特許第6791844号(P6791844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6791844超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791844
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20201116BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20201116BHJP
   B01J 20/286 20060101ALI20201116BHJP
   B01D 15/40 20060101ALI20201116BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   G01N30/02 N
   B01J20/281 G
   B01J20/281 X
   B01J20/286
   B01D15/40
   B01J20/26 L
   B01J20/28 A
【請求項の数】6
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-508436(P2017-508436)
(86)(22)【出願日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2016059456
(87)【国際公開番号】WO2016152996
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-61483(P2015-61483)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100160945
【弁理士】
【氏名又は名称】菅家 博英
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】永井 寛嗣
(72)【発明者】
【氏名】新蔵 聡
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/023615(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/017280(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/005361(WO,A1)
【文献】 特開2003−337125(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/168783(WO,A1)
【文献】 特開2007−327041(JP,A)
【文献】 Caroline WEST, Eric LESELLIER,Effects of mobile phase composition on retention and selectivity in achiral supercritical fluid chro,Journal of Chromatography A,2013年 6月13日,Vol.1302,p.152-162
【文献】 Alexandre Grand-Guillaume PERRENOUD et al.,Evaluation of stationary phases packed with superficially porous particles for the analysis of pharm,Journal of Chromatography A,2014年 8月 1日,Vol.1360,p.275-287
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/02 − 30/96
B01D 15/40
B01J 20/28 − 20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の繰り返し単位に含窒素芳香環が含まれるポリマーが結合している担体から構成される、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相であって、該担体がシリカゲルであり、該固定相が以下の式(II)の構造を有する、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相
【化1】

(式II中、W’は、単結合または置換基を有してもよい炭素数1〜10のアルキレン基であり、Xは、炭素数1〜3のN−アルキルアミド基であり、Yは、炭素数1〜30のアルキレン基であり、Aは、ピリジル基またはイミダゾール基であり、Bは、水素、メチル基、またはエチル基であり、Vはシリカゲル表面と結合したエーテル基、もしくは未反応のZ基またはR基であり、該Z基は、炭素数1〜5のアルコキシ基、ジメチルアミノ基、
ジエチルアミノ基、ピロリジノ基、イミダゾリル基アリル基またはイソプロペニル基であり、該R基はメチル基、エチル基、またはプロピル基である。)
【請求項2】
球状粒子状であることを特徴とする、請求項に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相。
【請求項3】
平均粒径が0.1μm〜1000μmであることを特徴とする、請求項に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の固定相と、超臨界流体を含む移動相とを用いて目的物質を分離する工程を含む、目的物質の分離方法。
【請求項5】
2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、または1−ビニルイミダゾールと、重合性官能基が結合している担体とを共重合させる工程を含む、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法であって、
重合性官能基が結合している担体は、下記式(I)で表される化合物と、シリカゲルとをシランカップリングすることにより得られる表面修飾シリカゲルである、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
【化2】

(式(I)中、Wは、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基またはω位に二重結合を有する炭素数4〜12のアルケニル基であり、Xは、炭素数1〜3のN−アルキルアミド基であり、Yは、炭素数1〜30のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(I)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基である。nは1〜3の整数である。)
【請求項6】
前記Wがビニル基であり、Xが炭素数1〜3のN−アルキルアミド基であり、Yが炭素数1〜5のアルキレン基であり、Rが独立してメチル基、エチル基またはプロピル基であり、Zは炭素数1〜5のアルコキシ基、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキルメルカプチル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基、イミダゾリル基、アリル基または2−メチル−2−プロペニル基である、請求項に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー技術に関する。より詳しくは超臨界流体クロマトグラフィーに用いられる固定相に関する。
【背景技術】
【0002】
混合物の成分およびその含量を分析し、また分離精製するための方法として、クロマトグラフィーはもっとも有効な手段である。これは、カラムあるいはキャピラリーと呼ばれる管の中で空間的に固定された多孔質固体(固定相)と、その隙間を移動する流体(移動相)に対する物質固有の分配比(吸着平衡とも理解される)を利用して、異なる物質を分離するものである。その代表的なものとしてガスクロマトグラフィーと液体クロマトグラフィーがある。前者は移動相として気体を用いるものである。
【0003】
しかし、分離対象が気相に混じって移動するためには、一定以上の蒸気圧がなければならず、そのため分子量が低く、また電荷を持たない比較的限られた分析対象にしか応用できない。一方、液体クロマトグラフィーは移動相として液体を用いるものであり、適切な移動相を選べば、大抵の物質に適用できる。その半面、液体の粘度は一般に高いために、長いカラムやキャピラリーによって良好な分離を確保しようとしても、粘性抵抗の増加による限界がある。
【0004】
この両者の欠点を克服できる技術として発明されたものが超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)である。これは、超臨界、あるいは亜臨界状態にある流体が、気体に比べてはるかに他の化合物をよく溶解し、液体に比べて低い粘度、高い拡散速度を有するという特徴を利用したものである。超臨界流体として二酸化炭素を用いるSFCが安全性や装置上の理由から一般的に採用されており、徐々に利用が拡がりつつある。この他にも電気的な引力を利用するクロマトグラフィー、紙や粉体を薄い層に固結した、いわゆる薄層クロマトグラフィー(液体クロマトグラフィーの変法)などがあるが、応用範囲はあまり広くない。
【0005】
液体クロマトグラフィーにおいては、極性の高い固定相と低い固定相の組み合わせを用いる順相クロマトグラフィー、この逆の極性である逆相クロマトグラフィーが代表的なモードである。最近はさらに両相とも極性であるHILICといったものも注目されている。その他、金属イオンと配位子の相互作用を利用する配位子交換クロマトグラフィー、生化学的相互作用を利用するアフィニティークロマトグラフィーなど、特異的な相互作用に基づくものも知られている。概してその分離のメカニズムおよび特徴が明らかになっており、技術の進歩は分離の効率をよくするための粒子形状の改良が主になっている。
【0006】
これに対して、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)は、その特徴が順相クロマトグラフィーに似ているといわれている。しかし、その特徴、メカニズムは未だよく解っていない点が多い。
SFCに用いられる固定相としては、例えば非特許文献1に紹介されるように、シリカゲルあるいはその表面を様々な原子団で修飾したものである。
【0007】
修飾基としては、様々な鎖長の飽和アルキル鎖を含むもの、ひとつあるいは二つのベンゼン環、縮合多環芳香族炭化水素基をアルキル鎖又は、アミド結合、エーテル結合を含むアルキル鎖でつないだもの、ハロゲン置換ベンゼン環を特徴とするもの、ハロゲン化アルキル基をつないだもの、2,3−ジヒドロキシプロピル基、CN基、NH基などの極性基をつないだもの、高分子修飾基として架橋ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどがある。また、グラファイト構造を持った炭素も特徴ある固定相である。これらの中で、特にSFCにおいてよく用いられるものは、2−エチルピリジンと呼ばれる、(2−ピリジル)エチル基を結合したものであり、普通の固定相ではテーリングして幅広いピークを与える塩基性化合物もシャープなピークとなって溶出するだけでなく、酸性化合物も適度に保持可能であるため、好んで用いられる。
【0008】
しかしながら、やはり非特許文献2に指摘されるように、様々な化合物に対する保持の傾向が相似的であり、特徴の差がない固定相も少なくない。こうした中にあって、本発明者らは、構造のよく似た分子を識別できることが、求められている要件のひとつであるとの認識に立ち、鋭意、SFCに用いることができる固定相の開発を進めてきた。
【0009】
