(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0004】
以下の説明において基本的には、ねらいは、各方向に対して同一のダイナミックレンジをもたらすために、HOA表現のPCM伝送のために可能な限り空間領域を使用することである。これにより、空間領域におけるHOA信号のPCMサンプルが所定の値の範囲に正規化されなければならないことを意味する。しかしながら、このような正規化の欠点は、空間領域におけるHOA信号のダイナミックレンジが係数領域よりも小さいことである。これは、係数領域信号から空間領域信号を生成する変換行列によって生ずる。
【0005】
あるアプリケーションでは、HOA信号が係数領域において送信されるものがある。例えば、欧州特許出願第13305558号に記載された処理では、全ての信号が係数領域において送信される。それは定数のHOA信号および可変数の追加のHOA信号が送信されるからである。しかし、上述および欧州特許出願公開第2469742号に示されているように、係数領域における送信は有利ではない。
【0006】
解決法として、定数のHOA信号を空間領域において送信することができ、可変数の追加のHOA信号のみを係数領域で伝送する。追加のHOA信号を空間領域で伝送することは可能ではない。その理由は、HOA信号の数が経時的に変化すると、係数領域から空間領域への変換行列が経時的に変化し、後続する知覚符号化処理にとって最適であるとはいえない不連続部が全ての空間領域信号で生ずることがあるからである。
【0007】
この追加のHOA信号を所定の値の範囲を超えることなく送信できるようにするために、このような信号の不連続部を回避するように設計されており、反転パラメータの効率的な送信を達成する可逆の正規化処理を使用することができる。
【0008】
2つのHOA表現のダイナミックレンジおよびPCM符号化のためのHOA信号の正規化に関し、以下、このような正規化が係数領域で行われるべきか、空間領域で行われるべきかを導く。
【0009】
係数時間領域において、HOA表現は、N個の係数信号
【数1】
の連続するフレームから構成される。ここで、kはサンプル・インデックスを示し、nは信号インデックスを示す。
【0010】
この係数信号は、コンパクトな表現を得るために、ベクトル
【数2】
にまとめる。
【0011】
空間領域への変換は、NxNの下記の変換行列によって行われる。
【数3】
この変換は欧州特許出願第12306569号に定義されており、式(21)および(22)に関連したΞ
GRIDの定義を参照されたい。
【0012】
空間領域ベクトル
【数4】
が下記の式から取得される。
w(k)=Ψ
−1d(k) (1)
ここで、Ψ
−1は行列Ψの逆行列である。
【0013】
空間領域から係数領域への逆変換は、下記の式によって行われる。
d(k)=Ψw(k) (2)
サンプルの値の範囲が、一方の領域において定義されると、変換行列Ψは、自動的に他方の領域の値の範囲を定める。以下の説明では、k番目のサンプルに対する項(k)を省略する。
【0014】
HOA表現は実際には空間領域で再生されるため、値の範囲、ラウドネスおよびダイナミックレンジは空間領域において定義される。ダイナミックレンジはPCM符号化のビット解像度によって定義される。本出願において、「PCM符号化」は、浮動小数点表現サンプルから固定小数点の表記での整数表現サンプルへの変換を意味する。
【0015】
HOA表現のPCM符号化のためには、N個の空間領域信号が、最大のPCM値W
maxにアップスケーリングされ、固定小数点の整数PCM表記に端数処理されるように、−1≦w
n<1の値の範囲に正規化されなければならない。
【数5】
注:これは、一般化されたPCM符号化表現である。
【0016】
係数領域のサンプルの値の範囲は、(4)式によって定義される行列Ψの無限ノルムと、
【数6】
空間領域における最大絶対値w
max=1とによって算出することができ、下記の式のようになる。
【数7】
行列Ψに使用されている定義から、
【数8】
の値は「1」よりも大きいため、d
nの値の範囲は増加する。
【0017】
逆に言うと、
【数9】
であるため、係数領域における信号のPCM符号化には
【数10】
