(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の説明において、図面に示されたいくつかの図に亘り、同様の参照文字は、同様のまたは対応する部品を指す。また、特に明記のない限り、「上部」、「下部」、「外方」、「内方」などの用語は、便宜上の単語であり、制限用語と見なすべきではないことが理解されよう。それに加え、物体、物品、または組成物が、複数の要素およびそれらの組合せの群の内の少なくとも1つを含むと記載されているときはいつでも、その物体、物品、または組成物は、個別か、または互いの組合せのいずれかで、列挙されたそれらの要素のいくつを含んでも、から実質的になっても、またはからなってもよいことが理解されよう。同様に、物体、物品、または組成物が、複数の要素またはそれらの組合せの群の内の少なくとも1つからなると記載されているときはいつでも、その物体、物品、または組成物は、個別か、または互いの組合せのいずれかで、列挙されたそれらの要素のいくつからなってもよいことが理解されよう。特に明記のない限り、値の範囲は、列挙された場合、その範囲の上限と下限の両方、並びにそれらの間の任意の範囲を含む。ここに用いたように、名詞は、特に明記のない限り、「少なくとも1つ」または「1つ以上」の対象を指す。また、明細書および図面に開示された様々な特徴は、いずれの組合せでも、また全ての組合せで使用できることが理解されよう。
【0011】
その最も広い意味で使用される。特に明記のない限り、全ての組成は、モルパーセント(モル%)で表される。高温熱膨張係数(高温CTE)は、ケルビン当たりの百万分率(ppm)(ppm/Kまたは10
-6/K)で表され、瞬間熱膨張係数(CTE)対温度の曲線の高温平坦域で測定された値を示す。その高温CTEは、転移領域を通るガラスの加熱または冷却に関連する体積変化を示す。高いCTE値は、成形後に高い歪みをもたらすと考えられる。
【0012】
フュージョン法などの等粘性プロセスにおいて、ガラスが経験する最高温度は、ガラスの特定の粘度に対応する。ここに用いたように、「液相粘度」という用語は、溶融したアルカリアルミノケイ酸塩ガラスが溶融温度から冷めるときに結晶が最初に現れるガラスまたはガラス溶融物の粘度、または温度を室温から上昇させるときに一番最後の結晶が溶けるガラスまたはガラス溶融物の粘度を称する。ここに記載されたガラスは、ガラスの粘度が30kPのジルコン分解粘度と等しい温度と等しいジルコン分解温度を有する。ここに用いたように、「200ポアズ温度」または「T
200」という用語は、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスまたはアルカリアルミノケイ酸塩ガラス溶融物の粘度が200ポアズ(P)である温度を称する。
【0013】
ここに用いたように、「軟化点」は、ガラス物体が自重で垂下する温度を称し、ガラスの粘度が10
7.6ポアズ(P)である温度として定義される。
【0014】
「実質的に」および「約」という用語は、任意の定量比較、値、測定、または他の表示に起因するであろう固有の不確実性の度合いを表すためにここに使用されることがあることに留意のこと。これらの用語は、問題の主題の基本的機能の変化をもたらさずに、定量表示が規定基準から変動するであろう程度を表すためにここに使用されている。それゆえ、「Li
2Oを実質的に含まない」アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、Li
2Oがアルカリアルミノケイ酸塩ガラスに積極的に添加されていないか、またはアルカリアルミノケイ酸塩ガラスに配合されていないが、汚染物質として非常に少量(すなわち、0.1モル%未満)で存在することがあるものである。「リチウムを含まない」は、そのガラスが0モル%のLiおよび/またはLi
2Oを含有することを意味する。
【0015】
圧縮応力および層の深さは、当該技術分野で公知の手段を使用して測定される。そのような手段としては、以下に限られないが、株式会社ルケオ(日本国、東京都)により製造されているFSM−6000などの市販の計器を使用した表面応力の測定(FSM)が挙げられる。圧縮応力および層の深さを測定する方法は、「Standard Specification for Chemically Strengthened Flat Alkali aluminosilicate Glass」と題するASTM 1422C−99、および「Standard Test Method for Non-Destructive Photoelastic Measurement of Edge and Surface Stresses in Annealed, Heat-Strengthened, and Fully-Tempered Flat Alkali aluminosilicate Glass」と題するASTM1279.19779に記載されており、これらの内容をここに全て引用する。