(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリジオルガノシロキサン(2)は、前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の合計質量に対して、40〜75質量%の割合で含まれる、請求項1に記載のコーティング剤。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のコーティング剤は、
(1)下記一般式(1):
【0019】
ただし、R
1およびR
1’は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または水酸基(−OH)を表し、この際、R
1の少なくとも1個およびR
1’の少なくとも1個は、水酸基(−OH)であり、
R
2は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
mは、1000〜30000の整数である、
で示される水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)と、
(2)下記一般式(2):
【0021】
ただし、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
nは、8〜1000の整数である、
で示される、ポリジオルガノシロキサン(2)と、
(3)下記一般式(3):
【0023】
ただし、R
6は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基または−OR
9基を表し、この際、R
9は、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1〜4の一価の炭化水素基を表し、
R
7およびR
8は、それぞれ独立して、一価の炭化水素基を表し、
Aは、それぞれ独立して、アミノ基含有基を表し、
p:q=5〜100:1であり、および
qは、1〜100の整数である、
で示される、1分子中に少なくとも1個のアミノ基を含有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)と、
を含み、
前記ポリジオルガノシロキサン(2)は、前記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に対する質量比が0.7〜3.0の割合で含まれ、
前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)は、前記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の合計質量に対して、2.4〜5.5質量%の割合で含まれる。上記構成を有するコーティング剤は、強固な被膜を形成し、また、基材(例えば、針、カテーテル、カニューレ等の医療機器)表面との密着性に優れるため、コーティングの基材からの剥離を抑制・防止でき、耐久性に優れる。また、本発明のコーティング剤は潤滑性に優れる。このため、本発明のコーティング剤で表面処理された針は、穿刺時の摩擦(穿刺抵抗)を低減して、刺通特性を向上できる。
【0024】
なお、本明細書において、一般式(1)で示される水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)を「水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)」または「ポリオルガノシロキサン(1)」と、一般式(2)で示されるポリジオルガノシロキサン(2)を、「ポリジオルガノシロキサン(2)」または「ポリオルガノシロキサン(2)」と、および一般式(3)で示される1分子中に少なくとも1個のアミノ基を含有するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を「アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)」または「ポリオルガノシロキサン(3)」と、それぞれ、称する。
【0025】
上記したように、本発明のコーティング剤は、
(a)ポリオルガノシロキサン(2)のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に対する質量比が0.7〜3.0である;および
(b)水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)の含有量がポリオルガノシロキサン(1)〜(3)の合計質量に対して、2.4〜5.5質量%である、ことを特徴とする。当該組成により、本発明のコーティング剤は、被膜形成性に優れ、基材(例えば、針、カテーテル、カニューレ、三方活栓)表面との密着性に優れるため、コーティング剤による表面処理物(被膜)の基材からの剥離を抑制・防止でき、耐久性に優れる。また、本発明のコーティング剤は、基材との摩擦を低減でき、刺通特性に優れる。上記効果が達成しうる理由は不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されない。
【0026】
すなわち、本発明者は、上記特許文献1に記載のコーティング剤の基材に対する耐久性や刺通特性のさらなる向上について鋭意検討を行った。その結果、耐久性の向上には、コーティング剤による被膜の強度(被膜形成性)を向上することが有効であると考えた。本発明者は、さらに被膜の強度(被膜形成性)の向上について鋭意検討を行った。その結果、上記したような特徴(a)及び(b)が有効な手段であることを見出した。詳細には、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)は、両末端の水酸基が基材(例えば、金属基材表面の水酸基)と結合(比較的長い架橋構造を形成)し、被膜を形成する。このため、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)は基材との密着性および被膜形成性に寄与する。また、ポリジオルガノシロキサン(2)は、そのオルガノシロキサン部分により被膜に潤滑性を付与する(刺通特性を向上する)。さらに、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、そのポリオルガノシロキサン部分が潤滑性を付与する(刺通特性を向上する)と共に、そのアミノ基が基材(例えば、金属基材表面の水酸基)と結合(比較的短い架橋構造を形成)し、被膜を形成する。このため、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、潤滑性、基材との密着性および部分的に被膜形成性に寄与する。なお、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)もある程度は被膜形成性に寄与する。しかし、基材に結合するアミノ基を有する構成部分がポリオルガノシロキサン(3)の両末端ではなく内部に密に存在するため、被膜の強度はポリオルガノシロキサン(3)の方が高いが、被膜形成性は水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)の方が高い。このため、上記特徴(b)によるように、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)を特定量含有することによって、本発明のコーティング剤による被膜形成性を向上することができる。また、上記特徴(a)によるように、被膜形成性に寄与するポリオルガノシロキサン(3)を特定割合で含有することによって、本発明のコーティング剤による被膜の強度を向上することができる。この水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)による被膜およびポリオルガノシロキサン(3)による被膜の強固さにより、ポリジオルガノシロキサン(2)が被膜にしっかりと保持され、摩擦によるポリジオルガノシロキサン(2)の脱離を抑制・防止し、耐久性を向上できる。