【実施例1】
【0015】
まず、実施例1に係る磁性流体シールの構造について説明する。
図1に示されるように、本発明に係る磁性流体シール1は、主な機能を発揮するための部材として、流体機械の回転軸2に取付けられる磁極部材6A,6B、この磁極部材6A,6B間に設けられ、磁極部材6A,6Bに磁極を形成させる磁力発生手段7、及び磁極部材6A,6Bと回転軸2間に形成される磁気回路に沿ってシール膜M,Mを形成する磁性流体10A,10Bによりシール部13が構成されている。このように、回転軸2に沿って形成されるシール膜M,Mにより、流体機器のハウジング(図示せず)に取付けられ、磁性流体シール1の外筒部材3と回転軸2との間の隙間をシールすることで、流体機器内に密封されたガス等(真空を含む)を密封できる構造となっている。
【0016】
また、シール部13の構造としては、外筒部材3(詳細は後述する)の外筒部3bの内部の軸方向端面に当たる突き当て面3dsに磁極部材6Aが突き当てられ、磁極部材6A,6Bが、その外周にOリング11Bが介挿された状態で、外筒部3bの内部に嵌入されており、シール部13の軸方向大気側に位置する磁極部材6Bと当接してスペーサ8が嵌入されており、更にスペーサ8の軸方向大気側に一組のベアリング5が嵌入されている。また、ベアリング5の内輪は回転軸2の拡径部であるベアリングフランジ2aとも軸方向に当接しており、外筒部材3と回転軸2の径方向に外輪、転動体とともに介在し、回転軸2が外筒部材3に対して円滑に相対回転可能に保持している。
【0017】
また、ベアリング5の軸方向大気側には、ロックナット14が回転軸2の端末に螺合により固定され、これによりベアリング5の内輪を軸方向機内側に押圧した状態でシール部13を外筒部材3の外筒部3bの内部に固定している。また、ベアリング5の外輪の軸方向大気側には、エンドキャップ4が嵌められ、六角ボルト12Bにより外筒部3bに固定されている。なお、回転軸2の端面には、回転軸2の回転状態を検出するエンコーダ部材15が六角ボルト12Cにより固定され、エンドキャップ4に設けられた電気機器20(フォトセンサ等)により、回転の位置や回転中心などの位置検出を行っている。尚、この電気機器20は一般的に熱に弱い部品からなる。
【0018】
次に、外筒部材3は金属製であり、流体機器のハウジングに取付けられる取付け部としてのフランジ部3aと、シール部13、スペーサ8及びベアリング5が内部に設けられる外筒部3bと、フランジ部3aと外筒部3bの間に形成される径方向に小径の小径部3cにより構成されている。フランジ部3aは、径方向に大径の円盤状であり、流体機器のハウジングに固定される取付け面3as側にOリング11Cが設けられ、複数の取付け穴3eが周方向に設けられている。また、外筒部3bの外周には、断面凹状の冷却溝3dが磁極部材6Bとベアリング5の軸方向略中央の位置に周方向に沿って設けられ、冷却溝3dはOリング11Aが介挿された状態で外筒カバー9により液密に保持されている。
【0019】
ここで、外筒カバー9の周方向の所定の位置には、流入口9bを備えた固定部材9aが設けられている。この固定部材9aに挿入される六角ボルト12Aにより、フランジ部3aに固定部材9aが固定されることにより、外筒部3bの外周部に外筒カバー9が固定されることになる。
また、固定部材9aの流入口9bから冷却溝3dに冷却液を流入させることで、後述の冷却作用を発揮できる構造となっている。
【0020】
次に、磁性流体シール1の温度状態について説明する。
流体機械は内部に高温ガスを密封して使用されていることがあり、このような高温ガスは、機内の温度が一定の温度以下になると気体から固体となり、副生成物が生成される。この副生成物の生成により、シール膜M,Mの周辺に副生成物が付着することで、シール膜M,Mに入り込むことがあり、シール膜M,Mのシール性が悪くなるとともに、流体機械が製造設備である場合は、製造設備により製造された製造物の品質の劣化につながるため、一定の温度Tgより高く保つ必要がある。この一定の温度Tgは、流体機械が密封するガスの種類により異なるが、本説明ではTg>150℃と設定する。
【0021】
ここで、
