(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791965
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】湿式ジェット粉砕技術による層状物質の剥離
(51)【国際特許分類】
B02C 19/06 20060101AFI20201116BHJP
B02C 23/10 20060101ALI20201116BHJP
B02C 23/22 20060101ALI20201116BHJP
C09C 1/46 20060101ALI20201116BHJP
C09C 3/04 20060101ALI20201116BHJP
C01B 32/192 20170101ALI20201116BHJP
【FI】
B02C19/06 A
B02C23/10
B02C23/22
C09C1/46
C09C3/04
C01B32/192
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-527184(P2018-527184)
(86)(22)【出願日】2016年11月24日
(65)【公表番号】特表2019-502536(P2019-502536A)
(43)【公表日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】IB2016057108
(87)【国際公開番号】WO2017089987
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2018年7月19日
(31)【優先権主張番号】102015000077259
(32)【優先日】2015年11月26日
(33)【優先権主張国】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【弁理士】
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】アントニオ・エザウ・デル・リオ・カスティッロ
(72)【発明者】
【氏名】アルベルト・アンサルド
(72)【発明者】
【氏名】ヴィットリオ・ペッレグリーニ
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ・ボナッコルソ
【審査官】
若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−160795(JP,A)
【文献】
特開2014−009151(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0054995(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0096735(US,A1)
【文献】
Shuaishuai Liang, et al.,Effects of Processing Parameters on Massive Production of Graphene by Jet Cavitation,Journal of Nanoscience and Nanotechnology,2015年 4月,Vo.15 No.4,p.2686-2694 全11頁
【文献】
Yuichi Tominaga et al.,Wet-jet milling-assisted exfoliation of h-BN particles with lamination structure,Ceramics International,2015年 4月,vol.41,p.10512-10519
【文献】
Min Yi. et al.,A fluid dynamics route for producing graphene and its analogues,Chinese Science Bulletin,2014年,Vol.59(16),p.1794-1796
【文献】
Zhigang Shen. et al.,Preparation of graphene by jet cavitation,Nanotechnology,2011年,Vol.22,p.365306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B02C 19/06
B02C 23/10
B02C 23/22
C09C 1/46
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状物質を剥離するためのシステムであって、
前記システムは、
少なくとも1つの衝突セクションに向かって搬送される1つまたは複数の線形ジェットを生成する分散物を案内するように適合された複数の流体経路を含む湿式ジェット粉砕装置(10)を含み、層状前駆体物質の分散物の大きな塊りに作用する剥離ステーション(14〜22)であって、分散物における層状前駆体物質の自由な移動およびジェット間の衝突が層状前駆体物質の剥離を引き起こす、剥離ステーション(14〜22)と、
前記剥離ステーション(14〜22)の下流に配置され、少なくとも部分的に剥離された物質の分散物の大きな塊りに作用する収集ステーション(30,40)を組み合わせて備え、
前記剥離ステーション(14〜22)と前記収集ステーション(30,40)は、流体調節手段(50)を挟む流体連通経路(20)を介して互いに接続され、
