(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、原動機の高出力化が進み、ロックアップクラッチを締結させるとロックアップクラッチの許容温度を超える範囲が大きくなってきている。ロックアップクラッチが許容温度を超えることが想定される場合には、ロックアップクラッチを締結させることができず、解放させたままとなるが、これでは、加速性能が悪化してしまう。
【0005】
この問題を解決すべく出願人は、ロックアップクラッチを締結させても許容温度内に維持することができるようにアップシフト中に目標トルクを低減させる目標トルク制御装置を出願した。
【0006】
しかしながら、ロックアップクラッチを締結させているときに目標トルクを低減させると、アップシフトが完了する前の段階における原動機の最大回転数が低下してしまうことが分かった。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、ロックアップクラッチを締結させているときのアップシフト中に目標トルクを低減させても最大回転数の低下を抑制させることができる変速制御装置および変速制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]上記目的を達成するため、本発明は、
車両の入力軸、トルクコンバータ(例えば、実施形態のトルクコンバータ2。以下同一。)及びロックアップクラッチ(例えば、実施形態のロックアップクラッチ2a。以下同一。)を有する多段変速機(例えば、実施形態の多段変速機3。以下同一。)を制御すると共に、前記多段変速機にトルクを出力する原動機の目標トルクを要求する変速制御装置(例えば、実施形態の変速制御装置ECU。以下同一。)であって、
前記ロックアップクラッチは、前記トルクコンバータを介して前記多段変速機に前記原動機の出力トルクを伝達させる解放状態と、前記トルクコンバータを介することなく前記多段変速機に前記原動機の出力トルクを直接的に伝達させる締結状態とに切り換え自在に構成され、
前記締結状態は、前記入力軸の回転数と前記原動機の回転数との間に差がある状態および前記入力軸の回転数と前記原動機の回転数との間に差がなく完全に締結されている状態を含み、
前記ロックアップクラッチが締結状態である場合(例えば、実施形態の
図5のSTEP1でYES。以下同一。)には、
アップシフトの変速中(例えば、実施形態の
図5のSTEP3でYES。以下同一。)に、前記原動機の出力トルクを前記ロックアップクラッチの発熱温度が許容温度を超えない程度の出力トルクとなるように前記原動機の目標トルクを低減させるように前記原動機に要求する目標トルク低減制御(例えば、実施形態の
図5のSTEP4。以下同一。)を実行し、
且
つ、前記アップシフトのときに変速段を高速段側へ切り換えるときの前記原動機の回転数の閾値又は前記多段変速機の入力軸の回転数の閾値を高回転側へ変更
し、
この変更する前記原動機の回転数の閾値または前記多段変速機の入力軸の回転数の閾値は、車両の加速度に基づいて低回転側に補正される閾値変更制御(例えば、実施形態の
図5のSTEP2。以下同一。)を実行することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ロックアップクラッチが締結されると、閾値変更制御によってアップシフトのときに変速段を高速段側へ切り換えるときの原動機又は多段変速機の回転数の閾値を高回転側へ変更する。これにより、ロックアップクラッチを締結させているときのアップシフト中に目標トルクを低減させてもアップシフトが完了する前の段階における原動機の最大回転数の低下を抑制させることができる。
【0010】
[2]また、本発明においては、前記目標トルク低減制御は、前記アップシフトの変速中におけるトルク相で実行し、イナーシャ相では実行しないように制御することができる。かかる構成によれば、イナーシャ相で原動機の回転数を迅速にアップシフト後の変速段相当の回転数まで落とすことができる。
【0011】
[3]また、本発明においては、前記目標トルク低減制御は、前記ロックアップクラッチ
が締結状態で前記許容温度を超えることが想定される場合に実行されるようにしてもよい。かかる構成によれば、ロックアップクラッチが許容温度を超えるか否かを判定して、目標トルク低減制御を実行させることができるため、ロックアップクラッチが締結されている場合に一律に目標トルク低減制御を実行する場合と比較して、加速性能の更なる向上を図ることができる。