表面応力測定は、応力または荷重下に置かれたときの、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスの複屈折に関連する応力光係数(SOC、nm/cm・MPaで表される)の正確な測定に依存する。次に、SOCは、その内容がここに全て引用される、両方とも「Standard Test Method for Measurement of Alkali aluminosilicate Glass Stress-Optical Coefficient」と題するASTM標準C770−98(2008)に記載されているファイバおよび4点曲げ法などの当該技術分野で公知の方法、およびバルクシリンダ法により測定される。
【0016】
一般に図面を、特に
図1を参照すると、説明図は、特定の実施の形態を記載する目的のためであり、本開示または付随の特許請求の範囲をそれに限定することは意図されていないことが理解されよう。図面は、必ずしも一定の縮尺で描かれておらず、図面の特定の特徴および特定の視野は、明確さと簡潔さのために、規模と図式で誇張して示されることがある。
【0017】
イオン交換可能なガラスが、携帯型装置を含む多くの最新電子機器に見られるディスプレイ用のカバーガラスとして広く使用されている。しかしながら、そのような用途におけるこれらの化学強化可能なガラスの使用は、大部分は、平らかつ平面の物品または機器に制限されている。垂下プロセスが、三次元(3D)のガラス形状を形成するために広く使用されている。このプロセスにおいて、ガラスが加熱され、自重下または真空下で成形型内に垂下して、最終またはほぼ最終形状を得ている。しかしながら、多くのイオン交換可能なガラスは、成形型用保護コーティングが利用される場合でさえ、その垂下プロセスに使用される成形型と反応する、それに貼り付く、および/またはそれを劣化させる傾向にある。したがって、複雑な3D形状を垂下プロセスにより成形できるようにする十分に低い軟化範囲粘度または軟化点を有するイオン交換可能なガラスが必要とされている。
【0018】
リチウム含有アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、より低い軟化点を有する傾向にある。しかしながら、ガラス中のナトリウムがイオン交換媒質中のカリウムと交換される場合、リチウムの存在により、そのガラスのイオン交換特性が制限されてしまう。結果として生じる圧縮層の所望の深さ(層の深さ、またはDOL)を達成するために、そのようなガラスは、典型的に、より高い温度で、より長い期間に亘りイオン交換されなければならず、これは、製造の観点から、現実的でも、望ましくもない。長期間に亘りイオン交換した場合でさえ、圧縮層の結果としての深さは比較的浅い傾向にあり、圧縮応力は低い。
【0019】
したがって、イオン交換可能なアルカリアルミノケイ酸塩ガラス(以後、単に「ガラス」と称されることもある)およびガラス物品であって、そのガラスを真空垂下プロセスによって3D形状に成形できるようにする軟化点および高温熱膨張係数を有するイオン交換可能なアルカリアルミノケイ酸塩ガラスおよびガラス物品が、ここに記載されている。これらのガラスは、MgOおよびZnOの少なくとも一方をかなりの量(すなわち、1モル%以上)で含有し、約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3、1モル%未満のLi
2O、および約1モル%から約7モル%のZnOを含み、このアルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、約790℃未満の軟化点および約35×10
-6/K以下の高温熱膨張係数を有する。いくつかの実施の形態において、そのガラスは、約1620℃未満の200ポアズ温度(T
200P)を有する。
【0020】
いくつかの実施の形態において、前記アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、約62モル%から約70モル%のSiO
2(すなわち、62モル%≦SiO
2≦70モル%)、約5モル%から約11モル%のAl
2O
3(すなわち、5モル%≦Al
2O
3≦11モル%)、約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3(すなわち、0.5モル%≦B
2O
3≦4モル%)、0モル%から約1モル%未満のLi
2O(すなわち、0モル%≦Li
2O<1モル%)、約13モル%から約19モル%のNa
2O(すなわち、13モル%≦Na
2O≦19モル%)、約0.3モル%から約4モル%のK
