特許第6791859号(P6791859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791859
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】ロボット装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/02 20060101AFI20201116BHJP
   B25J 13/06 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   B25J13/02
   B25J13/06
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-539221(P2017-539221)
(86)(22)【出願日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】JP2016076473
(87)【国際公開番号】WO2017043583
(87)【国際公開日】20170316
【審査請求日】2019年4月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-179659(P2015-179659)
(32)【優先日】2015年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】510341215
【氏名又は名称】ライフロボティクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002103
【氏名又は名称】特許業務法人にじいろ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼▲瀬▼ 宗祐
(72)【発明者】
【氏名】川口 順央
(72)【発明者】
【氏名】尹 祐根
(72)【発明者】
【氏名】栗原 眞二
【審査官】 中田 善邦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−241541(JP,A)
【文献】 特開平02−279289(JP,A)
【文献】 特開2014−176955(JP,A)
【文献】 特開2006−289531(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152265(WO,A1)
【文献】 特開2005−193338(JP,A)
【文献】 特開2012−139754(JP,A)
【文献】 特開2007−319970(JP,A)
【文献】 実開昭60−170811(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部から順番に配設された第1,第2,第3の関節部と、手首部を構成する第4,第5,第6の関節部とを有し、先端に手先効果器を装備可能なロボットアーム機構と、
前記手先効果器の移動及び姿勢変更について操作者が入力操作をするための操作部と、
前記操作部を介した入力操作に従って前記関節部の駆動を制御する制御部とを具備し、
前記操作部には、前記ロボットアーム機構のロボット座標系上での前記手先効果器の姿勢が固定された状態で前記手先効果器が前記ロボット座標系の直交3軸の各軸に沿って正負に移動する並進動作の操作に関する第1操作ボタンセットと、前記ロボット座標系上での前記手先効果器の手先座標系の原点位置が固定した状態で前記手先座標系の直交3軸の各軸を回転中心として前記手先効果器が正負に回転する姿勢変更動作の操作に関する第2操作ボタンセットとが前記ロボットアーム機構の移動回転に係る動作入力操作手段として限定的に装備され、
前記ロボット座標系は、前記第1関節部の回転軸とそれに直交する2軸とからなる直交3軸座標系であり、
前記手先座標系は、前記第6関節部の回転軸とそれに直交する2軸とからなる直交3軸座標系である、
ことを特徴とするロボット装置。
【請求項2】
前記並進移動に加えて前記並進移動以外の他の移動と前記姿勢変更に加えて前記姿勢変更以外の他の姿勢変更とについて操作者が入力操作をするための他の操作部をさらに具備することを特徴とする請求項1記載のロボット装置。
【請求項3】
前記第1操作ボタンセットは、前記ロボット座標系の直交3軸の各軸に関する正負移動を入力操作するための6個の物理的押しボタンからなることを特徴とする請求項1記載のロボット装置。
【請求項4】
前記第2操作ボタンセットは、前記手先座標系の直交3軸の各軸に関する正負回転を入力操作をするための6個の物理的押しボタンからなることを特徴とする請求項3記載のロボット装置。
【請求項5】
前記第1操作ボタンセットの6個の押しボタンにはそれぞれ対応する移動方向が文字により表記され、前記第2操作ボタンセットの6個の押しボタンにはそれぞれ対応する回転方向が図柄により表記されることを特徴とする請求項4記載のロボット装置。
【請求項6】
前記第1操作ボタンセットの6個の押しボタンは前記操作部の上部に配設され、前記第1操作ボタンセットの6個の押しボタンのうち前記ロボット座標系上の前後左右移動に係る4個の押しボタンが十字に近接配置され、前記ロボット座標系上の上下移動に係る2個の押しボタンが前記4個の押しボタンの隣に近接配置され、
前記第2操作ボタンセットの6個の押しボタンは前記操作部の下部に配設され、前記第2操作ボタンセットの6個の押しボタンは前記手先座標系の直交3軸の各軸ごとに近接配置されることを特徴とする請求項5記載のロボット装置。
【請求項7】
前記複数の関節部の個別入力操作ボタンセット、前記第1、第2操作ボタンセット、前記第1操作ボタンセットとは異なる座標系の直交3軸の各軸に沿って前記手先効果器が正負に移動する動作に関するボタンセット、前記第2操作ボタンセットとは異なる座標系の直交3軸の各軸を回転中心として前記手先効果器が正負に回転する動作に関するボタンセットが装備された他の操作部がさらに具備されることを特徴とする請求項1記載のロボット装置。
【請求項8】
前記第1関節部は前記基部の略中心線に係る第1軸回りのねじり回転のための関節部であり、前記第2関節部は前記第1軸に直交する第2軸回りの曲げ回転のための関節部であり、前記第3関節部は前記第2軸に直交する第3軸に沿った直動伸縮のための関節部であることを特徴とする請求項1記載のロボット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態はロボット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年ロボットがユーザと同一空間にいる環境が多くなってきている。介護用ロボットはもちろん産業用ロボットでも作業者と並んで作業を行なう状況が今後拡大していくものと考えられる。あるロボット装置は垂直多関節部アーム機構を備えている。垂直多関節部アーム機構は一般的には根元3軸と呼ばれる関節部J1,J2,J3と手首3軸と呼ばれる関節部J4,J5,J6とを装備している。例えばダイレクトティーチング工程において、これら6個の関節部J1−J6を個別に又は連動動作させることにより、手先を移動させ、手先姿勢を任意に変更している。