これまでにSFC用の固定相として用いられてきたものの多くは、シリカゲルあるいはその表面を様々な低分子化合物で修飾したものが大多数であった。一方で、シリカゲル表面を高分子で修飾した固定相の報告例もある。たとえば、特許文献1は、主鎖の繰り返し単位に芳香環と双極性原子団を有するポリマーを固定相としており、様々な化合物の分離に有効であるだけでなく、良好な分子形状認識性を有することが知られている。しかし、前述の2−エチルピリジンカラムと異なり、塩基性物質の分析時にテーリングし、幅広いピークを与えるといった問題点があった。
また、これらの固定相は上記ポリマーを粒子状あるいはモノリス状の担体に担持させて調製したものである。そのため、本来これを溶かしうる溶媒あるいはそれを含む混合溶媒を展開溶媒とすると、一部あるいは全部が溶解し、カラムとしての機能を損ねる場合がある。
【0010】
本発明者らは、高分子が有する多点相互作用・双極子モーメントの集積・耐久性に着目し、新規高分子系のSFC固定相の研究を、鋭意進めてきた。なかでも、市販品の手に入りやすさ・分子設計の多様さ・モノマー合成の簡便さ・シリカゲル表面への固定化の容易さなどの理由から、ビニルポリマーを基盤とした固定相の開発に注力してきた。
これまでに、非特許文献3や特許文献2のように、ビニルポリマーを高速液体クロマトグラフィー用の固定相として用いられたものがある。これらの例では、ポリ(4−ビニルピリジン)をシリカゲル表面上に化学結合したものが用いられており、様々な化合物の分離に有効であることが明らかになっている。これらは大変興味が持たれるが、その利用が高速液体クロマトグラフィーに限られていることや、分離例が多環芳香族化合物や縮合環化合物およびその類縁体に限られていた。また、用いられているポリマーはポリ(4−ビニルピリジン)に限られており、ビニルピリジン異性体ポリマーや他の含窒素芳香族ポリマーが分離挙動に与える影響については明らかになっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2014/017280号
【特許文献2】特開2003−337125号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】C. West 他、J. Chromatogr. A, 1203(2008) 105
【非特許文献2】C. West 他、J. Chemometrics, 26(2012) 52
【非特許文献3】H. Ihara 他、J. Chromatogr. Relat. Technol. 26(2003) 2491.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような問題を解決するものであり、良好な分子識別能、特に酸性化合物や塩基性化合物に加え、縮合環芳香族化合物や芳香族異性体についても良好な分離特性を有する超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、主鎖の繰り返し単位に含窒素芳香環が含まれるポリマーが結合している担体から構成される固定相が、超臨界流体クロマトグラフィーにおいて良好な分子識別能が発現されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 主鎖の繰り返し単位に含窒素芳香環が含まれるポリマーが結合している担体から構成される、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相。
[2] 含窒素芳香環が、ピリジル基、イミダゾール基、カルバゾール基またはピラジル基から選ばれる複素環構造を有する基である、[1]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相。
[3] 球状粒子状であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相。
[4] 平均粒径が0.1μm〜1000μmであることを特徴とする、[3]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相。
[5] モノリス状であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載の固定相と、超臨界流体を含む移動相とを用いて目的物質を分離する工程を含む、目的物質の分離方法。
[7] 含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を含むイソプロペニルモノマーと、重合性官能基が結合している担体とを共重合させる工程を含む、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
[8] 前記重合性官能基が、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基またはω位に二重結合を有する炭素数4〜12のアルケニル基である、[7]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
[9] 重合性官能基が結合している担体は、下記式(I)で表される化合物と、シリカゲルとをシランカップリングすることにより得られる表面修飾シリカゲルである、[7]または[8]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
【化1】
(式(I)中、Wは、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基またはω位に二重結合を有する炭素数4〜12のアルケニル基であり、Xは、アミド基、エステル基、炭素数1〜3のN−アルキルアミド基、エーテル基、スルホキシド基、スルホン基、スルフィド基、またはリン酸エステル基であり、Yは、炭素数1〜30のアルキレン基であり、Zは炭素数1〜30のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(I)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基である。nは1〜3の整数である。)
[10] 前記Wがビニル基であり、Xがアミド基または炭素数1〜3のN−アルキルアミド基であり、Yが炭素数1〜5のアルキレン基であり、Rが独立してメチル基、エチル基またはプロピル基であり、Zは炭素数1〜5のアルコキシ基、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキルメルカプチル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基、イミダゾリル基、アリル基または2−メチル−2−プロペニル基である、[9]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
[11]含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーを、末端に架橋性シリル基を有する連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させてポリマーを得る工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
[12] 末端に架橋性シリル基を有する連鎖移動剤が下記式(III)で示される化合物である、[11]に記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
【化2】
(式(III)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(III)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基である。Yは炭素数1〜30のアルキレン基であり、Tは連鎖移動性官能基である。nは1〜3の整数である。)
[13] 含窒素芳香環を有するビニルモノマーが、4−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、1−ビニルイミダゾール、9−ビニルカルバゾールまたは2−ビニルピラジンであり、含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーが、2−イソプロペニルピリジン、3−イソプロペニルピリジン、4−イソプロペニルピリジン、1−イソプロペニルイミダゾール、9−イソプロペニルカルバゾールまたは2−イソプロペニルピラジンであることを特徴とする、[7]〜[12]のいずれかに記載の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好な分子識別能、特に酸性化合物や塩基性化合物に加え、縮合環芳香族化合物や芳香族異性体についても良好な分離特性を有する、超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるアセチルアントラセン異性体およびアセチルフェナントレン異性体の分離を示す図である。
図2】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるテルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離を示す図である。
図3】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)、パラキサンチン(paraxanthine)の分離を示す図である。
図4】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるフェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)の分離を示す図である。
図5】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるアルプレノルオール(alprenolol)、プロプラノルオール(propranolol)、アテノロール(atenolol)、ピンドロール(pindolol)の分離を示す図である。
図6】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるアセトキシビフェニル異性体の分離を示す図である。
図7】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるヒドロキシビフェニル異性体の分離を示す図である。
図8】ポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるアセチルアントラセン異性体およびアセチルフェナントレン異性体の分離を示す図である。
図9】ポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるテルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離を示す図である。
図10】ポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)、パラキサンチン(paraxanthine)の分離を示す図である。
図11】ポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるフェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)の分離を示す図である。
図12】ポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるアセチルアントラセン異性体およびアセチルフェナントレン異性体の分離を示す図である。
図13】ポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるテルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離を示す図である。