2O(すなわち、0.3モル%≦K
2O≦4モル%)、0モル%から約6モル%のMgO(すなわち、0モル%≦MgO≦6モル%)、および約1モル%から約7モル%のZnO(すなわち、1モル%≦ZnO≦7モル%)を含む。
【0021】
特定の実施の形態において、前記アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、約64モル%から約67モル%のSiO
2(すなわち、64モル%≦SiO
2≦67モル%)、約5モル%から約10モル%のAl
2O
3(すなわち、5モル%≦Al
2O
3≦10モル%)、約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3(すなわち、0.5モル%≦B
2O
3≦4モル%)、0モル%のLi
2O、約13モル%から約17モル%のNa
2O(すなわち、13モル%≦Na
2O≦17モル%)、約1モル%から約4モル%のK
2O(すなわち、1モル%≦K
2O≦4モル%)、0モル%から約6モル%のMgO(すなわち、0モル%≦MgO≦6モル%)、および約1モル%から約7モル%のZnO(すなわち、1モル%≦ZnO≦7モル%)を含む。
【0022】
いくつかの実施の形態において、前記アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、約64モル%から約67モル%のSiO
2(すなわち、64モル%≦SiO
2≦67モル%)、約5モル%から約10モル%のAl
2O
3(すなわち、5モル%≦Al
2O
3≦10モル%)、約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3(すなわち、0.5モル%≦B
2O
3≦4モル%)、0モル%のLi
2O、約13モル%から約17モル%のNa
2O(すなわち、13モル%≦Na
2O≦17モル%)、約1モル%から約4モル%のK
2O(すなわち、1モル%≦K
2O≦4モル%)、0.5モル%から約6モル%のMgO(すなわち、0.5モル%≦MgO≦6モル%)、および約4モル%から約7モル%のZnO(すなわち、4モル%≦ZnO≦7モル%)を含む。
【0023】
いくつかの実施の形態において、前記アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、約62モル%から約70モル%のSiO
2(すなわち、62モル%≦SiO
2≦70モル%)、約5モル%から約11モル%のAl
2O
3(すなわち、5モル%≦Al
2O
3≦11モル%)、約0.5モル%から約2.5モル%のB
2O
3(すなわち、0.5モル%≦B
2O
3≦2.5モル%)、0モル%のLi
2O、約15モル%から約19モル%のNa
2O(すなわち、15モル%≦Na
2O≦19モル%)、約0.3モル%から約4モル%のK
2O(すなわち、0.3モル%≦K
2O≦4モル%)、0モル%から約6モル%のMgO(すなわち、0モル%≦MgO≦6モル%)、および約1モル%から約7モル%のZnO(すなわち、1モル%≦ZnO≦7モル%)を含む。
【0024】
先のガラスは、いくつかの実施の形態において、0モル%から約3モル%のP
2O
5(すなわち、0モル%≦P
2O
5≦3モル%)、および/または0モル%から約4モル%のZrO
2(すなわち、0モル%≦ZrO
2≦4モル%)をさらに含むことがある。また、これらのガラスは、以下に限られないが、SnO
2、Sb
2O
3などの少なくとも1種類の清澄剤を約0.5モル%までさらに含んでもよい。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、リチウム、バリウム、ヒ素、およびアンチモンの少なくとも1つを含まない。
【0025】
ここに記載されたガラスの酸化物成分の各々は、ある役割を果たす。例えば、シリカ(SiO
2)は、主要なガラス形成酸化物であり、溶融ガラスの網目構造骨格を構成する。純粋なSiO
2は、低いCTEを有し、アルカリ金属を含まない。しかしながら、極めて高い溶融温度のために、純粋なSiO
2はフュージョンドロー法に不適合である。SiO
2の粘度曲線は、高すぎて、積層構造体内のどのコアガラスとも一致しない。ここに記載されたガラスは、いくつかの実施の形態において、約62モル%から約70モル%のSiO
2、他の実施の形態において、約64モル%から約67モル%のSiO
2を含む。
【0026】
シリカに加え、ここに記載されたガラスは、安定なガラス成形、低いCTE、低いヤング率、低い剪断弾性率を達成し、溶融および成形を容易にするために、網目構造形成材Al
2O
3およびB
2O
3を含む。SiO
2のようにAl
2O
3は、ガラスの網目構造に剛性を与える。アルミナは、四配位または五配位のいずれかでガラス中に存在し得る。イオン交換中に十分な層の深さを達成するために、ガラス中のAl