【0012】
[4]また、本発明は、
車両の入力軸、トルクコンバータ及びロックアップクラッチを有する多段変速機を制御すると共に、前記多段変速機にトルクを出力する原動機の目標トルクを要求する変速制御方法であって、
前記ロックアップクラッチは、前記トルクコンバータを介して前記多段変速機に前記原動機の出力トルクを伝達させる解放状態と、前記トルクコンバータを介することなく前記多段変速機に前記原動機の出力トルクを直接的に伝達させる締結状態とに切り換え自在に構成され、
前記締結状態は、前記入力軸の回転数と前記原動機の回転数との間に差がある状態および前記入力軸の回転数と前記原動機の回転数との間に差がなく完全に締結されている状態を含み、
前記ロックアップクラッチが締結状態である場合には、
アップシフトの変速中に、前記原動機の出力トルクを前記ロックアップクラッチの発熱温度が前記許容温度を超えない程度の出力トルクとなるように前記原動機の目標トルクを低減させるように前記原動機に要求する目標トルク低減制御を実行し、
且
つ、前記アップシフトのときに変速段を高速段側へ切り換えるときの前記原動機の回転数の閾値又は前記多段変速機の入力軸の回転数の閾値を高回転側へ変更
し、
この変更する前記原動機の回転数の閾値または前記多段変速機の入力軸の回転数の閾値は、車両の加速度に基づいて低回転側に補正される閾値変更制御を実行することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、ロックアップクラッチが締結されると、閾値変更制御によってアップシフトのときに変速段を高速段側へ切り換えるときの原動機又は多段変速機の回転数の閾値を高回転側へ変更する。これにより、ロックアップクラッチを締結させているときのアップシフト中に目標トルクを低減させてもアップシフトが完了する前の段階における原動機の最大回転数の低下を抑制させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して実施形態の変速制御装置を備え、又は変速制御方法を適用した多段変速機及びこの多段変速機を搭載する車両について説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の変速制御装置を備える多段変速機を搭載した車両Vは、エンジンE(内燃機関、駆動源。エンジンEに代えて電動機を用いてもよい。)を、クランクシャフト1が車体左右方向を向くように横置きに車体へ搭載されている。エンジンEから出力される駆動力は、動力伝達装置PTに伝達される。そして、動力伝達装置PTは、エンジンEの駆動力を選択された変速比に対応して調整して、左右の前輪WFL,WFRに伝達する。
【0017】
動力伝達装置PTは、クランクシャフト1に接続されたトルクコンバータ2を有する多段変速機3と、多段変速機3に接続されたフロントデファレンシャルギヤ4とで構成される。トルクコンバータ2は、トルクを増加させることなくクランクシャフト1の回転を直接的に多段変速機3の入力軸11へ入力させるためのロックアップクラッチ2aを備えている。ロックアップクラッチ2aは締結状態と解放状態とに切り換えられ、締結状態で、トルクを増加させることなくクランクシャフト1の回転を直接的に多段変速機3の入力軸11へ入力させ、解放状態で、ロックアップクラッチ2aを介した動力伝達が断たれ、トルクを増加させて多段変速機3へ入力される。
【0018】
フロントデファレンシャルギヤ4は、前部左車軸7L及び前部右車軸7Rを介して左右の前輪WFL,WFRに接続される。
【0019】
図2は、多段変速機3のトルクコンバータ2を除いた部分を示すスケルトン図である。この多段変速機3は、筐体としての変速機ケース10内に回転自在に軸支した、原動機としてのエンジンEが出力する駆動力がロックアップクラッチ及びダンパを有するトルクコンバータ2を介して伝達される入力軸11と、入力軸11と同心に配置された出力ギヤからなる出力部としての出力部材13とを備えている。
【0020】