前記流体調節手段(50)は、前記剥離ステーション(14〜22)と前記収集ステーション(30,40)との間の前記連通経路(20)が閉鎖される第1動作構成をとるように適合され、前記剥離ステーション(14〜22)は、層状前駆体物質の分散物の大きな塊りを所定数の湿式ジェット粉砕サイクルに曝すように適合され、前記収集ステーション(30,40)は、粉砕に予め曝され少なくとも部分的に剥離された物質を含む分散物の大きな塊りから剥離された物質の量を抽出するように適合され、前記剥離ステーション(14〜22)と前記収集ステーション(30,40)との間の前記連通経路(20)が連続的である第2の動作構成をとるように適合され、前記剥離ステーション(14〜22)は、粉砕に予め曝され少なくとも部分的に剥離された物質を含む分散物の大きな塊りを前記収集ステーション(30,40)に向かって搬送するように適合され、前記剥離ステーションは、層状前駆体物質の分散物のさらなる大きな塊りが供給されるように、供給チャンバ(12)に接続されて配置されるシステム。
【請求項2】
前記収集ステーションは、遠心分離手段のような沈殿手段を含む、分散相から剥離された物質を分離するための手段(30)を備える請求項1のシステム。
【請求項3】
前記湿式ジェット粉砕装置(10)は、
供給ダクト(16)を介して前記供給チャンバ(12)に接続され、粉砕手段(18)に向かう第1の圧縮セクションを有するダクト内に前記供給チャンバ(12)から層状前駆体物質の分散物の所定の大きな塊りを注入するように配置された圧縮手段(14)と、
前記圧縮手段(14)の下流に配置され、前記圧縮手段(14)によって注入された分散物を前記第1の圧縮セクションの断面積より小さい断面積のダクトに案内するように適合された複数の流体経路を含み、これにより、少なくとも1つの衝突セクションに向かって搬送される1つまたは複数の線形ジェットを生成し、前記分散物中の前記層状前駆体物質の自由な移動およびジェット間の衝突が、前記層状前駆体物質の剥離を引き起こす粉砕手段(18)と、を備える請求項1または2のシステム。
【請求項4】
前記流体調節手段(50)は、供給/排出段階において第1の構成をとるように適合された4方向分配弁を備え、前記供給チャンバ(12)からの前記供給ダクト(16)は、前記粉砕装置(10)の前記圧縮手段(14)に接続され、前記粉砕手段(18)から出ている排出ダクト(20)は、再循環構成で前記圧縮手段(14)に接続され、前記収集ステーション(30,40)に向かう流体連通は閉鎖される第2の構成をとる請求項3のシステム。
【請求項5】
前記供給チャンバ(12)は、前記層状前駆体物質に基づいて選択された所定の分散物相中に層状前駆体物質の分散物を含有するように適合されている請求項1ないし4のうちいずれか1項のシステム。
【請求項6】
前記分散物相は、剥離されなければならない前記層状前駆体物質の表面エネルギに近い表面張力を有する請求項5のシステム。
【請求項7】
前記分散相は、ハンセン空間における前記層状前駆体物質のハンセン溶解度パラメータに近いハンセン溶解度パラメータを有する請求項5のシステム。
【請求項8】
前記分散相のハンセン溶解度パラメータと前記層状前駆体物質のハンセン溶解度パラメータの近接が以下の関係によって表され、
r2=(∂DSolvent−∂DMaterial)2+(∂PSolvent−∂PMaterial)2+
+(∂HSolvent−∂HMaterial)2
ここで、∂pは分子間の分子間双極子力からのエネルギ、
∂Dは分子間の分散力からのエネルギ、
∂Hは分子間の水素結合からのエネルギ、または電子交換パラメータ、
rは0〜15MPa1/2である、
請求項7のシステム。
【請求項9】
層状物質の剥離のための方法であって、
前記方法は、
層状前駆体物質の分散物を提供するステップと、
剥離ステーション(14〜22)において、層状前駆体物質の前記分散物の大きな塊りを、所定数の湿式ジェット粉砕サイクルに反復的に曝すステップであって、湿式ジェット粉砕サイクルは、分散物を案内し1つまたは複数の線形ジェットを生成するように適合された複数の流体経路に、層状前駆体物質の分散物の所定の大きな塊りの注入を含み、分散物における層状前駆体物質の自由な移動およびジェット間の衝突が層状前駆体物質の剥離を引き起こす、ステップと、
引き続いて、粉砕に予め曝され、少なくとも部分的に剥離された物質を含む分散物を、取集ステーション(30,40)に搬送するステップと、
前記収集ステーション(30,40)で搬送された分散物の大きな塊りから剥離された物質を抽出するステップと、を含み、
前記剥離ステーション(14〜22)と前記収集ステーション(30,40)との間の流体連通は、その間に層状前駆体物質の分散物の大きな塊りが前記剥離ステーション(14〜22)で所定の数湿式ジェット粉砕サイクルに曝され、剥離された物質の量が前記収集ステーション(30,40)で粉砕に予め曝され少なくとも部分的に剥離された物質を含む分散物の大きな塊りから抽出される、前記連通を閉鎖する第1の動作段階と、粉砕に予め曝され少なくとも部分的に剥離された物質を含む分散物の大きな塊りが剥離ステーション(14〜22)から収集ステーション(30,40)に向かって搬送され、層状前駆体物質の分散物のさらなる大きな塊りが剥離ステーション(14〜22)に供給される、第2の動作段階との間で交互に調節される方法。
【請求項10】
前記方法は、遠心分離による沈殿によって分散相から剥離された物質を分離するステップをさらに含む請求項9の方法。
【請求項11】
前記層状前駆体物質の分散物は、剥離されなければならない前記層状前駆体物質の表面エネルギに近い表面張力を有する、所定の分散相で得られる請求項9ないし10のうちいずれか1項の方法。
【請求項12】
前記層状前駆体物質の分散物は、ハンセン空間における前記層状前駆体物質のハンセン溶解度パラメータに近いハンセン溶解度パラメータを有する、所定の分散相で得られる請求項9ないし10のうちいずれか1項の方法。
【請求項13】
前記分散相のハンセン溶解度パラメータと前記層状前駆体物質のハンセン溶解度パラメータの近接が以下の関係によって表され、
r2=(∂DSolvent−∂DMaterial)2+(∂PSolvent−∂PMaterial)2+