2O
3の量は、5モル%超でなければならない。しかしながら、アルミナ含有量が12モル%を超えると、軟化点が、3D形状を形成するのに高すぎてしまう。ここに記載されたガラスは、いくつかの実施の形態において、約5モル%から約11モル%のAl
2O
3、特別な実施の形態において、約5モル%から約10モル%のAl
2O
3を含む。
【0027】
酸化ホウ素(B
2O
3)も、粘度を低下させるために使用され、それゆえ、ガラスを溶融し、成形する能力を改善するガラス形成酸化物である。B
2O
3は、ガラスの網目構造内で三配位または四配位のいずれかで存在し得る。三配位のB
2O
3は、ヤング率および剪断弾性率を減少させ、それによって、ガラスの固有損傷抵抗を改善するための最も効果的な酸化物である。少量のB
2O
3は、ガラスの軟化点を低下させ、イオン交換されるときに、DOLを犠牲にしてであるが、圧縮応力を増加させる傾向にある。したがって、ここに記載されたガラスは、いくつかの実施の形態において、約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3、他の実施の形態において、約0.5モル%から約2.5モル%のB
2O
3を含む。ガラス中にB
2O
3およびP
2O
5の両方が存在すると、ガラスの固有損傷抵抗(IDR)が増加することにより、ガラスの機械的性能が向上する。いくつかの実施の形態において、Al
2O
3(モル%)≧B
2O
3(モル%)。
【0028】
Li
2Oを添加すると、ガラスの軟化点が低下する。過剰な量のLi
2Oを有するガラスがイオン交換されると、結果として生じた圧縮層の深さが比較的浅くなる。したがって、ここに記載されたガラスは、1モル%未満のLi
2Oを含み、いくつかの実施の形態において、Li
2Oを含まない。
【0029】
Na
2Oは、イオン交換によりガラスの化学強化を行うために使用される。ここに記載されたガラスはNa
2Oを含み、これは、例えば、KNO
3などの少なくとも1種類のカリウム塩を含有する塩浴中のカリウムと交換され得る。そのガラスは、いくつかの実施の形態において、約13モル%から約19モル%のNa
2O、他の実施の形態において、約13モル%から約17モル%のNa
2O、さらに他の実施の形態において、約15モル%から約19モル%のNa
2Oを含む。
【0030】
イオン交換中に十分な層の深さを達成するために、前記ガラスは、約4モル%までのK
2Oを含有する。ここに記載されたガラスは、いくつかの実施の形態において、約0.3モル%から約4モル%のK
2O、他の実施の形態において、約1モル%から約4モル%のK
2Oを含む。
【0031】
十分に低い軟化点を達成するために、R
2O=(Li
2O+Na
2O+K
2O+Rb
2O+Cs
2O)である、比率R
2O(モル%)/Al
2O
3(モル%)は、少なくとも約1.5、いくつかの実施の形態において、少なくとも約2であるべきである。いくつかの実施の形態において、R
2O(モル%)/Al
2O
3(モル%)≦4。
【0032】
五酸化リン(P
2O
5)も、これらのガラスに含まれるガラス形成材である。P
2O
5は、ガラス網目構造における擬四面体構造を取る;すなわち、それは、4つの酸素原子と配位するが、その内の3つしか網目構造の残りと接続されない。四番目の酸素は、リン陽イオンに二重結合した末端酸素である。ガラス網目構造におけるホウ素のリンとの会合は、SiO
2に関するように、四面体構造におけるこれらの網目構造形成材の相互の安定化をもたらし得る。B
2O
3のように、ガラス網目構造にP
2O
5を含ませることは、ヤング率および剪断弾性率を低下させるのに極めて効果的である。ガラス網目構造にP
2O
5を含ませると、高温CTEが減少し、イオン交換相互拡散速度が上昇し、ジルコン耐火材料とのガラスの適合性が改善される。いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、0モル%から約3モル%のP
2O
5を含む。
【0033】
前記ガラス中のジルコニア(ZrO
2)の存在も、イオン交換を促進させる。そのガラスは、いくつかの実施の形態において、0モル%から約4モル%のZrO
2を含む。
【0034】
アルミナは、これらのガラスにおいてMgOおよびZnOによりある程度置き換えられる。MgOおよびZnOの少なくとも一方の存在も、ガラスの軟化点を上昇させずに、CSおよびDOLを増加させる傾向にある。ここに記載されたガラスは、いくつかの実施の形態において、約1モル%から約7モル%までのZnO、他の実施の形態において、約4モル%から約7モル%のZnOを含む。ここに記載されたガラスは、いくつかの実施の形態において、0モル%から約6モル%のMgO、特定の実施の形態において、約0.5モル%から約6モル%のMgOを含む。良好な失透性能を与えるために、そのガラスは、いくつかの実施の形態において、MgOおよびZnOの両方を含む、いくつかの実施の形態において、1モル%≦MgO(モル%)+ZnO(モル%)≦14モル%、他の実施の形態において、4モル%≦MgO(モル%)+ZnO(モル%)≦13モル%。