出力部材13の回転は、出力部材13と噛合するアイドルギヤ21と、アイドルギヤ21を軸支するアイドル軸23と、アイドル軸23に軸支されるファイナルドライブギヤ25と、ファイナルドライブギヤ25に噛合するファイナルドリブンギヤ27を備えるフロントデファレンシャルギヤ4と、を介して車両の左右の駆動輪(前輪WFL,WFR)に伝達される。また、フロントデファレンシャルギヤ4に代えてプロペラシャフトを接続して、後輪駆動車両に適用することもできる。また、フロントデファレンシャルギヤ4にトランスファーを介してプロペラシャフトを接続して、四輪駆動車両に適用することもできる。
【0021】
筐体としての変速機ケース10内には、エンジンE側から順に第1〜第4の4つの遊星歯車機構PG1〜4が入力軸11と同心に配置されている。
【0022】
第1遊星歯車機構PG1は、サンギヤSaと、リングギヤRaと、サンギヤSa及びリングギヤRaに噛合するピニオンPaを自転及び公転自在に軸支するキャリアCaとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0023】
所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構は、キャリアを固定してサンギヤを回転させると、リングギヤがサンギヤと異なる方向に回転するため、マイナス遊星歯車機構又はネガティブ遊星歯車機構ともいう。なお、所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構は、リングギヤを固定してサンギヤを回転させると、キャリアがサンギヤと同一方向に回転する。
【0024】
図3の上から3段目に示す第1遊星歯車機構PG1の共線図を参照して、第1遊星歯車機構PG1の3つの要素Sa,Ca,Raを、共線図におけるギヤ比(リングギヤの歯数/サンギヤの歯数)に対応する間隔での並び順に左側から夫々第7要素、第8要素及び第9要素とすると、第7要素はサンギヤSa、第8要素はキャリアCa、第9要素はリングギヤRaになる。サンギヤSaとキャリアCa間の間隔とキャリアCaとリングギヤRa間の間隔との比は、第1遊星歯車機構PG1のギヤ比をhとして、h:1に設定される。
【0025】
第2遊星歯車機構PG2も、サンギヤSbと、リングギヤRbと、サンギヤSb及びリングギヤRbに噛合するピニオンPbを自転及び公転自在に軸支するキャリアCbとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0026】
図3の上から4段目(最下段)に示す第2遊星歯車機構PG2の共線図を参照して、第2遊星歯車機構PG2の3つの要素Sb,Cb,Rbを、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第10要素、第11要素及び第12要素とすると、第10要素はリングギヤRb、第11要素はキャリアCb、第12要素はサンギヤSbになる。サンギヤSbとキャリアCb間の間隔とキャリアCbとリングギヤRb間の間隔との比は、第2遊星歯車機構PG2のギヤ比をiとして、i:1に設定される。
【0027】
第3遊星歯車機構PG3は、サンギヤScと、リングギヤRcと、サンギヤScとリングギヤRcとに噛合するピニオンPcを自転及び公転自在に軸支するキャリアCcとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成されている。
【0028】
図3の上から2段目に示す第3遊星歯車機構PG3の共線図(サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの要素の相対回転速度の比を直線(速度線)で表すことができる図)を参照して、第3遊星歯車機構PG3の3つの要素Sc,Cc,Rcを、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第1要素、第2要素及び第3要素とすると、第1要素はサンギヤSc、第2要素はキャリアCc、第3要素はリングギヤRcになる。
【0029】
ここで、サンギヤScとキャリアCc間の間隔とキャリアCcとリングギヤRc間の間隔との比は、第3遊星歯車機構PG3のギヤ比をjとして、j:1に設定される。なお、共線図において、下の横線と上の横線(4th及び6thと重なる線)は夫々回転速度が「0」と「1」(入力軸11と同じ回転速度)であることを示している。
【0030】
