特許第6791877号(P6791877)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6791877デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するためのダイナミン2阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791877
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するためのダイナミン2阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20201116BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/15 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/195 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/4035 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/4045 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20201116BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20201116BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20201116BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   A61K39/395 DZNA
   A61K31/713
   A61K31/7088
   A61K48/00
   A61K31/15
   A61K31/195
   A61K31/4035
   A61K31/4045
   A61K31/517
   A61K31/352
   A61K31/407
   A61K38/10
   A61P21/00
   G01N33/15 Z
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-555366(P2017-555366)
(86)(22)【出願日】2016年4月22日
(65)【公表番号】特表2018-518456(P2018-518456A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】EP2016059090
(87)【国際公開番号】WO2016170162
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2019年4月3日
(31)【優先権主張番号】15305615.5
(32)【優先日】2015年4月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョスラン・ラポルテ
(72)【発明者】
【氏名】ベリンダ・コウリング
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−520813(JP,A)
【文献】 Am J Cancer Res,2015年 1月,Vol.5, No.2,p.702-713
【文献】 Molecular Therapy,2014年,Vol.22, Suppl.1,S139, Abstract No.365
【文献】 Cell Death and Differentiation,2013年,Vol.20,p.1194-1208
【文献】 Pediatric Neurology,2014年,Vol.51,p.607-618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 39/395
A61K 31/7088
A61K 31/713
A61K 48/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療における使用のためのダイナミン2の阻害剤を含む医薬組成物であって、前記ダイナミン2の阻害剤が、
− 抗ダイナミン2抗体、
− ダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子、並びに
− ダイナミン2の活性、発現又は機能を阻害する小分子であって、前記小分子が、3-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸(3,4-ジヒドロキシベンジリデン)ヒドラジド、3-ヒドロキシ-N'-[(2,4,5-トリヒドロキシフェニル)メチリデン]ナフタレン-2-カルボヒドラジド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、4-クロロ-2-((2-(3-ニトロフェニル)-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-5-カルボニル)-アミノ)-安息香酸、2-シアノ-N-オクチル-3-[1-(3-ジメチルアミノプロピル)-1H-インドール-3-イル]アクリルアミド、3-(2,4-ジクロロ-5-メトキシフェニル)-2-スルファニルキナゾリン-4(3H)-オン、N,N'-(プロパン-1,3-ジイル)ビス(7,8-ジヒドロキシ-2-イミノ-2H-クロメン-3-カルボキサミド)、N,N'-(エタン-1,2-ジイル)ビス(7,8-ジヒドロキシ-2-イミノ-2H-クロメン-3-カルボキサミド)、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、アミノ酸配列配列番号28のダイナミン阻害ペプチド、3-ヒドロキシ-N'-[(2,4,5-トリヒドロキシフェニル)メチリデン]ナフタレン-2-カルボヒドラジド、及び、4-(N,N-ジメチル-N-オクタデシル-N-エチル)-4-アザ-10-オキサトリシクロ-[5.2.1]デカン-3,5-ジオンブロミドからなる群から選択される、小分子
からなる群から選択される、医薬組成物
【請求項2】
前記ダイナミン2の阻害剤が、ダイナミン2の発現を特異的に妨害するRNAi、アンチセンス核酸、又はリボザイムであり、好ましくは、前記ダイナミン2の阻害剤がsiRNA又はshRNAである、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記ダイナミン2の阻害剤が、ダイナミン2プレ-mRNA内で、エクソン-スキッピングを誘発するアンチセンスヌクレオチドである、請求項1又は2に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記ダイナミン2の阻害剤が、DNM2のエクソン2又はエクソン8スキッピングを特異的に誘発するように設計されるアンチセンスヌクレオチドであり、好ましくは、下記の配列:
下記の配列:配列番号26: GTCACCCGGAGGCCTCTCATTCTGCAGCTCを含むU7-Ex2(DNM2のエクソン2の標的スキッピング)、
下記の配列:配列番号27: ACACACTAGAGTTGTCTGGTGGAGCCCGCATCAを含むU7-Ex8(DNM2のエクソン8の標的スキッピング)
のうちの1つを含むか又はそれからなる、請求項3に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記ダイナミン2の阻害剤が、配列番号2〜25からなる群から選択される配列を含むか又はそれからなるダイナミン2を特異的に妨害する核酸分子である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記阻害剤が、ダイナミン2の発現、又はダイナミン2の活性、発現若しくは機能を正常レベルに等しい、又は好ましくは正常レベルよりも低いレベルに低減するのに十分な量で投与される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記組成物が、薬学的に許容される担体/添加剤を更に含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に有用な分子を識別又はスクリーニングする方法であって、
a.候補化合物を提供又は取得する工程と、
b.前記候補化合物がダイナミン2の活性、機能及び/又は発現を阻害するかどうかを判定する工程と、
c.前記候補化合物がダイナミン2の活性/発現/機能を阻害する場合、前記候補化合物を選択する工程と
を含む、方法。
【請求項9】
選択された分子を、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの非ヒト動物モデル又はその一部分に、in vitroで投与する工程、及びミオパシーの発症又は進行に対する効果を分析する工程を更に含む、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療における使用のためのダイナミン2の阻害剤又はそれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、小児において最も一般的なミオパシーである。DMD患者は、筋肉内でジストロフィー性の表現型を発現する。DMDは、重度のX連鎖性疾患であり、ほぼすべての筋肉に影響を及ぼす進行性の筋肉の消耗及び衰弱を伴い、そして心肺不全による早期死亡を通常引き起こす。DMDの療法に対して幅広い研究がなされているにもかかわらず、その多くはジストロフィンの発現を目標としており(Al-Zaidy、S., L. Rodino-Klapac、及びJ. R. Mendell (2014年). "Gene therapy for muscular dystrophy: moving the field forward." Pediatr Neurol 51(5): 607〜618頁でレビューされている)、この悲惨な疾患に対して有効な治療法は、なおも開発されていない。
【0003】
DMDはジストロフィンの突然変異に起因し、その結果、ジストロフィンタンパク質の発現が失われる。ジストロフィンは、収縮装置と筋線維の原形質膜の間の機械的なつながりを形成する。DMD患者では、ジストロフィンの発現が失われ、正常な力伝達が破綻し、そうなると、線維に大量のストレスがもたらされ、その結果、筋線維の損傷が引き起こされる。生理学的な筋力、従って筋肉機能の改善を目的とする有効な療法が、DMD患者にとって必要とされる。DMDに対するほとんどの治療アプローチは、突然変異した遺伝子、ジストロフィンを目標としており、ジストロフィンの全部/一部の発現を改善する試みに関する。
【0004】
最近、DNM2発現を低下させることによる、X連鎖中心核ミオパシー(XLCNM)患者に対する新規の有望な療法が開示された。この新規アプローチは、ダイナミン2(DNM2)の発現を低下させれば、Mtm1-/yマウスにおける表現型であり、筋細管ミオパシーとも呼ばれるXLCNMを救済することができるという所見に基づいた。
【0005】
本発明者らは、DMDの前臨床研究で用いられる古典的なマウスモデルであるmdxマウスを対象に、いくつかの年齢において、DNM2を低下させることにより、比筋力の有意な改善を発見した。更に、収縮誘起性の筋肉外傷(contraction-induced muscle injury)に対する抵抗性が改善したことから、この所見の生理学的な意義を確認する。従って、本明細書で提供されることとして、DNM2発現を低下させることにより、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するための新規治療アプローチが提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第99/32619号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Al-Zaidy、S., L. Rodino-Klapac、及びJ. R. Mendell (2014年). "Gene therapy for muscular dystrophy: moving the field forward." Pediatr Neurol 51(5): 607〜618頁
【非特許文献2】Macia E.ら、Dynasore, a cell-permeable inhibitor of dynamin: Developmental cell 10、839〜850頁, 2006年6月
【非特許文献3】McCluskeyら、Traffic、2013年
【非特許文献4】McGeachieら、ACS Chem Biol, 2013年
【非特許文献5】Wangら、J Biol Chem 2010年
【非特許文献6】Kenniston及びLemmon、Embo J、2010年
【非特許文献7】Bernstein、Caudyら、2001 Nature、2001年1月18日;409(6818):363〜6頁
【非特許文献8】Zamore、Tuschlら、Cell. 2000年3月31日;101(1):25〜33頁
【非特許文献9】Elbashir、Lendeckelら、Genes Dev. 2001年1月15日;15(2):188〜200頁
【非特許文献10】Elbashir、Martinezら、EMBO J. 2001年12月3日;20(23):6877〜88頁
【非特許文献11】Z. Wangら、Pharm Res(2011)28:2983〜2995頁
【非特許文献12】Reducing dynamin 2 expression rescues X-linked centronuclear myopathy、Cowling BS、Chevremont T、Prokic I、Kretz C、Ferry A、Coirault C、Koutsopoulos O、Laugel V、Romero NB、Laporte J.、J Clin Invest. 2014年3月3日;124(3):1350〜63頁。doi:10.1172/JCI71206. Epub 2014年2月24日
【非特許文献13】Tinelli E、Pereira JA、Suter U. Hum Mol Genet. 2013年11月1日;22(21):4417〜29頁。doi:10.1093/hmg/ddt292. Epub 2013年6月27日
【非特許文献14】Fanning and Symonds(2006)RNA Towards Medicine(Handbook of Experimental Pharmacology)、Springer編、289〜303頁
【非特許文献15】P. Maliら、Nature Methods、10巻10号、2013年10月
【非特許文献16】Harlow, E.及びLane, D.(1988)Antibodies: A Laboratory Manual編, Cold Spring Harbor Laboratory
【非特許文献17】Harper CBら、Trends Cell Biol. 2013年2月;23(2):90〜101頁. Review.
