(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
従来例として挙げた上記の回路基板は、導体回路にめっき膜が用いられている。ところが、めっき膜は、導電性が高いものの、回路基板を構成する基材が有機樹脂によって形成されたものである場合には、両者の材料の違いから基材に対する導体回路の接着強度が低く、剥がれやすいという問題がある。
【0008】
本実施形態の回路基板Aは、下記の構成を成す基材1の表面1aに金属塗膜3を有する。基材1は平板状の基板5と、該基板5のおもて面から突出した台座7とで構成されてい
る。基板5および台座7の表面5a、7aのうち平坦な部位をそれぞれ平坦部5af、7afとする。また、基板1から台座3に移る部位を移行部9とする。
図1(a)(b)において符号11を付した部位は角部である。
【0009】
基材1は有機樹脂によって形成されている。金属塗膜3は針状または扁平状の金属粒子3aと樹脂成分3bとを含んでいる。
【0010】
ここで、金属塗膜3については、基板5および台座7の表面5a、7aのうち平坦な部位(平坦部5af、7af)に形成された部分を平坦部膜3Aとする。基板1から台座3に移る移行部9を覆うように形成された部分、ならびに基板1および台座3のそれぞれの角部11を覆うように形成された部分を屈曲部膜3B(3BS、3BC)とする。
【0011】
本実施形態の回路基板Aでは、平坦部膜3Aを構成する金属粒子3aが基板5および台座7の表面5a、7aに沿う方向に配向している。
【0012】
本実施形態の回路基板Aによれば、有機樹脂によって形成された基材1(基板5および台座7)上に形成されている金属塗膜3が針状または扁平状の金属粒子3aと樹脂成分3bとの複合材料によって形成されたものであるため、基材1と金属塗膜3とが有機材料同士で接着することになり、高い接着強度を実現できる。
【0013】
また、この金属塗膜3のうち、基板5および台座7の表面5a、7aに位置する平坦部膜3Aは、これら基材1の表面1a(基板5の表面5a、台座7の表面7a)に沿う方向に配向しているため、金属粒子5aと基材1との接着面積が大きくなり、これによっても両者間で高い接着強度を得ることができる。
【0014】
この場合、金属塗膜3の一部は、基材1(基板5、台座7)に埋設されているのが良い。また、金属塗膜3は、その表面が基材1の表面1a(基板5の表面5a、台座7の表面7a)と同一高さとなり面一となるように埋設されているのが良い。金属塗膜3が基材1(基板5、台座7)に埋設され、しかもその表面が基材1の表面1a(基板5の表面5a、台座7の表面7a)と面一となる構造であると、金属塗膜3の基材1(基板5、台座7)に対する接着強度をさらに高めることが可能になる。
【0015】
さらに、金属塗膜3のうち、基板5および台座7の平坦な表面5a、7aに位置する平坦部膜3Aでは、金属粒子3aが基板5および台座7のそれぞれの表面5a、7aに配向した構造となっていることから、基板5および台座7の表面5a、7aに沿う方向に配列している金属粒子3aの個数を少なくすることができる。これにより、単位長さにおいて、金属粒子3a間に存在する樹脂成分3bの割合を少なくすることができる。また、金属粒子3a同士、特に、金属粒子3aの長手方向に対して垂直な短手方向における接触面積を大きくすることができるため、金属塗膜3A中に樹脂成分3bが含まれていても導電率の高い平坦部膜3A(金属塗膜3)を得ることができる。
【0016】
ここで、針状または扁平状の金属粒子3aとは、回路基板を断面視して金属粒子3aを観察したときに、金属粒子3aの長手方向の長さL
Lが短手方向L
Sよりも長いものを言い、その比(L
L/L
S)が1.5以上であるものを言う。L
L/L
S比の最大値としては、量産可能な金属粒子3aの形状として5を例示できる。
【0017】
平坦部膜3Aを構成する金属粒子3aが基板5および台座7の表面5a、7aに配向している状態とは、回路基板Aの断面を観察したときに、金属粒子3aの長手方向が基板5および台座7の表面5a、7aに沿う方向に向いている個数割合が60%以上となっている状態のことを言う。この場合、金属粒子3aは、例えば、
図2(b)に示すように、基
板5および台座7の表面5a、7aに沿う方向の長さLxとし、表面5a、7aに垂直な方向の長さをLyとしたときに、Lxとして10μmの幅を選択し、Lyを金属塗膜3の全厚みとしたときの面積内のものを計測すればよい。