第4遊星歯車機構PG4も、サンギヤSdと、リングギヤRdと、サンギヤSd及びリングギヤRdに噛合するピニオンPdを自転及び公転自在に軸支するキャリアCdとからなる所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構で構成される。
【0031】
図3の上から1段目(最上段)に示す第4遊星歯車機構PG4の共線図を参照して、第4遊星歯車機構PG4の3つの要素Sd,Cd,Rdを、共線図におけるギヤ比に対応する間隔での並び順に左側から夫々第4要素、第5要素及び第6要素とすると、第4要素はリングギヤRd、第5要素はキャリアCd、第6要素はサンギヤSdになる。サンギヤSdとキャリアCd間の間隔とキャリアCdとリングギヤRd間の間隔との比は、第4遊星歯車機構PG4のギヤ比をkとして、k:1に設定される。
【0032】
第3遊星歯車機構PG3のサンギヤSc(第1要素)は、入力軸11に連結されている。また、第2遊星歯車機構PG2のリングギヤRb(第10要素)は、出力ギヤからなる出力部材13に連結されている。
【0033】
また、第3遊星歯車機構PG3のキャリアCc(第2要素)と第4遊星歯車機構PG4のキャリアCd(第5要素)と第1遊星歯車機構PG1のリングギヤRa(第9要素)とが連結されて、第1連結体Cc−Cd−Raが構成されている。また、第3遊星歯車機構PG3のリングギヤRc(第3要素)と第2遊星歯車機構PG2のサンギヤSb(第12要素)とが連結されて、第2連結体Rc−Sbが構成されている。また、第1遊星歯車機構PG1のキャリアCa(第8要素)と第2遊星歯車機構PG2のキャリアCb(第11要素)とが連結されて、第3連結体Ca−Cbが構成されている。
【0034】
また、本実施形態の多段変速機は、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3と、第1から第3の3つのブレーキB1〜B3と、1つのツーウェイクラッチF1からなる7つの係合機構を備える。
【0035】
第1クラッチC1は、油圧作動型の湿式多板クラッチであり、第3遊星歯車機構PG3のサンギヤSc(第1要素)と第3連結体Ca−Cbとを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0036】
第3クラッチC3は、油圧作動型の湿式多板クラッチであり、第3遊星歯車機構PG3のサンギヤSc(第1要素)と第4遊星歯車機構PG4のリングギヤRd(第4要素)とを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0037】
第2クラッチC2は、油圧作動型の湿式多板クラッチであり、第4遊星歯車機構PG4のサンギヤSd(第6要素)と第2連結体Rc−Sbとを連結する連結状態と、この連結を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
【0038】
ツーウェイクラッチF1は、第4ブレーキB4としての機能を兼ね備えるものであり、第3連結体Ca−Cbの正転(入力軸11の回転方向、及び/又は出力部材13の車両前進時の回転方向と同一方向への回転)を許容し、逆転(正転とは反対の回転方向)を阻止する逆転阻止状態と、第3連結体Ca−Cbを変速機ケース10に固定する固定状態とに切換自在に構成されている。
【0039】
ツーウェイクラッチF1は、逆転阻止状態において、第3連結体Ca−Cbに正転方向に回転しようとする力が加わった場合に、この回転が許容されて開放状態となり、逆転方向に回転しようとする力が加わった場合に、この回転が阻止されて変速機ケース10に固定される固定状態となる。
【0040】
第1ブレーキB1は、油圧作動型の湿式多板ブレーキであり、第1遊星歯車機構PG1のサンギヤSa(第7要素)を変速機ケース10に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0041】
第2ブレーキB2は、油圧作動型の湿式多板ブレーキであり、第4遊星歯車機構PG4のサンギヤSd(第6要素)を変速機ケース10に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。第3ブレーキB3は、油圧作動型の湿式多板ブレーキであり、第4遊星歯車機構PG4のリングギヤRd(第4要素)を変速機ケース10に固定する固定状態と、この固定を解除する開放状態とに切換自在に構成されている。