図1に示されるように、磁性流体シール1の軸方向機内側に設けられるフランジ部3aは、流体機械のハウジングと当接して固定されている。また、回転軸2は流体機械の内部から連続して延設されている。更に、流体機械の内部と磁性流体シール1のシール膜M,Mとの間には、密封流体が充満している。磁性流体シール1に流体機械の内部の熱が伝わり、この熱により磁性流体シール1に悪影響を与えることがある。
【0022】
ここで、磁性流体シール1においてシール膜M,Mを形成する磁性流体10A,10Bは、磁性を有する強磁性微粒子と、その表面を覆う界面活性剤、及び水や油から成るベース液の3つで構成される溶液である。
そして、磁性流体10A,10Bは、高温環境下ではベース液である水や油が蒸発し、液体としての状態を保てずに流動性を失ってしまうことにより、回転軸2の外周面との摩擦によりシール膜M,Mが分断され、磁性流体10のシール膜M,Mのシール性を維持できない状態となる。これを防ぐためには、磁性流体10を常に耐熱温度Tsより低く保つ必要がある。この耐熱温度Tsは、磁性流体の種類によっても異なるが、本説明ではTs<150℃と設定する。
【0023】
また、回転軸2と外筒部3bを径方向に保持するベアリング5も、熱により耐久性が悪くなるという悪影響や、熱により変形し、回転精度を欠くという悪影響を受けることがある。これを防ぐためには、ベアリング5を常に耐熱温度Tbより低く保つ必要がある。この耐熱温度Tbは、ベアリングに使用される構成部品の材質により異なるが、本説明ではTb<100℃と設定する。また、回転検出の精度の点では、回転位置や回転中心などの位置検出を行う電気機器部品も同様で、電気機器20の耐熱温度以上の熱を受けると回転検出の精度を欠き、流体機器として用いることが出来なくなる恐れがある。
【0024】
次に、流体機械から磁性流体シール1への熱の伝達作用について詳述すると、熱伝達の主なルートとしては、一つ目のルートとして、フランジ部3aから外筒部3bへ熱が伝わり、外筒部3bから磁極部材6に熱が伝わり、磁極部材6から磁性流体10に熱が伝わるという外筒部材3を経由する固体熱伝導がある。次に、二つ目のルートとして、回転軸2から磁性流体10に熱が伝わるという回転軸2を経由する固体熱伝導がある。更に、三つ目のルートとして、回転軸2と外筒部材3の間の隙間から高温ガスVを介して磁性流体10に熱が伝わるという密封流体を経由する気体熱伝導がある。また、これらは同時に起こる現象となっている。なお、厳密には熱輻射による熱伝達のルートも存在しているが、影響が少ないために説明を省略する。
ここで、比較的影響の大きな熱伝達のルートとして、一つ目のルートである外筒部材3を経由する固体熱伝導が挙げられる。その理由としては、外筒部材3のフランジ部3aが拡径された形状であり、伝熱面積が回転軸2よりも大きく、固体の方が気体よりも熱伝導率が高いからである。
【0025】
この点において、本発明の磁性流体シール1においては、外筒部材3のフランジ部3aと、シール部13が内部に設けられている外筒部3bのシール収容部3bsとの間に、小径部3cが設けられている。これにより、フランジ部3aから、シール部13が嵌入される外筒部3bのシール収容部3bsに伝わる熱が、伝熱面積の狭い領域である小径部3cにより遮熱される。
その結果、小径部3cよりも軸方向大気側の外筒部3bに伝導する熱量を少なくすることができる。このため、小径部3cよりも軸方向大気側に位置するシール部13が流体機械から受ける熱の影響を抑えることができるため、小径部3cよりも軸方向機内側に位置する流体機械及びフランジ部3aに対して、熱的に影響の少ない領域にすることができる。すなわち、小径部3cが本発明の遮熱手段として、更に伝熱抑制手段として作用する。
【0026】
このため、シール部13を構成する磁極部材6A,6Bを流体機械からの熱の影響を小さくすることができ、左右の磁極部材6A,6Bの温度状態を近いものとすることができる。その結果、左右の磁極部材6A,6Bの磁性流体10A,10Bの温度環境に極端な違いが起こらないため、それぞれのシール膜M,Mが所定のシール性を維持することができ、長時間の使用においても磁性流体シール1のシール性を確保することができる。
なお、二つ目及び三つ目の熱伝達のルートにおいては、シール膜M,Mに直接的に熱が作用するため、小径部3cを設けることで完全に熱の伝達を遮熱できるわけではないが、影響の大きなルートの熱伝達を抑えることで、顕著な効果を得ることができる。