【0035】
いくつかの実施の形態において、ここに記載された基礎ガラスは、溶融可能であり、スロットドロー法およびフュージョンドロー法などの、当該技術分野で公知のダウンドロー法により形成することができる。低濃度のLi
2Oを含有するガラス組成物は、いくつかの実施の形態において、約30kP未満のジルコン分解粘度および約150kP超の液相粘度を有する。したがって、これらのガラスは、フュージョンドロー法に完全に適合しており、問題なく製造できる。前記リチウムは、スポジュメン、葉長石、長石、炭酸リチウムなどとしてバッチ配合できる。
【0036】
ここに記載されたガラスの非限定例および比較例の組成が、表1に列挙されている。表1に列挙されたガラスの各々は、白金坩堝内の1000gの原材料を電気炉内で溶融することによって調製した。その溶融サイクルは、1400℃に予熱された炉にその原材料を入れる工程;120分間でその炉と材料を1600℃に加熱する工程;1600℃で240分間保持する工程;ガラス溶融物を注ぐ工程;そのガラスを4mmの厚さに圧延する工程;および圧延されたガラスを550℃で徐冷する工程を含んだ。
【0041】
ここに記載されたガラスは、真空垂下、成形などを含む、当該技術分野に公知の手段を使用して、三次元形状に形成されることがある。そのような三次元形状の非限定例としては、少なくとも1つの表面が皿形、湾曲、凸形、または凹形プロファイルを有する物品が挙げられる。皿形物品は、少なくとも1つの側で湾曲部分に隣接している実質的に平らな部分を有するであろう。皿形ガラスセラミック物品の非限定例が、
図1に断面図で概略示されている。皿形物品100は、皿形プロファイルまたは外観を提供するために、いずれの端でも(あるいは、両端で)湾曲部分120と隣接した実質的に平らなまたは平面部分110を各々が有する主面102、104を有する。他の実施の形態において、皿形物品130は、いずれの端でも(あるいは、両端で)湾曲部分120と隣接した実質的に平らなまたは平面部分110を有する主面134を1つだけ有する。残りの主面132は、実質的に平らまたは平面である。
【0042】
イオン交換が、ガラスを化学強化するために広く使用されている。1つの特定の例において、アルカリ陽イオンの供給源(例えば、溶融塩、または「イオン交換」浴)内のそのような陽イオンが、ガラス内のより小さいアルカリ陽イオンと交換されて、ガラスの表面近くで圧縮応力(CS)下にある層が生じる。その圧縮層は、その表面からガラス内の層の深さ(DOL)まで延在する。ここに記載されたガラスにおいて、例えば、ガラスを、以下に限られないが、硝酸カリウム(KNO
3)などのカリウム塩を含む溶融塩浴中に浸漬することによって、陽イオン源からのカリウムイオンが、イオン交換中にガラス内のナトリウムイオンと交換される。イオン交換過程で使用されることのある他のカリウム塩としては、以下に限られないが、塩化カリウム(KCl)、硫酸カリウム(K
2SO
4)、その組合せなどが挙げられる。
【0043】
イオン交換された湾曲した三次元ガラス物品の断面概略図が、
図2に示されている。三次元ガラス物品200は、厚さt、第1の表面210、および第2の表面212を有する。ガラス物品200は、第1の表面210から層の深さd
1までガラス物品200の中まで延在する第1の圧縮層220を有する。
図2に示された実施の形態において、ガラス物品200は、第2の表面212から層の深さd
2まで延在する第2の圧縮層222も有する。このガラス物品は、d
1からd
2まで延在する中央領域230も有する。中央領域230は、引張応力または中央張力(CT)下にあり、この応力は、層220および222の圧縮応力と釣り合っているまたはそれに反対に作用する。第1と第2の圧縮層220、222の深さd
1、d
2は、ガラス物品200の第1と第2の表面210、212に対する鋭い衝撃により導入される傷の伝搬からガラス物品200を保護し、一方で、圧縮応力は、その傷が、第1と第2の圧縮層220、222の深さd
1、d
2を通って伝搬する傾向を最小にする。
【0044】
ここに記載されたガラス物品は、三次元形状に形成された後にイオン交換されてもよい。そのような場合、第1と第2の表面210、212を接続するエッジ240も同様にイオン交換され、圧縮応力下にある表面層を有する。
【0045】