ポリオルガノシロキサン(1)中の水酸基は、基材表面、特に基材表面の水酸基と相互作用するため、基材との密着性にも優れる。このため、本発明のコーティング剤で表面処理された医療用具(例えば、針、カテーテル、カニューレ、三方活栓)は、コーティング剤による表面処理物(被膜)の基材からの剥離を抑制・防止でき、潤滑性を長期間維持できる(耐久性に優れる)。また、本発明のコーティング剤は、基材との摩擦を低減でき、刺通特性に優れる。このため、特に本発明のコーティング剤で表面処理された針を用いれば、複数回使用した場合であっても、被膜(コーティング剤)が針表面から剥離することがないまたは少ない。ゆえに、高い潤滑性を維持できるため、使用中の摩擦(穿刺抵抗)を低減し、ゆえに患者に与える苦痛を有効に低減できる。さらに、本発明のコーティング剤であれば、被膜が針(基材)表面から剥離することを抑制・防止できる。ゆえに、本発明のコーティング剤で表面処理された針を輸液バッグに刺しかえても、異物(被膜剥離物)が輸液バックの中に混入することを抑制・防止して、安全性の観点からも好ましい。なお、特許文献1の調製例1(段落「0015」)では、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を調製するための原料として、両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン(本発明に係るポリオルガノシロキサン(1))を使用している。しかし、この両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサンはほとんどすべてがγ−[N−(β−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシランと反応するため、上記特許文献1のコーティング剤はポリオルガノシロキサン(1)を実質的に含まない(含有量は少なくとも2.4質量%未満である)。
【0027】
本発明のコーティング剤は、ポリジオルガノシロキサン(2)、さらにはアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のオルガノシロキサン部分により潤滑性を付与する。また、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)はそのアミノ基部分を介して基材に密着する。ゆえに、上記特徴(a)によるように、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を特定の割合で存在させることによって、基材への密着性は維持しつつ、被膜の潤滑性を向上し、基材との摩擦(穿刺抵抗)を低減できる。このため、本発明のコーティング剤で表面処理された針を用いれば、穿刺が患者に与える苦痛をさらに軽減できる。
【0028】
したがって、本発明のコーティング剤は、基材に塗布された際に、耐久性および潤滑性(刺通特性)を向上できる。また、本発明のコーティング剤は、基材に塗布された際に、潤滑性、密着性および被膜形成性の良好なバランスを達成できる。ゆえに、本発明のコーティング剤は、上記したような特性を強く要求される医療機器、特に注射針等の針に特に好適に使用できる。すなわち、本発明は、コーティング剤で表面処理された医療機器(例えば、生体への挿入時に摩擦を生じる医療機器、例えば、針、カテーテル、カニューレ)をも提供する。このような医療機器であれば 、複数回使用した場合であっても、被膜(コーティング剤)が医療機器表面から剥離することがないか、または少ない。ゆえに、高い潤滑性を維持できるため、使用中の摩擦(穿刺抵抗)を低減することができる結果、患者に与える苦痛を有効に軽減できる。さらに、本発明のコーティング剤を用いることにより、被膜が医療機器(基材)表面から剥離することを抑制・防止できる。したがって、例えば、本発明のコーティング剤で表面処理された針を輸液バッグに刺しかえても、異物(被膜剥離物)が輸液バックの中に混入することを抑制・防止して、安全性の観点からも好ましい。また、三方活栓は生体へ挿入しないが、三方活栓の動作部の摺動性が維持できる。
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
【0030】
なお、以下では、医療機器が針である形態について詳細に説明しているが、本発明は下記形態に限定されない。例えば、カテーテルなどの他の医療機器についても同様にして適用できる。
【0031】
[水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)]
本発明に係る水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)は、下記一般式(1)で示される。なお、式:−Si(R
2)
2O−の構成単位が複数存在する場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、本発明のコーティング剤は、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)を1種単独で含んでも、または2種以上の水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)を含んでもよい。
【0033】
本発明に係る水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)は、両末端の水酸基が基材(例えば、金属基材表面の水酸基)と結合(比較的長い架橋構造を形成)し、被膜を形成する。このため、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)を含む本発明のコーティング剤は被膜形成性に優れる。このため、本発明に係る水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)により形成される被膜中にポリジオルガノシロキサン(2)やアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)をしっかりと保持できる。ゆえに、本発明のコーティング剤を用いると、耐久性を向上できる。したがって、本発明のコーティング剤で表面処理された針を用いれば、ゴム栓に複数回穿刺した場合であっても、被膜(コーティング剤)が針表面から剥離することがないまたは少ない。ゆえに、本発明のコーティング剤で表面処理された針は、高い潤滑性を維持できるため、使用中の摩擦(穿刺抵抗)が小さく、患者に与える苦痛を有効に低減できる。例えば、本発明のコーティング剤で表面処理された針を輸液バッグに刺しかえても、被膜(コーティング剤)が針表面から剥離して異物(被膜剥離物)が輸液バックの中に混入することを抑制・防止して、安全性の観点からも好ましい。また、本発明に係る水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)は、両末端に水酸基(R
1およびR
1’)を有する。この水酸基は、基材、特に基材の水酸基と相互作用するため、基材との密着性に優れる。ゆえに、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に存在するアミノ基と共に、基材との密着を促進する。
【0034】