【0003】
最も簡易には根元関節部J1,J2,J3の個別駆動により手先が移動し、手首関節部J4,J5,J6の個別駆動により手先姿勢が変更される。これら関節部の連動制御により手先姿勢を固定した状態での移動(並進移動)や手先位置を固定した状態での手先姿勢を変更することが可能となる。並進移動、姿勢変更の操作についてユーザはワールド座標系、ロボット座標系、ユーザ座標系のいずれかを基準座標系として選択し、手首座標系、手先座標系(ツール座標系)、ワーク座標系のいずれかを対象座標系として選択して操作空間をロボット装置の適用環境に応じて好適に定義することができる。並進移動では、基準座標系に対する対象座標系の原点が変位され、基準座標系に対する対象座標系の相対的角度が固定される。姿勢変更では、基準座標系上での対象座標系の原点を固定したまま対象座標系がその直交3軸の各軸を中心として回転される。並進移動、姿勢変更それぞれについて基準座標系と対象座標系を任意に定義できるので、汎用性は非常に広い。
【0004】
その一方でこれら座標系の組み合わせは膨大に存在し、それら組み合わせにより実際にどのように移動し姿勢が変更されるのかが変化する。この移動や姿勢変更について座標系の膨大な組み合わせごとに理解することは非常に専門性が高く、それを習得するには困難を伴っていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目的は、ロボット装置の手先移動、姿勢変更の操作専門性を下げ、操作習得の難度を抑制させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態にかかるロボット装置は、基部から順番に配設された第1,第2,第3の関節部と、手首部を構成する第4,第5,第6の関節部とを有し、先端に手先効果器を装備可能なロボットアーム機構と、前記手先効果器の移動及び姿勢変更について操作者が入力操作をするための操作部と、前記操作部を介した入力操作に従って前記関節部の駆動を制御する制御部とを具備し、前記操作部には、前記ロボットアーム機構のロボット座標系上での前記手先効果器の姿勢が固定された状態で前記手先効果器が前記ロボット座標系の直交3軸の各軸に沿って正負に移動する並進動作の操作に関する第1操作ボタンセットと、前記ロボット座標系上での前記手先効果器の手先座標系の原点位置が固定した状態で前記手先座標系の直交3軸の各軸を回転中心として前記手先効果器が正負に回転する姿勢変更動作の操作に関する第2操作ボタンセットとが前記ロボットアーム機構の移動回転に係る動作入力操作手段として限定的に装備され、前記ロボット座標系は、前記第1関節部の回転軸とそれに直交する2軸とからなる直交3軸座標系であり、前記手先座標系は、前記第6関節部の回転軸とそれに直交する2軸とからなる直交3軸座標系である
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本実施形態に係るロボット装置のロボットアーム機構の外観斜視図である。
図2図2は、図1のロボットアーム機構の内部構造を示す側面図である。
図3図3は、図1のロボットアーム機構の構成を図記号表現により示す図である。
図4図4は、本実施形態によるロボット装置の構成を示すブロック図である。
図5図5は、図4の第2アーム操作部の操作パネル構造を示す平面図である。
図6図6は、図4の第2アーム操作部の他の操作パネル構造を示す平面図である。
図7図7は、図4の第2アーム操作部の他の操作パネル構造を示す平面図である。
図8図8は、図4のハンド操作部の操作パネル構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係るロボット装置を説明する。以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0009】
図1は、本実施形態に係るロボット装置の外観斜視図である。図2は、図1のロボットアーム機構の内部構造を示す斜視図である。図3は、図1のロボットアーム機構を図記号表現により示す図である。
【0010】
ロボットアーム機構は、複数、ここでは6つの関節部J1,J2,J3,J4,J5,J6を有する。複数の関節部J1,J2,J3,J4,J5,J6は基部10から順番に配設される。一般的に、第1、第2、第3関節部J1,J2,J3は根元3軸と呼ばれ、第4、第5、第6関節部J4,J5,J6はハンド装置3の姿勢を変化させる手首3軸と呼ばれる。ロボットアーム機構において、根元3軸を構成する第1関節部J1と第2関節部J2と第3関節部J3とにより3つの位置自由度が実現される。また、手首3軸を構成する第4関節部J4と第5関節部J5と第6関節部J6とにより3つの姿勢自由度が実現される。手首部4は第4、第5、第6関節部J4,J5,J6を有する。根元3軸を構成する関節部J1,J2,J3の少なくとも一つは直動伸縮関節である。ここでは第3関節部J3が直動伸縮関節部、特に伸縮距離の比較的長い関節部として構成される。アーム部2は直動伸縮関節部J3(第3関節部J3)の伸縮部分を表している。
【0011】
第1関節部J1は基台面に対して例えば垂直に支持される第1回転軸RA1を中心としたねじり関節である。第2関節部J2は第1回転軸RA1に対して垂直に配置される第2回転軸RA2を中心とした曲げ関節である。第3関節部J3は、第2回転軸RA2に対して垂直に配置される第3軸(移動軸)RA3を中心として直線的にアーム部2が伸縮する関節である。
【0012】
第4関節部J4は、第4回転軸RA4を中心としたねじり関節である。第4回転軸RA4は、後述の第7関節部J7が回転していないとき、つまりアーム部2の全体が直線形状にあるとき、第3移動軸RA3と略一致する。第5関節部J5は第4回転軸RA4に対して直交する第5回転軸RA5を中心とした曲げ関節である。第6関節部J6は第4回転軸RA4に対して直交し、第5回転軸RA5に対して垂直に配置される第6回転軸RA6を中心とした曲げ関節である。
【0013】
基部10を成すアーム支持部(第1支持部)11は、第1関節部J1の第1回転軸RA1を中心に形成される円筒形状の中空構造を有する。第1関節部J1は図示しない固定台に取り付けられる。第1関節部J1が回転するとき、アーム部2は第1支持部11の軸回転とともに左右に旋回する。なお、第1支持部11が接地面に固定されていてもよい。その場合、第1支持部11とは独立してアーム部2が旋回する構造に設けられる。第1支持部11の上部には第2支持部12が接続される。
【0014】