いくつかの実施の形態において、ここに記載されたガラスは、少なくとも約750MPaの最大圧縮応力CSおよび少なくとも約40μmの層の深さDOLを有する圧縮層を有し、約10時間以下に亘り、410℃で、溶融硝酸カリウム浴中でイオン交換された場合。他の実施の形態において、溶融硝酸カリウム浴内で10時間以下に亘り410℃でイオン交換された後、少なくとも約600MPa、または少なくとも約650MPaの最大CS、および少なくとも約50μmのDOLが達成されるであろう。最大圧縮応力は、いくつかの実施の形態において、ガラスの表面および圧縮層に位置している。約15時間までに及ぶ他のイオン交換時間、および約390℃から約420℃までに及ぶ温度を使用して、これらのガラスに同様の結果を達成してもよい。そのような条件の非限定例が、表3に列挙されている。
【0046】
前記イオン交換浴は、100質量%またはほぼ100質量%のKNO
3を含むことがある。そのイオン交換浴は、いくつかの実施の形態において、少なくとも約95質量%のKNO
3、他の実施の形態において、少なくとも約92質量%のKNO
3を含むことがある。特定の実施の形態において、そのイオン交換は、例えば、20質量%≦NaNO
3≦45質量%である、KNO
3/NaNO
3浴などの、混合カリウム/ナトリウム浴内で行われることがある。
【0047】
表2には、100質量%の硝酸カリウムを含む溶融浴における10時間に亘る410℃での、表1に列挙されたガラスのイオン交換によって得られた、選択された物理的性質、並びに圧縮応力および層の深さが列挙されている。表3には、ここに記載されたガラスについて行ったイオン交換実験の追加の結果が列挙されている。
【0054】
上述したガラスは、軟化点、高温CTE、並びにイオン交換された場合の、CSおよびDOLに関して良好な折衷案を与える。ここに記載されたガラスは、他のアルカリアルミノケイ酸塩ガラスと同じイオン交換性能を示すが、それより少なくとも約50℃低い軟化点を有する。清澄は、SnO
2を含む多数の清澄剤で効率的に行われる。これらのガラスは、含有物(例えば、「節(knots)」および/または「核(stones)」)および気泡の濃度が非常に低いので、高品質のものである。
【0055】
ここに記載されたガラスは、平面または三次元構造のいずれかで、電話、ノート型コンピュータ、エンターテイメント機器などの家庭用電子製品のカバーガラスまたは筐体の少なくとも一部を形成できる。そのような製品は、一般に、以下を含む:前面、背面、および側面を有する筐体;その筐体に対して少なくとも部分的に内部であり、その筐体の前面にまたはそれに隣接して、少なくとも制御装置、記憶装置、および表示装置を含む電気部品;並びに表示装置を覆うように筐体の前面にあるまたはそれを覆うカバーガラス。そのカバーガラスおよび/または筐体は、約0.25mmから、または約0.5mmから、約1.0mmまで、または約2.0mmまでの厚さを有し、いくつかの実施の形態において、イオン交換により強化されることがある。
【0056】
説明目的のために、典型的な実施の形態を述べてきたが、先の記載は、本開示の範囲または付随の特許請求の範囲に対する制限であると考えるべきではない。したがって、本開示および付随の特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱せずに、様々な改変、適用、および変更が当業者に想起されるであろう。
【0057】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0058】
実施形態1
約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3、1モル%未満のLi
2O、および約1モル%から約7モル%のZnOを含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラスであって、約790℃以下の軟化点および約35×10
-6/K以下の高温熱膨張係数を有し、三次元の非平面形状に成形でき、イオン交換可能である、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0059】
実施形態2
前記アルカリアルミノケイ酸塩ガラスが、化学強化されており、該アルカリアルミノケイ酸塩ガラスの少なくとも1つの表面から該アルカリアルミノケイ酸塩ガラス中に少なくとも約40μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、該圧縮層が少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有する、実施形態1に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0060】
実施形態3
