(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791836
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】熱電式ボタンを備えた時計
(51)【国際特許分類】
H01L 35/30 20060101AFI20201116BHJP
F21L 4/00 20060101ALI20201116BHJP
G04C 10/00 20060101ALI20201116BHJP
G04G 19/00 20060101ALI20201116BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
H01L35/30
F21L4/00 619
G04C10/00 C
G04G19/00 Y
H02N11/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-241457(P2017-241457)
(22)【出願日】2017年12月18日
(65)【公開番号】特開2018-107442(P2018-107442A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2017年12月18日
【審判番号】不服2019-14236(P2019-14236/J1)
【審判請求日】2019年10月25日
(31)【優先権主張番号】16205234.4
(32)【優先日】2016年12月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ・ゲイサス
(72)【発明者】
【氏名】アラン・ジョルノ
【合議体】
【審判長】
加藤 浩一
【審判官】
西出 隆二
【審判官】
小川 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−064921号公報(JP,A)
【文献】
特開2004−227157号公報(JP,A)
【文献】
特開2004−272719号公報(JP,A)
【文献】
特開平8−46249(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0128141号明細書(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L35/30
F21L4/00
G04C10/00
G04G19/00
H02N11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置(AP)であって、
使用時に使用者の身体に触れるハウジング(BT)であって、該ハウジング(BT)の外部に開いたキャビティ(CV)を有するハウジングと、
前記ハウジング(BT)の内部に配置された電気素子(EL)と、
前記電気素子(EL)を作動させるための作動システム(SA)であって、
導電性の端子台(SM)を支持する互いに略平行な電気的絶縁性の第1の板(P1)および電気的絶縁性の第2の板(P2)と、前記第1の板の前記端子台と前記第2の板の前記端子台との間に延在する半導体ピラー(PL)と、を含む操作ボタンとして機能する熱電モジュール(MT)であって、冷極を形成する前記第2の板(P2)は使用時に前記使用者の体温と同温となり得る前記キャビティ(CV)の壁(FD)に直接当接して配置されるとともに、高摩擦係数を有する材料で構成されまたは高摩擦係数を有する材料で構成された層を含み温極を形成する前記第1の板(P1)は前記使用者の身体で擦れるように前記ハウジング(BT)の外側からアクセス可能であるように、前記キャビティ(CV)内に収容されている熱電モジュール(MT)と、
前記第2の板(P2)の前記端子台(SM)の2つを前記電気素子(EL)に接続する電子伝送回路(CT)と、を有する、作動システムと、を備える装置。
【請求項2】
前記電子伝送回路(CT)は、DC−DCコンバータ(CC)と、前記ハウジング(BT)の中を通る2つの電気配線(F1,F2)と、を含み、前記電気配線の各々は、前記第2の板(P2)の端子台(SM)と前記DC−DCコンバータ(CC)の両方に接続されている、請求項1に記載の装置(AP)。
【請求項3】
前記電子伝送回路(CT)は、前記DC−DCコンバータ(CC)の出力に配置された蓄電池(CD)と、その充電量が閾値を超えたときの前記蓄電池(CD)の放電のために前記蓄電池(CD)と前記電気素子(EL)の両方に接続された制御ユニット(UC)と、を含む、請求項2に記載の装置(AP)。
【請求項4】
前記蓄電池(CD)はキャパシタである、請求項3に記載の装置(AP)。
【請求項5】
前記作動システム(SA)は、前記第1の板(P1)と前記第2の板(P2)との間に配置されるとともに前記熱電モジュール(MT)の側方のを覆う電気絶縁層(IS)を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項6】
前記作動システム(SA)は、中板と、前記中板を前記第1の板(P1)に抗して動かす手段と、を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項7】
当該装置は腕時計であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項8】
当該装置はリモートコントローラであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項9】
当該装置は、電話機であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項10】