【非特許文献18】Hodgetts S.ら、(2006年)、Neuromuscular Disorders、16: 591〜602頁、2006年
【非特許文献19】Bulfield, G.、W. G. Siller、P. A. Wight、及びK. J. Moore (1984年). "X chromosome-linked muscular dystrophy (mdx) in the mouse." Proc Natl Acad Sci U S A 81(4): 1189〜1192頁
【非特許文献20】Manning, J.及びD. O'Malley (2015年). "What has the mdx mouse model of duchenne muscular dystrophy contributed to our understanding of this disease?" J Muscle Res Cell Motil
【非特許文献21】Cowling, B. S.、T. Chevremont、I. Prokic、C. Kretz、A. Ferry、C. Coirault、O. Koutsopoulos、V. Laugel、N. B. Romero、及びJ. Laporte (2014年). "Reducing dynamin 2 expression rescues X-linked centronuclear myopathy." J Clin Invest 124(3): 1350〜1363頁
【非特許文献22】Remington: The Science and Practice of Pharmacy(第20版)、A. R. Gennaro, Lippincott Williams & Wilkins編、2000年、及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988〜1999頁、Marcel Dekker、New York
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本発明は、DMDの治療で用いるためのダイナミン2阻害剤と関係する。
【0009】
また、本発明は、DMDの治療における使用のためのダイナミン2阻害剤及び薬学的に許容される担体/添加剤を含む医薬組成物にも関係する。
【0010】
本発明は、DMDの治療法と更に関係し、同法は、治療上有効な量のダイナミン2阻害剤をかかる治療を必要とする対象に投与する工程を含む。
【0011】
最後に、本発明は、DMDを治療するための医薬組成物の調製を目的とするダイナミン2阻害剤の使用と関係する。
【0012】
ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2に向けられた抗体、ダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子、DNM2遺伝子を標的とし、ゲノム編集療法を使用してヌクレアーゼを送達するように工学的に作出された核酸又はヌクレアーゼ、及びダイナミン2の活性、発現、又は機能を阻害する小分子からなる群から好ましくは選択される。好ましい実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子からなる群から選択される。特別な実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の発現を特異的に妨害するRNAi、アンチセンス核酸、又はリボザイムである。
【0013】
より具体的な実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、siRNA、shRNA、又はアンチセンスsnRNAである。別の特定の実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、DNA、mRNA、又はDNM2遺伝子を標的とし、ゲノム編集療法を使用してヌクレアーゼを送達するように工学的に作出されたヌクレアーゼである。
【0014】
本発明の更なる目的は、DMDの治療に有用な化合物をスクリーニング又は識別する方法であって、
a)候補化合物を提供又は取得する工程と、
b)前記候補化合物が、ダイナミン2の活性/発現を阻害するか判定する工程と、
c)前記候補化合物が、ダイナミン2の活性/発現を阻害する場合には、それを選択する工程と
を含む、方法に関する。
【0015】
DMDの治療に適する分子をスクリーニング又は識別する方法は、選択された分子を、DMDの非ヒト動物モデル又はその一部分(組織又は細胞)に、in vivo又はin vitroで投与する工程、及びミオパシーの発症又は進行に対する効果を分析する工程を任意選択的に更に含む。
【0016】
本発明のこれら及びその他の目的、並びに実施形態は、本発明を詳細に説明した後に、より明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】DNM2が低下したmdxマウスでは、比筋力が増加することを示す図である。比筋力を、mdx-/y(白色)、及びmdx-/y Dnm2+/-(黒色)マウスにおいて、6週齢、3月齢、及び1歳のときに測定した。結果を、筋肉質量に対する絶対力として示す(sPo/mg)。統計的有意性を以下のように表す: *p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図2】DNM2が低下したmdxマウスにおいて、収縮誘起性の筋肉外傷後に筋力が改善することを示す図である。絶対筋力を、1歳のmdx-/y(黒色、実線)、及びmdx-/y Dnm2+/-(黒色、破線)マウスにおいて測定した。結果を、初期の力に対する割合(%)として示す。統計的有意性を以下のように表す: *p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図3】(A)比筋力(sPo)を、mdx-/y(白色)及びmdx-/y Dnm2+/-(黒色)マウスから得た前脛骨筋において最初に測定したことを示す図である。(B)次に、前脛骨筋を9回延長収縮させた。mdx-/y(黒色実線)及びmdx-/y Dnm2+/-(黒色破線)マウスに関する結果を、延長収縮を0、3、6、及び9回行った後の、初期の力に対する割合(%)として示す。(C)DNM2を標的とするAAV-shRNA(黒色)、又はスクランブル化したコントロール配列(白色)の筋肉内注射を、3週齢のmdx-/yマウスの前脛骨筋(tibialis anterior)に実施した。比筋力(sPo)を、3月齢の前脛骨筋において測定した。(D)次に、前脛骨筋を、(B)と同様に、9回延長収縮させた、AAV shRNAコントロール(黒色実線)、及びAAV shRNA DNM2(黒色破線)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
別段の規定がない限り、本明細書で用いられるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解される意味と同一の意味を有する。
【0019】
ダイナミン2は、DNM2遺伝子(遺伝子ID 1785)によりコードされる。より正確には、DNM2遺伝子は、第19染色体(GRCh37/hg19リリース)上の塩基対10,919,884〜塩基対10,942,586、又はNC_000019.10ロケーション(GRCh38/hg19)上の10,718,053〜10,831,910塩基対に位置する。ダイナミン2遺伝子又は遺伝子産物は、これらに限定されないが、CMTDI1、CMTDIB、DI-CMTB、DYN2、DYN2_HUMAN、ダイナミンII、DYNII等の別の名称でも知られている。
【0020】
ダイナミン2阻害剤
本明細書で用いる場合、用語「ダイナミン2阻害剤」は、ダイナミン2の発現を特異的に減少させることが可能、又はダイナミン2の活性若しくは機能を阻害することが可能なあらゆる分子を意味する。好ましくは、かかるダイナミン2阻害剤は、直接阻害剤であり、これは、阻害剤がダイナミン2タンパク質、又は前記ダイナミン2若しくはその一部分をコードする核酸と直接相互作用することを意味する。本発明によるダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の機能的な活性を、in vivo及び/又はin vitroで阻害する又は低下させる能力を有する。阻害剤は、ダイナミン2の機能的な活性を、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70、75、又は80%、なおも好ましくは85、90、又は95%阻害し得る。特に、阻害剤は、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約30%、35%、40%、45%、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約70、75、又は80%、ダイナミン2の発現を阻害し得る。
【0021】
