。破線は、グラフェン層を用いた理想的なトランジスタのゲート長Lgに対するf
Tおよびfmaxを示す。
【0022】
図4(a)に示すように、比較例1と比較例2とでは、f
Tの差は小さい。また、比較例1および2とも理想的なf
Tに近い値である。
図4(b)に示すように、比較例2は比較例1に比べfmaxが大きくなる。これは、特許文献1に記載されているように以下の理由による。すなわち、比較例1のようなシングルゲート構造では、第1ゲート電極20下のグラフェン層12(チャネル)にドレイン電極26からホールが注入される。これにより、ドレイン電圧に対しドレイン電流が飽和しない。これにより、ドレインコンダクタンスが大きくなる。よってfmaxが小さくなる。これに対し比較例2では、第2ゲート電極22によりドレイン電極26から第1ゲート電極20下のグラフェン層12へのホールの注入が抑制される。これにより、ドレイン電圧に対しドレイン電流は飽和しドレインコンダクタンスが抑制される。よって、fmaxが向上する。
【0023】
理想的には、ゲート長Lgが小さくなるとfmaxは大きくなる。しかしながら、
図4(b)では、ゲート長Lgが小さくなると、比較例1と比較例2とのfamxの差が小さくなっている。この理由は以下のように考えらえる。すなわち、第2ゲート電極22下のグラフェン層12と、第1ゲート電極20と第2ゲート電極22との間のグラフェン層12と、が第1ゲート電極20下のグラフェン層12とドレイン電極26との間の直列抵抗となる。ゲート長Lg1が小さくなると、この直列抵抗による寄生抵抗の影響がより大きくなる。このため、ゲート長Lgが小さくなると、比較例1と比較例2とのfmaxの差が小さくなると考えられる。
【0024】
そこで、第1ゲート電極20のゲート長Lg1を一定とし、第2ゲート電極22のゲート長Lg2を変え遮断周波数f
Tおよびfmaxをシミュレーションした。
【0025】
シミュレーションではLg1=1μm、Lgg=0.02μmとした。ゲート直列抵抗Rgは理想的な状態として0Ωとした。その他のシミュレーション条件は比較例1および2と同じである。
【0026】
図5は、実施例1および比較例2におけるLg2+Lggに対するf
Tおよびfmaxを示す図である。
図5に示すように、Lg2+Lggが小さくなるとf
Tおよびfmaxが大きくなる。特に、fmaxはLg2+LggがLg1より小さくなると急激に大きくなる。このように、Lg2+Lggが小さくなると、第1ゲート電極20下のグラフェン層12とドレイン電極26との間の直列抵抗が小さくなる。よって、fmax等のトランジスタ特性が向上する。
【0027】
[実施例1の製造方法]
次に、実施例1に係るFETを製造する一例を説明する。
図6(a)から
図7(c)は、実施例1に係るFETの製造方法を示す断面図である。
図6(a)に示すように、6H−SiC基板10の表面を洗浄する。洗浄の条件は、アセトン処理を5分、エタノール処理を5分、および水洗を5分である。基板10の洗浄として、例えばRCA処理を行なってもよい。基板10としては、SiC層が形成されたSi基板でもよい。SiC熱昇華法を用いグラフェン層12を形成する場合、基板10の最上面はSiC層である。例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いグラフェン層12を形成する場合、基板10の最表面はSiC以外の材料層でもよい。
【0028】
基板10上に熱昇華法を用いグラフェン層12を形成する。SiC基板10を、Ar雰囲気中において、1600℃で1分熱処理する。これにより、基板10上に膜厚が0.35nmから0.7nmのグラフェン層12が形成される。このように、SiCを熱処理することにより、SiC基板10内のSi原子が昇華し、C原子同士がSP2結合する。これにより、SiCよりグラフェン層12が形成される。熱処理雰囲気、熱処理温度および熱処理時間は、グラフェン層12の膜厚および膜質に応じ適宜設定することができる。例えば熱処理雰囲気を真空とすることもできる。グラフェン層12を薄くするためには、成長速度が遅くなる不活性ガス中の熱処理が好ましい。グラフェン層12の形成には例えばCVD法を用いることもできる。
【0029】
