【実施例】
【0047】
[ポリプロピレン系延伸シーラントフィルムの作製]
実施例1ないし11及び比較例1ないし5のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムについて、後出の表1ないし表4に示した各層の樹脂組成とその割合に基づき、原料となる樹脂を溶融、混練して共押出しTダイフィルム成形機を用いてシートを作製し、ロール間延伸機により巻き取り方向(MD)に一軸延伸して製膜した。実施例及び比較例の延伸倍率はいずれも5倍とした。また、当該ポリプロピレン系延伸シーラントフィルムにおける基材層とシーラント層の層厚さは表中の比率とした。さらに、作製した各実施例及び比較例のシーラントフィルムに対して後出の被積層フィルム部をドライラミネートにより積層してフィルム積層体とした。
【0048】
[使用原料]
〈ポリプロピレン系樹脂(A)〉
基材層を形成するポリプロピレン系樹脂(A)として、次の原料を使用した。なお、MFRをメルトフローレートとして表記する(以下同様)。
(原料01) プロピレン単独重合体:日本ポリプロ株式会社製,商品名「ノバテックFY6」,MFR(230℃,2.16kg荷重)2.5g/10min,密度0.90g/cm
3
(原料02) プロピレン−エチレンランダム共重合体:日本ポリプロ株式会社製,商品名「ウィンテックWFW4」,MFR(230℃,2.16kg荷重)7.0g/10min,密度0.90g/cm
3
(原料03) プロピレン−エチレンブロック共重合体:日本ポリプロ株式会社製,商品名「ノバテックBC6CB」,MFR(230℃,2.16kg荷重)2.5g/10min,密度0.90g/cm
3
【0049】
〈熱可塑性エラストマー(B)〉
同基材層を形成する熱可塑性エラストマー(B)として、次の原料を使用した。原料04ないし09はオレフィン系エラストマー樹脂(E1)であり、原料10はスチレン系エラストマー樹脂(E2)である。
(原料04) 三井化学株式会社製,製品名「タフマーP−0280」,MFR(190℃,2.16kg荷重)2.9g/10min,密度0.870g/cm
3
(原料05) 三井化学株式会社製,製品名「タフマーA−4085S」,MFR(190℃,2.16kg荷重)3.6g/10min,密度0.885g/cm
3
(原料06) 日本ポリエチレン株式会社製,製品名「カーネルKS340T」,MFR(190℃,2.16kg荷重)3.5g/10min,密度0.880g/cm
3
(原料07) ダウ ケミカル社製,製品名「AFFINITY KC8852G」,MFR(190℃,2.16kg荷重)3.0g/10min,密度0.875g/cm
3
(原料08) ダウ ケミカル社製,製品名「VERSIFY 3200」,MFR(190℃,2.16kg荷重)3.9/10min,密度0.876/cm
3
(原料09) 三井化学株式会社製,製品名「タフマーBL2481」,MFR(190℃,2.16kg荷重)4.0g/10min,密度0.900g/cm
3
(原料10) クレイトンポリマージャパン株式会社製,製品名「クレイトンG1657MS」,MFR(190℃,2.16kg荷重)2.0g/10min,密度0.890g/cm
3,スチレン含有量13重量%
【0050】
シーラント層を形成するポリプロピレン系樹脂(A)は、基材層を形成するポリプロピレン系樹脂(A)と同様の原料01,02,03の樹脂を使用した。
【0051】
その他の配合成分として以下の原料も使用した。
アンチブロッキング剤として、粉末合成シリカ(富士シリシア化学株式会社製,商品名「サイリシア430」)を使用した。なお、アンチブロッキング剤については、微量であるため表中に記していない。
【0052】
〈被積層フィルム部〉
各実施例及び比較例のシーラントフィルムに積層する被積層フィルム部については、次の4種類(FL1ないしFL4)を使用した。
(フィルムFL1) 二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと二軸延伸ポリアミドフィルムの2層よりなるフィルムとした。
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、フタムラ化学株式会社製,製品名「FE2001」,厚さ12μmである。
