【実施例1】
【0012】
本発明の実施例1によるスクロール式流体機械を、
図1乃至
図8に基づき空気圧縮機として用いた場合を例に挙げて説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施例1におけるスクロール式空気圧縮機の縦断面図を示している。また、
図2は、スクロール式空気圧縮機の展開斜視図を示している。図において、符号1はスクロール式空気圧縮機のケーシングの一部を構成する固定スクロールを示し、該固定スクロール1は大略有蓋筒状に形成されたケーシング本体47(
図2)の開口端側を施蓋するように、この開口端側に固着されている。そして、該固定スクロール1は、例えばアルミニウム合金等から形成され、その中心が後述の駆動軸17の軸線O1-O1 と一致するように配設された円板状の鏡板2と、該鏡板2の歯底面2Aに立設された渦巻状のラップ部3と、前記鏡板2の外周側に位置し、該ラップ部3を囲むように筒状に形成された支持部4とから大略構成されている。
【0014】
また、該固定スクロール1のラップ部3は、
図5に示す如く、内周側が巻き始め端となり外周側(図示せず)が巻き終わり端となって、例えば3巻半前後の渦巻状に形成されている。そして、該ラップ部3の歯先3Aは、
図3に示すように、後述の旋回スクロール9の歯底面10Aから微小なクリアランスCをもって離間されている。
【0015】
符号5はラップ部3の歯先3A側に形成された凹溝を示し、該凹溝は
図3に示す如く、ラップ部3の歯先3A側においてその幅方向中間部に、断面コ字状をなすように形成され、該凹溝5の底面5Aおよび左,右の側面5B,5Cはラップ部3の渦巻き形状に沿ってその巻き始め端から巻き終わり端まで延びている。そして、該凹溝5内には後述のチップシール6が装着され、相手方となる旋回スクロール9の歯底面10Aとの間に構成したボトムプレート10Bとの間をシールするようになっている。
【0016】
符号6はラップ部3の凹溝5内に装着されたシール部材としてのチップシールを示し、該チップシール6は、
図4に示すように、例えば弾性樹脂材料により横断面が四角形状をなす長尺のチップシールとして形成され、該凹溝5の長さ方向に沿って渦巻状に伸長する。
【0017】
ここで、該チップシール6は
図3に示す如く、凹溝5の底面5Aに当接する受圧面としての下側面6Aと、該下側面6Aと上下方向で対向し相手方のボトムプレート10Bに摺接する上側面6Bと、渦巻状をなすチップシール6の径方向内側および外側に位置する内側面6Cおよび外側面6Dとから構成され、下側面6A,内側面6Cには後述の各下側リップ部7、内側リップ部8がそれぞれ一体的に形成されている。そして、該チップシール6は、下側面6Aを凹溝5の底面5Aに当接するように内,外側面6C,6Dが凹溝5内に僅かな隙間をもって挿入され、凹溝5の底面5Aから相手方となる旋回スクロール9のボトムプレート10Bに向けて浮上可能となっている。
【0018】
符号7,7,…はチップシール6の下側面6Aにおいて長さ方向にそれぞれ所定間隔をもって形成された底面リップ部としての下側リップ部を示し、該各下側リップ部7は
図4に示すように、チップシール6の下側面6Aに所定間隔をもって斜めに切込みを入れることにより一体的に形成され、その先端側は自由端となって下側面6Aから拡開するようになっている。
【0019】
符号8,8,…はチップシール6の側面リップ部としての内側リップ部を示し、該各内側リップ部8は前記下側リップ部7とほぼ同様に形成され、
図4に示すようにチップシール6の内側面6Cに所定間隔をもって斜めに切込みを入れることにより一体的に形成され、その先端側は自由端となって内側面6Cから拡開するようになっている。
【0020】
図1において、符号9は固定スクロール1に対向して前記ケーシング本体内に旋回可能に設けられた旋回スクロールを示し、該旋回スクロール9は例えばアルミニウム合金等から形成され、表面側が歯底面10Aとなって円板状に形成された鏡板10と、該鏡板10の歯底面10Aから固定スクロール1の鏡板2に向けて立設され、固定スクロール1のラップ部3と同様に渦巻状に形成されたラップ部11と、鏡板10の背面中央に設けられたボス部12とから構成され、該ボス部12は後述する駆動軸17のクランクに回転可能に取付けられている。
【0021】
ここで、該旋回スクロール9のラップ部11についても、固定スクロール1のラップ部3と同様に例えば3巻半前後の渦巻状に形成され、
図3に示す如く、その歯先11A側には、底面13Aおよび左,右の側面13B,13Cから横断面コ字状をなす凹溝13が形成されている。
【0022】