水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)の含有量は、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の合計質量に対して、2.4〜5.5質量%である。ここで、ポリオルガノシロキサン(1)の含有量が2.4質量%未満であると、被膜形成性が低く、ポリジオルガノシロキサン(2)やアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を十分保持できず、潤滑性や耐久性に劣る(下記比較例3)。逆に、ポリオルガノシロキサン(1)の含有量が5.5質量%を超えると、潤滑性付与に寄与するポリジオルガノシロキサン(2)及びアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の含有量が少なくなるため、潤滑性や耐久性に劣る(下記比較例2)。被膜形成性(ゆえに耐久性)をより向上させるという観点からは、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)の含有量は、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の合計質量に対して、好ましくは2.9〜5.5質量%であり、より好ましくは3.2〜5.5質量%であり、さらにより好ましくは3.2〜4.6質量%であり、特に好ましくは3.2〜3.9質量%である。なお、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)を2種以上含む場合には、上記含有量は水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)の合計量を意味する。
【0035】
上記一般式(1)において、R
1およびR
1’は、一価の炭化水素基または水酸基(−OH)を表す。ここで、R
1およびR
1’は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、−Si(R
1)
3において、複数のR
1は、それぞれ、同一であってもまたは異なるものであってもよい。同様にして、−Si(R
1’)
3において、複数のR
1’は、それぞれ、同一であってもまたは異なるものであってもよい。ただし、R
1の少なくとも1個およびR
1’の少なくとも1個は、水酸基(−OH)である。被膜形成性のより向上効果などを考慮すると、R
1の1または2個および/またはR
1’の1または2個が水酸基であることが好ましく、R
1およびR
1’が1個ずつ水酸基であることがより好ましい。
【0036】
R
1およびR
1’としての一価の炭化水素基は、特に制限されないが、例えば、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐状のアルキル基、炭素数2〜24の直鎖もしくは分岐状のアルケニル基、炭素数3〜9のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基などが挙げられる。ここで、炭素数1〜24の直鎖もしくは分岐状のアルキル基としては、特に特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、3−エチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、イソデシル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基、n−ヘンエイコシル基、n−ドコシル基、n−トリコシル基、n−テトラコシル基などが挙げられる。炭素数2〜24の直鎖もしくは分岐状のアルケニル基としては、特に特に制限されないが、例えば、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、2−ヘプテニル基、5−ヘプテニル基、1−オクテニル基、3−オクテニル基、5−オクテニル基、ドデセニル基、オクタデセニル基などが挙げられる。炭素数3〜9のシクロアルキル基としては、特に特に制限されないが、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。炭素数6〜30のアリール基としては、特に特に制限されないが、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基などが挙げられる。これらのうち、潤滑性のより向上効果、溶媒との相溶性などの観点から、R
1およびR
1’は、炭素数1〜16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。なお、上記「相溶性」は、異種分子間での相互溶解性をいい、分子レベルでの混ざりやすさを意味する。
【0037】
上記一般式(1)において、R
2は、一価の炭化水素基を表す。ここで、1つの構成単位に中に存在する各R
2は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。また、構成単位が複数存在する場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。R
2としての一価の炭化水素基は、上記R
1およびR
1’における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。潤滑性、耐久性のより向上効果、溶媒への相溶性などの観点から、R
2は、炭素数1〜16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0038】
すなわち、本発明の好ましい形態によると、一般式(1)において、R
1およびR
1’の1個が水酸基であり、残りのR
1およびR
1’が、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、R
2が、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基である。また、本発明のより好ましい形態によると、一般式(1)において、R
1およびR
1’の1個が水酸基であり、残りのR
1およびR
1’がメチル基であり、R
2がメチル基である。
【0039】
また、mは、1000〜30000の整数であり、好ましくは5000〜20000の整数であり、より好ましくは10000〜15000である。上記したような範囲であれば、ポリオルガノシロキサン(1)は十分な被膜形成を発揮できる。水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が10,000〜2,000,000であることが好ましく、100,000〜1,050,000であることがより好ましく、100,000〜1,000,000であることがさらにより好ましく、500,000〜1,000,000であることが特に好ましい。本明細書において、重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)分析による測定結果から、ポリスチレンを標準物質とした検量線法により求めた値を意味する。
【0040】
[ポリジオルガノシロキサン(2)]
本発明に係るポリジオルガノシロキサン(2)は、下記一般式(2):
【0042】
で示される。ポリジオルガノシロキサン(2)は、上記構造から示されるように、分子鎖末端にトリオルガノシリル基を有し、分子中にアミノ基を含有しない、ポリジオルガノシロキサンであり、実質的に分子中に水酸基及び加水分解性基を含有しない。
【0043】
ポリジオルガノシロキサン(2)は、そのオルガノシロキサン部分により水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)やアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)が形成した被膜に潤滑性を付与する。このため、ポリジオルガノシロキサン(2)の存在により、形成される被膜は、高い潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)を発揮できる。式:−Si(R
5)
2O−の構成単位が複数存在する場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。さらに、本発明のコーティング剤は、ポリジオルガノシロキサン(2)を1種単独で含んでも、または2種以上のポリジオルガノシロキサン(2)を含んでもよい。
【0044】