+(∂HSolvent−∂HMaterial)2
ここで、∂pは分子間の分子間双極子力からのエネルギ、
∂Dは分子間の分散力からのエネルギ、
∂Hは分子間の水素結合からのエネルギ、または電子交換パラメータ、
rは0〜15MPa1/2である、
請求項12の方法。
【請求項14】
前記前駆体物質はグラファイトであり、前記分散相はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アルコール、非イオン性およびアニオン性界面活性剤を加えた水、アルコールと水との混合物のうちの1つである請求項11ないし13のうちいずれか1項の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状物質を剥離する方法、より具体的には液体動的手段、特に液体ジェット微粉化技術、より一般的には湿式ジェット粉砕技術によって層状物質を剥離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に、本発明は、層状物質を剥離するためのシステム、および層状物質を剥離するための方法に関する。
【0003】
例えば、グラファイト、窒化ホウ素、二硫化タングステン(IV)、二セレン化タングステン(IV)、二硫化モリブデン、テルル化ビスマス、および黒リンのような層状結晶習性を有する物質の剥離は、基礎研究と応用研究の両方において、および二次元物質の製造の技術分野に関連する工業生産において、困難な手順である。
【0004】
層状物質の機械的剥離は、高品質の二次元フレークを得るための1つの広く使用される技術である。しかしながら、機械的剥離は大量生産、したがって産業用途には不適当である。
【0005】
高収率が要求される工業的用途において、既知の液相剥離技術は、生成された物質の質および量に関して要求を満たすことができる。
【0006】
最も広く使用されている液相剥離のプロセスは、超音波処理であり、これは層状結晶物質を音波、特に、層状物質が液相(一般に溶媒)中に分散されている収集容器中を伝搬する超音波に曝露することを含む。液相の選択は、層状物質自体の特性によって決定され、特に、液相の表面張力は、分散された層状物質の表面エネルギに匹敵しなければならない。超音波は、形成された泡が層状物質の質量(およびそれらから得られる可能性のあるフレーク)内に分布するキャビテーション効果を生じさせ、それらが爆発するときに物質の表面で突然作用する液体および衝撃波のマイクロジェットを生成し、物質の層の平面に垂直な方向に沿って圧縮応力を引き起こし、界面に引っ張り応力を生じさせ、物質のシ−トを所望に分離させる。
【0007】
超音波処理による液相剥離は、単層、二重層または多層のフレークおよび大量の未剥離層状物質の不均一混合物を生成する。不都合なことに、超音波処理は激しいプロセスであるため、局所的な高温(数千度Kのオーダ)、極端な圧力(数千気圧)および急激な局所的な加熱/冷却勾配が生じ、物質の劣化を引き起こす。特に、生成されたフレークの破壊を生じ、その結果、この技術は、例えば、数百マイクロメートルといった大きな表面寸法を有するフレークを製造するのには不適当である。
【0008】
超音波処理による剥離プロセスにおいて、出発物質と最終生成物との間の質量による収率は10%よりずっと低いことが実験的に確立されている。これに加えて、超音波処理のプロセスは、処理された物質が高い局所加熱に曝されるので、数分から数百時間の非常に長い時間と温度の連続的な制御を必要とする。
【0009】
超音波処理の別の欠点は、酸化しがちであり、したがって、製造/プロセスのための制御された雰囲気を必要とする物質のフレ−クを製造するという不適当性にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】"A fluid dynamics route for producing graphene and its analogues", by Min Yi, Zhigang Shen and Jinyang Zhu, which appeared in Chinese Science Bulletin 59(16) 2014, pages 1794-1796
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
超音波技術の欠点を克服するために、特に大量のグラファイトの剥離のための流体動的タイプの液相剥離技術が最近検討されている。
【0012】
流体動的剥離技術では、層状前駆体物質の
大きな塊りは、一般に溶媒と呼ばれる分散液相に自由に浸漬され、液相の流れによって及ぼされる流体動的力の効果によって異なる位置および配向で繰り返し剥離される。これらの技術は、超音波処理技術と本質的に異なり、特にグラファイトから出発するグラフェンフレークの製造のための、工業規模での層状物質の二次元フレ−クの製造のために潜在的に効率的である。
【0013】
一般に、既知の流体動的粉砕技術は層状物質の効果的な剥離を達成せず、工業的規模での製造に適しているが、高品質のナノメ−トルサイズの二次元構造の製造のための超音波処理の有効な代替プロセスであるとは見なされない(すなわち、単一層の原子または数個の原子の層を有するフレークである)。これらの技術は、例えばインクの配合のためのグラフェンフレークのような、特定の技術的用途に必要な材料を得るために使用することはできない。
【0014】
流体動的剥離技術の中で、湿式ジェット粉砕技術、または液体ジェットによる微粉化は、バルク(ナノ)物質のコロイド均質化またはそれらを粉末にするために広く使用され、粉砕または分散プロセスにおいて工業的に首尾よく使用される。
【0015】