【0042】
各クラッチC1〜C3及び各ブレーキB1〜B3、ツーウェイクラッチF1は、
図1に示すトランスミッション・コントロール・ユニット(TCU)で構成される変速制御装置ECUにより、図示省略した統合制御ユニットなどから送信される車両の走行速度等の車両情報に基づいて、状態が切り換えられる。
【0043】
変速制御装置ECUは、図示省略したCPUやメモリ等により構成された電子ユニットで構成され、車両Vの走行速度やアクセル開度、エンジンEの回転速度や出力トルク、シフトレバーの操作情報等の所定の車両情報を受信することができると共に、メモリなどの記憶装置に保持された制御プログラムをCPUで実行することにより、多段変速機3(変速機構)を制御する。
【0044】
図3中の破線で示す速度線は、4つの遊星歯車機構PG1〜PG4のうち動力伝達する遊星歯車機構に追従して他の遊星歯車機構の各要素が回転(空回り)することを表している。
【0045】
図4は、各変速段におけるクラッチC1〜C3、ブレーキB1〜B3、ツーウェイクラッチF1の状態を纏めて表示した図であり、第1から第3の3つのクラッチC1〜C3、第1から第3の3つのブレーキB1〜B3の列の「○」は連結状態又は固定状態を示し、空欄は開放状態を示している。また、ツーウェイクラッチF1の列の「R」は逆転阻止状態を示し、「L」は固定状態を示している。
【0046】
また、下線を付した「R」及び「L」はツーウェイクラッチF1の働きで第3連結体Ca−Cbの回転速度が「0」となることを示している。また、「R/L」は、通常時は逆転阻止状態の「R」であるが、エンジンブレーキを効かせる場合には固定状態の「L」に切り換えることを示している。
【0047】
また、
図4には、第1遊星歯車機構PG1のギヤ比hを2.681、第2遊星歯車機構PG2のギヤ比iを1.914、第3遊星歯車機構PG3のギヤ比jを2.734、第4遊星歯車機構PG4のギヤ比kを1.614とした場合における各変速段の変速比(入力軸11の回転速度/出力部材13の回転速度)、及び公比(各変速段間の変速比の比。所定の変速段の変速比を所定の変速段よりも1段高速側の変速段の変速比で割った値。)も示しており、これによれば、公比を適切に設定できることが分かる。
【0048】
本実施形態においては、第1から第4の4つの遊星歯車気候PG1〜PG4、及び各クラッチC1〜C3及び各ブレーキB1〜B3、ツーウェイクラッチF1が変速部に該当する。
【0049】
図5は、本実施形態の変速制御装置ECUの作動を示すフローチャートである。変速制御装置ECUは、
図5の処理を所定の制御周期(例えば、10ms)で繰り返し実行する。本実施形態においては、変速制御装置ECUが本発明の目標トルク制御装置としての機能を兼ね備えている。
図6は、停車中の車両がアクセルペダルとブレーキペダルを両方踏み込んだ状態からブレーキペダルだけ放して全開加速発進をするときの変速制御装置ECUの一作動例を示すタイミングチャートである。
図6の時刻t1はブレーキペダルを放して車両が1速段で発進したときを示している。
【0050】
図6では横軸を時間軸として、縦軸を、エンジンEと入力軸11の回転数、トルク、シフト指令信号及びロックアップクラッチ指令信号、ロックアップクラッチ2aのプレート温度、で夫々示している。
図6の回転数の段の点線は、比較例としてのロックアップクラッチが締結されている場合であって、目標トルク低減制御を実行しない場合の原動機の回転数を示している。
図6の回転数の段の一点鎖線は、ロックアップクラッチが締結されていない場合の原動機の回転数を示している。
図6のトルクの段の点線は比較例としてのロックアップクラッチが締結されている場合であって、目標トルク低減制御を実行しない場合の目標トルク要求値を示している。
図6の最下段のロックアップクラッチのプレート温度の段の一点鎖線は、比較例としてのロックアップクラッチが締結されている場合であって、目標トルク低減制御を実行しない場合のプレート温度を示している。また、ロックアップクラッチ2aのプレート温度は、ロックアップクラッチ2aの動力伝達経路におけるイン側の回転数とアウト側の回転数の差(以下、差回転という)、潤滑油の温度、ロックアップクラッチ2aが締結状態であるか解放状態であるか、などによって変速制御装置ECUが推定している。
【0051】
図5及び