による正規化が必要であることを意味する。しかしながら、この正規化は、係数領域における信号のダイナミックレンジを減少させ、この結果として、信号対量子化雑音比が低下することになる。したがって、空間領域信号をPCM符号化することが好ましい。
【0018】
本発明によって解決される課題は、係数領域におけるダイナミックレンジを減少させることなく、正規化を使用して空間領域が所望されているHOA信号の部分を係数領域においてどのように送信するかである。さらに、正規化された信号は、信号レベルの不連続な変化によって生じる品質の劣化を起こさずに知覚符号化を行うために、信号レベルの不連続な変化を含んではならない。この課題は、請求項1および6に開示された方法によって解決される。この方法を使用する装置が請求項2および7にそれぞれ開示されている。
【0019】
原理的には、本発明の生成方法は、HOA信号の係数領域表現から上記HOA信号の混合した空間/係数領域表現を生成するのに適している。連続する係数フレーム内で上記HOA信号の数を経時的に可変とすることができる。この方法は、
−HOA係数領域信号のベクトルを、ある定数のHOA係数を有する係数領域信号の第1のベクトルと、経時的に可変数のHOA係数を有する係数領域信号の第2のベクトルとに分離するステップと、
−係数領域信号の上記第1のベクトルを変換行列の逆行列と乗算することによって、係数領域信号の上記第1のベクトルを空間領域信号の対応するベクトルに変換するステップと、
−空間領域信号の上記ベクトルをPCM符号化してPCM符号化された空間領域信号のベクトルを取得するステップと、
−正規化因子によって係数領域信号の上記第2のベクトルを正規化するステップであって、上記正規化は、係数領域信号の上記第2のベクトルの上記HOA係数の現在の値の範囲に対して適応的な正規化であり、上記正規化において上記ベクトルのHOA係数に対して利用可能な値の範囲は超過することがなく、上記ベクトル内の利得を前の第2のベクトルにおける利得から後続する第2のベクトルにおける利得に連続的に変化させるために、上記正規化において、一様に連続する遷移関数が現在の第2のベクトルの係数に適用され、上記正規化は対応する復号器側の非正規化のための副情報を提供する、上記ステップと、
−正規化された係数領域信号の上記ベクトルをPCM符号化してPCM符号化され正規化された係数領域信号のベクトルを取得するステップと、
−PCM符号化された空間領域信号の上記ベクトルと、PCM符号化され正規化された係数領域信号の上記ベクトルとを多重化するステップと、を含む。
【0020】
原理的には、本発明の生成装置は、HOA信号の係数領域表現から上記HOA信号の混合した空間/係数領域表現を生成するのに適している。連続する係数フレーム内で上記HOA信号の数を経時的に可変とすることができる。この装置は、
−HOA係数領域信号のベクトルを、ある定数のHOA係数を有する係数領域信号の第1のベクトルと、経時的に可変数のHOA係数を有する係数領域信号の第2のベクトルとに分離するように構成された手段と、
−係数領域信号の上記第1のベクトルを、変換行列の逆行列と乗算することによって、係数領域信号の上記第1のベクトルを空間領域信号の対応するベクトルに変換するように構成された手段と、
−空間領域信号の上記ベクトルをPCM符号化してPCM符号化された空間領域信号のベクトルを取得するように構成された手段と、
−正規化因子によって係数領域信号の上記第2のベクトルを正規化するように構成された手段であって、上記正規化は、係数領域信号の上記第2のベクトルの上記HOA係数の現在の値の範囲に対して適応的な正規化であり、上記正規化において上記ベクトルのHOA係数に対して利用可能な値の範囲は超過することがなく、上記ベクトル内の利得を前の第2のベクトルにおける利得から後続する第2のベクトルにおける利得に連続的に変化させるために、上記正規化において、一様に連続する遷移関数が現在の第2のベクトルの係数に適用され、上記正規化は対応する復号器側の非正規化のための副情報を提供する、上記手段と、
−正規化された係数領域信号の上記ベクトルをPCM符号化してPCM符号化され正規化された係数領域信号のベクトルを取得するように構成された手段と、
−PCM符号化された空間領域信号の前記ベクトルと、PCM符号化され正規化された係数領域信号の上記ベクトルとを多重化するように構成された手段と、を含む。
【0021】
