【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、2層以上の積層構造を有する合わせガラス用中間膜であって、少なくとも、合わせガラス用中間膜の最表面に配置される一方の表面に多数の凹部を有する表層と、着色剤を含有する着色層とを有し、前記着色層の前記表層側の表面と、前記表層の多数の凹部を有する表面との距離の最小値が150μm以上である合わせガラス用中間膜である。
以下に本発明を詳述する。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の結果、合わせガラス用中間膜の最表面に配置される表層の表面の凹部と、着色層の表面との距離を一定以上とすることにより、着色層を含む2層以上の樹脂層が積層された合わせガラス用中間膜であっても、合わせガラスの製造時における優れた脱気性と、外観不良の発生の防止とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明の合わせガラス用中間膜は、合わせガラス用中間膜の最表面に配置される表層と、着色剤を含有する着色層との、少なくとも2層以上の積層構造を有する。これにより、合わせガラスの製造時における優れた脱気性と防眩性とを発揮できる。
【0015】
上記表層は、一方の表面に多数の凹部を有する。これにより、合わせガラスの製造時における脱気性を確保することができる。
上記凹部の形状は、少なくとも溝形状を有すればよく、例えば、刻線状、格子状等の、一般的に合わせガラス用中間膜の表面に付与される凹部の形状を用いることができる。上記凹部の形状はエンボスの形状であってもよい。
なかでも、上記凹部が底部が連続した溝形状(刻線状)を有するものであって、隣接する前記凹部が平行して形成されていることが好ましい。一般に、2枚のガラス板の間に合わせガラス用中間膜が積層された積層体を圧着するときの空気の抜け易さは、上記凹部の底部の連通性及び平滑性と密接な関係がある。上記表層の一方の面の凹部の形状を刻線状の凹部が平行して形成された形状とすることにより、上記の底部の連通性はより優れ、著しく脱気性が向上する。
図1及び
図2に、刻線状の凹部が等間隔に平行して形成されている表層を有する合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。
図3に、刻線状の凹部が等間隔ではないが平行して並列している合わせガラス用中間膜の一例を表す模式図を示した。
図3において、凹部1と凹部2との間隔Aと、凹部1と凹部3との間隔Bとは異なる。
【0016】
上記表層の多数の凹部を有する表面は、JIS B 0601(1994)に準拠して測定した十点平均粗さ(Rz)の好ましい下限が15μm、好ましい上限が60μmである。この範囲内であると、合わせガラスの製造時において優れた脱気性を発揮することができる。上記十点平均粗さRzのより好ましい下限は25μm、より好ましい上限は45μmである。
【0017】
本発明の合わせガラス用中間膜において、上記表層の一方の表面に多数の凹部を形成する方法としては、例えば、エンボスロール法、カレンダーロール法、異形押出法等が挙げられる。なかでも、エンボスロール法が好適である。
【0018】
上記エンボスロール法で用いられるエンボスロールとしては、例えば、金属ロール表面に酸化アルミニウムや酸化珪素等の研削材を用いてブラスト処理を行い、次いで表面の過大ピークを減少させるためにバーチカル研削などを用いてラッピングを行うことにより、ロール表面にエンボス模様(凹凸模様)を形成したエンボスロール、彫刻ミル(マザーミル)を用い、この彫刻ミルのエンボス模様(凹凸模様)を金属ロール表面に転写することにより、ロール表面にエンボス模様(凹凸模様)を形成したエンボスロール、エッチング(蝕刻)によりロール表面にエンボス模様(凹凸模様)を形成したエンボスロール等が挙げられる。
【0019】
上記着色層は、着色剤を含有するものであり、例えば本発明の合わせガラス用中間膜を車輌用合わせガラスとしたときに、太陽光線が直接運転者の視界に入るのを防止し、高い防眩性を付与する役割を有する。
【0020】
上記着色層は、本発明の合わせガラス用中間膜の全面に配置されていてもよいが、一部にのみ配置されていてもよい。例えば本発明の合わせガラス用中間膜を車輌用合わせガラスとしたときに、該車輌用合わせガラスの上辺部に沿って帯状になるように配置されてもよい。
図4に、上辺部に沿って帯状になるように着色層が配置された車輌用合わせガラスを示す模式図を示した。
【0021】
上記着色層は、断面形状が矩形であってもよく、楔形、台形、三角形であってもよい。例えば本発明の合わせガラス用中間膜を車輌用合わせガラスとしたときに、上記着色層の断面形状が楔形、台形、三角形である場合には、該車輌用合わせガラスの上辺部から下辺部に向かって着色にグラデーションを付与することができる(
図4)。
【0022】
本発明の合わせガラス用中間膜では、上記着色層の表層側の表面と、上記表層の多数の凹部を有する表面との距離の最小値が150μm以上である。これにより、合わせガラスの製造工程における優れた脱気性を確保しながら、着色部の外観不良の発生を防止することができる。上記着色層の表層側の表面と、上記表層の多数の凹部を有する表面との距離の最小値は200μm以上であることが好ましく、240μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることが更に好ましい。