図6を参照して、変速制御装置ECUは、まず、STEP1で、ロックアップクラッチ2aが締結状態とされているか否かを確認する。ロックアップクラッチ2aの許容温度は、ロックアップクラッチ2aの容量、多段変速機の潤滑油の許容温度などに応じて適宜設定される。
【0052】
ロックアップクラッチ2aが締結されている場合には(
図6の時刻t2)、STEP2に進み、1速段から2速段に切り換えるエンジンEの回転数の閾値を高回転側に切り換える。これにより、
図7に示すように、ロックアップクラッチ2aが締結されていない場合には時刻t10で2速段にアップシフトされるが、ロックアップクラッチ2aが締結されている場合には、時刻t10よりもエンジンEの回転数が上昇した後の時刻t11で2速段にアップシフトされる。STEP2の処理が本実施形態の閾値変更制御に該当する。
【0053】
そして、STEP3に進み、アップシフト要求が出されているか否かを確認する。アップシフト要求が出されていない場合には、そのまま今回の処理を終了する。
【0054】
STEP3でアップシフト要求が出されている場合には(
図6の時刻t3)、STEP4に進み、ロックアップクラッチ2aのプレート温度が所定の許容温度を超えないように、アップシフト中であって1速段のクラッチと2速段のクラッチとの両締結状態であるトルク相において原動機の目標トルクを減少させるLC低目標トルク要求を出す。変速制御装置ECUは、LC低目標トルク要求以外に他の目標トルク要求が出ている場合には、より低いほうの目標トルク要求を変速機側の目標トルク要求として原動機に要求する。なお、LC低目標トルク要求では、目標トルクが急激に低下しないように現在の目標トルクからLC低目標トルクまで徐々に減算処理して急激なトルク変化によるショックを和らげるように処理することが望ましい。また、LC低目標トルクは、変速モード、現在の目標トルク、多段変速機の入力軸回転数に応じて適宜設定される。
【0055】
そして、STEP5で、変速中におけるトルク相から1速段のクラッチが解放され2速段のクラッチが締結され且つ原動機の回転数が2速段相当の回転数を上回った状態であるイナーシャ相に移行したか否かを確認する。イナーシャ相に移行していない場合には、STEP5の処理を繰り返す。STEP5でイナーシャ相に移行している場合には(
図6の時刻t5)、STEP6に進み、STEP4で実行されたLC低目標トルク要求を終了させて今回の処理を終了する。なお、イナーシャ相においては、原動機の回転数を2速段相当の回転数まで迅速に下げるべく、目標トルクを大きく下げることが迅速に変速を完了させるためには好ましい。このように、STEP4の目標トルク低減制御は、アップシフトの変速中におけるトルク相で実行し、イナーシャ相では実行しないように制御することにより、イナーシャ相でエンジンEの回転数を迅速にアップシフト後の変速段相当の回転数(1−2速アップシフトであれば2速段の回転数)まで落とすことができる。
【0056】
STEP1でロックアップクラッチ2aが解放状態である場合には、STEP7に分岐し、1速段から2速段に切り換える原動機の回転数の閾値が高回転側に切り換えられている場合には、1速段から2速段に切り換える原動機の回転数の閾値を通常の回転数の閾値に戻して、今回の処理を終了する。
【0057】
本実施形態の制御装置によれば、ロックアップクラッチ2aが締結状態であるときに、アップシフトが要求された場合には、原動機の目標トルクの低減を要求する。これにより、ロックアップクラッチ2aが締結状態とされても原動機の目標トルクが高すぎることによってロックアップクラッチ2aが許容温度を超えて発熱することを防止することができる。また、ロックアップクラッチ2aを解放状態に切り換えることなく、ロックアップクラッチ2aのプレート温度を許容温度内に収めることができるため、例えば、全開加速発進を行う場合などにおいて、加速性能の悪化を防止することができる。
【0058】
また、要求トルクの低減はトルクが変化する変速中に行われるため、要求トルクの低減に伴う運転者に与えるトルク変化の違和感を低減させることができる。
【0059】
また、本実施形態においては、目標トルク低減制御は、ロックアップクラッチ2aを締結させたときにロックアップクラッチ2aが許容温度を超えることが想定される場合に実行される(