本発明のコーティング剤は、ポリジオルガノシロキサン(2)を、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に対する質量比が0.7〜3.0の割合となる量で含む。ここで、ポリオルガノシロキサン(3)に対するポリジオルガノシロキサン(2)の質量比が0.7未満であると、ポリジオルガノシロキサン(2)の割合が少なすぎて十分な潤滑性を付与できない。逆にポリオルガノシロキサン(3)に対するポリジオルガノシロキサン(2)の質量比が3.0を超えると、ポリオルガノシロキサン(3)の割合が少なすぎて、密着性に劣るため、十分な耐久性を付与できない。潤滑性及び耐久性のより向上効果などを考慮すると、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に対するポリジオルガノシロキサン(2)の質量比は、好ましくは0.9〜2.5、より好ましくは1.1〜2.4であり、さらにより好ましくは1.1〜2.0であり、特に好ましくは1.5〜2.0である。
【0045】
ポリジオルガノシロキサン(2)の含有量は、上記アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に対する質量比を満たす限り、特に制限されない。潤滑性、密着性および被膜形成性のより良好なバランスを考慮すると、ポリジオルガノシロキサン(2)の含有量は、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の合計質量に対して、好ましくは40〜75質量%、より好ましくは40〜70質量%、さらにより好ましくは40〜65質量%、さらに好ましくは50〜65質量%、特に好ましくは58〜65質量%である。このような量であれば、潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)及び耐久性をより有効に向上できる。なお、ポリジオルガノシロキサン(2)を2種以上含む場合には、上記含有量はポリジオルガノシロキサン(2)の合計量を意味する。
【0046】
上記一般式(2)において、R
4およびR
5は、一価の炭化水素基を表す。ここで、複数のR
4は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。同様にして、複数のR
5は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。R
4およびR
5としての一価の炭化水素基は、上記一般式(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、潤滑性のより向上効果などの観点から、R
4およびR
5としての一価の炭化水素基は、炭素数1〜16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0047】
すなわち、本発明の好ましい形態によると、一般式(2)において、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基である。また、本発明のより好ましい形態によると、一般式(2)において、R
4およびR
5はメチル基である。
【0048】
上記一般式(2)において、nは、8〜1000の整数であり、好ましくは10〜200の整数であり、より好ましくは20〜100であり、特に好ましくは30〜50である。上記したようなnであれば、ポリジオルガノシロキサン(2)は十分な潤滑性を発揮して、基材との摩擦(穿刺抵抗)をより低減できる。このため、ポリジオルガノシロキサン(2)の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が500〜7000であることが好ましく、1500〜5000であることがより好ましく、2000〜4000であることが特に好ましい。
【0049】
具体的には、ポリジオルガノシロキサン(2)の好ましい例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリジプロピルシロキサン、ポリジイソプロピルシロキサン、ポリメチルエチルシロキサン、ポリメチルプロピルシロキサン、ポリメチルイソプロピルシロキサン、ポリエチルプロピルシロキサン、ポリエチルイソプロピルシロキサンなどがある。これらのうち、潤滑性(刺通特性)などを考慮すると、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサンが好ましく、ポリジメチルシロキサンがより好ましい。
【0050】
[アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)]
本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、下記一般式(3):
【0052】
で示される。本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、アミノ基(一般式(3)中の置換基「A」)を介して、基材、特に基材表面に存在する水酸基と相互作用して、基材と結合(密着)できる。また、本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)に存在するオルガノシロキサン部分(−Si(R
7)
2O−)は、潤滑性(刺通容易性)を付与する。なお、式:−Si(R
7)
2O−の構成単位が2以上存在する(pが2以上)である場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。同様にして、式:−Si(R
8)(A)O−の構成単位が2以上存在する(qが2以上)である場合には、各構成単位は同一であってもまたは異なるものであってもよい。さらに、本発明のコーティング剤は、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を1種単独で含んでも、または2種以上のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を含んでもよい。
【0053】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の含有量は、上記ポリジオルガノシロキサン(2)との質量比を満たす限り、特に制限されない。潤滑性、密着性および被膜形成性のより良好なバランスを考慮すると、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の含有量は、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の合計質量に対して、好ましくは24〜57質量%、より好ましくは28〜54質量%、さらにより好ましくは32〜54質量%、さらに好ましくは32〜45質量%、特に好ましくは32〜38質量%である。このような量であれば、基材との密着性及び潤滑性(刺通容易性、刺通抵抗の低減効果)をより有効に向上できる。加えて、コーティング剤の安全性をより向上でき、特に針などの医療用途に使用する場合には好ましい。
【0054】
上記一般式(3)において、R
6は、一価の炭化水素基または−OR
9基である。ここで、複数のR
6は、同一であってもまたは異なるものであってもよい。ここで、一価の炭化水素基は、上記一般的(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、潤滑性、耐久性のより向上効果、溶媒への相溶性などの観点から、R
6は、炭素数1〜16の直鎖もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基がさらにより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0055】
また、R
9は、それぞれ独立して、置換または非置換の炭素数1〜4の一価の炭化水素基を表す。ここで、複数のR
6が−OR
9基である場合には、当該複数の−OR