図6(b)に示すように、グラフェン層12上に蒸着法を用い、膜厚が5nmのAl(アルミニウム)膜を形成する。Al膜の形成は、例えばスパッタリング法を用いることもできる。Al膜を例えば24時間大気に曝す。これにより、Al膜が自然酸化し、グラフェン層12上に酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜16が形成される。酸化アルミニウム膜16はALD(Atomic Layer Deposition)法を用い形成してもよい。
【0030】
図6(c)に示すように、フォトレジスト等のマスク層を用い、非活性領域の酸化アルミニウム膜16およびグラフェン層12を除去する。酸化アルミニウム膜16を、例えばフォトレジストを現像するときのアルカリ系の現像液により除去する。さらに、グラフェン層12を、例えば酸素プラズマを用い除去する。
【0031】
図7(a)に示すように、フォトレジスト等のマスク層を用い、酸化アルミニウム膜16の一部を、例えばフォトレジストを現像するときのアルカリ系の現像液により除去する。ソース電極24、ドレイン電極26およびオーミック電極28を例えば蒸着法およびリフトオフ法を用い形成する。ソース電極24、ドレイン電極26およびオーミック電極28は、例えば膜厚が15nmのNi(ニッケル)膜である。
【0032】
図7(b)に示すように、酸化アルミニウム膜16、ソース電極24、ドレイン電極26およびオーミック電極28を覆うように酸化シリコン膜18を形成する。酸化シリコン膜18は、例えば膜厚が30nmでありCVD法を用い形成される。酸化シリコン膜18は、ゲート絶縁膜14を厚くするための膜である。酸化アルミニウム膜16と酸化シリコン膜18によりゲート絶縁膜14が形成される。ゲート絶縁膜14は、酸化アルミニウム膜16および酸化シリコン膜18以外の絶縁膜でもよい。
【0033】
図7(c)に示すように、ゲート絶縁膜14上に第1ゲート電極20および第2ゲート電極22を形成する。第1ゲート電極20および第2ゲート電極22は、例えばゲート絶縁膜14側から膜厚が10nmのTi(チタン)膜および膜厚が100nmのAu(金)膜である。第1ゲート電極20および第2ゲート電極22は、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用い形成する。第1ゲート電極20および第2ゲート電極22としては、Au膜以外の膜を用いてもよい。ゲート抵抗の抑制の観点から抵抗率の低い材料が好ましい。第1ゲート電極20と第2ゲート電極22とは別々に形成してもよい。製造工程簡略化の観点から第1ゲート電極20と第2ゲート電極22を同時に形成することが好ましい。
【0034】
その後、ソース電極24およびドレイン電極26上の酸化シリコン膜18を例えばドライエッチング法を用い除去する。ソース電極24およびドレイン電極26上に、例えば蒸着法およびリフトオフ法を用い配線30を形成する。配線30は、例えばソース電極24およびドレイン電極26側から膜厚が10nmのTi膜および膜厚が100nmのAu膜である。これにより、
図1のFETが完成する。
【0035】
図6(a)から
図7(c)では、ソース電極24、ドレイン電極26およびオーミック電極28を形成した後に第1ゲート電極20および第2ゲート電極22を形成する例を説明した。第1ゲート電極20および第2ゲート電極22を形成した後にソース電極24、ドレイン電極26およびオーミック電極28を形成してもよい。
【0036】
実施例1によれば、第1ゲート電極20はソース電極24とドレイン電極26との間のソース電極24側に設けられ、第2ゲート電極22はソース電極24とドレイン電極26との間のドレイン電極26側に設けられている。第2ゲート電極22のゲート長Lg2は第1ゲート電極20のゲート長Lg1より小さい。これにより、第1ゲート電極20下のグラフェン層12とドレイン電極26との間の直列抵抗が小さくなる。よって、fmax等のトランジスタ特性が向上する。
【0037】
第1ゲート電極20下のグラフェン層12とドレイン電極26との間の直列抵抗を小さくするため、第2ゲート電極22のゲート長Lg2は第1ゲート電極20のゲート長Lg1の1/2以下が好ましく、1/3以下がより好ましい。第2ゲート電極22を加工するため、ゲート長Lg2はゲート長Lg1の1/10以上が好ましく、1/5以上がより好ましい。
【0038】