なお、本発明の合わせガラス用中間膜が、一方の表面に多数の凹部を有する表層を両面に有する少なくとも3層以上の積層体からなる場合には、上記着色層の表層側の表面と、いずれもの表層の多数の凹部を有する表面との距離の最小値が150μm以上でなくてはならない。
【0023】
図5に上記着色層の表層側の表面と、上記表層の多数の凹部を有する表面との距離の測定方法を説明する模式図を示した。
図5は、合わせガラス用中間膜の着色層及び表層を含む部分の断面を示す。
図5(a)において、合わせガラス用中間膜51は、断面が矩形の着色層511上に、一方の表面に多数の凹部を有する表層512が積層されている。
図5(a)においては、表層512の凹部の底部から着色層511の表層側の表面までの距離aが、上記着色層の表層側の表面と、上記表層の多数の凹部を有する表面との距離の最小値となる。
図5(b)において、合わせガラス用中間膜52は、断面が楔形の着色層521上に、一方の表面に多数の凹部を有する表層522が積層されている。
図5(b)においては、表層522の凹部の底部から着色層521の表層側の表面までの距離bが、上記着色層の表層側の表面と、上記表層の多数の凹部を有する表面との距離の最小値となる。
【0024】
本発明の合わせガラス用中間膜は、合わせガラス用中間膜の最表面に配置される表層と、着色剤及び熱可塑性樹脂を含有する着色層との、少なくとも2層以上の積層構造を有するが、3層以上の積層構造を有するものであってもよく、4層以上の積層構造を有するものであってもよい。性質の異なる複数の層を積層することにより、単層構造では実現できない種々の性能を発揮することが可能となる。
【0025】
本発明の合わせガラス用中間膜を構成する各層は、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。上記熱可塑性樹脂として、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はポリビニルアセタール、又は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含有することが好ましく、ポリビニルアセタールを含有することがより好ましい。
本発明の合わせガラス用中間膜を構成する各層は、ポリビニルアセタールと可塑剤とを含むことが好ましい。
【0026】
図6に、本発明の合わせガラス用中間膜の好ましい態様の1例を示す模式図を示した。
図6は、合わせガラス用中間膜の断面を示す。以下、
図6をもとに、本発明の合わせガラス用中間膜についてより詳しく説明する。
図6の合わせガラス用中間膜6は、一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61、遮音層62、着色層63及び第2の保護層64がこの順に積層された4層構造を有する。
【0027】
上記合わせガラス用中間膜6において、上記遮音層62は遮音性を付与する役割を有する。上記遮音層62は、ポリビニルアセタールXと可塑剤とを含有することが好ましい。
上記ポリビニルアセタールXは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、得られる遮音中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、遮音層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
なお、上記ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により求められる。
【0028】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は4、好ましい上限は6である。アルデヒドの炭素数を4以上とすることにより、充分な量の可塑剤を安定して含有させることができ、優れた遮音性能を発揮することができる。また、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。アルデヒドの炭素数を6以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保できる。上記炭素数が4〜6のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド、n−バレルアルデヒド等が挙げられる。
【0029】
上記ポリビニルアセタールXの水酸基量の好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量を30モル%以下とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトを防止することができる。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量のより好ましい上限は28モル%、更に好ましい上限は26モル%、特に好ましい上限は24モル%、好ましい下限は10モル%、より好ましい下限は15モル%、更に好ましい下限は20モル%である。上記ポリビニルアセタールXの水酸基量は、水酸基が結合しているエチレン基量を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。上記水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXの水酸基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0030】