9基は、同じあってもまたは相互に異なるものであってもよい。ここで、一価の炭化水素基は、特に制限されないが、例えば、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基)、炭素数2〜4の直鎖もしくは分岐状のアルケニル基(ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基(アリル基)、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基)、炭素数3または4のシクロアルキル基(シクロプロピル基、シクロブチル基)でありうる。これらのうち、潤滑性のより向上効果、基材への密着性などの観点から、メチル基、エチル基が好ましい。
【0056】
上記一般式(3)において、R
7およびR
8は、一価の炭化水素基を表す。ここで、オルガノシロキサン部分(−Si(R
7)
2O−)における各R
7および式:−Si(R
8)(A)O−の構成単位中のR
8は、それぞれ同一であってもまたは異なるものであってもよい。ここで、一価の炭化水素基は、特に制限されないが、上記置換基「R
6」と同様の定義である、すなわち上記一般的(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。これらのうち、潤滑性のより向上効果、入手のしやすさなどの観点から、炭素数1〜4の直鎖のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0057】
上記一般式(3)において、Aは、アミノ基含有基を表す。ここで、Aが複数存在する(qが2以上である)場合には、各Aは、同一であってもまたは異なるものであってもよい。アミノ基含有基は、特に制限されないが、例えば、β−アミノエチル基、γ−アミノプロピル基、N−(β−アミノエチル)アミノメチル基、γ−(N−(β−アミノエチル)アミノ)プロピル基などが挙げられる。これらのうち、潤滑性のより向上効果、基材への密着性などの観点から、γ−アミノプロピル基、N−(β−アミノエチル)アミノメチル基またはγ−(N−(β−アミノエチル)アミノ)プロピル基が好ましく、γ−(N−(β−アミノエチル)アミノ)プロピル基、γ−アミノプロピル基がより好ましく、γ−(N−(β−アミノエチル)アミノ)プロピル基が特に好ましい。
【0058】
すなわち、本発明の好ましい形態によると、一般式(3)において、R
6は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、R
7およびR
8は、それぞれ独立して、炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐状のアルキル基であり、Aは、γ−アミノプロピル基、N−(β−アミノエチル)アミノメチル基またはγ−(N−(β−アミノエチル)アミノ)プロピル基である。また、本発明のより好ましい形態によると、一般式(3)において、R
6はメチル基であり、R
7およびR
8はメチル基であり、Aはγ−(N−(β−アミノエチル)アミノ)プロピル基である。
【0059】
また、上記一般式(3)において、qは、1〜100の整数であり、好ましくは3〜20の整数であり、より好ましくは3〜15の整数であり、特に好ましくは4〜10の整数である。また、pは、qと、p:q=5〜100:1の関係(モル比)を満たす整数である。好ましくは、p:q=10〜100:1であり、より好ましくは20〜80:1であり、特に好ましくは30〜50:1である。上記したようなp及びqであれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)中に十分数のアミノ基が存在するため、基材との十分な密着性を達成できる。また、このようなp及びqであれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)中に十分数のオルガノシロキサン部分が存在するため、コーティング剤はより十分な潤滑性を発揮して、基材との摩擦(穿刺抵抗)をより低減できる。pは、上記関係を満たす限り、特に制限されないが、10〜800、より好ましくは60〜400、特に好ましくは100〜300であることが好ましい。
【0060】
アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の分子量は特に制限されないが、重量平均分子量が5000〜50000であることが好ましく、7500〜30000であることがより好ましく、10000〜20000であることが特に好ましい。
【0061】
本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)の製造方法は、特に制限されない。例えば、本発明に係るアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)は、特開平7−178159号公報等の公知の文献に記載の方法と同様にしてあるいは適宜修飾して製造できる。
【0062】
本発明のコーティング剤は、上記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)及びアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を必須に含む。ここで、本発明のコーティング剤は、上記ポリオルガノシロキサン(1)〜(3)のみから構成されても、または上記に加えて他の成分をさらに含んでもよい。後者の場合、使用できる他の成分としては、特に制限されず、公知のコーティング剤、特に医療機器(例えば、注射針、カテーテル、カニューレ)の被覆用のコーティング剤に通常添加される成分が挙げられる。より具体的には、縮合反応触媒、抗酸化剤、色素、界面活性剤、スリップ剤、下塗り剤などが挙げられる。また、他の成分の含有量は、ポリオルガノシロキサン(1)〜(3)による効果を阻害しない限り特に制限されないが、ポリオルガノシロキサン(1)〜(3)の合計量に対して、0.1〜5質量%程度である。
【0063】
また、本発明のコーティング剤は、有機溶媒を含んでもよい。ここで、有機溶媒としては、特に制限されず、公知のコーティング剤に使用されるのと同様の溶媒が使用できる。具体的には、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタンなどのフロン系溶剤、塩化メチレン(ジクロロメタン)、クロロホルムなどの塩素含有炭化水素、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性ケトン類、テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの脂肪族アルコール類、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの揮発性シロキサン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、二硫化炭素等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、これらの溶媒を2種以上組み合わせた混合溶媒として使用してもよい。有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、コーティングの容易性などを考慮すると、ポリオルガノシロキサン(1)〜(3)の合計濃度が、5〜80質量%、好ましくは、57〜77質量%程度であることが好ましい。なお、本発明のコーティング剤を医療機器(例えば、針)にコーティングする場合には、上記コーティング剤を、さらに上記有機溶媒で希釈してもよい。この場合には、ポリオルガノシロキサン(1)〜(3)の合計濃度が1〜10質量%、より好ましくは3〜7質量%となるように、有機溶媒で希釈することが好ましい。
【0064】