符号14は固定スクロール1側のチップシール6と同様に形成されたシール部材としての他のチップシールを示し、該チップシール14は前記凹溝13内に装着され、その底面13Aに当接する下側面14Aと、相手方の歯底面2Aとの間に構成したボトムプレート2Bに摺接する上側面14Bと、内側面14Cおよび外側面14Dとによって構成されている。また、該チップシール14の下側面14Aおよび内側面14Cには、チップシール6と同様に、それぞれ各下側リップ部15、各内側リップ部16が一体的に形成されている。
【0023】
なお、本実施例では、凹溝5、13及び、チップシール6、14は固定スクロール1、旋回スクロール9の双方に設けられているが、いずれか一方にのみ設けてもよい。
【0024】
符号17は前記ケーシング本体に回転自在に設けられる駆動軸を示し、該駆動軸17は先端側がケーシング本体内に延びるクランクとなり、該クランクはその軸線O2-O2が駆動軸17の軸線O1-O1に対して所定寸法δだけ偏心している。そして、該駆動軸17のクランク内には、旋回スクロール9のボス部12が旋回軸受18を介して旋回可能に取付けられ、旋回スクロール9には自転防止機構(図示せず)等を介して旋回運動が与えられる。
【0025】
ここで、旋回スクロール9のラップ部11は固定スクロール1のラップ部3に対して周方向に所定角度だけずらして重ね合わせるように配設され、
図5に示すように、ラップ部3、11間には三日月状をなす複数の圧縮室R,R,…が画成される。そして、旋回スクロール9を固定スクロール1に対して旋回させた時に、該各圧縮室Rはその容積が連続的に縮小され、後述の吸込ポート19から吸込んだ空気を順次圧縮するようになっている。
【0026】
19,20は固定スクロール1に形成された吸込ポート、吐出ポートを示し、該吸込ポート19は最外周側の圧縮室Rと連通するように鏡板2の外周側に穿設され、吐出ポート20は、最内周側の圧縮室Rと連通するように鏡板2の中心部に穿設されている。
【0027】
スクロール式空気圧縮機は上記の如き構成を有するもので、次にその作動について述べる。
【0028】
まず、ケーシングの外部からモータ等の駆動源(図示せず)によって駆動軸17を回転駆動すると、この回転は該駆動軸17のクランクから旋回軸受18を介して旋回スクロール9に伝えられ、該旋回スクロール9は駆動軸17の軸線O1-O1 を中心にして寸法δの旋回半径をもった旋回運動を行う。
【0029】
そして、この旋回運動によって各ラップ部3、11の間に画成される各圧縮室Rは中央に向けて連続的に縮小し、吸込ポート19から吸込んだ空気を順次圧縮しつつ、この圧縮空気を吐出ポート20から外部のエアタンク(図示せず)等に向けて吐出する。ここで、圧縮運転が開始されると、ラップ部3(11)の凹溝5(13)内には
図3に示す矢示A方向に高圧側の圧縮室Rから圧縮空気の一部が侵入し、チップシール6(14)は受圧面となる下側面6A(14A)でこの圧縮空気の圧力を受圧することにより、凹溝5(13)から浮上し、対向する鏡板10(2)の歯底面10A(2A)との間に構成したボトムプレート10Bへ向けて押圧される。これにより、該チップシール6(14)は上側面6B(14B)が相手方のボトムプレート10B(2B)に摺接し、ラップ部3、11間に画成される各圧縮室Rを気密にシールする。
【0030】
また、各下側リップ部7(15)は、各圧縮室Rのうち、内周側の圧縮室Rから外周側の圧縮室Rに向けて、
図5中の矢示B方向に凹溝5(13)内に侵入した圧縮空気により、各下側リップ部7(15)の先端側が凹溝5(13)の底面5A(13A)に押付けられるようになり、該凹溝5(13)の底面5A(13A)とチップシール6(14)との間を気密にシールする。
【0031】
さらに、各内側リップ部8(16)も、前記と同様に、凹溝5(13)内に侵入した圧縮空気により、各内側リップ部8(16)の先端側が凹溝5(13)の一方の側面5B(13B)に押付けられるようになり、該凹溝5(13)の側面5B(13B)とチップシール6(14)との間を気密にシールすると共に、チップシール6(14)の外側面6D(14D)を他方の側面5C(13C)に押付けて、両者の間を気密にシールさせる。
【0032】
ところで、上述したスクロール式空気圧縮機においては、固定スクロール1に対して旋回スクロール9を旋回動作させるときに、各圧縮室Rが高温状態となり、特に、内周側(吐出ポート20側)の圧縮室Rは高温高圧となる。そのため、これらの圧縮室Rを画成する固定スクロール1および旋回スクロール9には歯底面2A,10Aの表面の耐摩耗性や耐腐食性を高める必要がある。
【0033】
そのため、本実施例では、
図2に示すように、旋回スクロール9に設けた渦巻き状のラップ部11の間にボトムプレート10Bを配置している。同様に固定スクロール1の渦巻き状のラップ部3の間にはボトムプレート2Bが配置されている。ボトムプレート2B,10Bは、耐摩耗性のプレート部材から成り、例えばステンレス鋼板で構成される。