第2支持部12は第1支持部11に連続する中空構造を有する。第2支持部12の一端は第1関節部J1の回転部に取り付けられる。第2支持部12の他端は開放され、第3支持部13が第2関節部J2の第2回転軸RA2において回動自在に嵌め込まれる。第3支持部13は第1支持部11及び第2支持部に連通する鱗状の外装からなる中空構造を有する。第3支持部13は、第2関節部J2の曲げ回転に伴ってその後部が第2支持部12に収容され、また送出される。ロボットアーム機構の直動伸縮関節部J3(第3関節部J3)を構成するアーム部2の後部はその収縮により第1支持部11と第2支持部12の連続する中空構造の内部に収納される。
【0015】
第3支持部13はその後端下部において第2支持部12の開放端下部に対して第2回転軸RA2を中心として回動自在に嵌め込まれる。それにより第2回転軸RA2を中心とした曲げ関節部としての第2関節部J2が構成される。第2関節部J2が回動するとき、アーム部2は第2回転軸RA2を中心に垂直方向に回動、つまり起伏動作をする。
【0016】
第4関節部J4は、アーム部2の伸縮方向に沿ったアーム中心軸、つまり第3関節部J3の第3移動軸RA3に典型的には接する第4回転軸RA4を有するねじり関節である。第4関節部J4が回転すると、手首部4及び手首部4に取り付けられたハンド装置3は第4回転軸RA4を中心に回転する。第5関節部J5は、第4関節部J4の第4回転軸RA4に対して直交する第5回転軸RA5を有する曲げ関節部である。第5関節部J5が回転すると、第5関節部J5から先端にかけてハンド装置3とともに上下(第5回転軸RA5を中心に垂直方向)に回動する。第6関節部J6は、第4関節部J4の第4回転軸RA4に直交し、第5関節部J5の第5回転軸RA5に垂直な第6回転軸RA6を有する曲げ関節である。第6関節部J6が回転すると、ハンド装置3は左右に旋回する。
【0017】
図3に示すように回転軸RA1は第1関節部J1の固定部が設置される基台の基準面BPに垂直に配置される。第2関節部J2は回転軸RA2を中心とした曲げ関節として構成される。第2関節部J2の回転軸RA2はYb軸に平行に設けられる。第2関節部J2の回転軸RA2は第1関節部J1の回転軸RA1に対して垂直な向きに設けられる。さらに第2関節部J2は、第1関節部J1に対して、第1回転軸RA1の方向(Zb軸方向)と第1回転軸RA1に垂直なXb軸方向との2方向に関してオフセットされる。第2関節部J2が第1関節部J1に対して上記2方向にオフセットされるように、第2支持部12は第1支持部11に取り付けられる。第1関節部J1に第2関節部J2を接続する仮想的なアームロッド部分(リンク部分)は、先端が直角に曲がった2つの鈎形状体が組み合わされたクランク形状を有している。この仮想的なアームロッド部分は、中空構造を有する第1、第2支持部11、12により構成される。
【0018】
第3関節部J3は移動軸RA3を中心とした直動伸縮関節として構成される。第3関節部J3の移動軸RA3は第2関節部J2の回転軸RA2に対して垂直な向きに設けられる。第2関節部J2の回転角がゼロ度、つまりアーム部2の起伏角がゼロ度であってアーム部2が水平な基準姿勢においては、第3関節部J3の移動軸RA3は、第2関節部J2の回転軸RA2とともに第1関節部J1の回転軸RA1にも垂直な方向に設けられる。空間座標系上では、第3関節部J3の移動軸RA3はYb軸及びZb軸に対して垂直なXb軸に平行に設けられる。さらに、第3関節部J3は、第2関節部J2に対して、その回転軸RA2の方向(Xb軸方向)と、移動軸RA3に直交するZb軸の方向との2方向に関してオフセットされる。第3関節部J3が第2関節部J2に対して上記2方向にオフセットされるように、第3支持部13は第2支持部12に取り付けられる。第2関節部J2に第3関節部J3を接続する仮想的なアームロッド部分(リンク部分)は、先端が垂直に曲がった鈎形状体を有している。この仮想的なアームロッド部分は、第2、第3支持部12、13により構成される。
【0019】
第4関節部J4は回転軸RA4を中心としたねじり関節として構成される。第4関節部J4の回転軸RA4は第3関節部J3の移動軸RA3に略一致するよう配置される。第5関節部J5は回転軸RA5を中心とした曲げ関節として構成される。第5関節部J5の回転軸RA5は第3関節部J3の移動軸RA3及び第4関節部J4の回転軸RA4に略直交するよう配置される。第6関節部J6は回転軸RA6を中心としたねじり関節として構成される。第6関節部J6の回転軸RA6は第4関節部J4の回転軸RA4及び第5関節部J5の回転軸RA5に略直交するよう配置される。第6関節部J6は手先効果器としてのハンド装置3を左右に旋回するために設けられている。なお、第6関節部J6は、その回転軸RA6が第4関節部J4の回転軸RA4及び第5関節部J5の回転軸RA5に略直交する曲げ関節として構成されてもよい。
【0020】
このように複数の関節部J1−J6の根元3軸のうちの一つの曲げ関節部を直動伸縮関節部に換装し、第1関節部J1に対して第2関節部J2を2方向にオフセットさせ、第2関節部J2に対して第3関節部J3を2方向にオフセットさせることにより、本実施形態に係るロボット装置のロボットアーム機構は、特異点姿勢を構造上解消している。
【0021】
上記の通り手首部4のアダプタに取り付けられたハンド装置3は、第1、第2、第3関節部J1.J2.J3により任意位置に移動され、第4、第5、第6関節部J4、J5、J6により任意姿勢に配置される。特に第3関節部J3のアーム部2の伸縮距離の長さは、基部10の近接位置から遠隔位置までの広範囲の対象にハンド装置3を到達させることを可能にする。第3関節部J3はそれを構成する直動伸縮機構により実現される直線的な伸縮動作とその伸縮距離の長さとが特徴的である。
【0022】
ハンド装置3は、ワークを把持によりピッキングするための把持機構と他のワークを吸着によりピッキングするための吸着機構とを備える構造を一例として説明する。ハンド装置3は、他の機能を備える他の構造のものが装備されていても良い。ハンド装置3は、ハンド本体31を有する。ハンド本体31は角柱形状を有し、その上方端面に取り付け部を備える。この取り付け部を介して、ハンド装置3は手首部4のアダプタ(関節部J6)に装着される。ハンド本体31の下方には、エアチャックボックス32が取り付けられる。エアチャックボックス32は一対のスライダ33を有する。一対のスライダ33は接近/離反自在に支持される。エアチャックボックス32は、エアシリンダ(図示しない)を有する。エアシリンダには一対のエアチューブが接続されている。一対のエアチューブ各々は圧縮式のエアポンプ(図示しない)に接続されている。一対のエアチューブには一対の電磁弁(図示しない)が介在されている。後述の開閉用電磁弁ドライバ301により、一方の電磁弁の開閉と他方の電磁弁の開閉とは逆相に制御される。一方の電磁弁が開放され、他方の電磁弁が閉じられているとき、一対のスライダ33は接近する方向に移動される。一方の電磁弁が閉じられ、他方の電磁弁が開放されているとき、一対のスライダ33は離反する方向に移動される。一対のスライダ33の接近/離反する方向をスライド方向という。
【0023】