前記層の深さが少なくとも約50μmである、実施形態2に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0061】
実施形態4
前記最大圧縮応力が少なくとも約750MPaである、実施形態2または3に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0062】
実施形態5
1つのイオン交換浴内で10時間以下に亘りイオン交換された、実施形態2から4いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0063】
実施形態6
家庭用電子製品のカバーガラスまたは筐体の少なくとも一部を構成する、実施形態1から5いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0064】
実施形態7
前記カバーガラスおよび前記筐体の少なくとも一方の厚さが、約0.25mmから約2.0mmである、実施形態6に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0065】
実施形態8
約62モル%から約70モル%のSiO
2、約5モル%から約11モル%のAl
2O
3、約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3、0モル%から約1モル%のLi
2O、約13モル%から約19モル%のNa
2O、約0.3モル%から約4モル%のK
2O、0モル%から約6モル%のMgO、および約1モル%から約7モル%のZnOを含む、実施形態1から7いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0066】
実施形態9
約64モル%から約67モル%のSiO
2、約5モル%から約10モル%のAl
2O
3、0モル%のLi
2O、約13モル%から約17モル%のNa
2O、および約1モル%から約4モル%のK
2Oを含む、実施形態8に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0067】
実施形態10
約4モル%から約7モル%のZnOを含む、実施形態8または9に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0068】
実施形態11
約0.5モル%から約2.5モル%のB
2O
3、および約15モル%から約19モル%のNa
2Oを含む、実施形態8から10いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0069】
実施形態12
0モル%から約3モル%のP
2O
5、および0モル%から約4モル%のZrO
2の少なくとも一方をさらに含む、実施形態8から11いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0070】
実施形態13
SnO
2およびSb
2O
3の少なくとも一方を約0.5モル%までさらに含む、実施形態8から12いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0071】
実施形態14
R
2O(モル%)/Al
2O
3(モル%)≧1.5であり、式中、R
2O=(Li
2O+Na
2O+K
2O+Rb
2O+Cs
2O)である、実施形態1から13いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0072】
実施形態15
Al
2O
3(モル%)≧B
2O
3(モル%)である、実施形態1から14いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0073】
実施形態16
1620℃以下の200ポアズ温度T
200を有する、実施形態1から15いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0074】
実施形態17
少なくとも150kPの液相粘度を有する、実施形態1から16いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0075】
実施形態18
30kP未満のジルコン分解粘度を有する、実施形態1から17いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0076】
実施形態19
約62モル%から約70モル%のSiO
2、約5モル%から約11モル%のAl
2O
3、約0.5モル%から約4モル%のB
2O
3、0モル%から約1モル%のLi
2O、約13モル%から約19モル%のNa
2O、約0.3モル%から約4モル%のK
2O、0モル%から約6モル%のMgO、および約1モル%から約7モル%のZnOを含むアルカリアルミノケイ酸塩ガラスであって、約790℃以下の軟化点および約35×10
