【実施例1】
【0011】
まず、
図1〜
図3を用いて、本発明の実施例1の直流送電システム100を説明する。
【0012】
本実施例の直流送電システム100は、洋上に設置された風力発電システムなどの交流発電システム101で発電された交流電力を、交流発電システム101に近接設置されたAC/DC電力変換装置103(交流−直流電力変換装置)を用いて直流に変換してから長距離送電した後、陸上に設置されたDC/AC電力変換装置104(直流−交流電力変換装置)を用いて直流から交流に変換して電力系統105に送電するものであり、直流送電システム100の直流電圧上昇時に、直流送電システム100の運転停止を回避し、運転継続を図ることができるものである。
【0013】
図1は、直流送電システム100の概念図であり、電気回路を実線で示し、通信経路を点線で示している。ここに示すように、直流送電システム100は、交流発電システム101、交流母線102、AC/DC電力変換装置103、DC/AC電力変換装置104、電力系統105、発電システム群制御装置106、直流送電保護制御装置107、交流電圧検出装置108、電力検出装置109、直流電圧検出装置110、交流送電線A111、交流送電線B112、直流送電線113、交流送電線C114から構成される。以下、各々の構成を詳細に説明する。
【0014】
複数の交流発電システム101の各々は、交流送電線A111を介して、交流母線102と電気的に接続され、交流母線102は、交流送電線B112を介して、AC/DC電力変換装置103と電気的に接続される。また、AC/DC電力変換装置103は、直流送電線113を介してDC/AC電力変換装置104と電気的に接続され、DC/AC電力変換装置104は、交流送電線C114を介して電力系統105と電気的に接続される。
【0015】
交流電圧検出装置108は、交流母線102の交流電圧V
acを検出し、直流送電保護制御装置107に送信する。また、電力検出装置109は、交流送電線B112を流れる入力電力PG1を検出し直流送電保護制御装置107に送信する。さらに、直流電圧検出装置110は、直流送電線113の直流電圧V
dcを検出し、直流送電保護制御装置107に送信する。
【0016】
AC/DC電力変換装置103とDC/AC電力変換装置104は、自己消弧素子を用いて構成される2レベル変換器やモジュラーマルチレベル変換器など、一般に自励式交直電力変換装置と呼ばれる電力変換装置に加え、変圧器や遮断器、保護機器などの電気設備や、センサ、制御装置、通信機器から構成される。
【0017】
発電システム群制御装置106は、交流発電システム101の集中制御を行う制御装置であり、交流発電システム101との相互通信手段を備え、交流発電システム101の運転状態の監視や、交流発電システム101への運転指令や運転動作点の送信を行う。また、直流送電保護制御装置107は、事故時などの緊急時に、交流電圧検出装置108、電力検出装置109、直流電圧検出装置110などからの信号に基づいて、直流送電システム100全体の保護制御を行う制御装置である。なお、直流送電保護制御装置107は、直流電圧V
dc、入力電力PG1、交流電圧V
acの3つの状態量を検出し、AC/DC電力変換装置103と発電システム群制御装置106に指令を与えることを想定しているが、上記以外の状態量の検出や、他の制御装置および機器との通信手段を備えていてもよい。
【0018】
ここで、定常状態の電力潮流を、
図1を用いて説明する。定常状態時には、交流発電システム101で発電された交流電力を、AC/DC電力変換装置103で一旦直流に変換して直流送電線113に送電し、DC/AC電力変換装置104で再度交流に変換して、電力系統105に送電する。各機器や送電線の損失を無視すれば、電力変換前の入力電力PG1と、電力変換後に電力系統105に送電された出力電力PG2の大きさは大略等しく、また、この時、直流送電線113での直流電圧V
dcは大略一定に保たれている。
【0019】
これに対し、落雷等の影響によって交流送電線C114の電圧が零まで低下し、電力系統105への送電能力が低下したことに伴う、直流送電線113の直流電圧V
dc上昇時の運転継続制御について、
図2、
図3を用いて説明する。
【0020】
図2は、落雷などの事故によって、電力系統105への送電能力低下が発生した時の、(a)交流送電線C114の電圧、(b)入力電力PG1と出力電力PG2、(c)直流送電線113の直流電圧V
dc、(d)交流母線102の交流電圧V