本発明のダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の活性又は機能を遮断する及び/又は阻害することにより作用し得る。これは、例えばダイナミン2の酵素活性を阻害することにより達成され得る。ダイナミン2の機能的又は酵素的活性は、公知の方法に基づき、例えば、クラスリン媒介型エンドサイトーシスにおけるダイナミン2のGTPase活性又は機能を試験することにより、当業者は容易に評価可能である(Macia E.ら、Dynasore, a cell-permeable inhibitor of dynamin: Developmental cell 10、839〜850頁, 2006年6月)。GTPase活性又は脂質結合、細胞内局在化、クラスリン媒介型エンドサイトーシス、シナプス小胞エンドサイトーシスの阻害剤の場合、McCluskeyら、Traffic、2013年; McGeachieら、ACS Chem Biol, 2013年に記載されている方法を使用することができる。ダイナミン2 GTPase活性、オリゴマー化、脂質結合の場合、Wangら、J Biol Chem 2010年;又はKenniston及びLemmon、Embo J、2010年、に記載されている方法を使用することができる。
【0022】
本発明のダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の発現(転写、スプライシング、転写物成熟、又は翻訳を含む)を遮断及び/又は阻害することによっても作用し得る。ダイナミン2の発現の減少又は阻害は、例えば、ウェスタンブロット解析法(図1に示す方法等)、若しくは例えば、抗ダイナミン2抗体を利用するELISAを用いて、ダイナミン2タンパク質濃度を評価する工程、及び/又は例えば、定量的PCR等の利用可能な任意の技法を用いる、ダイナミン2に関するmRNAレベルを評価する工程(図2に示す方法等)を含むがこれらに限定されない、当業者にとって公知の任意の手段により評価され得る。
【0023】
ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2に向けられた抗体、ダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子、及びダイナミン2の酵素活性を阻害する(すなわち、GTPase活性阻害)、発現を阻害する(プロモーター、スプライシング、又は翻訳の阻害等による)、又は機能を阻害する(オリゴマー化、活性化、脂質結合、又はパートナー結合の阻害等)、小分子からなる群から選択されるのが好ましい。
【0024】
特別な実施形態によれば、ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2に向けられた抗体、又はダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子(又はヌクレオチド)からなる群から選択される。好ましい実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子からなる群から選択される。本発明によれば、ダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子は、通常非天然の核酸である。特別な実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の発現を特異的に妨害するRNAi、アンチセンス核酸、又はリボザイムである。特別な実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、siRNA又はshRNAである。
【0025】
本発明では、核酸は、ダイナミン2をコードする遺伝子又は転写物に特異的にハイブリダイズする能力を有する。「特異的にハイブリダイズする」とは、厳密な条件においてハイブリダイズすることが意図される。特に、厳密な条件とは、塩濃度、有機溶媒、例えばホルムアミドの濃度、温度、及び当技術分野において周知のその他の条件により定義され得る。代表的な厳密なハイブリダイゼーション条件には、30℃を超える、好ましくは35℃を超える、より好ましくは42℃を上回る温度、及び/又は約500mM未満、好ましくは200mM未満の塩分が含まれる。但し、本発明による核酸は、特異的にハイブリダイズするのに、標的配列と100%の相補性を必要とはしないと理解される。特に、少なくとも約90%に等しい相補性を有する核酸は、特異的にハイブリダイズする能力を有する。好ましくは、本発明による核酸と標的配列との間の相補性は、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、又は100%に等しい。
【0026】
用語「相補的」又は「相補性」とは、別のポリヌクレオチド分子と塩基対を形成するポリヌクレオチドの能力を意味する。塩基対は、水素結合により、逆平行のポリヌクレオチドストランド内のヌクレオチドユニット間で一般的に形成される。相補的なポリヌクレオチドストランドは、Watson-Crick様式(例えば、AとT、AとU、CとG)内、又は二本鎖の形成を可能にするその他の任意の様式で塩基対を形成し得る。当業者は認識しているように、DNAではなくRNAを用いた場合、アデノシンに対して相補的であると考えられる塩基は、チミンではなくウラシルである。しかし、本発明の文脈においてUと表記される場合、別途記載がなければ、Tに代わる能力を示唆する。完全な相補性又は100パーセントの相補性とは、1つのポリヌクレオチドストランドの各ヌクレオチドユニットが、第2のポリヌクレオチドストランドのヌクレオチドユニットに結合可能であるという状況を意味する。完全ではない相補性とは、2つのストランドのすべてではなく、一部のヌクレオチドユニットが、相互に結合可能であるという状況を意味する。例えば、2つの20マーにおいて、各ストランド上の2つの塩基対のみが、相互に結合可能な場合、ポリヌクレオチドストランドは、10パーセントの相補性を示す。同様に、各ストランド上の18個の塩基対が、相互に結合可能である場合には、ポリヌクレオチドストランドは90パーセントの相補性を示す。
【0027】
本明細書で用いる場合、用語「iRNA」、「RNAi」、又は「干渉RNA」とは、標的対象となるタンパク質の発現を下方制御する能力を有するあらゆるRNAを意味する。これには、小型の干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、及びショートヘアピンRNA(shRNA)分子が含まれる。RNA干渉とは、転写後レベルにおいて、dsRNAが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制する、という現象を指す。通常の条件では、RNA干渉は、数千の長さの塩基対からなる二本鎖RNA分子(dsRNA)により開始される。In vivoでは、細胞に導入されたdsRNAは、siRNAと呼ばれる短いdsRNA分子の混合物に切断される。当該切断を触媒する酵素、Dicerは、RNase IIIドメインを含有するエンド-RNaseである(Bernstein、Caudyら、2001 Nature、2001年1月18日;409(6818):363〜6頁)。哺乳動物細胞では、Dicerにより生み出されるsiRNAは、長さ21〜23 bpで、19又は20個のヌクレオチド二本鎖配列、2-ヌクレオチド3'オーバーハング、及び5'-トリホスフェート末端部を有する(Zamore、Tuschlら、Cell. 2000年3月31日;101(1):25〜33頁; Elbashir、Lendeckelら、Genes Dev. 2001年1月15日;15(2):188〜200頁; Elbashir、Martinezら、EMBO J. 2001年12月3日;20(23):6877〜88頁)。特別な実施形態によれば、iRNAsはmicroRNAを含まない。
【0028】
いくつかの特許及び特許出願、例えば国際公開第99/32619号は、一般論として、遺伝子発現阻害を目的とするsiRNA分子の使用について記載している。siRNA及びshRNAによるRNA干渉療法も、Z. Wangら、Pharm Res(2011)28:2983〜2995頁によるレビューに詳記されている。
【0029】
siRNA又はshRNAは、翻訳開始コドン(translation initiator codon)の下流19〜50ヌクレオチドの領域に対して通常設計され、一方、5'UTR(非翻訳領域)及び3'UTRは通常回避される。選択したsiRNA又はshRNA標的配列は、所望の遺伝子のみが標的対象とされることを保証するために、ESTデータベースと対比するBLASTサーチの対象とされるべきである。様々な製品が、siRNA又はshRNAの調製及び使用を支援するために市販されている。
【0030】
好ましい実施形態では、RNAi分子は、長さが少なくとも約10〜40個のヌクレオチド、好ましくは約15〜30塩基のヌクレオチドからなるsiRNAである。
【0031】