図14】ポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)、パラキサンチン(paraxanthine)の分離を示す図である。
図15】ポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるフェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)の分離を示す図である。
図16】ポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるアセチルアントラセン異性体およびアセチルフェナントレン異性体の分離を示す図である。
図17】ポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるテルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離を示す図である。
図18】ポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)、パラキサンチン(paraxanthine)の分離を示す図である。
図19】ポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルを固定相とし、SFCによるフェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)の分離を示す図である。
図20】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、HPLCにおける分離の対比を示す図である。
図21】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、HPLCにおける分離の対比を示す図である。
図22】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、HPLCにおける分離の対比を示す図である。
図23】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、SFCによるアセチルアントラセン異性体およびアセチルフェナントレン異性体の分離の対比を示す図である。
図24】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、SFCによるテルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離の対比を示す図である。
図25】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、SFCによるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)、パラキサンチン(paraxanthine)の分離の対比を示す図である。
図26】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、SFCによるフェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)の分離の対比を示す図である。
図27】2−エチルピリジン分離剤と本発明の固定相とで、SFCによるアルプレノルオール(alprenolol)、プロプラノルオール(propranolol)、アテノロール(atenolol)、ピンドロール(pindolol)の分離の対比を示す図である。
図28】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲル((2)の製法で作製)を固定相とし、SFCによるアセチルアントラセン異性体およびアセチルフェナントレン異性体の分離を示す図である。
図29】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲル((2)の製法で作製)を固定相とし、SFCによるテルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離を示す図である。
図30】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲル((2)の製法で作製)を固定相とし、SFCによるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)、パラキサンチン(paraxanthine)の分離を示す図である。
図31】ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲル((2)の製法で作製)を固定相とし、SFCによるフェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)の分離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相は、主鎖の繰り返し単位に含窒素芳香環が含まれるポリマーが化学結合している担体を含むものである。
なお、本発明における固定相とは、クロマトグラフィー法において、分析用具(カラムまたはキャピラリー)の内部に固定され、これと接触しながら移動する流体との間で分離対象物質を分配し、分離に導く材料を意味するが、これが粒子である場合には、該粒子が充填されることによって形成された集合体を指すこともあり、またその個別の粒子を指すこともある。
【0019】
ここで、「含窒素芳香環」とは、炭素原子および窒素原子で芳香環を形成する複素環式芳香族環のことを意味し、ピリジル基、イミダゾール基、カルバゾール基またはピラジル基から選択されるものを好ましく例示できる。
【0020】
本発明の固定相では、その安定性、分離性能の見地から担体とポリマーとの間に化学結合を形成させている。具体的には、例えば以下の製造方法を例示することができる。
超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相において、担体との物理的結合を利用してポリマーをコーティングすることは可能であるが、そのような場合には溶媒によってポリマーが溶出することもあるので、好ましい方法とはいえない。
(1)含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーと、重合性官能基が結合している担体とをラジカル共重合させる工程を含む製造方法。
(2)含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーを、末端に架橋性シリル基を有する連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させてポリマーを得る工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む製造方法。
(3)担体表面にドーマント種となる共有結合を導入し、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーを用いて担体表面からリビングラジカル重合を行うことにより、担体表面に含窒素芳香環を主鎖の繰り返し単位に含むポリマーを導入する工程を含む製造方法。
(4)重合性二重結合を有するシランカップリング剤と、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーとを共重合させる工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む製造方法。
(5)担体表面に連鎖移動性官能基を導入し、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーをラジカル重合する工程を含む製造方法。
(6)開始末端に架橋性シリル基を有するアニオン開始剤と含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーをアニオン重合させて、ポリマーを得る工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む製造方法。
(7)アニオン開始剤と含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーをアニオン重合後、シランカップリング剤を含む停止剤を作用させて得られる工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む製造方法。
(8)含窒素芳香環を有するビニルポリマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーと、架橋剤と、開始剤とを含む組成物と、担体とを混合して、架橋反応を行わせる工程を含む製造方法。
いずれの方法でも重合時の重合温度、重合溶媒、添加剤等により、生成ポリマーの立体規則性を制御することも可能である。
【0021】
(1)の製造方法について説明する。
本発明の固定相の(1)の製造方法に用いられる重合性官能基が結合している担体は、以下の方法により作製することができる。
担体に結合している重合性官能基として、ラジカル重合性官能基を挙げることができ、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、またはω位に二重結合を有する炭素数4〜12のアルケニル基を挙げることができる。この中でも、ビニル基、アリル基またはイソプロペニル基が好ましい。
また、担体としては、多孔質有機担体又は多孔質無機担体が挙げられ、好ましくは多孔質無機担体を挙げることができる。多孔質有機担体として適当なものは、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリレート等から選択される高分子物質であり、多孔質無機担体として適当なものは、シリカゲル、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ガラス、カオリン、酸化チタン、ケイ酸塩、ヒドロキシアパタイトなどである。好ましい担体はシリカゲル、アルミナ、又はガラスである。
担体としてシリカゲルを用いる場合には、シリカゲルが有するシラノール基を介して、上記の重合性官能基が担体と化学結合している。
シリカゲル以外の担体を用いる場合には、担体の表面処理を行うことにより、担体自体への分離対象物質の過剰な吸着を抑制できるとともに、表面処理で導入された基を介して重合性官能基と結合させることができる。表面処理剤としては、アミノプロピルシランのようなシランカップリング剤や、チタネート系・アルミネート系カップリング剤を挙げることができる。
担体としてシリカゲルを用いる場合、コアシェルあるいはペリフェラルと呼ばれる、表層のみを多孔質にしたものであってもよい。
【0022】
上記のような、重合性官能基が結合している担体は、例えば下記式(I)で表される化合物と、担体、好ましくはシリカゲルとをシランカップリングすることにより得られる。
【化3】
(式(I)中、Wは、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、またはω位に二重結合を有する炭素数4〜12のアルケニル基であり、Xは、アミド基、エステル基、炭素数1〜3のN−アルキルアミド基、エーテル基、スルホキシド基、スルホン基、スルフィド基、またはリン酸エステル基であり、Yは、炭素数1〜30のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、Zは式(I)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基である。nは1〜3の整数である。)
【0023】
上記式(I)中、Wは、ビニル基、アリル基、またはイソプロペニル基であることが好ましい。