一対のスライダ33には一対の把持部34が取り付けられている。把持部34は外観略円柱形状を有する。把持部34の先端には、円筒状体のパッド(吸着パッド)36が取り付けられている。一対の把持部34には一対のエアチューブが接続されている。一対のエアチューブ各々は既出のエアポンプに接続されている。把持部34には、エアチューブとの接続口からその先端まで配管経路が形成されている。これにより、エアポンプから把持部34の先端までの配管経路が確保されている。エアポンプとしては圧縮式と真空式のいずれでも良いがここでは圧縮ポンプとして説明する。把持部34のパッド36とエアポンプとの間は負圧経路と正圧経路との2系統の配管経路で接続される。負圧経路には負圧弁とエジェクタとが介在される。正圧経路には正圧弁が介在される。負圧弁と正圧弁とは電磁弁である。後述の水平吸着用電磁弁ドライバ302により負圧弁の開閉と正圧弁の開閉とは逆相に制御される。
【0024】
負圧弁が開放され正圧弁が閉じられているとき、負圧経路が確保される。負圧経路が確保されているとき、エアポンプで発生された圧縮空気は負圧弁を介してエジェクタに供給される。エジェクタは吸気口とノズルと排気口とを有する。吸気口にはパッド36の後方部分が接続されている。エジェクタに供給された圧縮空気は、ノズルから噴射され高速な空気の束となって排気口から排気される。すると、エジェクタのチャンバの内圧が低下し、これにより吸気口から空気が吸い込まれ、吸気口から吸いこまれた空気は、圧縮空気とともに排気口から排気される。これにより、吸気口に接続されたパッド36に負圧が発生する。正圧弁が開放され負圧弁が閉じられているとき、正圧経路が確保される。正圧経路が確保されているとき、エアポンプで発生された圧縮空気は直接的にパッド36に供給される。これにより、パッド36に正圧が発生する。
【0025】
一対のスライダ33には一対の吸着パッド38が取り付けられている。吸着パッド38は弾性材料として例えばシリコーン樹脂で円筒状体に成形される。吸着パッド38の先端面をワークを吸着する吸着面という。吸着パッド38の胴体部分は蛇腹形に成形される。吸着パッド38は円筒状体の軸方向の向きにワークを吸着する。この吸着方向がスライド方向に垂直になるように、吸着パッド38はスライダ33に取り付けられる。一対の吸着パッド38には、一対のエアチューブが接続されている。一対のエアチューブ各々は既出のエアポンプに接続されている。吸着パッド38とエアポンプとの間は負圧経路と正圧経路との2系統の配管経路で接続される。負圧経路には負圧弁とエジェクタとが介在される。正圧経路には正圧弁が介在される。負圧弁と正圧弁とは電磁弁である。後述の垂直吸着用電磁弁ドライバ303により負圧弁の開閉と正圧弁の開閉とは逆相に制御される。負圧弁が開放され正圧弁が閉じられているとき、負圧経路が確保される。負圧経路が確保されているとき吸着パッド38に負圧が発生する。正圧弁が開放され負圧弁が閉じられているとき、正圧経路が確保される。正圧経路が確保されているとき吸着パッド38に正圧が発生する。
【0026】
図2に詳細に示されるように直動伸縮機構はアーム部2と射出部42とを有する。アーム部2は第1連結コマ列21と第2連結コマ列22とを有する。第1連結コマ列21は複数の第1連結コマ23からなる。第1連結コマ23は略平板形に構成される。前後の第1連結コマ23は、互いの端部箇所においてピンにより屈曲自在に列状に連結される。第1連結コマ列21は内側や外側に自在に屈曲できる。
【0027】
第2連結コマ列22は複数の第2連結コマ24からなる。第2連結コマ24は横断面コ字形状の短溝状体に構成される。前後の第2連結コマ24は、互いの底面端部箇所においてピンにより屈曲自在に列状に連結される。第2連結コマ列22は内側に屈曲できる。第2連結コマ24の断面はコ字形状であるので、第2連結コマ列22は、隣り合う第2連結コマ24の側板同士が衝突して、外側には屈曲しない。なお、第1、第2連結コマ23、24の第2回転軸RA2に向いた面を内面、その反対側の面を外面というものとする。第1連結コマ列21のうち先頭の第1連結コマ23と、第2連結コマ列22のうち先頭の第2連結コマ24とは結合コマ27により接続される。例えば、結合コマ27は第2連結コマ24と第1連結コマ23とを合成した形状を有している。
【0028】
射出部42は、複数の上部ローラ43と複数の下部ローラ44とが角筒形状のフレーム45に支持されてなる。例えば、複数の上部ローラ43は第1連結コマ23の長さと略等価な間隔を隔ててアーム中心軸に沿って配列される。同様に、複数の下部ローラ44は第2連結コマ24の長さと略等価な間隔を隔ててアーム中心軸に沿って配列される。射出部42の後方には、ガイドローラ40とドライブギア41とが第1連結コマ列21を挟んで対向するように設けられる。ドライブギア41は減速器(図示しない)を介してステッピングモータ330に接続される。第1連結コマ23の内面には連結方向に沿ってリニアギアが形成されている。複数の第1連結コマ23が直線状に整列されたときに互いのリニアギアは直線状につながって、長いリニアギアを構成する。ドライブギア41は、直線状のリニアギアにかみ合わされる。直線状につながったリニアギアはドライブギア41とともにラックアンドピニオン機構を構成する。
【0029】
アーム伸長時、モータ330が駆動し、ドライブギア41が順回転すると、第1連結コマ列21はガイドローラ40により、アーム中心軸と平行な姿勢となって、上部ローラ43と下部ローラ44との間に誘導される。第1連結コマ列21の移動に伴い、第2連結コマ列22は射出部42の後方に配置されたガイドレール(図示しない)により上部ローラ43と下部ローラ44との間に誘導される。上部ローラ43と下部ローラ44との間に誘導された第1、第2連結コマ列21,22は互いに押圧される。これにより、第1、第2連結コマ列21,22による柱状体が構成される。射出部42は、第1、第2連結コマ列21,22を接合して柱状体を構成するとともに、その柱状体を上下左右に支持する。第1、第2連結コマ列21、22の接合による柱状体が射出部42により堅持されることで、第1、第2連結コマ列21,22の接合状態が保持される。第1、第2連結コマ列21、22の接合状態が維持されているとき、第1、第2連結コマ列21,22の屈曲は互いに拘束される。それにより第1、第2連結コマ列21、22は、一定の剛性を備えた柱状体を構成する。柱状体とは、第2連結コマ列22に第1連結コマ列21が接合されてなる柱状の棒体を言う。この柱状体は第2連結コマ24が第1連結コマ23とともに全体として様々な断面形状の筒状体に構成される。筒状体とは上下左右が天板、底板及び両側板で囲まれ、前端部と後端部とが開放された形状として定義される。第1、第2連結コマ列21、22の接合による柱状体は、結合コマ27が始端となって、第3移動軸RA3に沿って直線的に第3支持部13の開口から外に向かって送り出される。
【0030】