高圧液体ジェット粉砕装置の例は、市販されており、“Nanomaker”(Advanced Nanotechnology Co.,Ltd製)、“Nanomizer”(Nanomizer Inc.製)、“Nanomizer”(吉田機械興業株式会社製)、“Nano Jet Pal”(株式会社常光製)等が挙げられる。
【0016】
非特許文献1の論文には、グラファイト、窒化ホウ素、二硫化モリブデンおよび二硫化タングステンのような層状物質の
大きな塊りが単一の単原子層またはまだ二次元であるが原子の数層を含む構造に剥離されるグラフェンおよび同様の二次元物質の大規模生産を可能にするための流体動的技術が記載されている。
【0017】
多数の流体動的現象が、層状物質の平面に垂直な力を発生させるキャビテーション、分散相の粘度によって誘発されるせん断力を含み、層状物質の平面と同一平面上の力を生じる剥離を引き起こす、および流体ジェットの相互作用によって引き起こされる乱流を引き起こし、層状物質の平面に平行に作用する横方向の力を生じさせる。
【0018】
湿式ジェット粉砕技術によるグラファイトの剥離は、開サイクルで行われ、フレーク中の欠陥の低減、および10%程度の比較的低い収率の増加に最適化されていない。
【0019】
本発明の目的は、公知の技術の欠点を克服し、単一原子の限界までの、および大きな横寸法(マイクロメートルオーダの)および/または表面寸法(数十マイクロメ−トル)である、最小厚さのフレークを得ることを可能にする層状物質を剥離する方法を提供することである。
【0020】
特に、本発明の1つの目的は、物質を剥離することに関与する流体動的現象を制御することにより、特に公知の技術で製造された二次元フレークの横方向の寸法を減少させる望ましくないキャビテーションプロセスを引き起こす液相の乱れを低減することによって、湿式ジェット粉砕技術を最適化することである。
【0021】
本発明の別の目的は、フレークの側方および/または表面の寸法の制御により、工業的要求に対して大規模に物質の二次元フレークを製造することを可能にするように適合された、最適化された流体動的剥離プロセスを実施するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、これらの目的は、請求項1に記載の特徴を有する剥離システムによって達成される。
【0023】
本発明のさらなる主題は、特許請求の範囲に記載の剥離方法である。
【0024】
特定の実施形態は、対応する従属請求項の主題であり、その内容はこの説明の不可欠な部分を構成するものと理解されるべきである。
【0025】
要約すると、本発明は、液体ジェット微粉化技術(湿式ジェット粉砕)を所定の分散相中の層状物質の混合物に適用し、制御された剥離および二次元フレークの所望の横方向寸法を達成するために、分散相の物理化学的パラメータおよび混合物の流体動的パラメータを制御する、液体動的手段により、例えば、グラフェン、窒化ホウ素、ホスホレン(黒リンの単原子層)、遷移金属ジ−およびトリ−カルコゲナイド(その中でも例えば、タングステン(IV)ジスルフィド、二セレン化タングステン(IV)、二硫化モリブデン、テルル化ビスマス)のような二次元物質の製造のための層状物質の剥離を引き起こす原理に基づいている。
【0026】
他の剥離技術とは対照的に、液体ジェット微細化技術は、層状物質からの二次元フレークの連続サイクル製造に適合していることが判明しており、大量のフレーク物質の剥離に適用することができ、このような物質の処理を工業レベルで拡張するための極めて有用な技術を表す。
【0027】
剥離プロセスの間に、液体媒体から処理される層状物質にエネルギを効果的に移動させて剥離させることができ、同時に基底面における破砕を最小化することが不可欠である。必要な剥離力を発生させるために液体ジェット微粉化技術(湿式ジェット粉砕)を使用することにより、前駆体物質の
大きな塊り(数百マイクロメートルのオーダの寸法)からナノメートル寸法の二次元フレークを剥離し、物理的化学的性質および(光学的)電子的性質を損なうことなく、分散相に分散させることが可能になる。
【0028】
本発明に係る剥離方法は、前駆体層状物質と適切な分散物流体相との混合物(分散液)を調製する第1のステップと、分散物流体相の圧縮により混合物中に流体動的力を発生することができる粉砕装置内のジェット粉砕の1回または複数回のサイクルに曝露することによって、前述の物質を剥離するその後のステップとを含む。最後に、剥離された物質は、可能な遠心分離、および、例えば、横方向の寸法に基づいてフレークを選択することを可能にする沈殿によって、分散物相から分離することを含む精製ステップを受ける。
【0029】
粉砕サイクルの回数、すなわち分散物相中の前駆物質の混合物が粉砕装置を通過する回数は、まず、処理すべき層状物質の性質および量、すなわち、分散物相におけるその濃度、および分散物相自体に基づいて決定される。
【0030】
有利なことに、本発明に係る方法は、剥離ステーションと、剥離ステーションの下流にある収集ステーションとを含む連続サイクル処理/製造ラインにおいて、完全に自動化することができ、それぞれ前駆体物質の分散物および(少なくとも部分的に)剥離された物質の分散物からなり、流体連通のための経路によって一緒に接続された、異なる
大きな塊りの分散物上で並行して動作する。ステーション間の連通経路が閉鎖されている処理動作構成では、剥離ステーションは前駆体物質の対応する分散物に連続的なサイクルで湿式ジェット粉砕のプロセスを行い、並行して収集ステーションは(少なくとも部分的に)剥離された物質の対応する分散物を可能な遠心分離にかけ、沈殿により分散物相から分離するのが好都合である。ステーション間の連通経路が開放されている物質の供給/排出のための構成では、剥離ステーションには供給容器からの新しい前駆体物質が供給され、先に粉砕された量の分散物を収集ステーションに平行して送る。
【0031】