原理的には、本発明の復号方法は、符号化されたHOA信号の混合した空間/係数領域表現を復号するのに適している。連続する係数フレーム内で上記HOA信号の数を経時的に可変とすることができ、符号化されたHOA信号の上記混合した空間/係数領域表現は、上記の本発明の生成方法に従って生成されており、上記復号方法は、
−PCM符号化された空間領域信号とPCM符号化され正規化された係数領域信号との上記多重化されたベクトルを逆多重化するステップと、
−PCM符号化された空間領域信号の上記ベクトルを上記変換行列と乗算することによってPCM符号化された空間領域信号の上記ベクトルを係数領域信号の対応するベクトルに変換するステップと、
−PCM符号化され正規化された係数領域信号の上記ベクトルを非正規化するステップであって、上記非正規化は、
−−受信した上記副情報の対応する冪指数e
n(j−1)および再帰的に算出された利得値g
n(j−2)を使用して、遷移ベクトルh
n(j−1)を算出することであって、処理されるPCM符号化され正規化された係数領域信号の後続するベクトルの対応する処理に対する利得値g
n(j−1)が保持され、jはHOA信号ベクトルの入力行列の連続するインデックスである、上記遷移ベクトルを算出することと、
−−PCM符号化され正規化された信号の現在のベクトルに対して対応する逆利得値(利得値の逆数)を適用して上記PCM符号化され非正規化された信号の対応するベクトルを取得することと、
を含む、上記非正規化するステップと、
−係数領域信号の上記ベクトルおよび非正規化された係数領域のベクトルを合成して可変数のHOA係数を有することができるHOA係数領域信号の結合されたベクトルを取得するステップと、を含む。
【0022】
原理的には、本発明の復号装置は、符号化されたHOA信号の混合した空間/係数領域表現を復号するのに適している。連続する係数フレーム内で上記HOA信号の数を経時的に可変とすることができ、符号化されたHOA信号の上記混合した空間/係数領域表現は、上記発明の生成方法に従って生成されており、上記復号装置は、
−PCM符号化された空間領域信号とPCM符号化され正規化された係数領域信号との上記多重化されたベクトルを逆多重化するように構成された手段と、
−PCM符号化された空間領域信号の上記ベクトルを上記変換行列と乗算することによってPCM符号化された空間領域信号の上記ベクトルを係数領域信号の対応するベクトルに変換するように構成された手段と、
−PCM符号化され正規化された係数領域信号の上記ベクトルを非正規化するように構成された手段であって、上記非正規化は、
−−受信した前記副情報の対応する冪指数e
n(j−1)および再帰的に算出された利得値g
n(j−2)を使用して、遷移ベクトルh
n(j−1)を算出することであって、処理されるべきPCM符号化され正規化された係数領域信号の後続するベクトルの対応する処理に対する利得値g
n(j−1)が保持され、jは、HOA信号ベクトルの入力行列の連続するインデックスである、上記遷移ベクトルを算出することと、
−−PCM符号化され正規化された信号の現在のベクトルに対して対応する逆利得値(利得値の逆数)を適用して上記PCM符号化され非正規化された信号の対応するベクトルを取得することと、
を含む、上記非正規化するように構成された手段と、
−係数領域信号の上記ベクトルおよび非正規化された係数領域のベクトルを合成して可変数のHOA係数を有することができるHOA係数領域信号の合成されたベクトルを取得するように構成された手段と、を含む。
【0023】
本発明の追加的な実施形態の利点は、各従属請求項に開示されている。
【0024】
本発明の例示的な実施形態が添付図面を参照して説明されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
空間領域におけるHOA表現のPCM符号化に関して、
図1に示されているようなHOA表現のPCM送信を行えるように、(浮動小数点表現において)−1≦w
n<1が満たされているものと仮定する。HOA符号化器の入力部で、変換ステップまたはステージ11は、式(1)を使用して、現在の入力信号フレームの係数領域信号dを空間領域信号wに変換する。PCM符号化ステップまたはステージ12は、式(3)を使用して浮動小数点サンプルwを固定小数点の表記法のPCM符号化された整数サンプルw’に変換する。多重化ステップまたはステージ13において、PCM符号化された整数サンプルw’を多重化してHOA送信フォーマットにする。