【0018】
金属粒子3aの長手方向が基板5および台座7の表面5a、7aに沿う方向に向いている状態というのは、
図2(c)に示すように、例えば、基板5の表面5aに沿って基準線Lstを引いたときに、その基準線Lstに対して、金属粒子3aの長手方向の向きの角度θが±10°以内に入っているものを言う。
【0019】
基材1を構成する有機材料としては、種々の有機材料を適用できるが、加熱等によって変形しやすい有機材料が良い。例えば、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリフェニレン系樹脂、アクリル系樹脂およびポリカーボネート系樹脂などを例として挙げることができる。この中で、溶剤を含まない場合でも粘度を変化させることが可能となる有機材料としてエポキシ系樹脂がより好適なものとなる。なお、基材1は有機材料と無機フィラーとを混合した複合材により形成しても良い。
【0020】
金属塗膜3は、上述したように、金属粒子3aと樹脂成分3bとを含んでいるものであるが、ここで用いる樹脂成分3bとしては、基材1に適用される有機材料との相溶性の高いものが良い。例えば、金属塗膜3に含ませる樹脂成分3bと基材1を構成する有機材料とが同じ高分子材料を主成分とするものが良い。金属塗膜3を基材1の表面に形成する場合に、金属塗膜3に含ませる樹脂成分3bと基材1を構成する有機材料とを未硬化の状態で接着させて硬化させると、さらに高い接着強度を得ることができる。
【0021】
金属粒子3aを構成する金属材料としては、金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属材料の他、ニッケルおよび銅などの卑金属材料を適用することができる。この場合、金属粒子3aの形状として、種々のサイズで針状または扁平状のものを得やすいという点から銀が好適なものとなる。
【0022】
また、本実施形態の回路基板Aは、上述のように、基板1から台座3に移る移行部9または台座3の角部11に屈曲部膜3B(3BC、3BS)を有する。この場合、屈曲部膜3Bは、
図2(c)および
図3(c)に示すように、基板5および台座7の表面に沿う方向に配向している第1金属粒子3a1と、移行部9または角部11に対して法線方向(
図2(c)および
図3(c)において符号Lnstを付した線分)に向いている第2金属粒子3a2と、法線方向に対して、第1金属粒子3a1と第2金属粒子3a2との間の角度を有するように向いている第3金属粒子3a3とを含むのが良い。ここで、
図2(c)および
図3(c)に示す線分Lnstは、台座7の表面7aと側面7bとが交わる部分の成す角度の1/2の角度の位置であり、円弧状を成す角部11のほぼ中央から伸びている。
【0023】
回路基板Aにおいて、基板1から台座3に移る移行部9および台座3の角部11に形成された屈曲部膜3Bは、
図2(c)および
図3(c)に示すように、基板1と台座3との成す角度、あるいは台座7の表面7aと側面7bとの成す角度が直角もしくはそれに近い角度に依存して折れ曲がった形状となっている。
【0024】
台座7の角部9に形成された屈曲部膜3BCが、例えば、
図4に示すように、基板5の表面5aまたは台座7の表面7aにそれぞれ平行な方向に配向した金属粒子3a(第1金属粒子3a1)だけで形成されるような組織の場合には、金属粒子3a同士が接触する部分が金属粒子3aの先端部3ap付近に限られることになる。金属粒子3a同士がこのような配列構造を成している場合には、金属粒子3a同士の接触面積が小さくなることから、屈曲部膜3BCにおける導電率が低くなる。
【0025】
これに対し、本実施形態における屈曲部膜3B(3BC、3BS)は、
図2(c)および
図3(c)に示すように、基板5および台座7の表面5a、7aに沿う方向に配向している第1金属粒子3a1の他に、移行部9または角部11に対して法線方向(
図2(c)および
図3(c)において符号Lnstを付した線分)に向いている第2金属粒子3a2とともに、その法線方向に対して、第1金属粒子3a1と第2金属粒子3a2との間の角度を有するように向いている第3金属粒子3a3とを含む組織構造を取っている。このような場合には、金属粒子3a同士が、例えば、第1金属粒子3a1と第3金属粒子3a3、第3金属粒子3a3と第2金属粒子3a2と言った組み合わせのように、接触する角度が少しずつ異なる金属粒子3a同士で接触しているため、金属粒子3a同士の接触面積を大きくすることができる。これにより高い導電率を有する屈曲部膜3B(3BC、3BS)を形成することができる。