アーム収縮時、モータ330が駆動し、ドライブギア41が逆回転されると、ドライブギア41と係合している第1連結コマ列21が第1支持部11内に引き戻される。第1連結コマ列21の移動に伴って、柱状体が第3支持部13内に引き戻される。引き戻された柱状体は射出部42後方で分離される。例えば、柱状体を構成する第1連結コマ列21はガイドローラ40とドライブギア41とに挟まれ、柱状体を構成する第2連結コマ列22は重力により下方に引かれ、それにより第2連結コマ列22と第1連結コマ列21とは互いに離反される。離反された第1、第2連結コマ列21,22はそれぞれ屈曲可能な状態に復帰する。収納に際しては、射出部42から、第1支持部11(基部10)の内部の収納部に第2連結コマ列22は内側に屈曲されて搬送され、第1連結コマ列21も第2連結コマ列22と同じ方向(内側)に屈曲されて搬送される。第1連結コマ列21は第2連結コマ列22に略平行な状態で格納される。
【0031】
周知の通りロボット分野では多くの座標系が扱われる。ワールド座標系Σgは、ロボット装置が設置された工場内床面に設定された直交3軸座標系(Xg、Yg、Zg)であり、観測座標系とも言い、ロボット装置はこのワールド座標系Σgに対して作業を行なう。ユーザ座標系Σuは、ロボット装置を操作するユーザを基準とした直交3軸座標系(Xu,Yu,Zu)である。ロボット座標系Σbは、ロボット装置の基部10を基準とした座標系であり、ここでは第1関節部J1の回転軸RA1上の任意位置を原点とした直交3軸座標系である。例えば、ロボット座標系Σbにおいて、回転軸RA1上の基部10の接地面に原点、回転軸RA1にZb軸(鉛直軸)、Zb軸に直交する2軸をXb軸、Yb軸に規定する。Xb軸はロボット装置の前後軸、Yb軸は左右軸を示す。
【0032】
手首座標系Σwrは、ロボット装置の手首部4を基準とした直交3軸座標系である。例えば、第4関節部J4の回転軸RA4上の任意位置に設定した手首基準点を原点とし、第4関節部J4の回転軸RA4をXwr軸(前後軸)、第5関節部J5の回転軸RA5と平行にYwr軸(左右軸)、これら2軸に直交するZwr軸(鉛直軸)が規定されている。手首姿勢とは、手首座標系Σwrの直交3軸各々周りの回転角として、Xwr軸周りの回転角(ロール角)αwr、Ywr軸周りの回転角(ピッチ角)βwr、Zwr軸周りの回転角(ヨー角)γwrとして与えられる。
【0033】
手先座標系Σhは、ロボット装置のハンド装置3を基準とした直交3軸座標系であり、ハンド装置3の一対のパッド36の間の中央位置(手先基準点という)を原点とし、第6関節部J6の旋回軸RA6と平行にXh軸(前後軸)、Xh軸に直交する2軸をYh軸、Zh軸が規定される。Yh軸はハンド装置3の左右軸、Zh軸はハンド装置3の上下軸を示す。手先姿勢とは、手先座標系Σhの直交3軸各々周りの回転角(Xh軸周りの回転角(ロール角)αh、Yh軸周りの回転角(ピッチ角)βh、Zh軸周りの回転角(ヨー角)γhとして与えられる。
【0034】
ワーク座標系Σwoは、ハンド装置3が取り扱うワークに基準をおいた直交3軸座標系である。例えば、ワーク座標系Σwoにおいて、ワークの重心位置(ワーク基準点という)を原点として、第6関節部J6の旋回軸RA6と平行にXwo軸(前後軸)、Xwo軸に直交する2軸をYwo軸、Zwo軸が規定される。Ywo軸はワークの左右軸、Zwo軸はワークの上下軸を示す。ワーク姿勢とは、ワーク座標系Σwoの直交3軸各々周りの回転角(Xwo軸周りの回転角(ロール角)αwo、Ywo軸周りの回転角(ピッチ角)βwo、Zwo軸周りの回転角(ヨー角)γwoとして与えられる。
【0035】
図4は、本実施形態に係るロボット装置の構成を示すブロック図である。ロボット装置は、多関節アーム機構200とハンド装置3とを備える。動作制御装置100の制御に従って、多関節アーム機構200を構成する関節部J3が伸縮し、関節部J1、J2,J4−J6各々が回転され、ハンド装置3が動作される。
【0036】
多関節アーム機構200は複数の関節部J1,J2,J3,J4,J5、J6を有する。複数の関節部J1−J6各々には、ステッピングモータが設けられる。これらステッピングモータの回転はドライバユニット201により制御される。ドライバユニット201は、動作制御装置100からの位置指令値に応じたパルス信号をステッピングモータに送る。これによりステッピングモータは指令値に応じた位置まで回転する。これらステッピングモータのドライブシャフトには、一定の回転角ごとにパルスを出力するロータリエンコーダ202が接続されている。ロータリエンコーダ202から出力されたエンコードパルスは、ドライバユニット201のカウンタ(図示しない)で加減算される。カウンタで計数されたエンコードパルスの計数値は、ドライバユニットインターフェース105を介して、動作制御装置100に入力される。
【0037】
ハンド装置3は、開閉用電磁弁ドライバ301と、水平吸着用電磁弁ドライバ302と、垂直吸着用電磁弁ドライバ303とを備える。開閉用電磁弁ドライバ301は、後述のハンド操作部70を介して入力された把持部34の開閉指令に従って、エアチャック構造32の電磁弁を開閉する。これにより、一対のスライダ33が接近/離反する方向に移動される。水平吸着用電磁弁ドライバ302は、後述のハンド操作部70を介して入力されたパッド36の吸着動作のONの指令に従って、把持部34のパッド36とエアポンプとの間に介在された正圧弁を閉じ、負圧弁をハンド操作部70で操作者により設定された吸着強度に応じた開度で開放する。水平吸着用電磁弁ドライバ302は、後述のハンド操作部70を介して入力されたパッド36の吸着動作のOFFの指令に従って、把持部34のパッド36とエアポンプとの間に介在された正圧弁を開放し、負圧弁を閉じる。垂直吸着用電磁弁ドライバ303は、後述のハンド操作部70を介して入力された吸着パッド38の吸着動作のONの指令に従って、吸着パッド38とエアポンプとの間に介在された正圧弁を閉じ、負圧弁をハンド操作部70で操作者により設定された吸着強度に応じた開度で開放する。垂直吸着用電磁弁ドライバ303は、後述のハンド操作部70を介して入力された吸着パッド38の吸着動作のOFFの指令に従って、吸着パッド38とエアポンプとの間に介在された正圧弁を開放し、負圧弁を閉じる。
【0038】
動作制御装置100は、システム制御部101を中心として制御/データバス109を介して各部が接続されてなる。動作制御装置100には、ロボット装置の着目点の位置および姿勢の変更を操作者が手動操作するための2系統のアーム操作部50,60が、それぞれ第1アーム操作部インターフェース102と第2アーム操作部インターフェース103とを介して接続されている。また、動作制御装置100には、ハンド装置3の動作を操作者が操作するためのハンド操作部70がハンド操作部インターフェース104を介して接続されている。
【0039】
動作制御部106は、第1アーム操作部50又は第2アーム操作部60を介してユーザにより入力されたロボット装置の移動指示、回転指示に従って、制御周期Δt毎の関節部J1−J6各々の位置指令値を発生する。動作制御部106により発生された位置指令値はドライバユニットI/F105を介して、関節部J1−J6各々のドライバユニット201に制御周期Δtごとに送信される。
【0040】