【0027】
HOA復号器は、逆多重化ステップまたはステージ14で、受信したHOA送信フォーマットから信号w’に逆多重化し、ステップまたはステージ15で式(2)を使用して信号w’を再変換して係数領域信号d’にする。この逆変換は、空間領域から係数領域への変換が常に整数(PCM)から浮動小数点へのフォーマット変換を含むため、d’のダイナミックレンジが増加する。
【0028】
行列Ψが経時的に変化する場合には
図1の標準的なHOA送信は失敗する。これは、HOA信号の数またはインデックスが、連続するHOA係数シーケンス、つまり、連続する入力信号フレームに対して経時的に変化する場合である。上述したように、このような場合の一例は、欧州特許出願第13305558号に記載されたHOA圧縮処理である。そのHOA圧縮処理では、ある定数のHOA信号が連続的に伝送され、経時的に可変数のHOA信号が変化する信号インデックスを伴って並列的に伝送される。その全ての信号は係数領域で送信され、これは上述したように最善とはいえない。
【0029】
本発明によれば、
図1に関連して説明される処理は
図2に示されているように拡張することができる。
【0030】
ステップまたはステージ20において、HOA符号化器は、HOAベクトルdを2つのベクトルd
1およびd
2に分離する。ここで、ベクトルd
1に対するHOA係数の数Mは一定であり、ベクトルd
2は可変数K個のHOA係数を含む。信号インデックスnは、ベクトルd
1に対して時間的に不変であるため、PCM符号化は、空間領域において、ステップまたはステージ21、22、23、24、25において、
図2の下側の信号経路内に示されたw
1およびw’
1に対応する信号を用いて行われる。これは、
図1のステップまたはステージ11〜15に対応する。しかしながら、多重化ステップ/ステージ23は追加の入力信号d”
2を取得し、HOA復号器では逆多重化ステップ/ステージ24は異なる出力信号d”
2を供給する。
【0031】
ベクトルd
2のHOA係数の数またはサイズKは経時的に変化し、送信されるHOA信号のインデックスnは経時的に変化する。これは空間領域での送信を妨げる。その理由は、経時的に変化する変換行列が必要となり、その結果、全ての知覚符号化されたHOA信号に不連続部が生ずることがあるからである(なお、知覚符号化ステップまたはステージは図に示されていない)。しかしながら、このような信号の不連続部は、送信された信号の知覚符号化の品質を低下させかねないため、回避されるべきである。
【0032】
そこで、係数領域でd
2を送信すべきである。係数領域における信号の値の範囲が大きくなるため、信号は、ステップまたはステージ27でPCM符号化が適用される前に、因子
【数11】
によって、ステップまたはステージ26でスケーリングされる。しかしながら、このようなスケーリングの欠点は、
【数12】
の最大絶対値が最悪の推定値となることであり、通常は値の範囲が小さくなることが予期されるのでサンプルが最大絶対値となることはあまり多くは発生しない。その結果、PCM符号化のために利用可能な分解能は効率的には使用されず、信号対量子化雑音比が低い。
【0033】
逆多重化ステップ/ステージ24の出力信号d”
2は、因子
【数13】
を使用してステップまたはステージ28で逆スケーリングされる。結果として得られる信号
【数14】
は、ステップまたはステージ29において信号d’
1と結合され、その結果、復号された係数領域HOA信号d’となる。
【0034】
本発明によれば、信号の信号適応的な正規化を使用することで係数領域におけるPCM符号化の効率を向上させることができる。しかしながら、このような正規化は、可逆でなければならず、かつ、サンプルからサンプルに一様に連続していなければならない。必要なブロック単位の適応的処理が
図3に示されている。j番目の入力行列
【数15】
は、L個のHOA信号ベクトルdからなる(インデックスjは
図3に示されていない)。行列Dは、
図2の処理の場合のように、2つの行列D
1およびD
2に分離される。ステップまたはステージ31〜35におけるD
1の処理は、
図2および