acの時間変化の各概念図であり、縦軸は各要素の大きさ、横軸は時間を示す。なお、縦軸、横軸は共に任意単位(arbitrary unit、以下「a.u.」と称呼する。)で表記している。
【0021】
図2において、時刻T0は、落雷などの事故が発生した時刻であり、この前が定常状態、この後が非定常状態である。本実施例では、非定常状態時であっても交流発電システム101の動作を継続すべく、後述する、第1の保護制御と第2の保護制御の2つの保護制御を実施する。なお、以下、時刻T1は第1の保護制御を開始する時刻であり、時刻T2は第2の保護制御を開始する時刻である。
【0022】
時刻T0前の定常状態時には、交流送電線C114の電圧、入力電力PG1、出力電力PG2、直流電圧V
dc、交流電圧V
acは何れも1.0[a.u.]である。
【0023】
時刻T0から始まる非定常状態では、
図2(a)に示すように、交流送電線C114の電圧が0.0[a.u.]に低下する。また、
図2(b)に示すように、入力電力PG1に変化はないが、交流送電線C114の電圧低下に伴い、出力電力PG2が0.0[a.u.]に低下する。すなわち、入力電力PG1が出力電力PG2よりも大きくなる。
(第1の保護制御)
次に、時刻T1に実施される第1の保護制御について説明する。第1の保護制御開始前の時刻T0〜時刻T1の時間帯では、入力電力PG1が出力電力PG2よりも大きいため、その差分の電力がAC/DC電力変換装置103、DC/AC電力変換装置104、直流送電線113それぞれのキャパシタンス成分に蓄えられ、結果として、
図2(c)のように、直流送電線113の直流電圧V
dcが上昇する。
【0024】
このとき、直流送電保護制御装置107は、直流電圧検出装置110を介して直流電圧V
dcを検出し、直流電圧V
dcの時間変化率dV
dcを演算する。この時間変化率dV
dcは、例えば、(式1)で計算される。
【0025】
【数1】
【0026】
V
dc[T]:時刻Tにおける直流電圧V
dcの検出値
V
dc[T−ΔT]:時刻TからΔTだけ前の直流電圧V
dcの検出値
なお、(式1)中のΔTは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に設定可能であり、ΔTを短くすると、直流電圧V
dcの検出系に含まれるノイズの影響が大きくなる懸念があるが、この場合には、直流電圧V
dcの検出値をそのまま(式1)に用いるのではなく、ローパスフィルタなどのノイズ低減処理を行うことで、その影響を解消することが可能である。
【0027】
時刻T0〜T1の時間変化率dV
dcが、直流送電保護制御装置107内で予め定められた閾値dV
dcthよりも大きい場合、直流送電保護制御装置107は発電システム群制御装置106に、事故発生フラグFlgと、入力電力PG1と出力電力PG2を一致させたいときに用いる事故中の電力指令値PG1
refを送信する。以下では、事故中の電力指令値PG1
refを0.2[a.u.]とした場合を例に説明を続ける。
【0028】
図2(c)に示す時刻T0〜T1の時間変化率dV
dc(直流電圧V
dcの傾き)が閾値dV
dcthよりも大きい場合、直流送電保護制御装置107から事故発生フラグFlgと電力指令値PG1
ref(0.2[a.u.])を受け取った発電システム群制御装置106は、定常状態の交流発電システム101の運転状態に基づいて、各交流発電システム101の運転指令値を算出し、各交流発電システム101に送信する。これにより、通常は、各交流発電システム101の発電の総和である入力電力PG1と出力電力PG2が一致するので、交流発電システム101の運転停止を回避することができる。
【0029】
なお、運転指令値の算出方法については、たとえば、予め、事故前の各交流発電システム101の発電電力の大きさに基づいて、交流発電システム101をランキング化し、入力電力PG1=電力指令値PG1
refを満たすように、発電電力の大きいものから順に、発電電力を減少させるように運転指令値を作成する方法が考えられる。交流発電システム101の発電電力の制御については、連続的に発電電力制御を行うほか、緊急解列を行うことも有効である。
【0030】
本実施例においては、入力電力PG1=電力指令値PG1
refを満たすように、発電システム群制御装置106で各交流発電システム101の発電電力が制御されればよく、具体的な運転指令値の算出方法は、上記の手法に限定されない。
(第2の保護制御)