ここでは説明の便宜上、ロボット座標系Σbを基準座標系として、手先座標系Σhを対象座標系とする。動作制御部106は、エンコーダ202の出力パルスに基づいて、関節部J1,J2,J3,J4,J5,J6の関節変数(θ1、θ2、d3、θ4、θ5、θ6)を計算する。関節変数は、関節部J1,J2,J4,J5、J6の関節角度と関節部J3の伸長距離との6変数をいう。計算した関節変数(θ1、θ2、d3、θ4、θ5、θ6)に基づいて、順運動学によりロボット座標系Σb上での手先座標系Σhの原点(手先基準点)の現在位置と手先姿勢とを計算する。
【0041】
第1アーム操作部50又は第2アーム操作部60により、並進移動が指示されると、動作制御部106は、手先基準点の現在位置とこれらアーム操作部により入力された最終目標位置とに基づいて、予め設定された軌道計算式により、制御周期Δt毎の目標位置を計算する。動作制御部106は、並進移動開始時の手先姿勢を維持した状態で、手先基準点を現在位置から目標位置に移動するための関節変数(θ1、θ2、d3、θ4、θ5、θ6)を計算し、計算した関節変数に応じた位置指令値を発生する。
【0042】
第1アーム操作部50又は第2アーム操作部60により、手先姿勢の変更が指示されると、動作制御部106は、現在の手先姿勢とこれらアーム操作部により入力された最終目標姿勢とに基づいて、手先座標系ΣhのXh軸、Yh軸、Zh軸に関する回転行列により、制御周期Δt毎の目標姿勢を計算する。動作制御部106は、並進移動開始時の手先基準点の位置を維持した状態で、手先姿勢現在の姿勢から目標姿勢に変更するための関節変数(θ1、θ2、d3、θ4、θ5、θ6)を計算し、計算した関節変数に応じた位置指令値を発生する。
【0043】
なお、基準座標系として他の座標系(ワールド座標系/ユーザ座標系)が選択された場合、又は対象座標系として他の座標系(手首座標系/ワーク座標系)、基準座標系と対象座標系との両方が他の座標系に選択された場合においても、上記と同様に、動作制御部106は、アーム操作部50,60の入力に基づいて、制御周期Δt毎の位置指令値を発生する。そのために、動作制御部106は基準座標系(ワールド座標系/ユーザ座標系/ロボット座標系)と対象座標系(手首座標系/手先座標系/ワーク座標系)との関係を定義する複数の同次変換行列のデータ、手首座標系ΣwrのXwr軸、Ywr軸、Zwr軸に関する回転行列のデータ、およびワーク座標系ΣwoのXwo軸、Ywo軸、Zwo軸に関する回転行列のデータ等を保持する。
【0044】
本実施形態に係るロボット装置は、ロボットアーム機構を操作するための2系統のアーム操作部50,60を備える。第1アーム操作部50は、本実施形態に係るロボット装置が提供可能な全て又はほとんどの移動回転動作を網羅する専門的知識の必要な主に専門員が使用するのに適した汎用性の高い操作部である。第2アーム操作部60は、本実施形態に係るロボット装置が提供可能な移動回転動作のうちいくつかの移動回転動作に限定し、それらの動きと操作ボタンとの関係を固定化することにより汎用性は低いものの高い操作習熟性が期待できる操作部である。例えば、ロボットアーム機構の操作に熟練した操作者は、第1アーム操作部50を用いて、基準座標系と対象座標系とをそれぞれ切り替えながら、効率よくロボットアーム機構を操作することが可能なものとなっている。ロボットアーム機構の操作に不慣れな習熟度の低い者は、第2アーム操作部60を用いて容易にロボットアーム機構を操作することができる。
【0045】
第1アーム操作部50は、本実施形態に係るロボット装置が提供可能な移動回転動作を網羅するための複数のボタンを装備する。本実施形態に係るロボット装置は、以下の移動回転動作を提供する。
(1)並進移動
並進移動とは、基準座標系上での対象座標系の各軸角度差(姿勢)を維持した状態で、基準座標系に対する対象座標系の原点の相対的な位置が連続的に変化する移動を一般的には言うものであるが、ここでは対象座標系の原点が基準座標系のいずれか1軸に関する座標が変化する移動に限定的に用いるものとする。基準座標系として、ワールド座標系Σg、ユーザ座標系Σuおよびロボット座標系Σbのうち一が、ユーザにより選択される。対象座標系として、手首座標系Σwr、手先座標系Σhおよびワーク座標系Σwoのうち一が、ユーザにより選択される。例えば、基準座標系としてロボット座標系Σb、対象座標系として手先座標系Σhが選択された場合を想定する。このとき、並進移動操作が開始されると、並進移動操作開始時のロボット座標系Σb上での手先姿勢を維持した状態で、手先がロボット座標系Σbの直交3軸の各軸に沿って移動される。なお、対象座標系として手首座標系Σwrが選択された場合、基準座標系上での手首姿勢を維持した状態で、手首が基準座標系の直交3軸のいずれか1軸に沿って移動される。また、対象座標系としてワーク座標系Σwoが選択された場合、基準座標系上でのワーク姿勢を維持した状態で、ワークが基準座標系の直交3軸の各軸に沿って移動される。
(2)並進移動の混合動作
並進移動の混合動作は、基準座標系上の直交3軸のうち1軸の並進移動に他の1又は2軸の並進移動をされる移動をいうものという。
(3)手首姿勢の変更
手首姿勢の変更とは、手首座標系Σwrの原点が基準座標系上で固定された状態で、基準座標系上で手首座標系ΣwrがそのXwr軸周りに回転し(ロールαwr)、Ywr軸周りに回転し(ピッチβwr)、Zwr軸周りに回転(ヨーγwr)することにより手首姿勢が変更される動作をいう。手首に着目した姿勢変更は、対象座標系として手首座標系Σwrが選択された場合に行われる。
(4)手先姿勢の変更
手先姿勢の変更とは、手先座標系Σhの原点が基準座標系上で固定された状態で、基準座標系上で手先座標系ΣhがそのXh軸周りに回転し(ロールαh)、Yh軸周りに回転し(ピッチβh)、Zh軸周りに回転(ヨーγh)することにより手先姿勢が変更される動作をいう。手先に着目した姿勢変更は、対象座標系として手先座標系Σhが選択された場合に行われる。
(5)ワーク姿勢の変更
ワーク姿勢の変更とは、ワーク座標系Σwoの原点が基準座標系上で固定された状態で、基準座標系上でワーク座標系ΣwoがそのXwo軸周りに回転し(ロールαwo)、Ywo軸周りに回転し(ピッチβwo)、Zh軸周りに回転(ヨーγwo)することによりワーク姿勢が変更される動作をいう。ワークに着目した姿勢変更は、対象座標系としてワーク座標系Σwoが選択された場合に行われる。
(6)回転軸毎の回転動作
回転軸毎の回転動作とは、基準座標系および対象座標系に依らず、複数の関節部J1−J6がそれぞれの回転軸RA1−RA6周りに個別に正負回転する動作をいう。
【0046】
これら多種動作をユーザが入力操作するための操作ボタンが第1アーム操作部50には装備される。第1アーム操作部50には、並進移動のための基準座標系としてワールド座標系Σg、ユーザ座標系Σuおよびロボット座標系Σbの一の座標系をユーザが任意に設定するためのボタン、上述した対象座標系として手首座標系Σwr、手先座標系Σhおよびワーク座標系Σwoのうち一をユーザが任意に設定するためのボタンが設けられる。第1アーム操作部50には、姿勢変更のための対象座標系として手首座標系Σwr、手先座標系Σhおよびワーク座標系Σwoのうち一をユーザが任意に設定するためのボタンが設けられる。