【0026】
また、本実施形態の回路基板Aでは、基板5および台座7の表面5a、7aが凹凸状を成す表面構造であっても良い。基板5および台座7の表面5a、7aが凹凸状を成す場合には、
図5(b)に示すように、その凹凸状の表面5a、7aに沿って金属粒子3aが接着するようになるため、基材1の表面1a(基板5の表面5a、台座7の表面7a)と金属塗膜3との間にアンカーとなる凹凸が形成される。これにより基材1(基板5、台座7)と金属塗膜3との間の接着強度を高めることができる。この場合、基材1の表面1a付近(基板5の表面5a付近および/または台座7の表面7a表面付近)では、金属粒子3aが基準線Lstの方向からわずかに角度の付いた状態(基準線Lstから金属塗膜3の厚み方向に向いている)であるため、金属塗膜3の中で金属粒子3a同士が絡み合った状態となる。これにより金属粒子3a同士の接着強度をさらに高めることができる。
【0027】
この場合、基材1の表面1a(基板5の表面5a、台座7の表面7a)の表面粗さ(Ra)は0.2〜0.5μmであるのが良い。
【0028】
また、その基準線Lstに対して、金属粒子3aの長手方向の向いている角度が10°以上である金属粒子3aが配列した厚みの割合は、金属塗膜3の全体の厚みを1としたときに、その厚みの1/3以下であるのが良い。
【0029】
基材1の表面1a(基板5の表面5a、台座7の表面7a)の表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であり、かつ金属粒子3aの長手方向の向く角度が10°以上である金属粒子3aの配列した厚みの割合が、金属塗膜3の全体の厚みの1/3以下である場合には、金属塗膜3の界面抵抗を小さくできる。これにより高周波において導電率の高い回路基板Aを得ることができる。
【0030】
本実施形態の電子回路装置Bは、上記回路基板Aと、該回路基板Aの金属塗膜3上に実装された電子部品13とを備えるものである。
【0031】
電子回路装置Bは、これを構成する回路基板Aが、上述のように、基材1と金属塗膜3との接着強度が高いことから、電子部品13の実装時および長期使用において、高い実装信頼性の高い電子回路装置Bを得ることができる。また、金属塗膜3自体の導電率が高いことから、金属塗膜3のサイズ(配線幅および厚み)を小さくすることができるため、回路基板Aの小型化および電子回路装置Bの小型化を図ることができる。
【実施例】
【0032】
回路基板Aとなる試料(表1の試料1)を
図7(a)(b)(c)に示す手順によって作製した。まず、(a)工程として示しているように、基材1となる樹脂シート21aを作製した。樹脂シート21aは、エポキシ樹脂とシリカ粒子とを配合したスラリをPETフィルム22上に塗布しシート状に成形して作製した。スラリはエポキシ樹脂を20質量
%、シリカ粒子を80質量%の割合とし、エポキシ樹脂とシリカ粒子との混合体100質量部に対し、硬化剤を1質量部添加した組成とした。樹脂シート21aの厚みは400μmに調整した。
【0033】
金属塗膜3となる導体パターン21bには、銀粒子を含む導体ペーストを用いた。導体ペーストは、アスペクト比が平均で3の扁平状をした銀粒子をエポキシ樹脂中に分散させて調製した。
【0034】
次に、作製した樹脂シート21aのPETフィルム22と反対側の表面に導体ペーストを印刷して導体パターン21bを形成した。こうして、幅が300μm導体パターン21bを有するパターンシート21を得た。導体パターン21bの厚みは50μmとなるように調整した。作製した樹脂シート21aのPETフィルム22と反対側の表面の表面粗さ(Ra)は0.5μmであった。
【0035】
次に、(b)(c)工程に示しているように、作製したパターンシート21に対してモールド用金型(23、25、符号23aは空間)を用いて加圧加熱を行い、
図1(a)に示すような回路基板Aの予備硬化体を作製した。加圧加熱処理の条件としては、大気中にて、最高温度を75℃とし、圧力を15MPaに設定し、50秒保持する条件を採用した。モールド用金型(23、25)には、基板の面積が1mm×1mm、基板の厚みが0.15mm、台座の面積が0.3mm×0.3mm、台座の高さが0.15mmとなるものを使用した。