siRNA又はshRNAは、天然RNA、合成RNA、又は組換え生成型RNA、並びに1つ若しくは複数のヌクレオチドの付加、欠損、置換、及び/又は改変により、天然のRNAと異なる改変型RNAを含み得る。かかる改変は、siRNAがヌクレアーゼ消化に抵抗性となるような修飾を含め、例えば分子の末端部又はsiRNAの1つ若しくは複数の内部ヌクレオチド等への非ヌクレオチド物質の付加を含み得る。
【0032】
いくつかのダイナミン2阻害性核酸は、市販されている。例えば、これらに限定されないが、Abnova-Novus Biologicals社のダイナミン2 RNAi、参照番号: H00001785-R05-H00001785-R08; Santa Cruz Biotechnology社のダイナミンII siRNA(h)、参照番号: sc-35236、ダイナミンII(h)-PR、参照番号: sc-35236-PR、ダイナミンII shRNAプラスミド(h)、参照番号: sc-35236-SH、ダイナミンII shRNA(h)レンチウイルス粒子、参照番号: sc-35236-Vを挙げることができる。
【0033】
特別な実施形態では、ダイナミン2を特異的に妨害する核酸分子は、ダイナミン2の完全長筋肉ヒトcDNA配列の少なくとも一部分を特異的に妨害する核酸である(配列番号1、12bを追加した転写物変異体1(NM_001005360.2)(エクソン10a、13ter)に示す通り)。本実施形態によれば、またより具体的には、RNAi分子は、少なくとも長さ約10〜40ヌクレオチドからなるsiRNA又はshRNA、好ましくは約15〜30塩基のヌクレオチドからなるiRNAである。特別な実施形態では、siRNA又はshRNAは、ダイナミン2 mRNAの少なくとも1つのエクソン、より具体的には、ダイナミン2 mRNAのエクソン1、4、5、12b、13、15、17、及び21のうちの少なくとも1つを標的とする。
【0034】
特別な実施形態では、ダイナミン2を特異的に妨害する核酸分子は、以下の配列からなる群から選択される配列を含むか又はそれからなる:
- 配列番号2のiRNA配列: 5'- AAGGACATGATCCTGCAGTTCAT - 3'(又は下記のshRNA配列N°C)、
- 配列番号3のiRNA配列: 5'- AAGAGGCTACATTGGCGTGGTGA- 3'
- 配列番号4のiRNA配列: 5'- AGGTGGACACTCTGGAGCTCTCC - 3'、
- 配列番号5のiRNA配列: 5'- AAGAAGTACATGCTGCCTCTGGA - 3'、
- 配列番号6のiRNA配列: 5'-AACGTCTACAAGGACCTGCGGCA - 3'、
- 配列番号7のiRNA配列: 5'-AGGAGAACACCTTCTCCATGGAC - 3'、
- 配列番号8のiRNA配列: 5'- AACTGTTACTATACTGAGCAG - 3'、
- 配列番号9のiRNA配列: 5'- TGCCAACTGTTACTATACT - 3'、
- 配列番号10のiRNA配列: 5' - GAAGAGCTGATCCCGCTGG -3'
- 配列番号11のiRNA配列: 5' - GCACGCAGCTGAACAAGAA -3'
- 配列番号12のiRNA配列: 5' -GGACTTACGACGGGAGATC-3'
- 配列番号13のiRNA配列: 5' -GGATATTGAGGGCAAGAAG-3'
- 配列番号14のiRNA配列: 5'-GGACCAGGCAGAAAACGAG-3'
- shRNA 15のiRNA配列: 5' - GCGAATCGTCACCACTTAC-3'
【0035】
【表1】
【0036】
アンチセンス核酸も、ダイナミン2の発現を下方制御するのに利用可能である。アンチセンス核酸は、ダイナミン2をコードするセンス核酸の全部又は一部に対して相補的、例えば二本鎖cDNA分子のコーディングストランドに相補的又はmRNA配列に相補的であり得るが、また、これは標的mRNAの翻訳を妨害すると考えられる。本発明で用いられるアンチセンス核酸は、ダイナミン2の発現を特異的に妨害する。
【0037】
一実施形態によれば、アンチセンス核酸は、ダイナミン2をコードする標的mRNAに相補的なRNA分子である。
【0038】
別の実施形態によれば、アンチセンスヌクレオチドとは、DNAであるか又はRNAであるかを問わず、一本鎖の核酸配列を意味し、ダイナミン2をコードするプレ-mRNAの一部に対して相補的である。特に、本発明のアンチセンスヌクレオチドは、ダイナミン2プレ-mRNA内のスプライスアクセプター(SA)部位、及び/若しくはエクソンスプライシングエンハンサー(ESE)、及び/若しくは分岐点、並びに/又はプレ-mRNAスプライシングを調節し得る任意の配列を遮断するように設計される、すなわち、SA、ESE、分岐点配列を含むダイナミン2プレ-mRNA、又はプレ-mRNAスプライシングを調節し得る任意の配列の一部分に対して相補的なように設計される。より具体的には、アンチセンスヌクレオチドは、ダイナミン2プレ-mRNA内で、エクソンスキッピングを誘発するのに用いられ、これにより、得られたmRNA内で、未成熟終止コドンを含有するトランケーションされたcDNAを生成するフレームシフトを引き起こす。従って、この戦略は、DNM2タンパク質の濃度低下を可能にする。特別な実施形態では、アンチセンスヌクレオチドは、ダイナミン2プレ-mRNA内でエクソンスキッピングを誘発するのに用いられる。例えば、導入されるアンチセンスヌクレオチドは、エクソン2又はエクソン8のスキッピングを特異的に誘発するように設計される。特別な実施形態では、本発明のアンチセンスヌクレオチドは、ヒトDNM2 mRNA内に、未成熟終止コドンの組み入れを誘発することができる。エクソン2又はエクソン8のスキッピングは、ダイナミン2タンパク質の欠損を引き起こすことが判明した(「Reducing dynamin 2 expression rescues X-linked centronuclear myopathy」、Cowling BS、Chevremont T、Prokic I、Kretz C、Ferry A、Coirault C、Koutsopoulos O、Laugel V、Romero NB、Laporte J.、J Clin Invest. 2014年3月3日;124(3):1350〜63頁。doi:10.1172/JCI71206. Epub 2014年2月24日;及びTinelli E、Pereira JA、Suter U. Hum Mol Genet. 2013年11月1日;22(21):4417〜29頁。doi:10.1093/hmg/ddt292. Epub 2013年6月27日に記載の通り)。
【0039】
特別な実施形態では、アンチセンスヌクレオチドは、DNM2エクソン2又はエクソン8のスキッピングを特異的に誘発するように設計され、また下記の配列:
下記の配列:配列番号26: GTCACCCGGAGGCCTCTCATTCTGCAGCTCを含むU7-Ex2(アンチセンスU7 snRNAを含むDNM2エクソン2の標的スキッピング):
下記の配列:配列番号27: ACACACTAGAGTTGTCTGGTGGAGCCCGCATCAを含むU7-Ex8(アンチセンスU7 snRNAを含むDNM2エクソン8の標的スキッピング):
の1つを含むか又はそれからなる。
【0040】
アンチセンス核酸は、例えば長さ約5、10、15、20、25、30、35、40、45、又は50ヌクレオチドであり得る。特に、アンチセンスRNA分子は、通常長さ15〜50ヌクレオチドである。本発明で用いられるアンチセンス核酸は、化学合成法、及び当技術分野において公知の手順を利用する酵素ライゲーション反応を用いて構築可能である。特に、アンチセンスRNAは、化学的に合成可能、直鎖状のテンプレート(例えば、PCR産物)又は環状のテンプレート(例えば、ウイルス又は非ウイルスベクター)からin vitro転写により生成可能、又はウイルス又は非ウイルスベクターからのin vivo転写により生成可能である。アンチセンス核酸は、安定性、ヌクレアーゼ抵抗性、標的特異性が増強され、また生理学的特性が改善するように修飾を受け得る。例えば、アンチセンス核酸は、修飾されたヌクレオチド又は/及びアンチセンス核酸とセンス核酸との間で形成される二本鎖の物理的安定性を高めるように設計された骨格を含み得る。
【0041】
本発明の文脈において、「リボザイム」は、リボヌクレアーゼ活性を有する触媒性のRNA分子であり、mRNA等の一本鎖の核酸を切断する能力を有し、当該mRNAに対して相補的な領域を有する。従って、リボザイムは、mRNA転写物を触媒的に切断するのに利用可能であり、これによりmRNAによりコードされるタンパク質の翻訳を阻害する。機能性のダイナミン2に対して特異的なリボザイム分子は、当技術分野にとって一般的に公知の方法により設計、生成、及び投与可能である(例えば、Fanning and Symonds(2006)RNA Towards Medicine(Handbook of Experimental Pharmacology)、Springer編、289〜303頁を参照)。