二軸延伸ポリアミドフィルム(ナイロンフィルム)は、ユニチカ株式会社製,製品名「エンブレムNX」,厚さ15μmである。
(フィルムFL2) 二軸延伸ポリアミドフィルム(ユニチカ株式会社製,製品名「エンブレムON」,厚さ15μm)の1層のフィルムとした。
(フィルムFL3) 二軸延伸ポリアミドフィルム(ユニチカ株式会社製,製品名「エンブレムONM」,厚さ15μm)の1層のフィルムとした。
(フィルムFL4) 二軸延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製,商品名「FOR」,厚さ20μm)の1層のフィルムとした。
【0053】
〈接着剤〉
フィルム同士を積層する接着剤(ドライラミネート接着剤)は、主剤(東洋モートン株式会社製,TM−329)を17.2重量%、硬化剤(同社製,CAT−8B)を17.2重量%、及び酢酸エチル65.6重量%を混合して調製した。
【0054】
[フィルム積層体の作製]
〈FL1を使用した被積層フィルム部〉
実施例1ないし11及び比較例1ないし5のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムとFL1を使用した被積層フィルム部の作製に際し、まず、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと二軸延伸ポリアミドフィルムを前出の接着剤により貼り合わせて2層の積層体を形成した。このときの前記調製の接着剤(固形分)の塗布量は4g/m
2とした。続いて、当該積層体の二軸延伸ポリアミドフィルムの表面に同接着剤(固形分)を4g/m
2として塗布し、80℃、30秒間乾燥の後、各実施例及び比較例のシーラントフィルムを貼着した。
【0055】
〈FL2,3,4を使用した被積層フィルム部〉
FL2,3,4の各被積層フィルム部の表面に前記調製の接着剤(固形分)を4g/m
2として塗布し、80℃、30秒間乾燥の後、各実施例及び比較例のシーラントフィルムを貼着した。
【0056】
[物性測定]
〈厚さと各層の厚さ比率〉
各実施例及び比較例のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムの厚さは、JIS K 7130(1999)に準拠してそれぞれ測定した。また、ポリプロピレン系延伸シーラントフィルムにおける基材層とシーラント層の層厚さはTダイからの吐出量により調整し、延伸後のシーラントフィルムを測定して得た厚さを設定割合により按分し比率(層比)を求めた。
【0057】
〈ヘーズ〉
各実施例及び比較例のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムのヘーズは、JIS K 7136(2000)に準拠し、日本電色工業株式会社製,NDH−5000を使用して測定した。なお、ヘーズは外観の良否の指標として採用した。
【0058】
〈ラミネート強度〉
ラミネート強度は、JIS K 6854−3(1999)に準拠しつつ、次のとおりとした。前述の貼着により作製したフィルム積層体(各実施例及び比較例のシーラントフィルムを含む)から、15mm×200mmの短冊状に切り出し試験片とした。この試験片のうち、予め長手方向の50mm分の積層(ラミネート)を剥がして側面視T字状に開いた。部分剥離した試験片のシーラントフィルム側と、被積層フィルム部側を180°の対向位置に開き、引張試験機(株式会社島津製作所製,EZ−SX)のチャックにそれぞれを固定した。試験速度200mm/minで上下方向に引張して残存の積層部分(ラミネート接着部分)を剥離した。100mm剥離し、その間の最大剥離荷重を当該試験片のラミネート強度(N/15mm)とした。
【0059】
〈シール強度〉
前述の貼着により作製したフィルム積層体(各実施例及び比較例のシーラントフィルムを含む)において、それぞれのポリプロピレン系延伸シーラントフィルムのシーラント層同士を重ね、加熱温度コントロール電動シーラー(富士インパルス株式会社製,OPL−350−MD NP)を用い、各表中のシール温度、加熱時間は1.0secの条件により巻き取り方向(MD)にヒートシール部位を剥離できるようにヒートシールし、15mm幅で切り出し試験片とした。この試験片において、ヒートシールされていない端部側を180°の対向位置に開き、JIS Z 0238(1998)の「袋のヒートシール強さ試験」に準拠し、ヒートシール強さ(N/15mm)を測定した。