図1に関連して説明した空間領域における処理に対応する。しかし、係数領域信号の符号化は、ブロック単位の適応的正規化ステップまたはステージ36を含み、この適応的正規化ステップまたはステージ36は、信号の現在の値の範囲に自動的に適応し、その後、PCM符号化ステップまたはステージ37が行われる。行列D”
2における各PCM符号化された信号の非正規化のために必要な副情報は、ベクトルe内に記憶および転送される。ベクトル
【数16】
は、信号毎に1つの値を含む。受信側の復号器の対応する適応的非正規化ステップまたはステージ38は、送信されたベクトルeからの情報を使用して、正規化の逆を行って信号D”
2を信号
【数17】
にする。その結果、得られた信号
【数18】
は、ステップまたはステージ39において、信号D’
1と結合され、その結果、復号された係数領域HOA信号D’が得られる。
【0035】
ステップ/ステージ36における適応的正規化においては、最後の入力係数ブロックの利得から次の入力係数ブロックの利得に連続的に変化させるために、一様に連続する遷移関数が現在の入力係数ブロックのサンプルに適用される。この種の処理は、1つのブロックの遅延を必要とする。その理由は、正規化利得の変化は、1つ前の入力ブロックで検出されなければならないからである。その利点は、導入される振幅変調は小さいため、変調された信号の知覚符号化は非正規化された信号にほとんど影響を与えないことである。
【0036】
適応的正規化の実施は、D
2(j)のHOA信号毎に独立して行われる。信号は、以下の行列の行ベクトルx
nTによって表現される
【数19】
ここで、nは、送信されたHOA信号のインデックスを表す。x
nは、当初は列ベクトルであつたが、ここでは行ベクトルが必要であるため転置されている。
【0037】
図4は、より詳細にステップ/ステージ36における適応的正規化を示している。この処理の入力値は、以下の通りである。
・時間的にスムージングされた最大値x
n,max,sm(j−2)
・利得値g
n(j−2)、つまり、対応する信号ベクトル・ブロックx
n(j−2)のすぐ前の係数に適用される利得
・現在のブロックの信号ベクトルx
n(j)
・前のブロックの信号ベクトルx
n(j−1)
【0038】
第1のブロックx
n(0)の処理を開始すると、再帰的な入力値が所定の値によって初期化される。ベクトルx
n(−1)の係数は、零に設定することができ、利得値g
n(−2)は、「1」に設定するとよく、x
n,max,sm(−2)は、所定の平均振幅値に設定するとよい。
【0039】
その後、すぐ前のブロックg
n(j−1)の利得値、副情報ベクトルe(j−1)の対応する値e
n(j−1)、時間的にスムージングされた最大値x
n,max,sm(j−1)、および正規化された信号ベクトルx’
n(j−1)が処理の出力である。
【0040】
この処理の目的は信号ベクトルx
n(j−1)に適用される利得値をg
n(j−2)からg
n(j−1)に連続的に変更して、利得値g
n(j−1)が信号ベクトルx
n(j)を正規化して適切な値の範囲にすることにある。
【0041】
最初の処理ステップまたはステージ41において、信号ベクトル
【数20】
の各係数に利得値g
n(j−2)を乗算する。ここで、g
n(j−2)は、次の正規化利得のための基礎として、信号ベクトルx
n(j−1)の正規化処理から保持されている。結果として得られる正規化された信号ベクトルx
n(j)から、式(5)を使用してステップまたはステージ42で絶対値の最大値x
n,maxを得る。
【数21】
【0042】
ステップまたはステージ43において、x
n,maxに時間的なスムージングを適用する。この処理は、すぐ前の時間的なスムージング済みの最大値x
n,max,sm(j−2)を受信する再帰的フィルタを使用して行われる。この結果、現在の時間的なスムージング済みの最大値x
n,max,sm(j−1)が得られる。このようなスムージングの目的は、時間的に正規化利得の適応を弱め、これにより、利得の変更の回数を低減し、それで信号の振幅変調を低減することにある。値x
n,maxが所定の値の範囲にある場合にのみ、時間的なスムージングが適用される。値x
n,maxが所定の値の範囲にない場合は、x
n,max,sm(j−1)をx
n,maxに設定する(すなわち、現在の状態のままでx
n,maxの値が保持される。)。その理由は、後続する処理がx
n,maxの実際の値を所定の値の範囲に減衰させなければならないからである。したがって、正規化利得が一定である場合か、信号x