【0042】
ゲノム編集も、本発明に基づくツールとして利用可能である。ゲノム編集は、遺伝子工学の一種であり、人為的に工学的に操作されたヌクレアーゼ又は「分子はさみ」を用いて、DNAが挿入、置換、又はゲノムから除去される。ヌクレアーゼは、ゲノム内の所望の場所において、特異的二本鎖切断(DSB)を形成し、細胞の内因性の機構を利用して、相同的組換え(HR)及び非相同末端結合(NHEJ)の本来のプロセスにより誘発された切断を修復する。現在のところ、工学的に操作されたヌクレアーゼについて4つのファミリーが用いられる:ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Casシステム(より具体的にはP. Maliらが、Nature Methods、10巻10号、2013年10月に記載するような、Cas9システム)、又は工学的に操作されたメガヌクレアーゼの工学的に再構成されたホーミングエンドヌクレアーゼ。前記ヌクレアーゼは、DNA又はmRNAとして細胞に送達可能であり、かかるDNA又はmRNAは、本発明に基づきDNM2遺伝子を標的とするように工学的に操作される。一実施形態によれば、ダイナミン2阻害剤は、DNM2遺伝子を標的とし、ゲノム編集療法を用いてヌクレアーゼを送達するように工学的に操作されたDNA若しくはmRNAである、又はゲノム編集療法を用いてDNM2を標的とするように工学的に操作されたヌクレアーゼである。
【0043】
本発明に基づき用いられる、上記で定義したヌクレオチドは、DNA前駆体、又はこれをコードする分子の形態で投与され得る。
【0044】
In vivoで用いる場合、本発明のヌクレオチドは、リン酸塩骨格の修飾等の化学修飾(例えば、ホスホロチオエート結合)により、安定化し得る。本発明のヌクレオチドは、遊離した(裸の)形態で投与可能、若しくは安定性を高める、及び/若しくは例えばリポソームを標的とする送達システムの利用により投与可能、又はその他の媒体、例えばヒドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル、生体付着性ミクロスフェア、若しくはタンパク質性のベクター等に組み込み可能、又はカチオン性ペプチドと併用可能である。また、本発明のヌクレオチドは、生物模倣型の細胞貫通ペプチドに連結させることも可能である。本発明のヌクレオチドは、その前駆体又はこれをコードするDNAの形態でも投与可能である。ヌクレオチドの化学的に安定化したバージョンには、「モルホリノ類」(ホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー- PMO)、2'-O-メチルオリゴマー、AcHN-(RXRRBR)2XBペプチド-タグ化PMO(R、アルギニン、X、6-アミノヘキサン酸、及びB、(登録商標)-アラニン)(PPMO)、トリシクロ-DNA、又は小型の核(sn)RNAも含まれる。この効果に利用可能であるヌクレオチドの後者の形態は、U1、U2、U4、U4atac、U5、U7、U11、及びU12(又はその他のUsnRNP)、好ましくはU7snRNA (配列番号26及び27にて上記識別した通り)を含む小核RNA分子であり、特にレンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、又はアデノ関連ウイルスに基づく、但しこれらに限定されないウイルス移送法と併用される。これらすべての技法は、当技術分野において周知されている。
【0045】
本発明のダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸分子は、in vivoにおいて単独で又はベクターと関連して送達可能である。広義には、「ベクター」とは、ヌクレオチドを細胞、好ましくはDNM2を発現する細胞に移動させるのを促進する能力を有するあらゆる媒体である。好ましくは、ベクターは、ベクターが存在しないときに生じる分解の程度と比較して、それよりも分解を低減した状態で、ヌクレオチドを細胞に輸送する。一般的に、本発明において有用なベクターとして、プラスミド、ファージミド、ウイルス、及び本発明のヌクレオチドの挿入又は組み込みにより操作されたウイルス源又は細菌源に由来するその他の媒体が挙げられるが、但しこれらに限定されない。ウイルスベクターは、好ましい種類のベクターであり、下記のウイルスに由来する核酸配列が挙げられるが、但しこれらに限定されない: HIV-1等のレンチウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス等のレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス; SV40-型ウイルス; HSV-1等のヘルペスウイルス、及びワクシニアウイルス。本明細書では扱わないが、当技術分野において公知のその他のベクターも容易に利用可能である。臨床用途について確認されており、ヌクレオチドを送達するのに利用可能であるベクターの中でも、レンチウイルス、レトロウイルス、及びアデノ関連ウイルス(AAV)は、エクソンスキッピング戦略に関してより多くの可能性を示す。
【0046】
本明細書で用いる場合、用語「抗体」は、あらゆる免疫結合剤(immunologic binding agent)、例えばIgG、IgM、IgA、IgD、及びIgE、及びヒト化抗体、又はキメラ抗体等を幅広く指すように意図されている。特定の実施形態では、IgG及び/又はIgMは、生理学的状況において最も一般的な抗体であり、またその製造は最も容易なので、これらが好ましい。用語「抗体」は、抗原結合領域を有するあらゆる抗体様分子を指すのに用いられ、抗体フラグメント、例えばFab'、Fab、F(ab')2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFv(単鎖Fv)等を含む。様々な抗体ベースの構築物及びフラグメントを調製及び利用する技法は、当技術分野において十分に周知されている。抗体を調製し、また特徴づける手段も、当技術分野において十分に周知である(例えば、Harlow, E.及びLane, D.(1988)Antibodies: A Laboratory Manual編, Cold Spring Harbor Laboratoryを参照)。
【0047】
「ヒト化」抗体は、1つ又は複数のヒト免疫グロブリンの定常及び可変フレームワーク領域が、動物免疫グロブリンの結合領域、例えばCDRと融合した抗体である。本発明で検討対象となる「ヒト化」抗体は、ヒト定常及び/又は可変領域ドメイン、二重特異性抗体、組換え及び工学的に操作された抗体、及びそのフラグメントを担持するマウス、ラット、又はその他の種に由来するキメラ抗体である。かかるヒト化抗体は、結合領域の起源である非ヒト抗体の結合特異性は維持されるが、非ヒト抗体に対する免疫反応は回避されるように設計される。
【0048】
「キメラ抗体」とは、(a)抗原結合部位(可変領域)が、異なる又は改変されたクラス、エフェクター機能、及び/若しくは種の定常領域、又はキメラ抗体に新規特性を付与する完全に異なる分子、例えば酵素、毒素、ホルモン、増殖因子、薬物等と結合するように、定常領域又はその一部分が改変、置換、又は交換されている抗体分子;或いは(b)可変領域又はその一部分が、改変され、異なる又は改変された抗原特異性を有する可変領域と置換、又は交換されている抗体分子である。
【0049】
ダイナミン2に向けられた抗体は市販されており、例えばNovus Biologicals社:カタログ番号:ダイナミン2抗体NB300-617、ダイナミン2抗体NBP2-16244、ダイナミン2抗体(6C9)H00001785-M01、Santa Cruz Biothechnology社:カタログ番号: sc-81150、sc-6400、sc-166525、sc-166669、sc-166526、BD-Biosciences社:抗-DNM2(マウスab、610264)、又はIGBMC-Illkirch社:抗-DNM2: R2679、R2680、R2865、R2866、R2640、又はR2641より販売又は製造されている抗体等が挙げられる。
【0050】
別の特別な実施形態では、ダイナミン2阻害剤は、ダイナミン2の酵素活性又は機能を阻害する小分子である。
【0051】
本明細書で用いる場合、用語「ダイナミン2の活性、発現又は機能を阻害する小分子」とは、小分子を意味し、ダイナミン2の活性、発現又は機能を阻害する又は低減する能力を有する、通常1000ダルトン未満の有機化合物又は無機化合物であり得る。この小分子は、任意の既知の生物(動物、植物、細菌、菌類、及びウイルスを含むがこれらに限定されない)、又は合成分子のライブラリに由来し得る。ダイナミン2の活性、発現又は機能を阻害する小分子は、本書に記載する方法を用いて識別され得る。
【0052】
ダイナミン阻害剤は、Harper CBら、Trends Cell Biol. 2013年2月;23(2):90〜101頁. Review.に記載されている。特別な実施形態では、かかる分子は、下記からなる群から選択される:
- ダイナソール(Dynasore)(ダイナミン1及びダイナミン2の非競合的、細胞透過性セミカルバゾン化合物阻害剤- CAS番号304448-55-3)、その化学名は、3-ヒドロキシナフタレン-2-カルボン酸(3,4-ジヒドロキシベンジリデン)ヒドラジドであり、
- ヒドロキシ-ダイナソール(ダイナミン2の極めて強力な阻害剤(IC50=2.6μM))(ヒドロキシ-ダイナソールは、細胞透過性のヒドロキシル化された、CAS番号1256493-34-1のダイナミン阻害剤ダイナソールの類似体である)、その化学名は、3-ヒドロキシ-N'-[(2,4,5-トリヒドロキシフェニル)メチリデン]ナフタレン-2-カルボヒドラジドであり、
- テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CAS番号1119-97-7)、製品名MiTMAB(商標)(ab120466)としてAbcam社より販売されている(細胞透過性ダイナミン1及びダイナミン2阻害剤(ダイナミンIIを阻害する場合、IC50=8.4μM))。これは、プレクストリン相同性(PH)(脂質結合)ドメインを標的とする。これは、受容体-媒介型でシナプス性の小胞エンドサイトーシスを阻害し(IC50値は2.2μM)、
- フタラジン(Phthaladyn)-23(ダイナミン2 GTPase活性を阻害することが報告されている細胞透過性フタルイミド化合物(IC50=63μM))、フタラジン-23の化学名は、4-クロロ-2-((2-(3-ニトロフェニル)-1,3-ジオキソ-2,3-ジヒドロ-1H-イソインドール-5-カルボニル)-アミノ)-安息香酸であり、
- ダイノール(Dynole)34-2、これは、ダイナミン阻害剤V(scbt.com)であり、GTPase活性に作用し、GTPに対して非競合的であり、ダイノール34-2の化学名は、2-シアノ-N-オクチル-3-[1-(3-ジメチルアミノプロピル)-1H-インドール-3-イル]アクリルアミドであり、
- M-divi 1(ミトコンドリア分裂阻害剤(mitochondrial division inhibitor)、IC50=10μM)(scbt.com)、M-divi- 1の化学名は、3-(2,4-ジクロロ-5-メトキシフェニル)-2-スルファニルキナゾリン(sulfanylquinazolin)-4(3H)-オンであり、
- イミノジン(Iminodyn)-22/17(scbt.com)(イミノジン22: IC50=390nMは、GTPaseのアロステリック部位に作用し、GTPに関して非競合的拮抗作用を示す)、イミノジン22の化学名は、N,N'-(プロパン-1,3-ジイル)ビス(7,8-ジヒドロキシ-2-イミノ-2H-クロメン-3-カルボキサミド)であり、イミノジン17の化学名は、N,N'-(エタン-1,2-ジイル)ビス(7,8-ジヒドロキシ-2-イミノ-2H-クロメン-3-カルボキサミド)である。
- OcTMAB、すなわちオクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド(abcam.com)、これはPHドメインを標的とし、
- ダイナミン阻害ペプチド(Tocris Biosciences社1774):アミノ酸配列: 配列番号28:QVPSRPNRAPを有し、
- ディンゴ(Dyngo)-4a(IC50 -2.5μM)、これは、GTPaseアロステリック部位に作用する、ディンゴ-4aの化学名は、3-ヒドロキシ-N'-[(2,4,5-トリヒドロキシフェニル)メチリデン]ナフタレン-2-カルボヒドラジドであり、
- RTIL-13(IC50 -2.3μM)、これはPHドメインを標的とするノルカンタリジン(norcantharidin)スキャフォールドであり、RTIL-13の化学名は、4-(N,N-ジメチル-N-オクタデシル-N-エチル)-4-アザ-10-オキサトリシクロ-[5.2.1]デカン-3,5-ジオンブロミドである。
【0053】
ダイナミン2阻害剤の使用
本発明は、上記で定義したようなダイナミン2阻害剤を治療上有効な量、それを必要としている患者に投与することにより、DMDを治療する方法、及びDMDの治療におけるかかるダイナミン2阻害剤の使用に関する。また、本発明は、DMDを治療するための医薬組成物の製造におけるダイナミン2阻害剤の使用にも関する。本発明は、DMDの治療における使用のためのダイナミン2阻害剤に関する。
【0054】
更に、本発明は、特にDMDの治療における使用のためのダイナミン2阻害剤、及び任意選択的に薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。
【0055】
本発明の特別な実施形態では、治療される疾患、より具体的には、DMD患者の筋力を増加させることにより、及び/又は収縮誘起性の外傷に対する筋肉の抵抗性を改善することにより治療される疾患は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)である。
【0056】
本明細書で用いる場合、用語「治療上有効な量」とは、DMDの治療を構成するのに十分な、患者に投与される治療薬の量であることが意図される。特別な実施形態では、投与される治療上有効な量は、ダイナミン2の発現、活性、又は機能を、正常レベル同等、又は正常レベル未満まで低減するのに十分な量である。正常レベルは、DMDを呈さない対象のダイナミン2の発現、活性、又は機能である。投与されるダイナミン2阻害剤の量は、当業者により周知されている標準手順により決定することができる。適する用量を決定するには、患者の生理学的データ(例えば、年齢、サイズ、及び体重)、投与経路、及び治療の対象となる疾患を考慮し、任意選択的にDMDを呈さない対象と比較しなければならない。当業者は、投与すべきダイナミン2阻害剤の量、又はダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸を含有する又は発現するベクターの量は、望ましくないDMD症状の改善を誘発する、或いはDMDの1つ若しくは複数の症状又は特徴の緩和を誘発するのに十分な量であることを認識する。1つ若しくは複数の症状又は特徴の緩和は、患者から得た筋原性細胞又は筋肉細胞に基づき、下記の任意のアッセイにより評価され得る:筋肉細胞によるカルシウム取込み量の低下、コラーゲン合成の減少、形態の変化、脂質生合成の変化、酸化ストレスの減少、及び/又は筋線維の機能、完全性、及び/又は生存率の改善。これらのパラメーターは、免疫蛍光検査法及び/又は筋生検断面の組織化学的分析を使用して通常評価される。1つ若しくは複数の症状又は特徴の緩和は、患者自身に基づき、下記の任意のアッセイによっても評価され得る:歩行喪失までの時間延長、筋肉強度の改善、重いものを持ち上げる能力の改善、床から立ち上がるのに要する時間の改善、9メートル歩行時間又は6分間歩行の改善、4段登るのに要する時間の改善、脚機能グレードの改善、肺機能の改善、心臓機能の改善、生活の質の改善。これらのアッセイそれぞれは、当業者公知である。これらのアッセイそれぞれにおいて、アッセイで測定されたパラメーターについて、検出可能な改善又は延長が認められれば、それはすなわちデュシェンヌ型筋肉ジストロフィーの1つ又は複数の症状が、本発明の方法を使用する個人において緩和したことを、好ましくは意味する。検出可能な改善又は延長は、Hodgettsらが記載するような統計的に有意な改善又は延長であるのが好ましい(Hodgetts S.ら、(2006年)、Neuromuscular Disorders、16: 591〜602頁、2006年)。或いは、デュシェンヌ型筋肉ジストロフィーの1つ又は複数の症状(複数可)の緩和は、本明細書において後で定義するように、筋線維の機能、完全性、及び/又は生存率の改善を測定することにより評価され得る。筋線維の機能、完全性、及び/又は生存率の改善は、少なくとも1つの下記のアッセイを使用して評価され得る:血液中のクレアチンキナーゼの検出可能な減少、ジストロフィーの疑いがある筋肉の生検断面における筋線維壊死の検出可能な減少、及び/又はジストロフィーの疑いがある筋肉の生検断面における、筋線維の直径の均質性に関する検出可能な増加。これらのアッセイそれぞれは、当業者公知である。ダイナミン2阻害剤の量、又はダイナミン2の発現を特異的に妨害する核酸を含有する、又は発現するベクターの量は、選択されたダイナミン2阻害剤の種類、性別、年齢、体重、患者の全体的な健康状態等の因子に応じて特に変化し得るが、また状況に応じて決定され得る。当該量は、治療プロトコールのその他の構成要素(例えば、その他の薬剤の投与等)によっても変化し得る。一般的に、ダイナミン2阻害剤が核酸の場合、適する用量は、約1mg/kg〜約100mg/kgの範囲であり、また約2mg/kg/日〜約10mg/kgがより一般的である。ウイルスに基づく核酸送達法が選択される場合には、適する用量は、異なる要因、例えば採用されたウイルス、送達経路(筋肉内、静脈内、動脈内等)に依存し、一般的にウイルス粒子10-9〜10-15個/kgの範囲であり得る。阻害剤が、ダイナミン2の活性、発現又は機能を阻害する小分子の場合には、各単位用量は、例えば体重1kg当たり2〜300mg、特に体重1kg当たり5〜100mgを含み得る。阻害剤が抗体の場合には、各単位用量は、例えば体重1kg当たり0.1〜20mg、特に体重1kg当たり4〜10mgを含み得る。当業者は、かかるパラメーターは、臨床試験期間中に通常は算出されるものと認識する。更に、当業者は、疾患の症状が本明細書に記載される治療法によって完全に緩和され得る一方で、必ずしもそうである必要はないと認識する。症状が部分的又は間欠的に緩和する場合でも、それは被治療者にとって極めて有益であり得る。更に、患者の治療は、単回事象であり得る、又は患者は、ダイナミン2阻害剤を複数回投与されるが、それは、得られた結果に応じて、数日間隔、数週間間隔、又は数カ月間隔、又は数年間隔でさえもあり得る。本発明による方法で治療する際には、少なくとも1週間、少なくとも1カ月、少なくとも数カ月、少なくとも1年、少なくとも2、3、4、5、6年、又はそれ超の期間を有し得る。投与頻度は、2週間、又は3週間、又は4週間、又は5週間、又はより長い期間において少なくとも1回であり得る。