【0047】
また第1アーム操作部50には、上記選択した対象座標系の着目点(原点)の並進移動を入力操作するための6個の操作ボタンが装備される。並進移動を入力操作するための6個の操作ボタンには、移動軸に関して基準座標系の直交3軸のいずれか、移動方向に関して各軸の正負いずれかが個々に対応つけられる。
【0048】
さらに第1アーム操作部50には、姿勢変更を入力操作するための6個の操作ボタンが装備される。姿勢変更を入力操作するための6個の操作ボタンには、回転軸に関して対象座標系の直交3軸のいずれか、回転方向に関して各軸の正負いずれかが個々に対応つけられる。
【0049】
第1アーム操作部50には、関節部J1−J6各々を個別に正負回転させるための12個の操作ボタンが装備される。また、これら移動回転に係る操作ボタンとは別に、移動速度(回転速度)を調整するための複数の調整ボタンが装備されるかもしれない。これらボタンは物理的ボタンの実装により構成されてもよいし、タッチパネルを装備したディスプレイにより構成されていてもよいし、これらの組み合わせにより構成されてもよい。
【0050】
第2アーム操作部60は、片手で保持が可能な重量及びサイズに形成され、矩形の平面形状を備えた操作パネルに、上記ロボット装置の移動回転動作の中の限定的な移動回転動作をユーザが入力操作するための操作ボタンが装備されてなる。第2アーム操作部60は、ロボット装置が提供可能な移動回転動作(上記の(1)−(6))のうち、並進移動(2)と手先姿勢の変更(4)とに限定した入力操作のための複数のボタンが限定的に装備されている。並進移動に関しては、基準座標系としてロボット座標系Σb、対象座標系としては手先座標系Σhに固定されている。姿勢変更に関しては、対象座標系としては並進移動と同じ手先座標系Σhに固定されている。
【0051】
図5は、図4の第2アーム操作部60の操作パネル構造を示す平面図である。第2アーム操作部60には、ロボット座標系Σb上で手先を並進移動させるための第1操作ボタンセット(601−606)と手先姿勢を変更するための第2操作ボタンセット(611−616)とが装備されている。
【0052】
具体的には、第1操作ボタンセットは、ロボット座標系Σbの直交3軸の各軸に関する正負移動を入力操作するための6個の物理的押しボタン601−606からなる。これら6個の押しボタン601−606各々には、対応する移動方向が文字(上、下、前、後、左、右)により表記されている。第2操作ボタンセットは、手先座標系Σhの直交3軸の各軸に関する正負回転を入力操作をするための6個の物理的押しボタン611−616からなる。これら6個の押しボタン各々には、対応する軸およびその軸周りの回転方向が図柄により表記されている。
【0053】
第1操作ボタンセットの6個の押しボタン601−606は第2アーム操作部60の上部に配設されている。第1操作ボタンセットの6個の押しボタン601−606のうち、ロボット座標系Σb上の前後移動に係る2個の押しボタン601,602が操作パネルの長手方向(縦方向)に並設され、左右移動に係る2個の押しボタン603,604が操作パネルの短手方向(幅方向、横方向)に並設される。つまりロボット座標系Σb上の前後左右移動に係る4個の押しボタン601−604が十字に配設される。また、ロボット座標系Σb上の上下移動に係る2個の押しボタン605,606が、4個の押しボタン601−604の右隣の領域に縦方向に並設される。押しボタン601,602は、ロボット座標系ΣbのXh軸の正負方向にそれぞれ対応する。押しボタン603,604は、ロボット座標系ΣbのYh軸の正負方向にそれぞれ対応する。押しボタン605,606は、ロボット座標系ΣbのZh軸の正負方向にそれぞれ対応する。例えば、押しボタン601には、移動方向を表す文字「前」が表記されている。押しボタン601が押されている間、ハンド装置3の姿勢が維持された状態で、ハンド装置3がロボット座標系Σb上のXh軸の正方向に既定速度で並進移動される。押しボタン602には、移動方向を表す文字「後」が表記されている。押しボタン602が押されている間、ハンド装置3の姿勢が維持された状態で、ハンド装置3がロボット座標系Σb上のXh軸の負方向に既定速度で並進移動される。
【0054】
第2アーム操作部60の下部であって、第1操作ボタンセットの下方には、第2操作ボタンセットの6個の押しボタン611−616が配設されている。第2操作ボタンセットの6個の押しボタン611−616は手先座標系Σhの直交3軸の各軸ごとに2個ずつ、第2アーム操作部60の幅方向に分散されている。直交3軸の各軸ごとに設けられた2個の押しボタンは第2アーム操作部60の縦方向に配列されている。直交3軸の各軸ごとに設けられた2個の押しボタンの下方に、対応する回転軸の位置を示す絵柄617−619が表記されている。操作ボタン611、612はXh軸周りの(+)/(−)の回転(ロールαh)に対応する。操作ボタン613、614はYh軸周りの(+)/(−)の回転(ピッチβh)に対応する。操作ボタン615、616は手先座標系ΣhのZh軸周りの(+)/(−)の回転(ヨーγh)に対応する。例えば、押しボタン611が押されている間、ハンド装置3が図柄617に表記されたXh軸周りに、押しボタン611に表記されている方向に既定速度で回転される。
【0055】
第2操作ボタンセットの下方には、第2アーム操作部60を起動するための電源ボタン621、第2アーム操作部60の操作を無効にするための緊急停止ボタン620、第2アーム操作部60が起動中か否かを操作者に通知するためのインジケータランプ623、及び操作ボタンが押されているか否かを操作者に通知するためのインジケータランプ624が配設されている。
【0056】
図6は、図4の第2アーム操作部60の他の操作パネル構造を示す平面図である。図5と同様に、第1操作ボタンセットを構成する6個の押しボタン601−606が第2アーム操作部60の上部に配設されている。また、図5と同様に、第1操作ボタンセットの下方に第2操作ボタンセットを構成する6個の押しボタン611−616が配設されている。図6に示すように、第2操作ボタンセットの下方に手先座標系Σhの直交3軸の各軸の向きを示す図柄630が表記されている。例えば、この図柄630は動作対象、ここではロボット装置の手先の概形を表す。この図柄630で表記されている直交3軸の各軸と、各軸ごとに設けられた2個の押しボタンとは、引き出し線により関連付けされている。手先座標系Σhの直交3軸の各軸の向きを示す図柄630の下方には、電源ボタン621と緊急停止ボタン620とインジケータランプ623,624が配設されている。1つの図柄630で、手先座標系Σhの直交3軸の各軸の向きを示すことで、操作者は各軸の位置関係をより簡易に理解することができるため、回転操作の操作容易性の向上が実現される。