上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の好ましい下限は60モル%、好ましい上限は85モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を60モル%以上とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、可塑剤のブリードアウトや白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量を85モル%以下とすることにより、ポリビニルアセタールXの合成を容易にし、生産性を確保することができる。上記ポリビニルアセタールXのアセタール基量の下限は65モル%がより好ましく、68モル%以上が更に好ましい。
上記アセタール基量は、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法により、上記ポリビニルアセタールXのアセタール基が結合しているエチレン基量を測定することにより求めることができる。
【0031】
上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は30モル%である。上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を0.1モル%以上とすることにより、遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができ、ブリードアウトを防止することができる。また、上記ポリビニルアセタールXのアセチル基量を30モル%以下とすることにより、遮音層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は1モル%、更に好ましい下限は5モル%、特に好ましい下限は8モル%、より好ましい上限は25モル%、更に好ましい上限は20モル%である。上記アセチル基量は、主鎖の全エチレン基量から、アセタール基が結合しているエチレン基量と、水酸基が結合しているエチレン基量とを差し引いた値を、主鎖の全エチレン基量で除算して求めたモル分率を百分率(モル%)で表した値である。
【0032】
特に、上記遮音層62に遮音性を発揮するのに必要な量の可塑剤を容易に含有させることができることから、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が65モル%以上のポリビニルアセタールであることが好ましい。また、上記ポリビニルアセタールXは、上記アセチル基量が8モル%以上のポリビニルアセタール、又は、上記アセチル基量が8モル%未満、かつ、アセタール基量が68モル%以上のポリビニルアセタールであることが、より好ましい。
【0033】
上記可塑剤としては、合わせガラス用中間膜に一般的に用いられる可塑剤であれば特に限定されず、例えば、一塩基性有機酸エステル、多塩基性有機酸エステル等の有機可塑剤や、有機リン酸化合物、有機亜リン酸化合物等のリン酸可塑剤等が挙げられる。
上記有機可塑剤として、例えば、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、ジエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ジエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエート等が挙げられる。なかでも、上記樹脂層はトリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、又は、トリエチレングリコール−ジ−n−ヘプタノエートを含むことが好ましく、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートを含むことがより好ましい。
【0034】
上記遮音層62における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールX100質量部に対する好ましい下限が45質量部、好ましい上限が80質量部である。上記可塑剤の含有量を45質量部以上とすることにより、高い遮音性を発揮することができ、80質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトが生じて、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は50質量部、更に好ましい下限は55質量部、より好ましい上限は75質量部、更に好ましい上限は70質量部である。
【0035】