【0057】
本発明に基づき使用される、本明細書で定義するような各ダイナミン2阻害剤は、DMDにより影響を受ける、又はDMDを発症するリスクを有する個人の細胞、組織、及び/又は臓器にin vivoで直接投与するのに適し得るが、またin vivo、ex vivo、又はin vitroで直接投与され得る。本明細書で用いられるオリゴヌクレオチドは、DMDにより影響を受ける、又はDMDを発症するリスクを有する個人の細胞、組織、及び/又は臓器にin vivoで直接又は間接的に投与され得るが、またin vivo、ex vivo、又はin vitroで直接又は間接的に投与され得る。デュシェンヌ型筋肉ジストロフィーは、筋肉細胞において際立った表現型を有するので、前記細胞は筋肉細胞であるのが好ましく、前記組織は筋肉組織であるのが更に好ましく、及び/又は前記臓器は筋肉組織を含む又はそれから構成されるのが更に好ましい。好ましい臓器は心臓である。好ましくは、前記細胞は、DMDに罹患した個人の細胞である。
【0058】
本明細書で定義するようなダイナミン2阻害剤(分子又はオリゴヌクレオチド若しくはその同等物であり得る)は、細胞にそのまま送達され得る。前記阻害剤を個人に投与する際には、送達方法に適合する溶液に溶解するのが好ましい。静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、及び/又は脳室内投与の場合、溶液は生理的食塩水であるのが好ましい。本発明の方法にとって特に好ましいこととして、本明細書で定義するような前記阻害剤を、細胞、及び細胞内に、好ましくは筋肉細胞に送達することを更に強化する添加剤の使用が挙げられる。
【0059】
本発明の医薬組成物は、当業者により公知の標準医薬実践法に基づき処方化される(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy(第20版)、A. R. Gennaro, Lippincott Williams & Wilkins編、2000、及びEncyclopedia of Pharmaceutical Technology、J. Swarbrick及びJ. C. Boylan編、1988〜1999頁、Marcel Dekker、New Yorkを参照)。好ましくは、本明細書で定義するようなダイナミン2阻害剤は、送達方法に適合する溶液中に溶解される。静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、及び/又は脳室内投与の場合、溶液は、生理的食塩水であるのが好ましい。
【0060】
より一般的には、考え得る医薬組成物には、経口、直腸内、粘膜、局所的(経皮、頬側、及び舌下を含む)投与、又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、及び皮内を含む)投与に適する医薬組成物が含まれる。これらの処方物では、従来型の添加剤が、当業者により周知の技法に基づき利用可能である。
【0061】
より具体的には、局所的な治療効果を提供するために、特定の筋肉投与経路が好ましい。特に、筋肉内投与が好ましい。
【0062】
本発明による医薬組成物は、投与され次第実質的に速やかに、又は任意の事前に決定された時刻若しくは投与後の時刻において、実薬を放出するように処方化され得る。
【0063】
本発明の文脈において、用語「治療」とは、治癒的、対症的、及び予防的治療を意味する。本明細書で用いる場合、用語、疾患の「治療」とは、対象(又は患者)の寿命を延長するように意図したあらゆる作用、例えば疾患進行の治療及び遅延等を意味する。治療は、疾患を根絶して疾患の進行を止める、及び/又は疾患の後退を促進するように設計され得る。また用語、疾患の「治療」とは、筋緊張低下症及び筋無力症等の疾患と関連した症状を低減するように意図されたあらゆる作用も意味する。対象(又は患者)の歩行喪失までの時間延長、筋肉強度の改善、重いものを持ち上げる能力の改善、床から立ち上がるのに要する時間の改善、6分間歩行又は9メートル歩行時間の改善、4段登るのに要する時間の改善、脚機能グレードの改善、肺機能の改善、心臓機能の改善、又は生活の質の改善も、用語「治療」の定義内にある。より具体的には、本発明による治療は、特に筋力及び/又は収縮誘起性の筋肉外傷に対する抵抗性を改善することにより、DMDの表現型又は症状の出現を遅らせる、運動及び/又は筋肉挙動、及び/又は寿命を改善するように意図されている。
【0064】
治療する対象(又は患者)は、任意の哺乳動物、好ましくはヒトである。好ましくは、対象はヒト患者であり、その年齢又は性別を問わない。新生児、幼児、小児も含まれる。より好ましくは、本発明による患者又は対象は、デュシェンヌ患者である、又はデュシェンヌ患者である疑いがある(患者の遺伝的背景から、DMDを発現しやすい患者)。
【0065】
ダイナミン2阻害剤のスクリーニング
本発明は、DMDの治療に有用な分子を、かかる分子がダイナミン2の発現、活性、及び/又は機能を阻害する能力に基づき、識別又はスクリーニングする方法にも関係する。
【0066】
特に、本発明は、
a)候補化合物を提供又は取得する工程と;
b)前記候補化合物が、ダイナミン2の活性、機能及び/又は発現を阻害するか判定する工程と
を含むスクリーニング方法であって、
c)前記候補化合物が、前記ダイナミン2の発現、機能、又は活性を阻害する能力を有すれば、前記候補化合物は、それがDMDの治療にとって有用であり得ることが示唆される、方法について説明する。
【0067】
本方法の枠組み内で試験される候補化合物は、あらゆる分子的性質を有し得るが、同化合物は、例えば化学分子(好ましくは小分子)、抗体、ペプチド、ポリペプチド、アプタマー、siRNA、shRNA、snRNA、センス若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、又は標的対象となるエンドヌクレアーゼに対応し得る。
【0068】
前記候補化合物のダイナミン2の発現、活性、又は機能を阻害する能力は、当業者にとって公知のあらゆる方法、例えば上記において識別された方法、又は実施例に記載されている方法等を用いて試験され得る。
【0069】
DMDの治療に適する分子をスクリーニング又は識別する方法は、任意選択的に、選択された分子をDMDの非ヒト動物モデル又はその一部分(組織又は細胞、例えば筋肉組織又は細胞等)にin vivo又はin vitroで投与する工程、及びミオパシーの発症又は進行に対する効果を分析する工程を更に含み得る。
【0070】
ヒト以外のDMD動物モデルとして、ジストロフィン欠損mdxマウスを挙げることができる。ジストロフィン欠損mdxマウスは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する医学研究で用いられる古典的なモデルであり、30年前に初めて発見された(Bulfield, G.、W. G. Siller、P. A. Wight、及びK. J. Moore (1984年). "X chromosome-linked muscular dystrophy (mdx) in the mouse." Proc Natl Acad Sci U S A 81(4): 1189〜1192頁)。Mdxマウスは、ジストロフィン遺伝子のエクソン23における未成熟終止コドン及びタンパク質発現の完全喪失を引き起こす自然突然変異を有する。mdxマウスモデルは、DMDの病態生理学に対する研究で、及び前臨床アプローチにおいて有望な療法を試験する際に、幅広く利用されてきた(Manning, J.及びD. O'Malley (2015年). "What has the mdx mouse model of duchenne muscular dystrophy contributed to our understanding of this disease?" J Muscle Res Cell Motil)。このモデルマウスを以下の実施例で用いた。