【0034】
図6に、旋回スクロール9側に設けたボトムプレート10Bと渦巻き状のラップ部11を示す。ボトムプレート10Bは、渦巻き状のラップ部11が挿入される渦巻き状の孔10Cを備えており、渦巻き状のラップ部11とボトムプレート10Bの孔10Cの側面とは、ほぼ全周にわたって、径方向にほぼ一定の隙間を備えている。そして、ラップ部11の巻き終わり部において、渦巻きの巻き方向に、大きな隙間δeを備えている。ここで、隙間δeは、ラップ部11の巻き終わり部11Eと渦巻き状の孔10Cの端10Eとの間隔である。同様に、ラップ部11の巻き始め部においても、渦巻きの巻き方向に隙間を備えている。
【0035】
ここで、圧縮機が動作し、旋回スクロール9が旋回運動を行うと、ボトムプレート10B(2B)はチップシール6(14)に押圧され、旋回スクロール9の旋回運動により、チップシール6(14)との摩擦力によって回転力を受ける。また、旋回スクロール側のボトムプレート10Bは、旋回スクロール9の旋回運動によって遠心力を発生するため、遠心力をスクロールラップ11の根元部分で受ける。
【0036】
組立性を向上するため、スクロールラップ11(3)とボトムプレート10B(2B)とは所定の径方向隙間をもって構成しているが、この隙間の中でボトムプレート10B(2B)が回転方向に移動した場合、特に旋回スクロール9の歯底面10A側に構成したボトムプレート10Bは、巻き終わり部分の巻方向隙間(δe)を大きく確保する必要がある。この隙間δeが小さい値となると、ボトムプレート10Bの孔10Cの巻き終わり部がスクロールラップ11の巻き終わり部分11Eのみと接触、摺動するため、面圧が著しく増大し、スクロールラップ巻き終わり11Eの歯元あるいはボトムプレート10Bの孔10Cの端10Eが大きく摩耗する可能性がある。
【0037】
これに対し、スクロールラップ巻き終わり11Eに対してボトムプレート10Bの孔10Cの端10Eとの巻方向隙間δeを確保すると、前記巻き終わり部分ではなく、旋回スクロール9のラップ全周の内線11Aとボトムプレート10Bの側面が接触するようになるので、接触面圧が抑えられ、摩耗を防止でき、信頼性を向上できる。
【0038】
この関係を
図7及び
図8を用いて説明する。
図7は、スクロール式空気圧縮機が通常動作時において正方向に回転する状態を示す。
図7(a)は全体図、
図7(b)は巻き終わり部を示す拡大図、
図7(c)は巻き始め部を示す拡大図である。圧縮機が正回転すると、旋回スクロールの旋回運動によりボトムプレート10Bが矢印方向に回転するが、図に示すようにボトムプレート10Bが外側に移動し、ラップ部11の内線11Aとボトムプレート10Bの側面が大きく接触してボトムプレートの回転が停止する。
図7(b)に示すように、ラップ部11の巻き終わり部の巻き方向隙間δeを大きく確保することにより、ラップ部の端部11Eとボトムプレートの孔の端10Eが接触する前にボトムプレート10Bの回転を止めることができる。巻き始め部においては、
図7(c)に示すように、正回転時にはボトムプレートの端がラップ部11の端部から離れる方向に回転するので、両者が接触することはない。
【0039】
図8は、スクロール式空気圧縮機が逆方向に回転する状態を示す。逆方向に回転するのは、圧縮機が停止した後に吐出配管などの空気圧が圧縮機に加わり、逆回転する場合である。
図8(a)は全体図、
図8(b)は巻き終わり部を示す拡大図、
図8(c)は巻き始め部を示す拡大図である。圧縮機が逆回転すると、旋回スクロールの旋回運動によりボトムプレートが矢印方向に回転するが、図に示すようにボトムプレート10Bが内側に移動し、ラップ部11の外線11Bとボトムプレート10Bの側面が大きく接触してボトムプレート10Bの回転が停止する。巻き終わり部においては、
図8(b)に示すように、ボトムプレートの孔の端10Eがラップ部11の端部11Eから離れる方向に回転するので、両者が接触することはない。巻き始め部において、巻き始め部の巻き方向隙間を大きく確保することにより、ラップ部の端部とボトムプレートの孔の端とが接触する前にボトムプレートの回転を止めることができる。
【0040】
本実施例によれば、ボトムプレートが回転して、ボトムプレートの孔の側面とラップ部の内線あるいは外線とが大きく接触して回転が止まるよりも、ラップ部11の巻き終わり部の巻き方向隙間、或いはラップ部の巻き始め部の巻き方向隙間を大きく確保したので、スクロールラップ歯元あるいはボトムプレートの摩耗を防止でき、信頼性を向上できる。
【0041】
以上、ボトムプレート10Bについて説明したが、ボトムプレート2Bについても回転力を受けることがあり、例えばラップ部3の巻き始め部の巻き方向隙間を大きく確保することにより、同様の効果が期待できる。