本発明のコーティング剤の製造方法は、特に制限されず、上記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)、ならびに必要であれば上記他の成分を、上記した組成で混合して、撹拌・混合する方法が使用できる。上記方法において、有機溶媒を添加することが好ましい。これにより、実際に医療機器(例えば、針)などに容易にコーティングすることが可能になる。ここで、有機溶媒としては特に制限されず、上記他の成分として記載した有機溶媒が好ましく使用される。ここで、撹拌・混合条件は、特に制限されない。具体的には、撹拌・混合温度は、好ましくは25〜130℃であり、より好ましくは50〜100℃である。また、撹拌・混合時間は、好ましくは0.5〜5時間であり、より好ましくは1〜3時間である。このような条件であれば、上記水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)、ポリジオルガノシロキサン(2)およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)、ならびに必要であれば上記他の成分は、望ましくない反応を起こすことなくかつ均一に混合できる。
【0065】
[コーティング剤の用途]
上記本発明のコーティング剤は、対象物の潤滑性及び耐久性を向上させることができる。このため、本発明のコーティング剤は、上記特性の要求が高い医療機器(例えば、針、カテーテル、カニューレ)の分野で特に好適に使用できる。したがって、本発明は、本発明のコーティング剤の硬化処理により表面処理してなる医療機器をも提供する。また、本発明は、医療機器表面を本発明のコーティング剤で硬化処理することを有する、医療機器の製造方法をも提供する。
【0066】
医療機器は、上記特性が要求されるものであればいずれの用途で使用されてもよい。例えば、カテーテル、カニューレ、針、三方活栓、ガイドワイヤーなどが挙げられる。これらのうち、本発明のコーティング剤は、カテーテル、カニューレ、針、三方活栓に好ましく使用でき、針、特に医療用針(例えば、注射針)により好ましく使用できる。すなわち、本発明の好ましい形態では、本発明のコーティング剤の硬化処理により表面処理してなる針が提供される。本発明のコーティング剤によれば、穿刺時の摩擦が低減され、また、コーティングの耐久性にも優れる。よって、これらの特性の観点から、本発明に係る針、特に医療用針(例えば、注射針)は、当該針をゴム栓に10回穿刺した後の穿刺抵抗(最大抵抗値)が小さいほど好ましい。具体的には、上記穿刺抵抗(最大抵抗値)が、45mN未満であると好ましく、41mN以下であるとより好ましい。なお、針をゴム栓に10回穿刺した後の穿刺抵抗(最大抵抗値)の下限は、低いほど好ましいため、特に限定されず、0mNであるが、通常、10mN以上であれば許容できる。上記穿刺抵抗(最大抵抗値)は、実施例に記載の方法により測定される。
【0067】
また、本発明は、針(医療用針)表面を本発明のコーティング剤で硬化処理することを有する、針(医療用針)の製造方法をも提供する。
【0068】
医療機器(基材としての)は、いずれの材料で形成されてもよく、従来と同様の材料が使用できる。以下では、医療機器が針である形態を例にとって説明するが、本発明は下記形態に限定されるものではなく、針を構成する材料の代わりに所望の医療機器を構成する材料を使用するなどして適用できる。
【0069】
針は、いずれの材料で形成されてもよく、金属材料や高分子材料等の、針、特に医療用針(例えば、注射針)に通常使用されるのと同様の材料が使用できる。上記金属材料としては、以下に制限されないが、SUS304、SUS316L、SUS420J2、SUS630などの各種ステンレス鋼(SUS)、金、白金、銀、銅、ニッケル、コバルト、チタン、鉄、アルミニウム、スズあるいはニッケル−チタン(Ni−Ti)合金、ニッケル−コバルト(Ni−Co)合金、コバルト−クロム(Co−Cr)合金、亜鉛−タングステン(Zn−W)合金等の各種合金、更には金属−セラミックス複合体などが挙げられる。上記金属材料は、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。上記金属材料は、表面上の水酸基とコーティング剤を構成するアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のアミノ基や水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)の水酸基と結合する。このため、上記材料で形成される針は、本発明のコーティング剤による被膜との密着性に優れる。上記高分子材料としては、以下に制限されないが、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66(いずれも登録商標)などのポリアミド樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などのポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂(アリル樹脂)、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、アミノ樹脂(ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂)、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂(ケイ素樹脂)、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。上記高分子材料は、単独で使用されてもまたは2種以上を併用してもよい。
【0070】
また、本発明のコーティング剤で表面処理される基材は、本発明のコーティング剤が有するアミノ基や水酸基等の官能基と相互作用しやすいという観点から、水酸基、カルボキシル基、アミノ等の官能基を有する基材が好ましい。特に、基材が金属材料の場合、金属材料は、その表面が酸化被膜に覆われて水酸基等を有するため、本発明のコーティング剤との密着性が高く好ましい。また、本発明のコーティング剤が有するアミノ基や水酸基等の官能基と相互作用が少ない基材の場合、プラズマ処理等で基材に水酸基等の官能基を付与することにより、本発明のコーティング剤と基材との密着性を高めることができる。
【0071】
本発明のコーティング剤による表面処理方法は、特に制限されないが、コーティング剤を含む塗膜を加熱するまたは放射線照射することによって硬化処理が行われることが好ましい。すなわち、本発明は、医療機器(好ましくは針)の表面に、本発明のコーティング剤を含む塗膜を形成し、前記塗膜を加熱するまたは放射線照射することにより硬化処理することを有する、医療機器(好ましくは針)の製造方法をも提供する。または、本発明のコーティング剤による表面処理方法は、コーティング剤を含む塗膜を加熱と加湿を行うことによって硬化処理が行われることが好ましい。すなわち、本発明は、医療機器(好ましくは針)の表面に、本発明のコーティング剤を含む塗膜を形成し、前記塗膜を加熱および加湿により硬化処理することを有する、医療機器(好ましくは針)の製造方法をも提供する。
【0072】
コーティング剤を含む塗膜の形成方法は、制限されず、公知の塗布方法が適用できる。具体的には、コーティング(被覆)する手法としては、浸漬法(ディッピング法)、塗布・印刷法、噴霧法(スプレー法)、はけ塗り、スピンコート法、コーティング剤含浸スポンジコート法などを適用することができる。なお、コーティング剤を針表面にコーティングする場合、針の内部に空気等の気体を送りこむことにより、針内部へのコーティング剤の侵入を防止してもよい。これにより、コーティング剤による針詰まりを防止することができる。また、基材にコーティングしたコーティング剤は、必要により、自然乾燥、風乾、加熱などにより溶剤を揮散させ、場合によっては同時にコーティング剤をプレキュアしてもよい。
【0073】