さらに有利なことに、本発明に係る方法および装置は、外気への曝露がそれらの物理化学的特性を損なう可能性がある制御された雰囲気を必要とする物質を処理するのに適していることが判明している。
【0032】
それが破壊されることなく、弱いファンデルワ−ルス力を破壊するのに十分な剥離力が前駆体物質の層間に確立されるが、各層内に確立された共有結合を破壊するには不十分であるため、分散物相(密度、粘度)および分散相の濃度、ならびに粉砕装置の構造および剥離に関与する流体動的力を発生させるために使用する圧縮パラメータの選択により、層状物質の制御された剥離が達成される。
【0033】
剥離プロセスおよび分散プロセスに使用される分散物相の選択は、剥離されなければならない層状物質の物理化学的特性によって決定される。特に、分散物相の表面張力またはハンセン溶解度パラメータは、剥離される物質に特有の対応するパラメータに近くなければならない。
【0034】
本発明のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して非限定的な例として提供される実施形態の以下の詳細な説明において、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明に係る方法を実施するために使用される粉砕装置の概略図である。
【
図2A】連続サイクル製造ラインで使用されるように構成された剥離装置の概略図であり、この方法における2つの異なるステップを示す。
【
図2B】連続サイクル製造ラインで使用されるように構成された剥離装置の概略図であり、この方法における2つの異なるステップを示す。
【
図3】本発明に係る方法によって得られた剥離されたフレークの電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図4】グラファイトのラマンスペクトルと、超音波処理を用いて得られたグラフェンインクと、本発明に係る方法によって得られたグラフェンインクとの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1は、所定の分散物相の層状物質の混合物を収容する供給チャンバ12と、供給ダクト16を介して供給チャンバ12に接続された圧縮手段14と、圧縮手段の下流に配置され、排出ダクト20を介して供給チャンバ12に接続された下流に位置する粉砕手段18とを含む湿式ジェット粉砕装置10を図式的に示す。圧縮手段は排出ダクト20を介して供給チャンバ12に接続されてリサイクル経路を形成する粉砕手段18とを備え、圧縮手段は、第1の圧縮セクションを有するダクト内の供給チャンバから引き出された混合物の所定の
大きな塊りを粉砕手段に向けて圧縮するように配置されている。熱交換器22は、有利には、粉砕手段自体の下流の分散物の温度を制御するためにダクト20上に存在してもよい。
【0037】
粉砕手段は、圧縮手段によって高圧で注入された混合物を第1の圧縮セクションに対してより小さな断面のダクト内に案内するように適合された複数の流体経路を備え、少なくとも1つの衝突セクションに向かって搬送される1つまたは複数の線形ジェットを生じさせ、ここで、流体中の層状物質の移動および流体ジェット間の衝突が物質の剥離を引き起こす。
【0038】
図2Aおよび
図2Bは、
図1を参照して図示および説明したタイプの湿式ジェット粉砕装置を含む本発明に係る剥離装置の詳細を示しており、
図1に示されたものと同一または機能的に等価な要素または構成要素が、その図の説明で既に使用されているのと同じ参照番号を使用して示されている。
【0039】
図1の簡略化された図とは異なり、湿式ジェット粉砕装置は、連続サイクル剥離装置に組み込まれ、処理された物質を分散物相から分離するための粉砕装置の下流にある分離チャンバ30と、処理された物質のための収集チャンバ40とを含む。
【0040】
粉砕装置の供給ダクト16および排出ダクト20は、2つの所定の構成、第1の開回路構成および第2の閉回路構成それぞれのうちの1つを採用するように適合された4方向分配弁50などの共通の流量調整手段を有する。
【0041】
物質の供給/排出ステップの間に採用される第1の開回路構成では、供給チャンバ12から出ている供給ダクト16は分配弁50を介して粉砕装置の圧縮手段14に接続されている。同時に、粉砕手段18から出ている排出ダクト20は分配弁50を介して分離手段30に接続されており、好ましい実施例では遠心分離手段のような精製手段および沈殿手段であり、このようにして分散物相から剥離された物質を分離する。
【0042】
圧縮手段14を作動させることにより、サイクルの終わりに処理された物質を含有する分散物を粉砕装置から分離手段30にポンプで送ることができ、同時に、供給チャンバ12から引き出すことによって、さらなるサイクルで、処理を必要とするさらなる物質を含む分散物を粉砕手段に供給することができる。
【0043】
物質を処理するステップの間に採用される第2の閉回路構成では、粉砕手段18から出ている排出ダクト20は、分離手段30への経路が順番に中断されたリサイクル構成において分配弁50を介して圧縮手段14に接続され、同じ
大きな塊りの分散物に対して所定の数の連続した剥離サイクルを行うことができる。
【0044】
物質が処理された後、すなわち、物質の剥離の満足できる所定の条件が達成されたとき、または所定数のサイクルが実行されたとき、分配弁50は、物質の供給/排出のステップにおいて採用された第1の開回路構成に再び切り換えられ、上述した一連のステップが繰り返される。
【0045】
好ましくは、供給チャンバ12から圧縮手段14へ、および粉砕手段18から分離手段30への経路に沿って配置された逆止弁55もまた、図面に示されている。
【0046】
当然のことながら、当業者には明らかなように、本発明の範囲内に含まれる実施形態は、上述した4方向分配弁以外の弁システム、例えば、適切な方法で同期制御されるいくつかのTバルブのアセンブリを含むことができる。