【0027】
また、本発明の磁性流体シール1は、外筒部材3の外筒部3bであって、軸方向における磁極部材6Bとベアリング5の間に、冷却手段としての冷却溝3dが設けられている。このため、高温側からの熱が小径部3cにより遮熱されたシール部13及びベアリング5を冷却溝3dにより冷却することができることとなり、高温側の影響が少なく、左右の磁性流体10A,10Bの温度環境を近い状態に維持し、適度に冷却することが容易となる。すわなち、冷却溝3dにより過度な冷却を行わなくとも、充分に冷却効果を得ることが可能となっている。
また、シール部13の軸方向機内側に遮熱手段である小径部3cが位置し、軸方向大気側に冷却溝3dが位置していることにより、冷却による左右の磁性流体10A,10Bの軸方向の大きな温度勾配をおさえることができるため、局所的な温度状態の差異による熱変形等の不具合を抑えることができる。
【0028】
また、その耐熱温度Tbが磁性流体10の耐熱温度Tsよりも低いベアリング5が冷却溝3dの軸方向大気側に位置することで、ベアリング5の温度上昇を防ぎやすい構成となっている。
【0029】
次に、小径部3cにおいては、前述の遮熱手段としての作用効果の他、凹状溝として形成されているため、表面積が大きくなっており、これによりフランジ部3aから伝達された熱を外部に放熱しやすい構成となっている。すなわち、小径部3cは熱の伝達を抑える遮熱作用とともに、その表面より放熱する冷却作用も備えている。
【0030】
ここで、密封流体に冷却手段が与える影響について考えると、冷却手段による冷却効果により、磁性流体10Aよりも軸方向機内側に充満している密封流体である高温ガスの温度が150℃よりも下がり、これにより副生成物が生成されることを防ぐ必要がある。このような点を考慮し、冷却溝3dの軸方向の位置や冷却水の流量を決めることが望ましい。より具体的には、Tgが150℃以上となるように高温ガスの温度が決められ、Ts<150℃、Tb<100℃となるように、冷却溝3dの軸方向の位置や冷却水の流量を設定する必要がある。
【実施例3】
【0032】
次に、実施例3に係る磁性流体シールの構造について説明する。なお、実施例1と同一の構成については、その説明を省略する。
図3に示されるように、実施例3に係る磁性流体シール1’’は、外筒部材23が別部材のフランジ部材23A及び外筒部材23Bという別部材により構成されている。これらのフランジ部材23A及び外筒部材23Bは、その間に径方向に外筒部材23Bよりも小径の小径部材16が介挿された状態で、フランジ部材23Aの取付け面3asから挿入された六角ボルト12Dにより固定されている。
【0033】
ここで、小径部材16は外筒部材23Bよりも径方向に小径のリング状部材であり、材質としては、例えばポリエーテルエーテルケトン材のような耐熱性と機械的強度に優れた樹脂の成形品を採用することができる。このように、金属よりも熱伝達率の低い部材をフランジ部材23Aと外筒部材23Bの間に配置することで、熱の伝達を顕著に抑えることができる。すわなち、小径部材16が本発明の遮熱手段として作用することになる。
なお、小径部材16の材質としては、上述以外の樹脂材料でもよく熱伝達率が外筒部材23よりも低ければ金属やその他の材質であってもよいし、小径部材16の形状については、外筒部材23Bと同径又は外筒部材23Bよりも大径であってもよい。
【0034】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0035】
例えば、上記実施例においては遮熱手段としての小径部3cは、凹状溝を例に説明したが、その形状は問わず、U字溝やV字溝であってもよい。また、軸方向に更に複数設けても良い。
【0036】
また、上記実施例においては、冷却手段としての冷却溝3dは、液体が流入されるものについて説明したが、気体が冷却溝3dに流入される空冷の構成であってもよい。また、その形状は周方向溝に限定されることはなく、任意に冷却溝3dの形状を選択することができる。
【0037】
また、上記実施例においては、二つの磁極部材6A,6Bによりシール部13を構成していたが、一つの磁極部材又は三つ以上の磁極部材によりシール部13を構成してもよい。