また、針表面の一部にのみ塗膜を形成させる場合には、針表面の一部のみをコーティング剤中に浸漬して、該コーティング剤(コーティング溶液)を針表の一部にコーティングし、針表面の所望の表面部位に塗膜を形成してもよい。針表面の一部のみをコーティング剤中に浸漬するのが困難な場合には、予め塗膜を形成する必要のない針表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、針をコーティング剤中に浸漬して、該コーティング剤を針表面にコーティングした後、塗膜を形成する必要のない針表面部分の保護部材(材料)を取り外すことで、針表面の所望の表面部位に塗膜を形成することができる。但し、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、塗膜を形成することができる。例えば、針表面の一部のみをコーティング剤中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、塗布法や噴霧法など)を適用してもよい。なお、針表面の外表面と内表面の双方が潤滑性や耐久性を有する必要がある場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができる点で、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
【0074】
上記のようにコーティング剤を含む塗膜を形成した後、当該塗膜に対して硬化処理を行う。上記硬化処理(表面処理)のうち、コーティング剤を含む塗膜を加熱する場合の、硬化処理(表面処理)方法は、特に制限されない。具体的には、硬化処理(表面処理)としては、常圧(大気圧)下での加熱処理、加圧蒸気下での加熱処理、エチレンオキサイドガス(EOG)を用いた加熱処理などが挙げられる。
【0075】
常圧(大気圧)下での加熱処理による場合の、加熱処理条件(反応条件)は、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは50〜150℃、より好ましくは60〜130℃である。また、加熱時間は、好ましくは2〜48時間、より好ましくは15〜30時間である。このような反応条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。また、加熱手段(装置)としては、例えば、オーブン、ドライヤー、マイクロ波加熱装置などを利用することができる。
【0076】
加圧蒸気下での加熱処理による場合の、加熱処理条件(反応条件)もまた、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは100〜135℃、より好ましくは105〜130℃である。また、加熱時間は、好ましくは1〜120分間、より好ましくは10〜60分間である。さらに、圧力は、所望の反応性(例えば、潤滑性、耐久性、基材との結合性)などを考慮して、適切に選択すればよい。このような反応条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。加えて、上記条件であれば、針を同時に滅菌処理できる。また、加熱手段(装置)としては、例えば、コッホ殺菌釜、オートクレーブなどを利用することができる。
【0077】
エチレンオキサイドガス(EOG)を用いた加熱処理による場合の、加熱処理条件(反応条件)もまた、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。加熱温度は、好ましくは40〜135℃、より好ましくは45〜80℃である。また、加熱時間は、好ましくは1〜300分間、より好ましくは20〜250分間である。さらに、圧力は、所望の反応性(例えば、潤滑性、耐久性、基材との結合性)などを考慮して、適切に選択すればよい。このような反応条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。加えて、上記条件であれば、針を同時に滅菌処理できる。
【0078】
また、上記表面処理(硬化処理)を放射線照射により行う場合の、放射線は、特に制限されず、ガンマ線(γ線)、電子線、中性子線またはX線でありうる。これらのうち、ガンマ線または電子線が好ましい。放射線照射を行うことによって、コーティング剤の硬化処理を促進させるだけでなく、針の滅菌も行うことができる。放射線照射条件(反応条件)は、所望の効果(例えば、潤滑性、耐久性)を達成できる条件であれば、特に制限されるものではない。例えば、ガンマ線照射の場合では、線量、照射時間などの条件は特に制限されないが、通常は、γ線量は、10〜50kGyであり、好ましくは15〜25kGyである。このような照射条件であれば、アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(アミノ基)や水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材と強固に結合できる。また、水酸基含有ポリオルガノシロキサン(1)(水酸基)が基材表面と反応して強固な被膜を形成できる。
【実施例】
【0079】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0080】
合成例1:両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(4)の合成
以下のようにして、下記構造の両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(4)を、特開平7−178159号公報の調製例1と同様にして合成した。
【0081】
【化10】
【0082】
すなわち、下記構造の両末端シラノール基含有ポリジメチルシロキサン(重量平均分子量=約900,000) 100質量部にトルエン390部を加えて50℃で3時間攪拌した後、γ−[N−(β−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン 20質量部を加え、80℃で12時間反応させることによって、両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(4)(重量平均分子量=約900,000)を得た。
【0083】
【化11】
【0084】
比較例1
上記合成例1で合成した両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(4) 120質量部、下記構造のポリジメチルシロキサン(2)(重量平均分子量=約3000、一般式(2)中のn=38) 730質量部、下記構造のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(重量平均分子量=約15000) 660質量部、トルエン 1700質量部およびエタノール200質量部を加えて、85℃で2時間撹拌して、比較コーティング剤1を得た。
【0085】
【化12】
【0086】
実施例1〜9および比較例2〜3
下記構造の水酸基含有ポリジメチルシロキサン(1)(重量平均分子量=約900,000)、下記構造のポリジメチルシロキサン(2)(重量平均分子量=約3000、一般式(2)中のn=38)、下記構造のアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)(重量平均分子量=約15000)、トルエンおよびエタノールを、下記表1に示される組成となるように加えて、85℃で2時間撹拌・混合して、コーティング剤1〜9(実施例1〜9)および比較コーティング剤2〜3(比較例2〜3)を、それぞれ、得た。なお、下記表1において、水酸基含有ポリジメチルシロキサン(1)を「化合物1」と、ポリジメチルシロキサン(2)を「化合物2」と、およびアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)を「化合物3」と、それぞれ、称する。
【0087】
【化13】
【0088】
【表1】
【0089】
上記実施例1〜9で得られたコーティング剤1〜9及び比較例1〜3で得られた比較コーティング剤1〜3について、下記方法に従って刺通抵抗を測定した。
【0090】
[刺通抵抗の測定]
(注射針へのコーティング1:加熱)