上記式(I)中、Xは、Wと末端のZ基とのリンカーの一部であり、アミド基、炭素数1〜3のN−アルキルアミド基、エステル基であることが好ましい。
上記式(I)のYは、炭素数1〜5のアルキレンであることが好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基のいずれかであることがより好ましい。
上記式(I)のRは、メチル基、またはエチル基であることが好ましい。
【0024】
上記式(I)中のZは、脱離基であり、式(I)中のケイ素原子と、担体を構成する酸素のような原子との間に結合を作らせ得るものであれば、いかなる原子団であってもよい。取り扱いのしやすさと反応性のバランスが良いために、一般的に用いられるものは、炭素数1〜5のアルコキシ基、特に好ましくはメトキシ基あるいはエトキシ基を挙げることができ、ハロゲン(塩素、臭素またはヨウ素)、炭素数1〜20のアルキルメルカプチル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基、イミダゾリル基のような窒素含有基、アリル基または2−メチル−2−プロペニル基を挙げることができる。脱離基の種類によって反応条件(触媒添加も含めて)を調整できる。
【0025】
上記式(I)で表される化合物は、上記式(I)のWで表される構造を有する化合物と、上記式(I)の−Y−SiR3−nの構造を有する化合物とを反応させることにより得ることができる。
それらの化合物同士の反応により、上記式(I)の「−X−」が生じる。
【0026】
Wで表される構造を有する化合物としては、ビニル基に結合する炭素の水素が、炭素数が1〜12のアルキル基で置換されていてもよいアクリル酸や、ビニル基に結合する炭素の水素が、炭素数が1〜12のアルキル基で置換されていてもよいアクリル酸のハロゲン化物を挙げることができる。
【0027】
上記式(I)の−Y−SiR3−nの構造を有する化合物としては、上記で説明したXの前駆体である基を有し、脱離基として炭素数が1〜5のアルコキシ基を有するシランカップリング剤を挙げることができる。
【0028】
本発明で用いる重合性官能基が結合している担体は、上記式(I)で表される化合物と、シリカゲルとをシランカップリングすることによって得られる表面修飾シリカゲルであることが好ましい。
【0029】
本発明の固定相は、上記で説明した(1)の製造方法で製造する場合、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーと、重合性官能基が結合している担体とを共重合させて得られるものである。
その共重合の態様としては、含窒素芳香環を有するビニルモノマーのビニル基または含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーのイソプロペニル基と、重合性官能基の両方について共重合を起こさせることが挙げられ、その際の反応条件は公知の方法を用いることができる。
【0030】
含窒素芳香環を有するビニルモノマーとしては、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルカルバゾール、ビニルピラジンを例示することができる。
ビニルピリジンの具体例として、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンを挙げることができる。
ビニルイミダゾールの具体例として、1−ビニルイミダゾールを挙げることができる。ビニルカルバゾールの具体例として、9−ビニルカルバゾールを挙げることができる。
ビニルピラジンの具体例として、2−ビニルピラジンを挙げることができる。
含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーとしては、イソプロペニルピリジン、イソプロペニルイミダゾール、イソプロペニルカルバゾール、イソプロペニルピラジンを挙げることができる。
イソプロペニルピリジンの具体例として、2−イソプロペニルピリジン、3−イソプロペニルピリジン、4−イソプロペニルピリジンを挙げることができる。
イソプロペニルイミダゾールの具体例として、1−イソプロペニルイミダゾールを挙げることができる。
イソプロペニルカルバゾールの具体例として、9−イソプロペニルカルバゾールを挙げることができる。
イソプロペニルピラジンの具体例として、2−イソプロペニルピラジンを挙げることができる。
【0031】
また、上記のいずれの含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたはイソプロペニルモノマーにおいても、その複素環を構成する水素が、高分子主鎖とは別の置換基を持ってもよく、そのような置換基としては、炭素数1〜12のアルキル、炭素数1〜12のアルコキシ、シアノ、ハロゲン、ヒドロキシ、アミノ、ニトロ等が挙げられる。その中でも、メチル基やハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)による置換は、置換基そのものの直接的相互作用が少なく、該ポリマーの分子識別に影響を与えるため好ましい。
【0032】
上記で説明した原料や製造方法を用いて得られる本発明の固定相は、以下の構造を有すると推定される。
【化4】
(式II中、W’は、式(I)のWに由来し、付加重合により生成する基であり、Xは、アミド基、エステル基、炭素数1〜3のN−アルキルアミド基、エーテル基、スルホキシド基、スルホン基、スルフィド基、またはリン酸エステル基であり、Yは、炭素数1〜30のアルキレン基であり、Aは、含窒素芳香環を有する基であり、Bは、水素、メチル基、またはエチル基であり、Vはシリカゲル表面と結合したエーテル基、もしくは未反応の上記式(I)で示されるZ基、またはR基である。)
【0033】
上記式(II)において、W’の具体例としては、単結合、分岐鎖を有してもよい炭素数1〜10のアルキレン基を挙げることができる。好ましくは、単結合、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基を挙げることができる。
式(II)中のX及びYの好ましい基は、上記式(I)と同様のものを採用できる。
式(II)中のAは、含窒素芳香環を有する基であり、ピリジル基、イミダゾール基、カルバゾール基、またはピラジル基から選択されるものを好ましく挙げることができる。この中でも2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、1−イミダゾール基、9−カルバゾール基、2−ピラジル基を好ましく例示できる。
式(II)中のBの好ましい基としては、水素またはメチル基である。
式(II)中、pは1〜10であり、qは10〜300程度を挙げることができ、pは好ましくは1〜5であり、qは好ましくは15〜250、更に好ましくは20〜200である。
式(II)のVについて、上記式(I)で示される化合物において、n=1の場合、V=Rであり、n=2の場合、全てのVの数に対し、未反応のZ基またはR基の割合は50〜100%であり、n=3の場合、全てのVの数に対し、未反応のZ基またはR基の割合は0〜100%である。
【0034】
次に、本発明の固定相を得るための(2)の製造方法について説明する。
(2)の製造方法は、末端に架橋性シリル基を有する連鎖移動剤の存在下でラジカル重合させる工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む製造方法である。
(2)の製造方法で用いる、末端に架橋性シリル基を有する連鎖移動剤として、以下の式(III)で示される化合物を例示することができる。本発明における架橋性シリル基とは、下記の式(III)のZで示されるような脱離基が結合しているシリル基のことを意味する。以下の他の製法において用いる化合物においても同様である。
【化5】
(式(III)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(III)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基である。Yは炭素数1〜30のアルキレン基であり、Tは連鎖移動性官能基である。nは1〜3の整数である。)
【0035】
式(III)中、Rは、メチル基、エチル基、あるいはプロピル基であることが好ましい。Zは、脱離基であり、式(III)中のケイ素原子とシリカゲルを構成する酸素との間に結合を作らせ得るものであれば、いかなる原子団であってもよい。
取り扱いのしやすさと反応性のバランスが良いために、脱離基として一般的に用いられるものは、炭素数1〜5のアルコキシ基であり、その中でもメトキシ基あるいはエトキシ基を例示でき、ハロゲン(塩素、臭素またはヨウ素)、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基、イミダゾリル基のような窒素含有基、またアリル基やイソプロペニル基も用いることができ、脱離基の種類によって反応条件(触媒添加も含めて)を調整できる。Yは、炭素数1〜10のアルキレン基であることがより好ましい。Tは連鎖移動性官能基である。連鎖移動性官能基とは重合反応において、生長活性種の移動および再開始反応を伴う連鎖移動反応が活発に起こる官能基のことである。連鎖移動性官能基があることで、生成ポリマーの分子量や末端構造の制御がある程度可能となる。連鎖移動性官能基の具体例としては、ハロゲン化された炭素数1〜12のアルキル基、末端にチオールを有する炭素数1〜12のアルキル基またはジスルフィド基を基内に有する炭素数1〜12のアルキル基が好ましい。
前記ハロゲン化された炭素数1〜12のアルキル基のハロゲンは塩素、臭素またはヨウ素を挙げることができ、そのアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基を挙げることができる。
このような連鎖移動剤の存在下、少量のラジカル発生剤を触媒に用い、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーのラジカル重合を行うことで、下記式(IV)で示される構造を有する化合物を得ることができる。このときに、連鎖移動剤とモノマーのモル比からある程度の分子量の制御が可能となる。ラジカル発生剤は、重合反応に用いる公知のものを用いることができ、その具体例としては、アゾ化合物や過酸化物を挙げることができる。
【0036】
【化6】
(式IV中、T’は式IIIのTに由来し、連鎖移動反応により生成する基である。Aは含窒素芳香環を有する基であり、Bは、水素、メチル基、またはエチル基である。qは2〜300の整数である。)
【0037】
式(IV)におけるAは、ピリジル基、イミダゾール基、カルバゾール基またはピラジル基であることが好ましく、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、1−イミダゾール基、9−カルバゾール基または2−ピラジル基をより好ましく例示できる。Bは、好ましくは水素またはメチル基である。
式(IV)において、T’は、Tが末端にハロゲンが結合している炭素数1〜12のアルキル基の場合、そのハロゲンが置換された炭素数1〜12のアルキレン残基であり、Tが末端にチオールを有する炭素数1〜12のアルキル基またはジスルフィド基を基内に有する炭素数1〜12のアルキル基である場合はチオエーテルである。
本発明の固定相の(2)の製造方法で用いる担体は、(1)の製造方法で用いる担体と同じものを用いることができる。
式(III)で示される化合物と、担体とをシランカップリング反応によって結合させる方法ついては、公知のシランカップリングの方法を用いることができる。
【0038】
次に(3)の製造方法について説明する。
担体表面にドーマント種となる安定な共有結合を導入し、表面からリビングラジカル重合を行うことにより、シリカゲルのような担体表面に含窒素芳香環を主鎖の繰り返し単位に含むポリマーを導入することが可能である。