また、第1ゲート電極20と第2ゲート電極22との間の距離Lggと、第2ゲート電極22のゲート長Lg2との和Lgg+Lg2は、第1ゲート電極20のゲート長Lg1以下である。これにより、第1ゲート電極20下のグラフェン層12とドレイン電極26との間の直列抵抗をより小さくできる。よって、fmax等のトランジスタ特性がより向上する。Lgg+Lg2は、ゲート長Lg1の4/5以下が好ましく、2/3以下がより好ましく、1/2以下がさらに好ましい。第2ゲート電極22を加工するため、Lgg+Lg2はゲート長Lg1の1/5以上が好ましく、1/3以上がより好ましい。
【0039】
ゲート長Lg1が小さくなると、直列抵抗の影響が大きくなる。よって、ゲート長Lgは1μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。第1ゲート電極20を加工するため、ゲート長Lg1は0.1μm以上が好ましい。
【0040】
第1ゲート電極20と第2ゲート電極22との間にグラフェン層12に接触するオーミック電極28が設けられている。これにより、第1ゲート電極20と第2ゲート電極22との間のグラフェン層12の表面が露出することを抑制できる。よって、グラフェン層12が空乏化し、直列抵抗が高くなることを抑制できる。
【0041】
第2ゲート電極22に、基準電位が供給される。これにより、ドレイン電極26からチャネルに供給されるホールを抑制できる。よって、トランジスタ特性をより向上できる。チャネルへのホールの供給を抑制するため、基準電位は第1ゲート電極20に印加されるバイアス電圧より高いことが好ましい。例えば、第2ゲート電極22には、ソース電極24に供給される電位が供給されることが好ましい。
【0042】
グラフェン層12と第1ゲート電極20および第2ゲート電極22との間にゲート絶縁膜14が設けられている。これにより、グラフェン層12と第1ゲート電極20および第2ゲート電極22との電気的接触を抑制できる。ゲート絶縁膜14は、酸化アルミニウム膜16を含むことが好ましい。これにより、トランジスタ特性を向上できる。酸化アルミニウム膜16はグラフェン層12に接触していることが好ましい。
【0043】
ゲート絶縁膜14は酸化アルミニウム膜16に設けられた酸化シリコン膜18を含むことが好ましい。これにより、ゲート絶縁膜14を厚くできる。
【0044】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0045】
(付記1)
基板上に設けられたグラフェン層と、
前記グラフェン層上に設けられたソース電極およびドレイン電極と、
前記グラフェン層上に設けられたゲート絶縁膜と、
前記ソース電極と前記ドレイン電極との間における前記ゲート絶縁膜上に設けられた第1ゲート電極および第2ゲート電極と、
を具備し、
前記第1ゲート電極は前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記ソース電極側に設けられ、前記第2ゲート電極は前記ソース電極と前記ドレイン電極との間の前記ドレイン電極側に設けられ、
前記第2ゲート電極のゲート長は前記第1ゲート電極のゲート長より小さい半導体装置。
(付記2)
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との間の距離と、前記第2ゲート電極のゲート長と、の和は、前記第1ゲート電極のゲート長以下である付記1に記載の半導体装置。
(付記3)
前記第1ゲート電極と前記第2ゲート電極との間に前記グラフェン層に接触するオーミック電極を具備する付記1に記載の半導体装置。
(付記4)
前記第2ゲート電極には、基準電位が供給される付記1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
(付記5)
前記第1ゲート電極のゲート長は1μm以下である付記1に記載の半導体装置。
(付記6)
前記第2ゲート電極には、前記ソース電極に供給される電位が供給される付記1に記載の半導体装置。
(付記7)
前記ゲート絶縁膜は、酸化アルミニウム膜を含む付記1に記載の半導体装置。
(付記8)
前記ゲート絶縁膜は、前記酸化アルミニウム膜上に設けられた酸化シリコン膜を含む付記7に記載の半導体装置。
(付記9)
前記第2ゲート電極のゲート長は前記第1ゲート電極のゲート長の1/2以下である付記1に記載の半導体装置。
(付記10)
前記基板はSiC基板である付記1に記載の半導体装置。