上記遮音層62の厚み方向の断面形状が矩形状である場合には、上記遮音層62の厚さの好ましい下限は50μmである。上記遮音層62の厚さを50μm以上とすることにより、充分な遮音性を発揮することができる。上記遮音層62の厚さのより好ましい下限は80μmである。なお、上限は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜としての厚さを考慮すると、好ましい上限は300μmである。
【0036】
上記遮音層62は一端と、上記一端の反対側に他端とを有し、上記他端の厚みが、上記一端の厚みよりも大きい形状を有していてもよい。この場合、上記遮音層62の最小厚みの好ましい下限は50μmである。上記遮音層62の最小厚みを50μm以上とすることにより、充分な遮音性を発揮することができる。上記遮音層62の最小厚みのより好ましい下限は80μmであり、更に好ましい下限は100μmである。なお、上記遮音層62の最大厚みの上限は特に限定されないが、合わせガラス用中間膜としての厚さを考慮すると、好ましい上限は300μmである。上記遮音層62の最大厚みのより好ましい上限は220μmである。
【0037】
上記合わせガラス用中間膜6において、一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61は、合わせガラスの製造工程において優れた脱気性を発揮させるとともに、遮音層62に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下するのを防止し、また、合わせガラス用中間膜に耐貫通性を付与する役割を有する。
上記合わせガラス用中間膜6において、第2の保護層64は、遮音層62に含まれる大量の可塑剤がブリードアウトして、合わせガラス用中間膜とガラスとの接着性が低下するのを防止し、また、合わせガラス用中間膜に耐貫通性を付与する役割を有する。第2の保護層64も、一方の表面に多数の凹部を有する表層であってもよい。これにより、合わせガラス用中間膜の両方の表面に多数の凹部を有することとなり、合わせガラスの製造工程においてより優れた脱気性を発揮することができる。
【0038】
上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64は、例えば、ポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することが好ましく、ポリビニルアセタールXより水酸基量が大きいポリビニルアセタールYと可塑剤とを含有することがより好ましい。
【0039】
上記ポリビニルアセタールYは、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化することにより調製することができる。上記ポリビニルアルコールは、通常、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られる。
また、上記ポリビニルアルコールの平均重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコールの平均重合度を200以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性を向上させることができ、5000以下とすることにより、保護層の成形性を確保することができる。上記ポリビニルアルコールの平均重合度のより好ましい下限は500、より好ましい上限は4000である。
【0040】
上記ポリビニルアルコールをアセタール化するためのアルデヒドの炭素数の好ましい下限は3、好ましい上限は4である。アルデヒドの炭素数を3以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。アルデヒドの炭素数を4以下とすることにより、ポリビニルアセタールYの生産性が向上する。
上記炭素数が3〜4のアルデヒドとしては、直鎖状のアルデヒドであってもよいし、分枝状のアルデヒドであってもよく、例えば、n−ブチルアルデヒド等が挙げられる。
【0041】
上記ポリビニルアセタールYの水酸基量の好ましい上限は33モル%、好ましい下限は28モル%である。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を33モル%以下とすることにより、合わせガラス用中間膜の白化を防止することができる。上記ポリビニルアセタールYの水酸基量を28モル%以上とすることにより、合わせガラス用中間膜の耐貫通性が高くなる。
【0042】
上記ポリビニルアセタールYは、アセタール基量の好ましい下限が60モル%、好ましい上限が80モル%である。上記アセタール基量を60モル%以上とすることにより、充分な耐貫通性を発揮するのに必要な量の可塑剤を含有させることができる。上記アセタール基量を80モル%以下とすることにより、上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64とガラスとの接着力を確保することができる。上記アセタール基量のより好ましい下限は65モル%、より好ましい上限は69モル%である。
【0043】
上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量の好ましい上限は7モル%である。上記ポリビニルアセタールYのアセチル基量を7モル%以下とすることにより、保護層の疎水性を高くして、白化を防止することができる。上記アセチル基量のより好ましい上限は2モル%であり、好ましい下限は0.1モル%である。なお、ポリビニルアセタールYの水酸基量、アセタール基量、及び、アセチル基量は、ポリビニルアセタールXと同様の方法で測定できる。