この手法では、シリカゲルのような担体表面上に高密度に含窒素芳香環を主鎖の繰り返し単位に含むポリマーを導入でき、高度に配向可能なブラシ状ポリマーを得ることが可能である。
上記「ドーマント種となる安定な共有結合の導入とリビングラジカル重合」に関して、よく用いられている例を以下の(i)〜(iii)に示す。
(i) シリカゲルのような担体表面に、銅・鉄・ルテニウムなどの遷移金属触媒によって活性化可能な炭素−ハロゲン結合を導入し、一電子酸化還元機構によりハロゲンの引き抜きと引き戻しを可逆的に行うことで、含窒素芳香環を有するビニルモノマーの重合をリビング的に進行させる。この技術を用いることでシリカゲルのような担体表面上に、高密度に含窒素芳香環を主鎖の繰り返し単位に含むポリマーを導入することが可能である。
(ii) シリカゲルのような担体表面に、例えばアルコキシアミンを導入し、そのアルコキシアミンの炭素−酸素結合が熱的に解離して炭素ラジカルとニトロキシドを生成すると、含窒素芳香環を有するビニルモノマーの重合が進行するとともに生長炭素ラジカルはニトロキシドにより可逆的にすばやくキャッピングされることで再びドーマント種に戻り、重合反応が制御される。この技術を用いることでシリカゲルのような担体表面上に、高密度に含窒素芳香環を主鎖の繰り返し単位に含むポリマーを導入することが可能である。
(iii)シリカゲルのような担体表面に、チオカルボニル化合物やヨウ素化合物を導入した場合、ポリマー末端間でのラジカル種とドーマント種との交換反応による可逆的な連鎖移動が速く起こることで、すべてのポリマー鎖が同じように生長する機会が与えられて、分子量の制御が可能となる。この技術を用いることでシリカゲルのような担体表面上に、高密度に含窒素芳香環を主鎖の繰り返し単位に含むポリマーを導入することが可能である。
【0039】
上記(i)〜(iii)のいずれにおいても、担体については、シリカゲルの他には上記(1)や(2)の製造方法で用いられるものと同じものを用いることができ、含窒素芳香環を有するビニルモノマーについても、(1)や(2)の製造方法と同じものを用いることができる。
【0040】
次に(4)の製造方法について説明する。
この製造方法は、重合性二重結合を有するシランカップリング剤と、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーとを共重合させる工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む方法である。
【0041】
重合性二重結合を有するシランカップリング剤としては、例えば以下の式(V)で表される構造を有する化合物を挙げることができる。
【化7】
(式(V)中、Wは、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、またはω位に二重結合を有する炭素数4〜12のアルケニル基であり、Xは、アミド基、エステル基、炭素数1〜3のN−アルキルアミド基、エーテル基、スルホキシド基、スルホン基またはリン酸エステル基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(V)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基であり、Yは、炭素数1〜30のアルキレン基である。nは1〜3の整数である。)
【0042】
上記式(V)中のYは、炭素数1〜5のアルキレンであることが好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基のいずれかであることがより好ましい。
Rはメチル基、あるいはエチル基であることが好ましい。
Zは脱離基であり、式(V)中のケイ素原子と、担体が例えばシリカゲルである場合、そのシリカゲルを構成する酸素との間に結合を作らせ得るものであれば、いかなる原子団であってもよい。担体がシリカゲルでない場合でも、担体を構成する原子との間に結合を作らせ得るものである。
取り扱いのしやすさと反応性のバランスが良いために、脱離基として一般的に用いられるものは、炭素数1〜5のアルコキシ基であり、その中でもメトキシ基あるいはエトキシ基を例示でき、ハロゲン(塩素、臭素またはヨウ素)、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基、イミダゾリル基のような窒素含有基、またアリル基やイソプロペニル基)も用いることができ、脱離基の種類によって反応条件(触媒添加も含めて)を調整できる。
上記(4)の製造方法においても、担体については、シリカゲルの他には上記(1)や(2)の製造方法で用いるものと同じものを用いることができ、含窒素芳香環を有するビニルモノマーやイソプロペニルモノマーについても、(1)や(2)の製造方法と同じものを用いることができる。
この製造方法では、ポリマー合成の際に適当な連鎖移動剤や、上述のリビングラジカル重合法を用いることで、分子量の制御も可能である。得られたポリマーと担体とをシランカップリング反応によって結合させる方法ついては、公知のシランカップリングの方法を用いることができる。
【0043】
次に(5)の方法について説明する。
この製造方法は、担体表面に連鎖移動性官能基を導入し、含窒素芳香環を有するビニルモノマーや含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーをラジカル重合する工程を含む製造方法である。
【0044】
上記のような連鎖移動性官能基が結合している担体は、例えば下記式(VI)で表される化合物と、担体としてシリカゲルを用いる場合はシリカゲルとをシランカップリングすることにより得られる。
【化8】
(式(VI)中、Tは連鎖移動性官能基であり、Yは炭素数1〜30のアルキレン基であり、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(V)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基である。nは1〜3の整数である。)
【0045】
式(VI)中、Rは、メチル基、エチル基、あるいはプロピル基であることが好ましい。Zは、脱離基であり、式(VI)中のケイ素原子と、担体がシリカゲルである場合、シリカゲルを構成する酸素との間に結合を作らせ得るものであれば、いかなる原子団であってもよい。担体がシリカゲルでない場合でも、担体を構成する原子との間に結合を作らせ得るものである。
Tについては、(2)と同じものを、RやZについても、(1)や(2)や(4)で用いたものと同じものを好ましく用いることができる。
本発明で用いる連鎖移動性官能基が結合している担体は、上記式(VI)で表される化合物と、シリカゲルとをシランカップリングすることによって得られる表面修飾シリカゲルであることが好ましい。
【0046】
表面に連鎖移動性官能基が導入された(化学結合した)担体の存在下、少量のラジカル発生剤を触媒として用い、含窒素芳香環を有するビニルモノマーのラジカル重合を行うことで、担体表面にポリマーを固定化することが可能となる。含窒素芳香環を有するビニルモノマーについても、(1)や(2)の製造方法と同じものを用いることができる。上記(5)の製造方法においても、担体については、シリカゲルの他には上記(1)や(2)の製造方法で用いるものと同じものを用いることができ、含窒素芳香環を有するビニルモノマーやイソプロペニルモノマーについても、(1)や(2)の製造方法と同じものを用いることができる。また、ラジカル発生剤についても、(2)の製造方法で用いるものと同じものを用いることができる。
【0047】
次に(6)の方法について説明する。
この製造方法は、開始末端に架橋性シリル基を有するアニオン開始剤と含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーをアニオン重合させてポリマーを得る工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む製造方法である。アニオン開始剤とモノマーの量比は適宜設定できる。
【0048】
上記のような開始末端に架橋性シリル基を有するアニオン開始剤は、例えば下記式(VII)で表される化合物と、担体としてシリカゲルを用いる場合、そのシリカゲルとをシランカップリングすることにより得られる。
【化9】
(式(VII)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(VII)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基であり、Yは、任意の水素が芳香環を有する基で置換されもよい炭素数1〜30の分岐または直鎖状のアルキレン基である。Mはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属である。nは1〜3の整数である。)
【0049】
式(VII)中、Rはメチル基、エチル基またはプロピル基であることが好ましく、Y、Zは前記式(I)と同じものを好ましく挙げることができ、Mはリチウム、ナトリウム、カリウム、またはマグネシウムを好ましく挙げることができる。
Yについて、任意の水素が置換されてもよい芳香環を含む基としては、例えば1つまたは2つのフェニル基を有する炭素数4〜20のアルキル基を挙げることができ、より具体的には1,1−ジフェニルヘキシル基などを挙げることができる。
【0050】
このようなアニオン開始剤の存在下、公知の方法により末端に架橋性シリル基を有する含窒素芳香環を主鎖の繰り返し単位に含むポリマーを合成できる。なお、含窒素芳香環を有するビニルモノマーやイソプロペニルモノマーについては、(1)や(2)の製造方法と同じものを用いることができる。ただし、重合時の副反応により開始末端に直接シランカップリング剤を導入することが難しい場合、保護基により開始末端を保護した誘導体を合成し、重合後に脱保護し、定量的にシランカップリング剤へと変換することによっても得ることができる。このようにして得られたポリマーと担体とをシランカップリング反応によって結合させる方法ついては、公知のシランカップリングの方法を用いることができる。
【0051】
次に(7)の方法について説明する。
この製造方法は、アニオン開始剤と含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーをアニオン重合させ、架橋性シリル基を有する停止剤を作用させてポリマーを得る工程と、得られたポリマーを担体表面でシランカップリングする工程を含む製造方法である。停止末端に直接シランカップリング剤を導入することが難しい場合、保護基により保護した誘導体を用いて停止後に脱保護し、定量的にシランカップリング剤へと変換することによっても得ることができる。
【0052】
アニオン開始剤を用いた重合は、公知の方法を用いることができ、含窒素芳香環を有するビニルモノマーやイソプロペニルモノマーについても、(1)や(2)の製造方法と同じものを用いることができる。アニオン開始剤とモノマーの量比は適宜設定できる。また、架橋性シリル基を有する停止剤は、例えば下記式(VIII)で表される化合物が挙げられる。架橋性シリル基を有する停止剤の量は適宜設定できる。
【化10】
(式(VIII)中、Rはそれぞれ独立して炭素数1〜5のアルキル基であり、Zは式(VIII)中のケイ素原子と担体との間に結合を作らせ得る脱離基であり、Yは、任意の水素が芳香環を含む基で置換されていてもよい炭素数1〜30の分岐または直鎖状のアルキレン基である。Z’は、生長アニオン末端と停止剤との反応で脱離する基であり、nは1〜3の整数である。)
【0053】
Zの具体例としては、前記式(I)で具体例として挙げられているものを好ましく挙げることができる。