前記電気素子(EL)は、発光ダイオードを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【請求項11】
前記電気素子(EL)は、無線周波数送信機を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置(AP)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その装置の電気素子(電気素子は、例えば、LED、電磁波を伝送するためのアンテナ、計時手段などである)を作動させることを可能とする作動システムを備えた装置(例えば、時計、電話機、リモートコントローラなど)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プッシュボタンを操作することによって、装置の電気素子を作動させることが知られている。例えば、ケースの外側に配置されたプッシュボタンを操作することによって時計の文字盤を照明するための手段を作動させること、例えば視聴覚装置またはランプを制御するためにリモートコントロールボタンによってリモートコントロールコマンドを伝送するためのアンテナを作動させること、が知られている。プッシュボタンの操作によって、エネルギー源(一般的にはバッテリ)と電気素子(一般的には発光ダイオードである光源、赤外線光学素子もしくは無線通信素子など)とを電気的に接触させる。
【0003】
ところが、このシステムは、枯渇性の電気エネルギー源(バッテリ)を使用する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のため、本発明は装置に関し、この装置は、
− ハウジングであって、該ハウジングの外部に開いたキャビティを有するハウジングと、
− ハウジングの内部に配置された電気素子と、
− 電気素子を作動させるための作動システムであって、
・導電性端子台を支持する互いに略平行な第1の電気絶縁板および第2の電気絶縁板と、第1の板の端子台と第2の板の端子台との間に延在する半導体ピラーと、を含む熱電モジュールであって、第2の板はキャビティの壁に当接して配置されるとともに、第1の板にはハウジングの外側からアクセス可能であるように、上記キャビティ内に収容されている熱電モジュールと、
・第2の板の端子台の2つを電気素子に接続する電子伝送回路と、を有する、作動システムと、を備える。
【0006】
第1の板は、最初は装置の周囲温度であり、第2の板は、ハウジングのキャビティの壁に当接して配置されているので、最初はハウジングの温度である。例えば、第1の板に載せた指からの自然な温もりが伝わることによって、第1の板を指で擦ることによって、または第1の板との摩擦を自ら発生させる中板を駆動することによって、第1の板が温められると、第1の板と第2の板との間に温度差が生じる。その温度勾配の結果、ゼーベック効果によって、第1の板の端子台と第2の板の端子台の間に電位差が生じる。この電位差は、その後、電子伝送回路によって電気素子に伝えられる。従って、作動システムは、可動部品を用いない熱電式プッシュボタンのような挙動を示すとともに、完全密閉され、また、機械式時計と電子式時計の両方に使用することが可能である。
【0007】
留意すべきことは、熱電素子の出力に配置されて、ミリボルトのオーダの電圧をボルトのオーダの電圧に変換することが可能なコンバータを使用して、発光ダイオードを用いて可視光を発生させるのに十分な電力を発生させるには、装置を人体温度よりも低い温度の周囲に配置した場合には、第1の板に指を接触させるだけで十分であるということである。一方、装置が身体に装着されている場合、または人体温度よりも高い温度の周囲に配置した場合に、そのような電力を発生させるためには、第1の板を擦る必要がある。
【0008】
本発明の効果的な実施形態によれば、装置は、以下の特徴を、単独で、または技術的に実現可能な任意の組み合わせで、備えることができる。
【0009】
非限定的な一実施形態では、第1の板は、高摩擦係数を有する材料で構成されるか、または高摩擦係数を有する材料で構成された層を含む。
【0010】
非限定的な一実施形態では、電子伝送回路は、DC−DCコンバータと、ハウジングの中を通る2つの電気配線と、を含み、配線の各々は、第2の板の端子台とコンバータの両方に接続されている。
【0011】
非限定的な一実施形態では、電子伝送回路は、DC−DCコンバータの出力に配置された蓄電池と、その充電量が閾値を超えたときの蓄電池の放電のために蓄電池と電気素子の両方に接続された制御ユニットと、を含む。
【0012】
非限定的な一実施形態では、蓄電池はキャパシタである。
【0013】
非限定的な一実施形態では、作動システムは、第1の板と第2の板との間に配置されるとともに熱電モジュールの側方を覆う電気絶縁層を有する。
【0014】
非限定的な一実施形態では、作動システムは、中板と、中板を第1の板に抗して動かす手段と、を有する。
【0015】
非限定的な一実施形態では、装置は腕時計である。
【0016】
非限定的な一実施形態では、装置はリモートコントローラである。
【0017】
非限定的な一実施形態では、装置は、無線式の壁スイッチである。
【0018】
非限定的な一実施形態では、電気素子は、発光ダイオードを含む。
【0019】
非限定的な一実施形態では、電気素子は、無線周波数送信機を含む。
【0020】
他の特徴および効果は、決して限定するものではない開示によって、添付の図面を参照して以下で提示するその説明から明確に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による時計に搭載される熱電式プッシュボタンの原理の図である。