【0047】
本発明に係る方法を実施する際に、所定の分散物相中の層状物質の混合物または分散物を、重量に対する所定の濃度比、好ましくは1〜5%で調製する。
【0048】
より具体的には、典型的には10〜5000μm、好ましくは100μm〜5000μmの側面を有する、剥離される必要がある層状物質の1つまたは複数の容積ブロックは、分散物(または適切にはコロイド懸濁液)中に配置され、分散物相は、層状物質の物理化学的性質に基づいて予め決定される。分散物相は、製造される二次元物質のレオロジ特性を適切に調整するために多種多様な液相から選択することができる。
【0049】
分散物相(または分散物相混合物)の選択は、分散物相(または分散物相混合物)の表面張力が、剥離されなければならない層状物質の表面エネル
ギに近くなるようなものであり、好ましくは、物質の表面エネルギより小さい30mN/m(または30mJ/m
2)未満である。安定な分散物は、混合物の遊離ギブスエネルギΔG
mixが負またはゼロであることを必要とする。
【0050】
ΔG
mix=ΔH
mix−TΔS
mix
【0051】
ここで、ΔH
mixは混合物のエンタルピー、Tは温度、ΔS
mixは混合プロセス中のエントロピーの変化である。
【0052】
例えば、グラフェン/N−メチル−2−ピロリドン混合物の場合、単位表面積ΔS
mix当たりのエントロピーの変化は、0.1mJm
−2K
−1のオーダの小さな値を有する。したがって、分散物相または分散物相混合物中のグラフェンフレークの分散および安定化には、ΔH
mixの値も小さくなければならない。
【0053】
これに加えて、グラフェンおよび分散物相の表面エネルギの値は、互いに非常に接近していなければならない。分散物相の表面張力γを、分散物相S
surの表面エントロピーを有する材料E
surの表面エネルギに変換する関係は、以下の通りである。
【0055】
ここで、S
surは一般に0.07〜0.14mJm
−2K
−1の値を有し、0.1mJm
−2K
−1の普遍的な値が一般に受け入れられて使用されている。
【0056】
再びグラフェンの例を考慮すると、文献に報告されているその推定表面エネルギの値は、周囲温度で、分散物相S
surの表面エントロピーに上記の値を使用した結果、70〜90mJm
−2の範囲内にあり、理想的な分散物相は40〜50mNm
−1の表面張力値γを有すべきである。本発明の実施に有用な分散物相または分散物相混合物は、この値を満たさなければならない。この範囲の+/−20%、またはさらにより好ましくはこの範囲の±10%の表面張力を有する分散物相または分散物相混合物は、グラファイトのグラフェンへの剥離のために有効に使用され得る。
【0057】
E
surおよびS
surの適切な値に関して、分散物相または分散物相混合物中の流体動的手段によって剥離されなければならない全ての層状物質にも同様の考察が適用される。
【0058】
分散物相または分散物相混合物は、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)に基づいて選択することもできる。
【0059】
ハンセン溶解度パラメータは、(a)分子間の双極子分子間力から導き出されるエネルギ(∂
p)、(b)分子間の分散力から導き出されるエネルギ(∂
D)、および(c)分子間の水素結合または電子交換パラメータに由来するエネルギ(∂
H)をそれぞれ記述する3つの独立した相互作用パラメータに液体の総凝集エネルギを細分する。
【0060】
したがって、分散物相または分散物相混合物の選択は、分散物相のためのハンセン溶解度パラメータと、剥離されなければならない材料のハンセン溶解度パラメータとの間の整合によって決定される。特に、材料を分散させるための理想的な分散物相または分散物相混合物は、物質のハンセン座標に最も近いハンセン空間(分散物相に対するハンセン座標)内にハンセン溶解度パラメータを有する分散物相または分散物相混合物である。その結果、分散物相または分散物相混合物のハンセン座標と物質のハンセン座標との間のハンセン距離が小さいほど、分散物相と層状物質との間の相互作用が大きくなる。
【0061】
この関係は、次の式で表すことができる。
【0062】
r
2=(∂
DSolvent−∂
DMaterial)
2+(∂
PSolvent−∂
PMaterial)
2+
+(∂
HSolvent−∂
HMaterial)
2
【0063】
ここで、分散物相と物質との間の最適な相互作用を得るために、rは0〜20MPa
1/2の範囲、好ましくは0〜10MPa
1/2の範囲内、好ましくは0〜5MPa
1/2の範囲内にあるべきである。
【0064】
例えば、グラファイトをグラフェンに剥離させるために使用される分散物相の表面張力は、22.5〜67.5mN/m、好ましくは27〜63mN/m、さらに好ましくは36〜54mN/m、有利には40.5〜49.5mN/m、より具体的には約45mN/m、または全く同等の方法で、分散物相のハンセン溶解度パラメータ∂
p、∂
D、∂
Hが、それぞれ、9〜27MPa
1/2、5〜15MPa
1/2、3.5〜10.5MPa
1/2、好ましくは、それぞれ、12.6〜23.4MPa
1/2、7〜13MPa
1/2、4.9〜9.1MPa
1/2、さらにより好ましくは、それぞれ、14.4〜21.6MPa
1/2、8〜12MPa
1/2、5.6〜8.4MPa
1/2、有利には、それぞれ、16.2〜19.8MPa
1/2、9〜11MPa
1/2、6.3〜7.7MPa
1/2、より具体的には、それぞれ、約∂
p=18MPa
1/2、∂
D=10MPa
1/2、および∂
H=7MPa
1/2である。
【0066】
例えば、二硫化モリブデン(MoS