【0044】
上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64における可塑剤の含有量は、上記ポリビニルアセタールY100質量部に対する好ましい下限が20質量部、好ましい上限が45質量部である。上記可塑剤の含有量を20質量部以上とすることにより、耐貫通性を確保することができ、45質量部以下とすることにより、可塑剤のブリードアウトを防止して、合わせガラス用中間膜の透明性や接着性の低下を防止することができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は30質量部、更に好ましい下限は35質量部、より好ましい上限は43質量部、更に好ましい上限は41質量部である。合わせガラスの遮音性がよりいっそう向上することから、上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64における可塑剤の含有量は、上記遮音層62における可塑剤の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0045】
合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、ポリビニルアセタールYの水酸基量はポリビニルアセタールXの水酸基量より大きいことが好ましく、1モル%以上大きいことがより好ましく、5モル%以上大きいことが更に好ましく、8モル%以上大きいことが特に好ましい。ポリビニルアセタールX及びポリビニルアセタールYの水酸基量を調整することにより、上記遮音層62及び上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64における可塑剤の含有量を制御することができ、上記遮音層62のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
また、合わせガラスの遮音性がより一層向上することから、上記遮音層62におけるポリビニルアセタールX100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Xともいう。)は、上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64におけるポリビニルアセタールY100質量部に対する、可塑剤の含有量(以下、含有量Yともいう。)より多いことが好ましく、5質量部以上多いことがより好ましく、15質量部以上多いことが更に好ましく、20質量部以上多いことが特に好ましい。含有量X及び含有量Yを調整することにより、上記遮音層62のガラス転移温度が低くなる。結果として、合わせガラスの遮音性がより一層向上する。
【0046】
上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64の厚さは、保護層としての役割を果たし得る範囲に調整すればよく、特に限定されない。上記保護層の断面形状が矩形状である場合、上記保護層の厚さの好ましい下限は100μm、より好ましい下限は300μm、更に好ましい下限は400μm、特に好ましい下限は450μmである。上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64の厚さの上限については特に限定されないが、充分な遮音性を達成できる程度に遮音層62の厚さを確保するためには、実質的には500μm程度が上限である。
【0047】
上記保護層は一端と、上記一端の反対側に他端とを有し、上記他端の厚みが、上記一端の厚みよりも大きい形状を有していてもよい。上記保護層の厚さは、上記保護層の役割を果たし得る範囲に調整すればよく、特に限定されない。ただし、上記保護層上に凹凸を有する場合には、直接接する上記遮音層との界面への凹凸の転写を抑えられるように、可能な範囲で厚くすることが好ましい。具体的には、上記保護層の最小厚みの好ましい下限は100μm、より好ましい下限は300μm、更に好ましい下限は400μm、特に好ましい下限は450μmである。上記保護層の最大厚みの上限については特に限定されないが、充分な遮音性を達成できる程度に遮音層の厚さを確保するためには、実質的には1000μm程度が上限であり、800μmが好ましい。
【0048】