【0057】
図7は、図4の第2アーム操作部60の他の操作パネル構造を示す平面図である。ここでは、第2アーム操作部60は、ロボット装置が提供可能な移動回転動作(上記の(1)−(6))のうち、並進移動(2)と回転軸毎の回転動作(6)とだけを操作者が入力するための複数のボタンが装備されている。この並進移動において、基準座標系はロボット座標系Σb、対象座標系は手先座標系Σhに固定されている。
【0058】
第2アーム操作部60には、ロボット座標系Σb上で手先を並進移動させるための第1操作ボタンセットと、手首3軸各々を直接回転させるための第2操作ボタンセットとが装備されている。図5と同様に、第1操作ボタンセットを構成する6個の押しボタン601−606が第2アーム操作部60の上部に配設されている。第1操作ボタンセットの下方に、第2操作ボタンセットが配設されている。第2操作ボタンセットの下方には、電源ボタン621と緊急停止ボタン620とインジケータランプ623,624が配設されている。図7に示す他の操作パネル構造において、第2操作ボタンセットは、手首3軸の各軸に関する正負回転を入力操作をするための6個の物理的押しボタン641−646からなる。これら6個の押しボタン641−646各々には、対応する軸およびその軸周りの回転方向が図柄により表記されている。6個の押しボタン641−646は、手首3軸の各軸ごとに2個ずつ、第2アーム操作部60の幅方向に分散されている。手首3軸の各軸ごとに設けられた2個の押しボタンは第2アーム操作部60の縦方向に分散されている。手首3軸の各軸ごとに設けられた2個の押しボタンの下方に、対応する回転軸の位置を示す図柄647−649が表記されている。操作ボタン641、642は第4関節部J4の回転軸RA4周りの(+)/(−)の回転に対応する。操作ボタン643、644は第5関節部J5の回転軸RA5周りの(+)/(−)の回転に対応する。操作ボタン645、646は第6関節部J6の回転軸RA6周りの(+)/(−)の回転に対応する。例えば、押しボタン641が押されている間、手首部4及びハンド装置3は第4関節部J4と共に、回転軸RA4周りに押しボタン641に表記されている方向に既定速度で回転される。
【0059】
図8は、図4のハンド操作部70の操作パネル構造を示す平面図である。ハンド操作部70には、その上部にハンド装置3の一対の把持部34を開閉するための複数の操作ボタン701、702がハンド操作部70の幅方向に分散して配置されている。これら操作ボタン701,702には、開閉が文字により表記されている。複数の操作ボタン701,702の下方には、把持部34のパッド36の吸着動作をON/OFFするための複数の操作ボタン711,712がハンド操作部70の幅方向に分散して配置されている。これら操作ボタン711、712には、それぞれ「ON」、「OFF」が文字により表記されている。複数の操作ボタン711,712の隣には、把持部34のパッド36の吸着動作の吸着力を操作者が任意に選択するための複数の選択ボタン713,714、715が配置されている。複数の選択ボタン713,714、715は、ハンド操作部70の幅方向に分散されている。複数の選択ボタン713,714,715には、吸着力の強さを表す文字(「強」、「中」、「弱」)がそれぞれ表記されている。複数の操作ボタン711,712の下方には、吸着パッド38の吸着動作をON/OFFするための複数の操作ボタン721,722がハンド操作部70の幅方向に分散して配置されている。これら操作ボタン721、722には、それぞれ「ON」、「OFF」が文字により表記されている。複数の操作ボタン721,722の隣には、吸着パッド38の吸着動作の吸着力を操作者が任意に選択するための複数の選択ボタン723,724、725が配置されている。複数の選択ボタン723,724、725は、ハンド操作部70の幅方向に分散されている。複数の選択ボタン723,724,725には、吸着力の強さを表す文字(「強」、「中」、「弱」)がそれぞれ表記されている。複数の操作ボタン721,722の下方には、ハンド操作部70を起動するための電源ボタン731、ハンド操作部70の操作を無効にするための緊急停止ボタン730、ハンド操作部70が起動中か否かを操作者に通知するためのインジケータランプ733、及び操作ボタンが押されているか否かを操作者に通知するためのインジケータランプ734が配設されている。
【0060】
上述したようにロボット装置のアーム機構に関する移動回転動作から選択された限定的な動作の入力操作に限定した第2アーム操作部60を、全動作の入力操作を網羅した第1アーム操作部50とは別体で設けたことにより、操作者が自身の操作習熟の程度に応じて操作部を選択的に使用することができる。
【0061】
第2アーム操作部60では、並進移動の基準座標系、対象座標系をロボット座標系、手先座標系に設定し、それらを操作ボタンに対して固定化させたこと、さらに姿勢変更の対象座標系を並進移動の対象座標系と同じ手先座標系に設定したことにより、それら座標系の方向はアーム機構及びハンド部の形状等から非常にわかり易く、アーム機構及びハンド部の上下・左右・前後を視認しながらそれに応じて入力操作をすることができ、それは他の座標系に比べて動作予測性が高いといえ、操作を短期間のうちに上達させる事が可能となる。
【0062】
また第2アーム操作部60では対象動作ごとに独立した物理的な押しボタンを装備させることにより、その構造上、2又はそれ以上の動作を混合して同時に入力操作をすることを回避させることができ、意図した動作と異なる不測の動作が実行されることによる煩雑さを解消する事ができる。それは、並進移動の6個の押しボタンにはそれぞれ対応する移動方向を文字により表記し、姿勢変更の6個の押しボタンにはそれぞれ対応する回転方向を図柄により表記したことにより、さらに向上し得る。
【0063】
並進移動に係る6個の押しボタンを操作部の上部に、姿勢変更にかかる6個の押しボタンを操作部の下部にそれぞれ分離して配設したこと、そして並進移動に係る6個の押しボタンのうち前後左右移動に係る4個の押しボタンを十字に配置し、上下移動に係る2個の押しボタンを4個の押しボタンの隣に配置し、さらに姿勢変更に係る6個の押しボタンを直交3軸の回転軸ごとに並設し、このようなボタン配置は操作パネルを視認することなく指先の触覚により、ボタンを識別する事が容易になり、アーム機構及びハンド部から視点を動かすことなく正確な入力操作を実現する。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0065】
50…第1アーム操作部、60…第2アーム操作部、70…ハンド操作部、100…制御装置、101…システム制御部、102…第1アーム操作部インターフェース、103…第2アーム操作部インターフェース、104…ハンド操作部インターフェース、105…ドライバユニットインターフェース、106…動作制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8