2)の場合、三次元結晶を薄いフレ−クに剥離するために使用される分散物相の表面張力は、12.5〜67.5mN/m、好ましくは15〜63mN/m、より好ましくは20〜54mN/m、有利には22.5〜49.5mN/m、さらにより有利には25〜45mN/m、または分散物相のハンセン溶解度パラメータ∂
p、∂
D、∂
Hが、それぞれ、8.5〜28.5MPa
1/2、3〜18MPa
1/2、2.2〜12.7MPa
1/2、好ましくは、それぞれ、11.9〜24.7MPa
1/2、4.2〜15.6MPa
1/2、3.1〜11MPa
1/2、さらにより好ましくは、それぞれ、13.6〜22.8MPa
1/2、4.8〜14.4MPa
1/2、3.6〜10.2MPa
1/2、有利には、それぞれ、15.3〜20.9MPa
1/2、5.4〜13.2MPa
1/2、4〜9.3MPa
1/2である。さらに有利には以下の範囲内∂
p=17〜19MPa
1/2、∂
D=6〜12MPa
1/2、および∂
H=4.5〜8.5MPa
1/2である。
【0067】
二硫化タングステン(WS
2)の場合、三次元結晶を薄いフレークに剥離するために使用される分散物相の表面張力は、20〜67.5mN/m、好ましくは28〜58.5mN/m、さらにより好ましくは32〜54mN/m、有利には36〜49.5mN/m、さらにより有利には40〜45mN/m、または分散物相のハンセン溶解度パラメータ∂
p、∂
D、∂
Hが、それぞれ、8〜27MPa
1/2、2.5〜21MPa
1/2、1〜28.5MPa
1/2、好ましくは、それぞれ、12.8〜21.6MPa
1/2、4〜16.8MPa
1/2、1.6〜22.8MPa
1/2、さらにより好ましくは、それぞれ、14.4〜19.8MPa
1/2、4.5〜15.4MPa
1/2、1.8〜20.9MPa
1/2であり、有利には以下の範囲内∂
p=16〜18MPa
1/2、∂
D=5〜4MPa
1/2、および∂
H=2〜19MPa
1/2である。
【0068】
六方晶窒化ホウ素(BN)の場合、三次元結晶を薄いフレークに剥離するために使用される分散物相の表面張力は、15〜60mN/m、好ましくは21〜52mN/m、さらにより好ましくは24〜48mN/m、有利には27〜44mN/m、さらにより有利には30〜40mN/m、または分散物相のハンセン溶解度パラメータ∂
p、∂
D、∂
Hが、それぞれ、8.5〜28.5MPa
1/2、2〜15MPa
1/2、2〜15MPa
1/2、好ましくは、それぞれ、11.9〜24.7MPa
1/2、2.8〜13MPa
1/2、2.8〜13MPa
1/2、さらにより好ましくは、それぞれ、13.6〜22.8MPa
1/2、3.2〜12MPa
1/2、3.2〜12MPa
1/2、有利には、それぞれ、15.3〜20.9MPa
1/2、3.6〜11MPa
1/2、3.6〜11MPa
1/2、さらに有利には以下の範囲内∂
p=17〜19MPa
1/2、∂
D=4〜10MPa
1/2、および∂
H=4〜10MPa
1/2である。
【0069】
剥離プロセスは、湿式ジェット粉砕、粉砕装置の圧縮手段の動作パラメータの設定、および圧縮経路の数のプログラミングによって行われ、層状物質のすべてが十分な回数粉砕されて所望の(全部またはほぼ全部)剥離をもたらす。
【0070】
粉砕手段のダクト内の分散物の過剰な加速を回避するか又は少なくとも制限するように、分散物上の圧縮手段によって行われる圧力を制御することが重要である。これらの加速は、望ましくないキャビテ−ション効果を生じさせる衝突セクションの乱流を引き起こす。
【0071】
最後に、高品質の二次元フレークを得るために、および規定された横方向の寸法および厚さを有するフレークが必要とされる特定の物質について、例えば、インクとして使用するために、剥離の後に、単層の二次元フレーク、または、例えば、20を超える数の層を有するより厚いものからの少数の層を有するものを分離すること、または、剥離したフレークの寸法を選択すること、すなわち大きなフレークから小さなフレークを分離することが好ましい。
【0072】
本発明によれば、残留前駆体物質からのフレークの分離、または前駆体物質の剥離によって得られたフレークからの所望のサイズおよび厚さのフレークの選択は、
図2Aおよび2Bの装置を用いて行われる連続生産ラインに組み込まれる。
【0073】
有利には、フレークは、分散された二次元物質を遠心分離および沈殿させることによって、分離されるか、または選択される。遠心分離された分散物では、分散された物質は、遠心力、浮力および摩擦力の3つの力をそれぞれ受ける。質量がより大きい最も厚い最大のフレ−クは、より軽い、より小さく薄いフレ−クよりも速く沈殿する。したがって、遠心分離機の操作パラメータを調節することにより、所望の横方向寸法を有するフレークを分散した状態に保つことが可能である。
【0074】
実験段階では、グラフェン、窒化ホウ素、二硫化タングステン(IV)、二セレン化タングステン(IV)、二硫化モリブデン、テルル化ビスマスなどのナノフレークを有するインク、および他の剥離可能な層状物質を、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アルコール、添加された非イオン性および陰イオン性界面活性剤を含む水、およびアルコールと水の混合物などこれらに限られない有機分散物相を使用して、製造するために、本発明の主題である方法を実施した。
【0075】
図3および4を参照すると、特にNMP分散物相中のグラファイトの剥離における、二次元物質のナノフレークの製造のための層状物質の剥離から得られる結果を以下に示す。
【0076】
NMP中のグラファイト分散物を