【
図4】
図4は、
図1の熱電式ボタンの一部をなす電子伝送回路の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本例では腕時計である装置APを示している。当然のことながら、装置APは、必ずしも時計であるとは限らず、例えば、電話機、リモートコントローラ、または無線式の壁スイッチなど、他のタイプの装置とすることができる。時計APは、ハウジングBTを備え、その内部に(
図4に示す)電気素子ELが配置されている。電気素子ELは、例えば、時計の文字盤を照明するために使用される発光ダイオードもしくは発光ダイオード群、または無線周波数送信機である。非限定的な一実施形態では、電気素子は、ダイオード群で構成されており、それぞれのダイオードは、時指標の1つに配置されている。当然のことながら、電気素子ELは、必ずしもダイオードもしくはダイオード群であるとは限らない。電気素子ELは、より一般的には、ある機能を作動させるため、あるモードにするため、などの任意の手段である。
【0023】
時計APは、電気素子ELを作動させるための(
図4に示す)作動システムSAを搭載しており、これは、熱電式プッシュボタンとも呼ばれるものであり、その一部P1を
図1および
図2に示している。
図3に詳細に示すように、作動システムSAは、
− 従来のプッシュボタンに代えて、例えばハウジングBTの側方領域に配置された熱電モジュールMTと、
− ハウジングBTの中を通って、熱電モジュールMTを電気素子ELに接続している電子伝送回路CTと、を有する。
【0024】
熱電モジュールMTは、ハウジングBTの側方領域に形成されてハウジングBTの外部に開いたキャビティCV内に配置されており、すなわち時計APの外側部分に配置されている。周知の従来の形態において、熱電モジュールMTは、第1の電気絶縁板P1と第2の電気絶縁板P2とを含む。第1の板P1は、相互に隣接して配置された複数の導電性端子台SMを支持している。同様に、第2の板P2は、相互に隣接して配置された複数の導電性端子台SMを支持している。ゼーベック効果を最大限に利用するために、第1の板P1の端子台はそれぞれ、1対の半導体ピラーPLによって第2の板P2の端子台の2つに接続されている。各対のピラーPLは、nドープ半導体とpドープ半導体とを含む。第1の板P1と第2の板P2は、互いに略平行に延在しており、ピラーPLは、板P1、P2に対して略垂直に延在している。
【0025】
熱電モジュールMTの冷極を形成する第2の板P2は、キャビティCVの底FDに当接して配置される。従って、第2の板P2に対向する第1の板P1には、ハウジングBTの外側からアクセス可能である。第1の板P1は、熱電モジュールMTの温極を形成している。第1の板P1を温めることによって、熱電モジュールに温度勾配を付与すると、これが、第2の板P2に向かって電荷キャリアが拡散することにつながって、これにより電圧が発生する。作動システムSAは、さらに、第1の板P1と第2の板P2の間で熱電モジュールMTの全周囲に配置された断熱層ISを有する。
【0026】
第1の板P1は、
図1に示すように、例えば、それを指で擦ることによって、温められる。この場合、第1の板P1は、効果的には、高摩擦係数を有する材料で構成されるか、または高摩擦係数を有する材料で覆われる。なお、時計が十分に低温の周囲に配置されている場合に、熱電モジュールMTの出力において数ミリボルトの電圧を発生させるのに十分な温度勾配を形成するためには、第1の板P1に指を接触させるだけで十分であり得る。
【0027】
代替的な一実施形態では、作動システムSAは、中板と、中板を第1の板P1に抗して動かす手段である例えばバネと、を有する。この場合、使用者は、高摩擦係数を有することで触り心地がよくない第1の板P1を触れたり擦ったりする必要なく、中板を動かすだけでよく、中板は、自らを第1の板P1に対して擦り付ける。使用者の快適さを向上させるために、中板は、効果的には、触り心地のよい材料で構成される。
【0028】
図4を参照して、電子伝送回路CTは、以下のものを含む。
− 第2の板P2の端子台SMの2つに接続された2つの電気配線F1、F2であって、これにより、それら2つの端子台の間で半導体ピラーPLは直列になっている。それら2つの端子台は、電気端子を形成している。電気配線F1、F2は、ハウジングの中を通っている。
− 熱電モジュールMTで発生させた電圧を昇圧するために、上記の2つの配線F1、F2の間に接続されるとともに、ハウジングBTの内部に配置されたDC−DCコンバータCC。典型的には、DC−DCコンバータCCは、ミリボルトのオーダの電圧をボルトのオーダの電圧に変換するように構成される。
− DC−DCコンバータCCの出力にある蓄電池CDであって、本例では単なるバッファキャパシタであるが、この実施形態は限定するものではない。
− その充電量が閾値を超えたときの蓄電池CDの放電のための制御ユニットUCであって、蓄電池CDの放電によって送出される電流は、電力を供給するために電気素子ELに送られる。
【0029】
当然のことながら、本発明は、図示の例に限定されるものではなく、当業者に明らかであろう種々の代替実施形態および変形例が可能である。
【符号の説明】
【0030】
AP 装置
BT ハウジング
CC DC−DCコンバータ
CD 蓄電池
CT 電子伝送回路
CV キャビティ
EL 電気素子
F1 電気配線
F2 電気配線
FD キャビティの(底)壁
IS 電気絶縁層
MT 熱電モジュール
P1 第1の(電気絶縁)板
P2 第2の(電気絶縁)板
PL 半導体ピラー
SA 作動システム
SM 端子台
UC 制御ユニット