【0060】
〈引裂強度〉
引裂強度は、JIS K 7128−1(1998)に準拠しつつ、次のとおりとした。前述の貼着により作製したフィルム積層体(各実施例及び比較例のシーラントフィルムを含む)について、それぞれの巻き取り方向(MD)を長辺、横幅方向(TD)を短辺とする150×50mmの長方形の試験片に切り出した。短辺の中点から長手方向に沿って75mmの切れ込みを入れた。両切れ込みの端部を上下180°の対向位置に開き、引張試験機(株式会社島津製作所製,オートグラフAG−1)のチャックにそれぞれ端部を固定した。これを上下に引張して試験片を引き裂き、引き裂き量が20mmを越えた位置の数値を当該試験片の引裂強度(N)とした。
【0061】
〈破壊エネルギー〉
測定(I)並びに
図4及び5にて述べたとおり、前述の貼着により作製したフィルム積層体(各実施例及び比較例のシーラントフィルムを含む)のシーラント層側同士を巻き取り方向(MD)にヒートシール部位を剥離できるようにヒートシールして中央にヒートシール部位を配し、その両端に非ヒートシール部位を備えた側面視逆Y字状の試験片を作成した。ヒートシール条件は前掲の「シール強度」の測定の条件に準じた。当該ヒートシールに際して使用した熱板は15mm幅とした。試験片のヒートシール部位を中央に残しつつ、JIS K 7160(1996)の規格に記載の3形に準じて試験片を切り取った。当該試験片のヒートシール部位の面積は1.5cm
2である。
【0062】
試験片の一端側(ヒートシールされていない側の一端)を同規格に準拠した試験機(株式会社安田精機製作所製,No.285−L低温槽付引張衝撃試験機)の治具に固定し、同試験片の他端側を15gのクロスヘッドに固定した。クロスヘッドをクロスヘッド支持台に載置した。クロスヘッドを弾き飛ばすストライカを位置エネルギーが2Jとなる150°まで持ち上げ、ストッパーを外して同位置から円弧運動によりストライカを振り下ろした。
【0063】
ストライカを試験片の一端側を固定したクロスヘッドに衝突させて、当該クロスヘッドごと弾き飛ばして振り上がった時点のストライカの角度を読み取った。自明ながらストライカとクロスヘッドへの衝突時の衝撃から、試験片のヒートシール部位は破壊される。そして、JIS K 7110(1999)及び同7111−1(2012)に記載の位置エネルギーによる簡易補正方法による補正式(fi)に代入して、各実施例及び比較例のシーラントフィルムを用いたフィルム積層体における破壊エネルギー(D)を算出した。ここで、クロスヘッドの塑性変形及び運動エネルギー補正はJIS K 7160(1996)の附属書Cに記載の補正式により算出した。なお、式(fi)中の記号は前記同様、以下のとおりである。
WR:ストライカの回転軸周りモーメント(N・m)
α:ストライカの持ち上げ角度(°)
α´:試験片を装着しなかったときのストライカの振り上げ角度(°)
β:試験片を破断したときのストライカの振り上げ角度(°)
【0064】
【数3】
【0065】
表1ないし4に開示の実施例1ないし11及び比較例1ないし5のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムに対し、何れも被積層フィルム部にフィルムFL1を使用した。表中、上から順に、基材層(10)の原料樹脂種類とその配合割合(重量%)、シーラント層(20)の原料樹脂種類とその配合割合(重量%)、実施例及び比較例のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムの厚さ(μm)及びヘーズ(%)、基材層とシーラント層の厚さの層比、フィルム積層体に加工した際のラミネート強度(N/15mm)、引裂強度(N)、シール温度(℃)、シール強度(N/15mm)、破壊エネルギー(J/1.5cm
2)を示す。なお、表中のwt%は重量%を示す。
【0066】
併せて、表1ないし4の実施例及び比較例について、各指標の結果と、製造上の支障、実需要上の観点を総合的に加味して次の3段階の総合評価を下した。良品は評価「A」と「B」であり、不可品は評価「F」である。
・評価「A」:「全ての指標において特に優れている。」
・評価「B」:「概ね優れている。」