図2に示す剥離装置の供給チャンバに入れた。粉砕装置の圧縮手段の動作パラメータは、10〜300MPa、好ましくは200MPaの範囲内に設定され、50〜250、好ましくは250の数の圧縮パスがプログラムされた。言うまでもなく、増加したサイクル数で剥離物質の量が結果的に増加すると、また使用される粉砕装置のタイプ、特に0.05〜1mm、好ましくは0.15〜0.29mmの範囲内にある粉砕装置内粉砕装置の管の直径に応じて、分散液中の物質の濃度に依存して異なる値が可能であり得る。
【0077】
得られたまだ分散された二次元フレークを分離するために、粉砕プロセスから得られた混合物を分離チャンバ、具体的には超遠心分離機に直接移し、続いて、例えば、20℃で10分間、8000gで遠心分離する。これらのプロセスパラメータは、例えば、0.1〜25mPasの粘度である分散物相のレオロジパラメータに依存して、例えば、100〜1,000,000gの広い範囲の加速度、例えば、5〜120分間の広い範囲の時間、および、例えば、4〜30℃の広い範囲の温度に変更することができる。
【0078】
超遠心分離機を使用して処理された物質を精製したが、これは連続生産ラインで遠心分離ステップを実施するための最も適切な装置であり、例えば、デカンタ、ディスクスタック、ソリッドボウルまたはフィルタ管状遠心分離機などの他の遠心分離技術もまた利用される。
【0079】
分散物を遠心分離した後、浮遊物質(浮遊物)を収集チャンバから別々の時間に取り出して、異なる横方向、表面および厚さの寸法を有するフレークを選択し、これらを特徴付けた。
【0080】
得られた分散物は、光吸収およびラマン分光法、ならびに透過型電子顕微鏡を用いた分析によって特徴付けることができる。特に、光吸収分光法を用いて分散物相中の二次元フレークの濃度を測定し、ラマン分光法を用いて層数および構造品質、すなわち欠陥の存在、ドーピングなどを決定し、このようにして生成されたフレークの側方および表面の寸法を決定するために電子顕微鏡分析が使用される。もちろん、例えば、X線光電子放出、X線回折、走査電子顕微鏡法、原子強度顕微鏡法などの他の特徴付け技術を用いて、得られた分散物を特徴付けることができる。
【0081】
図3は、透過型電子顕微鏡からのグラフェンフレークの低分解能画像を示す。
【0082】
画像の検査から、剥離されたナノフレークの横方向の寸法を100nmと10μmとの間で、6未満の層の数で評価することが可能である。粉砕条件、すなわち圧力、粉砕装置中の管の直径およびサイクル数ならびに遠心分離パラメータを改変することにより、より小さい横方向寸法を有するフレークを製造することができる。
【0083】
図4は、本発明に係る湿式ジェット粉砕プロセスによって得られたインク、および、グラファイトのラマンスペクトルとともに、Si/SiO
2上に堆積させた公知技術に係る超音波処理を用いて得られたインクを含む、異なるグラフェンインクから堆積された532nmのグラフェンフレークの励起波長におけるラマンスペクトルを示す。湿式ジェット粉砕技術によって得られたグラフェンフレークを含むインクは、単層または数層を有する二次元フレークの組み合わせを示す。
【0084】
この図からわかるように、超音波により得られたインクと比較して、エッジおよび基底面における欠陥の存在を示すI(D)/I(G)比は、I(D)/I(G)=1.2である超音波による剥離により得られた試料におけるものより、I(D)/I(G)=0.8である湿式ジェット粉砕による剥離により得られた試料において低い。この結果は、湿式ジェット粉砕技術によって製造されたグラフェンインクが、超音波処理によって製造されたものよりも優れた品質であることを証明している。
【0085】
このようにして得られた二次元ナノフレークを有するインクを、ドロップキャスティング堆積プロセスを用いてガラス上に堆積させ、湿式ジェット粉砕技術によって製造されたグラフェンフレークの電気的特性を測定した。5Ω/□オーダのシート抵抗が得られた。
【0086】
有利には、層状物質を供給し、剥離物質を排出するステップを完全に自動化することができ、したがって、製造時間およびコストを大幅に低減することができ、上述の剥離方法は、制御された雰囲気下で閉鎖された連続サイクル製造ラインで行うことができ、空気への曝露に対して敏感な黒リンのような二次元物質を処理する可能性を提供する。
【0087】
さらに有利なことに、本発明に係る方法は、数リットルから数立方メ−トルまで、製造速度が非常に高い(1時間当たりのリットル)大量のインクを調製するために使用することができる。異なる電子的、光学的、機械的および電気化学的特性を有する大量の2次元物質を製造する見通しは、無限の数の工業的用途への道を開き、その中でも、印刷可能な、ウェアラブル、または一般的なフレキシブル電子デバイス、ならびに保護層、コーティングおよびエネルギデバイスの製造の、確かに非網羅的な例を挙げることができる。
【0088】
分散物のレオロジ特性(すなわち、粘度、密度および表面張力)を制御する可能性もあり、ドロップキャスティング、ディップキャスティング、ロッドコーティング、スプレーコーティング、インクジェット印刷、フレキソグラフィおよびシルクスクリーン印刷技術のような硬質または可撓性基材上の印刷またはコーティングの技術に有用なレオロジ特性を有するグラフェンナノフレークのコロイド懸濁液を処方することを可能にする。これは、電子デバイスの製造またはエネルギ変換(例えば、太陽電池、燃料電池、熱電セル)またはその貯蔵(例えば、バッテリ、スーパーコンデンサ)のために使用される。
【0089】
具体的には、本発明に係る装置および方法は、収率が非常に低い、すなわち、10%である超音波処理による公知の剥離法とは異なり、前駆物質を完全に処理し、100%に近い収率を達成することを可能にする。
【0090】
もちろん、本発明の原理を変更することなく、実施形態および実施の詳細は、限定ではない例によって説明および図示されたものから、添付の特許請求の範囲により定義される発明の保護の範囲を逸脱することなく広範に変更することができる。