図5のSTEP1)。これにより、ロックアップクラッチ2aが許容温度を超えるか否かを判定して、目標トルク低減制御を実行させることができるため、ロックアップクラッチ2aが締結されている場合に一律に目標トルク低減制御を実行する場合(
図5のSTEP1で許容温度を超えるか否かを判定条件としない場合)と比較して、加速性能の更なる向上を図ることができる。
【0060】
また、
図8に比較例として示すように、
図5のSTEP2のアップシフトのときのエンジンEの回転数の閾値の変更を行わない場合、アップシフトが完了するまでの領域でのエンジンEの最大回転数がロックアップクラッチ2aを締結させない場合と比較して大きく低下してしまうことが分かった。
【0061】
このため、
図7に示すように、本実施形態の制御装置では、ロックアップクラッチ2aが締結状態である場合には、
図5のSTEP2で説明したように、アップシフトする際のエンジンEの回転数の閾値を高回転側に切り換えている(この結果、アップシフトの開始時が
図7の時刻t10から時刻t11に切り替わる。)。これにより、
図5のSTEP4の原動機への目標トルク低減要求を行っても、アップシフト中における最大回転数を適切に維持させることができるとともに、ロックアップクラッチ2aを解放した状態で2速段にアップシフトする場合と比較して、アップシフトが完了するまでの領域でのエンジンEの最大回転数の大幅な低下を抑制させることができる。
【0062】
なお、本実施形態においては、
図5のSTEP2で、アップシフトするタイミングの条件としてエンジンEの回転数を閾値として判断するものを説明した。しかしながら、本発明の変速制御装置の他の実施形態としては、アップシフトするタイミングの条件として多段変速機3の入力軸11の回転数を閾値として判断するものであってもよい。このとき、低摩擦路面や積載重量が低い場合(例えば1名乗車)などの理由により入力軸11の回転数の上昇率が所定値よりも大きい場合には、車両の加速度に基づいて入力軸11の回転数を低回転側に補正することが好ましい。これにより、アップシフトを適切なタイミングで行うことができる。
【0063】
当該他の実施形態においては、
図5のSTEP2に相当する状態で、ロックアップクラッチ2aが締結されている場合に、1速段から2速段に切り換える入力軸11の回転数の閾値を高回転側に切り換える。これにより、
図9に示すように、ロックアップクラッチ2aが締結されていない場合には通常時の入力軸11の回転数を閾値として時刻t20で2速段にアップシフトされるが、ロックアップクラッチ2aが締結されている場合には、通常時の時刻t20よりも入力軸11の回転数が上昇した後の高回転側の閾値に達した時刻t21で2速段にアップシフトされる。
【0064】
当該他の実施形態のSTEP2に相当する処理も本発明の閾値変更制御に該当する。また、閾値変更制御の切り換え条件としては、入力軸の回転数とエンジンEの回転数との何れにも閾値を設定して、エンジンEと入力軸11の何れか早く閾値に到達した方を基準として切り換えるように制御してもよい。
【0065】
また、上述した両実施形態においては、ロックアップクラッチ2aが完全に締結されておらず、ロックアップクラッチ2aのエンジンEのクランクシャフト側の回転速度と、入力軸11側の回転速度との間に回転速度の差(以下、差回転という)がある状態で説明しているが、ロックアップクラッチ2aが完全に締結されて、ロックアップクラッチ2aのクランクシャフト側と入力軸11側とで回転速度が完全に同期して差回転が存在しなくなった場合には、エンジンEの回転数と入力軸11の回転数は同一となり、エンジンEの回転数を基準とするか入力軸の回転数を基準とするかについて実質的な違いはなくなる。
【0066】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0067】
また、本実施形態においては、遊星歯車機構で構成された多段変速機を用いて説明したが、本発明は、トルクコンバータとロックアップクラッチとを備える多段変速機であれば、遊星歯車機構の変速機に限らず、他の多段変速機であってもよい。
【0068】
また、本実施形態においては、1速段から2速段への全開加速時のアップシフトを例に説明したが、本発明のアップシフトはこれに限らず、例えば、2速段から3速段または3速段から4速段へのアップシフトであっても同様に本発明を適用することができる。