Z’の具体例としては、ハロゲン(塩素、臭素、またはヨウ素)、炭素数1〜5のアルコキシ基、その中でも好ましくはメトキシ基あるいはエトキシ基、アルキルメルカプチル基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ピロリジノ基、イミダゾリル基のような窒素含有基、アリル基または2−メチル−2−プロペニル基を挙げることができる。脱離基の種類によって反応条件(触媒添加も含めて)を調整できる。
Yについて、任意の水素が置換されてもよい芳香環を含む基としては、例えば1つまたは2つのフェニル基を有する炭素数4〜20のアルキル基を挙げることができ、より具体的には1,1−ジフェニルヘキシル基などを挙げることができる。
このようにして得られたポリマーと担体とをシランカップリング反応によって結合させる方法については、公知のシランカップリングの方法を用いることができる。
【0054】
次に(8)の製造方法について説明する。
この製造方法は、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーと、架橋剤と、開始剤とを含む組成物と、担体とを混合して、架橋反応を行わせる工程を含む。
この製造方法では、該モノマーと架橋剤とを共重合することによって不溶性の重合物とするものである。具体的には、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーと、架橋剤として例えばジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレートなどを前記モノマーに対し0.01−1当量、適量のラジカル開始剤、必要に応じて溶媒を混じたものを該担体に吸収させ、開始剤が重合を開始する条件におくことができる。
また、ラジカル開始剤としては、一般的なラジカル重合反応に用いる公知のものを使用でき、その具体例としては、アゾ化合物や過酸化物を挙げることができる。
【0055】
上記(1)〜(8)のいずれの方法により得られた固定相も超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相として優れた性能を有する。
【0056】
上記の操作を経て得られる、本発明の固定相の担体に結合した、主鎖の繰り返し単位に含窒素芳香環が含まれるポリマーの重量平均分子量は、1,000〜5,000,000であることが好ましい。なお、本発明でいうポリマーの重量平均分子量は、例えば上記式(II)や(IV)で示される構造の場合、主鎖の繰り返し単位である−(CH−CAB)−の部位のものである。
上記重量平均分子量は、ポリマーの溶媒への溶解性、ポリマーを担体に担持させる際の粒子の凝集の防止、移動相溶媒への溶解の抑制、担体に化学結合する際の結合量の維持、等の観点から、上記範囲が好ましい。最適点はポリマーの種類によって異なる。
ただし、本発明の固定相の製造方法(1)においては、含窒素芳香環が含まれるビニルモノマーの重合とシリカゲルへの固定化が同時に起こるため、重合溶液の上澄みから重量平均分子量を見積もる。
製造方法(2)、(4)、(6)、(7)においては、主鎖の繰り返し単位に含窒素芳香環を含むポリマーを担体に結合させる前に、そのポリマーの重量平均分子量を測定する。
重量平均分子量はポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)方法により測定できる。
【0057】
本発明の固定相では、主鎖の繰り返し単位に含窒素芳香環が含まれるポリマーが担体表面に共有結合しているので、本来これらポリマーを溶かしうる溶媒あるいはそれを含む混合溶媒を展開溶媒に用いても、溶解することなく、固定相としての機能を損ねることはない。
【0058】
本発明の固定相の比表面積は用いる担体の比表面積に相当するため、所望の比表面積の担体を選択すればよい。担体が、例えばシリカゲルである場合、適当な製品を選ぶことで調整することができる。一般的に、ポリマーを担体に担持させる態様では、担持の前後で比表面積に誤差以上の変化はないため、固定相の比表面積は、用いる担体の比表面積と同一とみなすことができる。
【0059】
本発明で用いることができるこのような担体の平均粒径は、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜50μmであり、平均孔径は、通常10〜10000Å、好ましくは50〜1000Åであり、さらに好ましくは100〜1000Åである。
また、担体の比表面積は、通常5〜1000m/g、好ましくは10〜500m/gである。一般的に、ポリマーを担体に担持させる場合であれば、担持の前後で比表面積に誤差以上の変化はないため、固定相の平均粒径は、用いる担体の平均粒径と同一とみなすことができる。つまり、本発明の固定相が粒子状である場合には、その平均粒径は、0.1μm〜1000μmである態様を挙げることができ、好ましくは1〜50μmである。
【0060】
担体に担持された該ポリマーの平均厚み(担体g当たり担持量/担体比表面積)は通常0.5〜5nmが好ましい。上記範囲であれば、ピークがシャープになる傾向があり好ましい。
【0061】
このように、ポリマーが担体上に担持された固定相において、固定相100質量部中に含まれるポリマーの質量部の割合(%)は、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは3〜30質量%であり、さらに好ましくは5〜30質量%である。このような割合とすることで、ポリマーの吸着能力を適切に発現させながら、徒に保持を強くすることやピークを幅広にすることを避けることができ、好ましい。
なお、固定相100質量部中に含まれるポリマーの質量部の割合(%)は、元素分析により測定することが可能であり、ポリマーが結合する前の担体の炭素含有量と、得られた固定相の炭素含有量を測定結果に基づき、ポリマーが結合する前の担体に含まれる炭素以外の炭素は、全てポリマーに由来するものとして、固定相中のポリマーの質量部の割合を算出する。
【0062】
本発明の固定相が粒子状である場合の平均粒径は、球形であればその直径を指し、不定形粒子の場合には、該粒子体積と等しくなる球の直径で表される。平均粒径は顕微鏡画像用いて測定する装置、例えばMalvern社製Mastersizer 2000Eにより測定することができる。
【0063】
本発明の固定相を粒子として用いる場合には、アスペクト比が2以下、好ましくは1.5以下である球状粒子状であることが好ましい。真球に近ければ近いほど好ましいので、下限は、1まで特に制限されない。
アスペクト比は以下のとおりに測定する。試料を観察台上に無作為に散布した状態で真上から電子顕微鏡あるいは光学顕微鏡によって観察し、独立した(他のどの粒子とも接触あるいは重複していない)一次粒子が10個以上観察される任意の画面において、画面内の個々の独立した一次粒子に対し、長軸および短軸(長軸に垂直で最も長い部分の長さ)を求め、両者の比を個別粒子のアスペクト比とする。画面内のすべての独立した一次粒子に対するアスペクト比を相加平均したものを、本発明におけるアスペクト比とする。一次粒子とは、粒子間の界面が明瞭に観察することができる粒子のことである。通常、観察は試料台上での一次粒子の重なりを避けるように適度に分散させて行うが、偶発的重なりは避けがたく、また、複数の一次粒子が凝集したバルク状粒子もあるが、これらは観察対象から除かれる。
【0064】
本発明の固定相は、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)の固定相として用いることができる。
本発明の固定相をSFC用に用いると、酸性化合物や塩基性化合物について優れた分離特性を有し、さらに、HPLCでは分離することが難しかった物質、例えば縮合環芳香族化合物や、芳香族異性体の分離特性にも優れる。
【0065】
本発明の固定相は、例えば特開2006−058147号に記載のような、超臨界流体クロマトグラフィー用のカラムに充填して用いることができる。
超臨界流体クロマトグラフィーでは、超臨界流体と溶剤とを含有する流体を移動相として用いる。ここで言う超臨界流体クロマトグラフィーとは、超臨界流体を主たる移動相とするクロマトグラフィーに対する一般的名称である。前記超臨界流体は、臨界圧力以上及び臨界温度以上の状態(すなわち超臨界状態)にある物質である。超臨界流体として用いられる物質としては、例えば二酸化炭素、アンモニア、二酸化硫黄、ハロゲン化水素、亜酸化窒素、硫化水素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ハロゲン化炭化水素、水等をあげることができるが、適当な臨界条件、安全性、コストなどから、実質的には二酸化炭素を意味する。また厳密に超臨界であることは必要ではなく、亜臨界状態での使用も含めて“超臨界流体クロマトグラフィー”と呼ばれる。
【0066】
前記溶剤としては、前記目的の物質の種類や超臨界流体の種類等に応じて、公知の種々の溶剤の中から一種又は二種以上が選ばれる。前記溶剤としては、例えばメタノール、エタノールや2−プロパノール等の低級アルコール、アセトン等のケトン、アセトニトリル、酢酸エチル、THF等が挙げられる。
【0067】
前記超臨界流体クロマトグラフィーは、前記超臨界流体と前記溶剤とを含有する流体を移動相に用いるクロマトグラフィーであれば特に限定されない。本発明の固定相を用いた前記超臨界流体クロマトグラフィーは、分析用であってもよいし分取用であってもよい。
分取用の超臨界流体クロマトグラフィーは、カラムで分離した目的の物質に応じて、カラムを通過した後の移動相をフラクションコレクタで分け取る工程を含む超臨界流体クロマトグラフィーであれば特に限定されない。
【0068】
充填するカラムは公知のサイズのものを用いることができる。
また、流速も適宜調整して用いることができ、0.3〜10ml/minの態様を挙げることでき、好ましくは1〜6ml/minの態様を挙げることができる。
また、カラム温度も0〜50℃程度の態様を挙げることができ、20〜40℃程度を挙げることができる。
背圧は120〜180bar程度の態様を挙げることができ、130〜160bar程度を挙げることができる。
【0069】
また、本発明の固定相は、モノリスとして用いることもできる。本発明の固定相をモノリスにする場合には、予めモノリス状に成形されているとともに、重合性官能基が結合している担体、あるいはモノリス状に成形される担体となる原料で重合性官能基が結合しているものと、含窒素芳香環を有するビニルモノマーまたは含窒素芳香環を有するイソプロペニルモノマーとを反応させることで得ることができる。
【0070】
本発明の超臨界流体クロマトグラフィー用の固定相は、フェニルプロピオン酸系NSAIDSのような酸性化合物、カフェイン類縁体のような塩基性化合物、トリフェニレンやターフェニルのような、芳香族、多環芳香族炭化水素の分離性能に優れている。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の態様に制限されない。
【0072】
<調製例1>
(シリカゲルのN−メチル−N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]2−プロペンアミド処理)
まず、以下の手順でアクリルアミド含有シランカップリング剤の調製を行った。フラスコ中に4−ピロリジノピリジン17mgを添加し、脱気後窒素パージを行った。その中にトルエン20mL、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン 0.40mL、トリエチルアミン 0.55mLを窒素雰囲気下この順番で添加した。その後アクリル酸クロリド0.18mLのトルエン溶液(5mL)を窒素雰囲気下約5分間にわたり滴下した。60℃で3時間で加熱し、N−メチル−N−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]2−プロペンアミド粗生成物を合成した。
【0073】