-6/K以下の高温熱膨張係数を有する、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0077】
実施形態20
約64モル%から約67モル%のSiO
2、約5モル%から約10モル%のAl
2O
3、0モル%のLi
2O、約13モル%から約17モル%のNa
2O、および約1モル%から約4モル%のK
2Oを含む、実施形態19に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0078】
実施形態21
約4モル%から約7モル%のZnOを含む、実施形態19または20に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0079】
実施形態22
約0.5モル%から約2.5モル%のB
2O
3、および約15モル%から約19モル%のNa
2Oを含む、実施形態19から21いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0080】
実施形態23
0モル%から約3モル%のP
2O
5、および0モル%から約4モル%のZrO
2の少なくとも一方をさらに含む、実施形態19から22いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0081】
実施形態24
SnO
2およびSb
2O
3の少なくとも一方を約0.5モル%までさらに含む、実施形態19から23いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0082】
実施形態25
R
2O(モル%)/Al
2O
3(モル%)≧1.5であり、式中、R
2O=(Li
2O+Na
2O+K
2O+Rb
2O+Cs
2O)である、実施形態19から24いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0083】
実施形態26
Al
2O
3(モル%)≧B
2O
3(モル%)である、実施形態19から25いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0084】
実施形態27
前記アルカリアルミノケイ酸塩ガラスが、化学強化されており、該アルカリアルミノケイ酸塩ガラスの少なくとも1つの表面から該アルカリアルミノケイ酸塩ガラス中に少なくとも約40μmの層の深さまで延在する圧縮層を有し、該圧縮層が少なくとも約600MPaの最大圧縮応力を有する、実施形態19から26いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0085】
実施形態28
前記層の深さが少なくとも約50μmである、実施形態27に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0086】
実施形態29
前記最大圧縮応力が少なくとも約750MPaである、実施形態27または28に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0087】
実施形態30
1つのイオン交換浴内で10時間以下に亘りイオン交換された、実施形態27から29いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0088】
実施形態31
家庭用電子製品のカバーガラスまたは筐体の少なくとも一部を構成する、実施形態19から30いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0089】
実施形態32
前記カバーガラスおよび前記筐体の少なくとも一方の厚さが、約0.25mmから約1.0mmである、実施形態31に記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0090】
実施形態33
1620℃以下の200ポアズ温度T
200を有する、実施形態19から32いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0091】
実施形態34
少なくとも150kPの液相粘度を有する、実施形態19から33いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0092】
実施形態35
30kP未満のジルコン分解粘度を有する、実施形態19から34いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。
【0093】
実施形態36
三次元の非平面形状に成形でき、イオン交換可能である、実施形態19から21いずれか1つに記載のアルカリアルミノケイ酸塩ガラス。