n(j)が値の範囲を外れることなく増幅される場合にのみ、時間的なスムージング処理が動作する。
【0043】
ステップ/ステージ43において、x
n,max,sm(j−1)を以下のように算出する。
【数22】
ここで、0<a≦1は、減衰定数である。
【0044】
ベクトルeの送信のためのビットレートを低減するために、現在の時間的なスムージング済みの最大値x
n,max,sm(j−1)から正規化利得を算出し、「2」を基数とする冪指数として送信する。したがって、
【数23】
が満たされるべきであり、ステップまたはステージ44において、量子化された冪指数e
n(j−1)を下記の式から取得する
【数24】
【0045】
効率的なPCM符号化のために利用可能な解像度を利用するために信号が再度増幅されている(すなわち、合計利得の値が経時的に増加する)期間においては、冪指数e
n(j)(したがって、連続するブロック間の利得差)は、小さな最大値、例えば「1」に制限されることがある。この処理には2つの有利な効果がある。その一方は、連続するブロック間の利得差が小さいと、遷移関数を通じて小さい振幅変調のみとなり、結果としてFFTスペクトルの隣接するサブバンド間のクロストークが低減されることである(
図7に関連した知覚符号化への遷移関数の影響についての関連記述を参照)。他方は、冪指数の符号化のためのビットレートは、その値範囲を制限することによって低減されることである。
【0046】
合計の最大増幅の値
【数25】
は制限することができ、例えば「1」に制限することができる。その理由は、係数信号の一つが、(空間領域におけるHOA表現の正規化を想定すると)1番目のブロックが極めて小さな振幅を有し、2番目のブロックが起こり得る最も高い振幅を有するという、2つの連続するブロック間で大きな振幅の変化を示す場合には、この2つのブロック間の極めて大きな利得差により、遷移関数を通じて振幅変調が大きくなり、結果として、FFTスペクトルの隣接するサブバンド間に重大なクロストークが生じるからである。これは、以下に説明する後続する知覚符号化処理にとって最適とはいえないことがある。
【0047】
ステップまたはステージ45において、冪指数値e
n(j−1)を遷移関数に適用して、現在の利得値g
n(j−1)を得る。利得値g
n(j−2)から利得値g
n(j−1)への連続する遷移に対して
図5に示した関数を使用する。その関数の演算ルールは以下の通りである。
【数26】
ここで、
【数27】
である。実際の遷移関数ベクトル
【数28】
は、g
n(j−2)からg
n(j−1)に連続的にフェードする(fade)ために使用される。例えば、e
n(j−1)の各値に対して、f(0)=1であるため、h
n(0)の値は、g
n(j−2)となる。f(L−1)の最後の値は、0.5であるため、
【数29】
は、結果として、式(9)からのx
n(j)の正規化に対して必要な増幅g
n(j−1)が得られる。
【0048】
ステップまたはステージ46において、信号ベクトルx
n(j−1)のサンプルは、下記の式(12)を得るために、遷移ベクトルh
n(j−1)の利得値によって重み付けされる。
【数30】
ここで、
【数31】
の演算子は、2つのベクトルのベクトル要素単位の乗算を表す。この乗算は、信号x
n(j−1)の振幅変調を表すものと考えることもできる。
【0049】
より詳細には、遷移ベクトル
【数32】
の係数は、信号ベクトルx
n(j−1)の対応する係数によって乗算され、ここで、h
n(0)の値は、h
n(0)=g
n(j−2)であり、h
n(L−1)の値は、h
n(L−1)=g
n(j−1)である。したがって、遷移関数は、
図8の例に示されているように、利得値g
n(j−2)から利得値g
n(j−1)に連続的にフェードする。これは、遷移関数h
n(j)、h
n(j−1)、およびh
n(j−2)からの利得値を示しており、この遷移関数は3つの連続するブロックに対する対応する信号ベクトルx
n(j)、x
n(j−1)、およびx
n(j−2)に対して適用される。ダウンストリームの知覚符号化に関して、利点は、ブロック境界で適用される利得が連続していることである。遷移関数h
n(j−1)は、x
n(j−1)の係数の利得をg
n(j−2)からg
n(j−1)に連続的にフェードさせる。