・評価「F」:「製品としてふさわしくない。」
【0067】
表5,6,及び7は、総合評価が「A」の実施例2,8と、同評価「F」の比較例1のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムに対し、被積層フィルム部にフィルムFL2,FL3,及びFL4を使用してフィルム積層体に加工した際の物性を表1等と同様に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
[結果・考察]
実施例1ないし11は何れも「A」と「B」の良好な評価であった。AとBの評価の差は破壊エネルギーの高低、外観の程度を加味した結果である。ポリプロピレン系延伸シーラントフィルム内の各層の層比の結果より、基材層とシーラント層の間の層比の自由度は高い。実施例9を除きヘーズの値も安定して低く外観上も透明性が保たれている。なお、実施例9は、ポリプロピレン系樹脂(A)にプロピレン−エチレンブロック共重合体を使用しているため、一様なマット調(つや消し調)を呈してヘーズ値は高くなるものの外観上の問題点はない。さらに、高いシール強度から、アルミニウム箔等を含むレトルト用途に適する。
【0076】
〈基材層の樹脂組成割合〉
基材層の樹脂組成割合に着目すると、比較例1,4,5の熱可塑性エラストマー(B)を含有しない組成では、破壊エネルギーは低い数値に留まった。そこで、実施例4と比較例2との比較から破壊エネルギーの数値の改善のためには熱可塑性エラストマー(B)は15重量%以上の配合が必要と判明した。次に、比較例3の熱可塑性エラストマー(B)が半分を超過した例によると、破壊エネルギーの数値の向上に貢献するものの、エラストマー成分の増大に伴い延伸工程においてフィルムの外観が悪化したため実用上不適当である。従って、実施例8の配合量との間が境界と判断した。以上より、基材層におけるポリプロピレン系樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)の好ましい配合量割合は50ないし85重量%と15ないし50重量%とする範囲であり、より好ましくは60ないし80重量%と40ないし20重量%の範囲である。
【0077】
さらに、シーラントフィルム内の熱可塑性エラストマー(B)が同量である実施例7と比較例4との比較から、基材層に熱可塑性エラストマー(B)を含有することにより破壊エネルギーの数値は向上した。このことから、熱可塑性エラストマー(B)の添加は、基材層であるべきことを示した。
【0078】
基材層に含有されるポリプロピレン系樹脂(A)については、実施例からわかるように各種形態のポリプロピレン系樹脂を使用しても良好な結果を得ることができた。また、シーラント層のポリプロピレン系樹脂も選択自由である。従って、本発明のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムの作製に際し、両層のポリプロピレン系樹脂の選択の自由度は高い。そのため、用途、目的を勘案して最適な樹脂を選ぶことができる。
【0079】
基材層に含有される熱可塑性エラストマー(B)に着目すると、原料04ないし10のエラストマー樹脂の密度は0.869ないし0.890g/cm
3の範囲であり、いずれの実施例も良好な結果を示した。そこで、好ましいエラストマー樹脂の密度は0.860ないし0.895g/cm
3の範囲をすることができる。
【0080】
次に、原料04ないし10のエラストマー樹脂のメルトフローレート(190℃、2.16kg荷重)についても2.0ないし4.0g/10minの範囲であり、いずれの実施例も良好な結果を示した。そこで、妥当な範囲を勘案して0.5ないし10g/10minとした。
【0081】
また、熱可塑性エラストマー(B)自体は、オレフィン系(原料04ないし09)もスチレン系(原料10)も両方とも良好であったことから、いずれの使用も可能である。
【0082】
実施例のポリプロピレン系延伸シーラントフィルムは、被積層フィルム部をフィルムFL1,FL2,FL3,FL4と変更しても安定して良好な破壊エネルギーを示すフィルム積層体に仕上がった。従って、対応可能な被積層フィルム部の種類は広く、用途に応じて使い分けることもでき、易引き裂き性、耐破袋性を兼ね備えた資材としての利便性は極めて高い。