上述したように、通常であれば、第1の保護制御を実施することで、入力電力PG1と出力電力PG2が一致し、直流電圧V
dcが一定に保たれるため、直流送電システム100の運転停止は回避されるが、ある条件下では、電力指令値PG1
refに基づく制御を行っても入力電力PG1と出力電力PG2が一致せず、そのまま放置すると直流送電線113の直流電圧V
dcが上昇し続け、直流送電システム100が運転停止する場合がある。これを回避するため、本実施例では、一定条件下で、第1の保護制御を実行した後、第2の保護制御を実行する。以下、この第2の保護制御について詳細に説明する。
【0031】
図2(b)の時刻T1〜T2に例示するように、第1の保護制御によっても、入力電力PG1と出力電力PG2が等しくならなかった場合、直流送電線113に含まれるキャパシタンス成分などの影響により、直流電圧V
dcの上昇は継続する。
図2(b)の場合、入力電力PG1=0.2[a.u.]に対し、出力電力PG2=0.0[a.u.]であるため、
図2(c)に示すように直流電圧V
dcの上昇が継続し、これを放置すると直流送電システム100の運転停止に繋がる。
【0032】
そこで、第1の保護制御を開始した後も、直流電圧V
dcを監視しておき、これが予め定められた閾値V
dcthよりも大きくなった場合、第2の保護制御を開始する。本実施例では、予め閾値V
dcth=1.1[a.u.]と設定されており、直流電圧V
dcが1.1[a.u.]に達した時刻T2に第2の保護制御、すなわち、
図2(d)に示す、直流電圧V
dcの基準値からの上昇幅に応じてAC/DC電力変換装置103に入力される交流電圧V
acを上昇させる制御、を開始する。
【0033】
ここで、
図3を用いて、AC/DC電力変換装置103と交流発電システム101の運転特性を説明する。
図3左図はAC/DC電力変換装置103の運転特性図であり、縦軸に交流電圧V
acの基準動作点からの変化幅ΔV
acを取り、横軸に直流電圧V
dcの基準動作点からの変化幅ΔV
dcを取ったものである。また、
図3右図は交流発電システム101の運転特性図であり、縦軸に交流電圧V
acの基準動作点からの変化幅ΔV
acを取り、横軸に出力電力PGの基準動作点からの変化幅ΔPGを取ったものである。ここに示した運転特性を、AC/DC電力変換装置103と交流発電システム101の夫々に予め持たせることで、第2の保護制御中は、各機器が定められた運転特性に従って自立的に動作することが可能となる。なお、
図3では、交流電圧V
ac、直流電圧V
dc、電力PGの全てが1.0[a.u.]の場合を基準動作点として例示したが、本発明の要旨を逸脱しない限り、運転状況に合わせて任意の基準動作点に設定可能である。
【0034】
図2(c)に示したように、時刻T2において直流電圧V
dcが1.1[a.u.]に到達し、その後、直流電圧V
dcが更に上昇すると、
図3左図の運転特性図に従って、AC/DC電力変換装置103は、交流電圧V
acを所定量だけ上昇させる。
【0035】
これを
図3左図を用いて説明すると、変化幅ΔV
dcが0.1[a.u.]上昇すると(直流電圧V
dcが1.1[a.u.]に上昇すると)、AC/DC電力変換装置103は、
図3左図の運転特性に示されるように、変化幅ΔV
acを0.1[a.u.]だけ上昇させる(交流電圧V
acを1.1[a.u.]に上昇させる)。
【0036】
また、
図3右図に示すように、変化幅ΔV
acが0.1[a.u.]上昇すると、各々の交流発電システム101は
図3右図の運転特性図に従って、各々が発電する電力PGを0.2[a.u.]だけ減少させる。そして、各々の電力PGが減少することで、それらの総和である入力電力PG1も所定量だけ減少する。この第2の保護制御は、直流電圧V
dcが1.1[a.u.]を超える間、繰り返されるため、入力電力PG1が漸減し、入力電力PG1と出力電力PG2の差分が0に近づき、最終的には入力電力PG1=出力電力PG2となる動作平衡点で直流電圧V
dcは一定となる。
【0037】
以上で説明したように、第1の保護制御によっても、入力電力PG1と出力電力PG2が一致しない場合は、第2の保護制御を実施することによって、直流電圧V
dcを一定に保つことができ、直流発電システム101の運転停止を回避することができる。
【0038】
以上が実施例1における運転継続制御であり、電力系統105への送電能力が回復した場合には、第1の保護制御および第2の保護制御を停止し、時刻T0以前の状態に戻すように直流送電システム100内の各機器を制御すればよい。