【0071】
下記の実施例は、説明のために提示され、限定を目的としない。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
材料
動物実験。動物を、12:12時間の明光/暗光サイクルで、温度管理された室内(19〜22℃)に収容した。必要な場合には、動物実験に関する国内及び欧州の法令に基づき、CO2吸入とその後の頸椎脱臼により、マウスを人道的に絶命させ、前脛骨筋を切除し、そして窒素冷却したイソペンタン及び液体窒素中で凍結した。動物実験は、施設倫理委員会Com'Eth IGBMC-ICS、及びフランス国省庁(承認番号第01594.01号)により承認された。
【0073】
マウスの繁殖:ジストロフィンを発現せず、軽度のジストロフィー性の表現型を示す自然発生型のDMDマウスモデルであるMdxマウスは、Charles River Laboratories社から入手した、Dmdmdxについてホモ接合性のオスとDmdmdxについてホモ接合性のメスを繁殖させることにより取得した。DNM2を遺伝的に下方制御するために、MdxマウスをDnm2+/-マウスと繁殖させた。Dnm2+/-マウスは、ホストラボにより、これまでの記載に従い生成及び特徴付けされた(Cowling, B. S.、T. Chevremont、I. Prokic、C. Kretz、A. Ferry、C. Coirault、O. Koutsopoulos、V. Laugel、N. B. Romero、及びJ. Laporte (2014年). "Reducing dynamin 2 expression rescues X-linked centronuclear myopathy." J Clin Invest 124(3): 1350〜1363頁)。
【0074】
In situ筋力:前脛骨筋の最大筋力を、6週齢、3月齢、及び1歳のmdx-/yマウス及びmdx-/y Dnm2+/-マウスにおいて、Whole Mouse Test System(Aurora 1300A)を使用して、in situで測定した。坐骨神経を刺激し、そして前脛骨筋の収縮により生み出される全体の力を、これまでの記載に従い測定した(Cowlingら、2014年)。比筋力を筋肉質量に対する最大筋力の比として計算した。
【0075】
収縮誘起性の筋肉外傷:収縮誘起性の筋肉外傷に対する感受性を、Whole Mouse Test System (Aurora 1300A)を使用して、1歳の時にこれまでの記載に従い測定した(Hourdeら、2013年)。いくつかの損傷誘起性の延長収縮に起因する絶対筋力の減少を測定した。最初に坐骨神経を刺激し(700ミリ秒、周波数150Hz)、そして生成した等尺性筋力を測定し、その後8回の延長(+10%の長さ)収縮が続いたが、その際、各収縮後に等尺性筋力を測定した(初期の長さで)。生成した初期の力に対する割合(%)として、力を表す。2、5、及び8回の延長収縮後の初期の力に対する割合(%)として、データを表す。収縮測定後、動物を、ペントバルビタールの過量投与により安楽死させ、そして前脛骨筋を秤量した。
【0076】
結果:
筋肉機能における生理学的改善を、前脛骨筋のin situでの比筋力測定により試験した。坐骨神経を刺激したときに、絶対筋力を測定した。比筋力を、次に筋線維質量に対する総筋力の比として計算した。DNM2発現が低下したmdx-/yマウス(mdx+/y Dnm2+/-)では、6週齢及び3月齢のとき、コントロールmdx-/yマウスと比較して、比筋力は増加した(図1)。
【0077】
筋力におけるこの改善の生理学的意義を確認するため。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の患者と同様に、mdx-/yマウスから得た骨格筋はジストロフィンを欠いており、また健常コントロールよりも収縮誘起性の外傷に罹患しやすいことが公知である。従って、筋線維に損傷を誘発する延長性の筋肉収縮をマウスに引き起こして、DNM2発現が低下したときのmdxジストロフィー筋肉の損傷に対する感受性を分析した。
【0078】
筋線維損傷を誘発する8回の延長収縮を実施し、そして各収縮後に最大筋力を測定した。重要なこととして、mdx-/y Dnm2+/-マウスは、収縮誘起性の外傷に対する抵抗性において、mdx-/yマウスと比較して2倍の増加を示した(図2)。従って、DNM2を低下させれば、収縮誘起性の外傷に対するmdx筋肉の抵抗性が改善する。
【0079】
結論:
DNM2の発現低下は、従って、デュシェンヌ型筋肉ジストロフィーの治療法として有望である。実際、前臨床DMD研究で用いられる古典的なマウスモデルであるmdxマウスにおいて、DNM2を低下させることにより、いくつかの年齢で、比筋力の有意な改善が認められた。更に、収縮誘起性の筋肉外傷に対する抵抗性において2倍の改善が認められ、この所見の生理学的意義を確認した。従って、DNM2の低下が、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する新規の治療目標となる。
【0080】
(実施例2)
材料及び方法:
AAVの生成及び精製:
AAV-293細胞系を、CMVプロモーターの制御下にあり、また血清型2末端逆位反復と隣接するインサートを含有するpAAV2インサート、AAV血清型9のrep遺伝子とcap遺伝子を含有するpXR1、及びアデノウイルスヘルパー機能をコードするpHelperで三重にトランスフェクトすることにより、AAV2/9ベクターを作製した。細胞溶解物について、凍結/解凍サイクルを3回実施し、次に50U/mLのBenzonase(Sigma社)で、37℃において30分間処理し、そして遠心分離により清透化した。イオジキサノール勾配超遠心分離と、その後の遠心式フィルター(Amicon Ultra-15 Centrifugal Filter Devices 30K、Millipore社、Bedford)を用いて、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水に対して行われた透析及び濃縮により、ウイルスベクターを精製した。プラスミド標準pAAV-eGFPを用いて、リアルタイムPCRにより、物理的粒子を定量化し、そして力価を、1ミリリットル当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表す。これらの実験で用いられたrAAV力価は5〜7×1011 vg/mLであった。
【0081】
マウスのmdx-/y前脛骨(T.A)筋へのAAV形質導入:
3週齢、オス、mdx-/yマウスを、5μ1のケタミン(20mg/mL; Virbac社、Carros、フランス)及びキシラジン(0.4%、Rompun; Bayer社、Wuppertal、ドイツ)をi.p.注射することにより麻酔した。DNM2を標的とするAAV2/9-shRNA(黒色)、又はAAV2/9スクランブル化したコントロール配列(白色)の筋肉内注射を、3週齢のmdx-/yマウスの前脛骨に実施した。動物を、12:12時間の明光/暗光サイクルで、温度管理された室内(19〜22℃)に収容した。
マウスの繁殖は、実施例1の記載に従った。
【0082】
結果:
DNM2が低下したmdxマウスにおける収縮誘起性の筋肉外傷後の筋力
【0083】
Mdx-/y及びmdx-/y Dnm2+/-マウスを筋力について分析した。比筋力(sPo)をmdx-/y(白色)及びmdx-/y Dnm2+/-(黒色)マウスから得た前脛骨筋において最初に測定した(図3Aを参照)。この後、前脛骨筋を、9回延長収縮させた。mdx-/y(黒色実線)及びmdx-/y Dnm2+/-(黒色破線)マウスに関する結果を、0、3、6、及び9回の延長収縮後について、初期の力に対する割合(%)として示す(図3Bを参照)。
【0084】
DNM2を標的とするAAV2/9-shRNA(黒色)、又はAAV2/9スクランブル化したコントロール配列(白色)で、3週齢のMdx-/yマウスの前脛骨筋に注射した。3月齢のときに、比筋力(sPo)を前脛骨筋肉において測定した(図3Cを参照)。前脛骨筋を、次に図3Bと同様に、9回延長収縮させた(図3Dを参照)、AAV shRNAコントロール(黒色実線)及びAAV shRNA DNM2(黒色破線)。
【0085】
すべてのマウスは、分析時に3カ月齢であった。n=7〜10匹のマウス/群。すべてのグラフは、平均値+s.e.mを表す。
【0086】
図3B及び図3Dの両図において、DNM2が低下したmdx-/yマウス(黒色破線)は、収縮誘起性の外傷に対して抵抗性の傾向を示す。
【0087】
結論:
DNM2レベルを低下させるために、Mdxマウスを、Dnm2+/-マウスと交配させた、又は同マウスにDnm2を標的とするshRNAを発現するAAVを筋肉内注射した。3月齢のとき、群間で比筋力に有意差は認められなかったが、収縮誘起性の外傷に対する抵抗性が高まる傾向が、両技法において認められた。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]