上記反応により得られた粗生成物をろ過し、副生成物のトリエチルアミン塩酸塩を除去し、ろ液をシリカゲル2.2gに受けた。尚、シリカゲルは予め150℃、2時間真空乾燥後、室温まで冷却した。粗生成物を約10mLのトルエンで洗浄した後、シリカゲルを分散したトルエン溶液をオイルバスで120℃、2時間加熱しトルエンを30mLほど留去した。熱処理終了後、室温まで冷却しグラスフィルターによるろ過回収の後、トルエン50mL、メタノール30mL、アセトン30mLで洗浄した。得られた固定相を、60℃で一晩真空乾燥し、アクリルアミドが結合したシリカゲル(以下、アクリルアミド処理シリカゲル)を得た。
このようにして得られたシリカゲルの炭素含量は2.80質量%であった。得られたシリカゲルの比表面積をBET法で測定したところ、91m/gであり、平均粒径は5μmとみなされた。
【0074】
<実施例1>
調製例1で得たアクリルアミド処理シリカゲル(平均粒子径5μm、平均細孔径300Å)2.03gをフラスコに採り、脱気後窒素パージを行った。ここに、N,N−ジメチルホルムアミド3.24mL、テトラリン0.2mL、4−ビニルピリジン1.06mLを窒素雰囲気下この順に添加した。最後に0.5Mに調整したアゾビスイソブチロニトリルのN,N−ジメチルホルムアミド溶液を0.50mL添加し、フラスコをオイルバスで60℃に加温し6時間保った。共重合終了後、得られた粉末をグラスフィルターによるろ過回収の後、50mLのメタノールで3回洗浄した。得られた固定相を、60℃で一晩真空乾燥した。
得られたシリカゲルの炭素含量は10.99質量%であり、原料シリカゲルのそれは2.80質量%であったことから、約11.9質量%のポリ(4−ビニルピリジン)が結合しているものと推定された。炭素含量の測定は元素分析により行い、増加分はすべてポリ(4−ビニルピリジン)に由来するものとして、算出した。以下の実施例でも同様である。
得られたポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルの比表面積は91m/gであり、平均粒径は5μmとみなされた。
【0075】
得られたポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルは、以下の構造を有していることが推定できる。
【化11】
【0076】
得られたポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲル固定相を4.6mmφ×150mmカラムにスラリー充填し、SFCによってアセチルアントラセン、アセチルフェナントレン異性体を分離した。図1は、CO/メタノール(97:3 v/v)によるSFCである。流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左から9−アセチルアントラセン、3−アセチルフェナントレン、2−アセチルアントラセン、2−アセチルフェナントレン、9−アセチルフェナントレンである。検出はUV 254nmで行った。
本発明の固定相は、明らかに、構造のよく似た置換位置異性体に対し、良好な分離能を示している。芳香族環や双極性原子団を配した高分子が、ある程度規則的に配列することから、分子の形に対して敏感な吸着場が形成されているものと考えられる。
【0077】
図2は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(97:3 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からo−テルフェニル、m−テルフェニル、p−テルフェニル、トリフェニレンである。検出はUV 254nmで行った。
【0078】
図3は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からカフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチンである。検出はUV 254nmで行った。
【0079】
図4は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からフェノプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセンである。検出はUV 210nmで行った。
【0080】
図5は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からアルプレノルオール、プロプラノルオール、アテノロール、ピンドロールである。検出はUV 230nmで行った。
【0081】
図6は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からo−アセトキシビフェニル、m−アセトキシビフェニル、p−アセトキシビフェニルである。検出はUV 254nmで行った。
【0082】
図7は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からo−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノールである。検出はUV 254nmで行った。
【0083】
<実施例2>
調製例1と同様の手法で得たアクリルアミド処理シリカゲル(平均粒子径5μm、平均細孔径300Å)2.05gをフラスコに採り、脱気後窒素パージを行った。ここに、N,N−ジメチルホルムアミド1.66mL、テトラリン0.2mL、2−ビニルピリジン2.15mLを窒素雰囲気下この順に添加した。最後に0.5Mに調整したアゾビスイソブチロニトリルのN,N−ジメチルホルムアミド溶液を1.00mL添加し、フラスコをオイルバスで60℃に加温し6時間保った。共重合終了後、得られた粉末をグラスフィルターによるろ過回収の後、50mLのメタノールで3回洗浄した。得られた固定相を、60℃で一晩真空乾燥した。
得られたシリカゲルの炭素含量は13.19質量%であり、原料シリカゲルのそれは2.88質量%であったことから、約13.2質量%のポリ(2−ビニルピリジン)が結合しているものと推定された。
得られたポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルの比表面積は116m/gであり、平均粒径は5μmとみなされた。
【0084】
得られたポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルは、以下の構造を有していることが推定できる。
【化12】
【0085】
実施例1と同様に、得られたポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲル固定相を4.6mmφ×150mmカラムにスラリー充填し、SFCによって評価した。
図8は、CO/メタノール(97:3 v/v)によるSFCである。流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左から9−アセチルアントラセン、3−アセチルフェナントレンと、2−アセチルアントラセン・2−アセチルフェナントレン・9−アセチルフェナントレン(重なって溶出している)である。検出はUV 254nmで行った。
【0086】
図9は、ポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(97:3 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からo−テルフェニル、m−テルフェニル、p−テルフェニル、トリフェニレンである。検出はUV254nmで行った。
【0087】
図10は、ポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からカフェイン、テオブロミン、テオフィリン、パラキサンチンである。検出はUV254nmで行った。
【0088】
図11は、ポリ(2−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からフェノプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセンである。検出はUV 210nmで行った。
【0089】
<実施例3>
調製例1と同様の手法で得たアクリルアミド処理シリカゲル(平均粒子径5μm、平均細孔径300Å)2.06gをフラスコに採り、脱気後窒素パージを行った。ここに、N,N−ジメチルホルムアミド3.23mL、テトラリン0.2mL、3−ビニルピリジン1.07mLを窒素雰囲気下この順に添加した。最後に0.5Mに調整したアゾビスイソブチロニトリルのN,N−ジメチルホルムアミド溶液を0.50mL添加し、フラスコをオイルバスで60℃に加温し6時間保った。共重合終了後、得られた粉末をグラスフィルターによるろ過回収の後、50mLのメタノールで3回洗浄した。得られた固定相を、60℃で一晩真空乾燥した。
得られたシリカゲルの炭素含量は8.11質量%であり、原料シリカゲルのそれは2.88質量%であったことから、約7.3質量%のポリ(3−ビニルピリジン)が結合しているものと推定された。
得られたポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルの比表面積は116m/gであり、平均粒径は5μmとみなされた。
【0090】
得られたポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルは、以下の構造を有していることが推定できる。
【化13】
【0091】
実施例1、2と同様に、得られたポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲル固定相を4.6mmφ×150mmカラムにスラリー充填し、SFCによって評価した。
図12は、CO/メタノール(97:3 v/v)によるSFCである。流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左から9−アセチルアントラセン、3−アセチルフェナントレン、2−アセチルアントラセン・2−アセチルフェナントレン(重なって溶出している)、9−アセチルフェナントレンである。検出はUV 254nmで行った。
【0092】
図13は、ポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(97:3 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からo−テルフェニル、m−テルフェニル、p−テルフェニル、トリフェニレンである。検出はUV 254nmで行った。
【0093】
図14は、ポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からカフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチンである。検出はUV 254nmで行った。
【0094】
図15は、ポリ(3−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からフェノプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセンである。検出はUV 210nmで行った。
【0095】
<実施例4>
調製例1と同様の手法で得たアクリルアミド処理シリカゲル(平均粒子径5μm、平均細孔径300Å)2.02gをフラスコに採り、脱気後窒素パージを行った。ここに、N,N−ジメチルホルムアミド3.40mL、テトラリン0.2mL、1−ビニルイミダゾール0.91mLを窒素雰囲気下この順に添加した。最後に0.5Mに調整したアゾビスイソブチロニトリルのN,N−ジメチルホルムアミド溶液を0.5mL添加し、フラスコをオイルバスで60℃に加温し6時間保った。共重合終了後、得られた粉末をグラスフィルターによるろ過回収の後、50mLのメタノールで3回洗浄した。得られた固定相を、60℃で一晩真空乾燥した。