【0050】
復号器または受信器側での適応的な非正規化処理が
図6に示されている。入力値は、PCM符号化され正規化された信号x”
n(j−1)、適切な冪指数e
n(j−1)、およびすぐ前のブロックの利得値g
n(j−2)である。すぐ前のブロックの利得値g
n(j−2)は、再帰的に算出される。ここで、g
n(j−2)は、符号化器に使用されている所定の値によって初期化されなければならない。出力は、ステップ/ステージ61からの利得値g
n(j−1)およびステップ/ステージ62からの非正規化された信号
【数33】
である。
【0051】
ステップまたはステージ61において、冪指数を遷移関数に適用する。x
n(j−1)の値の範囲を復元するために、式(11)は、受信した冪指数e
n(j−1)および再帰的に算出された利得g
n(j−2)から遷移ベクトルh
n(j−1)を算出する。次のブロックの処理のための利得g
n(j−1)は、h
n(L−1)に設定される。
【0052】
ステップまたはステージ62において、逆利得(利得の逆数)が適用される。正規化処理で適用された振幅変調は、
【数34】
によって逆処理される。ここで、
【数35】
であり、
【数36】
は、符号化器側または送信機側で使用されているベクトル要素単位の乗算である。x’
n(j−1)のサンプルは、x”
n(j−1)の入力PCMフォーマットによって表現することができず、非正規化は、例えば浮動小数点フォーマットのように、より広い値の範囲のフォーマットへの変換を必要とする。
【0053】
副情報送信に関して、冪指数e
n(j−1)の送信に対して、同一の値の範囲の連続するブロックに対して、適用される正規化利得は一定となるだろうから、その確率が一様になると仮定することはできない。したがって、エントロピー符号化は、例えば、ハフマン符号化と同様に、必要なデータ・レートを減少させるために、冪指数値に適用することができる。
【0054】
上記処理の1つの欠点は、利得値g
n(j−2)の再帰的な算出であろう。そのため、非正規化処理はHOAストリームの最初からしか開始することができない。
【0055】
この問題の1つの解決法は、g
n(j−2)を規則的に算出するための情報を提供するために、アクセス・ユニットをHOAフォーマットに追加することである。この場合、アクセス・ユニットは、t番目のブロック毎に
【数37】
が算出されて非正規化が開始されるように、t番目のブロック毎に冪指数
【数38】
を提供しなければならない。
【0056】
正規化された信号x’
n(j−1)の知覚符号化処理への影響は、h
n(l)の周波数応答
【数39】
の絶対値によって分析される。周波数応答は、式(15)によって示されているような、h
n(l)の高速フーリエ変換(FFT)によって定義される。
【0057】
図7は、振幅変調によって導入されるスペクトル変形を明確にするために、マグニチュードが(0dBに)正規化されたFFTスペクトルH
n(u)を示している。|H
n(u)|の減衰は、小さな冪指数では比較的に急激であり、冪指数が大きくなるほど平坦になる。
【0058】
時間領域におけるh
n(l)によるx
n(j−1)の振幅変調は、周波数領域におけるH
n(u)による畳み込みと同等であるため、周波数応答H
n(u)の急激な減衰により、x’
n(j−1)のFFTスペクトルの隣接するサブバンド間のクロストークが低減する。これは、x’
n(j−1)の後続する知覚符号化処理に大いに関連がある。その理由は、サブバンド・クロストークが信号の推定された知覚的な特徴に影響を与えるからである。したがって、急激なH
n(u)の減衰に対し、非正規化された信号x
n(j−1)に対してもまた、x’
n(j−1)に対する知覚符号化処理の仮定が有効である。
【0059】
これは、小さな冪指数に対して、x’
n(j−1)の知覚符号化処理がほぼx
n(j−1)の知覚符号化処理と同等であることと、さらに、正規化された信号の知覚符号化処理が、冪指数の大きさが小さい限り、非正規化された信号に対してほとんど影響を与えないことを示している。
【0060】
本発明の処理は、送信側および受信側で単一のプロセッサまたは電子回路によって実行することができ、あるいは、並列に動作する、且つ/または、本発明の処理の複数の異なる部分に対して動作する、幾つかのプロセッサまたは電子回路によって実行することもできる。