【0039】
なお、実施例1では、
図3に示したように、第2の保護制御として交流発電システム101の運転特性を、交流母線102の交流電圧V
acに基づいて決定していたが、交流電圧V
acに代わって、交流発電システム101と交流送電線A111の接続点の電圧に基づいて決定してもよい。
【0040】
また、実施例1では、第1の保護制御を行った後、第2の保護制御を行うという形態を取っているが、第1の保護制御と第2の保護制御を同時に行うような形態であってもよい。この場合、第1の保護制御における交流発電システム101の運転指令値を演算する際に、
図3の運転特性図を考慮して演算することで、第1の保護制御と第2の保護制御の干渉を避けることが可能である。
【実施例4】
【0053】
次に、
図6を用いて実施例4の直流送電システム400について説明する。
【0054】
実施例1〜実施例3の直流送電システムは、風力発電システムなどの交流発電システム101で発電された交流電力を、AC/DC電力変換装置103を用いて直流に変換して送電し、再度、直流から交流に変換して電力系統105に送電するものであったが、実施例4の直流送電システム400は、太陽光発電システムなどの直流発電システム601で発電された直流電力を、DC/DC電力変換装置603(直流―直流電力変換)で昇圧してから送電し、DC/AC電力変換装置104再度、直流から交流に変換して電力系統105に送電するものである。この直流送電システム400に第1、第2の保護制御を適用した場合でも、実施例1〜実施例3と同様の効果を得ることができることを説明する。
【0055】
図6は実施例4の直流送電システム400のシステム概念図であり、
図1の交流発電システム101が直流発電システム601に代わり、交流母線102が直流母線602に代わり、AC/DC電力変換装置103がDC/DC電力変換装置603に代わり、交流送電線A111が直流送電線A604に代わり、交流電圧検出装置108が直流電圧検出装置605に代わり、交流送電線B112が直流送電線B606に代わったものである。
【0056】
実施例1の第1の保護制御では、直流送電線113の時間変化率dV
dcに基づいて、交流発電システム101の発電電力を制御したが、本実施例の構成であっても、同等の第1の保護制御により直流発電システム601の運転停止を防止することができる。また、実施例1の第2の保護制御では、直流電力V
dcの大きさに基づいて、交流発電システム101の発電電力を制御したが、本実施例の構成であっても、同等の第2の保護制御により直流発電システム601の運転停止を防止することができる。
【0057】
なお、第2の保護制御については、実施例1の
図3では、交流発電システム101の特性として、交流母線102の交流電圧V
acに基づいて、発電電力を制御できるものとしたが、実施例4では、直流発電システム601の特性として、交流電圧V
acに代わって、直流母線602の直流電圧V
dc2に基づいて、発電電力を制御できるものとすることで、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0058】
ゆえに実施例4でも、実施例1と同様の保護制御を実施することで、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0059】
なお、実施例4では、実施例1の
図3に倣い、第2の保護制御として直流発電システム601の運転特性を、直流母線602の直流電圧V
dc2に基づいて決定するが、直流電圧V
dc2に代わって、直流発電システム601と直流送電線A604の接続点の電圧に基づいて決定してもよい。
【0060】
また、実施例4では、実施例1と同様に、第1の保護制御を行った後、第2の保護制御を行うという形態を取っているが、第1の保護制御と第2の保護制御を重複して行うような形態であってもよい。
【0061】
この場合、第1の保護制御における直流発電システム601の運転指令値を演算する際に、
図3の運転特性図を考慮して演算することで、第1の保護制御と第2の保護制御の干渉を避けることが可能である。
【0062】
また、実施例4でも、実施例2と同様に、電力吸収装置401が直流母線602や直流発電システム601に接続されるような構成であってもよい。さらに、実施例4でも、実施例3と同様に、発電システム群制御装置106と直流送電保護制御装置107の機能を一体化したシステム保護制御装置501を用いることで両者間の信号の遅延を抑制する構成としてもよい。