得られたシリカゲルの炭素含量は8.88質量%であり、原料シリカゲルのそれは3.04質量%であったことから、約10.6質量%のポリ(1−ビニルイミダゾール)が結合しているものと推定された。
得られたポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルの比表面積は116m/gであり、平均粒径は5μmとみなされた。
【0096】
得られたポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルは、以下の構造を有していることが推定できる。
【化14】
【0097】
実施例1〜3と同様に、得られたポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲル固定相を4.6mmφ×150mmカラムにスラリー充填し、SFCによって評価した。
図16は、CO/メタノール(97:3 v/v)によるSFCである。流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左から3−アセチルフェナントレン、2−アセチルフェナントレン・2−アセチルアントラセン(重なって溶出している)、9−アセチルアントラセン、9−アセチルフェナントレンである。検出はUV254nmで行った。
【0098】
図17は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(97:3 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からo−テルフェニル、m−テルフェニル・p−テルフェニル(重なって溶出している)、トリフェニレンである。検出はUV 254nmで行った。
【0099】
図18は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からカフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチンである。検出はUV254nmで行った。
【0100】
図19は、ポリ(1−ビニルイミダゾール)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からフェノプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセンである。検出はUV210nmで行った。
【0101】
図20は、実施例1〜3で合成した固定相を高速液体クロマトグラフィーの固定相として用い、アセチルフェナントレンおよびアセチルアントラセン異性体の分離比較例を示している。移動相:n−ヘキサン/酢酸エチル(90:10 v/v)、流速:1ml/min、温度:25℃の条件で行った。上段から、(a)ポリ(4−ビニルピリジン固定相)、(b)ポリ(2−ビニルピリジン固定相)、(c)ポリ(3−ビニルピリジン固定相)、(d)市販品の2−ピリジルエチル固定相(下記式で示す)を示している
【0102】
【化15】
【0103】
図21は、実施例1〜3で合成した固定相を高速液体クロマトグラフィーの固定相として用い、テルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離比較例を示している。移動相:n−ヘキサン/酢酸エチル(90:10 v/v)、流速:1ml/min、温度:25℃の条件で行った。上段から、(a)ポリ(4−ビニルピリジン固定相)、(b)ポリ(2−ビニルピリジン固定相)、(c)ポリ(3−ビニルピリジン固定相)、(d)市販品の2−ピリジルエチル固定相を示している。
【0104】
図22は、実施例2、3で合成した固定相を高速液体クロマトグラフィーの固定相として用い、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチンの分離比較例を示している。移動相:水/メタノール(90:10 v/v)、流速:1ml/min、温度:25℃の条件で行った。上段から、(a)ポリ(2−ビニルピリジン固定相)、(b)ポリ(3−ビニルピリジン固定相)、(c)市販品の2−ピリジルエチル固定相を示している。
【0105】
図23は、実施例1の固定相、実施例2の固定相と、市販品の2−エチルピリジン固定相を用いた、SFCによるアセチルアントラセン異性体およびアセチルフェナントレン異性体の分離の対比を示す図である((a):実施例1、(b):実施例2、(c)比較例)。カラムサイズ:4.6 I.D.×150mm、移動相:CO:メタノール=97:3、流速:4mL/min、背圧:150bar、温度:40℃、検出はUV254nmで行った。
【0106】
図24は、実施例1の固定相、実施例2の固定相と、市販品の2−エチルピリジン固定相を用いた、SFCによるテルフェニル異性体およびトリフェニレンの分離の対比を示す図である((a):実施例1、(b):実施例2、(c)比較例)。カラムサイズ:4.6 I.D.×150mm、移動相:CO:メタノール=97:3、流速:4mL/min、背圧:150bar、温度:40℃、検出はUV254nmで行った。
【0107】
図25は、実施例1の固定相、実施例2の固定相と、市販品の2−エチルピリジン固定相を用いた、SFCによるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)、パラキサンチン(paraxanthine)の分離の対比を示す図である((a):実施例1、(b):実施例2、(c)比較例)。
カラムサイズ:4.6 I.D.×150mm、移動相:CO:メタノール=90:10、流速:4mL/min、背圧:150bar、温度:40℃、検出はUV254nmで行った。
【0108】
図26は、実施例1の固定相、実施例2の固定相と、市販品の2−エチルピリジン固定相を用いた、SFCによるフェノプロフェン(fenoprofen)、ケトプロフェン(ketoprofen)、ナプロキセン(naproxen)の分離の対比を示す図である((a):実施例1、(b):実施例2、(c)比較例)。
カラムサイズ:4.6 I.D.×150mm、移動相:CO:メタノール=90:10、流速:4mL/min、背圧:150bar、温度:40℃、検出はUV210nmで行った。
【0109】
図27は、実施例1の固定相、実施例2の固定相と、市販品の2−エチルピリジン固定相を用いた、、SFCによるアルプレノルオール(alprenolol)、プロプラノルオール(propranolol)、アテノロール(atenolol)、ピンドロール(pindolol)の分離の対比を示す図である((a):実施例1、(b):実施例2、(c)比較例)。
カラムサイズ:4.6 I.D.×150mm、移動相:CO:メタノール=90:10、流速:4mL/min、背圧:150bar、温度:40℃、検出はUV230nmで行った。
【0110】
<実施例5>
以下の手順で開始末端にトリアルコキシシリル基を有するポリ(4−ビニルピリジン)の合成を行った。
フラスコ中に2,2‘―アゾビスイソブチロニトリル24mgを添加し、脱気後窒素パージを行った。そこへ、N,N−ジメチルホルムアミド 0.57mL、4−ビニルピリジン 4.24mL、(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン 0.19mLを窒素雰囲気下、この順番で添加した。フラスコをオイルバスで60℃に加温し、3時間保った。重合後、4mLのメタノールで希釈後、ジエチルエーテル200mLに再沈殿した。ろ過により回収した固体を再度6mLのメタノールに溶解後、ジエチルエーテル200mLに再沈殿した。
このようにして得られた、ポリ(4−ビニルピリジン)のキャラクタリゼーションをH NMRを用いて行った。3.5ppm付近に観測される開始末端のメトキシ基由来のピークと8.6〜8.0ppm付近に観測される芳香環プロトンのピーク面積比から、平均重合度は36と見積もられた。
【0111】
上記手順で得た、末端にトリアルコキシシリル基を有するポリ(4−ビニルピリジン)1.21gとシリカゲル(平均粒子径5μm、平均粒子径300Å)2.07gをフラスコに採り、脱気後窒素パージを行った。ここに、N,N−ジメチルホルムアミド10mL添加後、オイルバスを160℃に加温し、8時間加熱還流を行った。反応終了後、室温まで冷却しグラスフィルターによるろ過回収の後、メタノール100mL、トルエン30mL、アセトン30mLで洗浄した。得られた固定相を60℃で一晩真空乾燥した。
得られたシリカゲルの炭素含量は12.9質量%であり、末端にトリメトキシシリル基を有するポリ(4−ビニルピリジン)は19.9質量%であったことから、約18.9質量%のポリ(4−ビニルピリジン)が結合しているものと推定された。
得られたポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルの比表面積は91m/gであり、平均粒径は5μmとみなされた。
【0112】
得られたポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルは、以下の構造を有していることが推定できる。
【化16】
【0113】
得られたポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲル固定相を4.6mmφ×150mmカラムにスラリー充填し、SFCによってアセチルアントラセン、アセチルフェナントレン異性体を分離した。図28は、CO/メタノール(97:3 v/v)によるSFCである。流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左から9−アセチルアントラセン、3−アセチルフェナントレン、2−アセチルアントラセン、2−アセチルフェナントレン、9−アセチルフェナントレンである。検出はUV 254nmで行った。
本発明の固定相は、明らかに、構造のよく似た置換位置異性体に対し、良好な分離能を示している。芳香族環や双極性原子団を配した高分子が、ある程度規則的に配列することから、分子の形に対して敏感な吸着場が形成されているものと考えられる。
【0114】
図29は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(97:3 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からo−テルフェニル、m−テルフェニル、p−テルフェニル、トリフェニレンである。検出はUV 254nmで行った。
【0115】
図30は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からカフェイン、テオフィリン、テオブロミン、パラキサンチンである。検出はUV 254nmで行った。
【0116】
図31は、ポリ(4−ビニルピリジン)結合シリカゲルを固定相に用いたSFCである。溶離液:CO/メタノール(90:10 v/v)、流速:4ml/min、温度:40℃、背圧:150barの条件で行った。ピークは左からフェノプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセンである。検出はUV 210nmで行った。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の固定相は、従来のHPLCでは分離が難しかった化合物、特に酸性化合物や塩基性化合物に加え、縮合環芳香族化合物や芳香族異性体についても良好な分離特性を有する。具体的には、カラム段数の向上が見込まれる。このことから本発明の固定相は、これまで分離が難しかった様々な物質の新たな分離条件の発見や改良だけでなく、分離された物質の同定、解析の利便性の向上に寄与することが期待される。
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