各コーティング剤に、シリコーン成分の濃度が約5質量%となるようにジクロロメタンを加えて希釈し、無色透明のコーティング液を得た。なお、シリコーン成分の濃度は、実施例1〜9及び比較例2〜3では、水酸基含有ポリジメチルシロキサン(1)、ポリジメチルシロキサン(2)及びアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のコーティング液における合計濃度をいう。また、比較例1では、シリコーン成分の濃度は、両末端アミノ基含有ポリオルガノシロキサン(4)、ポリジメチルシロキサン(2)及びアミノ基含有ポリオルガノシロキサン(3)のコーティング液における合計濃度をいう。
【0091】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG−1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針をオーブン中で、120℃で2時間、加熱して、硬化処理を行った。なお、コーティング剤1〜9で表面に被膜を形成した注射針を注射針1〜9と、比較コーティング剤1〜3で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針1〜3と、それぞれ、称する。
【0092】
(注射針へのコーティング2:EOG)
上記(注射針へのコーティング1:加熱)と同様にして、コーティング液を調製した。
【0093】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG−1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針を、エチレンオキサイドガス(EOG)を用いて、50℃で210分間、硬化処理を行った。なお、上記処理により、注射針は、EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌が施された。また、コーティング剤1〜9で表面に被膜を形成した注射針を注射針10〜18と、比較コーティング剤1〜3で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針4〜6と、それぞれ、称する。
【0094】
(注射針へのコーティング3:高圧蒸気)
上記(注射針へのコーティング1:加熱)と同様にして、コーティング液を調製した。
【0095】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG−1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針を、121℃の高圧蒸気下で20分間、硬化処理を行った。なお、上記処理により、注射針は、高圧蒸気(オートクレーブ)滅菌が施された。また、コーティング剤1〜9で表面に被膜を形成した注射針を注射針19〜27と、比較コーティング剤1〜3で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針7〜9と、それぞれ、称する。
【0096】
(注射針へのコーティング4:放射線)
上記(注射針へのコーティング1:加熱)と同様にして、コーティング液を調製した。
【0097】
上記のようにして調製された各コーティング液に、引張試験機(オートグラフAG−1kNIS 島津製作所製)を用いて、18G注射針(針部分はSUS304製)を浸漬し、1000mm/minの速度で注射針を引き上げた。室温で2時間自然乾燥した。さらに、この注射針に、γ線を20kGy照射して、硬化処理を行った。なお、上記処理により、注射針は、放射線滅菌が施された。また、コーティング剤1〜9で表面に被膜を形成した注射針を注射針28〜36と、比較コーティング剤1〜3で表面に被膜を形成した注射針を比較注射針10〜12と、それぞれ、称する。
【0098】
(刺通抵抗の測定)
注射針1〜36および比較注射針1〜12について、それぞれ、引張試験機(オートグラフAG−1kNIS 島津製作所製)を用い、厚さ50μmのポリエチレンフィルムに角度90度、速度100mm/minで穿刺したときの摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)を測定した。具体的には、注射針の移動量に対する摺動抵抗値を時系列データで取得した。また、その測定値より、最大抵抗値(mN)を算出した。なお、上記測定は、注射針1〜36および比較注射針1〜12を、それぞれ、ゴム栓に0回(初期)、10回穿刺した後に行った。
【0099】
結果を
図1および
図2に示す。詳細には、注射針1〜9および比較注射針1〜3(コーティング1:105℃で24時間加熱)の0回および10回穿刺時の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)の結果を
図1Aおよび
図2Aにそれぞれ示す。なお、
図2Aにおいて、注射針3〜9(コーティング1:105℃で24時間加熱)の10回穿刺時の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)の結果のみを抽出した拡大図を併記する。また、注射針10〜18および比較注射針4〜6(コーティング2:EOG処理)の0回および10回穿刺時の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)の結果を
図1Bおよび
図2Bにそれぞれ示す。また、注射針19〜27および比較注射針7〜9(コーティング3:高圧蒸気処理)の0回および10回穿刺時の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)の結果を
図1Cおよび
図2Cにそれぞれ示す。なお、
図1および
図2において、縦軸は、摺動抵抗値(単位:mN)を示す。また、横軸は、各実施例及び比較例を示す。すなわち、
図1及び
図2に示される折れ線の各プロットは、左から、比較例2(Com.2)、実施例1(Ex.1)、実施例2(Ex.2)、実施例3(Ex.3)、実施例4(Ex.4)、実施例5(Ex.5)、実施例6(Ex.6)、実施例7(Ex.7)、実施例8(Ex.8)、実施例9(Ex.9)および比較例3(Com.3)を示す。また、
図1および
図2中、「Com.1」は、比較例1を示す。
【0100】
図1および
図2から、本発明の注射針は、0回穿刺時は比較注射針と同等程度またはそれ以下の摺動抵抗値(刺通抵抗値)を示したが、10穿刺時では比較注射針に比して有意に低い摺動抵抗値(刺通抵抗値)を示した。ゆえに、本発明の注射針によると、耐久性を向上できると考察される。また、
図2Aの拡大図から、コーティング剤4〜7で表面に被膜を形成した注射針(注射針4〜7)は穿刺時の摩擦(穿刺抵抗)低減効果および耐久性向上効果が特に顕著に発揮できると考察される。上記と同様の結果が、コーティング剤4〜7で表面に被膜を形成した他の注射針(注射針13〜16、22〜25)でも認められる。
【0101】
なお、コーティング4(γ線照射)の結果は図示しないが、注射針28〜36をゴム栓に0回穿刺した後の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)は、比較注射針11〜12に比して有意に低く、比較注射針10とほぼ同様であるという結果であった。また、注射針29〜35をゴム栓に10回穿刺した後の摺動抵抗値(刺通抵抗値)(mN)は、比較注射針10〜12に比して有意に低い摺動抵抗値(刺通抵抗値)を示した。さらに、コーティング剤4〜7で表面に被膜を形成した注射針31〜34は穿刺時の摩擦(穿刺抵抗)低減効果および耐久性向上効果において特に顕著であり、上記と同様の結果が得られた。
【0102】
ゆえに、本発明の注射針によると、耐久性および刺通特性を向上できると考察される。また、上記結果により、本発明のコーティング剤が、針以外の医療機器に対しても上記と同様の潤滑性及び耐久性を発揮できることが期待される。
【0103】
本出願は、2015年7月1日に出願された日本特許出願番号2015−132850号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。