本発明の合わせガラス用中間膜は、一端と、上記一端の反対側に他端とを有していてもよい。上記一端と上記他端とは、中間膜において対向し合う両側の端部である。本発明の合わせガラス用中間膜では、上記他端の厚みが、上記一端の厚みよりも大きいことが好ましい。このような一端と他端の厚みが異なる形状を有することで、本発明の合わせガラス用中間膜を用いた合わせガラスをヘッドアップディスプレイとして好適に用いることができ、その際に、二重像の発生を効果的に抑制できる。本発明の合わせガラス用中間膜は、断面形状が楔形であってもよい。合わせガラス用中間膜の断面形状が楔形であれば、合わせガラスの取り付け角度に応じて、楔形の楔角θを調整することにより、ヘッドアップディスプレイにおいて二重像の発生を防止した画像表示が可能となる。二重像をより一層抑制する観点から、上記楔角θの好ましい下限は0.1mrad、より好ましい下限は0.2mradであり、更に好ましい下限は0.3mrad、好ましい上限は1mrad、より好ましい上限は0.9mradである。なお、例えば押出機を用いて樹脂組成物を押出し成形する方法により断面形状が楔形の合わせガラス用中間膜を製造した場合、薄い側の一方の端部からわずかに内側の領域(具体的には、一端と他端との間の距離をXとしたときに、薄い側の一端から内側に向かって0X〜0.2Xの距離の領域)に最小厚みを有し、厚い側の一方の端部からわずかに内側の領域(具体的には、一端と他端との間の距離をXとしたときに、厚い側の一端から内側に向かって0X〜0.2Xの距離の領域)に最大厚みを有する形状となることがある。本明細書においては、このような形状も楔形に含まれる。
【0049】
上記着色層63は、合わせガラス用中間膜に高い防眩性を付与する役割を有する。
上記着色層63は、例えば、着色剤とポリビニルアセタールと可塑剤とを含有することが好ましい。
上記着色層63に用いるポリビニルアセタール、可塑剤については特に限定されず、上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61、遮音層62及び第2の保護層64に用いるものと同様のものを用いることができる。
【0050】
上記着色剤は、フタロシアニン、アントラキノン、ペリレン、酸化チタン等の誘導体やアゾ加工物、カーボンブラック等の染料又は顔料を、界面活性剤を用いて可塑剤に分散させたものを用いる。具体的には例えば、住化カラー社製の商品名「SG−8E905」、「SG−4E408」、「SG−100N」、「SG−5A1251」、「SG−4A1053」等の市販品を用いることができる。上記着色剤はこれらの市販品に限定されず、2種類以上の混合物を用いてもよい。
【0051】
上記着色層63中の着色剤の濃度は特に限定されず、求められる防眩性、着色剤の種類、着色層の厚み等に基づいて、適宜選択すればよい。
上記着色層63の厚みは特に限定されず、求められる防眩性、着色剤の種類、着色剤の濃度等に基づいて、適宜選択すればよい。また、上記着色層63は、一端と、上記一端の反対側に他端とを有していてもよく、厚み方向の断面形状が楔形であってもよい。
【0052】
上記合わせガラス用中間膜6を構成する各層は、接着力調整剤を含有することが好ましい。特に、合わせガラスを製造するときに、ガラスと接触する上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64は、接着力調整剤を含有することが好ましい。
上記接着力調整剤としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。上記接着力調整剤として、例えば、カリウム、ナトリウム、マグネシウム等の塩が挙げられる。
上記塩を構成する酸としては、例えば、オクチル酸、ヘキシル酸、2−エチル酪酸、酪酸、酢酸、蟻酸等のカルボン酸の有機酸、又は、塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。合わせガラスを製造するときに、ガラスと樹脂層との接着力を容易に調製できることから、ガラスと接触する上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61及び第2の保護層64は、接着力調整剤として、マグネシウム塩を含むことが好ましい。
【0053】
上記合わせガラス用中間膜6を構成する各層は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、接着力調整剤として変成シリコーンオイル、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
【0054】
上記合わせガラス用中間膜6を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記一方の表面に多数の凹部を有する表層(第1の保護層)61、遮音層62、着色層63及び第2の保護層64を、押し出し法、カレンダー法、プレス法等の通常の製膜法によりシート状に製膜した後、積層する方法等が挙げられる。
【0055】
本発明の合わせガラス用中間膜は、車両用途に好適に用いることができ、車両用のフロントガラスに特に好適に用いることができる。
本発明の合わせガラス用中間膜が、一対のガラス板の間に積層されている合わせガラスもまた、本発明の1つである。
上記ガラス板は、一般に使用されている透明板ガラスを使用することができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ガラスの表面に紫外線遮蔽コート層を有する紫外線遮蔽ガラスも用いることができる。更に、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、透明フロート板ガラスと、グリーンガラスのような着色されたガラス板との間に、本発明の合わせガラス用中間膜を積層した合わせガラスが挙げられる。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。