【0036】
作製した回路基板Aは、モールド用金型(23、25)による加圧加熱によって、基材1とともに金属塗膜3が可塑変形し、基材1に形成された金属塗膜3の中で、平坦部膜3Aは金属粒子(銀粒子)3aが基材1の表面1aに配向していた。一方、角部11および移行部9の覆う屈曲部膜3Bは、基板5および台座7の表面5a、7aに沿う方向に配向している第1金属粒子3a1と、角部11または移行部9に対して法線方向に向いている第2金属粒子3a2と、法線方向に対して、第1金属粒子3a1と第2金属粒子3a2との間の範囲の角度を成すように向いている第3金属粒子3a3とが混在している状態となっていた。
【0037】
また、作製した回路基板Aに形成された金属塗膜3は基材1(基板5および台座7)の表面5a、7aに面一になるように埋設された状態であった。金属塗膜3の厚みは平均で30μmであった。次に、作製した予備硬化体を、大気中にて、最高温度200℃、無加圧下にて、保持時間6時間の条件で硬化させて回路基板Aとなる試料を作製した。
【0038】
次に、作製した試料を研磨して、
図1(b)(c)に示すような断面が露出する試料を作製した。この試料を用いて基材1の表面粗さ(Ra)と金属塗膜3の金属粒子3aの配列状態を観察した。観察には走査型電子顕微鏡を用いた。
【0039】
次に、作製した回路基板Aの金属塗膜3の表面に銅箔(厚みが0.2mm)を半田付けし、リードプル試験用の試料を作製した。リードプル試験は引き上げ速度を10mm/秒の条件で行った。試料数は各試料10個とした。
【0040】
次に、金属塗膜3の導電性を評価した。金属塗膜3の導電性は、回路基板Aの試料に温度サイクル試験を行って、前後の抵抗変化率を測定して評価した。表1に示す抵抗変化率(Rv)は、温度サイクル試験前の抵抗値をR0、温度サイクル試験後の抵抗値をR1としたときに、(R1−R0)/R0(%)で表される。温度サイクル試験の条件はJEDEC規格を適用した。その条件は、温度範囲が−55〜125℃、昇降温の回数が1000回である。試料数は各試料20個とした。
【0041】
また、試料1よりも基材1の表面粗さ(Ra)の小さい試料を試料2として作製した。試料2は、樹脂シートのPETフィルム側の表面に導体パターンを形成したパターンシートを用いて作製した。基材1の表面粗さ(Ra)は0.1μmであった。
【0042】
また、基板5の移行部9および台座7の角部11付近に存在する金属粒子3aが互いに直行する構造の屈曲部膜3Bを有する回路基板Aを試料3として作製し、同様の評価を行った。まず、導体パターン21bを形成していない樹脂シート21a(厚みは400μm)を準備し、この樹脂シート21aに対してモールド用金型を用いて加圧加熱を行い、
図7(c)に示した符号1の部分である無垢の成形体を作製した。このときの加圧加熱の条件は、最初に、最高温度を75℃とし、圧力を15MPaに設定し、50秒保持する条件を採用した。この後、この成形体の表面に上記と同様に導体パターン21bを印刷によって形成し、最後にラバープレスを行って試料を作製した。ラバープレスは最高温度が200℃、保持時間を6時間とした。
【0043】
比較例(試料4)として、導体パターンを形成していない樹脂シート(厚みは400μm)を準備し、この樹脂シートに対してモールド用金型を用いて加圧加熱を行い、
図7(c)に示した符号27の部分である無垢の成形体を作製した。このときの加圧加熱の条件は、最高温度を75℃とし、圧力を15MPaに設定し、50秒保持する条件を採用した。次いで、最高温度を200℃、保持時間を6時間として熱処理を行った。この後、この成形体の表面に、
図1(a)の構造となるように銀のめっき膜を銀鏡反応によって形成した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に結果から明らかなように、金属塗膜として銀のめっき膜を形成した試料(試料4)は、抵抗変化率は最も小さかったが、接着強度が0.1kg/mm
2と低かった。
【0046】
これに対し、金属塗膜を銀粒子の導体ペーストを用いて作製した試料(試料1〜3)は、抵抗変化率が5〜15%、接着強度が0.3〜0.5Kg/mm
2であった。
【0047】
この中で、基材の表面粗さ(Ra)を0.5μmに調整した試料(試料1)は、接着強度が基材の表面粗さ(Ra)を0.1μmの試料(試料2)よりも高い値を示した。